ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.69 >> (平17.3.22裁決、裁決事例集No.69 394頁)

(平17.3.22裁決、裁決事例集No.69 394頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、家庭薬の配置販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)がした平成13年10月1日から平成14年9月30日までの課税期間(以下「平成14年9月課税期間」という。)における消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の更正の請求に対して平成16年2月26日付でなされた更正処分(以下「本件更正処分」という。)について、違法を理由にその全部の取消しが求められた事案であり、争点は次のとおりである。
争点 請求人がA社から受け取る拡販費(以下「本件受入手数料」という。)は、消費税法基本通達12−1−2《事業者が収受する販売奨励金等》(以下「本件通達」という。)が定める販売奨励金等に該当し、同法第28条《課税標準》の課税資産の譲渡等の対価の額に当たらないといえるか否か。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、別表の「確定申告」欄のとおり、本件受入手数料を課税売上高に計上した平成14年9月課税期間の消費税等の確定申告書を法定申告期限までに提出した。
ロ 請求人は、本件受入手数料及び飛行機運賃のキャンセル料が課税売上げに該当しないとして、別表の「更正の請求」欄のとおり記載した更正の請求書を提出した。
ハ 原処分庁は、この更正の請求のうち、飛行機運賃のキャンセル料については請求人の主張を認め、別表の「更正処分」欄のとおりの本件更正処分を行った。
ニ 請求人は、本件更正処分を不服として、平成16年4月21日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年7月2日付で棄却する旨の異議決定をしたので、同年8月2日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 消費税法第28条第1項は、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。)とする旨規定され、同法第2条《定義》第1項第8号は、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定している。
ロ 本件通達は、事業者が販売促進の目的で販売奨励金等の対象とされる課税資産の販売数量、販売高等に応じて取引先から金銭により支払を受ける販売奨励金等は、仕入れに係る対価の返還等に該当する旨定めている。

(4)基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成2年10月23日に消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》による「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出し、平成14年9月課税期間まで簡易課税制度により消費税等の確定申告書を提出しており、本件受入手数料は課税売上げとしている。
ロ 請求人は、〔1〕家庭薬の製造業を営むA社傘下の配置販売業者とその配置販売員の育成、〔2〕家庭薬配置得意先の開拓及び家庭薬の販売を目的として、昭和60年8月16日に設立された法人である。
ハ 請求人は、A社との間において、平成12年9月1日に平成6年12月1日付で交わされた契約を改正して、次の事項などを内容とした「相互協力契約書」を締結した。
(イ)A社と請求人は、その事業発展のため経済的及び人材的協力を行うものとする。
(ロ)新付け(顧客の新規開拓)による得意の拡張については、請求人が開催した「新付け研修会」及び請求人独自の新付けで得られた得意1戸につき5,000円の割合にて、A社より請求人に拡販費を支払う。ただし、請求人は、その住所、氏名を詳細に報告し、A社はそれに基づいて「礼状」を送付する。
(ハ)上記の拡販費5,000円のうち、2,500円については毎月集計の上支払い、残りの2,500円については、毎年3月末日にその実績に応じて清算する。

トップに戻る

2 主張

請求人

(1)新規顧客獲得活動で獲得した顧客宅には薬を配置する必要があり、A社から大量の仕入れが必要となることから、本件受入手数料は実質的には仕入れに対する仕入値引である。
 したがって、本件受入手数料は、本件通達に定める事業者が販売促進の目的で販売数量及び販売高等に応じて受け取る販売奨励金等に該当する。
 なお、本件通達本文中の販売数量、販売高等に準じる係数として新規開拓顧客数を販売奨励金の計算根拠としている。
(2)新規顧客獲得活動は請求人自身の顧客の獲得であり、A社に対する役務の提供ではなく、課税資産の譲渡等の対価には当たらない。

原処分庁

(1)本件通達において、事業者が販売促進の目的で課税資産の販売数量及び販売高等に応じて受け取る販売奨励金等は、仕入れに係る対価の返還等に該当するものとされているが、本件受入手数料は、請求人が新規開拓した顧客数に応じて受け取るものであり、本件通達に定められている販売奨励金等には該当しない。
(2)本件受入手数料は、配置販売システムの規模拡大業務を担当する請求人が、その成果に応じて受領するものであり、同システムの拡大のための役務の対価と認められ、課税資産の譲渡等の対価に当たる。

トップに戻る

3 判断

(1)認定事実

イ 請求人は、平成12年9月までは配置販売業者に対する「新付け研修会」を開催して新規顧客を獲得するためのノウハウの実地指導を行い、配置販売業者が獲得した新付け戸数に応じて、A社から拡販費を受け取っていたが、平成12年10月以降は事業内容の展開を図り、配置販売業者に対する「新付け研修会」はほとんど行わず、請求人自身が顧客を獲得し家庭薬の配置販売を行っている。
ロ 本件受入手数料は、新規得意1戸当たり2,500円については毎月清算し翌月に受け取り、実績に応じて受け取る2,500円については、平成13年10月から平成14年3月の間の新付けに係るものを平成14年3月末に、平成14年4月から同年9月の間の新付けに係るものを平成15年3月末にそれぞれ請求し、それぞれ全額を受け取っている。
ハ 平成14年9月課税期間における新規顧客獲得戸数は8,151戸である。
ニ 新規顧客宅に配置する薬品の1戸当たりの仕入原価は約○○○円(一般的販売価格○○○円の30%程度)である。
ホ 請求人以外に、A社から新規顧客獲得戸数を計算基準とした拡販費を受け取っている販売業者はいない。

(2)本件通達は、販売促進の目的で販売奨励金等の対象とされる課税資産の販売数量、販売高等に応じて取引先から金銭により支払いを受ける販売奨励金等が、役務の提供や新たな資産の譲渡の対価としての性質を有さず、当該課税資産の仕入れに係る取引の対価と対応関係にあり、仕入代金の一部の返還とみなし得ることから、仕入れに係る対価の返還等に該当するとするものであり、取引の実質を考慮して支払われた金員の趣旨を判断するもので相当といえる。

(3)これを本件についてみると、次のとおりである。

イ 請求人とA社は代表者が同じで、上記1の(4)のハの相互協力契約書のとおり、相互に事業発展のため経済的及び人材的協力を行い、それぞれの業務を拡大するため新規顧客の獲得活動を役割分担して請求人が実施するなど強い協力関係にあり、上記(1)のハの請求人が新付けにより獲得した得意先は、すべて請求人の得意先となる一方、A社の売上金額の増加にも資することが認められ、また、上記(1)のイ、ロ及びホを考慮すると、売上増加を期待するA社が支払う本件受入手数料は、新規顧客獲得数に応じて支払う出来高払としての報酬の性質を有するもので、新規顧客獲得という役務の提供の対価であると認めるのが相当である。
 また、〔1〕請求人が、相互協力契約書に基づき受け取る一戸当たりの本件受入手数料は、上記(1)のニの請求人が新規顧客宅に配置する薬品の仕入原価の3倍を超えていること、〔2〕本件受入手数料は、相互協力契約書に基づき、課税資産である薬品の仕入れに係る取引の対価の額とは必ずしも対応しない新規顧客獲得戸数を計算基準として算出されて支払われていることからすると、本件受入手数料とA社からの薬品仕入れの対価との間に対応関係は認められない。
ロ そうすると、本件受入手数料は、本件通達が定める販売奨励金等には該当せず、むしろ役務の提供の対価として課税資産の譲渡等の対価の額に当たるというべきである。

(4)原処分のその他の部分については、当審判所の調査の結果によってもこれを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る