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(平17.9.21裁決、裁決事例集No.70 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、原処分庁が審査請求人(以下「請求人」という。)の法人税並びに消費税及び地方消費税(以下、消費税及び地方消費税を併せて「消費税等」という。)に係る還付金を請求人の滞納国税等に充当又は委託納付したことに対し、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、原処分庁に対し、平成16年11月1日、平成15年9月1日から平成16年8月31日までの事業年度の法人税について還付金の額を2,111,000円、平成15年9月1日から平成16年8月31日までの課税期間の消費税等について還付金の額を559,200円として、それぞれ確定申告した(以下、この法人税に係る還付金2,111,000円にこれに係る還付加算金34,800円を加算した合計2,145,800円を「本件法人税還付金」といい、この消費税等に係る還付金559,200円にこれに係る還付加算金9,000円を加算した合計568,200円を「本件消費税等還付金」という。)。
ロ 原処分庁は、本件法人税還付金のうち1,497,750円を別表1のとおり、国税通則法(以下「通則法」という。)第57条《充当》第1項に基づいて請求人の滞納国税に充当し(以下、この充当処分を「本件充当処分」という。)、残648,050円を別表2のとおり、本件消費税等還付金568,200円を別表3のとおり、いずれも請求人の滞納国税等に委託納付し(以下、これらの委託納付を併せて「本件各委託納付」という。)、平成16年11月29日、その旨を請求人に通知した。
ハ 請求人は、本件充当処分及び本件各委託納付に不服があるとして、平成17年1月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成17年3月3日に本件充当処分については棄却、本件各委託納付については却下の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件充当処分及び本件各委託納付に不服があるとして、平成17年4月2日に審査請求をした。

(3)関係法令(要旨)

 別紙のとおり。

(4)争点

 本件充当処分及び本件各委託納付は権利の濫用か否か。

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2 主張

(1)請求人の主張

 請求人は、原処分庁に対し、自己の滞納国税について、平成16年8月30日、通則法第55条《納付委託》第1項(以下、同項の規定に基づく納付等の委託を「納付委託」という。)に基づき、約束手形1通(振出人A社、券面額945,000円、支払期日平成16年12月15日)を提供して、納付委託し、同年10月30日、同年11月10日から毎月10日限り2万円を分割して納付する旨誓約するとの書面(以下「本件納付誓約書」という。)を提出した。請求人は同誓約に基づき、納付の履行をしている最中であったが、それにもかかわらず、原処分庁は、一方的に本件充当処分及び本件各委託納付を行ったのであるから、これらは権利の濫用である。

(2)原処分庁の主張

 本件充当処分は適法に行われており、権利の濫用はない。
 本件各委託納付は不服申立ての対象となる処分に該当せず、これらの取消しを求める審査請求は不適法である。

3 判断

(1)本件充当処分について

イ 前記1(2)審査請求に至る経緯ロ記載のとおり、本件充当処分は通則法第57条第1項に基づくものであるところ、同項は、税務署長に対し、還付金等と納付すべきこととなっている国税とが同一の納税者について存在する場合に、還付金等を納付すべきこととなっている国税に充当することを義務付けている。また、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、納付委託により事実上納税が猶予されている滞納国税について、還付金等の充当を制限する旨の法令上の規定はないこと、本件納付誓約書は、納税の猶予を求める申請には当たらず、原処分庁は、請求人の滞納国税について納税の猶予をしていないことが認められる。
 そうすると、本件充当処分について原処分庁がその権利を濫用したとは認められない。
ロ 本件充当処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。したがって、本件充当処分は適法である。

(2)本件委託納付について

 通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する「国税に関する法律に基づく処分」とは、税務署長等の公権力の行使に当たる行為で、かつ、これにより直接国民の権利義務に影響を及ぼす法律上の効果を生ずるものをいうと解する。
 ところで、委託納付とは、納税者が、税務署長に対し、その受領すべき還付金等により未納の国税等の納付を委託したものとみなされ、同委託に基づき税務署長が同還付金等を同未納国税等に収納する手続を行うことをいい、これにより、法律上当然にその委託納付に相当する額の還付及び納付があったものとみなされる(地方税法附則第9条の10《譲渡割に係る充当等の特例》第1項から第4項まで)。
 そうすると、委託納付の効果は、法律上擬制される納税者自らの委託に基づくものであって、税務署長等による公権力の行使によるものではないから、「国税に関する法律に基づく処分」には該当しない。したがって、本件各委託納付に対する審査請求は不適法なものである。

別紙 関係法令(要旨)

1 通則法第57条第1項は、税務署長は、還付金又は過誤納金等(これらに加算すべき還付加算金を含み、以下「還付金等」という。)がある場合において、その還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、同法第56条《還付》第1項の規定による還付に代えて、還付金等をその国税に充当しなければならない旨規定している。
2 地方税法附則第9条の10第1項は、〔1〕併せて納付された譲渡割及び消費税に係る還付金等を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税がある場合、又は〔2〕国税に係る還付金等(併せて納付された譲渡割及び消費税に係る還付金等を除く。)の還付を受けるべき者につき、併せて賦課され又は申告された譲渡割及び消費税で納付すべきこととなっているもの(以下「未納譲渡割等」という。)がある場合における当該還付金等については、通則法第57条の規定を適用しないとし、同条第2項及び第3項は、これらの場合にあっては、当該還付金等の還付を受けるべき者が当該還付をすべき税務署長に対し、当該還付金等により未納譲渡割等又は納付すべきこととなっているその他の国税を納付することを委託したものとみなす旨規定し、同条第4項は、同条第2項及び第3項の規定が適用される場合には、当該委託納付をするのに適することとなった時に、その委託納付に相当する額の還付及び納付があったものとみなす旨規定している。

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