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(平17.9.21裁決、裁決事例集No.70 105頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)による商法(平成13年法律第128号による改正前のもの。以下同じ。)第349条《反対株主の株式買取請求権》第1項に規定する反対株主の株式買取請求に基づき、F社が自己の株式を取得(以下「本件自己の株式の取得」という。)した日が、商法等の一部を改正する等の法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成13年6月29日法律第80号、以下「商法等改正法整備法」という。)第44条《所得税法の一部改正に伴う経過措置》第2項(以下「本件経過措置」という。)に規定する施行日以後か否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年分の所得税について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ その後、請求人は、平成15年7月31日に総所得金額等及び分離株式等の譲渡所得の金額並びに納付すべき税額を別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成15年10月30日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成15年11月17日に異議申立てをした。
ホ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成16年1月16日付で別表1の「更正」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
へ 異議審理庁は、上記ニの異議申立て及び本件更正処分に係る部分について併せて審理をし、平成16年2月5日付で上記ニの異議申立てに対し棄却の異議決定をした。
ト 請求人は、異議決定を経た後の本件通知処分に不服があるとして、平成16年3月2日に審査請求をした。
チ 請求人は、本件更正処分を不服として、平成16年3月15日に異議申立てをした。
リ 異議審理庁は、本件更正処分に対する異議申立てについて、国税通則法第90条《他の審査請求に伴うみなし審査請求》第1項の規定により異議申立書を国税不服審判所長に平成16年4月8日送付したので、同日審査請求がされたものとみなされた。そこで、これらの審査請求について併合審理する。

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(3)関係法令

イ 所得税法第25条《配当等の額とみなす金額》第1項第5号は、法人の株主等が当該法人の自己の株式の取得により金銭等の交付を受けた場合において、当該金銭等の額が当該法人の資本等の金額に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額は、当該法人からの利益の配当又は剰余金の分配とみなす旨規定している。
ロ 本件経過措置は、所得税法第25条第1項第5号の規定は、株主等が施行日(平成13年10月1日。以下「本件施行日」という。)以後にされる同号に掲げる自己の株式の取得により交付を受ける金銭等について適用する旨規定している。
ハ 租税特別措置法(平成15年法律第8号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第37条の10《株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》第4項は、居住者等が交付を受ける同項各号に掲げる金額は、所得税法第25条第1項の規定に該当する部分の金額を除いて、株式等に係る譲渡所得等に係る収入金額とみなす旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ F社は、平成13年6月28日の定時株主総会に、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の「定款一部変更の件」と題する第2号議案を提出した。
ロ 請求人ほか13名の株主(以下「請求人ら」という。)は、平成13年6月27日、上記イの議案について反対する旨をF社に対して書面をもって通知し、上記イの株主総会においても反対したが、原案どおり可決された。
ハ 請求人らは、平成13年7月17日、商法第349条第1項の規定に基づき、請求人らが所有するF社の株式を「決議がなかったならば有したであろう公正な価格をもって買い取るよう」に書面をもって、F社に当該株式の買取請求(以下「本件株式買取請求」という。)を行った。
ニ 請求人らは、平成13年7月19日に、G簡易裁判所に本件株式買取請求に係る公正な株式買取価格を協議するための調停を申し立てた。
ホ 請求人らは、平成13年8月29日に上記ニの調停の申立てを取り下げ、平成13年9月10日にH地方裁判所に、商法第245条ノ3《買取請求の手続》第3項の規定に基づき株式買取価格の決定を申請した。
へ 請求人らとF社は、H地方裁判所の勧告を受けて、平成14年4月12日に、同裁判所において株式買取価格決定の申請に係る和解(以下「本件和解」という。)をし、本件和解のとおり履行した。
 なお、本件和解の内容は、要旨次のとおりである。
(イ)1株当たりの株式買取価格を1,554円と合意する。
(ロ)F社は、請求人に対し平成14年4月12日に株券と引換えに株式買取代金○○○円から源泉徴収税額○○○円を控除した金額○○○円を支払う。
(ハ)F社は、請求人に対し、平成14年4月12日に本件株式買取請求に係る買取代金に平成13年9月27日から平成14年4月12日までの商事法定利率による利息金○○○円(以下「本件利息金」という。)を支払う。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件通知処分について
(イ)本件自己の株式の取得の日について
A 所得税法第25条第1項第5号に規定する「自己の株式の取得」に伴う課税の適用については、上記1の(3)のロのとおり、本件施行日以後にされる「自己の株式の取得」により交付を受ける金銭等について適用される。
B 本件経過措置にいう「自己の株式の取得」は、当該株式の発行法人の立場からみて「取得」に該当することを表現しているが、課税の対象者である個人である納税者の側からは「譲渡」の裏返しであり、本件経過措置は当該株式の発行法人を中心として解釈すべきではなく株式等の譲渡側である株主等を中心に解釈すべきである。
 そうすると株主等が「発行法人との間で能動的に行った契約の成立ないし法律行為」の結果が、発行法人に対し「自己の株式の取得」という事態をもたらすのであるから、契約の成立ないし法律行為、すなわち、本件についてみるならば、株主である請求人が商法第349条第1項に基づく反対株主の株式買取請求権(以下「反対株主の株式買取請求権」という。)を行使した結果、発行法人に対し「自己の株式の取得」という事態をもたらしたものであって、反対株主の株式買取請求権の行使日により発行法人の「自己の株式の取得」の日が決せられると解すべきである。
C ところで、最高裁決定(昭和48年3月1日決定、昭和47年(ク)第5号株式買収価格決定に対する抗告事件の決定に対する特別抗告事件、以下「昭和48年最高裁決定」という。)では、反対株主が反対株主の株式買取請求権を行使し、その株式を買い取るべき意思表示が株式発行法人に到達した時点で当事者間において売買契約が成立するとしているから、発行法人の「自己の株式の取得」の日は、株主が発行法人に対し買取請求の意思表示をしたときと考えるのが最も合理的である。
 確かに、上記買取請求の意思表示の時点では、株式買取価格は決定していないが、裁判所が商法第245条ノ3第3項によってする株式買取価格決定は、すでに成立している株式売買の価格を事後的に定めるものにすぎないから、買取価格が決定していないことが、上記の解釈の妨げにはならない。
D また、所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は、その年において収入すべき金額とする旨規定し、所得税基本通達36−4〈配当所得の収入金額の収入すべき時期〉(3)は、「自己の株式の取得」に伴うみなし配当所得の収入すべき時期について、「自己の株式の取得」と「社員の退社」を同列に列記した上で、「これらの事実があった日」と定めている。
 そして、本件の先例と認められる平成14年3月28日裁決(裁決事例集第63集123頁)によれば、所得税基本通達36−4(3)に定める社員の退社の事実のあった日とは、所得税法第36条第1項に規定する、いわゆる「権利確定主義」を前提に、総社員の同意という法律行為を中心に据えて「退社の事実があった日」を認定している。
E 前記Cの昭和48年最高裁決定をベースに、上記Dの退社にかかる裁決例を敷衍すれば、本件自己の株式の取得の日は、外部的に第三者から確認可能となる和解日の平成14年4月12日ではなく、反対株主の株式買取請求権が行使され、その意思表示が株式発行法人に到達した平成13年7月17日をもって株式売買契約の法的効果が発生した「自己の株式の取得の事実があった日」と認定すべきことは明白である。
 本件では、本件和解により、株式買取請求権が行使された日から約9か月後の平成14年4月12日に金銭の授受が行われているが、前記Dの裁決例によれば、金銭の授受が実際にいつ行われたかは上記認定に何ら影響しない。
(ロ)原処分庁の主張の根拠とする商法第245条ノ3第5項は、買取請求をした株主が代金の支払を確実に得られるように同時履行の抗弁を疑義のないように特に定めた規定であり、一方、本件経過措置は、所得税法第25条第1項第5号の規定が適用される時期を定めた規定であるから、商法第245条ノ3第5項に規定する株式の移転の効力の発生時期と本件経過措置にいう「自己の株式の取得」の時期を同じと考える必然性はなく、その趣旨や目的に照らして独自に解釈されるべきである。
(ハ)本件経過措置は、商法の改正を契機として実施された所得税法の改正に伴い、みなし配当の範囲の拡大をもたらす結果により生ずる個人株主等の不利益を調整する経過措置であるから、他の経過規定と総合勘案しても本件経過措置に係る解釈は矛盾なく合理的でなければならない。
A 本件経過措置の規定を置く商法等改正法整備法の第44条第1項及び第3項の制定趣旨は、法律の施行前に有効に成立した決議に伴う、次期定時株主総会の終結までという一定の合理的な期間が限定されている法律行為に基づく株式の消却あるいは自己の株式の取得の実現について、法改正に基づくみなし配当課税を回避するものであると考えられるから、この経過的な趣旨は、当然に、商法等改正法整備法第44条第2項(本件経過措置)の解釈に際しても生かされなければならない。
 すなわち、納税者がなした法律行為が法律施行日前に存在する場合は、その法律行為を尊重し、法改正後の実現行為に係る課税については、みなし配当課税を適用しない方向に解釈をなすのが法の整合的な解釈である。
B 所得税法第25条第1項第5号のかっこ書は、同号のみなし配当課税の対象から除くための除外規定であるが、その内容を検討すると、自己の株式の取得そのものが目的ではなく、偶発的であったり、他の目的の実現過程でたまたま副次的に自己の株式の取得が生じる場合まで、みなし配当課税を強いることは酷であるとの前提に立つものと考えられる。
 したがって、法改正後において、反対株主の株式買取請求権の行使の場合が、所得税法第25条第1項第5号のかっこ書で除外されていないとしても、本件のように、それが本件施行日前である場合は、これを尊重し、少なくとも法改正に伴う移行期には、反対株主の株式買取請求権の結果である自己の株式の取得について、みなし配当課税を回避する姿勢こそ、法が意図する立法趣旨である。
(ニ)まとめ
 以上のとおり、本件経過措置に規定する法令の適用時期を画するための本件施行日以後であるか否かの判定については、株主等が行った契約の成立ないし法律行為の日、すなわち反対株主の株式買取請求権の行使日である平成13年7月17日をもって判定すべきである。
 仮に、平成13年7月17日が本件自己の株式の取得の日として許容されない場合であっても、本件和解において、商法第245条ノ3第4項の規定に基づく本件利息金の起算日が平成13年9月27日となっていることから、遅くとも同日には本件自己の株式の取得がなされたことは明らかである。
 よって、この日は本件施行日(平成13年10月1日)より前となるから、本件については、いわゆるみなし配当課税の規定が適用されないことは明白である。
ロ 本件更正処分について
 本件更正処分は、本件自己の株式の取得の日が本件施行日以後であるとの事実認定に基づき、配当所得と株式の譲渡所得に区分して所得税額を算出している。
 しかし、上記イのとおり、本件自己の株式の取得の日は本件施行日より前と解すべきであり、所得税法上の配当所得とみなされる所得は存在せず、譲渡所得としての課税のみであるから、本件更正処分は、前提となっている事実認定を誤っている。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件通知処分について
(イ)本件自己の株式の取得の日について
A 所得税法第36条第1項には、その年分の各種所得の金額の計算上収入すべき金額は、その年分において収入すべき金額とする旨規定しており、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとされ、当該資産の引渡しがあった日は、資産の譲渡の当事者間で行われる当該資産に係る支配の移転の事実に基づいて判定することとなる。
 また、配当所得のうち所得税法第25条の規定により配当等とみなされる金額に係る配当所得の収入金額の収入すべき時期は、その交付を受ける金銭等の事由により、当該金銭等の交付の日又は当該事由の事実のあった日等によるものとされている。
B 法人税法第61条の2《有価証券の譲渡益又は譲渡損の益金又は損金算入》第1項は、内国法人が有価証券の譲渡をした場合には、その譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額は、その譲渡に係る契約をした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する旨規定している。
 すなわち、法人税法上の有価証券の譲渡損益の額は、原則としてその譲渡に係る契約をした日に計上しなければならないこととされているが、株主の買取請求権の行使に係る自己の株式の取得のように市場における売買や慣行とは異なった形態の有価証券の譲渡については、その譲渡に係る事由に応じて、その事由による譲渡が客観的に明らかとなった日又は譲渡の法的効力を有することとなった日において計上すべきものとされている。
C 商法第349条第1項に規定する反対株主の株式買取請求権の行使に係る株式の移転等について、同法第245条ノ3第5項は、株式の代金の支払は株券と引換えに行うことを要し、株式の移転の効力は代金の支払の時に生じる旨規定し、株券と引換えに代金が支払われるまでは、当該株式買取請求権を行使した株主は、株主としての資格を有していると解されている。
D これを本件についてみると、上記1の(4)の基礎事実のとおりであるから、本件自己の株式の取得に係る株式移転の効力の発生日は、本件和解の成立により株式の買取価格が決定し、その決定した買取価格に基づく当該株式買取代金が株券と引換えにF社から請求人に支払われた平成14年4月12日となる。
(ロ)まとめ
 したがって、本件自己の株式の取得の日は、本件株式買取請求に係る株式移転の効力が生じた平成14年4月12日と認められ、本件施行日(平成13年10月1日)以後であることから、本件自己の株式の取得により請求人がF社から支払を受ける当該株式買取代金のうち、F社の資本等の金額に対応する金額を超える部分の金額については配当所得の収入金額とみなされ、当該配当所得の収入金額とみなされる部分を除いた部分については措置法第37条の10第4項に規定する株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされるから、本件通知処分は適法である。
ロ 本件更正処分について
 上記イの理由から、別表1の「更正」欄のとおり、総所得金額は560,777,525円、株式等に係る譲渡所得の金額は273,776,019円、納付すべき税額は○○○円となり、本件更正処分は適法である。

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3 判断

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、F社の平成14年3月31日現在の資本金は○○○円、資本積立金は○○○円及び発行済株式総数は○○○株で、1株当たりの資本等の金額は365円(円未満切捨て)となる。
 そうすると、本件和解による1株当たりの株式買取価格(1,554円)は、1株当たりの資本等の金額よりも上回っている。

(2)本件通知処分について

イ 本件自己の株式の取得の日について
(イ)所得税法第25条第1項第5号に規定する自己の株式の取得とは、株式発行法人がする証券取引法第2条第16号《定義》に規定する証券取引所の開設する市場における購入による取得等以外の自己の株式の取得である。そして、本件自己の株式の取得は、反対株主の株式買取請求に応じてF社が売買により取得したものであるから、本件自己の株式の取得の日については、売買の効力が生じたときがいつであるかに帰着する。
(ロ)売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力が生ずる(民法第555条)。そうすると、代金は、売買の重要な要素であるから、代金額が定まっていない場合には、売買の効力は生じないと解される。
 ところで、商法第245条ノ3第3項(同法第349条第2項によって準用される場合を含む。)によってする株式買取請求価格決定の性質について、昭和48年最高裁決定は、「反対株主の株式買取請求権は、会社に対し、『決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格』(商法第245条ノ2参照)で株式を買い取るべきことを請求する権利であって、その権利の行使により、会社の承諾を要することなく、法律上当然に会社と株主との間に売買契約が成立したのと同様の法律関係を生ずるが、その際買取価格までもが具体的に定まるものではない。その価格は、まず当事者の協議によって定めるべきであるが、この協議が調わないときは、株主の請求によって裁判所がこれを定めることとなるのである(商法第245条ノ3第2項、第3項参照)。したがって、裁判所による価格の決定は、客観的に定まっている過去の株価の確認ではなく、新たに『決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格』を形成するものであるといわなければならない。」と判示している。
 上記昭和48年最高裁決定に照らすと、反対株主が株式買取請求権を行使した場合における株式の買取価格は、同請求権を行使した時点では具体的に定まっておらず、その後の当事者の協議によって決定し、協議が調わないときは、価格の決定の請求に基づき、裁判所の決定によって初めて決定するのであるから、このような手続によって価格が決定する時に初めて売買の効力が生ずると解される。そうすると、反対株主が株式買取請求権を行使した時点では、いまだ売買の効力は生じているとはいえない。
 なお、昭和48年最高裁決定は、反対株主が株式買取請求権を行使したときは、法律上当然に会社と株主の間に売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずると判示するが、この法律関係とは、会社が株主から将来決定する価格で株式を買い取る義務を負い、株主が会社に同価格で株式を売り渡す義務を負うという法律関係をいうのであって、売買契約の効力が生じたことまでをいうものではない。
(ハ)これを本件についてみると、上記1の(4)のヘのとおり、平成14年4月12日に本件和解により株式買取価格が決定し、それに基づきF社が請求人に対して株式買取代金から源泉徴収税額を控除した金額を支払い、請求人はF社に株券を引き渡したものであるから、同日に、売買契約の効力が生じ、当事者双方が契約を履行したといえる。そうすると、F社は、本件施行日以後である平成14年4月12日に本件自己の株式の取得をしたものと認められる。
(ニ)なお、請求人の主張は、要するに、株主である請求人が反対株主の株式買取請求権を行使した平成13年7月17日が契約の成立の日であるというものであるところ、上記(ロ)及び(ハ)のとおり、同日においては、株式買取価格は決定していないため契約の効力は生じておらず、平成14年4月12日に契約の効力が生じたと解されるから、請求人の主張は採用することができない。
 請求人は、また、法律行為の日である反対株主の株式買取請求権の行使日がいつであるかにより発行法人の「自己の株式の取得」の日が決せられると解すべきである旨主張するが、上記(イ)のとおり、本件自己の株式の取得の日については売買の効力が生じたときがいつであるかに帰着するのであり、請求人の主張は採用することはできない。
(ホ)また、請求人が主張の理由のひとつとして引用する平成14年3月28日裁決では、退社の事実があった日と認定した総社員の同意があった日において、退社員が受領する持分の払戻金の額を具体的に算定することが可能であったのに対し、本件は、請求人が本件自己の株式の取得の事実があった日と主張する反対株主が株式買取請求権を行使した時点では、株式の買取価格は具体的に定まっておらず、同裁決例とは前提が異なるのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、本件経過措置は、商法の改正を契機として実施された所得税法改正に伴い、みなし配当課税の範囲の拡大により生ずる個人株主等の不利益を調整する経過措置であるから、他の経過規定と総合勘案しても本件経過措置に係る解釈は矛盾なく合理的でなければならないとした上で、本件経過措置の規定を置く商法等改正法整備法の第44条第1項及び第3項並びに所得税法第25条第1項第5号かっこ書の規定の趣旨から、法改正に伴う一定の合理的な期間や移行期においては、反対株主の株式買取請求権の行使による自己の株式の取得について、みなし配当課税を回避すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件自己の株式の取得の日は、本件施行日以降であると認められることは前述したとおりである。そして、商法等改正法整備法第44条第2項(本件経過措置)は上記1の(3)のロのとおり規定し、所得税法第25条第1項第5号は上記1の(3)のイのとおり規定しているところ、請求人の上記主張は、いずれも反対株主の株式買取請求権の行使による自己の株式の取得の場合には、明文で規定されていなくとも、みなし配当課税を適用しない方向で法解釈すべきであると主張するものであり、商法等改正法整備法第44条及び所得税法第25条の解釈の範囲を超えた主張というべきであって、いずれも採用することはできない。
ハ 請求人は、平成13年9月27日から本件利息金が生じていることから、少なくとも平成13年9月27日には本件自己の株式の取得がなされていたことは明らかである旨主張する。
 しかしながら、本件利息金は、商法第245条ノ3第4項に規定する決議の日より90日経過後の法定利息として、同法第514条《商事法定利率》に規定する年6分の利率で支払うことが本件和解に盛り込まれたものにすぎず、本件自己の株式の取得の日を起算日としたとは認められないから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ニ まとめ
 以上のとおり、本件自己の株式の取得の日は平成14年4月12日で、本件経過措置に規定する本件施行日(平成13年10月1日)以後となり、上記(1)の認定事実から所得税法第25条第1項第5号の規定が適用され、F社が請求人に株式買取代金として交付した金銭は、配当所得の収入金額とみなされる部分の金額を除いて措置法第37条の10第4項に規定する株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされるから、本件通知処分は適法である。

(3)本件更正処分について

 請求人は、本件通知処分についての主張と同様の趣旨の理由で本件更正処分が違法である旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のとおり本件通知処分は適法であり、本件更正処分は主として給与所得の増加を理由とする処分であるから、請求人の主張には理由がない。
 また、本件更正処分後の所得金額及び納付すべき税額は、当審判所の調査によっても相当と認められるから、本件更正処分は適法である。

(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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