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(平17.11.16裁決、裁決事例集No.70 134頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成9年から平成14年までの間、商品先物取引会社に委託して行った商品先物取引に係る損益について、取引全体では損失になるとして、平成13年分の収益を申告しなかったところ、原処分庁が、商品先物取引の損益の額は各年分で計算する必要があるとして、平成13年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことに対し、請求人が、これを不服として、各処分の全部の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 別表1記載のとおり(以下、異議決定を経た後の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を、それぞれ「本件更正処分」、「本件賦課決定処分」という。)である。

(3)関係法令等

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第1項は、国税を納付する義務が成立する場合には、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税を除き、国税に関する法律の定める手続により、その国税についての納付すべき税額が確定される旨、同条第2項第1号は、暦年の終了の時に所得税の納税義務が成立する旨、それぞれ規定している。
ロ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定している。
ハ 商品先物取引の差金等決済に係る事業所得又は雑所得の計算上生じた損失の金額があるときは、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第41条の14《商品先物取引に係る雑所得等の課税の特例》(平成15年法律第8号による改正前のもの。)第1項は、所得税に関する法令の適用上、その損失の金額は生じなかったものとみなす旨規定されていたが、平成15年法律第8号による改正により、措置法第41条の15《先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除》第1項において、確定申告書を提出する居住者等が、その年の前年以前3年内の各年において生じた商品先物取引の差金等決済に係る損失の金額を有する場合は、当該商品先物取引の差金等決済に係る損失の金額に相当する金額は、当該確定申告書に係る年分の商品先物取引に係る雑所得等の金額を限度として、当該年分の当該商品先物取引に係る雑所得等の金額の計算上控除する旨の規定が創設された。
 なお、措置法第41条の15第2項は、第1項に規定する商品先物取引の差金等決済に係る損失の金額とは、当該居住者等が、平成15年1月1日以後に、商品先物取引の差金等決済をしたことにより生じた損失の金額のうち、その者の当該差金等決済をした日の属する年分の前条第1項に規定する商品先物取引に係る雑所得等の金額の計算上控除してもなお控除しきれない部分の金額である旨規定している。

(4)基礎事実(当事者間に争いがなく、当審判所の調査によっても認められる事実)

イ 請求人は、P市Q町○−○に所在するA社に委託して、平成9年5月から平成14年12月までの間、商品先物取引を行った(以下、上記取引期間を「本件取引期間」という。)。
ロ 本件取引期間において請求人が行った商品先物取引は、措置法第41条の14(平成15年法律第8号による改正前のもの。)第1項に規定する商品先物取引に該当する取引であり、請求人は、この商品先物取引を事業として営んだものではないから、取引に係る所得の所得区分は、雑所得となる。
ハ 本件取引期間における各年分の商品先物取引の損益の状況は、別表2記載のとおりであり、59,337,544円の損失となる。
ニ 本件取引期間において請求人が行った商品先物取引のうち、平成13年中の商品先物取引(以下「本件先物取引」という。)は、別表3記載のとおり、総合課税分が7,515,890円、別表4記載のとおり、申告分離課税分が23,501,430円となり、合計で31,017,320円となる。

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2 争点及びこれに対する当事者の主張

(1)本件先物取引に係る所得について、所得税を課すことの適法性(争点1)

イ 原処分庁

 所得税法第36条第1項では、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定しており、一暦年の中で発生した所得をとらえて課税することとしている。
 したがって、本件先物取引に係る平成13年分の所得について、所得税を課すことは適法である。

ロ 請求人

 請求人は、本件取引期間全体では、総額で多額の損失を被っている。
 したがって、本件先物取引において、一時的に利益が生じたからといって課税するのは違法である。

(2)本件取引期間において請求人が行った商品先物取引について、措置法第41条の15の規定の適用はあるか(争点2)

イ 請求人

 本件更正処分に際しても、商品先物取引に係る損失の繰越控除が認めることとした措置法第41条の15の規定の適用を認めるべきである。

ロ 原処分庁

 平成15年の改正後の措置法により、商品先物取引に係る損失の繰越控除が認められるのは、平成15年1月1日以後に措置法第41条の14《先物取引に係る雑所得等の課税の特例》第1項第1号に規定する商品先物取引をし、かつ、その商品先物取引の決済に係る損失の金額を有する場合である。
 本件取引期間において請求人が行った商品先物取引は、平成14年12月以前に行われたものであるから、措置法第41条の15の規定の適用はない。

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3 争点等に対する判断

(1)争点1(本件先物取引に係る所得について、所得税を課すことの適法性)について

 前記1の(3)のイ及びロのとおり、所得税の納税義務は、暦年の終了の時に成立し(通則法第15条第2項第1号)、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、その年において収入すべき金額とされているところ(所得税法第36条第1項)、請求人は、前記1の(4)のハ及びニのとおり、本件取引期間全体では、総額で59,337,544円の損失を被っているものの、本件先物取引では、31,017,320円の利益が生じているのであるから、本件先物取引による損益は、平成13年分の所得となる。
 したがって、本件先物取引に係る平成13年分の所得について、所得税を課すことは適法であり、この点に関する請求人の主張は、上記各規定の明文に反し、採用することはできない。

(2)争点2(本件取引期間において請求人が行った商品先物取引について、措置法第41条の15の規定の適用はあるか)について

 平成15年に改正された措置法第41条の15第1項及び第2項の内容は、前記1の(3)のハのとおりであり、平成15年1月1日以後に商品先物取引の差金等決済をしたことにより生じた損失の金額について適用されるものであるが、請求人が行った商品先物取引は、平成14年12月以前に行われたものであるところ、平成14年12月31日以前の商品先物取引の差金等決済をしたことにより生じた損失の金額についてもそ及して適用することを定めた規定が存在しない以上、本件取引期間において請求人が行った商品先物取引について、措置法第41条の15の規定の適用はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3)本件更正処分及び本件賦課決定処分の適法性について

イ 本件更正処分
 本件先物取引に係る総合課税の雑所得の金額(7,515,890円)及び申告分離課税の雑所得の金額(23,501,430円)を基に、当審判所において、請求人の納付すべき税額を算定すると、○○○円となり、この金額は、本件更正処分の納付すべき税額と同額になる。
 したがって、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分
 本件更正処分は、上記イのとおり、適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、請求人は、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があることを主張、立証せず、当審判所の調査の結果によってもそのような事情が存したと認められず、また、過少申告加算税の額は、通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づき正しく計算されている。
 したがって、本件賦課決定処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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