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(平17.11.29裁決、裁決事例集No.70 157頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)に対してされた平成15年分の所得税の更正処分について、違法を理由としてその一部の取消しが求められた事案であり、争点は次のとおりである。
争点 請求人が身体障害者更生施設に対して、身体障害者又はその扶養義務者の負担能力に応じた一定の基準による負担金額(以下「利用者負担額」という。)を支払った場合、当該利用者負担額は所得税法第73条《医療費控除》第2項に規定する医療費に該当するか否か。

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(2)審査請求に至る経緯

 審査請求(平成16年12月6日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。

(3)関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙1のとおりである。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 社会福祉法人Eが設置・運営する身体障害者更生施設Fは、身体障害者福祉法第5条《施設等》に規定する身体障害者更生施設であり、その設備及び運営は身体障害者福祉法第28条《施設の基準》の規定により定められた「身体障害者更生援護施設の設備及び運営に関する基準」(平成15年3月12日付厚生労働省令第21号。以下「施設基準」という。)に基づいて行われている。
 なお、身体障害者更生施設は、身体障害者福祉法第29条《身体障害者更生施設》に規定するとおり、身体障害者を入所させて、その更生に必要な治療又は指導を行い、その更生に必要な訓練を行うことを目的とする施設である。
ロ 請求人は、請求人の被扶養者である弟のGがFに入所していたことに伴い、その入所に係る利用者の費用負担として、平成15年1月から4月までの間にH市に対し、措置費徴収金98,560円を支払い、また、同年5月から12月までの間にFに対し、利用者負担額197,120円(以下「本件利用者負担額」という。)を支払った。
 この入所に係る利用者の費用負担については、平成15年3月までの身体障害者福祉制度においては、行政機関が福祉サービスの利用者を特定し、サービス内容を決定する「措置制度」の下、利用者が行政機関に対して支払うこととされていたが、身体障害者福祉法が改正され、平成15年4月以降は、利用者が自らサービス提供者を選択し、契約によってサービスを利用できる「支援費制度」となったことに伴い、利用者が直接事業者に対して支払うこととなった。
ハ 支援費制度になったことに伴い、Gは、平成15年3月31日付で、Fとの間で、平成15年4月1日から平成18年3月31日までの間に所定の施設支援サービスを受けることを目的とする契約(以下「本件契約」という。)を締結し、「指定身体障害者更生施設サービス」利用契約書(以下「本件契約書」という。)を取り交わした。
ニ 本件契約書には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)本件契約は、利用者の自立と社会経済活動への参加を促進するために、事業者が利用者(G)に対して必要なサービスを適切に行うことを定めたものである。(第1条「目的」)
(ロ)事業者は、常に利用者の課題と意向を把握し、ケア会議を開いて利用者の支援計画を作成する。この支援計画については、事業者が利用者に説明して同意を得た上で作成することとし、利用者はいつでも支援計画についての説明を求め、意見を述べることができる。(第3条「支援計画」)
(ハ)事業者は、上記(ロ)の支援計画及びサービス利用説明書に基づいて、利用者に〔1〕相談・助言、〔2〕適切な技術による訓練、〔3〕入浴等、〔4〕食事、〔5〕レクリエーション行事及び〔6〕健康管理のサービスを提供する。(第4条「サービス内容」)
(ニ)利用者は、上記(ハ)に定めるサービスに対して、市町村が定める施設訓練等支援費(身体障害者福祉法第17条の10《施設訓練等支援費の支給》に規定する施設訓練等支援費をいう。以下同じ。)の額及びサービス利用説明書に記載された利用者負担額を事業者に支払う。ただし、施設訓練等支援費については、事業者が市町村から代理して受領するので、利用者が直接支払う必要はない。(第5条「利用料」第1項)
(ホ)事業者は、利用者に対し、利用者の自立と社会経済活動への参加促進の観点から、できる限り居宅に近い環境の中で、必要なサービスを適切に行う。(第6条「事業者の基本的義務」第1項)
ホ Fの施設概要、提供されるサービスの内容及び契約上の注意事項を利用者に説明するための「指定身体障害者更生施設サービス利用契約」重要事項説明書(以下「本件重要事項説明書」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)Fは、身体に障害を有する人に必要なリハビリ訓練を行い、生活支援及び社会適応訓練等について、支援計画し、家庭との連携協力のもとに社会復帰及び家庭復帰を目指すことを目的とする。(本件重要事項説明書の2)
(ロ)Fは、利用者に対して次のサービスを提供する。(本件重要事項説明書の5)
A 施設訓練等支援費の対象となるサービス
(A)日常生活の支援
(B)医療及び健康管理
(C)社会活動の支援
(D)相談援助
B 施設訓練等支援費の対象外サービス(利用者が自己負担で提供を受けるサービスと費用)
(A)特別なサービスの提供とこれに伴う費用
(B)施設訓練等支援費から支給されない日常生活上の諸費用
(C)預り金管理
(D)その他
 なお、サービス内容の詳細については、別表2のとおりである。
(ハ)Fにおいて医療及び健康管理のサービスを提供する嘱託医師は非常勤であり、診療日時は、毎週木曜日の14時35分から16時30分まで及び毎週土曜日の15時30分から17時30分までである。また、嘱託医師が行う診療科目は循環器科及び内科であり、利用者が専門医師等の診察・治療を要する場合には、嘱託医師の判断により、利用者は、指定された医療機関において受診及び治療を受けることができる。(本件重要事項説明書の5の(1)の〔2〕)
ヘ Fが本件契約書第4条及び第5条に基づき提供する具体的なサービス内容及びその料金について定めたサービス利用説明書には、具体的なサービスの内容が「個別支援計画」において定められ、当該個別支援計画の作成責任者は、生活支援員である旨記載されている。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

(1)認定事実

 当審判所が、F、J県○○部○○課及びH市○○局○○部○○課を調査したところによれば、次の事実が認められる。
イ 施設訓練等支援費の概要
(イ)身体障害者更生施設に入所しようとする身体障害者は、自ら希望するサービスについて、指定施設の中から利用したい施設を選択し、直接利用の申込みを行うとともに、身体障害者福祉法第17条の11《施設訓練等支援費の受給の手続》の規定に基づき、市町村に対して施設訓練等支援費の支給の申請を行う。
 市町村による施設訓練等支援費の支給の決定がなされると、身体障害者福祉法第17条の11第5項の規定に基づき当該身体障害者に受給者証が交付され、当該身体障害者は、施設と直接に契約を行い、サービスの提供を受けるとともに、当該施設に対して利用者負担額を支払う。
 また、サービスを提供した施設は、身体障害者福祉法第17条の11第8項の規定に基づき利用者に代わって市町村に対して施設訓練等支援費の支払を請求し、その施設訓練等支援費を代理受領することができる。
 すなわち、契約に基づくサービス提供の対価は、契約上利用者である当該身体障害者が支払うこととされているが、実質的には利用者本人の費用負担は利用者負担額の部分であり、利用者負担額を超える部分は市町村が支援することとなる。
(ロ)施設訓練等支援費の額は、身体障害者福祉法第17条の10第2項の規定により、次のAに掲げる額からBに掲げる額を控除した金額とされている。
A 身体障害者施設支援の種類ごとに指定施設支援に通常要する費用につき、市町村長が定める基準により算定した額
 請求人の場合には、H市が施設の入所定員とその身体障害者の障害の程度に応じて定めた「身体障害者施設訓練等支援費額算定表」により、Gの障害の程度の区分が「○○」であり、Fの入所定員が○○名であることから、当該金額は月額○○○円とされた。
B 身体障害者又はその扶養義務者の負担能力に応じ市町村長が定める基準により算定した額(利用者負担額)
 請求人の場合には、H市が利用者の対象収入額(収入額から、租税、社会保険料等の額を控除した額をいう。以下同じ。)又は扶養義務者の所得税額等に応じて定めた「利用者負担基準額表」により、Gの対象収入額を同表に当てはめて月額24,640円とされた。
 なお、H市は、利用者負担額を当分の間、入所期間3年未満の者は月額○○○円、入所期間3年以上の者は月額○○○円を上限としている。
 このように、利用者負担額は、個々の利用者が受けたサービスの多寡に応じて負担するという応益原則でなく、いわゆる応能原則がとられている。
ロ 支援サービスの内容並びに施設訓練等支援費及び利用者負担額の使途等
(イ)Fは、常に利用者の課題と意向を把握し、ケア会議を開いて利用者ごとに支援計画を作成し、その支援計画に基づいて、別表2に掲げるサービスを提供しているが、その内容をみると、嘱託医師による診療や看護師による看護等が含まれていると認められるものの、そのサービス内容の大部分は、日常生活の支援などであり、医療行為又はこれに付随する人的役務の提供とは認められない。
(ロ)Fは、主に施設訓練等支援費及び利用者負担額で運営されており、その運営費の費目は、別表2に掲げたサービスを提供するための直接の費用、人件費、管理費等からなっているが、各人が受ける種々のサービスに対する対価を区分できる仕組みにはなっていない。
(ハ)身体障害者更生施設であるFは、医療機関ではなく、利用者が通常治療等を要する場合は、外部の協力医療機関に受診させ、その費用は利用者の自己負担となっている。

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(2)検討

イ 所得税法の規定
 医療費控除の対象となる医療費について、所得税法第73条第2項は、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいうと規定し、これを受けて所得税法施行令第207条《医療費の範囲》は、上記の対価とは、〔1〕医師又は歯科医師による診療又は治療、〔2〕治療又は療養に必要な医薬品の購入、〔3〕病院、診療所又は助産所へ収容されるための人的役務の提供、〔4〕あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師又は柔道整復師による施術、〔5〕保健師、看護師又は准看護師による療養上の世話、〔6〕助産師による分べんの介助の対価のうち、その病状その他財務省令で定める状況に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額とする旨を定めている。
 上記規定は、実質的にみて医療費に該当すれば、又は医療費に該当するものが含まれていれば、すべて医療費控除の対象となるのではなく、法令に定められた上記の対価と評価できるものでなければ医療費控除の対象とはならないと解されている。
ロ 本件利用者負担額の医療費該当性
 所得税法第73条第2項に規定する医療費は、前記イのとおり、医師又は歯科医師による診療又は治療の対価、治療又は療養に必要な医薬品の購入の対価、その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価と解されているところ、本件利用者負担額は、次の(イ)から(ハ)のとおり、支援サービスの対価の一部であり、その中には一部嘱託医師による診療や看護師による看護等の対価が含まれていると認められるものの、当該対価以外のサービスの対価と混然となっており、それがどの部分かについてはその区分が明確でなく、医療費に当たるものと、それ以外のものを区分する仕組みになっていない。
 したがって、医療費外のサービスの対価の混在する利用者負担額全体を、所得税法第73条第2項所定の医療費の対価ということはできない。
(イ)身体障害者更生施設であるFは、前記1の(4)のイのとおり、身体障害者を入所させて、その更生に必要な治療又は指導を行い、その更生に必要な訓練を行うことを目的とした施設とされており、入所者に対し医師等による医療行為を行うことを目的とする施設ではない。このことは、身体障害者更生施設が健康管理及び療養上の指導を行うための医師を置くことを義務付けられていることによっても変わるものではない。
(ロ)本件利用者負担額は、前記(1)のロの(イ)のとおり、支援サービスの対価の一部であり、支援サービスの内容をみると、一部嘱託医師による診療や看護師による看護等の対価など上記の医療費が含まれていると認められるものの、そのサービス内容の大部分は、医療と関連のない日常生活の支援等であり、そのサービスの対価は、これらのサービス内容に関係なく、前記(1)のイの(ロ)のAのとおり、施設の入所定員とその身体障害者の障害程度による区分に応じて金額が定められている。また、その使途からみても、前記(1)のロの(ロ)のとおり、各人が受けるサービスに対する対価のうちどの部分が医療費に当たるのか判別できない仕組みとなっている。
(ハ)身体障害者更生施設に係る利用者負担額は、前記(1)のイの(ロ)のBのとおり、利用者の対象収入額又は扶養義務者の所得税額等による各階層区分に応じて定められた基準額を負担することとされている。
 このように、本件利用者負担額がいわゆる応能負担により算定されていることが、医療費とそれ以外の費用をより不明確にしている。
ハ 指定介護老人福祉施設の施設サービスとの取扱いの差異
 請求人は、医療費控除の取扱いに係る法令解釈通達である平成12年6月8日付課所4−9「介護保険下での指定介護老人福祉施設の施設サービスの対価に係る医療費控除の取扱いについて」(以下「本件個別通達」という。)において、指定介護老人福祉施設の施設サービスの対価の2分の1が医療費控除の対象とされていることから、この対価とその性格が極めて類似する本件利用者負担額についても、最低その2分の1は医療費に該当する旨主張する。
 しかしながら、指定介護老人福祉施設は、所得税法施行令第207条第3号に規定する診療所に準ずるものとして所得税法施行規則第40条の3《医療費の範囲》第2項に規定された施設であることから、その施設の人的役務提供の一部が医療費とされているのであるが、身体障害者更生施設については、そのような法的措置は講じられておらず、また、指定介護老人福祉施設の利用者の負担額は、受益の程度に応じた負担を基本とする考え方に基づき算定されており、いわゆる応能原則がとられていないことにかんがみれば、本件利用者負担額と指定介護老人福祉施設の利用者の負担額を同質のものとみることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。

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(3)結論

 以上のとおり、本件利用者負担額は、所得税法第73条第2項に規定する医療費に該当しないと認められるので、本件利用者負担額を同項に規定する医療費に該当しないとした原処分は相当である。
 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙1 関係法令等の要旨

○所得税法第73条《医療費控除》

(第1項)
 居住者が、各年において、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払った場合において、その年中に支払った当該医療費の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)の合計額がその居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の100分の5に相当する金額(当該金額が10万円を超える場合には、10万円)を超えるときは、その超える部分の金額(当該金額が200万円を超える場合には、200万円)を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。
(第2項)
 前項に規定する医療費とは、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいう。

○所得税法施行令第207条《医療費の範囲》

 所得税法第73条第2項(医療費の範囲)に規定する政令で定める対価は、次に掲げるものの対価のうち、その病状その他財務省令で定める状況に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額とする。
第1号 医師又は歯科医師による診療又は治療
第2号 治療又は療養に必要な医薬品の購入
第3号 病院、診療所(これに準ずるものとして財務省令で定めるものを含む。)又は助産所へ収容されるための人的役務の提供
第4号 あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律第3条の2(名簿)に規定する施術者(同法第12条の2第1項(医業類似行為を業とすることができる者)の規定に該当する者を含む。)又は柔道整復師法第2条第1項(定義)に規定する柔道整復師による施術
第5号 保健師、看護師又は准看護師による療養上の世話
第6号 助産師による分べんの介助

○所得税法施行規則第40条の3《医療費の範囲》

(第1項)
 所得税法施行令第207条(医療費の範囲)に規定する財務省令で定める状況は、指定介護老人福祉施設(介護保険法第48条第1項第1号(施設介護サービス費の支給)に規定する指定介護老人福祉施設をいう。次項において同じ。)における同令第207条各号に掲げるものの提供の状況とする。
(第2項)
 所得税法施行令第207条第3号に規定する財務省令で定めるものは、指定介護老人福祉施設とする。

○所得税基本通達73−3(控除の対象となる医療費の範囲)

 次に掲げるもののように、医師、歯科医師、所得税法施行令第207条第4号《医療費の範囲》に規定する施術者又は同条第6号に規定する助産師(以下この項においてこれらを「医師等」という。)による診療、治療、施術又は分べんの介助(以下この項においてこれらを「診療等」という。)を受けるため直接必要な費用は、医療費に含まれるものとする。
(1)医師等による診療等を受けるための通院費若しくは医師等の送迎費、入院若しくは入所の対価として支払う部屋代、食事代等の費用又は医療用器具等の購入、賃借若しくは使用のための費用で、通常必要なもの
(2)自己の日常最低限の用をたすために供される義手、義足、松葉づえ、補聴器、義歯等の購入のための費用
(3)身体障害者福祉法第38条《費用の負担命令及び徴収》、知的障害者福祉法第27条《費用の徴収》若しくは児童福祉法第56条《費用の徴収、負担》又はこれらに類する法律の規定により都道府県知事又は市町村長に納付する費用のうち、医師等による診療等の費用に相当するもの並びに前記(1)及び(2)の費用に相当するもの

○身体障害者福祉法第5条《施設等》

(第1項)
 この法律において、「身体障害者更生援護施設」とは、身体障害者更生施設、身体障害者療護施設、身体障害者福祉ホーム、身体障害者授産施設、身体障害者福祉センター、補装具製作施設、盲導犬訓練施設及び視聴覚障害者情報提供施設をいう。

○身体障害者福祉法第17条の10《施設訓練等支援費の支給》

(第1項)
 市町村は、次条第5項に規定する施設支給決定身体障害者が、都道府県知事が指定する身体障害者更生施設等(以下「指定身体障害者更生施設等」という。)に入所の申込みを行い、当該指定身体障害者更生施設等から身体障害者施設支援(以下「指定施設支援」という。)を受けたときは当該施設支給決定身体障害者に対し、当該指定施設支援に要した費用(日常生活に要する費用のうち厚生労働省令で定める費用(以下「特定日常生活費」という。)を除く。)について、施設訓練等支援費を支給する。
(第2項)
 施設訓練等支援費の額は、第1号に掲げる額から第2号に掲げる額を控除して得た額とする。
第1号 身体障害者施設支援の種類ごとに指定施設支援に通常要する費用(特定日常生活費を除く。)につき、厚生労働大臣が定める基準を下回らない範囲内において市町村長が定める基準により算定した額(その額が現に当該指定施設支援に要した費用(特定日常生活費を除く。)の額を超えるときは、当該現に指定施設支援に要した費用の額)
第2号 身体障害者又はその扶養義務者の負担能力に応じ、厚生労働大臣が定める基準を超えない範囲内において市町村長が定める基準により算定した額

○身体障害者福祉法第17条の11《施設訓練等支援費の受給の手続》

(第1項)
 身体障害者は、施設訓練等支援費の支給を受けようとするときは、身体障害者施設支援の種類ごとに、厚生労働省令の定めるところにより、市町村に申請しなければならない。
(第2項)
 市町村は、前項の申請が行われたときは、当該申請を行った身体障害者の障害の種類及び程度、当該身体障害者の介護を行う者の状況、当該身体障害者の施設訓練等支援費の受給の状況その他の厚生労働省令で定める事項を勘案して、施設訓練等支援費の支給の要否を決定するものとする。
(第3項)
 前項の規定による支給の決定(以下「施設支給決定」という。)を行う場合には、次に掲げる事項を定めなければならない。
 第1号 施設訓練等支援費を支給する期間
 第2号 当該身体障害者の身体障害程度区分
(第5項)
 市町村は、施設支給決定をしたときは、当該施設支給決定を受けた身体障害者(以下「施設支給決定身体障害者」という。)に対し、厚生労働省令の定めるところにより、施設受給者証を交付しなければならない。
(第8項)
 施設支給決定障害者が指定身体障害者更生施設等から指定施設支援を受けたときは、市町村は、当該施設支援支給決定身体障害者が当該指定身体障害者更生施設等に支払うべき当該指定施設支援に要した費用(特定日常生活費を除く。)について、施設訓練等支援費として当該施設支給決定身体障害者に支給すべき額の限度において、当該施設支給決定身体障害者に代わり、当該指定身体障害者更生施設等に支払うことができる。

○身体障害者福祉法第28条《施設の基準》

(第1項)
 厚生労働大臣は、身体障害者更生援護施設及び養成施設の設備及び運営について、基準を定めなければならない。

○身体障害者福祉法第29条《身体障害者更生施設》

 身体障害者更生施設は、身体障害者を入所させて、その更生に必要な治療又は指導を行い、及びその更生に必要な訓練を行う施設とする。

○施設基準第2条《基本方針》

(第1項)
 身体障害者更生援護施設は、入所者又は利用者に対し、その自立と社会経済活動への参加を促進する観点から、健全な環境の下で、社会福祉事業に関する熱意及び能力を有する職員による適切な支援を行うよう努めなければならない。

○施設基準第16条《肢体不自由者更生施設の職員の配置の基準》

(第1項)
 肢体不自由者更生施設に置くべき職員及びその員数は、次のとおりとする。
第1号 施設長 1
第2号 医師 入所者に対し健康管理及び療養上の指導を行うために必要な数
第3号 看護師、理学療法士、作業療法士、心理判定員、職能判定員、あん摩マッサージ指圧師、職業指導員及び生活支援員
 イ 入所者の数が50を超えない肢体不自由者更生施設にあっては、看護師、理学療法士、作業療法士、心理判定員、職能判定員、あん摩マッサージ指圧師、職業指導員及び生活支援員の総数は、常勤換算方法で、8以上
 ロ 入所者の数が50を超える肢体不自由者更生施設にあっては、看護師、理学療法士、作業療法士、心理判定員、職能判定員、あん摩マッサージ指圧師、職業指導員及び生活支援員の総数は、常勤換算方法で、8に、入所者の数が50を超えて20又はその端数を増すごとに1を加えて得た数以上
 ハ 理学療法士 常勤換算方法で1以上
 ニ 作業療法士 常勤換算方法で1以上
第4号 栄養士 1以上
第5号 調理員 1以上

別紙2 当事者の主張

原処分庁

 本件利用者負担額は、次のとおり、所得税法第73条第2項に規定する医療費に該当しない。
1 医療費控除の対象となる医療費について、所得税法第73条第2項が、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち、通常必要であると認められるものとして所得税法施行令第207条で定めるものをいう旨規定されていることからすると、実質的に医療費に当たるものであれば、すべて医療費控除の対象となるのではなく、法令上の規定の範囲内で医療の対価と評価できるものでなければ、医療費控除の対象にはならないものというべきである。
2 原処分及び異議申立てに係る調査によれば、次の事実が認められる。
(1)本文の1の(4)のロからヘまでの事実
(2)Fの施設長は、施設への入所及び個別支援計画の作成について、次のとおり申し述べていること。
イ 医療のケアを常時必要とする者は、Fに入所することができない。
ロ 個別支援計画は、医師を除く常勤職員によって作成されている。
3 本件利用者負担額は、次のとおり、所得税法第73条第2項及び所得税法施行令第207条に規定する医療費控除の対象となる医療費に該当しない。
(1)本文1の(4)のニ及びホの目的及びサービスの内容、また、前記2の(2)のイの入所についての制約からすると、本件利用者負担額が、所得税法施行令第207条第1号の医師による診療又は治療の対価及び同条第5号の看護師又は准看護師による療養上の世話への対価に該当するものと解することはできない。
(2)本文1の(4)のヘ及び前記2の(2)のロのとおり、医師以外の者によって個別支援計画が作成されていることから、Fが提供するサービスが医師の指示によるものでないことは明らかであり、前記(1)と併せ考えると、本件利用者負担額を医師等による診療等を受けるための入所の対価として支払う部屋代、食事代等の費用とも解することはできず、所得税基本通達73−3の(1)に該当するものと認めることはできない。
(3)Fが利用者に提供するサービスには、本文1の(4)のホの(ハ)のとおり、非常勤の医師が行う診療が含まれていることから、その点では、本件利用者負担額のうちに所得税法施行令第207条第1号に規定する診療部分が含まれていると解する余地がないわけではない。
 しかしながら、本件の場合、当該診療部分に係る対価関係は明らかではなく、所得税法施行令第207条にいう対価が明示されておらず、同条の要件を欠いていることから、医療費控除に該当するものとは認められない。
 なお、請求人は、所得税法施行令第207条は医療費の範囲を規定しているだけであって、対価の明示が医療費控除を受けるための要件であることを規定しているものではない旨主張するが、次のイ及びロにより、請求人の主張には理由がない。
イ 所得税法第73条第1項にいう医療費について、同条第2項及び所得税法施行令第207条で対価と明記されていること。
ロ 大阪地方裁判所平成11年11月24日判決(行(ウ)第2号所得税更正処分取消請求事件。以下同じ。)では、所得税法第73条第2項及び所得税法施行令第207条の規定について、「右規定によれば、実質的に医療費に当たるものであれば全て医療費控除の対象となるのではなく、右規定の範囲内で医療の対価と評価できるものでなければ医療費控除の対象とはならないというべきである」と判示していること。
 また、当該判決は、このように判示した上で、特別養護老人ホームの措置費徴収金について、「仮に、右サービスの中に所得税法施行令第207条所定の医療費が含まれていると解する余地があるとしても、その対価関係は明らかでなく、同条所定の対価たる要件を欠き医療費控除の対象となる医療費には該当しない」旨判断している。
4 本件個別通達は、介護保険制度下での指定介護老人福祉施設の施設サービスの対価の取扱いについて定めたものであり、本件と関係のないものである。また、指定介護老人福祉施設の施設サービスの対価と本件利用者負担額との性格が類似しているからといって、本件利用者負担額についても本件個別通達の取扱いが適用されるものではない。

請求人

 本件利用者負担額は、次のとおり、所得税法第73条第2項に規定する医療費に該当する。
1 医療費控除の対象となる医療費については、所得税法施行令第207条にその範囲が限定的に規定されているが、その範囲が極めて狭く定められており、実情に沿わない面がある。
 社会保険制度の充実、医療技術の進歩に伴い、最近においては、所得税法施行令第207条に規定されている医療費の負担よりは、むしろこの医療費に付随ないし関連する費用の負担の方が重くなってきているのが実情である。
 所得税基本通達73−3は、このような実情を踏まえ、かつ、医療費控除の制度は異常な支出に伴う担税力の減殺を調整する措置であるという趣旨に照らして定められたものであり、また、これらの規定等を踏まえて、本件個別通達が発遣されている。
 したがって、本件利用者負担額が医療費控除の対象となる医療費に該当するか否かについても、上記各通達が発遣された趣旨及び実情に則して判断すべきである。
2 Fは、身体障害者更生施設であり、身体障害者更生施設の入所者又はその扶養義務者は、施設訓練等支援費対象サービスに対してその負担能力に応じ、その費用の全部又は一部を支払っている。
 身体障害者福祉法第29条では、身体障害者更生施設は、身体障害者を入所させて、その更生に必要な治療、指導を行い、その更生に必要な訓練を行う施設とすると規定し、また、施設基準第2条第1項において、身体障害者更生援護施設は、入所者又は利用者に対し、その自立と社会経済活動への参加を促進する観点から、健全な環境の下で、社会福祉事業に関する熱意及び能力を有する職員による適切な支援を行うよう努めなければならないとされていること等を踏まえ、施設職員の会議により、入所者個人ごとに個別支援計画を作成し、これに基づいて支援サービスが提供されている。
 さらに、施設基準第16条において、入所者に対し健康管理及び療養上の指導を行うために必要な数の医師を職員として置くことを定めている。
 身体障害者更生施設では、入所者の自立の支援及び日常生活の充実に資するように適切な技術をもって指導、訓練等を行い、社会生活への適応性を高めるよう生活指導を行い、社会経済活動に参加できるよう必要な訓練を行うのであり、利用者又は扶養義務者の負担能力に応じ市町村長が定めた施設訓練等支援費支給対象サービスとして、〔1〕日常生活のサービス、〔2〕日中活動のサービス、〔3〕保健医療サービス、〔4〕生活支援のサービスがあり、おやつ代、金銭等管理サービス、被服費、日用品費、教養娯楽費、理容料、電気代等は施設訓練等支援費対象外サービスとされている。
3 身体障害者更生施設は、医療法にいう病院又は診療所ではないが、前記2のとおり、同施設では入所者の更生に必要な治療又は指導及び訓練が施設職員の支援のもとに行われており、そのことがまさに所得税法施行令第207条に規定する医師等による診療等に該当し、施設訓練等支援費には被服費、日用品費その他の日常生活において通常必要となるものは含まれないことから、本件利用者負担額の全額が同条に規定する対価に該当し、医療費控除の対象となる医療費に該当する。
 なお、原処分庁が本件利用者負担額を医療費控除の対象となる医療費に該当しないとした理由は、次のとおり、誤っている。
(1)原処分庁は、左記(1)のとおり主張するが、身体障害者福祉法及び施設基準の規定からみて、医師及び看護師を含む職員が、身体障害者の更生に必要な治療又は指導及び訓練を行っているのであるから、身体障害者更生施設においては、所得税法施行令第207条第1号の医師による診療又は治療及び同条第5号の看護師による療養上の世話が行われていることは明白である。
 また、原処分庁が主張するFへの入所についての制約に関しては、身体障害者更生施設はその本来の目的を達成するために必要な職員と設備を整えているのであって、その範囲を超える事態に至った場合は他の医療機関との協力を図ろうとするものであるから、その制約があることをもってFにおいて医師等による診療等が行われていることを否定することはできない。
 そして、その対価関係ついては、平成12年6月に社会福祉の増進のための社会福祉法等の一部を改正する等の法律が成立し、平成15年度よりこれまでの「措置制度」から「支援費制度」へと移行したことに伴い、従来は市町村から施設へ「措置費」が支払われていたものから、市町村から施設利用者へ「支援費」が支給されることとなった。ただし、その「支援費」は施設が代理受領する仕組みとなっており、利用者又はその扶養義務者は、市町村が定めた一定割合の利用者負担金をサービス利用の対価として支払うこととなっている。
 支援費支給額の決定と利用者負担額の関係については、〔1〕市町村は利用者と面談してその者の障害程度区分を評価し、支援費の額を決定する、〔2〕施設の職員は利用者の相談にのって個別支援計画を策定するが、この場合は障害程度区分とは関係なく、利用者がどのようなサービスをどの程度希望するかが重視される。
 また、個別支援計画のサービスの中に支援費対象外サービスが含まれていた場合は利用者本人の負担となる。
 さらに、施設訓練等支援費については、身体障害者施設での支援に係る支援費は、施設支給決定身体障害者が指定身体障害者更生施設等から身体障害者施設支援等を受けたときに、市町村から当該施設支給決定身体障害者に対して支給される当該施設支援に要した費用(特定日常生活費を除く。)と定義されている。そして、特定日常生活費については、被服費、日用品費のほか、その他の日常生活において通常必要となるものに係る費用であって、その入所者に負担させることが適当と認められるものとされている。
 また、施設訓練等支援費の中身は大きく4つに分類して考えられる。
イ 施設訓練等サービスに係る費用1(直接支援職員にかかる人件費、管理費等)
ロ 施設訓練等サービスに係る費用2(直接支援職員以外の栄養士、調理員の人件費あるいは委託費用、入所者の食事費用、健康管理等の費用)
ハ 施設運営に係る基本的管理経費等(管理者―施設長、事務員等の人件費・管理費・施設の補修経費等)
ニ 施設・設備整備の設置者負担分の減価償却相当
 したがって、施設訓練等支援費については、利用者又はその扶養義務者が、利用者の受けたサービスに対し直接その施設に支払うものであるから、対価関係があることについては明らかである。
(2)原処分庁は、左記(2)のとおり主張するが、個別支援計画の作成に関しては、一定の医学的考慮が求められていると解するのが相当であり、仮に、最初に医師を除く職員の会議により個別支援計画が作成されているとしてもそれは実務上の便宜であって、本件契約書第3条にケア会議を開いて作成する旨の規定があり、その最終責任は施設長にあるのであるから、この個別支援計画は、医師を含む職員が作成したものと解するのが相当である。
(3)原処分庁は、左記(3)のとおり主張するが、身体障害者更生施設では入所者の更生に必要な治療又は指導及び訓練が施設職員の支援のもとに行われており、そのことがまさに所得税法施行令第207条所定の医師等による診療等に該当する。
 また、原処分庁は、当該診療部分に係る対価関係は明らかではなく、所得税法施行令第207条にいう対価が明示されておらず、同条の要件を欠いていることから、医療費控除の対象となる医療費に該当しない旨主張するが、所得税法施行令第207条は医療費の範囲を規定しているだけであって、対価の明示が医療費控除を受けるための要件であることを規定しているものではない。
 なお、原処分庁が引用した大阪地方裁判所平成11年11月24日判決は、この時点での特別養護老人ホームの措置費徴収金が、入所者又はその扶養義務者がその負担能力に応じて市町村に支払うものであったことから、「入所者が現実に受けるサービス内容とは無関係に取扱定員と級地区分による単価基準に従い一律に算定される。」ものであって、「入所者が受けるサービスに対応する対価たる性質を有するものと観念することはできない。」と判示している。
 しかし、本件利用者負担額は、利用者又はその扶養義務者が、利用者が受けたサービスに対し直接その施設に対して支払うものであるから、対価関係は明らかであり、上記判決には該当しない。
 さらに、本件利用者負担額の全額が所得税法施行令第207条所定の「対価」に該当することは、上記のとおりである。
4 所得税法施行規則第40条の3の規定によれば、指定介護老人福祉施設が提供するサービスのうち療養上の世話等に相当する部分については、医療費控除の対象とされている。
 そして、費用のうち、平均的な療養上の世話等に相当する部分の金額を対象費用の額とすることが合理的であるとして、それを支払った額の2分の1としている。
 この指定介護老人福祉施設の施設サービスの対価は、利用者負担額とその性格が極めて類似していることから、所得税基本通達73−3の(3)は、身体障害者更生施設が医療法にいう病院又は診療所でないにもかかわらず、医療費控除の対象となると定めているのである。
 仮に、何らかの理由で利用者負担額のうちに「医療」の「対価」以外のものが混在していたとしても、「医療」の「対価」の部分を明らかにするのは困難であり、そのような仕組みになっていない。
 また、支援費制度と個別支援計画との関係から明らかなように、支援費総額(身体障害者福祉法第17条の10第2項第1号に掲げる金額をいう。)は利用者の障害程度区分により決定されるが、サービスの利用は個別支援計画によって利用者の意向を受けて決まるのであるから、本来は利用者ごとに「医療」の「対価」の部分を明らかにすべきであろう。
 そこで、指定介護老人福祉施設について、「本来、医療費控除の対象となる療養上の世話等に相当する額は、入所者個人ごとに算出することが望ましいが、指定介護老人福祉施設においては集団的な処遇が行われており、介護報酬及び利用者負担は個人ごとのサービスの対価として支払われるものの、実際に個人を特定してその者についてどのように使途されたかを確定させることは困難である。このため、指定介護老人福祉施設における運営の実態等を踏まえ、費用のうち、平均的な療養上の世話等に相当する部分の金額を対象費用の額とすることが合理的であると考えられる。」として、利用者負担金の2分の1を医療費の金額と取り扱う旨定めた本件個別通達に準じ、最低でも本件利用者負担額の2分の1は、医療費控除の対象となる医療費に該当する。

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