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(平17.12.7裁決、裁決事例集No.70 189頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、父親の所有する家屋の増改築工事の費用を負担した審査請求人(以下「請求人」という。)が、租税特別措置法(平成16年法律第14号による改正前のもの)(以下「措置法」という。)第41条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第1項に規定する特例措置(以下「住宅借入金等特別控除」という。)を適用して確定申告をしたところ、原処分庁が、住宅借入金等特別控除の適用を認めず、更正処分をしたことから、請求人が、当該処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別表のとおりである。

(3)関係法令

イ 措置法第41条第1項は、増改築等に係るものについて、居住者が、国内において、その者の居住の用に供している家屋で政令に定めるものの増改築等をして、この家屋を平成9年1月1日から平成16年12月31日までの間にその者の居住の用に供した場合において、その者が当該住宅の増改築工事等に係る借入金又は債務の金額を有するときは、その者のその年分の所得税に係るその年の合計所得金額が3,000万円以下である年については、所得税額から住宅借入金等特別税額控除額を控除する旨規定している。
ロ 措置法第41条第4項は、第1項に規定する増改築等とは、当該居住者が所有している家屋につき行う増築、改築、その他の政令で定める工事で当該工事に要した費用の額が100万円を超えるものであることその他の政令で定める要件を満たすものをいう旨規定している。

(4)基礎事実(当事者間に争いがなく、当審判所の調査によっても認められる事実)

イ 請求人は、平成15年3月25日、A社との間で、P市Q町○−○に所在する鉄骨造陸屋根2階建の家屋(以下「本件家屋」という。)の増改築(以下「本件増改築」という。)を目的とする請負契約を締結し、本件増改築の工事は、平成15年6月16日に完成した。
ロ 請求人は、平成15年6月30日、本件増改築の工事が完成した本件家屋に入居した。
ハ 請求人は、平成15年3月31日、本件増改築の工事に係る借入金として、B銀行○○支店から、17,700,000円を借り入れ、本件増改築の工事代金15,000,000円を支出した。
 なお、請求人の平成15年分の所得税に係るその年の合計所得金額は、4,164,000円である。
ニ 請求人は、本件増改築の工事がされた当時、本件家屋に居住しておらず、所有もしていなかった。

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2 争点

 本件増改築に対して住宅借入金等特別控除が適用されるか

3 争点に対する当事者の主張

(1)原処分庁

 措置法第41条第4項によれば、住宅借入金等特別控除の適用対象となる家屋の増改築等とは、居住者が所有している家屋について行う増改築等とされるところ、本件増改築が行われた時点の所有者はCであって、請求人ではなく、請求人が本件家屋の所有権(共有持分)を取得したのは、本件増改築の後である。
 したがって、本件増改築に対して住宅借入金等特別控除の適用はない。

(2)請求人

 請求人は増改築後にしか所有権を取得できないにもかかわらず、増改築前に所有権を有していない場合には住宅借入金等特別控除の適用を認めないとする措置法第41条第4項の規定は、当該控除の制度の趣旨である経済的弱者救済という目的に反し著しく不当であり、一戸建ての建物を第三者から購入した者よりも不利な扱いをすることになるので、不合理な差別を禁止し、法の下の平等を規定した憲法に違反する。
 したがって、本件増改築に対して住宅借入金等特別控除が適用されるべきである。

4 争点等に対する判断

(1)争点(本件増改築に対して住宅借入金等特別控除が適用されるか)について

イ 前記1の(3)のとおり、措置法第41条第1項は、居住者が、国内において、その者の居住の用に供している家屋の増改築等をした場合、同条第4項は、第1項に規定する住宅借入金等特別控除が適用される増改築等の目的となる家屋は、当該居住者が所有している家屋である旨それぞれ規定しており、居住の用に供し、かつ、所有しているか否かの判断の基準となる時は、増改築等の工事がされた時であることは文理上明らかである。
ロ 本件では、前記1の(4)のニのとおり、請求人は、本件増改築の工事がされた時点で本件家屋に居住しておらず、所有もしていないのであるから、本件家屋は、住宅借入金等特別控除が適用される増改築等の目的となる家屋に当たらず、本件増改築に対して住宅借入金等特別控除を適用する余地はない。
ハ したがって、本件増改築に対して住宅借入金等特別控除が適用されるべきであるとの請求人の主張には理由がない(なお、措置法第41条第4項の規定が憲法に違反するか否かの判断は、当審判所の権限に属さない事項であるので、審理の限りでない。)。

(2)原処分の適法性について

 上記(1)のロのとおり、本件増改築に対して住宅借入金等特別控除の適用はなく、当審判所において、請求人の還付金の額に相当する税額を改めて算定すると、零円となり、原処分の還付金の額に相当する税額と同額である。
 したがって、原処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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