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(平17.7.8裁決、裁決事例集No.70 225頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)がA市土地開発公社(以下「本件公社」という。)との間で行った土地の交換取引について、法人税法第50条《交換により取得した資産の圧縮額の損金算入》の適用が認められるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年4月1日から平成15年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、本件公社との間で行った土地の譲渡に関して、法人税法第50条の規定を適用して圧縮記帳を行い、圧縮額4,099,729,304円を損金の額に算入(以下「本件圧縮記帳」という。)し、青色の確定申告書に所得金額を○○○円及び納付すべき税額を○○○円と記載して、提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により2月間延長されたもの。)までに提出した。
ロ B税務署長は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成16年7月30日付で、本件圧縮記帳の否認などを理由に、所得金額を○○○円、納付すべき税額を○○○円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を○○○円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、本件更正処分等を不服として、平成16年9月28日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 法人税法第50条第1項は、内国法人が各事業年度において、1年以上有していた固定資産である〔1〕土地、〔2〕建物、〔3〕機械及び装置、〔4〕船舶、〔5〕鉱業権をそれぞれ他の者が一年以上有していた固定資産である同種のもの(交換のために取得したと認められるものを除く。)と交換し、その交換により取得した資産を、その交換により譲渡した資産の譲渡の直前の用途と同一の用途に供した場合において、その交換により生じた差益金の額として政令で定めるところにより計算した金額の範囲内でその帳簿価額を損金経理により減額したときは、その減額した金額に相当する金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨規定している。
ロ 法人税法第2条第20号《棚卸資産の定義》は、棚卸資産とは、商品、製品、半製品、仕掛品、原材料その他の資産(有価証券を除く。)で棚卸をすべきものとして政令で定めるものをいう旨規定し、同法施行令(以下「施行令」という。)第10条《棚卸資産の範囲》において、〔1〕商品又は製品(副産物及び作業くずを含む。)、〔2〕半製品、〔3〕仕掛品(半成工事を含む。)、〔4〕主要原材料、〔5〕補助原材料、〔6〕消耗品で貯蔵中のもの、及び〔7〕〔1〕から〔6〕に掲げる資産に準ずるもの、と規定している。
ハ 法人税法第2条第22号《固定資産の定義》は、固定資産とは、土地(土地の上に存する権利を含む。)、減価償却資産、電話加入権その他の資産で政令で定めるものをいう旨規定し、施行令第12条《固定資産の範囲》において、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げる資産とし、〔1〕土地(土地の上に存する権利を含む。)、〔2〕減価償却資産、〔3〕電話加入権、及び〔4〕〔1〕から〔3〕に掲げる資産に準ずるもの、と規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 本件公社は、昭和○年○月○日に設立団体をA市として設立された公共法人である。
ロ 本件公社は、昭和55年○月○日に〔1〕A市P町R番、〔2〕同S番、及び〔3〕同T番の土地を、さらに、昭和59年○月○日に〔4〕同U番の土地を順次取得した(以下、これら取得土地を併せて「C工場跡地」といい、このうち、〔1〕、〔2〕及び〔4〕の土地を併せて「本件土地」という。)。
ハ 請求人は、本件公社と平成12年12月22日付で、平成15年3月31日を引渡期限とする、別表1の土地(取引価額837,344,000円)と別表3の土地(取引価額1,039,368,990円)との交換を行い、請求人が交換差金202,024,990円を支払うとする土地売買(交換)契約及び別表2の土地(以下「D集配センター用地」といい、取引価額3,906,076,000円)と別表4の土地(取引価額3,906,075,210円)との交換を行い、本件公社が交換差金790円を支払うとする土地売買(交換)契約を締結した(以下、これら土地売買(交換)契約を併せて「本件交換」といい、別表3及び別表4の土地を併せたものが本件土地に相当する。)。
ニ 請求人は、本件公社から平成15年2月12日付で「物件引渡書」の交付を受け、同日を買収年月日としたD集配センター用地に係る平成15年3月31日付収用証明書の交付をA市長から受けた。
ホ 本件公社は、本件土地を、公有用地勘定の代替地として貸借対照表の流動資産の部に計上していた。
ヘ 本件土地は、請求人との交換契約が締結されるまで、本件公社において売却の対象とされずに長期間保有され、その間、A市議会において、市民病院、警察署、小学校等の用地としての本件土地の活用案が検討されたことがあった。
ト 平成8年から平成13年において、本件土地を含むC工場跡地は、A市の行う公共事業の残土置場として私企業に対して賃貸が行われ、本件公社はその賃貸料収入を得ていた。
チ 請求人は、平成15年2月12日を本件交換の日として、本件土地に係る圧縮損4,099,729,304円を本件事業年度において損金に計上した。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は次のとおり違法であり、本件事業年度の所得金額のうち2,052,292,860円を超える部分の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 本件土地は、本件公社がA市を代行して昭和55年に取得し、その後約20年間、売却処分の対象とされないまま長期間保有されていたものであり、次に掲げる法人税法第50条の趣旨並びに土地開発公社及び本件土地の性格、実態等によれば、固定資産に該当することから、本件交換について、法人税法第50条の適用を認めるべきであり、本件公社の経理上、本件土地が「公有用地勘定」として流動資産の部に計上していたことのみを捉えて固定資産に該当せず、同条の規定の適用は認められないとした本件更正処分等は違法である。
 なお、本件更正処分のうち、本件圧縮記帳の否認に係る部分以外の処分については争わない。
(イ)法人税法第50条の趣旨
 法人税法第50条は、固定資産の交換については、そもそも利益が実現してはいても、経済的実質を見るとそれは法人にとって担税力のない名目的な利益であり、それを認識しないことにしても特段の不都合はなく、それ故に本来、課税すべきでないから、圧縮記帳を認めているのである。
 また、同条の規定が政策目的を実現するための租税特別措置法ではなく法人税法本法におかれたのは、資産が交換されても譲渡の直前の用途と同一の用途に供されている場合においては、その取引の実質的効果が従来から継続して所有していたことと変わらないと考えられ、あえてキャピタルゲイン課税を行わずに課税を繰延べるのが当然であると考えられたからである。よって、交換によって利益を認識すべき例外的な場合にのみ圧縮記帳を否定すべきであり、事業性の収益を産み出さない交換については圧縮記帳を否定すべき理由はない。
 したがって、同条の適用に当たっては、本件土地が本件公社の経理上流動資産に計上されているから、固定資産には当たらないとの形式的な判断をするのではなく、請求人にとっては、本件交換により何ら経済的メリットを得ておらず、担税力もないのであるから、本件取引の経済的実質に基づいて判断をすべきである。
(ロ)本件公社の性格
 本件公社は「公有地の拡大の推進に関する法律」(昭和47年法律第66号。以下「公拡法」という。)により、A市によって設立され、その定款には、公共用地、公用地等の取得、管理及び処分並びに関連公共施設等の整備を行うことにより、地域の秩序ある整備と市民福祉の増進に寄与することを目的とする旨定められており、本件公社が自由な意思で土地を取得し、売却して営利を図ることを目的とはしていない。すなわち、A市と本件公社は一体の組織であると考えられ、このことは、本件公社がA市へ土地を引き継ぐ際の引渡価額が取得価額に保有期間の金利を含む管理費用を加えた額とされており、時価等を考慮していないことからも明らかである。したがって、本件公社は単にA市の買付行為を代行して土地を取得し、預かっているに過ぎないというのが実態であり、本件公社が先行取得した土地は、実質的にはA市の所有する「遊休地」と考えるべきである。
(ハ)本件土地の性格
 本件土地は、本件公社が昭和55年に取得した際に、代替地とする等の具体的な利用計画は持っておらず、その後、A市議会においてその処分等について繰り返し審議がなされたが、売却予定とされたこともなく、本件交換に至るまで約20年間以上の長期にわたり保有していたものであるから、販売目的で保有していたものには当たらない。
 そして、請求人が所有していたD集配センター用地については、代行買収者を本件公社として、A市から収用証明書の発行を受けているということは、本件土地譲渡(交換)契約書上では、請求人と本件公社が契約当事者となってはいるものの、実質的な契約当事者はA市と請求人なのであり、当該交換土地の実質的な所有者はA市と請求人であったという実態を示しているものである。
 また、本件公社において資料が存在する平成8年以降についてみれば、本件公社は、本件土地を私企業に対して継続して賃貸し、収入を得ていたのであり、本件土地の貸付けが、平成12年○月○日付「A市土地開発公社保有地の管理に関する要綱」(以下「公社保有地管理要綱」という。)で、1年以内の賃貸借契約以外は認めていないため、1年以内の賃貸契約という形式をとりつつも、反復継続して賃貸していたという実態からすれば、他に本件土地の利用目的を持っていなかった以上、本件公社は、長期間にわたり本件土地を賃貸する意思を有していたと解すべきである。
 よって、本件土地は事業の用に供され、固定資産としての使用実態があったことは明らかであり、単に本件公社の経理上、流動資産から固定資産への区分変更を行っていなかっただけなのである。
(ニ)土地開発公社経理基準要綱等の規定について
 「土地開発公社経理基準要綱」(以下「要綱」という。)によれば、土地開発公社の「公有用地、代行用地、完成土地及び未成土地」は流動資産であるとされ、また、「逐条解説土地開発公社経理基準要綱」(以下「逐条解説」という。)によれば、「公有用地、代行用地、完成土地及び未成土地」とは、土地開発公社にとっては販売用資産であり、いわゆる棚卸資産である旨解説されている。
 しかし、要綱は、土地開発公社の経営状態の公開を目的としたもので、税務処理を目的として作られたものではないから、要綱に定める会計上の「流動資産」と法人税法第50条が適用されない「棚卸資産」とは異なる概念である。
 法人税法第50条の適用される固定資産に当たるか否かは、「要綱」や「逐条解説」により判断されるのではなく、法人税法上の定義、趣旨にしたがって解釈されるべきであり、土地は棚卸資産に該当しなければ、固定資産となるのであるから、棚卸資産であることが明らかでない以上、固定資産と解されるのである。
(ホ)総括
 「固定資産」か「棚卸資産」であるかは、法律の条文上は「商品」性の有無により決定し、棚卸資産とは、譲渡によって事業性の収益を産み出すことを目的として保有されるものに限られるから、資産を単にいずれ売却する目的で保有する場合には棚卸資産とはならない。
 本件公社が本件土地を譲渡することによって事業性の収益を上げることを目的として保有していたか否かは、上記(ロ)及び(ハ)のとおり、本件土地はA市の公共用地の整備のために取得されたものであり、他への販売を予定されたものではなく、また、A市への引渡価額についても、不動産業者が事業収益を上げるために所有している商品等とは異なることは明らかである。
 さらに、本件土地交換後のC工場跡地の残地が、平成13年以降、固定資産税の課税対象とされ、本件公社は固定資産税の納付を行っていることからも、A市及び本件公社は本件土地を固定資産であると認識していたのである。
 以上のことから、本件土地は実質的に棚卸資産ではなく固定資産に該当するので、本件圧縮記帳を否認した原処分は取り消されるべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
 本件土地は、次の理由により固定資産には該当しないことから、本件交換について法人税法第50条の適用は認められないとして行った、本件更正処分は適法である。
(イ)本件公社の決算上、本件土地が公有用地勘定として流動資産に計上されているのは、本件公社がA市に代わって土地の先行取得を行い、A市が行う収用等の事業の代替地、いわゆる種地として保有するためであり、将来、処分される土地であることが明らかであるからである。
 また、本件公社は、後発的事由により、公社保有地管理要綱により、土地の資産区分を固定資産へ変更する処理も行っていないこと及び要綱第45条《公有用地等の取得原価》に基づき、保有期間中に生じた利子等を取得価額に算入する処理を行っているのは、本件公社が本件土地を公有用地である棚卸資産として認識しているからであり、本件公社の経理によれば、本件土地は固定資産に該当しないこととなる。
(ロ)土地開発公社の経理については、「土地開発公社の経理について(昭和54年12月19日付、自治政第136号)」に基づき、昭和54年に作成された要綱に基づき経理処理することが、全国の土地開発公社に要請されており、要綱第1条《適用の一般原則》では、土地開発公社が作成する決算に関する書類のうち、損益計算書及び貸借対照表並びにこれらの附属明細表の用語、様式及び作成方法は、公拡法及び同法施行規則(昭和47年建設省・自治省令第1号。以下同じ。)に定めのあるもののほか、この要綱に定めるところによるものとし、この要綱に定めのない事項については、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うものとされている。
 そして、流動資産と固定資産の区分については、要綱第26条《流動資産の範囲》(4)により、公有用地、代行用地、完成土地及び未成土地(平成元年3月20日付自治政第34号により、「市街地開発用地」及び「観光施設用地」が追加されている。)は流動資産に該当するものとされ、要綱第29条《有形固定資産の範囲》(6)により、土地のうち、事業の用に供するものは、有形固定資産に該当するものとされている。
 また、同要綱の解説書である逐条解説によれば、要綱第26条(4)の「公有用地、代行用地、完成土地及び未成土地」とは、土地開発公社にとっては販売用資産であり、いわゆる棚卸資産である旨解説され、要綱第29条(6)の「土地」とは、流動資産に属する棚卸資産としての土地とは異なり、土地開発公社の自己の使用に供する土地、例えば社屋、職員寮の敷地、駐車場用地等である旨解説されている。
 したがって、本件土地は公有用地に当たることから、本件公社が本件土地を流動資産として区分したことについて誤りはなく、固定資産に該当しないことは明らかである。
(ハ)本件公社の保有する土地の利用について、公社保有地管理要綱第3条《利用の制限》では、「土地の利用は、公共工事の資材、機械等の保管場所及び自動車駐車場等、短期の利用目的以外には供してはならない。」、第4条《利用者及び契約》第3項では、「土地利用に係る土地賃貸借契約及び土地利用業務委託契約の契約期間は原則として1カ年を超えてはならない。」旨規定されていることから、本件公社において公有用地を長期間賃貸することは規定上不可能であり、また、本件土地の利用状況も、本件公社の作成している土地の賃料の管理表によれば1年以内の貸付けとなっていることから、一時的に貸付けを行ったものであることは明らかである。そうすると本件公社は本件土地を長期間にわたり賃貸する意思を有してはいなかったものと認められるから、当該賃貸の状況をもって固定資産としての使用実態があると認めることはできない。
 したがって、平成13年度の本件公社決算書資料において、本件土地を含むC工場跡地が、従前どおり「代替地」として計上されているのは、単に経理上、流動資産から固定資産への区分変更がされていなかったということではなく、本件公社が固定資産として使用する土地ではないと判断したため、資産区分の変更をしなかったものと考えるのが相当である。
(ニ)法人税法では、棚卸資産及び固定資産を上記1の(3)のロ及びハのとおり規定し、棚卸資産と固定資産を別個のものとして定義しているが、土地が常に固定資産なのではなく、棚卸資産に該当する場合があることを予定しているというべきであり、また、企業会計原則注解の注16《流動資産又は流動負債と固定資産又は固定負債とを区別する基準について》では、「商品、製品、半製品、原材料、仕掛品等のたな卸資産は、流動資産に属するものとし、企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ、その加工若しくは売却を予定していない財貨は、固定資産に属するものとする。」とされており、法人税法及び企業会計原則のいずれの場合においても、商品は棚卸資産とされている。
 なお、法人税法には商品の意義についての規定はないが、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和38年大蔵省令第59号。以下「財務諸表等規則」という。)第15条《流動資産の範囲》第5号において、商品には販売の目的をもって所有する土地、建物その他の不動産を含むと規定されており、また、広辞苑によれば、商品とは売買の目的物たる財貨とされている。そして、要綱によれば、公有用地は棚卸しすべき資産に該当するものとされているのであるから、法人税法及び企業会計原則の規定と異なるところは認められない。
(ホ)以上のとおり、原処分庁は、公社における本件土地の所有目的等を考慮した結果、本件土地は、棚卸資産に該当し、固定資産には該当しないこととなることから、法人税法第50条の適用がないとしたものであり、単に流動資産として経理していたことのみをもって同条の適用を否定するものではない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、請求人の場合、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当せず、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件は、本件土地が法人税法第50条の適用要件である固定資産に該当するか否かに争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。

(1)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件土地について
(イ)本件土地は、本件公社が公有地取得事業により取得したもので、本件交換に至るまでは、登記上も本件公社が所有権者となっており、本件公社の貸借対照表上も、流動資産の部の公有用地勘定として計上されていた。
(ロ)本件土地は、平成8年から平成13年において、残土置場として賃貸借が行われており、その賃貸借契約期間については、本件公社作成の「旧C工場跡地の賃貸実績」によれば、すべて1年以内の短期の貸付けにより行われている。
ロ 土地開発公社について
(イ)土地開発公社とは、地域の秩序ある整備を図るために必要な公有地となるべき土地等の取得及び造成その他の管理を行うために、地方公共団体が設立する公共法人であって(公拡法第10条第1項)、その設立に当たっては、これに対する出資を地方公共団体に限定し、基本財産の額の二分の一以上に相当する資金その他の財産の出資を地方公共団体に義務づけており(同法第13条)、また、土地開発公社は毎事業年度の予算、事業計画及び資金計画を明らかにし、年度開始に当たって設立団体の長の承認を受けなければならず(同法第18条第2項)、設立団体の長は、土地開発公社の業務の健全な運営を確保するため、必要があると認めるときはこれに対しその業務に関し必要な命令をすることができる(同法第19条第1項)など、土地開発公社に対しては、それを設立した地方公共団体の様々な指揮監督権が及ぶこととなっている。
(ロ)本件公社の定款によれば、本件公社は、昭和○年○月○日にA市を設立団体として設立され、公共用地、公用地等の取得、管理及び処分並びに関連公共施設等の設備を行うことにより、地域の秩序ある整備と市民福祉の増進に寄与することを目的とし、それらを達成するために、〔1〕公拡法第4条第1項又は第5条第1項に規定する土地、道路、公園等の公共施設又は公用施設の用に供する土地、公営企業の用に供する土地等の取得、造成その他の管理及び処分、〔2〕住宅用地の造成事業、及び〔3〕〔1〕の土地の造成、〔2〕に伴う公共施設又は公用施設の整備でA市の委託に基づく業務等を行うこととされている。
(ハ)公有用地とは、公有地取得事業により土地開発公社が所有権を取得した土地をいい、公有地取得事業とは、公拡法第17条第1項第1号及び第2号並びに同条第2項第1号に掲げる事業のうち、地方公共団体等と土地開発公社との契約に基づき土地開発公社が土地の取得及び管理を行い、これらに要した費用を賄うに足りる価額で地方公共団体等に売り渡す一連の業務をいう。
 また、土地開発公社は、取得した土地をその用途に供するまでの間、いたずらに放置することなく、積極的な利用について検討すべきであり、そのために必要な範囲内であれば、当該土地に簡易な施設を建設し、管理することもさしつかえないものであること(昭和47年8月28日付「公有地の拡大の推進に関する法律の施行について」(土地開発公社関係)の4の(4))とされており、さらにこれを受け、賃貸又は信託(以下「賃貸等」という。)の期間、内容については、当該土地の最終的な利用の妨げとならない範囲であれば、当該土地を外部へ管理委託、賃貸等することもさしつかえないものであるとされている(「土地開発公社の業務について」(通達)(昭和62年10月22日付)の1の(1)のイ)。
 さらに、公社保有地管理要綱第3条では、「土地の利用は、公共工事の資材、機械等の保管場所及び自動車駐車場等、短期の利用目的以外には供してはならない。」、第4条第3項では、「土地利用に係る土地賃貸借契約及び土地利用業務委託契約の契約期間は原則として1カ年を超えてはならない。」旨規定されている。
(ニ)土地開発公社の財務については、公拡法第18条第3項に毎事業年度の終了後2か月以内に財産目録、貸借対照表、損益計算書及び事業報告書を作成し、監事の意見を付して、これを設立団体の長に提出しなければならない旨規定されており、要綱第1条において、土地開発公社が作成する決算に関する書類のうち、損益計算書及び貸借対照表並びにこれらの附属明細表の用語、様式及び作成方法は、公拡法及び同施行規則に定めのあるもののほか、この要綱に定めるところによるものとし、この要綱に定めのない事項については、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うものとされている。
 また、要綱第26条(4)によれば、公有用地、代行用地、市街地開発用地、観光施設用地、完成土地及び未成土地は流動資産に該当するものとされ、要綱第29条(6)によれば、土地のうち、事業の用に供するものは、有形固定資産に該当するものとされている。
 そして、要綱の逐条解説によれば、要綱第26条(4)の「公有用地、代行用地、市街地開発用地、観光施設用地、完成土地及び未成土地」とは、土地開発公社にとっては販売用資産、いわゆる棚卸資産であり、要綱第29条(6)の「土地」とは、流動資産に属する棚卸資産としての土地とは異なり、土地開発公社の自己の使用に供する土地、例えば社屋、職員寮の敷地、駐車場用地等であるとされている。

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(2)関係者の答述

 本件交換について、本件公社の担当者であるE副主幹及びFは当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
イ 本件公社がA市の依頼により先行取得した土地は、A市へ引き渡すか又はA市が行う収用事業の代替地とするための土地であり、一時的に所有しているに過ぎないことから、本件公社は、当該土地を棚卸資産として公有用地勘定で処理しており、固定資産である旨の表示をしたことはない。
ロ 本件土地の取得に際して、具体的な利用計画の策定はなく、「公共用地の代替地」という目的のみで取得した。
ハ 土地の先行取得のための資金の借入れについては、当初、5年返済となっており、その後利息を含めて借換えを繰り返し行う形を採っている。
ニ 土地開発公社所有の土地は棚卸資産に該当することから、本件公社は、税務上のトラブルを回避するため、税務上の固定資産同士の交換には該当しない旨の説明を土地交換の相手先に対して行うこととしており、請求人に対しても、本件土地の交換に係る折衝において、その旨説明している。
ホ 本件土地交換後のC工場跡地の残地については、保有土地の管理の一環として、平成13年頃から短期貸付けを毎年更新して行っていることから、地方税法上、収益事業に該当し、固定資産税が賦課されている。

(3)本件更正処分について

イ 法人税法第50条第1項の趣旨等について
 交換は、譲渡の一形態であるから、交換による差益については、原則的には、課税されるべきであるが、資産の交換により、譲渡した資産と同一種類の資産を取得し、かつ、これを譲渡直前の用途と同一の用途に供した時は、従前と同一の資産が引き続き、そのまま所有されていたことと実質的には何ら変りはないと見られること及び税負担の考慮等の観点から法人税法第50条所定の要件に該当する交換については、税務上、圧縮記帳を認め、課税の繰延べを図ることとしている。
 ただし、交換は、本来当事者の双方が同一の固定資産を同一の状態において継続使用する場合を想定しているから、交換取得資産を交換譲渡資産に擬制するには、両資産における同一性が要求されるため、法令上、同一種類、同一用途等の極めて厳格な要件が付されており、譲渡資産のみでなく、交換先が所有する取得資産についても固定資産であることを適用の要件としている。
ロ 法人税法第50条の適用要件である固定資産の意義について
 棚卸資産及び固定資産の法人税法上の規定は上記1の(3)のロ及びハのとおりであり、これらによれば、固定資産とは、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち土地等をいい、棚卸資産とは、商品等で棚卸しをすべきものをいう旨規定されていることから、土地は、常に固定資産ではなく、不動産業者が有する販売用土地のように、商品ないしこれに準ずるものとして、棚卸資産に該当する場合もあり得ることとなる。
 一方、企業会計原則注解の注16では「商品、製品、半製品、原材料、仕掛品等のたな卸資産は、流動資産に属するものとし、企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ、その加工若しくは売却を予定していない財貨は、固定資産に属するものとする。」とされているから、企業会計原則においては、商品は棚卸資産であり、これは、上記1の(3)のロのとおり、法人税法においても同様である。
 つまり、土地が流動資産に属する棚卸資産のうちの商品に該当する場合は、法人税法第50条の適用要件である固定資産には該当しないこととなる。
 また、法人税法上、商品の意義についての規定はないが、財務諸表等規則第15条第5号によれば、流動資産に属する商品には販売の目的をもって所有する土地、建物その他の不動産を含むと規定されている。
ハ 本件土地について
 これを本件土地についてみると、上記(1)のイの(イ)、(1)のロの(ハ)及び(2)のイないしニのとおり、公有用地の代替地という目的で取得され、A市に引き取られることを予定された土地であるということからすれば、本件土地は販売用資産としての商品とみるべきであり、本件公社が流動資産に計上した経理処理は相当であると認められる。さらに、取得後の事情の変化等によって、当初の保有目的が変更されたという事実も認められないことから、固定資産への区分変更は行われていないとするのが相当であり、請求人の主張する、本件公社の性格及び本件土地の取得後の実態を検討してみても、本件土地を固定資産であると認定すべき事由は見当たらない。
 そうすると要綱の規定に従った本件公社の経理処理を法人税法上も否定する理由はないから、本件土地を流動資産とした本件公社の経理処理については、法人税法上も相当であると判断される。
 したがって、本件土地は、棚卸資産である販売用資産としての商品に該当することから、上記イ及びロにより、法人税法第50条の適用要件である固定資産には該当しないと認められる。
ニ 請求人の主張について
(イ)請求人は、取得資産が固定資産に該当するか否かについて、本件公社の貸借対照表上、流動資産の部に計上されていたことをもって、一律に固定資産に該当しないと判断することは、A市及び本件公社の目的等の実態にそぐわないから、経済実態により判断すべきである旨主張する。
 確かに、税法上、固定資産あるいは棚卸資産のいずれに該当するかの判断については、対象資産の取得目的及び保有目的によることとなるから、単に経理上、固定資産以外の科目に計上されていたとしても、上記目的等により固定資産に該当することとなれば、法人税法第50条の適用要件を満たす限り、交換の圧縮記帳は認められることとなるため、本件公社の会計上の処理のみをもって判断するのは相当ではなく、本件公社における本件土地の所有目的等により、固定資産に該当するか否かを判断することとなる。
 しかしながら、上記ハのとおり、本件土地は、公有用地の代替地という目的で取得され、A市に引き取られることを予定された土地であるということからすれば、販売用資産としての商品とみるべきであり、本件公社の性格及び本件土地の取得後の実態を検討してみても、本件土地を固定資産であると認定すべき事由は見当たらないから、請求人の主張は採用できない。
(ロ)請求人は、本件公社が本件土地を取得する際に、代替地とする等の具体的な利用計画は持っていなかったのであり、販売目的で保有する棚卸資産には該当しない旨主張する。しかしながら、本件土地については、上記(2)のロのとおり、具体的な利用計画の策定はないものの、上記(2)のイないしハのとおり、本件公社が公有地取得事業により公共用地の代替地という目的で取得したことから、要綱第26条の規定に従い、流動資産の部の公有用地勘定に計上されたものであり、土地の先行取得のための資金の借入れ期間は5年返済とのことであるから、取得当初より、本件土地を長期に保有することは予定されていなかったものと推認され、その後、結果的に20年以上の長期にわたり保有してはいるものの、その間、保有目的の変更もされていないことから、経理上、棚卸資産に該当するとして流動資産に計上し続けていたものと認められる。
 一方、上記(2)のニのとおり、本件公社は、本件交換に当たり、請求人との折衝の際に、本件土地が、棚卸資産に該当する旨の説明を行っていることからすると、本件公社は、会計上のみでなく税務上も、本件土地が棚卸資産に該当すると認識していたことが認められるから、請求人の主張は採用できない。
(ハ)請求人は、本件公社が自由な意思で土地を取得、売却して営利を図ることを目的としていないこと及びA市への土地の引継価額が時価を考慮していないこと等から、A市と本件公社とは一体の組織であるとし、本件土地の実質的な取得者及び所有者はA市であった旨主張する。
 確かに、上記(1)のロの(イ)のとおり、土地開発公社に対しては、それを設立した地方公共団体の様々な指揮監督権が及び、土地開発公社は実質的に地方公共団体の分身ともいえる存在である。しかし、土地開発公社は、地方公共団体とは別個の独立した法人として設立され、法律上、別個の法人格を有しており、また、本件土地は登記上の所有者が本件公社となっていること、さらに、土地開発公社が行うことのできる業務の内、土地造成事業については土地開発公社の発意で自らの負担と責任において行うことが可能とされている事業であることなどを衡量すると、地方公共団体と土地開発公社を一体の組織と認定することはできないことから、請求人の主張は採用できない。
(ニ)また、請求人は、平成8年以降、本件公社は、私企業に対して長期間にわたり継続して本件土地の賃貸借を行い、事業の用に供していたのであり、当該貸付けは、表面上、一時的に貸し付ける「形」をとってはいたが、反復継続して結果的に賃貸が長期化していたのであるから、本件公社は本件土地を長期間賃貸する意思を有していたと考えるべきであり、固定資産としての実態があった旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のロの(ハ)とおり、公社保有地管理要綱第3条及び第4条第3項では、公社の保有する土地については、公共工事の資材、機械等の保管場所及び自動車駐車場等、短期の利用目的以外には供してはならず、土地利用に係る土地賃貸借契約及び土地利用業務委託契約の契約期間は原則として1カ年を超えてはならない旨規定されており、本件土地の利用状況についてみると、本件公社作成の「旧C跡地の賃貸実績」によれば賃貸期間は1年以内の短期の貸付けとなっていること、また、本件土地交換後のC工場跡地の残地についても、短期貸付けを毎年更新しているに過ぎないことから、当該賃貸借は土地の積極的な利用の一環にすぎず、土地の最終的な利用の妨げとならない範囲で行われていたものと認められる。
 そうすると、本件公社が、本件土地を長期間にわたり賃貸する意思を有していたとは認めることはできず、当該賃貸借をもって事業の用に供する固定資産として用途変更したと認めることもできないから、請求人の主張には理由がない。
(ホ)さらに、請求人は、棚卸資産とは、譲渡によって事業性の収益を産み出すことを目的として保有されているものに限られるとし、本件公社がA市へ土地を引き継ぐにあたっての引渡価額は取得価額に保有期間の利息を含む管理費用を加えた価額とされ、土地の時価等は考慮されていないことからみても、本件土地は不動産業者が事業収益を上げるために所有している商品とは異なるのであって、本件公社はA市の買収行為を代行して本件土地を取得し、単に預かっているに過ぎないから、棚卸資産には該当しない旨主張する。
 しかしながら、引渡価額について時価が考慮されていないのは、上記(1)のロの(ハ)のとおり、地方公共団体等と土地開発公社との契約に基づくものであるところ、土地開発公社は公共法人であることから、一般民間企業のように利益をあげることを主たる目的としていないだけであり、また、取引価額については、取引を行う双方の関係、取引の経緯及び取引される物の性質等種々の要因により決定されるものであって、地方公共団体及び土地開発公社との両者の関係及び取引される土地の性格に照らしてみれば、時価によらない取引によって利益が生じないとしても、そのことをもって、棚卸資産の売買でないということはできないから、請求人の主張には理由がない。
(ヘ)ところで、請求人は、要綱については、公社の経営状態の公開を目的としていたものであり、税務処理を目的として作られたものではないから、法人税法第50条の適用のある固定資産に当たるか否かは法人税法とは無関係の「要綱」やその「逐条解説」により判断されるべきではなく、法人税法上の定義、趣旨に従って解釈されるべきであり、土地は棚卸資産(商品ないしこれに準ずるもの)に該当しなければ固定資産であり、本件土地について棚卸資産であることが明らかでない以上、原則に従って固定資産と解すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記ロのとおり、本件土地を法人税法上の規定等に基づき判断すると、本件土地は、公有用地の代替地という目的で取得され、A市に引き取られることを予定された土地であるということからすれば、販売用資産としての商品とみるべきであり、棚卸資産に該当し、法人税法第50条の適用要件である固定資産には当たらないと認められるから、請求人の主張は採用できない。
(ト)加えて、請求人は、本件土地交換後のC工場跡地の残地が、平成13年以降、固定資産税の課税対象とされていることから、A市及び本件公社は、本件土地を固定資産であると認識していた旨主張するが、当該残地が固定資産税の課税対象とされたのは、短期貸付けを継続的に行っていることから、収益事業に該当するとの理由により課税対象となったものであり、地方税法の規定における固定資産の定義(固定資産とは、土地、家屋及び償却資産を総称する。)を、法人税法における固定資産の定義にそのまま適用することは相当でないから、請求人の主張は採用できない。
ホ 総括
 以上のことから、本件土地は棚卸資産に該当することとなるから、法人税法第50条の適用要件である固定資産には当たらず、本件交換において、法人税法第50条に規定する交換により取得した資産の圧縮額の損金算入の適用はないとするのが相当であり、原処分は適法である。

(4)本件賦課決定処分について

 上記のとおり、本件更正処分は適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づきなされた本件賦課決定処分は適法である。

(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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