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(平17.11.10裁決、裁決事例集No.70 369頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、不動産管理業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、賃貸中のマンションを信託財産とする各信託受益権(以下「本件各信託受益権」という。)を取得したことは、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第2項に規定する課税仕入れ等の税額の計算を行うに当たり、同項第1号に規定する方法(以下「個別対応方式」という。)の適用において、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する」課税仕入れに区分されるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成16年3月9日から平成16年3月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成16年12月27日付で、次表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

項目\区分確定申告更正処分等
消費税
 課税標準額587,000円587,000円
 課税標準額に対する消費税額23,48023,480
 控除対象仕入税額116,213,8218,811,641
 控除不足還付税額116,190,3418,788,161
 差引納付すべき消費税額107,402,100
地方消費税
 課税標準となる消費税額116,190,3418,788,161
 還付譲渡割額29,047,5852,197,040
 差引納付すべき譲渡割税額26,850,500
過少申告加算税の額20,112,500

ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成17年1月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月27日付でいずれも棄却する旨の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成17年5月27日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 消費税法第14条《信託財産に係る資産の譲渡等の帰属》第1項は、信託財産に属する資産に係る資産の譲渡等については、受益者が特定している場合はその受益者がその信託財産を有するものとみなして、消費税法の規定を適用する旨規定している。
ロ 消費税法第30条第1項は、事業者が、国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定し、同条第2項第1号は、第1項の場合において、当該課税期間における課税売上割合が100分の95に満たないときは、同項の規定により控除する課税仕入れに係る消費税額(以下「課税仕入れ等の税額」という。)の合計額は、第1項の規定にかかわらず、同条第2項の各号に定める方法により計算した金額とする旨規定している。
 そして、消費税法第30条第2項第1号は、当該課税期問中に国内において行った課税仕入れにつき、〔1〕課税資産の譲渡等にのみ要するもの、〔2〕課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等(以下「その他の資産の譲渡等」という。)にのみ要するもの及び〔3〕課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものにその区分が明らかにされている場合には、課税仕入れ等の税額の合計額は、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れの税額の合計額に、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れの税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算した金額を加算する方法による旨規定している。
ハ 消費税法基本通達(以下「消基通」という。)11−2−20《課税仕入れ等の用途区分の判定時期》は、個別対応方式により仕入れに係る消費税額を計算する場合において、上記ロの〔1〕ないし〔3〕の区分(以下「用途区分」という。)の判定は、課税仕入れを行った日の状況により行うこととなる旨定めている。
ニ 消費税法第2条《定義》第1項第9号は、課税資産の譲渡等とは、資産の譲渡等のうち、同法第6条《非課税》第1項の規定により消費税を課さないこととされているもの以外のものをいう旨規定している。
 そして、消費税法第6条第1項は国内において行われる資産の譲渡等のうち、同法別表第一に掲げるものには、消費税を課さない旨規定し、同法別表第一の第1号は、土地の譲渡及び貸付けを、同第13号は、住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(以下「住宅の貸付け」という。)を掲げている。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、原処分庁に対して、事業を開始した日の属する本件課税期間内(平成16年3月30日)に、消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項本文の規定の適用を受けない旨を記載した届出書(消費税課税事業者選択届出書)を提出しており、本件課税期間において同項の規定は適用されないことから、同法第46条《還付を受けるための申告》第1項に規定により、消費税の控除不足額の還付を受けるための申告書を提出することができる。
ロ 請求人は、平成16年3月26日付で、A社及びB社との間でそれぞれ信託受益権売買契約書(以下、これらを併せて「本件各信託受益権売買契約書」という。)を取り交わし、同日において既に居住用又は事業用として賃貸の用に供されている8棟のマンション(合計397戸、うち居住用の住宅389戸、事業用の事務所及び店舗8戸)の建物及び土地(以下、これらを併せて「本件各信託不動産」という。)を信託財産とする本件各信託受益権を取得している。
 なお、本件各信託不動産の受託者は、C信託銀行及びD信託銀行である。
ハ 本件各信託受益権売買契約書の第4条《受益権の移転・地位の承継》には、請求人は、各信託契約の委託者及び受益者としての地位をそれぞれ承継する旨記載されている。
ニ 請求人とE社との間及び請求人とF社との間においては平成16年3月24日付で、請求人と甲LLCとの間においては平成16年3月25日付で、それぞれ請求人を営業者、相手方を優先匿名組合員とする優先匿名組合契約が締結されている(以下、これらの契約を併せて「本件各匿名組合契約」といい、これらに係る契約書を「本件各匿名組合契約書」という。)。
ホ 請求人は、本件各信託受益権の取得時には、本件各信託受益権のすべてを、米国不動産投資法人により組成が進められていた日本における不動産投資法人(以下「J−REIT」という。)に、その取得から約1年後の平成17年3月ころに譲渡することを予定していた。
 しかしながら、J−REITの設立の際に設立企画人となるG社が、金融庁からの投資信託委託業者の認可を受けることに時間を要した(平成17年○月○日認可)ため、審査請求日現在において、J−REITは設立されておらず、本件各信託受益権は譲渡されていない。
ヘ 本件各信託不動産は、請求人が本件各信託受益権を取得した後も、上記ハと同様に事業用又は居住用として賃貸の用に供されており、本件課税期間において、請求人には本件各信託不動産に係る賃貸収入が生じている。
ト 請求人は、本件課税期間の課税売上割合が100分の95に満たないことから、個別対応方式に基づき、その適用における用途区分について、本件各信託受益権の取得を本件各信託不動産の取得と認識した上で、このうち建物部分の取得に係る課税仕入れを「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分し、同土地部分の取得に係る課税仕入れ(土地部分の仲介手数料及び登記手数料等に係るもの)を「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分して、課税仕入れ等の税額を計算し、本件確定申告書を提出した。
 これに対し、原処分庁は、本件各信託不動産の取得に係る課税仕入れは、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に区分されるものであるとして、本件更正処分をした。
 なお、請求人が算定した本件課税期間の用途区分ごとの課税仕入れの税額は、別表1の「請求人の申告額」欄のとおりであり、本件更正処分におけるこれらの税額は同表の「原処分庁の調査額」欄のとおりである。また、請求人の確定申告及び本件更正処分における課税仕入れ等の税額は、別表1の各欄の税額を基に、別表2の各欄のとおり算定されている。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由によりいずれも違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、上記1の(4)のホのとおり、本件各信託受益権を、J−REITに譲渡する目的で取得したものであり、本件各信託不動産に係る賃貸収入を得る目的で取得したものではないから、個別対応方式の適用における用途区分において、本件各信託受益権の建物部分の取得は「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分すべきである。
ロ 本件各信託不動産に係る賃貸収入は、本件各信託受益権を取得する以前から存在する本件各信託不動産に係る賃貸借契約を引き継いだことにより生じているものであるから、本件各信託受益権の取得・保有に伴い、単に付随的に生じたものにすぎない。
 また、本件各信託不動産は、賃貸借契約が存していることにより、かえって商品価値が高まり、さらなる譲渡益を期待できるのであるから、当該各不動産から賃貸収入が生じていることは、本件各信託受益権の取得が譲渡を目的とするものであることを妨げるものではない。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるので、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人は、本件各信託受益権について、譲渡する目的と併せて、本件各信託不動産に係る賃貸収入を得ることを目的として取得したことが認められる。
ロ そうすると、個別対応方式の適用における用途区分において、本件各信託受益権の取得は、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に区分される。

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3 判断

 本件審査請求は、本件各信託受益権(信託不動産)の取得(課税仕入れ)に係る個別対応方式に係る用途区分に争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、以下の事実が認められる。
イ 本件各信託受益権に係る各信託契約書(A社とC信託銀行との間で取り交わされた不動産管理処分信託契約書及び不動産管理処分信託変更契約書並びにB社とD信託銀行との間で取り交わされた不動産信託契約書であり、以下「本件各信託契約書」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)本件信託の目的は、信託不動産を受益者のために管理・運用・処分すること(信託の設定及び目的に関する項目)。
(ロ)信託不動産の賃貸から生じる賃貸料を信託収益とすること(信託収益に関する項目)。
ロ 本件各匿名組合契約書には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)優先匿名組合員は、営業者である請求人が実施する事業(以下「本件事業」という。)に出資する(前文)。
(ロ)本件事業とは、本件各信託受益権の取得、保有、管理、運用及び処分に係る事業をいう(定義に関する項目)。
(ハ)本件各匿名組合契約の目的は、営業者(請求人)において本件事業を実施し、本件事業から発生する収益を、優先匿名組合員に配賦し、又は匿名組合出資の返還として分配することにある(匿名組合の事業目的に関する項目)。
(ニ)営業者(請求人)は本件各信託受益権を取得し、上記イの各信託契約その他適用のある契約に従い、受託者に必要な指図を行い、本件各信託受益権を売却その他換価することにより、本件事業を実施する(本件事業のうち本件各信託受益権に関する項目)。
ハ  請求人から原処分庁に対して提出された、請求人の名称を表題とする本件各信託不動産に関する書面(以下「本件書面」という。)には、物件購入時期は平成16年3月、物件売却時期は平成17年3月から同年5月までの間、及び賃貸期間は平成16年3月から平成17年3月までの間である旨図示されており、また、その記載内容から本件書面は、請求人が本件各信託受益権を取得した日以前に作成されたものである。

(2)法令解釈

イ 消費税法第30条第2項第1号は、上記1の(3)のロのとおり、個別対応方式による課税仕入れ等の税額の計算の方法について規定しているが、その用途区分の判定時期等については具体的に規定されていない。
ロ 消基通11−2−20は、上記1の(3)のハのとおり、個別対応方式により課税仕入れ等の税額を計算する場合において、上記1の(3)のロの〔1〕ないし〔3〕の用途区分の判定は、課税仕入れを行った日の状況により行うものと定めているところ、当該取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
 そして、この場合の課税仕入れを行った日の状況とは、当該課税仕入れの目的及び当該課税仕入れに対応する資産の譲渡等がある場合にはその資産の譲渡等の内容を勘案して判断すべきものと解するのが相当である。

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(3)これを本件についてみると、以下のとおりである。

イ 請求人は、上記1の(4)のロ及びハのとおり、本件各信託受益権の取得に当たり、当該信託の受益者としての地位を承継していることから、消費税法第14条の規定により、本件各信託不動産の譲渡等については、請求人が当該不動産を有するものとみなして、消費税法の規定が適用される。
 したがって、本件各信託受益権の取得についても、請求人が本件各信託不動産の課税仕入れを行ったものとみなして、消費税法の規定が適用されることとなる。
ロ 請求人は、上記1の(4)のホのとおり、本件各信託受益権を譲渡する目的で取得したこと、すなわち本件各信託不動産を譲渡する目的で取得したものであることが認められるところ、当該各不動産を譲渡した場合、このうちの建物部分の譲渡は課税資産の譲渡等に該当することとなる。
ハ 本件各信託不動産は、上記1の(4)のロ及びヘのとおり、請求人がその取得をした日において既に賃貸の用に供されており、同日以後も同様に賃貸の用に供されていることから、請求人には、本件課税期間において本件各信託不動産に係る賃貸収入が生じている。
 また、請求人が本件各信託不動産を取得した日又はそれ以前に作成された〔1〕本件各信託契約書には、本件各信託不動産の賃貸から生じる賃貸料を信託収益とする旨が記載され(上記(1)のイ)、〔2〕本件各匿名組合契約書には、請求人は本件各信託受益権の取得、保有、管理、運用及び処分により生ずる収益を優先匿名組合員に配賦する旨が記載され(上記(1)のロ)、〔3〕本件書面には、本件各信託不動産は平成16年3月から平成17年3月までの間賃貸する予定であることが図示されている(上記(1)のハ)ことからすれば、請求人が本件各信託不動産を取得した目的には、その取得から譲渡までの間に本件各信託不動産に係る賃貸収入を得ることが含まれていたと認めるのが相当である。
 そして、当該賃貸収入の大部分は、上記1の(4)のロのとおり、住宅の貸付けによるものであるところ、当該住宅の貸付けは、上記1の(3)のニのとおり、課税資産の譲渡等には該当しない。
ニ 上記(2)のロに基づいて、請求人が本件各信託不動産を取得したとき、すなわちその課税仕入れを行った日の状況について、上記ロ及びハのことを判断すると、本件各信託不動産の取得は、課税資産の譲渡を目的とすることと併せて、消費税を課さない住宅の貸付けに係る収入を得ることを目的とするものと認められる。
 そうすると、本件各信託不動産に係る課税仕入れは、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れと認められるから、個別対応方式の適用における用途区分については、上記1の(3)のロの〔3〕課税資産の譲渡等とその他の譲渡資産の譲渡等に共通して要するものに区分するのが相当である。

(4)請求人は、本件各信託不動産に係る賃貸収入は、当該各不動産の取得に伴い、付随的に生じたものにすぎず、また、当該賃貸収入が生じていることは当該各不動産の取得が譲渡を目的とするものであることを妨げるものではない旨主張する。

 しかしながら、請求人は、上記(3)で述べたとおり、本件各信託不動産を、譲渡する目的だけではなく、その賃貸収入を得る目的を併せもって取得したものであり、また、本件課税期間において、本件各信託不動産を取得した日から課税資産の譲渡等に該当しない当該各不動産に係る賃貸収入(住宅の貸付け)が生じている以上、本件各信託不動産に係る課税仕入れを、上記1の(3)のロの〔1〕「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分することは相当ではないから、請求人の主張には理由がない。

(5)以上のとおり、本件争点について原処分に違法はなく、本件各信託不動産に係る課税仕入れを、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れとして、本件課税期間の課税仕入れ等の税額を算定すると、別表2の「原処分庁」欄の「控除対象仕入税額」欄と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(6)加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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