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(平17.11.4裁決、裁決事例集No.70 413頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、〔1〕相続税の納付に係る督促状の発送から不動産の差押処分までの長期化、〔2〕当該差押処分に係る差押書の送付の遅延及び〔3〕過去の差押処分に係る差押財産の公売の遅延を理由に、新たな不動産に対する差押処分、並びに当該差押不動産の公売による最高価申込者の決定処分の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 昭和61年6月○日、Aが死亡し、その妻B並びにその子である審査請求人C、同D、同E及び同F(以下、これら4名を併せて「請求人ら」という。)は、Aの遺産を相続により取得した。
ロ Aの共同相続人であるB及び請求人らは、昭和61年12月9日にG税務署長に対し、Aの相続に係る相続税(以下「当初の相続税」という。)の申告書を提出し、昭和62年12月9日、その相続税額を零円とすべき旨の更正の請求をした。
ハ G税務署長は、当初の相続税が完納されないため、国税通則法(以下「通則法」という。)第37条《督促》第1項の規定に基づき、昭和63年2月1日付で、B及び請求人らに督促状を発送した。
ニ G税務署長は、上記ロの更正の請求に対し、平成元年7月4日付で、更正をすべき理由がない旨の通知をするとともに、同月7日付で、当初の相続税の金額を増額する旨の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をし(以下、これらの処分により新たに納付することとなった税額を「本件更正等増加税額」という。)、同税額が完納されないため、通則法第37条第1項の規定に基づき、平成元年9月1日付で、B及び請求人らに督促状を発送した。
ホ 原処分庁は、通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、当初の相続税に係る滞納国税については昭和63年4月25日付で、本件更正等増加税額に係る滞納国税については平成元年9月25日付で、それぞれG税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ヘ 原処分庁は、B及び請求人らの滞納国税を徴収するため、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第47条《差押の要件》第1項の規定に基づき、B及び請求人らの所有する不動産のうち、B及び請求人らの有する各持分について、平成元年10月12日付で、差押処分(以下「平成元年差押処分」という。)をした。
ト 請求人らは、平成2年3月○日、Bが死亡したことから、法定相続分に応じてBの滞納国税に係る納税義務を承継した。
チ 請求人らは、平成2年9月14日、G税務署長に対し、Bの相続に係る相続税の申告書を提出した。
リ G税務署長は、平成5年3月31日付で、請求人らに対し、Bの相続に係る相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたが、同各処分に係る税額が完納されなかったことから、通則法第37条第1項の規定に基づき、平成5年5月28日付で、督促状を発送した。
ヌ 原処分庁は、通則法第43条第3項の規定に基づき、上記リの請求人らの相続税について、平成5年6月21日付で、G税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ル 原処分庁は、上記ヌの相続税を徴収するため、平成10年2月○日付で、平成元年差押処分に係る不動産の請求人らの各持分に対して、それぞれ徴収法第86条《参加差押えの手続》の規定に基づき参加差押処分をした。
ヲ 原処分庁は、平成15年9月から平成16年2月にかけて、平成元年差押処分に係る差押財産の一部につき、公売をした(以下、当期間中における公売を「平成15年公売処分」という。)。
ワ 原処分庁は、徴収法第47条第1項の規定に基づき、請求人らの未納となっている別表1の国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、平成16年5月○日付で、別表2の不動産の請求人らの有する各持分に対して差押処分(以下「本件差押処分」という。)をするとともに、同処分に係る差押書(以下「本件差押書」という。)及び差押調書の作成をした。
カ 原処分庁は、別表2の番号3の不動産を差し押さえるために、平成16年5月○日にH地方法務局に対して、本件差押処分に係る差押登記嘱託書を発送し、同月○日付で、差押えの登記がなされた。
ヨ 原処分庁は、別表2の番号1及び番号2の不動産を差し押さえるために、平成16年5月○日にH地方法務局J支局に対して、請求人らのうちFを除く者の本件差押処分に係る差押登記嘱託書を、次いで、平成16年5月○日にFの本件差押処分に係る差押登記嘱託書を発送し、それぞれ同月○日及び○日付で差押えの登記がなされた。
タ 請求人らは、平成16年7月26日、本件差押処分を不服として、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成16年10月25日付で、棄却の異議決定をした。
レ 原処分庁は、本件差押処分に係る差押財産のうち、別表2の番号1及び番号3の不動産を公売するため、徴収法第95条《公売公告》第1項及び同法第99条《見積価額の公告等》第1項の規定に基づき、平成16年11月4日付で、同日から同月30日までの間、K国税局庁舎内において公売公告兼見積価額公告(以下「本件公売公告」という。)を行うとともに、同法第96条《公売の通知》第1項の規定に基づき、同日付で、請求人らに公売通知書(以下「本件公売通知」という。)を発送した。
ソ 請求人らは、本件公売通知による公売(以下「本件公売処分」という。)につき、平成16年11月22日付で、原処分庁に対し、「公売執行中止の申立書」と題する書面を提出した(以下、当該書面を「本件公売中止申立書」といい、当該申立てを「本件公売中止申立て」という。)。
 なお、本件公売中止申立書の記載内容は、別表3のとおりである。
ツ 請求人らは、平成16年11月23日、上記タの異議決定を経た後の本件差押処分に不服があるとして、審査請求をした。
 なお、請求人らは、同日、Cを総代として選任し、その旨を届け出た。
ネ 原処分庁は、平成16年11月30日、本件公売処分の入札を執行し、徴収法第104条《最高価申込者の決定》第1項の規定に基づき、同日付で、別表4の売却区分番号○○−1の不動産については、その入札者のうちL社に対し最高価申込者の決定をし、同表の売却区分番号○○−2の不動産については、その入札者のうちM社に対し最高価申込者の決定をした(以下、これらの決定を「本件最高価申込者決定処分」という。)。
ナ 原処分庁は、徴収法第106条《入札又は競り売りの終了の告知等》第2項の規定に基づき、請求人らに対し、本件最高価申込者決定処分に伴う通知事項について、平成16年12月1日付で、「不動産等の最高価申込者決定通知書」により通知をした。
ラ 請求人らは、平成16年12月6日、本件最高価申込者決定処分を不服として、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成17年2月7日付で、棄却の異議決定をした。
ム 請求人らは、上記ソの本件公売中止申立てに対する異議決定がないとして、また、上記ラの異議決定を経た後の本件最高価申込者決定処分に不服があるとして、平成17年3月6日に審査請求をしたので、当審判所は、本件差押処分に対する審査請求と併合審理することとした。
 なお、請求人らは、同日、Cを総代として選任し、その旨を届け出た。
ウ M社は、売却区分番号○○−2に係る入札について、平成17年9月15日付で、「入札取消申出書」を原処分庁に提出した。
ヰ 原処分庁は、徴収法第114条《買受申込み等の取消し》の規定に基づき、平成17年9月27日付で、売却区分番号○○−2に係る最高価申込者の決定を取り消した。

(3)関係法令の要旨

 関係法令の要旨は、別紙のとおりである。

(4)基礎事実

イ 原処分庁は、平成16年12月1日付で、本件最高価申込者決定処分に伴う公告事項について、徴収法第106条第2項の規定に基づき、K国税局庁舎内において公告をした。
ロ 原処分庁は、本件公売処分に係る売却決定を保留している。
ハ 原処分庁は、平成元年差押処分に係る不動産につき、平成11年11月4日、当該不動産を同年12月1日に公売する旨の公売公告をしたが、公売通知欄の誤記を理由に、当該公売を中止した。

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2 主張

(1)請求人ら

 原処分及び本件公売通知による本件公売処分は、以下のとおり、違法であるからその全部の取消しを求める。
イ 本件差押処分について
(イ)本件滞納国税に係る督促日は、昭和63年2月1日、平成元年9月1日及び平成5年5月28日であり、本件差押処分は、督促状の発送から長期間経過後になされた。課税においては7年経過すれば新たな課税処分はできないこととされているのと同様に解すれば、本件差押処分は、督促日及び平成元年差押処分の日から7年以上経過した後になされた処分であることから、違法な処分である。
 また、徴収法第47条第1項第1号において、督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに国税を完納しないときには、徴収職員は滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定されていることからも、このように遅延した本件差押処分は、違法である。
(ロ)原処分庁は、平成元年差押処分に係る不動産の一部を平成15年公売処分によって公売したが、平成元年差押処分時から、不動産の価額は下落し続けており、もっと早期に公売していれば、本件滞納国税は完納されていたはずである。
 また、通則法第105条《不服申立てと国税の徴収との関係》第1項のただし書には「その価値が著しく減少するおそれがあるときには、処分の執行又は手続の続行を妨げない」旨規定されていることからも、原処分庁は、早期に公売すべきであった。したがって、本件差押処分は、長期間公売を放置していた原処分庁の責任を請求人らに転嫁する不当な処分であり、かつ、請求人らに甚大な損害を発生させた原処分庁の責任を回避するものであることから、到底許されるものではない。
 したがって、平成15年公売処分の違法性(履行遅滞)が、本件差押処分の適法性に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件差押処分も違法である。
(ハ)また、差押処分に係る差押書の送付は速やかに行われるべきところ、本件差押処分の日(平成16年5月○日)から通知日(平成16年5月○日)まで、19日間も経過していることは、適正な手続を遵守しない違法な手続であり、この点からも、本件差押処分は、違法である。
ロ 本件最高価申込者決定処分について
(イ)平成元年差押処分に係る差押財産が平成11年に公売される際に、請求人らが電話で当時の担当職員に滞納者の氏名の誤記を指摘したところ、原処分庁は当該公売を中止したことがあった。このことからすれば、本件においても、請求人らが本件公売通知に対して本件公売中止申立書を提出したのであるから、原処分庁は、本件公売処分を中止すべきであり、本件公売中止申立書を無視して本件最高価申込者決定処分を執行したことは、平成11年当時の公売中止という対応に比し、信義誠実の原則に反するものであって、日本国憲法第29条第1項に規定する財産権を侵害するものである。
 また、本件公売中止申立書を無視して本件公売処分を執行したことは、通則法第105条第1項ただし書後段の「不服申立人から別段の申出があるときを除き」の規定に反し違法である。
(ロ)本件差押処分に対する審査請求中に、本件公売処分を執行したことは、通則法第105条第1項ただし書後段の規定に反し違法であり、また、本件差押処分を正当化するために、本件最高価申込者決定処分を強行したことは、許されるものではなく、さらに、売却決定を保留したとしても、違法な本件公売処分及び本件最高価申込者決定処分を正当化することはできない。
ハ 本件公売通知に対する異議申立てについて
 公売通知は行政処分である。また、本件公売中止申立書は、本件公売通知に対する異議申立書として提出したものであるから、その認否がされていない答弁書には不備があり、本件公売処分の執行の中止を求める審査請求は認容されるべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、適法に行われているから、審査請求を棄却する旨の裁決を求める。
 また、本件公売処分の執行の中止を求める審査請求については、却下する旨の裁決を求める。
イ 本件差押処分について
(イ)徴収法第47条第1項第1号は、滞納者が督促を受けた場合において、督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに国税を完納しないときには、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨を規定しているのであって、督促から長期間経過した場合における差押えを制限する規定ではない。
(ロ)平成15年公売処分は、本件差押処分とは別個独立の処分であるから、平成15年公売処分が本件差押処分の適法性又は妥当性に影響を及ぼすものではない。
 また、通則法第105条第1項は、不服申立てがされた場合は、差押財産の換価を原則として禁止し、その財産の価額が著しく減少するおそれがあるときは、換価することができる旨を規定するものであって、同項ただし書にいう「その財産の価額が著しく減少するおそれがあるとき」とは、生鮮食料品等速やかに換価しなければ価額が著しく減少する場合をいうものであり、経済情勢の変化に影響される不動産価額の変動がこれに含まれるものではない。
(ハ)差押処分に係る通知は、差押えの事実、差押財産及び差押えに係る滞納国税を滞納者に了知させることを目的としていることからすると、本件差押処分の通知の送達に係る適法性は、徴収法施行令第30条《不動産の差押書等の記載事項》第1項に規定する記載事項が適切に記載されることを前提として、当該差押書の内容が滞納者に了知されたか否かによって判断すべきものであり、本件差押書には差押えの事実、差押財産及び差押えに係る滞納国税が適切に記載され、請求人らに送達されたのであるから、本件差押書の送達の遅れをもって直ちに本件差押処分が違法となるものではない。
ロ 本件最高価申込者決定処分について
 通則法第105条第1項は、執行不停止を原則としつつ、不服申立人に回復困難な損害を与えないために、差押財産の換価について決定又は裁決がされるまでの間、原則として換価することができない旨を規定したものと解される。そして、本件においては、本件公売公告から本件最高価申込者決定処分までの換価手続を行ってはいるものの、本件差押処分に係る審査請求がされたため、同項の規定に基づき本件公売処分に係る売却決定が保留されており、請求人らが実質的に不利益を被ることはないのであるから、本件最高価申込者決定処分が違法となるものではない。
 また、原処分庁が本件公売中止申立てについて、本件公売処分の中止を認めるような公的見解を示した事実はないので、本件公売処分について、信義誠実の原則が適用される余地はない。
ハ 本件公売通知に対する異議申立てについて
 本件公売中止申立書は、単に公売を中止してほしいとの申立てであり、これを異議申立書と解することはできず、申立ての内容を確認するために補正を求める必要があるとも認められない。また、請求人らは「公売執行中止の決定書」の送付を求めているが、これは、徴収法に規定されていないものであり、原処分庁がこれに対して何らかの対応をする理由はない。
 以上のことから、本件公売中止申立ては、異議申立てとして不適法なものである。

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3 判断

(1)認定事実

 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 原処分関係資料によれば、原処分担当職員は、本件差押処分に係る差押えの登記を確認した後に、請求人らに本件差押書の送付を行うこととし、差押えの登記を確認した後の平成16年5月○日、本件差押書を請求人らに発送したことが認められる。
ロ 請求人らは、本件公売中止申立書に対する当審判所の補正の求めに対し、要旨次のように回答している。
「公売通知に対する公売執行中止の申立てである。行政処分にあたる公売通知処分に対する公売執行中止の申立てを無視して、公売を執行し、最高価申込者決定をしたのは違法である。」

(2)本件差押処分について

イ 請求人らは、督促日及び平成元年差押処分から7年以上経過した後にされた本件差押処分は、課税処分との関係及び徴収法第47条第1項第1号の規定に反することから違法である旨主張する。
 しかしながら、通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第5項の規定は、偽りその他不正の行為により税額を免れ、若しくは税額の還付を受けた国税についての更正決定等は、その更正又は決定に係る国税の法定申告期限から7年を経過する日まですることができる旨規定しているが、課税処分と滞納処分はその目的を異にする処分であり、当該規定を滞納処分においても適用すべきであるとする法令はない。
 また、徴収法第47条第1項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員は滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨の規定であって、督促から一定期間経過した場合における差押えを制限する規定ではない。
 加えて、通則法第72条《国税の徴収権の消滅時効》第1項は、国税の徴収を目的とする国の権利は、その国税の法定納期限から5年間行使しないことによって、時効により消滅する旨を、また、同条第3項は、国税の徴収権の消滅時効は、別段の定めがあるものを除き、民法の規定を準用する旨規定しているところ、別表1の請求人らの滞納国税の徴収権は、上記1の(2)のへの平成元年差押処分及び上記1の(2)のルの平成10年2月○日付でなされた参加差押処分によって消滅時効の進行が中断していることから、消滅していないことが認められる。
 したがって、この点に関する請求人らの主張は、理由がない。
ロ 請求人らは、差し押さえた財産の換価についても通則法第105条第1項ただし書における「その財産の価額が著しく減少するおそれがあるときには、処分の執行又は手続の続行を妨げない」旨の規定を根拠に、平成元年差押処分後に地価が下落していたにもかかわらず、当該差押財産の公売手続を長期間放置し、その責任を請求人らに転嫁することは当該規定に反するもので、平成15年公売処分は違法であることから、本件差押処分も違法である旨主張する。
 しかしながら、平成15年公売処分は、本件差押処分とは別個独立の処分であるから、平成15年公売処分の違法性又は不当性が、本件差押処分に影響を及ぼすものではない。
 また、通則法第105条第1項のただし書に規定する「その価額が著しく減少するおそれがあるとき」とは、生鮮食料品等速やかに換価しなければ価額が著しく減少するような場合をいうものと解される。
 したがって、この点に関する請求人らの主張は、理由がない。
ハ さらに、請求人らは、本件差押書の送達が本件差押処分の日から19日間も経過したことは、違法な手続であり、本件差押処分も違法である旨主張する。
 通常、滞納者への差押書の発送は、法務局への差押登記嘱託書の発送とほぼ同時に行われるところ、本件においては、平成16年5月○日にH地方法務局及び同法務局J支局に対して差押登記嘱託書が発送され、その17日後の同月○日に請求人らに対して本件差押書が発送されており、その間、請求人らは本件差押処分について了知できない状態であったことが認められる。
 しかしながら、徴収法第68条第1項は、不動産の差押えは、滞納者に対する差押書の送達により行う旨規定しているが、差押書の送達期限についての規定はない。また、当審判所の調査によれば、請求人らに対する本件差押書の発送が遅れたのは、原処分担当職員が本件差押処分に係る差押手続を確実に行うために、通常と異なる発送手続ではあるものの、差押えの登記を確認した上で請求人らへ本件差押書を発送したものであり、本件差押書は請求人らに送達されていることから、本件差押書の送達まで19日間経過していたとしても、直ちに本件差押処分を取り消さなければならないほどの違法又は不当な事由とまでは認められない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張は、理由がない。

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(3)本件最高価申込者決定処分について

イ 請求人らは、本件公売中止申立書を提出したにもかかわらず、原処分庁が本件最高価申込者決定処分をしたことは、平成11年当時の公売中止という対応に比し、信義誠実の原則に反する旨主張する。
 原処分庁が平成11年当時において公売を中止した理由は、請求人らに送付した公売通知書の公売通知先欄に「E」の姓の漢字一文字を誤って記載していたことについて、電話により請求人らから指摘があったため、原処分庁は公売手続の不備を是正する必要があると判断したことによるものである。一方、本件公売処分においては、公売手続上の不備は何らなく、本件公売処分を中止する理由がないことから、原処分庁は、本件公売処分を実施したことが認められる。
 また、通則法第105条第1項ただし書後段の「不服申立人から別段の申出があるときを除き」とする規定は、不服申立人から換価を行うような申出があった場合には、不服申立て中であっても差押財産を換価することができる旨の規定であるところ、請求人らは、当該規定を根拠に、本件公売中止申立てをしているが、これは同項の規定する趣旨を誤った解釈といわざるを得ない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張は、理由がない。
ロ 請求人らは、本件差押処分の審査請求中に、本件公売処分を執行したことは、通則法第105条第1項ただし書の規定に反する旨主張する。
 確かに、通則法第105条第1項ただし書において、不服申立てがされた場合は、その決定又は裁決がされるまでの間は、原則として、差押財産の換価を制限する旨規定されている。
 しかしながら、不服申立人に回復困難な損害を与えないようにするという通則法第105条第1項の趣旨を考えると、公売手続が開始されてから不服申立てがなされた場合には、公売処理の円滑化の見地から、公売公告から入札終了までの公売手続を進めても、公売の最終手続である売却決定を保留することにより、請求人の権利又は利益の侵害にはならないことから、公売公告から入札終了までの公売手続を進めることは、違法又は不当となるものではないと解される。
 そうすると、本件においては、上記1の(2)のタないしツのとおり、原処分庁は、本件差押処分に係る異議決定と審査請求の間に本件公売公告を行い、本件差押処分に係る審査請求は、本件公売公告後であることから、原処分庁は、本件公売公告から本件最高価申込者決定処分及び入札終了までの公売手続を行い、上記1の(4)のロのとおり売却決定を保留したものであると認められる。また、原処分庁は、徴収法第104条第1項の規定に基づき、別表4のとおり、見積価額以上の入札者のうち最高価の価額による入札者を最高価申込者として定め、同法第106条第1項の規定に基づき、直ちに最高価申込者の氏名及び価額を呼び上げた後、入札の終了を告知し、次いで、同条第2項の規定に基づき、最高価申込者等の氏名、その価額並びに売却決定をする日時及び場所を請求人及び利害関係人のうち知れている者に通知するとともに、上記1の(4)のイのとおり公告事項について公告しており、本件最高価申込者決定処分は適法に行われていることが認められる。
 仮に、本件公売中止申立てが通則法第105条第2項に規定する滞納処分の続行の停止を求める申立てとしての趣旨をも含んでいるとしても、同項に規定する「必要があると認めるとき」とは、国税庁長官通達「国税通則法基本通達(徴収部関係)の制定について」(昭和45年6月24日付徴管2−43ほか)において、〔1〕異議申立ての対象となった処分の全部又は一部につき取消しが見込まれるとき(105条関係2−(1))、又は〔2〕異議申立てにある程度理由があり、かつ、滞納処分を執行することにより納税者の事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれが認められるとき(105条関係2−(3))と定めており、当審判所においても当該通達の定めは相当と認められるところ、上記のとおり滞納処分の手続に違法な事由がない本件においては、本件差押処分を取り消すべき理由はおよそ見出し難く、本件公売処分を停止すべき必要は認められない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張は、理由がない。
 なお、本件審査請求に係る原処分のうち、売却区分番号○○−2に係る最高価申込者の決定については、上記1の(2)のヰのとおり取り消されたことから、審査請求の対象を欠く不適法なものである。

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(4)本件公売通知に対する異議申立てについて

 請求人らは、本件公売通知に対する本件公売中止申立書を原処分庁に提出し、原処分庁から異議決定がないとして、審査請求を行っていることから、異議申立ての適否について審理した結果、次のとおりである。
イ 請求人らは、当審判所に対し、本件公売中止申立書は異議申立書である旨の意思表示をしていることから、本件公売中止申立書を異議申立書として取り扱うことが相当と認められる。
 そして、本件公売中止申立書は、通則法第81条《異議申立書の記載事項等》第1項に規定する記載事項のうち、「異議申立てに係る処分」、「異議申立てに係る処分があったことを知った年月日」及び「異議申立ての趣旨及び理由」についての記載がなされていないことから、当審判所において、異議申立ての対象とする処分等について、請求人らに対してその補正を求めたところ、請求人らは、上記(1)のロのとおり、本件公売通知に対する本件公売処分の執行の中止の申立てである旨回答している。
 この回答内容から、本件公売中止申立ては、本件公売通知に対してその取消しを求めるものと解される。
ロ ところで、徴収法第96条第1項の規定に基づく公売通知は、同法第95条第1項の規定による公売公告をしたときは、滞納者には最後の納付の機会を与えるために、また、抵当権者等の第三者には公売参加の機会を与えるために、公売の日時、場所等の事項を通知するものであり、それ自体としては相手方の権利義務その他法律上の地位に影響を及ぼすものではない。
 そうすると、本件公売通知は、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分には該当しないというべきであり、この点に関する異議申立ては不適法なものといわざるを得ない。
ハ したがって、通則法第75条第5項は、異議申立てをした日の翌日から起算して3月を経過しても異議審理庁が異議決定をしないときは、審査請求ができる旨規定しているが、同項の規定は適法な異議申立てを前提とするものであり、本件公売中止申立ては上記のとおり適法な異議申立てとは認められないことから、この点に関する審査請求は、不適法なものである。

(5)原処分のその他の部分について、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙 関係法令の要旨

1 徴収法第47条《差押の要件》第1項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定している。
2 徴収法第68条《不動産の差押の手続及び効力発生時期》第1項は、不動産の差押えは、滞納者に対する差押書の送達により行う旨、同条第2項は、前項の差押えの効力は、その差押書が滞納者に送達された時に生ずる旨、同条第3項は、税務署長は、不動産を差し押さえたときは、差押えの登記を関係機関に嘱託しなければならない旨、同条第4項は、前項の差押えの登記が差押書の送達前にされた場合には同条第2項の規定にかかわらず、その登記がされた時に差押えの効力が生ずる旨規定している。
3 徴収法第104条《最高価申込者の決定》第1項は、徴収職員は、見積価額以上の入札者等のうち最高の価額による入札者等を最高価申込者として定めなければならない旨規定している。
4 徴収法第106条《入札又は競り売りの終了の告知等》第1項は、徴収職員は、最高価申込者等を定めたときは、直ちにその氏名及び価額を呼び上げた後、入札又は競り売りの終了を告知しなければならない旨規定し、第2項は、公売した財産が不動産等であるときは、税務署長は、最高価申込者等の氏名、その価額並びに売却決定をする日時及び場所を滞納者及び利害関係人のうち知れている者に通知するとともに、これらの事項を公告しなければならない旨規定している。
5 通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第5項は、国税局長に異議申立てをしている者は、異議申立てをした日の翌日から起算して3月を経過しても異議申立てについての決定がないときは、当該異議申立てに係る処分について、決定を経ないで、国税不服審判所長に対して審査請求をすることができる旨規定している。
6 通則法第81条《異議申立書の記載事項等》第1項は、異議申立ては、次に掲げる事項を記載した書面を提出してしなければならない旨規定している。
第1号 異議申立てに係る処分
第2号 異議申立てに係る処分があったことを知った年月日(当該処分に係る通知を受けた場合には、その受けた年月日)
第3号 異議申立ての趣旨及び理由
第4号 異議申立ての年月日
 また、第2項は、異議審理庁は、異議申立てが国税に関する法律の規定に従っていないもので補正することができるものであると認めるときは、相当の期間を定めて、その補正を求めなければならない。この場合において、不備が軽微なものであるときは、異議審理庁は、職権で補正することができる旨規定している。
7 通則法第105条《不服申立てと国税の徴収との関係》第1項は、国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立ては、その目的となった処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。ただし、その国税の徴収のため差し押さえた財産の滞納処分による換価は、その価額が著しく減少するおそれがあるとき、又は不服申立人から別段の申出があるときを除き、その不服申立てについての決定又は裁決があるまで、することができない旨規定し、同条第2項は、異議審理庁は、必要があると認めるときは、異議申立人の申立てにより、又は職権で、異議申立ての目的となった処分に係る国税の全部若しくは一部の徴収を猶予し、若しくは滞納処分の続行を停止し、又はこれらを命ずることができる旨規定している。

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