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(平18.6.29裁決、裁決事例集No.71 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、原処分庁が審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税に係る滞納国税を徴収するためにした債権の差押処分に対し、請求人が、当該差押処分の前提となる更正及び決定処分並びに加算税の賦課決定処分が無効であることなどを理由に差押処分の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、所得税の確定申告について、平成14年分は平成15年10月30日に申告し、平成16年分は法定申告期限までに申告したが、平成13年分及び平成15年分については申告しなかった(以下、平成16年分の申告書を「平成16年分申告書」という。)。
ロ 原処分庁は、平成17年7月5日付で、平成13年分及び平成15年分の所得税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分、平成14年分の所得税の更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分、並びに平成16年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、これらの各処分を併せて「本件各課税処分」という。)をした。そして、原処分庁所属の調査担当職員は、同日午前11時40分、本件各課税処分の通知書(以下「本件各課税通知書」という。)を国税通則法(以下「通則法」という。)第12条《書類の送達》第5項第2号の規定に基づき差し置くことにより、P市p町○−○(以下「p町住宅」という。)に送達した(以下、この差し置くことによる送達を「差置送達」という。)。
ハ 原処分庁は、平成17年7月5日午前11時40分、通則法第38条《繰上請求》第1項第5号の規定に基づいて、本件各課税処分により納付すべき別表1の国税(以下「本件滞納国税」という。)の納期限を同日午後零時10分に繰り上げる繰上請求(以下「本件繰上請求」という。)を行い、原処分庁所属の徴収担当職員は、繰上請求書(以下「本件繰上請求書」という。)をp町住宅に差置送達により送達した。
ニ 徴収担当職員は、本件滞納国税が上記ハの納期限までに完納されていないことから、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第142条《捜索の権限及び方法》に基づき、平成17年7月5日の午後零時13分から同40分まで、p町住宅にいた請求人のおばであるEを立会人として、p町住宅内の捜索(以下「本件捜索」という。)をし、捜索調書を作成してその謄本(以下「本件捜索調書謄本」という。)をEに交付した。
ホ 徴収担当職員は、平成17年7月5日付でF銀行○○支店において別表2の債権(以下「本件債権」という。)について差押処分(以下「本件差押処分」という。)を行い、本件差押処分に係る債権差押通知書を同日午後2時15分にF銀行○○支店所属の職員に対して交付し、さらに、請求人あての差押調書の謄本を翌6日にp町住宅に差置送達により送達した。
ヘ 請求人は、平成17年8月31日、本件差押処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月29日付で棄却の異議決定をした。
ト 請求人は、平成17年12月26日、本件各課税処分については異議申立てを経ないで、また、本件差押処分については異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、いずれに対しても審査請求をした。

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(3)関係法令等の要旨

イ 通則法第12条第5項第2号は、書類の送達を受けるべき者及び同項第1号に規定するその者の従業員又は同居の者で書類の受領について相当のわきまえのあるものが、当該送達を受けるべき者の住所又は居所(事務所及び事業所を含む。)にいない場合又はこれらの者が正当な理由がなく書類の受領を拒んだ場合には、交付送達は、送達すべき場所に書類を差し置くことにより交付に代え行うことができる旨規定している。
ロ 通則法第30条《更正又は決定の所轄庁》第1項は、更正又は決定は、これらの処分をする際におけるその国税の納税地を所轄する税務署長が行う旨規定している。
ハ 通則法第38条第1項第5号は、納税者が、偽りその他不正の行為により国税を免れ、若しくは免れようとし、若しくは国税の還付を受け、若しくは受けようとしたと認められるとき、又は納税者が国税の滞納処分の執行を免れ、若しくは免れようとしたと認められるときは、納付すべき税額の確定した国税の納期限を繰り上げ、その納付を請求することができる旨規定している。
ニ 徴収法第47条《差押の要件》第1項第2号は、納税者が通則法第37条《督促》第1項各号に掲げる国税をその納期限(繰上請求された国税については、当該請求に係る期限)までに完納しないときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定している。
ホ 国税徴収法基本通達第47条関係14には、繰上差押えをする場合には、差押調書の「備考」欄にその旨を付記する旨定めている。
ヘ 徴収法第142条第1項は、徴収職員は、滞納処分のために必要があるときは、滞納者の物又は住居その他の場所につき捜索することができる旨規定している。
ト 所得税法第15条《納税地》第1号及び第2号は、所得税の納税地は、国内に住所を有する場合はその住所地とし、国内に住所を有せず、居所を有する場合はその居所地とする旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の納税地は、調査担当職員が本件各課税処分に係る税務調査を開始した平成16年10月6日時点においては、p町住宅であった。
ロ 請求人は、平成17年1月21日、外国人登録原票上の居住地をp町住宅からQ市q町○○番地(以下「q町住宅」という。)に移転した。
ハ 請求人は、平成17年3月14日、平成16年分申告書をG税務署長に提出した。なお、当該申告書記載の住所は、R市r町○番地H様方(以下「H宅」という。)である。
ニ 請求人は、平成17年6月26日、日本を出国した。
ホ 本件捜索調書謄本の「納期限」欄には、平成17年8月5日の記載がなされている。

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2 主張

(1)請求人

 本件差押処分は、次の理由により本件各課税処分がいずれも無効であり、また、本件繰上請求書の送達及び本件捜索が違法であるから、原処分の全部の取消しを求める。
イ 請求人は、平成17年1月にp町住宅からq町住宅に住居を移し、平成16年分申告書の住所をH宅としてG税務署長に提出しており、J税務署の所轄外であることから、そもそも本件各課税処分はいずれも違法である。
ロ 請求人は、平成17年1月から同年6月までは上記イのとおり、Q市やG税務署所轄内の友人宅などにいた。その後、P市の友人宅を転々としたが、仕事がなかったこと及び同月に家族が入院し、その看病のため同月26日に日本を出国して、急きょK国の実家に帰省した。その間、p町住宅は親戚に貸したが、請求人の家財はそのままにしていた。
 原処分庁は、平成17年7月5日に本件各課税通知書をp町住宅に送達したとしているが、請求人は、本件各課税通知書が送達された同日にはK国へ出国しており、本件各課税通知書を見ることができない状態であった。本件各課税通知書を初めて見たのは、同年10月2日の再入国から同月21日の再出国までの間である。
 また、調査担当職員は、本件各課税通知書をたまたまK国から観光のために来日し、p町住宅にいた日本語のほとんどわからないEに送達しており、請求人は、本件各課税通知書がEに手渡されたことを知ることもできなかったのであるから、本件各課税通知書は請求人に送達されておらず、その送達は無効である。
ハ 原処分庁は、請求人が上記ロのとおり、本件各課税通知書を見ることもできない状態にありながら、財産を差し押さえる前提となる本件繰上請求書の送達をしたのは違法である。
ニ 徴収担当職員は、平成17年7月5日にEを立会人として、本件捜索をしているが、請求人が出国中に本件各課税処分に係る事情も日本語も分からない、また、徴収法第144条に規定する同居の親族でもないEを立ち会わせて行われた本件捜索は違法である。
 また、本件捜索調書謄本に記載された納期限が平成17年8月5日であるにもかかわらず、納期限前の同年7月5日に本件捜索を実施したのは違法である。
ホ 徴収法第47条第2項の繰上差押えを行う際は、差押調書の「備考」欄にその旨を付記する旨定められているにもかかわらず、その付記がない本件差押処分は違法である。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由によりいずれも適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各課税処分の適法性について
 課税処分は、国税の納税義務を具体化し、その納付すべき税額を確定させることを目的とする処分であるのに対し、差押処分は、その具体化し確定した納税義務の強制履行を目的としてなされる徴収処分手続の一環であり、課税処分と差押処分とは、それぞれ別個の法律効果を目的とする独立した行政処分である。
 そうすると、課税処分が重大かつ明白な瑕疵のため無効であるか又は違法を理由として、差押処分時に権限のある機関によって取り消された場合には、課税処分を前提とした差押処分の違法を招来するが、課税処分に存する違法又は不当が単に取消し得べき瑕疵にすぎないときは、それが取り消されない限り差押処分は有効であるから、課税処分の違法又は不当を理由として差押処分の取消しを求めることはできない。
(イ)本件各課税処分の所轄庁について
 請求人の住所又は居所については、次の事実が認められる。
A 請求人は、q町住宅には平成17年1月24日に入居し、同年2月6日には退去している。
B 請求人は、平成16年分申告書をG税務署長に提出している。そして、当該申告書の住所欄に記載されているH宅のLは、調査担当職員に対し、請求人を平成17年1月中旬頃から同年4月末頃までの間、週1回程度の割合でH宅に宿泊させた旨、及びG税務署長から請求人あての郵便物をp町住宅に転送した記憶がある旨申し述べている。
C 請求人は、請求人の通訳業務に係る収入先の一つであるYとの間で交わした平成17年3月24日に作成された契約書(通訳・翻訳業務委託契約に係るもの)に、住所としてp町住宅を記載している。
D 請求人は、同人の通訳業務に係る収入先の一つであるZに提出した平成14年6月21日付の通訳業務の登録に係る「口座振込及び住所変更申出書」には、住所としてp町住宅及び同所の電話番号を記載し、その後本件各課税処分の時点において変更されていない。
 上記各事実から、本件各課税処分時において、請求人は、外国人登録上の居住地であるq町住宅及び平成16年分申告書に記載したH宅のいずれにも居住していなかったことは明らかである。さらに、請求人が郵便物を受領する等の連絡先として外部に表示し、実際に書類の送付を受けていたのはp町住宅である。
 以上のとおり、請求人の本件各課税処分時における住所又は居所、すなわち納税地はp町住宅であると認められ、当該納税地を所轄する原処分庁が本件各課税処分を行ったことは適法である。
(ロ)本件各課税通知書の送達の適法性について
 通則法第12条第5項第2号は、送付すべき場所に書類を差し置くことにより、交付送達を行うことができる旨規定している。
 また、書類の送達の効力は、その書類が社会通念上送逹を受けるべき者の支配下に入ったと認められるとき、すなわち、送達を受けるべき者又は代理受領者がその書類を了知し得る状態に置かれたときに生ずるものと解されている。
 これを本件についてみると、上記(イ)のとおり請求人の納税地は、p町住宅と認められ、本件各課税通知書の送達すべき場所に当たる。
 そして、請求人が本件各課税通知書を現実に受領したかどうかにかかわらず、本件各課税通知書がp町住宅に差し置かれたことにより、請求人が本件各課税通知書を了知し得る状態となっており、この時点で本件各課税通知書の送達の効力が生じている。
 したがって、本件各課税通知書の送達は適法に行われている。
ロ 本件差押処分の適法性について
 徴収法第47条第1項第2号は、納税者が通則法第37条第1項各号に掲げる国税をその納期限(繰上請求がされた国税については、当該請求に係る期限)までに完納しないときは、徴収職員は滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定している。
 本件において、徴収担当職員は、繰上請求に係る期限を平成17年7月5日午後零時10分とする本件繰上請求書をp町住宅に同日午前11時40分に送達し、本件滞納国税が繰上請求に係る期限までに完納されなかったことから、本件差押処分を行ったもので、本件差押処分は適法であり、本件捜索は、本件差押処分の適法性に影響を与えるものではない。
 また、本件差押処分は、徴収法第54条《差押調書》及び同第62条《差押えの手続及び効力発生時期》に規定する差押手続においても適法である。

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3 判断

 本件審査請求は、本件各課税処分の無効及び本件繰上請求の違法等を理由として、本件差押処分の取消しを求めているので、審理したところ、以下のとおりである。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、平成16年分申告書及び当該申告書に添付した平成16年分収支内訳書に、通訳、翻訳業としての事業収入を計上し、経費として5名の従業員に対する給料賃金の支払、並びに建物、内装工事及びパソコン3台分の減価償却費を計上し、当該建物の減価償却費の計算に当たっては平成14年2月に○○○○円で取得し、その50%を事業の用に供している旨記載した。
ロ 調査担当職員は、平成16年10月6日、請求人の所得税調査に着手し、当該調査に当たって臨場したp町住宅が請求人の通訳及び翻訳業等の事業所兼居宅用であることを確認している。
ハ 調査担当職員は、平成16年12月6日、請求人に対し、平成13年分ないし平成16年分の事業所得に係る調査額の提示を行ったが、それ以降本件差押処分のときまで、請求人と連絡が取れなかった。
ニ 請求人は、平成17年1月21日、p町住宅からq町住宅へ外国人登録原票上の居住地を移し、平成17年1月23日から同年2月6日までの間、株式会社○○からq町住宅を賃借している。
ホ 請求人が平成17年3月14日にG税務署長に提出した平成16年分申告書に記載したH宅は、Hの住所である。
ヘ Hの妻であるLは、調査担当職員に対し、請求人が長男○○の友人なので、平成17年1月から同年4月までの間に週1回程度請求人を泊めており、その後、H宅にG税務署長から請求人あての郵便物が届いたので、Lがp町住宅に転送した記憶がある旨申し述べている。
ト p町住宅の管理人(以下「本件管理人」という。)は、調査担当職員に対し、平成17年5月16日午後1時30分ころ請求人とp町住宅の1階階段付近で遭遇し、会話をした旨、また、同年6月24日に請求人が本件管理人を訪ね、同年6月分の管理費を現金で支払った上、今後は「M」という女性が同所に住むことになると話をした旨申述している。
チ 請求人は、平成17年5月23日、F銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座から○○○○円を引き出し、平成17年6月22日、同支店の請求人名義の外貨預金口座から○○○○円を引き出した。
リ 請求人は、平成17年6月7日、p町住宅(平成14年2月取得)の土地建物の請求人の区分所有権を真正な名義回復を理由に請求人の弟である○○に名義変更している。
ヌ 請求人は、平成17年6月26日、法務省○○入国管理局の再入国許可による出国をし、出国に当たり外国人登録を抹消せず、また、納税管理人の指定を行わず、年の途中で出国する際に提出すべき所得税の確定申告書も提出しなかった。
ル 請求人は、外国人登録をp町住宅からq町住宅へ移した後、翻訳・通訳の業務請負先であるY及びZ等に対し、郵便及び報酬の受取先としての届出住所をp町住宅から変更していない。また、請求人は、上記ヌの平成17年6月26日の出国に際し、上記業務請負先に対して契約の解除を申し入れてはいない。
ヲ Eは、平成17年7月5日、調査担当職員がp町住宅を訪問した際、調査担当職員に対し、〔1〕当初、「請求人については全く知らず、Mの紹介で滞在している」旨述べていたが、〔2〕EのK国の住所を確認したところ請求人の住所と同じであることから、再度、請求人との関係を確認した結果、「Mなる人物は知らず、請求人の承諾を得て使用している」旨を述べ、〔3〕同年6月16日から同年7月6日までの予定で観光目的のため日本に来ており、請求人の同意を得て同年6月30日からp町住宅にいること、〔4〕「家財一式は請求人のもので、パソコンや日常生活品がそのまま残っている」こと、〔5〕「p町住宅にいる猫2匹は、請求人の飼い猫であり、Eが餌を与えて世話を行っている」ことなどを申述している。
ワ 本件捜索によって原処分庁が差し押さえた財産はない。
カ 本件捜索を行った徴収担当職員とは別の徴収担当職員は、本件捜索を行う以前に調査担当職員が所得税の調査で把握していた資料に基づいて、平成17年7月5日、F銀行○○支店に臨場し、本件繰上請求書に記載された日時までに本件滞納国税が完納されないことを確認した上、本件債権について本件差押処分を行った。
ヨ 請求人が上記1の(2)のヘで異議審理庁に提出した異議申立書の標題には、「勝手に銀行口座を差し押さえたことに対して異議を申し立てます」との記載があり、併せて書類の送達の無効を理由とする旨の記載がある。
タ 請求人が審査請求書と同時に提出した平成17年8月31日付の「確認書」と題する書面には、「1.異議申立ての対象である処分について J 税務署が、平成17年7月5日付で行った F 銀行○○支店の証券投資信託の差押えについて異議申立てする」との記載があり、併せて争点を差し置かれた本件各課税通知書の送達の無効についてである旨の記載がある。

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(2)本件各課税処分について

 請求人は、本件各課税処分の無効を理由に本件差押処分の違法を主張するので、審理したところ、次のとおりである。
 課税処分は、国税の納付義務を具体化し、その納付すべき税額を確定させることを目的とする手続であるのに対し、差押処分は既に具体化し確定した納税義務の強制履行を目的としてなされる滞納処分手続の一環であり、課税処分と滞納処分とはそれぞれ別個の法律的効果を目的とする独立した行政処分であり、結合して単一の法律効果を生ずるものではない。
 そして、課税処分に存在する瑕疵が重大かつ明白であり、当該課税処分が無効である場合は、これに基づく差押処分はその根基を欠くものとして違法というべきであるが、その瑕疵が取消原因となるにとどまるときは、それが差押処分の時点において権限ある機関によって取り消されない限り、これに基づく差押処分は適法である。
イ 本件各課税処分の所轄庁
 通則法第30条第1項は、更正又は決定は、これらの処分をする際におけるその国税の納税地を所轄する税務署長が行う旨規定し、通則法第33条第1項は、賦課決定は、賦課決定の際におけるその国税の納税地を所轄する税務署長が行う旨規定している。
 また、所得税法第15条第1号及び第2号は、所得税の納税地は、国内に住所を有する場合はその住所地とし、国内に住所を有せず、居所を有する場合はその居所地とする旨規定している。
 そして、住所とは、その者の生活の本拠をいい(民法第22条)、住所が知れない場合には、居所を住所とみなす(民法第23条)が、一般に、居所とは、人が多少の期間継続して居住しているが、生活の本拠という程度に至らないものをいい、その認定に当たっては、各般の客観的事実を総合的に判断すべきものであると解される。
 これを本件についてみると、請求人は、外国人登録をp町住宅からq町住宅に変更し、平成16年分申告書提出の際の住所はH宅でありG税務署所轄内であるから、原処分庁の所轄外である旨主張する。
 しかしながら、外国人登録の住所地が生活の本拠となるとは限らず、上記(1)のニないしへの各事実からすると、請求人は、外国人登録上の居住地であるq町住宅及びH宅には一時的に滞在していたにすぎず、これらの地を本拠として生活を営んでいたものとは認められない。
 そして、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる上記2の(2)のイの(イ)のC及びDの原処分庁が主張する各事実及び上記(1)のトの本件管理人並びにヲのEの申述、そして、再入国の許可を受けて出国していることからすると、請求人は、本件各課税処分を免れるために一時的に外国人登録上の住所を変えていたと推認することができ、請求人が転居したとは認められないことから、請求人の生活の本拠はp町住宅であると認められる。
 以上のとおり、請求人の本件各課税処分時における納税地はp町住宅であると認められ、通則法第30条第1項の規定に基づき、当該納税地を所轄する原処分庁が本件各課税処分を行ったことは適法である。
ロ 送達の適否
(イ)本件各課税通知書の送達場所
 通則法第12条第1項は、税務署長又はその職員が発する書類は、郵便若しくは民間事業者による信書の送達による送達又は交付送達により、その送達を受けるべき者の住所又は居所(事務所及び事業所を含む。)に送達する旨規定している。
 本件についてみると、上記イのとおり、請求人の納税地はp町住宅であると認められ、また、請求人は、上記(1)のルのとおり、Y及びZに対し、郵便物を受領する等の連絡先としてp町住宅を明示しており、さらに、上記(1)のイ及びロの各事実から、請求人は、p町住宅で事業を行っていたと認められることから、p町住宅は請求人の事業所でもあったと推認される。したがって、原処分庁が、本件各課税通知書をp町住宅に送達したことは適法である。
(ロ)本件各課税通知書の送達方法
 請求人は、平成17年6月26日、K国へ出国し、送達時には本件各課税通知書を見ることができない状態であったのであるから、本件各課税通知書の送達は無効である旨主張する。
 ところで、通則法第12条第5項第2号は、書類の送達を受けるべき者が送達すべき場所にいない場合又はこれらの者が正当な理由なく書類の受領を拒んだ場合、送達すべき場所に書類を差し置くことにより交付送達を行うことができる旨規定している。そして、送達の効力は、書類が送達の相手方の支配下に入れば生ずるものと解される。
 これを本件についてみると、確かに、請求人は、本件各課税通知書の送達の日である平成17年7月5日は既に出国していた事実が認められる。しかし、請求人の主張によれば、請求人がK国へ出国したのは、家族の入院などにより急きょ出国することになったものである。そして、上記の各認定事実のとおり、請求人は、出国した同年6月26日時点において、〔1〕法務省○○入国管理局の「再入国許可による出国」を受けて出国していること、〔2〕請求人の事業である翻訳・通訳の業務の相手先であるY及びZに連絡先の変更をしていないこと、〔3〕年の途中で出国する際には提出しなければならない所得税の確定申告を行っていないこと、〔4〕外国人登録の抹消を行っていないこと、〔5〕p町住宅には請求人のパソコン及び日常生活品などの家財一式を置いたままであること、〔6〕請求人の飼い猫をp町住宅にそのまま残していることが認められ、これらの事実を総合的に判断すれば、請求人の出国は一時的なものであったと認められる。
 したがって、請求人が出国しp町住宅にいなかったとしても、本件各課税通知書は、平成17年7月5日、請求人の納税地であるp町住宅に差置送達されたことで請求人の支配下に入ったものといえることから、同日、本件各課税通知書が差し置かれたことにより本件各課税通知書の差置送達は適法に行われており、その効力が生じている。
ハ 結論
 以上のとおり、請求人の本件各課税処分時における納税地はp町住宅であると認められ、当該納税地を所轄する原処分庁が本件各課税処分を行ったことは適法であり、本件各課税通知書は、事業所兼住所であったp町住宅に差置送達されたことにより効力が発生しているのであるから、本件各課税処分は有効であり、その他本件各課税処分に重大かつ明白な瑕疵は認められず、請求人の主張には理由がない。

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(3)本件繰上請求の適否

 通則法第38条第1項は、本来の納期限まで待っていたのでは、国税債権の満足な実現が図れないおそれがある場合に、一定要件のもと、納期限を繰り上げ、直ちに徴収の確保を図るために繰上請求を認めており、同項第5号は、納税者が偽りその他不正の行為により国税を免れ、若しくは免れようとし、若しくは国税の還付を受け、若しくは受けようとしたと認められるとき、又は納税者が国税の滞納処分の執行を免れ、若しくは免れようとしたと認められるときは、その納期限を繰り上げ、その納付を請求することができる旨規定している。
 これを本件についてみると、本件繰上請求書は、本件各課税通知書と同様にp町住宅に差置送達されており、上記(2)のロのとおり、送達場所及び送達の方法はいずれも適法である。
 そして、調査担当職員が平成16年12月に請求人に対して調査額の提示を行った後に、請求人が、〔1〕原処分庁への連絡を絶って、外国人登録をp町住宅からq町住宅へ移し、友人宅などを転々と移動していること、〔2〕F銀行○○支店の請求人名義口座から短期間に多額の預金を引き出していること、〔3〕p町住宅の不動産の請求人の区分所有権を弟名義に変更していることなどは、請求人が本件各課税通知書に係る滞納処分の執行を免れるために行ったものであると認められ、また、これらの事実から、納期限(平成17年8月5日)まで待っていては、国税債権の満足な実現が図られないおそれがあり、かつ、通則法第38条第1項5号に規定する「納税者が国税の滞納処分の執行を免れ、若しくは免れようとしたと認められるとき」に該当することが認められる。
 したがって、本件繰上請求は、その要件を満たす適法なものである。

(4)本件差押処分について

イ 請求人は、徴収法第47条第2項の繰上差押えを行う際は、差押調書の「備考」欄にその旨を付記する旨定められているにもかかわらず、その付記がない本件差押処分は違法である旨主張する。
 確かに、本件差押処分に係る差押調書の「備考」欄には、繰上差押えによる旨の記載はない。しかし、国税徴収法基本通達第47条関係14において繰上差押えをした場合にその旨を「備考」欄に記載する旨の定めは、納期限までに完納しない者に対して督促状を発した場合に、滞納者にとっては、督促状を発した日から起算して10日を経過した日までは差押えを受けないと考えており、その旨の通知を受けないと繰上差押えがされていることがわからないことから定められたものであるところ、本件は、納期限までに待っていては国税の徴収が図られないことから、督促状を発することなく繰上請求によって納期限を繰り上げて差し押さえた場合であることから、当該通達の定めには該当しない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、徴収法第144条に規定する同居の親族でないEを立ち会わせたこと、及び本件捜索調書謄本の納期限と本件繰上請求書に記載された納期限が異なることを理由に本件捜索は違法である旨主張する。
 しかしながら、本件差押処分は、上記(1)のカのとおり、本件捜索により判明した資料に基づいて行われたものではなく、本件捜索以前に既に把握していた資料に基づいて行われたものであることから、本件捜索の適否が本件差押処分の適法性に影響を与えるものではない。
 また、徴収法第47条第1項第2号は、繰上請求された国税が、当該請求に係る期限までに完納されないときには、徴収職員は滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定し、徴収法第54条第2号は、債権を差し押さえたときは、差押調書の謄本を滞納者に交付しなければならない旨規定し、徴収法第62条第1項は、債権の差押えは、第三債務者に対する債権差押通知書の送達により行う旨規定している。
 これを本件についてみると、本件差押処分は、本件繰上請求に係る期限までに本件滞納国税が完納されなかったことから、徴収法第62条第1項の規定に基づき、F銀行○○支店の職員に対して債権差押通知書を交付して行われ、その後、徴収法第54条に基づく差押調書の謄本が請求人に送達されたことが認められ、本件差押処分は適法であることが認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(5)本件各課税処分に対する審査請求について

 請求人が平成17年8月31日に異議審理庁に提出した異議申立書によれば、本件各課税通知書の送達の無効を理由に本件各課税処分に係る不服申立てとも受け取れる記載もあるところ、本件各課税通知書の送達が有効であることは上記のとおりであり、その他請求人が本件各課税処分について異議申立てをしないで審査請求をすることにつき正当な理由は認められない。
 したがって、本件各課税処分の取消しを求める審査請求は、〔1〕通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第3項に規定する異議決定を経たものでないこと、及び〔2〕同条第4項に規定する異議申立てをしないで審査請求をすることができる場合にも該当しないことから、不適法なものである。

(6)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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