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(平18.6.19裁決、裁決事例集No.71 21頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が平成16年分の所得税の確定申告をした後、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の指摘を受けて修正申告をしたところ、原処分庁が過少申告加算税の賦課決定処分をしたことから、請求人が、確定申告において過少申告になったのは単なる記載誤りなどによるものであるから、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するとして、その全部の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ  請求人は、平成16年分の所得税について、青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、平成17年3月15日に申告した(以下「本件確定申告」という。)

項目\区分確定申告修正申告等
総所得金額○○○○円○○○○円
内訳
 給与所得の金額○○○○○○○○
 不動産所得の金額○○○○○○○○
納付すべき税額○○○○○○○○
過少申告加算税の額 ○○○○

ロ 請求人は、本件調査担当職員の指摘に基づき、平成17年8月4日に上記イの表の「修正申告等」欄のとおりの修正申告(以下「本件修正申告」という。)をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成17年9月30日付で上記イの表の「修正申告等」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件賦課決定処分及び本件修正申告に係る延滞税(以下「本件延滞税」という。)に不服があるとして、平成17年11月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成18年2月10日付で本件賦課決定処分については棄却、本件延滞税については却下の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の本件賦課決定処分及び本件延滞税に不服があるとして、平成18年3月7日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 通則法第65条第1項は、期限内申告書(還付請求申告書を含む。)が提出された場合において、修正申告書の提出があったときは、当該納税者に対し、その修正申告に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定し、同条第2項は、第1項に規定する納付すべき税額が期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分に係る過少申告加算税の額は、第1項の規定による過少申告加算税の額に、その超える部分に相当する金額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。
ロ 通則法第65条第4項は、上記イの納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、その修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額を控除する旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件確定申告の際に添付した青色申告決算書(不動産所得用)(以下「本件決算書」という。)において、〔1〕不動産所得の収入金額から平成14年分及び平成15年分の不動産所得の損失の金額として○○○○円を控除し、また、〔2〕請求人が受けたヘリコプター操縦訓練の費用○○○○円を、マンション空撮ヘリ操縦訓練費として不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した。
ロ 請求人は、本件調査担当職員から、平成16年分の不動産所得の金額の計算上、上記イの〔1〕の損失を収入金額から控除することはできないこと及び上記イの〔2〕の費用を必要経費に算入することはできないことを指摘されて、本件修正申告をした。

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2 主張

(1)請求人

イ 本件賦課決定処分について
 本件賦課決定処分は、次の理由により違法であるから、その全部が取り消されるべきである。
(イ)本件確定申告が過少申告となった原因は、単なる記載誤り及び法律に明示されていない事項の解釈誤りによるものであり、悪意がないのであるから、社会通念的には「正当な理由があると認められる場合」に該当する。
(ロ)原処分庁から本件確定申告の過少申告を指摘された後、直ちに適正な税金を納めていることからも過少申告加算税を課することは酷であり、不当である。
ロ 本件延滞税について
 次の理由により、本件延滞税は取り消されるべきである。
 原処分庁は、本件確定申告に基づき税金を請求人に還付しておきながら、その後、本件修正申告をしたことによって、一度還付した税金にまで延滞税を課するのは納得できない。

(2)原処分庁

イ 本件賦課決定処分について
 次の理由により本件賦課決定処分は適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
 通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、例えば、税法の解釈に関して申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い修正申告し、又は災害若しくは盗難等に関し、申告当時損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金等の支払を受け、若しくは盗難品の返還を受けたため修正申告した場合など申告当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により、納税者の故意又は過失に基づかずして過少申告となった場合のように当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、こうした納税者に過少申告加算税を課することが不当又は酷になる場合であって、本件はこれに該当しない。
ロ 本件延滞税について
 次の理由により、却下の裁決を求める。
 延滞税は、通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項の規定により、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税であり、かつ、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項第1号に規定する処分には該当しない。

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3 判断

(1)本件賦課決定処分について

イ 請求人は、当審判所に対して、要旨次のとおり答述した。
(イ)本件確定申告は、原処分庁から送付されてきた「平成16年分青色申告決算書(不動産所得用)の書き方」と「所得税の確定申告書の手引き〜確定申告書B〜」を参考にして自分で作成し、原処分庁の職員には相談していない。
(ロ)本件決算書において、平成14年分及び平成15年分の不動産所得の損失の金額として○○○○円を不動産所得の収入金額から控除したのは、既に平成14年分及び平成15年分の各年分において損益通算したことを失念したためである。
(ハ)本件決算書において、マンション空撮ヘリ操縦訓練費○○○○円を不動産所得の必要経費に算入したのは、不動産賃貸に関係する費用として必要経費になると思っていたからである。
ロ 法令解釈
 通則法第65条第4項は、上記1の(3)のロのとおり規定しているが、そもそも過少申告加算税は、納税者自らが課税標準を決定し、これに税率を適用して税額を算出して申告することによって、第一次的に納付すべき税額を確定させるという、いわゆる申告納税制度のもとでは、当初から適正な申告をした者とこれを怠った者との間に生じる不公平を是正するとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、申告秩序の維持を図るために賦課されるものと解される。
 したがって、過少申告加算税は、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課される性質のものと解され、また、過少申告加算税を課されない場合である通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、具体的には、〔1〕税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い修正申告をし、又は更正を受けるに至った場合、〔2〕災害又は盗難等に関し、申告当時に損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払を受け、又は盗難品の返還を受ける等のため修正申告をし、又は更正を受けるに至った場合等のように、申告時においては、その当時の諸状況に照らして適法と認められるべきであった申告が、その後の事情の変更等により、納税者の故意過失に基づかないで当該申告が過少となった場合のように、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、納税者に過少申告加算税を課することが、不当若しくは酷になる場合を意味するものと解され、その過少申告が納税者の税法の不知又は誤解によるなどの納税者の単なる主観的な事情に基づくような場合までを含むものではないと解される。
ハ これを本件についてみると、請求人は、本件確定申告が過少申告となった原因である、〔1〕平成16年分の不動産所得の収入金額から平成14年分及び平成15年分の不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額として○○○○円を控除し、また、〔2〕請求人本人のヘリコプター操縦訓練費用を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入したことについて、単なる記載誤りや法律に明示されていない事項の解釈誤りによるものであり、悪意がないのであるから、社会通念的には「正当な理由があると認められる場合」に該当する旨主張する。
 しかしながら、過少申告が単なる記載誤りや法律に明示されていない事項の解釈誤りによるものであって悪意がない場合であっても、上記ロのとおり、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」には該当しないから、この点に関する請求人の主張は採用することはできない。
ニ また、請求人は、原処分庁から本件確定申告の誤りを指摘された後、直ちに適正な税金を納めていることからも過少申告加算税を課することは酷であり、不当である旨主張する。
 しかしながら、過少申告加算税は上記ロのとおり「正当な理由があると認められるものがある場合」を除き、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課される性質のものと解されるから、本件調査担当職員の指摘に基づき、修正申告と同時に納付すべき税金を納付したことをもって過少申告加算税が課されないことにはならず、請求人の主張は理由がない。
ホ 本件において、他に通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」には該当しないから、同条第1項及び第2項の規定に基づきなされた本件賦課決定処分は適法である。

(2)本件延滞税について

 請求人は、本件延滞税の取消しを求めているが、延滞税は、通則法第15条第3項及び第60条《延滞税》の規定により、所定の要件を充足することによって法律上当然に納税義務が成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものであって、国税に関する法律に基づく処分によって確定するものではない。
 したがって、本件延滞税についての審査請求は、通則法第75条第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分が存在しないにもかかわらずなされた不適法なものである。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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