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(平18.2.2裁決、裁決事例集No.71 118頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、a国において締結したリミテッド・パートナーシップ契約(以下「LPS契約」といい、LPS契約によって構成される仕組みを「LPS」という。)に基づいて請求人に配分された損益を不動産所得として申告したことについて、原処分庁が、請求人がそのLPSから得た分配額は配当所得であるとして原処分を行ったのに対して、請求人が、そのLPSは我が国の民法上の組合に類似するものであり、そのLPSが受益権を有する別のLPSがa国所在の不動産を賃貸して生じた収入金額及び必要経費は不動産所得として請求人に帰属(パス・スルー)することになると主張して、その全部の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年分、平成12年分及び平成13年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税の確定申告に当たり、本件LPSの損益のうち本件LPSに対する自らの出資割合に対応する額を不動産所得として、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 請求人は、平成12年9月7日に、別表1の(1)平成11年分の「修正申告等」欄のとおりの修正申告書を提出したところ、原処分庁は、同欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 原処分庁は、平成15年3月7日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、各年分の所得税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、「本件各更正処分」と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
ニ 請求人は、本件各更正処分等に不服があるとして、平成15年5月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月1日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の本件各更正処分等に不服があるとして、平成15年8月29日に審査請求をした。

(3)関係法令等

 本件における関係法令等の要旨は、別紙1に記載のとおりである。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件LPS契約
(イ)請求人は、L社のa国現地法人であるJ社の仲介によって、K・リミテッド・パートナーシップ(以下「KLPS」という。)との間で、a国h州の改定統一リミテッド・パートナーシップ法(以下「州LPS法」という。)に準拠して、1996(平成8)年3月27日付で「H・リミテッド・パートナーシップ」と称する契約(以下「本件LPS契約」といい、本件LPS契約によって構成される仕組みを「本件LPS」という。)を締結した(以下、その契約書を「本件LPS契約書」という。)。
(ロ)本件LPSの事業目的は、a国のc州、d州及びb州に不動産を保有するM・リミテッド・パートナーシップ(後にN・リミテッド・パートナーシップに名称変更された。以下「本件財産LPS」という。)の「interest」(その内容は、後記3の(1)のロの(ニ)のとおり。以下「受益権」という。)の取得、保有及び処分である。
(ハ)請求人は、1996(平成8)年3月27日に、本件LPS契約に基づいて、a国法人R社を介して、本件LPSに○○○○ドル(以下、この金額を「本件投資金額」という。)を出資し、本件LPSの受益権の50.4%を有するリミテッド・パートナー(以下「LP」という。)となった。
(ニ)KLPSは、本件LPSに対して、本件LPSが想定する不動産投資事業に係る不動産に対する○○○○ドル相当の受益権を出資し、本件LPSの受益権の49.6%を有するゼネラル・パートナー(以下「GP」という。)となった。
 KLPSは、a国において、不動産事業等を展開していたSグループ(1996(平成8)年にNグループに名称変更された)の1社である(Nグループは、1998(平成10)年にa国において不動産事業等を行うT社に吸収合併されたため、KLPSもT社の1社となった。)。
ロ 本件財産LPS契約
(イ)本件LPSとMU社は、本件LPS契約締結と同時期に、本件LPS契約が想定する不動産事業に係る不動産の所有権の移転を受け、保有する目的で、州LPS法に準拠して、本件財産LPSに係る契約を締結した。
(ロ)本件LPSは、そのGP及びLP(請求人)が出資した金額の合計額(○○○○ドル)を本件財産LPSに出資して、本件財産LPSの受益権の99%を有するLPとなった。その結果、請求人が本件LPSを通じて本件財産LPSに対して有する受益権は、49.896%(=請求人の本件LPSに対する出資比率50.4%×本件LPSの本件財産LPSに対する出資比率99%)の割合となった。
(ハ)MU社は、本件財産LPSの受益権の1%を有するGPである。
ハ 本件財産LPSによる不動産賃貸
(イ)本件財産LPSは、以下の不動産(以下「本件不動産」という。)を所有している。

不動産の名称戸数所在地
 W不動産○○○a国b州
 X不動産○○○a国c州
 Y不動産○○○a国d州
 Z不動産○○○a国c州
  合計○○○

(ロ)本件財産LPSは、本件不動産の賃貸業務に関して、1996(平成8)年3月27日に、不動産経営管理契約を締結して、Seリミテッド・パートナーシップにX不動産及びZ不動産の、Sfリミテッド・パートナーシップにW不動産及びY不動産の賃貸業務に関するすべての権限を与え、その管理運営を委任した。
ニ 請求人のa国における納税
 請求人は、a国において、本件LPSに係る各年分の所得に対するa国税及びd州税を、確定申告、源泉徴収及び予定納税により納付している。その納付合計額は、平成11年分○○○○円(国税○○○○円及び州税○○○○円)、平成12年分○○○○円(国税○○○○円及び州税○○○○円)及び平成13年分○○○○円(国税○○○○円及び州税○○○○円)である。なお、このほか平成13年分において、請求人は、a国税○○○○円を源泉徴収により納付しており、これを日本の確定申告において同年分の外国税額控除に関する外国所得税額として申告している。
ホ 請求人の本件LPSからの脱退
(イ)請求人は、平成14年7月29日に、a国Tgリミテッド・パートナーに対して、本件LPSの受益権を譲渡し、その対価として○○○○ドルを得た。
(ロ)請求人は、上記(イ)の譲渡に関する収入金額を○○○○円、その取得価額を○○○○円、その「資本戻し金額」を○○○○円(取得価額から減算している。)及び株式の譲渡所得金額を○○○○円と計算して、原処分庁に平成14年分の所得税の確定申告書を提出している。
ヘ 州LPS法には次のとおり規定されている。
(イ)「パートナーシップの受益権(partnership interest)」とは、リミテッド・パートナーシップの損益のうちのパートナーの取り分(share)及びパートナーシップの資産の分配物(distributions)を受領する権利を意味する。
(ロ)リミテッド・パートナーシップを組成するためには、1名以上の者(ゼネラル・パートナーについては全員)がリミテッド・パートナーシップ証明書に署名しなければならない。同証明書は州○○事務所に提出する。
 本法に基づき組成されたリミテッド・パートナーシップは別個の法律上の主体(separate legal entity)であり、その別個の法律上の主体としての存在は、リミテッド・パートナーシップ証明書が取り消されるまで継続する。
(ハ)パートナーシップの受益権は人的財産(personal property)である。パートナーはリミテッド・パートナーシップの特定の財産に対しては持分を有しない。
(ニ)リミテッド・パートナーシップの損益は、パートナーシップ契約に定める方法により、パートナーの間で、及びパートナーの種類又はグループの間で、配分されるものとする。パートナーシップ契約に定めがない場合には、損益は、各パートナーが行った出資(リミテッド・パートナーシップにより受領され、返還されていない範囲まで)の合意価額(リミテッド・パートナーシップの登録に記載されるもの)に基づいて配分されるものとする。
(ホ)本法で規定されていない事項については、h州改定統一パートナーシップ法が適用される。
 同パートナーシップ法は、以下のとおり、規定されている。
A パートナーシップ存在証明書及びパートナーシップ契約に別段の定めがない限り、パートナーシップは、そのパートナーとは区別される別個の法律上の主体である。
B パートナーシップ存在証明書及びパートナーシップ契約に別段の定めがない限り、パートナーシップが取得した財産は、パートナーシップの財産であり、パートナー各人の財産ではない。
C パートナーシップは、そのパートナーシップの名前により訴訟を提起し、かつ、訴訟を受けることができる。
ト 請求人による不動産所得の計算
(イ)請求人が、各年分の確定申告等において、不動産所得として申告した本件LPSの収入金額及び必要経費は、下表のとおりである。

(単位:円)
年分1999(平成11)年2000(平成12)年2001(平成13)年
総収入金額○○○○○○○○○○○○
必要経費○○○○○○○○○○○○
所得金額△ ○○○○△ ○○○○△ ○○○○

(注)△印は、損失金額を示す。
(ロ)上記の必要経費には、本件LPSのドル建て必要経費のほか、請求人の本件不動産に係る減価償却費及び請求人が個別に直接支出した金額(固有経費)が下表のとおり含まれている。

(単位:円)
年分1999(平成11)年2000(平成12)年2001(平成13)年
減価償却費115,793,407107,604,953108,544,208
固有経費42,026,28212,022,3251,394,391
合計157,819,68919,627,278109,938,599

(ハ)請求人は、減価償却費の計算に当たり、本件投資金額である○○○○ドル及びGPの出資価額である約○○○○ドルに、本件財産LPSのGPがa国h州の法人であるF社からの借入金○○○○ドルを加算した金額2,641万ドルのうち、約1,318万ドル(2,641万ドル×本件財産LPSへの出資割合99%×請求人の出資割合50.4%)を、請求人の本件不動産の取得価額に相当する額として減価償却費の計算を行い、これを請求人に帰属(パス・スルー)するものとして、請求人の各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入している。
チ 原処分庁の認定
 原処分庁は、本件財産LPSが依頼した会計事務所の会計監査の日を本件財産LPS及び本件LPSの配当決議の日として、次のとおり、請求人に対して利益の配当がなされたと認定した。
(イ)平成11年分
 平成10年会計年度(1998年1月1日から同年12月31日)における利益の配当として、1999(平成11)年3月19日に、○○○○ドルを配当する旨の決議がなされた。
(ロ)平成12年分
 平成11年会計年度(1999年1月1日から同年12月31日)における利益の配当として、2000(平成12)年3月6日に、○○○○ドルを配当する旨の決議がなされた。
(ハ)平成13年分
 平成12年会計年度(2000年1月1日から同年12月31日)における利益の配当として、2001(平成13)年3月7日に、○○○○ドルを配当する旨の決議がなされた。

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2 主張

 原処分庁は、別紙2の「原処分庁」欄記載のとおり、原処分は適法であると主張し、請求人は、別紙2の「審査請求人」欄記載のとおり、原処分は違法であると主張している(配当所得であるか否かに関する当事者双方の主張を争点(1)に、不動産所得又は事業所得であるか否かに関する当事者双方の主張を争点(2)に、請求人のその余の主張を争点(3)及び争点(4)に記載した。)。

3 判断

(1)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人が本件不動産を投資対象とした経緯
(イ)請求人は、平成○年に、○○社の株式が店頭公開されたことに伴い多額の利益を得て、その資産運用についてL社○○支店に相談したところ、L社本店経由でJ社を紹介された。請求人は、平成8年初めころ、J社から、a国のREIT(会社型不動産投資信託)の株が急騰しており、不動産投資が今後も有望であると聞いてa国不動産投資事業に関心を持ち、具体的に「Lk社株式交換可能不動産パートナーシップ投資に関する御検討資料」と題する書面(以下「御検討資料」という。)を交付され、本件LPS契約の内容及び以下の点について説明を受けた。
A J社の役割
(A)別途契約の上、投資家の代理人として、投資期間中、a国における会計報告の受領、資金の受渡し、不動産経営のモニター等を行う。
(B)投資終了時には、投資家の不動産持分がSf社の株式に転換された場合、別途契約の上、その株式の管理、運用、処分等を行う。
B リスクについて
 当該a国不動産投資事業には、〔1〕不動産マーケット・リスク、〔2〕不動産運営上のリスク、〔3〕不動産固有のリスク、〔4〕流動性のリスク、〔5〕Sf社のコーポレート・リスク、〔6〕Sf社株式のリスク、〔7〕為替リスクがある。
(ロ)請求人は、a国のコンピュータ産業の情報に明るいことから、Sf社が準備した幾つかのa国の不動産投資案件の中から、ハイテク企業等の会社の進出が目立ち、地代が低く、気候の良い地にある物件等を検討し、新婚家庭の世代等の所得の「中の下」クラスが使用する不動産物件であることや、将来、不動産価格が上昇する可能性がある不動産物件であることに着目して、本件不動産を選定した。
ロ 本件LPS契約の内容
(イ)本件LPSの設立準拠法
 本件LPSは、州LPS法に基づいて設立され、両パートナーの権利・権能及び責務は、本件LPS契約に別段の規定がある場合を除き、州LPS法に定めるところによる。
(ロ)本件LPSの事業目的
 本件LPSの事業目的は、本件財産LPSの受益権を取得し、保有し、その他の形で処理すること、それから生じる利益と損失を共有すること、そのために必要であるか又はそれに付随する補助的な活動に従事することである。
(ハ)資本の拠出
 本件LPSが設立され、請求人がLPになると同時に、LPは現金○○○○ドルを、本件LPSに資本金として拠出しなければならない。
(ニ)「インタレスト(interest)」
 「インタレスト(interest)」とは、ある特定時点での本件LPSに対するパートナーの完全な受益権(entire ownership interest)(本件LPS契約及び州LPS法に基づく当該パートナーの権利及び義務を含む。)を意味する。
(ホ)本件LPSの財産
 本件LPSは、自らの名で、本件LPSの全財産(本件財産LPSの受益権及び本件財産LPSから受領する現金、有価証券その他を含む。)の所有権を保有する。これらの資産に対する持分は、GPとLPのために、又は、それらによって、各々の資本拠出割合により保有されているとみなす。
(ヘ)LPの権限と責任
 LPは、本件LPSの事業の経営管理に参加せず、また、それに対する支配力を有しない。また、LPは、GP又は本件LPSの代理又は代表を務めたり、それらのために行為したり、それらに代わって署名したり、それらを拘束することはない。
 LPの賠償責任は、州LPS法によって限定され、本件LPS契約書に明記されない限り、LPは本件LPSから脱退する権利とその資本拠出額の返還を要求する又は受け取る権利を有せず、LPはGPの同意を得た場合に限り、自身の受益権又はその一部の譲渡、売却その他の処分を行うことができる。
 LPの、役員、取締役、パートナー、従業員、株主又は代理人は、本件LPS契約のもとで、又は、本件LPS若しくは本件財産LPSに対する請求、本件LPS若しくは本件財産LPSの借入れ、負債、契約その他の義務に関して、個人的ないかなる賠償責任も負わないものとする。
(ト)GPの権限
 GPは、本件LPS契約書が明示的にLPの同意を条件としている事項(〔1〕本件LPSに不利な判断を表明すること、〔2〕ある者をGP又はLPとして加入させること、〔3〕本件LPSの解散、他の者との対等又は吸収合併、〔4〕本件財産LPS契約を改正すること、〔5〕本件財産LPSの受益権の売却、移転、譲渡、放棄又はその他の形の処分を行うこと、〔6〕負債の前払い、無効化又は借換えを行うこと、あるいは本件財産LPSによる負債の前払い、無効化又は借換えに同意すること、〔7〕本件LPSの事業の目的及び性格を変更すること、〔8〕本件LPSの諸財産の管理運用のための契約を本件LPSに締結させることなど)を除き、本件LPS契約によって付与された権限の範囲内で本件LPSの事業と諸業務を経営管理し、また、州LPS法上のLPSのGPの権利、権能及び義務のすべてを有する。
 他に本件LPS契約書に明記のない限り、GPは本件LPSから脱退する権利とその資本拠出額の返還を要求する又は受け取る権利を有しない。GPは、LPの資本拠出額の返還に関して、個人的な責任を有しない。
(チ)優先分配額
 事業活動等から生じた分配可能な現金(本件不動産から得られるすべての収入金額で、借入金の元利、営業費、マネジメント料及び資本的支出のための準備金を支払った後の金額)を、LP及びGPに対する優先分配額として次のとおり分配する。
A LPへの優先分配額(以下「本件年分配額」という。)は、本件投資金額の年○%(1998(平成10)年5月以前は、年○%)の金額である。月次優先分配額として、その暦年の累積優先分配額がその金額に達するまで、毎月の翌月10日までに分配する。
B GPへの優先分配額は、その資本拠出額の年○%の金額である。月次優先分配額として、LPと同様に分配する。
C 四半期ごとの優先分配額については、上記優先分配後の残金の○%をLPへ、○%をGPへ分配する。
(リ)損益の配分
 本件LPSの各会計年度(暦年)の損益は、その年度末現在で決定し、GP及びLPに対してその年度末後60日以内に配分する。
A 減価償却費は、出資額の割合(LP:50.404%、GP:49.596%)でLP及びGPに配分する。
B 収入及び減価償却費以外の経費は、その年度のLP及びGPへの上記(チ)の優先分配額の合計額の割合でLP及びGPに配分する。
ハ Sf社、請求人、本件LPS及びKLPSは、1996(平成8)年3月27日付で、LPはその受益権を譲渡することができること、ただし、その譲受人が本件LPS契約に拘束されることに書面で同意する場合に限ることを内容とする契約を締結した。
ニ 本件財産LPSに係る契約の内容
(イ)設立
 パートナーらは、州LPS法に従って、かつ、本契約に定めた条件に基づくリミテッド・パートナーシップとして、本件財産LPSを設立する。
(ロ)目的
 本件財産LPSを組織する目的は、本件不動産の取得、所有、運営、賃貸、開発、改装、販売、管理、売却及びその他の処分並びにそれに関連する又はそれに付随するあらゆる活動に従事する。
(ハ)パートナーらの出資等
A 各パートナーは、既に、帳簿に記載されたとおりの出資を行った。
B GPは、LPの出資額の返済に対する責任を個人的に負わない。
C LPは、本件財産LPSの借入金、債務、請負契約又はその他の義務に対して個人的に賠償責任を負わない。
D 本件財産LPSの資産に対する受益権は、GPとLPのそれぞれの受益権の割合に従った比率で、GP及びLPが保有している。
(ニ)利益と損失の配分
A 会計年度(〔1〕1996年3月1日から1996年12月31日に終了する期間、及び〔2〕その後のすべての1月1日から12か月の期間)の利益は、各パートナーの受益権に従って配分しなければならない。
B 会計年度の損失は、各パートナーの受益権に従って配分しなければならない。
(ホ)分配
A 本件財産LPSによるパートナーらへの分配は、GPが決めるときに、また、GPが決める総額で行わなければならない。
B 「純キャッシュフロー」は、GPが決めるときに、パートナーらに対し、各パートナーの受益権に従って分配しなければならない。
C 本件不動産の売却、交換及びその他の処分など事業の通常の過程にない取引をしたときは、処分に伴う費用を控除した手取額を、各パートナーの「調整済み出資額」に等しい金額によって分配し、残りの手取額があるときは各パートナーの受益権に従って分配しなければならない。
(ヘ)経営管理
A 本件財産LPSの経営管理は、GPの責務である。LPは、本件財産LPSの経営管理又は支配に参加しないし、また、いかなる事柄であれ、それとの関係で本件財産LPSのために行為する権限又は権利を有しないし、本契約に明示的に規定されている場合又は州LPS法により要請されている場合を除き、GPによる行為、決定に同意したり、それを承認する権利を有しない。
B GPは、本件財産LPSのために、かつ、その名義で、以下の権能その他、本件財産LPSの目的及び設立趣旨を達成するために、また、GPが必要又は適切であると考えるそれに付随するすべての行為を行うための権能を有する。
(A)本件不動産を購入又は売却する権能あるいは購入又は売却する契約を締結する権能
(B)本件財産LPSのために債務を負担し、その資産によってその債務の一部及びすべてを担保する権能
ホ ローン契約
(イ)本件財産LPSは、F社との間で、1996(平成8)年3月27日付で、ローン契約を締結し、○○○○ドルを借り入れた。
(ロ)上記(イ)の借入金の返済条件等に関して、請求人はこれを直接返済する義務はないが、主たる債務者である本件財産LPSがこれを返済することができなくなった場合、本件財産LPSの受益権を保有する上位パートナーシップのLPとして、最終的にはその資本拠出額の限度において責任を負担すること、そのほかに追加支払の義務はないとされている。
ヘ 請求人の本件LPS及び本件不動産の賃貸への関与
(イ)請求人による本件不動産の視察
A 請求人は、1997(平成9)年10月26日、Nグループの会長・代表役員であるG会長とa国○○市○○空港にて打合せをした。その際同席したのは、請求人が経営する会社の従業員○○及びJ社の社員である。
 J社は、その際、請求人に対して、〔1〕本件LPSの業績として、第3四半期中間決算書によれば、a国b州の物件を除く3物件は予算を上回り好調であったこと、〔2〕賃貸料の変更は、プロパティ・マネージャーがマーケットの状況に合わせて賃貸料の変更を提案し、その地区のマネージャーとQ氏に相談して最終決定していること、〔3〕a国の株式市場と景気の好調さは、雇用の創出を通じてNに影響を与えており、創出された雇用(約600万人)のうちほとんどがNがターゲットとする中所得者層であること及びNは中所得者層の雇用が増加しそうなマーケットを狙っており、例えば、○○社が工場を開くことがわかれば、工場の3マイル圏内のアパートの買収を狙い、築7〜12年で大掛かりな修理が必要な物件やNの方が交渉力が強いと思われるプライベートの投資家の所有する物件の買収を狙っていること、アパートの不動産マーケットは、現在80%がプライベート(ディベロッパー、個人など)、8%が公開会社(REITなど)、12%が機関投資家(生保や年金)によって所有されているが、これは、アパートはその他の不動産タイプ(ショッピング・センターやホテル、オフィスなど)に比べて、比較的少ない元手資金でも購入できるからであること、さらに、〔4〕それらの「H」への影響について報告した。
B 請求人は、同月27日、Z不動産(a国c州)において、本件不動産のうちの1物件の視察を行った。その際、NグループのQ氏が立ち会った。
C J社は、請求人に対して、同月30日に、Nアパートメントに関して、〔1〕8月にG会長が他社との合併を提案し、取締役会で採決されたが、その理由は、Nがターゲットにしているアパートの値段が割高となってきたことであり、○○社をアドバイザーとして雇い、売るべきか現状維持でいくべきか検討していること、〔2〕このことは重要事項なので上場会社の義務として発表したが、発表後2社(P社とT社)がNの株式を9.5%購入したこと、〔3〕今後の買収交渉の日程として、買収案の受付に約3週間、取締役会による審議に約1週間、買収案のデュー・デリジェンスに約30日、株主の採決を条件に取締役会が決定するのが1997年末、買収案を受け入れる場合は3月末契約締結を考えていること、〔4〕Hを継続するか、解散するかは、買収者によって提案は異なるだろうが、上記2社とはこの件について何も話してはいないこと、〔5〕Nの5倍の規模をもつT社の会長は、昨年12月に個人的に会った時にHに興味を示していたこと、〔6〕Nの15倍の規模をもつP社は、大きい会社であり、既に日本人の機関投資家から私募増資なども行っており、Hを解散する可能性もあるが、あくまでもG会長の私見であることを報告した。
(ロ)J社は、請求人に対して、本件不動産の賃貸事業に関して、以下の内容の報告及び連絡をした。
A 1999(平成11)年11月○日
 T社から、請求人に対して、本件不動産であるX不動産及びY不動産の2件のアパート改造工事に係る費用合計47,022ドル(内訳は、〔1〕X不動産の老朽化した管理事務所スペースを2ベッドルーム2戸に改造するための費用10,875ドル及び〔2〕Y不動産の各アパートに個々の水道メーターを設置するための費用36,147ドルである。)を本件LPSから支出することについて、承認を求める申請があった。
B 2001(平成13)年1月○日
(A)Z不動産の火災事故について、3戸が火災、7戸が煙による被害を受け、推定被害総額50万ドルとなるが、人的被害はなく、マネージメントに対する訴訟の動きもない。修復に6か月かかるが、その費用と賃貸料を保険で賄う。
(B)J社は、T社に対して、災害保険の内容の再確認とキャッシュ・フローへの影響を書面で請求人に報告するよう指示した。
C 同年2月○日
 請求人のJ社への訪問の件
 T社から今後の運営方針としてY不動産の設備投資的な修理修繕費支出の提案がされ、承認を見送っている。今回請求人がJ社と会う際に、本案件に関する今後の方針をお聞かせ願いたい。
D 同年8月○日
 X不動産の件
 T社からの報告によれば、先週日曜日にテナント間での殺人事件があり、翌日に放火事件が発生し、警察が調査中である。
E 同年12月○日
(A)第3四半期の財務諸表の提出があったので送付する。
(B)銃撃殺人事件が大々的に報道され、79件のテナントが退出したが、一方新規入居も74件である。現地スタッフはアパートに対するネガティブな印象を払拭し、占有率、賃貸料アップのため努力している。災害にあった棟の総工事費は548,851ドルで、工事期間は3か月の予定である。質問、要望あれば連絡をお願いしたい。
(ハ)請求人は、Sf社の担当者との間で、御検討資料に記載されている投資家の拒否権発動による経営参加に関して、投資家が拒否権を発動できる場合(〔1〕7年以上本件LPSを存続させる場合、〔2〕新規投資家をLPとして参加させる場合、〔3〕追加借入れをする場合、〔4〕借入金の期限前弁済を行う場合、〔5〕GPを交代する場合及び〔6〕物件を追加で購入する場合)のうち、少なくとも〔5〕のGPの交代について、話し合ったことがある。
(ニ)T社は、1999(平成11)年9月16日にJ社を介して請求人に対し、1999年分及び2000年分の分配予定額及び分配再開予定時期について、次の内容を連絡した。
A 本件LPSは、1999(平成11)年の優先分配として、請求人に約○○○○ドル、GPに約○○○○ドルを分配する。
B 本件LPSは、2000(平成12)年の優先分配として、請求人に約○○○○ドル、GPに約○○○○ドルを分配する。
C 請求人への優先分配は、遅くとも1999(平成11)年9月30日に現在までの未払分から再開され、残額については同年10月10日以降毎月10日に支払われる見込みである。
(ホ)J社は、平成14年に、T社からのデータを基に、「償却前利払前分配可能額」、「利払及び資本支出後CF」、請求人に対する「年分配額」及び「LP分資本受け取り額」等の1996(平成8)年から2001(平成13)年までの確定額及び2002(平成14)年の予想値を記載した「H,LP.資産価値及びキャッシュ・フロー分析」(以下「キャッシュ・フロー分析」という。)と題する書面を作成し、これを請求人に示して説明した。このうち平成11年ないし平成13年については、下表のとおりである。

(単位:ドル)
項目(12月末までの暦年ベース)平成11年平成12年平成13年
償却前利払前分配可能額○○○○○○○○○○○○
利払及び資本支出後キャッシュフロー1,277,7981,301,9721,271,740
年分配額○○○○○○○○○○○○
LP分資本受け取り額5,540,3255,556,5705,433,342

ト 本件LPS及び本件財産LPSの分配額及び損益の分配ないし配分
(イ)T社が作成した1999(平成11)年、2000(平成12)年及び2001(平成13)年の各年末の本件財産LPSの財務諸表によれば、本件財産LPSの損益計算書の各勘定科目金額について、その99%(本件LPSの本件財産LPSに対する受益権割合)相当額が本件LPSに帰属するものとしてそれぞれ配分され、更にこれらの金額のすべてが本件LPSのLP及びGPに帰属するものとして、上記ロの(リ)の割合で、それぞれ配分されている。
(ロ)T社作成の本件LPSの財務諸表及び請求人の入金事績によれば、請求人(LP)に対して、1999(平成11)年において○○○○ドルが、2000(平成12)年及び2001(平成13)年において、それぞれ月額○○○○ドル、年合計○○○○ドルが分配されている。なお、1999年の金額(当初投資額に対する定額○○○○ドルを8,667ドル下回る金額)は、NグループとT社間の合併に伴う料率の変更による調整差額を含むものである。
(ハ)T社作成の本件LPSの財務諸表によれば、GPに対して、2000(平成12)年及び2001(平成13)年において、それぞれ月額○○○○ドル、年合計○○○○ドルが分配されている。
(ニ)1999(平成11)年ないし2001(平成13)年の間、四半期の優先分配は、LPに対しては行われていない。
チ 本件LPSからの脱退理由
 請求人が平成14年7月29日にTgリミテッド・パートナーに対して本件LPSの受益権を譲渡したのは、請求人が、T社はGPの権限でクロージングが近くなった時期に請求人に無断で本件不動産の修繕を行うようになったと認識したからである。

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(2)配当所得か否か(争点(1))について

イ 所得税法第24条《配当所得》は、配当所得とは、「法人から受ける利益の配当、剰余金の分配」に係る所得をいう旨規定している。
 そして、原処分庁は、本件LPSが、〔1〕州LPS法に基づき、法人として設立された事業体であり、法主体性があること、〔2〕訴訟当事者及び財産登録の当事者などになり得ること並びに〔3〕その事業実態から、我が国の「私法上の法人」と同様に取り扱うべきであると主張する。
 確かに、我が国の所得税法第2条第1項第6号は「内国法人」を「国内に本店又は主たる事務所を有する法人」と定義し、同項第7号は「外国法人」を「内国法人以外の法人」と定義するが「法人」の定義を行っておらず、我が国の租税法上「法人」は、私法上の「法人」の概念と同様に「自然人以外のもので法律上、権利・義務の主体となることのできるもの」すなわち「権利を有し義務を負う能力を法律上有しているもの」をいうと解されている。
 そして、上記(1)のロの(ホ)のとおり、州LPS法に準拠する本件LPS契約においては、本件LPSが自らの名で、本件LPSの全財産(本件財産LPSの受益権及び本件財産LPSから受領する現金、有価証券その他を含む。)を所有することとされ、また、本件LPSは、州LPS法上、取引や訴訟の当事者となることができ、現に本件財産LPSの契約当事者となるなど、我が国の法律でいう権利義務の帰属主体であるという意味においては、我が国の法律でいう「法人」の要素を備えているということができる。
ロ しかしながら、本件LPS契約においては、同時に、本件LPSはその名で所有する財産を「GPとLPのために、又は、それらによって、各々の資本拠出割合により保有されているとみなす」と明記して、本件LPSはその名義の財産をパートナーのために保有することを契約の内容としているのであるから、本件LPSがその名義で財産を所有しているとしても、それをもって我が国の法人がその名義で自らのために財産を所有する場合と同視することはできない。
 また、そもそも、我が国の所得税法が所得区分を定めたのは、租税の公平負担の観点から各種の所得についてそれぞれの担税力に応じた課税を行うという趣旨であるが、どのような「自然人以外のもの」にどのような内容の権利義務の主体性を認めるかは、我が国の民法第43条《法人の権利能力の範囲》において、法人は法令の規定に従って定款又は寄附行為によって定められた目的の範囲内において権利を有し義務を負う旨規定されているように、税法の観点のみにとどまらない様々な政策目的を実現するための各国の立法政策の問題であるから、単に、「自然人以外のもの」が権利義務の帰属主体であるか否かによって、個人がそこから得た所得の所得区分を定めるのは相当ではない。
 そうすると、「自然人以外のもの」から、ないし「自然人以外のもの」を介して個人が得た所得の所得区分を定めるに当たっては、その「自然人以外のもの」が我が国の法律でいう権利義務の帰属主体であるか否かという点も考慮すべき要素ではあるものの、それのみによって決せられるべきものではなく、個人が得た所得についてその法律的経済実質的関係を個別に具体的にみて、それを所得税法が各所得区分を定めた趣旨に照らして判断すべきものである。
 そして、上記の所得税法第24条の規定にいう「利益の配当」とは、会社における株主又は出資者に対する利益の分配をいい、「剰余金の分配」とは、会社以外の法人における出資者に対する利益の分配をいい、これらについては、法人が確定した決算において利益又は剰余金の処分によって配当又は分配したものだけでなく、株主又は出資者に対しその株主又は出資者である地位に基づいて供与した経済的な利益も含まれると解されている。いずれも、所得の帰属主体となる法人の利益の処分の性質を有するものである。
ハ これを本件についてみると、上記(1)のロの(チ)及び(リ)のとおり、請求人(LP)及びGPは、本件LPS契約において、本件LPSの事業活動等から生じた優先分配額の分配や損益の配分の方法を定め、請求人は、これに基づいて、本件LPSから本件年分配額及び損益の分配ないし配分を受けているのであり、それは、本件LPSが利益の処分として行ったものではない。
 したがって、請求人が本件LPSから分配ないし配分を受けた本件年分配額及び損益は、所得税法第24条にいう「法人から受ける利益の配当、剰余金の分配に係る所得」に当たるということはできず、配当所得には当たらないというべきである。
ニ 原処分庁は、本件LPSの事業実態から判断したとして、本件年分配額を配当所得であると主張するが、どのような事業実態であると認定し、それがどのようにして配当所得に当たるという結論に帰結するのかは明らかではない。
 なお、請求人が当審判所に対する答述において「ノン・リコース・ローンによる減価償却費計算」が節税を図ったものであると認めていること、また、J社作成のキャッシュ・フロー分析表に「償却による日本側Tax Saving効果を含む。」と記載されていることなど、請求人の本件LPS契約に係る取引の目的に節税等の目的があることが認められたとしても、それによって、直ちに、請求人が得た本件LPS契約に係る本件年分配額及び損益の分配ないし配分が配当所得であると導くことはできない。

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(3)不動産所得又は事業所得か否か(争点(2))について

イ 所得税法第26条《不動産所得》第1項は、不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機の貸付による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう旨規定している。不動産所得は資産所得であり、不動産所得と事業所得の区別については、その所得の内容を吟味し、その所得がほとんど又は専ら不動産等を利用に供することにより生ずるものである場合には不動産所得であり、不動産等の使用のほかに役務の提供が加わり、これらが一体となった給付の対価という性格をもつ場合には事業所得(又は場合により雑所得)であると解されている。そうすると、個人が得た所得が不動産所得に該当するには、その個人がほとんど又は専ら不動産等を利用に供したことにより生じた所得であることが必要であると解される。
ロ そこで、請求人が得た本件LPSから分配ないし配分を受けた本件年分配額及び損益の内容を吟味すると、上記基礎事実及び認定事実によれば、〔1〕請求人は、本件LPS契約を締結してa国に本件LPSという仕組みを設け、さらに本件財産LPSという仕組みを介して、本件財産LPSが所有するa国所在の本件不動産を本件財産LPSが賃貸することによって生じた本件年分配額及び損益を、本件LPS契約及び本件財産LPS契約に基づいて分配ないし配分を受けたものであること、〔2〕本件財産LPSは、さらに、別のLPSとの間で不動産経営管理契約を締結して、本件不動産に係る賃貸業務のすべてをそれらに委託していること、〔3〕本件LPSの事業目的は、本件財産LPSの受益権の取得及び保有並びにそのために必要ないしは付随する活動であって、本件LPS契約の内部関係は、LP(請求人)は本件LPSの事業目的のために金銭をもって出資し、本件年分配額の分配と損益の配分を受ける地位にあるが、業務執行や本件LPSを代表するなどの権限を有さず、GPは本件LPSの業務を執行する権限を有し、本件LPSの名でその事業から生ずる優先分配額及び損益を分配ないし配分するというものであり、本件LPS契約の外部関係は、第三者に対する権利義務は本件LPSに帰属し、LP(請求人)と第三者との間に法律関係はなく、LP(請求人)は第三者に対して個人的な賠償責任を負わないというものであること、〔4〕本件財産LPSの事業目的は、本件不動産の取得、所有、運営、賃貸、開発、改装、販売、管理、売却及びその他の処分に当たることであって、それに係る契約の内容には、その経営管理及び本件不動産を購入し売却することはGPの責務ないし権能とされ、LPは本件財産LPSのためにする権限を有さず、原則としてGPの行為に対する同意又は承認する権利も有しないとされ、そのパートナーは出資した上で、各受益権の割合等に従った比率で分配額及び損益の分配ないし配分を受けるとされていること、〔5〕不動産賃貸事業を行う場合、一般的には、例えば、賃貸物件が供給過剰のときには、賃貸単価の下落を招き、賃貸収入が減少するというマーケット・リスクがあるといえるが、請求人は、本件LPSの確定損益にかかわらず、本件LPS契約に定められた投資期間を通じて本件投資金額に対して年○%(平成10年5月以前○%)という定率の優先分配額を定時に受け取ることができる権利に基づいて、実際に、その定めのとおり本件年分配額を受領したことが認められる。
 これらの事実によれば、本件不動産を賃借人に対して賃貸していたのは本件財産LPSであるというべきであって、本件LPSは本件財産LPSから本件財産LPSに係る契約に基づいて分配額及び損益の分配ないし配分を受け、本件LPSのLPである請求人は本件LPSから本件LPS契約に基づいて本件年分配額の分配及び損益の配分を受けていたものということができ、請求人が、自ら又は本件LPSないし本件財産LPSを代理人として、主体的に本件不動産を賃借人に対して賃貸していたとか、それによる収益の稼得や費用の負担を行っていたということはできないというべきである。
 なお、上記(1)のイ及びヘの認定事実のとおり、請求人は、a国の不動産投資事業に対して強い関心をもち、自ら賃貸に供する本件不動産を選定し、a国に赴いて本件不動産を視察したり、J社を通じて、本件不動産の賃貸事業について情報を収集し、場合によっては意見を述べたり、承認をしたりしていたことが認められるが、他方で、上記〔1〕ないし〔4〕の事実からすると、本件LPSを不動産賃貸を目的とする民法上の組合ということはできず、請求人が主体的に本件不動産を賃貸に供していたと認めることはできないというべきである。
ハ そうすると、請求人に分配ないし配分された本件年分配額及び損益は、請求人がほとんど又は専ら不動産等を利用に供したことにより生じた所得であるとはいえないから、不動産所得には該当しないというべきである。
ニ ところで、上記(1)のロの(チ)及びヘの(ホ)のとおり、請求人が得た本件年分配額は、本件LPSのすべての収入金額から、借入金の元利、営業費、マネジメント料及び資本的支出のための準備金を支払った後(かつ、減価償却前)の金額である分配可能な現金を基に算出した優先分配額として分配されたものであるから、請求人の所得としては本件年分配額をもってすべてであるということができる。
 そして、請求人が得た本件年分配額は、上記ロの〔5〕のとおり、請求人が本件LPSに対して支払った出資金に対して一定の額ないし率により支払われたものであるから、出資金に対する果実(リターン)というべきものであるが、所得税法第23条《利子所得》第1項に規定された「公社債及び預貯金の利子並びに合同運用信託、公社債投資信託及び公募公社債等運用信託の収益の分配」には当たらない。
 また、請求人の本件LPSに係る契約とこれに対する出資行為は、継続的かつ反復した行為とはいえず、また、役務の提供を内容とするものではないから事業とはいえない。
 したがって、本件年分配額は、所得税法第35条《雑所得》第1項に規定する「利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない」所得として雑所得に該当するものというべきである。
ホ 請求人の主張について
(イ)請求人は、本件LPS及び本件財産LPSを通じて間接的に本件不動産を保有しているから本件不動産の減価償却費等を請求人の必要経費に算入できる、本件LPS及び本件財産LPSが組合に類似している以上、本件財産LPSが本件不動産の所有者であれば、請求人の受益権の「パートナーシップ・パーセンテージ」で請求人に本件不動産の減価償却費等がパス・スルーされるべきである、組合でなくとも共同事業的な外国の事業体のパス・スルーは許されてきたと主張し、その根拠として、所得税の通達を挙げる。
 しかしながら、個人が得た所得の所得区分を判断するに当たっては、所得税法の規定と租税の公平負担の観点から各種の所得についてそれぞれの担税力に応じた課税を行うために所得区分を定めたという所得税法の趣旨に照らして判断すべきであり、本件LPS及び本件財産LPSが我が国の民法上の組合に類似しているか否かによって判断すべきものではない。また、請求人が主張する請求人は本件LPS及び本件財産LPSを通じて間接的に本件不動産を保有しているということの意味は不明確であり、むしろ、上記認定事実に認定した本件LPS契約及び本件財産LPS契約の内容に照らせば、形式的にも実質的にも、請求人が本件不動産の所有権ないし管理処分権限を有しているとは認められない。したがって、請求人の主張はいずれも採用することができない。
(ロ)また、請求人は、仮に、本件LPSと本件財産LPSとが二階建構造になっていることを理由として不動産所得でないとされるならば、不動産賃貸業以外の事業所得に該当すると主張する。
 しかしながら、当審判所は、上記のとおり、単に本件LPSと本件財産LPSとが二階建構造になっていることを理由として不動産所得でないと判断したものではなく、請求人が本件LPSから得た本件年分配額についてその法律的経済実質的関係を具体的にみて、それを所得区分を定めた所得税法の規定と趣旨に照らして不動産所得ではなく雑所得であると判断したものであるから、上記の請求人の主張は前提を欠くものである。
(ハ)さらに、請求人は、本件LPSが投資事業有限責任組合に極めて近似した性質を有しているとして、投資事業有限責任組合と同様に、税務上、民法上の組合と同様の取扱いがなされるべきであると主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、請求人が得た所得の所得区分を判断するに当たっては、本件LPSが投資事業有限責任組合に近似しているか否かによるべきものではないから、本件LPSが投資事業有限責任組合に近似しているとして、本件LPSを、税務上、民法上の組合と同様の取扱いがなされるべきであるとする請求人の主張を採用することはできない。
(ニ)なお、請求人は、本件年分配額は請求人の事業資金が戻し入れされたものであるとも主張する。本件LPSからは、別表2の(1)のとおりの年分配額があるが、請求人は、本件LPSからの受取額が単なるキャッシュ・フロー額であり、本件LPSに利益分配(剰余金分配)の発想がないものであるから、本件投資金額が海外から戻されたにすぎないと主張する。
 しかしながら、上記(1)のヘの(ホ)のキャッシュ・フロー分析の「LP分資本受け取り額」欄には、請求人の出資額がその年度ごとにいくら返還されるかの計算上の金額が表示されているが、請求人が年分配額を受け取った後も、請求人の資本受取額は請求人の本件投資金額である○○○○ドルを上回っており、減少していない。
 したがって、請求人は、本件LPSへの投資によって定額(あるいは定率)のキャッシュ・フローを得ており、当初の条件に沿った投資リターンを確保しているということができるから、各年分配額は請求人がa国において不動産事業を行うため「元入金」として送金したものの戻り金であるとは認められない。

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(4)信義則違反及び租税法律主義違反

イ 信義則違反について
 請求人は、〔1〕所得税基本通達36・37共−19《任意組合の事業に係る利益等の帰属の時期等》において組合所得のパス・スルーを許し、一般的に、出資した外国のLPSから損益の分配を受ける場合は、パス・スルー課税が許されてきたこと、〔2〕請求人が原処分庁に対して、平成10年分の所得税の申告に係る不動産所得の必要経費の計上漏れを内容とする更正の請求書並びに平成8年分及び平成9年分についても同様に不動産所得の必要経費の計上漏れがあることを内容とする所得税減額の嘆願書を提出したところ、本件税務調査に先立って原処分庁所属の職員による請求人の平成8年分から平成10年分までの所得税の確定申告について平成11年に税務調査(以下「先行税務調査」という。)が行われ、その際、本件LPSを「法人」として取り扱うか「組合」として取り扱うかの議論の末、原処分庁所属の調査担当職員が、結果として請求人の申告行為を是認して、不動産所得の必要経費として認めたことは、いずれも行政庁の公的見解を示したものであり、それに反する本件各更正処分等は信義則に違反する旨主張する。
 しかしながら、上記のとおり、個人が得た所得の所得区分を判断するに当たっては、所得税法の規定と趣旨に照らして判断すべきであり、また、公的見解の表示があったとは、租税官庁が納税者に対して信頼の対象となる公的見解を示した場合、すなわち、一定の責任ある立場の者の正式の見解の表示をした場合をいうものと解すべきである。
 これを本件についてみると、当審判所の調査によれば、先行税務調査当時は、J社の管理費に関する減額更正をしたに過ぎないから、本件LPSの損益が請求人に帰属するか否かについて公的見解の表示があったとは認められない。また、原処分庁所属の職員による先行税務調査時における言動だけでは、それが公的見解の表示に当たるとは認められない。
 したがって、請求人の信義則違反の主張には理由がない。
ロ 租税法律主義の適用
 請求人は、他にも同類の取引があり、○○国税局管内で、不動産所得のパス・スルーが認められていることに関し、請求人の課税が区々に課税されることは租税法律主義の適用に当たって違法である旨主張する。
 しかしながら、請求人が主張する「他の同類の取引」というものが、請求人の場合とどのような点においてどの程度共通点があるのかは明らかでない。むしろ、請求人が行った取引は、上記認定事実のとおり、請求人に特有の特徴を有するものということができる。したがって、請求人の主張には理由がない。

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(5)納付すべき税額について

 以上の結果、請求人の各年分の納付すべき税額は、次のとおりである。
イ 総所得金額
(イ)不動産所得の金額
 原処分庁は、平成11年分ないし平成13年分の不動産所得の金額は発生していないとして、別表1(1)(2)(3)の「〔1〕不動産所得の金額」欄のとおり、それぞれ零円と算定しているところ、当審判所も、請求人の不動産所得はないと認めるから、これは相当である。
(ロ)配当所得の金額
 当審判所は、原処分庁が配当所得と認定した金額を配当所得と認めない。これを除くと、請求人が配当所得の金額として、各年分の確定申告書に記載した金額は、平成11年分○○○○円、平成12年分○○○○円及び平成13年分○○○○円であるところ、当審判所の調査の結果によってもこれらは相当である。
(ハ)給与所得の金額
 原処分庁は、平成11年分ないし平成13年分の給与所得の金額を、請求人の確定申告書の記載金額に基づき、それぞれ○○○○円、○○○○円及び○○○○円と算定しているところ、当審判所もこれを相当と認める。
(ニ)雑所得の金額
 原処分庁は、平成11年分の雑所得の金額を、請求人の修正申告書の記載金額に基づき○○○○円と算定し、平成12年分及び平成13年分の雑所得の金額を、請求人の確定申告書の記載金額に基づき、それぞれ○○○○円及び○○○○円と算定しているところ、当審判所は、本件LPSからの損益の分配に係る所得区分を、上記のとおり雑所得と認めるから、請求人の各年分の雑所得の金額は、請求人が確定申告書等に記載した雑所得の金額に、別表2の(3)に記載した、本件LPSからの年分配額(収入金額)から必要経費を差し引いた金額を加算した金額となり、各年分の雑所得の金額は、次のとおりとなる。
A 平成11年分
 修正申告の金額○○○○円に雑所得と認定した金額○○○○円を加えて○○○○円となる。
B 平成12年分
 確定申告の金額○○○○円に雑所得と認定した金額○○○○円を加えて○○○○円となる。
C 平成13年分
 確定申告の金額○○○○円に雑所得の金額○○○○円を加えて○○○○円となる。
(ホ)総所得金額
 以上の結果、各年分の総所得金額は、平成11年分○○○○円、平成12年分○○○○円、平成13年分○○○○円となる。
ロ 所得控除の額
 原処分庁は、各年分の所得控除の額を、請求人が所得税の確定申告書に記載した金額により、それぞれ平成11年分○○○○円、平成12年分○○○○円及び平成13年分○○○○円と算定しているところ、当審判所もこれを相当と認める。
ハ 課税総所得金額
 上記イの(ホ)総所得金額から上記ロの所得控除の額を控除して、各年分の課税総所得金額を算定すると、平成11年分○○○○円(1,000円未満切捨て後のもの。以下同じ。)、平成12年分○○○○円、平成13年分○○○○円となる。
ニ 算出税額
(イ)平成11年分
 上記ハの課税総所得金額○○○○円に所得税法第89条《税率》第1項に規定する税率及び経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律第4条《居住者の最高税率の特例》に規定する税率を基に計算すると○○○○円となる。
(ロ)平成12年分
 上記ハの課税総所得金額○○○○円に所得税法第89条第1項に規定する税率及び経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律第4条に規定する税率を基に計算すると○○○○円となる。
(ハ)平成13年分
 上記ハの課税総所得金額○○○○円に所得税法第89条第1項に規定する税率及び経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律第4条に規定する税率を基に計算すると○○○○円となる。
ホ 配当控除
 原処分庁は、本件各更正処分において、別表1の「〔9〕配当控除」の「更正処分等」欄のとおりの配当控除を行っているが、本件配当金は外国法人から受けるものとしたため所得税法第92条《配当控除》を適用していない。本件年分配額の所得の性質は、上記(3)のニのとおり、雑所得に該当することとなるので、配当控除の対象としないで再計算すると、別表1の「〔9〕配当控除」の「審判所認定額」欄の各年分の金額となる。
ヘ 外国税額控除
 請求人は、平成13年分の確定申告書に「外国税額控除に関する明細書」を添付し、外国税額控除を受けたい旨表示している。所得税法第95条《外国税額控除》の規定に従って、「その年において生じた所得でその源泉が国外にあるもの」(その年分の国外所得総額)を計算すると、平成13年分の本件年分配額のうち○○○○円がその国外所得総額であるため、外国税額控除の再計算をすると別表3の「外国税額控除」欄のとおりとなる。
 なお、請求人は平成11年分及び平成12年分についても外国税額控除すべきであると主張するが、請求人に係る各年分のa国所得税納付額は、それぞれの確定申告において、不動産所得の必要経費に算入されており、外国税額控除を受けるべき意思がないものであり、その後、本件審査請求において、不動産所得の必要経費ではなく、雑所得の必要経費として容認するものであるから各年分の外国税額控除はできないものと認められる。
ト 定率減税額
 各年分の定率減税額は、経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律第6条《定率による税額控除の特例》により算定した金額であり、いずれも○○○○円である。
チ 源泉徴収税額
 原処分庁は、平成11年分ないし平成13年分の源泉徴収税額を、請求人の確定申告書の記載金額に基づき、それぞれ○○○○円、○○○○円、○○○○円と算定しているところ、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。
リ 納付すべき税額
 以上イからチの事由により、所得の種類、所得金額及び配当控除を変更して請求人の所得税の納付すべき税額の計算をすると別表1の(1)及び(2)の「審判所認定額」欄の「納付すべき税額」欄のとおりであり、その納付すべき税額は、平成11年分については、「更正処分等」欄の「納付すべき税額」を○○○○円下回るが、「修正申告等」欄に記載された「納付すべき税額」を上回る。
 また、平成12年分については、「審判所認定額」欄の「納付すべき税額」は、「更正処分等」欄の「納付すべき税額」を○○○○円下回るが、「確定申告」欄に記載された「納付すべき税額」を上回る。
 なお、平成13年分については、別表1の(3)の「審判所認定額」欄のとおりの納付すべき税額が算出され、その納付すべき税額は「更正処分等」欄の納付すべき税額を上回る。

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(6)本件各更正処分について

 以上のとおり、本件各年分の所得金額を計算すると、請求人の課税総所得金額は、別表1の「審判所認定額」欄のとおりとなり、定率減税額及び源泉徴収税額を差し引いて、平成11年分及び平成12年分の納付すべき税額を計算すると、いずれも更正処分の納付すべき税額を別表1の(1)及び(2)のとおり下回ることとなるから、これらの更正処分はその一部を取り消すべきである。
 また、平成13年分の納付すべき税額は、別表1の(3)のとおり更正処分の納付すべき税額を上回るので適法である。

(7)本件賦課決定処分について

イ 平成11年分及び平成12年分の更正処分は、上記(6)のとおり、いずれもその一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は、それぞれ○○○○円及び○○○○円となる。
 また、この税額の計算の基礎となった事実については、国税通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められない。
 したがって、過少申告加算税の額は、平成11年分○○○○円、平成12年分○○○○円となり、賦課決定処分の金額にいずれも満たないから、平成11年分及び平成12年分の過少申告加算税の賦課決定処分は、いずれもその一部を取り消すべきである。
ロ 平成13年分の更正処分は適法であり、これらにより納付すべき税額の基礎となった事実が、更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした原処分は適法である。

(8)延滞税について

 請求人は、平成13年6月22日付「人為による異常な災害又は事故による延滞税の免除について」通達の適用により、延滞税は免除すべきであると主張し、本件各更正処分等は請求人の責めに帰すべき故意・過失はなく「やむを得ない理由」があるとする。
 上記通達は、国税通則法第63条第6項の規定による延滞税の免除については、〔1〕誤指導(税務職員の誤った申告指導)、〔2〕申告書提出後における法令解釈の明確化、〔3〕申告期限時における課税標準等の計算不能、〔4〕振替納付に係る納付書の送付漏れ等、〔5〕その他類似事由があった場合には、同法施行令第26条の2第2号に規定する「人為による異常な災害又は事故」に該当するものとして延滞税を免除する取扱いを定めたものであるが、請求人は税務調査時において〔1〕の誤指導があり、請求人がその誤指導を信じたことにつき、請求人の責めに帰すべき事由がないことをもって延滞税の免除を求めているものと考えられる。
 しかしながら、上記(4)のイによれば、先行税務調査において誤指導があったことも、請求人が誤指導を信じて行動したことも認められないから、上記通達を適用して延滞税を免除すべき理由はなく、請求人の主張には理由がない。
 なお、延滞税は、国税通則法第15条第3項及び同法第60条の規定により、所定の要件を充足することによって法律上当然に納税義務が成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものであって、国税に関する法律に基づく処分によって確定するものではないから、本件各延滞税に係る審査請求は、国税通則法第75条第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分が存在しないにもかかわらずなされたものであって、不適法なものである。

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(9)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙1 関係法令等

イ 所得税法第2条《定義》第1項は、「この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる」と規定し、同項第6号から第8号までにおいて、法人の定義等について次のとおり規定している。
六 内国法人 国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう。
七 外国法人 内国法人以外の法人をいう。
八 人格のない社団等 法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものをいう。
ロ 所得税法第4条《人格のない社団等に対するこの法律の適用》は、人格のない社団等は、法人とみなして、同法の規定を適用する旨規定している。
ハ 所得税法第24条《配当所得》第1項は、配当所得とは、法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く。)から受ける利益の配当、剰余金の分配(出資に係るものに限る。)、基金利息(保険業法第55条第1項に規定する基金利息をいう。)並びに投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託を除く。)及び特定目的信託の収益の分配に係る所得をいう旨規定している。
ニ 所得税法第26条《不動産所得》第1項は、不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機(不動産等)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう旨規定している。
ホ 所得税法第35条《雑所得》第1項は、雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう旨規定している。
ヘ 所得税基本通達では、任意組合の所得計算として、概要次のとおり定めている。
(イ)36・37共−19《任意組合の事業に係る利益等の帰属の時期等》 民法第667条の任意組合の組合員の当該組合の事業に係る利益の額又は損失の額は、原則として、当該組合の計算期間を基として計算し、当該計算期間の終了する日の属する年分の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する。
(ロ)36・37共−20《任意組合の事業に係る利益等の額の計算》 上記(イ)により組合員の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する利益の額又は損失の額は、次のAの方法により計算する。ただし、継続して次のB又はCの方法により計算することも認める。
A 当該組合の収入金額、支出金額、資産、負債等を、組合契約又は民法第674条の規定による損益分配割合(以下「分配割合」という。)に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法
B 当該組合の収入金額、その収入金額に係る原価の額及び費用の額並びに損失の額をその分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法
 この方法による場合には、各組合員は、当該組合の取引等について引当金、準備金等に関する規定の適用はない。
C 当該組合について計算される利益の額又は損失の額をその分配割合に応じて各組合員に按分する方法
 この方法による場合には、各組合員は、当該組合の取引等について、非課税所得、引当金、準備金、配当控除、確定申告による源泉徴収税額の控除等に関する規定の適用はなく、各組合員に按分される利益の額又は損失の額は、当該組合の主たる事業の内容に従い、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得のいずれか一の所得に係る収入金額又は必要経費とする。
ト 匿名組合の組合員等の所得に関する通達
 所得税基本通達36・37共−21《匿名組合の組合員等の所得》 匿名組合の組合員が当該組合の営業者から受ける利益の分配は、当該営業者の営業の内容に従い、事業所得又はその他の各種所得とする。ただし、営業の利益の有無にかかわらず一定額又は出資額に対する一定割合により分配を受けるものは、貸金の利子として事業所得又は雑所得とする。
チ 国税通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項は、「納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税は、次に掲げる国税とする。」と規定し、同項第6号に次のとおり定めている。
六 延滞税及び利子税
リ 国税通則法第60条《延滞税》第1項は、「納税者は、次の各号の一に該当するときは、延滞税を納付しなければならない。」と規定し、同条第2号には次のとおり定めている。
二 期限後申告書若しくは修正申告書を提出し、又は更正若しくは第25条(決定)の規定による決定を受けた場合において、第35条第2項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額があるとき。
ヌ 国税通則法第63条《納税の猶予等の場合の延滞税の免除》第6項は、「国税局長、税務署長又は税関長は、次の各号の一に該当する場合には、当該各号に規定する国税に係る延滞税につき、当該各号に掲げる期間に対応する部分の金額を限度として、免除することができる。」と規定している。
ル 国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項は、「国税に関する法律に基づく処分で次の各号に掲げるものに不服がある者は、当該各号に掲げる不服申立てをすることができる。」と規定し、第1号から第5号まで定めている。
ヲ 国税通則法施行令第26条の2《延滞税の免除ができる場合》第2号は、国税通則法第63条第6項第4号に掲げる政令で定める場合として、「火薬類の爆発、交通事故その他の人為による異常な災害又は事故により、納付すべき税額の全部もしくは一部につき申告をすることができず、又は国税を納付することができない場合」を規定している。

別紙2 当事者の主張

争点(1)配当所得か否か

審査請求人

イ 本件LPSは、外国法人に該当しない。したがって、本件LPSから支払を受ける利益の分配金は、配当所得に該当しない。
(イ)原処分庁の主張の「自然人以外のもので法律上、権利・義務の主体となることのできるもの」の「もの」とは、「社団」又は「財団」であるべきであり、本件においては「社団」と解されるべきであるから、原処分庁の当該主張は、民法上、法人とは「権利能力を法律上有している社団」と解されていると修正される必要がある。
 したがって、本件LPSが我が国の私法上外国法人に当たるというためには、その前提として社団でなければならない。
 しかし、本件LPSは、構成員の契約関係を前提とした組合的性格を強くもつ団体である。
 本件LPSは、GP1社とLPである請求人1名の2者だけしか存在しないLPSであること、多数決原理による意思決定は想定されていないこと、意思決定機関等の内部組織が存在しないことなどから、社団性の前提である組織性は全くない。
 各パートナーは、リミテッド・パートナーシップ契約に基づいて合意した権利義務関係に従って業務執行をし権利行使をしているにすぎない。請求人とGPは、その間の権利義務関係をリミテッド・パートナーシップという形で形成しようとしてその形態を用いたにすぎない。
(ロ)州LPS法にはLPSに法人格を与え、あるいはLPSに法人格が存在することを直接規定した条項はない。
(ハ)商事会社であるというためには、商行為を業とする目的を持っていることに加えて、社団であることが必要である。
(ニ)法律上の当事者になれること、登記ができることがあれば、それが法人であるとはいえない。
 州LPS法が取引の当事者になることを認めているのは、第三者との間の取引の便宜、安全のためである。
 また、原処分庁がその主張の前提としている、州LPS法のパートナーシップはパートナーシップの名前で訴訟を提起することができると規定しているとする条項及びパートナーシップにおいて異なる規定を設けない限り、パートナーシップによって取得した財産はパートナーシップの財産であり、個々のパートナーのものではないとする条項は、州LPS法を構成する条文ではなくh州のゼネラル・パートナーシップを規律する法律を構成する条文であり、これらの事実認定は、極めて不適切であり、自己に有利な結論を導くための曲解である。
(ホ)原処分庁の主張によれば、パートナー全員が無限責任を負うという意味において民法上の組合に極めて近似しているゼネラル・パートナーシップも外国法人の要件を充たすことになる。
(ヘ)原処分庁は、州LPS法の「separate legal entity」という規定をもって、本件LPSを法人であり商行為を業とする商事会社であり所得税法上外国法人であるとしているが、その表現は、本件LPSが一種の共同事業体であることを示しているものの、a国において「法人格を有する法人」という意味で通常使用される「body corporate」より広い意味を有するものであって、それはわが国私法上の法人を意味するものではない。例えば、州LPS法は、ゼネラル・パートナーシップをも同様に「legal entity」と表現している。
 本件LPSの事業の実態は、まさに組合におけるのと同様の共同事業である。財産の名義、権利義務の名義人は本件LPSであるが、これはあくまでも取引の相手方との関係から要請されるものであって、パートナー間の内部的な共同事業性に影響を及ぼす事情ではない。
ロ 私法上、法人の損益は法人に帰属するとされるのに対し、組合の損益は組合に帰属することはなく、その構成員である組合員に帰属するとされる。法人税法も所得税法もそれぞれの課税主体に私法上帰属する所得に対する課税について定める法律であるから、原則として、そもそも所得が帰属しない団体を課税主体とすることはできない。
 配当所得とは「法人からの利益の配当」である。所得税法第24条の配当所得の規定においては、法人税法及び所得税法上法人とみなされる人格のない社団も同上の「法人」から除かれているが、これは人格のない社団に帰属する利益を私法上観念することができないことからの当然の規定である。すなわち、配当所得の規定上、ある団体が「法人」であるか否かの判断に当たっては、当該団体に帰属すべき利益を私法上観念することができるか否かが重要なメルクマールとなる。
 私法上損益が本件LPSには帰属せず、パートナーに帰属することが、本件LPSの準拠法上明らかである。その帰属割合については、各LPS契約においてパートナー間で合意することができることとされている(契約において損益の配分合意がなされない場合には、州LPS法上は出資の割合に応じて配分することとされている。)。
 本件LPS自身に帰属する損益というものが存在せず、本件LPSの決算というものも存在しない。
 それにもかかわらず、本件LPSからそのパートナーに対して利益の配当がなされたと擬制することは、私法を無視するものであって許されない。
ハ 投資事業有限責任組合契約に関する法律(旧「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」)に基づいて設立される投資事業有限責任組合は、その私法上の基本的性質は民法上の「組合」と同じであると解されている上、税務上も基本的に民法上の組合と同様の取扱いがなされることが国税庁通達(平成10年10月21日「中小企業等投資事業有限責任組合契約に係る税務上の取扱いについて」)により確認されている。
 投資事業有限責任組合は、わが国の法律上、法人格を認められていないが、実務的には、投資事業有限責任組合が、その名で契約を締結し、株式公開買付けの買付者となることができるなどの実務が定着しているなど、あたかも別個の法的実体をもっているかのように活動していること、登記をすることが認められていること、判例上、民法上の組合であっても代表者の定めがある場合には、訴訟の当事者能力があるとされていることからすれば、原処分庁が主張する点が法人であることのメルクマールとはならない。
ニ 原処分庁は、租税回避型投資商品に対する警戒を強める余り、本件LPSに係る個別事情について具体的な理解を欠いたまま(あるいはことさらに個別事情を無視したまま)、請求人の本件LPSを通じた投資を安易に租税回避型投資商品と同視して課税した。

原処分庁

イ 本件LPSは、以下の点から、我が国の私法及び租税法上、外国法人に該当し、本件LPSが本件財産LPSを介して行う不動産投資事業から生じる損益は、本件LPS自体に帰属する。したがって、本件LPSから支払を受ける利益の分配金は、配当所得に該当する。
(イ)所得税法は、内国法人を国内に本店又は主たる事務所を有する法人と、外国法人を内国法人以外の法人と定義しているが、「法人」の概念を定義しておらず、これを民法、商法等の私法上の概念と同義に解している。
 そして、私法上の法人概念は、「自然人以外のもので法律上、権利・義務の主体となることのできるもの」、すなわち「権利を有し義務を負う能力(権利能力)を法律上有しているもの」をいうものと解されている。
 したがって、外国の法律によって設立され、当該外国の法律の下で権利能力(法人格)が付与された商事会社が、私法上も、また、租税法上も、外国法人であるということができる。
 民法第35条第1項にいう「社団」とは、人の団体であって、「財団」と区別されるためだけに意味があるにすぎず、いわゆる「組合」との区別をいうものではない。また、商法第52条第1項にいう「社団」についても、「組合」とは異なる「社団」であるという特別の意味ではない。
 このように、民商法においては、組合的団体と区別された社団的団体であることを「法人」たることの要件としていないから、本件LPSが外国法人に該当するか否かを判断するに当たり、社団か否かを考慮する必要はない。
(ロ)権利能力なき社団というためには、〔1〕団体としての組織をそなえ、〔2〕多数決の原則が行われ、〔3〕構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、〔4〕その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない。
 本件LPSにおいては、〔2〕を除く要件を充たしているし、〔2〕についても、追加のLPが生じた際の多数決が予定されている。
 また、州LPS法において、リミテッド・パートナーシップは、請求人が法人であることを自認するコーポレーションとの吸収合併を行うことができる旨規定されているところ、民法上の組合であれば法人との吸収合併が認められる余地はないから、本件LPSは社団に該当する。
(ハ)本件LPSは、不動産を保有するリミテッド・パートナーシップの持分の取得、保有及び処分であることが定められ、商行為を業とする目的で設立された事業体(商事会社)である。
(ニ)本件LPSは、その設立準拠法である州LPS法においてリミテッド・パートナーシップは別個の法的主体である旨規定されているから、同法の下で権利・義務の主体となることができる資格を付与された事業体である。
 また、本件LPSは、設立準拠法である州LPS法によれば、契約、財産権の所有、裁判、登記等において当事者となることができる権利・義務の主体となる事業体である。
(ホ)本件LPSは、実際に、当事者として契約を締結し、源泉徴収義務者として源泉所得税を納付するなど、その構成員とは別個の権利・義務の主体として活動している。
(ヘ)州LPS法の「separate legal entity」という表現のみで、本件LPSを我が国の租税法上の法人と同視すべきであるとしたものではなく、本件LPSの準拠法である州LPS法の規定及び本件LPSの事業実態から判断した。
ロ 本件LPSから支払を受ける利益の分配金は、州LPS法によればパートナーに分配されると規定されているが、我が国の私法及び租税法から判断すれば、本件LPSは、パートナーによる共同事業ではなく、外国法人である本件LPSに対して出資したことに対する利益の分配金に当たる。
ハ 投資事業有限責任組合には、投資事業有限責任組合契約に関する法律によって法人格が与えられておらず、一方、LPSは、州LPS法によって法人格が与えられているから差異がある。

争点(2) 不動産所得又は事業所得か否か

審査請求人

 本件不動産への投資によって得られた利益の額又は損失の額は、全て我が国の民法上の組合を通じて不動産投資がなされた場合と同様に、本件財産LPSのパートナーである本件LPSに、そして本件LPSのパートナーである請求人に、それぞれの損益分配割合に応じてあん分して配分され、請求人の利益の額又は損失の額として直接帰属したものである。
 そして、本件LPSの事業は不動産投資、投資不動産の賃貸及び管理であるから、請求人が本件LPSから配分を受けた所得(損益)の種類は不動産所得である。
イ 請求人がa国不動産投資をするに至った経緯
(イ)請求人は、平成7年半ばころから、資金の運用方法として、不動産投資事業を行うことを検討していた。特に、不動産市場の実勢及び当時のわが国においては未発達であって不動産購入に対するノンリコースローン(責任財産限定特約付ローン)が既に通常の取引として広まっていたことなどから、我が国における不動産投資事業よりも安全性が高く、より高い投資利回りが期待できたa国における不動産投資事業について、興味を持ち、その実行のための調査検討を行っていた。
(ロ)請求人は、当初、個人で直接a国不動産の所有権を取得する方式でa国不動産投資事業を行うことを検討していたが、請求人がa国に赴く機会は仕事上多いものの常駐することができないという事情から、a国において単独で無限責任を負う形で不動産投資事業を行うことはリスクが高いと判断し、平成7年後半ころから、リスクを限定しながらa国不動産投資事業を行うことを模索した。
(ハ)請求人は、J社からa国不動産投資事業に関する説明を受けたとき、出資額にリスクを限定でき、かつ、不動産の日常的な運営をGPに依頼しつつ、請求人自身もa国不動産投資事業に関与し、積極的に自己資産を運用することができることから、好都合な案件と考えた。
(ニ)税務上のメリットさえとれれば投資対象がなんであってもよいということではない。
(ホ)請求人は、J社から、KLPSの最高経営責任者兼取締役会議長G会長を紹介され、同人との間でKLPSとの共同事業としてa国不動産に対する投資を行う交渉をした。
ロ 本件不動産の管理・賃貸・処分等の重要事項については本件財産LPSのGPは、LPである本件LPSの同意がない限りこれを単独で行うことはできない旨本件LPSと本件財産LPSとの間で合意されている。
 そして、本件LPSの同意が必要とされる場合のうちの一定の場合である、〔1〕本件LPSがLPとなっている本件財産LPSを通じて取得することが合意されている不動産以外の不動産等の購入、〔2〕本件財産LPSの利益所有権を処分すること又は本件財産LPSがその保有不動産を処分すること、〔3〕本件LPSの借入れの期限前弁済、弁済期限の延長等について、本件LPS契約において、請求人の事前の同意を要件としている。
 したがって、請求人は契約上もa国不動産事業に一定の範囲で関与することが予定されていたし、実際に、契約当事者はこれを履行した。
ハ 請求人は、以下のとおり、長期間にわたる不動産事業を当初から企図し、実際に関与した。
(イ)請求人は、本件LPS契約を締結した後、a国不動産投資事業の対象物件の状態等を確認するために、数度、現地に赴いた。
(ロ)請求人は、多数回にわたり、J社の職員を通訳として介して、GPとの間で、a国不動産投資事業の対象物件について打ち合わせをした。
(ハ)請求人は、平成10年に、GPの実質的所有者であるNが、a国REIT法人であるT社に買収された際に、本件LPSを存続させるか否かについて、J社を通じて、N及びT社と交渉を行った。
ニ 本件財産LPSは、州LPS法上、本件LPSと全く同様の法的性質を有する団体である。本件財産LPSは、我が国の租税法上外国法人には該当せず、我が国の民法上の組合と同様の性質を有する団体である。
ホ 本件において、LPSの二階建構造がとられたのは、もっぱら、a国の上場REITであるNが本件不動産投資を行うに当たり、N及びNと連結決算となるその他の団体が本件不動産について無限責任にさらされないようにするためであった。すなわち、仮に、本件財産LPSを使用せずに本件LPSのみの一階建構造とし、Nと連結されている関連団体であるKLPSが事業について無限責任を負う本件LPSのGPとなる場合には、N自身が無限責任にさらされるのと同じ結果を生じさせることになってしまう。そこで、本件財産LPSという資産保有LPSを通じて本件不動産を保有させ、本件LPSとしては、本件財産LPSに対するLP持分を保有するという仕組みを利用することによって、KLPSが本件不動産に関する無限責任を負わないような形式で本件不動産事業を行うことがKLPS側の事業上の要請だった(本件財産LPS段階で無限責任を負うGPであるMU社はh州法に基づく会社であるから、その直接株主及び間接株主であるNグループが本件不動産について無限責任にさらされることはない。)。
  このようなLPSの二階建構造がとられたことは、請求人とKLPSとの間の共同事業として本件不動産投資を行うという本件LPSの目的を変更するものではない。
ヘ 本件不動産は、合計○○○戸にも及ぶ多数の賃貸物件を含むものであって、その貸付業を行うに当たっては、事業上のリスクを最小限にとどめる等、さまざまな事業上の考慮(租税上の考慮ではない)が請求人の側にも、本件LPSのGPであったKLPSの側にもあった。a国においては、保有不動産に関わる無限責任の回避がそのような事業の考慮の一つとして明確に意識されており、そのために、LPSを通じて不動産を保有する仕組みを利用することによって無限責任を回避しつつ、不動産貸付業自体は、実際に資金を出したパートナーが行うという方式が、ごく一般的な不動産事業の仕組みとして利用されている。本件においても、請求人とKLPSとは、まさにこのような事業上の考慮からこのような仕組みを利用して本件不動産投資を行うこととした。
  すなわち、そのような仕組みを作り、本件財産LPSのLP持分を保有することが本件LPSの事業目的であったわけではなく、このような仕組みは本件LPSが本件不動産投資を行うにあたっての責任限定のための手段として用いられているにすぎず、それによって本件不動産に係る事業の実質的な主体を本件LPSのパートナーである請求人及びKLPSから本件財産LPSのパートナーのMU社と本件LPSに変更することが企図されていたわけではない。
ト 本件LPSのGPの実質的な所有者は、a国の上場REIT法人であって、証券取引委員会に対して、本件LPS契約書を添付して、本件LPSを自らの事業の一部として報告し開示している。上場REIT法人が本来の不動産事業から乖離した租税回避型投資商品を日本の個人投資家のために組成することは、その事業目的から全く許されないことであり、そのようなことをN社が行うことは到底あり得ない。
チ 本件LPSを通じて行ったa国不動産投資事業は、「事業の形を装った課税逃れ目的の商品」ではない。
(イ)請求人が行ったa国不動産投資事業は、投資事業の対象不動産の還元利回り(Cap Rate)は当初○%と予想されていた。この数字は、当時のa国における不動産に対する投資の還元利回りとしては通常のものであり、減価償却による節税がなかったとしても投資事業を行うことについて十分な合理性がある。
(ロ)請求人は、積極的に不動産投資事業を行おうとする意図を有していた。
(ハ)請求人は、本件LPSを通じて、複数のa国不動産に対して、合計○○○○円の投資を行い、投資を終了した平成14年までの7年間に合計○○○○円の家賃収入及び譲渡収入を得た上、投資金額全額の回収を果たした。請求人が行ったa国不動産投資事業は、減価償却等を考慮しなくとも、7年間の累計で上記収入額から減価償却費を除く費用及び投資金額を控除した利益額として合計○○○○円を得、年率○%の利回りをあげた投資であったということになる。
(ニ)本件のa国不動産投資事業に関して、請求人は、期間全体にわたって合計○○○○円の減価償却・管理費その他の費用を損金として計上したが、この金額は同じ期間中における不動産投資自体から生じた収入金額である○○○○円と比べた場合、通常の不動産投資事業の場合と異ならない金額である。
(ホ)請求人は、GP1名、LP1名という1対1のパートナーとして、また、契約内容についても、十分交渉した上で、本件LPS契約を締結し、a国不動産投資事業を開始した。
 多数の投資家に向けて組成されたものとは異なる。
リ 投資事業有限責任組合は、投資事業、特にベンチャー・キャピタル等が行うような投資事業を活発化させるために、我が国においてもa国におけるLPSと同様の法的効果をもち得る団体を認めるために設けられたものであり、〔1〕無限責任組合員と有限責任組合員により構成されること、〔2〕その存在を登記(登録)することができること、〔3〕その事業の損益は、パートナーシップ又は組合にではなく、組合員に帰属するとされていること、〔4〕分配の結果、債務超過となるような財産の分配を禁ずる分配制限が課されていることなどの点において、投資事業有限責任組合とLPSとは、極めて近似した性質を有している。
 したがって、本件LPSについては、投資事業有限責任組合と同様に、税務上、民法上の組合と同様の取扱いがされるべきである。
ヌ パートナーシップの原則的な会計処理によれば、パートナーは、単に持分をその原価で記帳するのではなく、各パートナーは、パートナーシップ契約の内容に従いパートナーシップについて生じる各損益、キャッシュフロー、減価償却その他会計項目を取り入れ、しかも、各パートナーで単に割合的に会計処理をすればよいというものでもない。したがって、パートナーシップ持分の会計処理は、パートナーシップを税務上法人として取り扱うこととは相いれない。
ル 我が国の民法上の組合については、所得税基本通達によって、長年にわたり、当該組合の事業の内容に従って組合員(個人の場合)の所得分類が決められるという運用がなされてきた。すなわち、当該組合の事業の内容が不動産の貸付けであれば、組合員(個人)の所得は、かかる組合事業の内容に従って不動産所得とされることになる。そして、本件においては、〔1〕本件LPSはわが国の民法上の組合類似の団体であり、わが国租税法上も民法上の組合と同様の取扱いがなされるべきこと、〔2〕本件LPSの事業目的は、本件不動産を取得、保有、貸付け(不動産貸付業)を行うことにあったこと、〔3〕本件LPSの事業の内容、実態も、本件不動産貸付業を請求人とKLPSとが共同事業として行うというものであったこと、〔4〕本件LPSのパートナーこそが本件不動産にかかる所有権の内容ないし機能の重要な部分である「収益」権能及び「処分」権能を有していることから、請求人が本件LPSから配分を受けた損益は、本件LPSの事業の内容に従い不動産所得に該当する。
ヲ 民法上の組合や匿名組合のように我が国において租税法上いわゆるパス・スルー扱いされる団体の事業や営業から個人がかかる団体の構成員として所得を得た場合の所得の種類の決定に当たっては、当該構成員が、かかる団体が行っている事業や営業のための財産に対して何らかの権利を直接有しているか否かという点は全く考慮されることはなく、むしろ当該構成員たる個人が得る所得の種類は、そのような権利関係の有無と無関係に、当該団体の事業内容や営業内容のみに基づいて決定されるという規範が通達によって表明され、長く適用され、確立している。
  したがって、本件LPS及び本件財産LPSが我が国の民法上の組合に類似する団体であって、我が国租税法上民法上の組合と同様に取り扱われるべきである以上、請求人が本件LPSから配分を受けた所得の種類は、本件LPSの事業内容のみによって決定されるべきであって、本件財産LPSが本件不動産の保有名義人であったことは請求人が本件LPSを通じて得た所得の種類の決定には何ら関係がない。
ワ 本件財産LPSが保有名義人となっていた本件不動産の賃貸戸数は○○○戸に及ぶものであり、その規模は事業と呼ぶに値することは明白である。請求人は、かかる事業の損益の配分を受けていたから、事業上のリスクを負っていたこと、少なくとも、請求人が自己の計算と危険において営利を目的とし対価を得て継続的に行う経済活動を行っていたことは明白である。
 したがって、仮に、本件LPSと本件財産LPSとが二階建構造になった形式であることを理由として、請求人が不動産貸付業を共同事業としていなかったと判断される場合には、請求人がしていた事業は、所得税法施行令第63条第9号の不動産業又は同条第12号の対価を得て継続的に行う事業に該当し、請求人が得た所得は事業所得に該当すると主張する。

原処分庁

 所得税法第26条第1項において、不動産所得とは、不動産等の貸付けによる所得をいう旨規定している。
 賃貸物件を所有しているのは、h州で設立された本件財産LPSであって請求人ではなく、請求人は、外国法人である本件LPSに対する出資を行い、本件LPSから利益の分配を受けたにすぎないから、不動産所得を有しない。

争点(3)信義則及び租税法律主義に違反するか否か

審査請求人

イ 課税当局は、従来、LPSの利益の分配に係る投資家の所得について、LPSを外国法人として扱わず、組合と同様に扱い、投資家が配当を受領する前から利益を得たものとして課税してきた。それにもかかわらず、原処分庁は、法令、通達等の是正措置をとることなく、異なる法解釈と適用を遡及して行った。
ロ 信義則について
(イ)租税法上、信義則が適用されるには、〔1〕租税行政庁が納税者に対して信頼の対象となる公の見解を表示したこと、〔2〕納税者の信頼が保護に値するものであること、〔3〕納税者が表示を信頼し、それに基づいて何らかの行為をしたことが必要である。
(ロ)請求人は、本件LPSを介したa国における不動産投資事業を、平成8年から行い、本件LPSを組合として税務上の処理をしてきたが、平成11年中に原処分庁の税務調査を受けたときにも、本件LPSが法人である旨の一切の議論・指導はなく、平成8年から10年分の申告において行った不動産所得としての所得計算は是認されたばかりでなく、平成11年11月26日付で、不動産所得の必要経費に計上漏れがあったとして、減額更正処分を受けた。
 これは、租税行政庁が本件LPSを組合であるとする見解に立つのでない限り説明のつかない処分であるから、本件LPSを組合とした請求人の処理を行政処分において認める公の見解の表示である。
 原処分庁の本件における主張は、平成11年当時に既に公知の情報であった我が国の法律及び州LPS法並びに平成11年当時に既に原処分庁に対して請求人が提供した本件LPS契約を基にしており、かつ、その資料の内容には平成11年当時以降変更はない。
(ハ)請求人は、所得税調査の際に本件LPSに関する資料を全て提供し、その上で減額の更正処分を受けたのであるから、請求人の更正処分に基づく租税行政庁の公の見解に対する信頼は保護に値する。
(ニ)請求人は、租税行政庁の見解を信頼し、本件LPSからの所得を不動産所得であると申告し、かつ、a国において課された所得税額については、これを当該不動産所得の必要経費と扱って申告した。仮に、租税行政庁が第1回目の調査時から本件LPSが法人であるとの見解を示していたとすれば、請求人は、平成11年分及び平成12年分の確定申告においては、不動産所得ではなく配当所得として確定申告を行ったはずである。その場合には、当該a国所得税については、必要経費とするのではなく、より有利な外国税額控除を受けることを選択し、確定申告書への記載や必要書類の添付をしていたはずである。請求人は、本件各更正処分等を受けた時点では、もはや遡って外国税額控除を受けるための手続を行うことはできず、第1回目の調査の結果示された税務当局の見解を信頼したために平成11年分及び平成12年分の確定申告において、a国所得税を不動産所得の必要経費とする行為を行った。
(ホ)したがって、請求人において、信義則が適用されるための要件をすべて充たすのであり、請求人に対する今回の処分は、その信頼を裏切り法的安定性を害した、信義則に反する違法な処分である。
ハ 請求人は、1980年代から日本の投資家によって行われてきたh州のリミテッド・パートナーシップの仕組みを利用したa国不動産投資事業について、税務申告上は民法上の組合類似の処理を行うという実務が定着していたと理解していた。このような実務に対して、税務当局からは、何の反論もなく、個別の案件においてはLPSを民法上の組合と同様に、法人とも法人格なき社団とも扱わないという指導がなされたこともあったと理解している。
ニ 原処分庁は、請求人による本件LPSを通じて行ったa国不動産投資事業を租税回避型投資商品と安易に同視して原処分を行った。

原処分庁

 原処分庁が、平成11年に行った請求人に対する調査の際には、本件LPSを租税法上の法人と同視すべきか否かについての議論は全くなかったこと、及び仮に、同年の調査の際に本件LPSを租税法上の法人と同視すべきでないと判断したとしても、同年の調査の際に把握した資料が本件各更正処分におけるそれと全く同じではないことからすれば、減額更正処分をしたことをもって公の見解の表示とすることはできない。

争点(4)附帯税の取消し・免除

審査請求人

イ 過少申告加算税の賦課決定処分の取消し
 請求人は、課税当局が従来からLPSを組合と同様な課税をしてきたことを信頼して確定申告してきたことに対して、本件各更正処分等を行って過少申告加算税を課したことには、請求人には故意・過失はないから国税通則法第65条第4項の「正当理由」に該当し、各年分の本件各賦課決定処分は取り消されるべきである。
ロ 延滞税の免除
 本件各更正処分等は、請求人の責めに帰すべき故意・過失はなく「やむを得ない理由」(平成13年6月22日付「人為による異常な災害又は事故による延滞税の免除について(法令解釈通達)」)に該当するので各年分の延滞税の免除を求める。

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