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(平18.3.30裁決、裁決事例集No.71 192頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、不動産賃貸業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、不動産所得の金額の計算上、建物の償却費として必要経費に算入する金額を定率法により計算したところ、原処分庁が、請求人は平成13年3月に当該建物を相続によって取得したから定額法により計算すべきであるとして、更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該建物を取得した日は、被相続人が取得した日を引き継ぐべきであるから定率法によることができると主張して、更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年分、平成14年分及び平成15年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表1ないし3の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、平成16年12月10日に、平成14年分及び平成15年分の所得税について、別表2及び3の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を提出した。
ハ これに対し、原処分庁は、平成17年3月8日付で、各年分について別表1ないし3の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び平成13年分の所得税に係る過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、これらの処分を不服として、平成17年4月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月26日付で、棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成17年8月25日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法第49条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項は、居住者のその年12月31日において有する減価償却資産につきその償却費としてその者の不動産所得等の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その者が当該資産について選定した償却の方法に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする旨規定している。
ロ 所得税法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》第1項第1号は、居住者が贈与、相続(限定承認に係るものを除く。)又は遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く。)により取得した譲渡所得の基因となる資産を譲渡した場合における事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす旨規定している。
ハ 所得税法施行令第120条《減価償却資産の償却の方法》第1項第1号は、減価償却資産の償却費の額の計算上選定をすることができる建物の償却の方法として、同号イにおいて、平成10年3月31日以前に取得された建物については定額法又は定率法、同号ロにおいて、同号イに掲げる建物以外の建物(同年4月1日以後に取得された建物)については定額法とする旨規定している。
ニ 所得税法施行令第126条《減価償却資産の取得価額》第1項は、減価償却資産の同法施行令第120条から第122条まで(減価償却資産の償却の方法)に規定する取得価額について規定し、同法施行令第126条第2項は、同法第60条第1項各号に掲げる事由により取得した減価償却資産の取得価額は、当該減価償却資産を取得した者が引き続き所有していたものとみなした場合における当該減価償却資産の取得価額に相当する金額とする旨規定している。
ホ 所得税基本通達49−1《取得の意義》は、所得税法施行令第120条第1項に規定する取得には、購入や自己の建設によるもののほか、相続、遺贈又は贈与によるものも含まれるのであるから、平成10年4月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した建物の償却方法は、定額法となることに留意する旨定めている。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ Aの建物所有権等の取得
(イ)請求人の母であるAは、昭和62年8月○日、P市Q町○−○所在の建物(以下「a建物」という。)の所有権を相続によって取得し、昭和63年2月19日付で、その旨の所有権移転登記をした。
(ロ)Aは、平成元年12月11日、R市S町○−○所在の建物(以下「b建物」という。)の所有権を売買によって取得し、同月12日付で、その旨の所有権移転登記をした。
(ハ)A、請求人、B(請求人の姉)、C(請求人の姉)、D(請求人の妹)及びE(Bの夫)は、平成4年10月13日、T市U町○−○ほか所在の建物(以下「c建物」という。)を新築し、共有持分割合を請求人が100,000分の10,159、Aが100,000分の61,960、Bが100,000分の7,085、Cが100,000分の10,654、Dが100,000分の8,588及びEが100,000分の1,554として、その共有持分を取得し、平成5年12月24日付で、その旨の所有権保存登記をした。
ロ 請求人の建物所有権等の取得
(イ)Aは、平成13年3月○日に死亡した。
(ロ)請求人は、同日、Aが有していた、a建物及びb建物の所有権を単独相続し、c建物の共有持分をB、C及びDとともに共同相続し、平成14年1月23日付又は同年2月26日付で、それぞれその旨の所有権移転登記をした(以下、c建物のうち請求人が相続した持分100,000分の47,089を「c建物相続分」といい、a建物及びb建物と併せて「本件各建物」という。)。
ハ 請求人は、各年分の不動産所得の金額の計算において、本件各建物の償却費として必要経費に算入する金額を定率法により計算している。

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2 主張

(1)請求人

イ 本件各更正処分
 本件各更正処分は、次の理由により違法であるから、本件各更正処分のうち、平成13年分はその全部を、平成14年分は純損失の金額○○○○円及び平成15年分は純損失の金額○○○○円を超える部分をそれぞれ取り消すべきである。
 なお、本件各更正処分のその他の部分については争わない。
(イ)原処分庁は、所得税法施行令第120条第1項第1号を補足するものとして、所得税基本通達49−1を挙げているが、わざわざ同通達により補足しなければならないこと自体、所得税法施行令第120条第1項第1号イの取得の意義があいまいであることをあらためて証明しているようなもので、相続等によるものもこの同項の規定により、平成10年4月1日以後、引き継いだものについて強制的に定額法にすることには無理がある。
(ロ)取得価額と取得時期は同時に確定するものであり、所得税法施行令第126条第2項では、相続等により取得したものについて、相続した者が引き続き所有していたものとみなす旨、より具体的に表現されている。したがって、整合性を保つ意味において、相続等により取得したものについては、同法施行令第120条第1項の適用に当たっても、同法施行令第126条第2項と同様に考えるべきである。
(ハ)原処分庁は、不動産の取得について、民法上では、取得原因として売買の他に贈与及び相続も含まれると解されているとしているが、所得税法は、相続物件に関して個々に特別な規定を設けている。所得税法第60条第1項及び同法施行令第126条第2項がその例である。
 相続により取得した減価償却資産の償却の方法について、相続開始日を取得日とし、当該減価償却資産を譲渡する際は、相続開始日ではなく被相続人の原始取得日を取得日とすることは不合理である。
 また、原処分庁は、所得税法第60条及び同法施行令第126条の「引き続き所有していたものとみなした場合における」との表現が取得時期を規定したものではないとしているが、「被相続人等が従前より引き続き所有」という意味は、当然に被相続人が取得所有しているということであり、取得時期の明示ではないとしても、相続開始日を取得日とすることでないことは確かである。所得税法第60条は、相続等により取得した資産については、被相続人の取得時期及び取得価額を引き継ぐ旨規定しており、この点からも請求人のa建物、b建物及びc建物相続分の取得時期は、それぞれ昭和59年6月、平成2年7月、平成4年7月と考えるのが自然である。
(ニ)原処分庁の主張によれば、請求人の被相続人Aからの相続取得減価償却資産の不動産所得の金額(減価償却費)の計算上の取得日は、相続開始日である平成13年3月となり、当該減価償却資産を譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算上の取得日は被相続人Aが当初取得した平成4年7月などとなり、同一減価償却資産につき、税法上、2つの取得日が存在することになる。
(ホ)請求人は、被相続人等複数人で共同所有している物件について、同一物件のある部分は定率法による償却、ある部分は定額法による償却となる不都合、さらに、第二次、第三次相続等における計算の複雑化、混乱が生じることについて疑問がある。
(ヘ)以上のとおり、請求人が本件各建物を取得したのは、それぞれ昭和59年6月、平成2年7月、平成4年7月であるとするのが合理的であるから、請求人の各年分の不動産所得の金額の計算において、本件各建物の償却の方法は定率法を用いるべきである。
ロ 本件賦課決定処分
 上記イのとおり、本件各更正処分は違法であり、平成13年分はその全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分
(イ)不動産の取得とは、その不動産の所有権の取得にほかならず、民法においては、その取得原因(取得方法)として、売買や贈与などの契約及び相続などの承継取得、また、時効取得などの原始取得についても規定しているから、相続についても不動産の取得原因になり得るものと解される。
 そして、請求人は、上記1の(4)のロのとおり、平成10年4月1日以後である平成13年3月○日の相続により、Aから本件各建物を取得しているから、その部分に係る償却の方法は、所得税法施行令第120条第1項第1号ロの規定により定額法によることとなる。
(ロ)所得税法第60条第1項の規定は、単純承認に係る相続による資産の移転について、被相続人がその資産を保有していた期間中に発生していた値上がり益をその相続人の所得として課税しようとする趣旨であり、同項において「引き続きこれを所有していたものとみなす」と規定しているのは、同項の規定が適用される場合における法律上の擬制にすぎない。
 また、所得税法第60条第1項各号に掲げる事由により取得した減価償却資産の取得価額について規定した所得税法施行令第126条第2項においても「引き続き所有していたものとみなした場合における」との表現がなされているが、同項の規定は取得時期について規定するものではなく、同項の規定が所得税法施行令第120条第1項第1号イにいう「取得」の意義に影響を及ぼすものではない。
(ハ)減価償却費の計算は、所得税法等の法令に規定された計算方法により行われるものであり、その計算過程が複雑かどうかにより適法か否かを判断するものではないから、請求人の主張には理由がない。
(ニ)請求人の平成13年分の総所得金額並びに平成14年分及び平成15年分の純損失の金額は、それぞれ別表1ないし3の「更正処分等」欄の金額と同額となるから、本件各更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分
 請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認めるものがある場合」に該当しないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件各更正処分

イ 所得税法施行令第120条第1項は、上記1の(3)のハのとおり規定しているところ、〔1〕同項第1号イにいう「取得」に、相続による承継取得が含まれない旨の明文の規定はなく、また、これが含まれないと解すべき合理的理由もないこと、〔2〕民法上、相続は不動産の取得原因の一つとされていることから、その「取得」は、文理解釈上、相続による承継取得を含むと解すべきである。
ロ これを本件についてみると、請求人は、本件各建物を、平成13年3月○日に相続により取得しているから、本件各建物は、同号イの「平成10年3月31日以前に取得された建物」には当たらず、同号ロの「イに掲げる建物以外の建物」に該当し、本件各建物の償却費として必要経費に算入する金額を計算するに当たり、償却の方法として選定できるのは、定額法のみである。
ハ 請求人の主張について
(イ)請求人は、所得税法施行令第120条第1項に規定するものについて、所得税基本通達49−1により補足しなければならないこと自体が「取得」の意義があいまいであることを示すものであるから、平成10年4月1日以後相続等により取得したものについて、強制的に定額法にすることには無理がある旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、所得税法施行令第120条第1項第1号イの「取得」の意義については、文理解釈上、相続による承継取得も含まれると解されるのであり、また、所得税基本通達49−1の定めは、「留意する」という文言からも明らかなように、相続による承継取得が含まれることを注意的・確認的に示したものであるといえるから、請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、〔1〕取得時期と取得価額は同時に確定するものであること、〔2〕原処分庁の主張によれば、請求人が被相続人Aから相続によって取得した一つの減価償却資産について、不動産所得の金額(減価償却費)の計算上の取得日は相続開始日である平成13年3月と、当該減価償却資産を譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算上の取得日は被相続人Aが取得した平成4年7月などとなって、税法上、2つの取得日が存在することになり不合理であること、〔3〕所得税法第60条第1項及び同法施行令第126条第2項は、相続人が引き続きこれを所有していたものとみなす旨規定していることから、所得税法施行令第120条の適用に当たっても、同法施行令第126条第2項と同様に考えて、本件においても被相続人が取得した日をもって取得日と解すべきである旨主張する。
 しかしながら、所得税法施行令は、所得税法第49条の減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法に関する規定を受けて、第120条において、減価償却資産の償却の方法について、その資産を「平成10年3月31日以前に取得された建物」とそれ「以外の建物」に区分して、前者について定額法又は定率法と、後者について定額法と規定し、他方、第126条において、減価償却資産の取得価額について、その資産の区分に応じた取得価額を同条第1項各号に規定した上、同条第2項は、所得税法第60条第1項各号に掲げる相続等により取得した減価償却資産の「取得価額」は、当該減価償却資産を取得した者が引き続き所有していたものとみなした場合における当該減価償却資産の同法施行令第126条及び第127条の規定による「取得価額に相当する金額」であると規定しているのであるから、いずれも減価償却資産の税法上の「取得日」を規定したものでないことは明らかである。
 また、確かに、所得税法第60条第1項は、相続(限定承認に係るものを除く。)等により取得した資産を譲渡した場合における譲渡所得等の金額の計算については、「その者が引き続きこれを所有していたものとみなす」と規定し、同条項の解釈として、取得価額が引き継がれるだけでなく、前所有者の取得の時期も引き継がれ、その結果長期保有資産と短期保有資産の判断も、前所有者の保有期間と通算して行われると解されているが、所得税法第60条は、キャピタル・ゲインに対する課税として、資産を譲渡した場合における所得の計算について、「みなし譲渡課税」が行われない場合と行われた場合に分けて規定したものであり、同条第1項は、「みなし譲渡課税」が行われない場合に、相続人等に前所有者のキャピタル・ゲインに対する課税を引き継がせる趣旨から規定されているのであるから、同条項が、これと法の趣旨を全く異にする所得税法第49条を受けて規定された同法施行令第120条第1項第1号の解釈に影響を及ぼすものではない。
 したがって、所得税法第60条第1項及び同法施行令第126条第2項を前提に同法施行令第120条第1項第1号を解釈すべきとする請求人の主張は、いずれも理由がない。
(ハ)請求人は、原処分庁のように解すると、同一物件の中で定率法及び定額法が混在する不都合、相続等における計算の複雑化について疑問がある旨主張する。
 しかしながら、減価償却費の計算は法令に規定された計算方法により行うべきものであるから、請求人の主張するように、c建物について定率法と定額法が混在する不都合、第二次相続等における計算の複雑化が生じることをもって、法令の規定に反する方法によって減価償却費を計算することは許されない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ニ 以上の結果、請求人の平成13年分の総所得金額並びに平成14年分及び平成15年分の純損失の金額は、それぞれ別表1ないし3の「更正処分等」欄の金額と同額となることから、本件各更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分

 本件各更正処分は上記(1)のとおり適法であり、また、平成13年分の更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、平成13年分の更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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