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(平18.4.7裁決、裁決事例集No.71 273頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が自宅マンションの一部を請求人の妻に譲渡したことによる譲渡所得について、原処分庁が、住宅・都市整備公団(以下「住宅公団」という。)から割賦方式により購入した際の利息等については自宅マンションの取得費に該当しないとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、自宅マンションの取得に関連して支払ったすべての金額は取得費に当たるとして同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成15年分の所得税について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ これに対して、原処分庁は、分離長期譲渡所得の取得費の金額に誤りがあるとして、平成17年7月1日付で別表1の「当初更正」欄のとおりとする更正処分(以下「当初更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「当初賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これを不服として平成17年7月15日に異議申立てをしたところ、3月を経過しても異議決定がなかったことから、同年10月16日に審査請求をした。
ニ 原処分庁は、分離長期譲渡所得の取得費の金額に誤りがあったとして、平成17年10月31日付で別表1の「再更正」欄のとおりとする当初更正処分に係る納付すべき税額を減額する更正処分(以下「本件再更正処分」といい、本件再更正処分により一部取り消された後の当初更正処分を「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を減額する変更決定処分をした(以下、この変更決定処分を「本件変更決定処分」といい、本件変更決定処分により一部が取り消された後の当初賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)。

(3)関係法令等

イ 所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定している。
ロ 所得税基本通達(昭和45年7月1日付直審(所)30国税庁長官通達をいい、以下「基本通達」という。)38−8《取得費に算入する借入金の利子等》は、賦払の契約により購入した固定資産に係る購入代価と賦払期間中の利息及び賦払金の回収費用等に相当する金額とが、明らかに区分されている場合におけるその利息及び回収費用等に相当する金額は、固定資産を取得するための借入金の利子と同様に当該固定資産の使用開始の日までの期間に対応する部分の金額は、資産の取得に要した金額に含めて取り扱う旨定めている。
ハ 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、更正があったときは、その更正に基づき新たに納付すべき税額に一定の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定し、同条第4項は、第1項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、正当な理由があると認められる事実に基づく税額により計算した金額を控除して過少申告加算税を課する旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和57年3月○日に住宅公団から支払期間35年間、ボーナス併用払いの割賦方式により、P市Q町○−○所在のJ団地○○号室(専有面積は○○平方メートルであり、以下「本件区分建物」という。)及びその敷地権(以下、本件区分建物とその敷地権を併せて「本件マンション」という。)をK(以下「妻」という。)と共有名義で購入した。
ロ 「住宅・都市整備公団長期特別分譲住宅譲渡契約書」(以下「本件契約書」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)団地名 J団地
(ロ)住宅のある建物の番号 ○○○○
(ハ)住宅の番号 第○○号室
(ニ)共同譲受人 請求人・妻
(ホ)譲渡代金の額 84,511,100円
(ヘ)一時金の額 3,000,000円
(ト)住宅譲渡契約の締結日 昭和57年3月○日
(チ)使用料相当額の算出基準となる額 31,600,000円
ハ 本件契約書の別紙「一時金及び割賦金の支払額並びにそれらの支払期日表」には、要旨次のとおり記載され、ボーナス月が毎年1月及び7月である旨注記されている。

ニ 本件マンションについては、受付年月日を昭和57年12月○日、原因を昭和57年3月○日売買、権利者を請求人及び妻とし、各人の共有持分をそれぞれ10分の5とする所有権移転登記が行われている。
ホ 請求人は、昭和62年7月10日、L銀行○○支店(現、M銀行○○支店)から29,400,000円を借り入れ(以下「M銀行からの借入れ」といい、この借入金を「M銀行からの借入金」という。)、昭和62年7月○日、その金員で昭和62年7月分の割賦金等611,260円及び繰上償還金28,423,824円の合計額29,035,084円を住宅公団に支払った。
ヘ 請求人は、平成15年10月17日、本件マンションに係る妻の共有持分(10分の5)について、原因を真正な登記名義の回復とする請求人への所有権移転登記をした。
ト 請求人は、平成15年12月8日、本件マンションの共有持分100分の47を妻に○○○○円で譲渡した(以下「本件譲渡」という。)。
チ 本件マンションに係る設備費及び改良費はなく、別表3の〔14〕の不動産取得税等294,790円が本件マンションの取得費になることについては双方に争いがない。

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2 主張

(1)当初更正処分について

イ 請求人
 当初更正処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
(イ)本件契約書に記載された譲渡代金の額について
A 所得税法第38条第1項の解釈から、本件契約書に記載された譲渡代金の額84,511,100円(以下「本件譲渡代金の額」という。)の総額どおりに、第1回から最終回(第420回)まで割賦金を支払った場合、その全額が本件マンションの取得費に当たる。
B 判例も(住宅公団との)譲渡契約書に記されている譲渡代金の額は、資産の取得に要した費用に当たるということを肯定していると聞いており、判例が出された後は、国税庁の実務上の取扱いも判例と同じ扱いをするようになったと聞いている。
C 本件譲渡代金の額には、次の理由から利息は存在しない。
(A)住宅公団は、住宅・都市整備公団法(平成11年法律第76号により廃止されたもの。以下「公団法」という。)に基づいて設置された特殊法人でその業務は同法第29条《業務の範囲》に定められているものに限られ、融資業務又は法律上融資業務と認められる業務は行えず、貸付けの対価としての利子の徴収も行えないし、行ってもいない。
(B)本件契約書には、利子の根拠となる融資や貸付けを行うとすることの記述はない。
(C)本件契約書に記された本件譲渡代金の額は、その表示内容から見て、区分できない一単位の譲渡代価のみである。
D 割賦金の利息等については、次のことから、通達のいうところの購入代価(以下「購入代価」という。)と明らかに区分されていない。
(A)本件譲渡代金の額には、区分された賦払期間中の利息等の定めは存在しない。
(B)本件契約書の記述によれば、本件譲渡代金の額は84,511,100円、うち一時金3,000,000円、割賦金の合計額81,511,100円となっているが、原処分庁の見解は、取得費の計算において一時金、割賦金とも「0」とし、現実の支出を全く無視した無謀な査定を行っている。そのため、当初更正処分及び本件再更正処分において、突如として、取得費の加算項目として申告外の費用として即金価額31,600,000円という非現実的な観念を導入した無謀な処分をしなければならなくなった。
(C)原処分庁は法源でない基本通達38−8のかっこ書きを引用して「明らかに区分されている場合」に該当すると主張するが、そうすると、通達でいうところの購入代価に相当する部分を考え得ると仮定して、それをAn、利息相当部分をBn、回収費用等に相当する部分をCnとして、原処分庁の考え方を推測すると第n回の割賦金Xn=An+Bn+Cnと記述できることになる。原処分庁によれば、各回のAnの値が明らかに区分されており、その数値が分かっており、それらを積み上げると
 n=420
 ΣAn=31,600,000円
 n=1
となるが、原処分庁はAnの値を示すことができない。それは、Anの値が明らかに区分されて存在しないからである。
(D)請求人が確定申告において第1回から第64回までの割賦金の支払額9,236,500円を取得に要した費用として申告したところ、原処分庁は、購入代価は明らかに区分されていると主張しながら、この9,236,500円のうち、購入代価がいくらと区分されているかが示せないため、「0」と査定し、一方で、142,100円を費用として計上しなければならないので、第1回割賦金と第2回割賦金を分離分割して表示し費用として認定する苦肉の方策を採らねばならなくなった。第1回割賦金と第2回割賦金の費用認定をこのようなかたちで行ったこと自体が購入代価と利息等が区分して表示されていない、区分されていないことを証明するものである。
E 原処分庁は、本件契約書上存在しない即金価額という一括の概念を持ち込むが、請求人は、取得費を決定する要因として即金価額という概念は認めず、実際に支払った金額の実額のみが取得価額を構成する要素である。すなわち、実際に支払った金銭を摘出、摘示して、取得価額の額を構築、構成し説明しなければならない。
F N国税局税務相談室R分室のS相談官(以下「本件相談官」という。)は、平成15年3月4日、「住宅公団の長期特別分譲譲渡契約書に書かれている譲渡代金の額は、所得税法第38条第1項の資産の取得に要した金額に当たるか」との請求人からの電話での質問に対し、「資産の取得に要した金額に当たる」と明確に回答した。
(ロ)M銀行への返済額等(別表3の〔11〕ないし〔13〕の合計額43,701,811円)は、そのすべてが本件マンションの取得費に当たる。
A 本件譲渡代金の額は、その全額が本件マンションの取得費に該当するところ、請求人は、住宅公団に対する将来の債務が7,166万円余であり、M銀行に支払った総額が4,369万円余で、付随費用を考慮しても、2,716万円余の総負担の軽減を招来する大きな効果があった。このことにより、住宅公団へ最後まで支払うよりも本件マンションの取得に要した金額を大幅に縮減できたものであり、極めて高い経済的合理性を有するものである。そして、M銀行からの借入れは、この経済的合理性を持った措置を実行するために欠かせないものであり、この成果のためのコストであったので、本件マンションの取得費に当たる。
 また、繰上返済をすることによって国庫が住宅公団に対して支出する交付金を減少させ、繰上返済をしない場合に比し国庫の税収の減少を少なくするという、国家的次元での意味を持つ。
B 原処分庁の主張する「使用開始の日後、譲渡までの間に相当する利息は資産の取得費に該当しない」とする通達は、住宅を購入する場合に金融機関から受ける融資であって、購入以前及び使用開始前に融資が行われるものに伴って負担する支払利息についてのものであるところ、M銀行からの借入れは、住宅の購入から長期間経過後、かつ、使用開始から長期間経過後の時点に至って、住宅公団への支払総額を減少させるために行われたものであるから、経済的機能が大きく異なったものであり、同一の見方で捉えることができない別種の借入れである。
(ハ)M銀行からの借入れに要した諸費用は、すべて本件マンションの取得費に当たる。
A 借入れに要した諸費用は、上記(ロ)の理由のほか、借入れに通常必要なものばかりである。
B 抵当権設定登記に要した登録免許税、司法書士報酬、抵当権抹消登記に要した登録免許税は、基本通達38−8において「抵当権設定登記費用で当該資金の借入れのために通常必要と認められるものは、当該固定資産の取得費又は取得価額に算入する」とされている。
C 信用保証料は、保証契約に基づいて支払われる保証料で、保険契約に基づいて支払われる保険料と同種の費用であり、基本通達38−8に記載された「借入れの担保として締結した保険契約に基づいて支払う保険料その他の費用で当該資金の借入れのために通常必要と認められるもの」に該当する。
D また、保証契約に要した印紙代についても同様である。
ロ 原処分庁
 本件更正処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
(イ)請求人は、本件譲渡代金の額84,511,100円を基本とし、住宅公団への繰上償還及びM銀行からの借入金の返済金等を含む本件マンションの取得に要した資金の総額56,663,212円が本件マンションの取得に要した金額に当たる旨主張するが、本件譲渡代金の額のうち本件マンションの取得に要した費用は、次のことから、即金価額(基本通達38−8の購入代価に相当する金額をいう。以下同じ。)31,600,000円と本件マンションの使用開始の日までの期間に対応する部分の利息及び割賦金の回収費用等に相当する142,100円である。
A 所得税法第38条第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定し、基本通達38−8は、固定資産の取得のために借り入れた資金の利子(賦払の契約により購入した固定資産に係る購入代価と賦払期間中の利息及び割賦金の回収費用等に相当する金額とが明らかに区分されている場合におけるその利息及び回収費用等に相当する金額を含む。)のうち、その資金の借入れの日から当該固定資産の使用開始の日までの期間に対応する部分の金額は、業務の用に供される資産に係るもので、当該業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されたものを除き、当該固定資産の取得費又は取得価額に算入する旨定めている。
B 最高裁平成4年7月14日第三小法廷判決は、所得税法第38条第1項に規定する取得費について、個人が居住の用に供するために不動産を取得するに際しての借入金の利子は、当該不動産の客観的価格を構成する金額に該当せず、また、当該不動産を取得するための付随費用に当たるということもできないものであって、むしろ、個人が他の種々の家事上の必要から資金を借り入れる場合の当該借入金の利子と同様、当該個人の日常的な生活費にすぎないものというべきであるところ、当該借入金の利子のうち、使用を開始するまでの期間に対応するものは、当該不動産をその取得に係る用途に供する上で必要な準備費用ということができることから、当該不動産を取得するための付随費用に当たる旨判断しており、基本通達38−8も同様の扱いを定めている。
C 本件譲渡代金の額には、次の理由から利息が含まれている。
(A)公団法第29条第1項第1号は、住宅公団の行う業務について、住宅の建設、賃貸その他の管理及び譲渡を行う旨規定し、同項第19号は同項各号に附帯する業務を行う旨規定している。また、住宅・都市整備公団法施行規則(平成11年建設省令第41号により廃止されたもの。以下「公団法施行規則」という。)第14条《譲渡の対価の支払の方法》第1項は、分譲住宅の譲渡代価の支払は、同項各号に掲げる方法とし、ただし、住宅公団が必要があると認めるときは、譲渡対価のうち当該分譲住宅に必要な土地の取得費及び造成に要する費用を基準として住宅公団が定める額について一時支払とすることができる旨規定し、また、同条第4項は、分譲住宅の割賦支払に係る割賦金の額の計算方法は、建設大臣の承認を得て住宅公団が定める旨規定していた。
(B)「公団の分譲住宅・昭和56年第○回・J団地(第○次)・新特別住宅債券積立者向及び一般向同時募集案内書・郵送申込期間―昭和56年○月○日〜○月○日」と題する書面(以下「本件案内書」という。)には、譲渡代金を割賦払いとした場合の割賦金の適用金利について「当初10年間は年利5.50%、残期間は年利7.50%で、このほかに事務費等が含まれます」と記載されている。そして、請求人は、35年割賦ボーナス併用払いを選択した。
D 本件案内書には、35年割賦ボーナス併用払いの場合「最初の5年間が元金据置期間で、6年目以降は元利均等償還期間になる」と記載されており、住宅公団が割賦金の額の計算方法において、金利及び事務費等を定めているのは明らかであり、本件マンションの購入代価と賦払期間中の利息及び賦払金の回収費用等に相当する金額とが区分されていることも明らかである。
E 本件マンションの使用開始の日については、本件マンションの引渡日が昭和57年3月○日であること、請求人が本件マンションに住所を定めた旨を届け出た日が昭和57年3月○日であること及びT電力株式会社との電気使用契約を昭和57年4月3日以降として締結していることから、昭和57年4月3日と認められる。
F 独立行政法人都市再生機構(旧住宅公団をいい、以下「再生機構」という。)U支社の担当者は、異議申立てに係る調査担当者に対し、次のとおり申述している。
(A)本件契約書には即金価額としては記載されていないが、通常の場合、契約書の「使用料相当額の算定基準となる金額」欄に即金価額と同額を記載することになり、本件契約書に記載されている金額31,600,000円も本件案内書に掲載されている本件マンションの即金譲渡価格と一致している。
(B)昭和57年4月3日において支払うべき割賦金は、同月25日支払期日分71,050円(第2回割賦金)までとなり、本件案内書に記載のとおり、その金額には当該割賦払いに係る元本の金額が含まれていないため、同日において支払うべき元本の金額は、即金価額31,600,000円から一時金3,000,000円を差し引いた金額28,600,000円となる。
(C)ボーナス月分となる昭和57年7月25日支払期日の割賦金497,350円は、同年6月26日を経過しなければ支払義務が生じない。
G 本件マンションの使用開始の日と認められる昭和57年4月3日までの間に請求人が負担する割賦金は、上記1の(4)のハのとおり142,100円(第1回割賦金及び第2回割賦金)で、上記D及びFから当該金額が本件マンションの取得に要した費用に算入できる借入金の利子等となり、その余の割賦金の額は、本件マンションの取得費には当たらない。
H 異議申立てに係る調査担当者が、N国税局税務相談室R分室において本件相談官に対して質問調査を行ったところ、同人から提示を受けた平成15年3月4日付の電話相談日誌(以下「本件相談日誌」という。)には、「公団から購入した不動産を譲渡したが、途中で銀行に借換えたので、実際に支払った額が契約金額より少なくなった場合の取得は・・・担当部門で相談を」との記載があり、本件相談官に当該日誌を示しながら確認したが、2年以上前の相談のため記憶にないが、記載内容からその相談の段階では最終判断には至っていないと思われる旨の申述があった。
 以上のことから、相談を行った事実は認められるが、請求人が主張する内容の相談が行われた事実は認められない。
(ロ)M銀行からの借入金の利子は、本件マンションの使用開始の日後の期間に対応する部分であるので、上記(イ)のA及びB並びにEの理由から本件マンションの取得費に当たらない。
(ハ)借換え(M銀行からの借入れ)に要した諸費用については、上記(ロ)のとおりM銀行からの借入れが本件マンションの使用開始の日後に行われたものであることから、本件マンションの取得費に当たらない。

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(2)賦課決定処分について

イ 請求人
 以下のとおり、請求人の場合、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められる場合に該当することから、当初賦課決定処分の取消しを求める。
(イ)本件相談官は、平成15年3月4日に「住宅・都市整備公団の長期特別分譲譲渡契約書に書かれている譲渡代金の額は、所得税法第38条第1項の資産の取得に要した金額に当たるか」との電話での質問に対し、「資産の取得に要した金額に当たる」と明確に回答した。
 また、「銀行から借入れをして公団へ繰上返済を行い銀行へ支払った金利を含めて、総支払額が公団との契約金額より少なくなったときは、公団への支払額と銀行への支払金利との合計額が所得税法第38条第1項の資産の取得に要した金額になるか」との質問には、「答えられない。担当部門で相談しては。」との回答であった。
(ロ)上記質問は、N国税局管内において毎年1,000件程度の実例がある日本住宅公団、住宅・都市整備公団、都市基盤整備公団、都市再生機構と続いた日本住宅公団系統の分譲住宅の再譲渡に係る定型的な税法の問題であり、「正確な資料を提示して」相談を受けなければ回答できないような性格の問題ではなく、相談官が広く承知、理解している問題であって、直ちに回答できる。また、実際に即答した税法解釈問題である。
(ハ)原処分庁のV統括国税調査官(以下「本件統括官」という。)は、平成16年11月12日の請求人との面談において、「国税相談室の回答に従って行った確定申告については、加算税、延滞税の賦課に関して斟酌される」と表明した。
ロ 原処分庁
 以下のとおり、請求人の場合、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められる場合に該当しないことから、本件賦課決定処分は適法である。
(イ)上記(1)のロの(イ)のHのとおり、本件相談日誌の記載内容から、請求人が相談を行った事実は認められるが、請求人が主張する内容の相談が行われた事実は認められない。
(ロ)相談が電話で行われたことからしても、請求人が正確な資料を提示して相談をし、その相談に対して権限ある税務官署の担当職員が誤った指導をしたものと認めることも困難である。

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3 判断

(1)当初更正処分及び当初賦課決定処分のうち取り消された部分に係る審査請求について

 更正又は賦課決定がなされた後において、それに係る税額を減少する再更正又は変更決定がなされた場合、その実質は、当初の更正又は賦課決定の変更であり、それによって税額の一部取消しという納税者に有利な効果をもたらす処分といえる。
 したがって、当初更正処分及び当初賦課決定処分のうち本件再更正処分及び本件変更決定処分により取り消された部分に係る審査請求は、不服申立ての対象を欠き、救済を求める利益がない不適法なものである。

(2)本件更正処分について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件案内書には、要旨、次の事項が記載されている。
A 住宅公団から本件マンションの購入を希望する者は、購入に先立ち住宅公団に対して希望する住宅を申込書に記載して申し込むこと。
B 希望する住宅は、申込基準、棟番号、住宅型式、即金譲渡価格などによって区分された「申込区分」で記号化されていること。
C 申込書には「申込区分」を必ず記載すること。
D 申込み後は、「申込区分」の変更はできないこと。
E 購入希望者のうち当選者は、購入に際して支払う金額については、次の中から選択すること。
(A)「即金払い」は、住宅ごとに定められた即金譲渡価格を契約締結時までに支払う。
(B)「割賦払い」は、35年間、30年間、25年間、20年間の4つの支払期間があり、その期間内に支払う割賦金は、毎月均等払いとボーナス併用払いの2つがあり、さらに、ボーナス併用払いは、通常月とボーナス月の支払額の割合の違いによってAないしCの3タイプに区分されている。
F 割賦金には、割賦利息及び事務費等が含まれていること。
G 割賦利息の適用利率は、当初10年間は年利5.50%、残期間は年利7.50%で、支払期間の当初5年間は元金据置期間、6年目以降は元利均等償還期間となっていること。
H 「価格表」には、○○号室の即金譲渡価格が31,600,000円であること。
I 支払期間35年の支払例を掲載した「支払例および基準月収額」には、即金譲渡価格31,600,000円で、一時金3,000,000円のCタイプ欄の割賦金の額が、当初5年間の通常月は71,050円、ボーナス月は497,350円、6年目からの5年間の通常月は87,320円、ボーナス月は611,260円、11年目からの25年間の通常月は104,180円、ボーナス月は729,230円であること。
(ロ)本件マンションの使用開始の日は、T電力株式会社との電気使用契約から、昭和57年4月3日と認められる。
(ハ)再生機構U支社は、当審判所の照会に対して、要旨、次のとおり回答している。
A 本件案内書は、販売案内、物件の詳細、購入時における注意事項等の案内を書面化したものであり、基本的には本件案内書により説明等を実施し、その上で購入希望者と契約を結び、契約書を取り交わすこと。
B 即金払いの場合における譲渡代金の額は、即金譲渡価格で、割賦払いの場合における譲渡代金の額は、即金譲渡価格、割賦利息及び事務費等の合計であること。
C 事務費等は、割賦払いの場合の回収のための費用であり、住宅公団が行う割賦販売の場合には必ずあるものであるが、事務費等の算定方法の詳細については、現在は不明であること。
D 本件マンションに係る割賦金は、前回の支払期日の翌日からその支払期日までの間であればいずれの日に支払が行われても割賦金の額は同じであるが、支払期日後には延滞利息がかかること。
E 現在では詳細は不明であるが、元金据置期間の割賦金には、元金は含まないこと。
(ニ)本件相談官が作成したと認められる本件相談日誌には、「公団から購入した不動産を譲渡したが、途中で銀行に借換えたので実際に支払った額が契約価額よりも少なかった場合の取得費は・・・・担当部門で相談を」と記載されている。
(ホ)本件相談官は、異議調査担当者に対し、電話相談があった場合、個々の相談事項について電話相談日誌に記録しており、記録する内容については実際に相談を行った事項のみを記載しており、本件相談日誌の記載内容からすれば、その相談の段階では最終判断には至っていないと思われる旨申述している。
(ヘ)請求人は、当審判所の「M銀行からの借入れについて、上記(ニ)の本件相談官の指導を受けた後、誰かに相談したか否か」との質問に対し、「相談はしていない。私の判断だ。」と回答している。
ロ 所得税法第38条第1項に定める「資産の取得費」
(イ)所得税法第38条第1項は、上記1の(3)のイのとおり規定しているところ、個人が居住の用に供する固定資産を取得するための借入金の利子は、一般的に当該資産の客観的価格を構成する金額に該当せず、また、当該資産を取得するための付随費用にも当たらず、原則として、居住の用に供される固定資産の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、所得税法第38条第1項の資産の取得に要した金額に該当しないものの、使用開始の日までの期間に係る利子については、使用開始までのある程度の期間を要するのが通常であり、その期間中使用することなく借入金の利子の支払を余儀なくされることを勘案し、当該固定資産を取得するための付随費用に当たるものとして、資産の取得に要した金額に含まれると解されている。
 そして、基本通達38−8は、上記1の(3)のロのとおり取り扱う旨定めているところ、これは、割賦契約により取得した固定資産については、その購入代価と賦払期間中の利息及び賦払金の回収費用等に相当する金額(以下、賦払期間中の利息及び賦払金の回収費用等を併せて「利息等相当部分」という。)とが明らかに区分されている場合には、利息等相当部分は、上記の固定資産を取得するための借入金の利子と経済的実質において差異がないことによるものと解され、この取扱いは当審判所においても相当と認められる。
(ロ)基本通達38−8にいう「明らかに区分されている場合」については、その取扱いの趣旨に照らし、利息等相当部分の総額が当該契約に関する資料等によって明らかに区分されていることをもって足りると解するのが相当である。
ハ 本件マンションの取得費
(イ)購入代価と利息等相当部分
 本件契約書のほか、上記イの(イ)のとおり、購入希望者及び購入者に広く配付され、支払方法などの契約内容を判断する上で重要な書面であると認められる本件案内書によって検討すると、次のとおり、本件マンションの購入代価及び利息等相当部分が具体的な金額として区分されており、賦払の契約により明らかに区分されている場合に当たると認められる。
 したがって、本件契約書に記載された本件譲渡代金の額は、区分できない一単位の譲渡対価であり、その額には利息は存在せず、基本通達38―8の「購入代価と賦払期間中の利息及び賦払金の回収費用等に相当する金額とが、明らかに区分されている場合」に該当しないことなどを理由として、本件譲渡代金の額をすべて支払った場合には、本件譲渡代金の額の全額が本件マンションの取得費に当たるという請求人の主張は採用できない。
A 本件マンションは、上記1の(4)のロ及び上記イの(イ)のHから、即金譲渡価格が31,600,000円であると認められる。
B 上記1の(4)のハの本件契約書の別紙「一時金及び割賦金の支払額並びにそれらの支払期日表」に記載されている割賦金は、上記イの(イ)のIから、本件案内書の「支払例および基準月収額」の即金譲渡価格31,600,000円、一時金3,000,000円のCタイプ欄の割賦金の額と一致することが認められる。
C 本件マンションの購入代価は、上記イの(ハ)のB並びに上記A及びBから即金譲渡価格31,600,000円であると認められる。
D 本件譲渡代金の額に係る利息等相当部分は、上記イの(ハ)のB及びCから、本件譲渡代金の額のうち、購入代価31,600,000円を除いた52,911,100円であると認められる。
(ロ)使用開始の日までの利息等相当部分
 上記イの(ロ)並びに(ハ)のD及びEから、本件マンションの使用開始の日と認められる昭和57年4月3日には、第2回割賦金の支払期日(昭和57年4月25日)までに支払うべき債務が確定し、そのすべてが利息等相当部分であることが認められる。
 したがって、使用開始の日までの利息等相当部分は、第1回割賦金と第2回割賦金の合計142,100円であると認められる。
(ハ)諸費用
 上記1の(3)のイのとおり、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額であり、そして、登録免許税、不動産取得税等固定資産の取得に伴い納付する租税公課及び公正証書作成費用等は、当該固定資産の取得のための付随費用であり、取得に要した金額に含まれると解される。
 そこで、請求人が本件マンションの取得に関連して支払った諸費用(利息等相当部分を除く。)についてみると、別表3の〔7〕ないし〔14〕であることが認められるものの、次のことから、本件マンションの取得に要した金額に当たる付随費用は、取得に伴い納付した不動産取得税等の別表3の〔14〕の金額294,790円である。
A 別表3の〔7〕の住宅公団への繰上返済金29,035,084円は、本件譲渡代金の額の一部であり、上記(イ)のCのとおり、本件譲渡代金の額のうち本件マンションの購入代価と認められる金額は31,600,000円であることから、同金額とは別に住宅公団への繰上返済金を本件マンションの取得に要した費用と認めることはできない。
B 別表3の〔11〕のM銀行への返済金43,692,661円は、M銀行からの借入金及びその利子を支払ったものと認められるところ、M銀行からの借入れは、本件マンションの使用開始の日後に住宅公団に繰上返済するために借り入れられたものと認められることから、M銀行からの借入金及びその利子については、本件マンションを取得するために要した費用とは認められない。
C 別表3の〔8〕ないし〔10〕、〔12〕及び〔13〕の信用保証料等の金額804,177円は、M銀行からの借入れ及び返済に伴い要した諸費用であり、本件マンションを取得するために要した費用とは認められない。
(ニ)そうして、上記1の(4)のチのとおり本件マンションに係る設備費及び改良費はないことから、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除する取得費の算定の基礎となる本件マンションの取得費は、購入代価31,600,000円、利息等相当部分142,100円、及び不動産取得税等294,790円の合計額32,036,890円(別表3の「合計(減価償却前の本件マンションの取得費)」欄の「再更正」欄の金額)となる。
 したがって、本件区分建物の減価償却後の本件マンションの取得費は、別表3の「本件マンションの取得費」欄の「再更正」欄の金額○○○○円となる。
ニ 請求人の主張について
(イ)請求人は、住宅公団の業務は、公団法第29条に定められているものに限られ、融資業務又は法律上融資業務と認められる業務は行えないし、貸付の対価としての利子の徴収も行えないし、行っていない旨主張する。
 しかしながら、公団法第29条第1項第1号には住宅の建設、譲渡等を業務とし、公団法施行規則第14条第4項は、分譲住宅の割賦払いに係る割賦金の額の計算方法は、建設大臣の承認を得て定める旨それぞれ規定しており、住宅公団は、本件マンションを割賦払いで譲渡している。そして、割賦払いに伴う利息等相当部分の金額が存在していることは上記ハの(イ)のとおりであることから、請求人のこの点に関する主張は失当である。
(ロ)請求人は、本件譲渡代金の額の全額が本件マンションの取得費に該当することを前提として、M銀行からの借入金及びその利子についても本件マンションの取得費に当たる旨主張するが、上記ハの(イ)のとおり、本件譲渡代金の額の全額が本件マンションの取得費に該当することになるのではないから、この点に関する請求人の主張は、その前提において理由がない。
(ハ)請求人は、M銀行からの借入れに要した諸費用は、当該借入金が本件マンションの取得費に当たることを前提として、その諸費用のすべてが当該借入れに通常必要なものばかりであり、本件マンションの取得に要した費用に当たる旨主張する。
 しかしながら、上記ハの(ハ)のB及びCのとおり、M銀行からの借入れは、本件マンションの取得に要した費用とは認められず、M銀行からの借入れに要した諸費用についても、本件マンションを取得するために要した費用とは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 本件更正処分の適否
 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件マンションの取得費は別表3の「本件マンションの取得費」欄の「再更正」欄の金額○○○○円となることから、本件譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上控除する取得費は、その金額の100分の47(本件譲渡により妻に移転した共有持分)に相当する金額○○○○円(別表2の「長期譲渡」欄の「取得費」欄の「再更正」欄の金額)となる。
 したがって、本件譲渡に係る取得費の額をその金額と同額で行った本件更正処分は適法である。

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(3)本件賦課決定処分について

イ 本件賦課決定処分の適否
(イ)通則法第65条第4項の規定する「正当な理由」がある場合とは、申告した税額に不足が生じたことについて、納税者の責めに帰せられない外的事情による場合等真にやむを得ない理由によるものであり、かかる納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解される。
(ロ)これを本件についてみると、請求人は、平成15年3月4日、本件相談官に「住宅公団の長期特別分譲譲渡契約書に書かれている譲渡代金の額は、所得税法第38条第1項の資産の取得に要した金額に当たるか」と電話で質問したところ、「資産の取得費に当たる」との回答を受けたものであり、このことが「正当な理由」に当たると主張しているが、その主張自体から明らかなように当該質問において、請求人は、本件マンションを割賦払いによって購入したことを告げていなかったことが認められる。
 そうすると、本件相談官が、請求人に対して正確な情報によって指導(回答)を行ったとまでは認められない。
 また、〔1〕請求人は、引き続いて行った、「銀行から借入れをして公団へ繰上返済を行い」等の質問に対しては、「答えられない。担当部門で相談しては。」との回答であったと主張しており、他方、〔2〕本件相談日誌には、上記(2)のイの(ニ)のとおり担当部門で相談するよう勧めた旨記載されており、〔3〕請求人は、上記(2)のイの(ヘ)のとおり、M銀行からの借入れについては、自らの判断である旨当審判所に回答していることからすれば、請求人は、自らの判断に基づいてM銀行への返済金及びM銀行からの借入れの付随費用を、本件マンションの取得に要した費用として本件譲渡に係る申告を行ったものと認めるのが相当であり、本件相談官の指導に基づくものではないと認められる。
 これらのことから、請求人の場合、本件譲渡に係る取得費の額を過大に申告し、申告した税額が過少であったことについて、納税者の責めに帰せられない外的事情による場合等真にやむを得ない理由があるとはいえない。
ロ 請求人は、本件の質問が正確な資料を提示して相談を受けなければ回答できないような性格の問題ではなく、直ちに回答できる問題である旨主張する。
 しかしながら、「賦払の契約により明らかに区分されているか否か」についての判断は、契約書等によって初めてできるものであることから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、本件統括官が「国税相談室の回答に従って行った確定申告については、加算税、延滞税の賦課に関して斟酌される」と表明した旨主張する。
 しかしながら、当該表明は、正確な情報の下に誤った指導がなされた場合についてのものと推測されるところ、上記イの(ロ)のとおり、請求人は本件相談官に情報を正確に伝えていなかったことが認められるため、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、請求人の場合、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」には該当しない。
 したがって、通則法第65条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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