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(平18.4.6裁決、裁決事例集No.71 448頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、法人税法第68条《所得税額の控除》第1項の規定による法人税の額から控除する所得税の額の一部について、確定申告書に記載せずに法人税の確定申告を行った後、その記載をしなかったことについて同条第4項に規定する「やむを得ない事情」があるとして更正の請求をしたところ、原処分庁がこれを認めない更正処分を行ったのに対し、その取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、平成17年7月27日に審査請求をしたところ、この審査請求に至る経緯は別表記載のとおりである。
 なお、以下、同表の「更正の請求」欄記載の請求を「本件更正の請求」という。

(3)関係法令等の要旨

 別紙記載のとおり。

(4)当事者間に争いがなく、証拠により容易に認定できる事実等(以下「争いのない事実等」という。)

イ 請求人は、金物雑貨の製造販売業を営む同族会社(法人税法第2条《定義》第10号)である。
ロ 請求人は、A社に対し、平成15年6月21日から平成16年6月20日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の間に、請求人が所有するA社への出資持分2,250口を代金合計46,973,250円で譲渡した。同譲渡代金のうち、44,723,250円は、A社が自己株式を取得したことによる請求人への利益の配当の額とみなされ(法人税法第24条《配当等の額とみなす額》第1項第5号)、これに対する所得税として8,944,650円が源泉徴収された(所得税法第174条第2号、以下、この源泉徴収された所得税額8,944,650円を「本件源泉所得税額」という。)。
ハ 請求人は、本件源泉所得税額について、法人税額から控除を受けるべき所得税の額として、本件事業年度に係る法人税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)にも、同申告書に添付された、別表四「所得の金額の計算に関する明細書」の「法人税額から控除される所得税額」欄及び別表六(一)「所得税額の控除及びみなし配当金額の一部の控除に関する明細書」の「所得税額の控除に関する明細書」欄のいずれにも記載せず、本件事業年度の所得金額の計算上、利息控除源泉税として損金の額に算入した。

(5)争点

イ 請求人が、本件確定申告書に、本件源泉所得税額を法人税の額から控除を受けるべき所得税の額として記載しなかったことについて「やむを得ない事情」(法人税法第68条第4項)があるか。
ロ 請求人が、本件確定申告書に、本件源泉所得税額を法人税の額から控除を受けるべき所得税の額として記載しなかったことについて錯誤(民法第95条本文)の主張が認められるか。

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2 主張

(1)争点イ(「やむを得ない事情」の有無)について

イ 請求人の主張
 法人税法第68条第1項の趣旨は、法人が本来負担すべきではない所得税額を本来の負担額に引き戻すことにあるから、「やむを得ない事情」の適用に当たっては、この趣旨が適切に実現されるよう行政裁量されるべきであるところ、請求人は、本件源泉所得税額を法人税の額から控除する意図をもっていたが、本件確定申告書に添付した別表六(一)の「利益の配当及び剰余金の分配(みなし配当等を除く。)(3)」との記載に惑わされ、同表に記載する箇所が見出せなかったため、本件確定申告書に、本件源泉所得税額を法人税の額から控除を受けるべき所得税の額として記載しなかったのであり、このことは「やむを得ない事情」に当たる。
ロ 原処分庁の主張
 「やむを得ない事情」とは、例えば、風水害、地震、火災、法令違反の嫌疑等による帳簿書類の押収等の外的要因によって、納税者自身の力だけでは到底確定申告書が作成できないような場合をいうのであって、納税者の責めに帰すべき事情はこれに当たらないところ、本件確定申告書に本件源泉所得税額を法人税の額から控除を受けるべき所得税の額として請求人が記載できなかった外的要因は認められないから、「やむを得ない事情」は認められない。

(2)争点ロ(錯誤主張の可否)について

 請求人の主張
 本件源泉所得税額を法人税の額から控除することを選択しない理由はあり得ないのであるから、本件申告書は、錯誤(民法第95条)により、請求人の真意を表さない記載がされているものであり、同錯誤の主張が認められるべきである。

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3 判断

(1)争点イ(「やむを得ない事情」の有無)について

イ 法人税法は、内国法人が受ける配当等に対して所得税法第174条各号の規定によって課された所得税額について、確定申告書に法人税の額から控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載をして申告した場合には、その事業年度の所得に対する法人税の額から控除し(同法第68条第1項、第3項)、その控除される金額に相当する所得税の額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定している(同法第40条)。その趣旨は、法人が受ける配当等に対して所得税法第174条各号の規定によって源泉徴収された所得税は、実質的にみれば法人の課税所得に対する法人税の前払とみることができることから、法人税の額から控除することにより重複課税を調整することにあるが、確定申告書に法人税の額から控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載をして申告がされなかった場合には、当該金額は、当該各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されることとなり、そのいずれによって申告するかを法人自らの選択にゆだねた点にある。かかる文理及び趣旨からすると、同選択の結果、他方の方法を選択した場合よりも納付すべき税額が多くなったとしても、法は、その選択をした法人自身が受忍すべきものとしているというべきである。そうすると、法人による選択を示す確定申告書への法人税の額から控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載がなくとも税額控除を認める「やむを得ない事情」とは、当該申告がされなかったことが、客観的にみて当該法人の責めに帰すべき事情に基づくものではなく、税額控除を認めないとすれば法人にとって酷又は不当と認められる場合をいうと解するのが相当である。
ロ これを本件についてみるに、確定申告書に添付すべき別表六(一)の記載要領は、法人税法施行規則(別表六(一))の記載要領に明示されているのであるから、請求人が、本件源泉所得税額について、同別表に記載する箇所を見出せなかったため、本件確定申告書及びそれに添付した別表六(一)に本件源泉所得税額の記載がされなかったとしても、それは、請求人の法の不知又は誤解に基づくものであって、請求人の責めに帰すべき事情に基づくものではないとはいえず、「やむを得ない事情」には当たらないというべきである。
 また、請求人が、本件確定申告書に、本件源泉所得税額を法人税の額から控除を受けるべき所得税の額として記載しなかったことについて「やむを得ない事情」に当たる他の事実を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、請求人が、本件確定申告書に、本件源泉所得税額を法人税の額から控除を受けるべき所得税の額として記載しなかったことについて「やむを得ない事情」はない。

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(2)争点ロ(錯誤主張の可否)について

 法は、法人税について、申告納税制度を採用し(国税通則法第16条《国税についての納付すべき税額の確定の方式》、法人税法第74条《確定申告》)、確定申告書記載事項の過誤の是正について特別の規定(国税通則法第19条《修正申告》、同法第23条《更正の請求》)を設けているが、その趣旨は、国税の課税標準等の決定を、最もその事情に通じている納税者自身の申告に基づくものとし、その過誤の是正は法律が特に認めた場合に限るとすることが、租税債権の速やかな確定を求める財政上の要請に適応するものであるとともに、納税者に対しても過当な不利益を強いるおそれがないと認めた点にある。そうすると、確定申告書の記載内容の過誤の是正は、上記の法定の方法によるのが原則であり、同方法によらずに記載内容の錯誤を主張することは、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、上記の法定の方法以外にその是正を許さないならば、納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ許されないものというべきである。
 これを本件についてみるに、請求人が錯誤として主張する内容は、本件確定申告書に添付した別表六(一)の記載に惑わされ、同表に記載する箇所が見出せなかったため、本件確定申告書に、本件源泉所得税額を法人税の額から控除を受けるべき所得税の額として記載しなかったというものであるところ、これは、上記(1)記載のとおり、単なる法の不知又は誤解に基づくものであって、客観的に明白かつ重大な錯誤に当たるということも、錯誤の主張を許さないならば、請求人の利益を著しく害すると認められる特段の事情に当たるともいえない。したがって、請求人が、本件確定申告書に、本件源泉所得税額を法人税の額から控除を受けるべき所得税の額として記載しなかったことについて錯誤の主張をすることはできない。

(3)なお、請求人は、原処分庁が本件源泉所得税額について法人税法第68条第1項の規定の適用を認めないことは、租税法律主義及び租税負担の公平に反し、違憲である旨の主張もしているものと解されるが、憲法適合性の判断は当審判所の権限に属さないから、審理の限りではない。

(4)結論

 上記(1)及び(2)より、本件更正の請求において、本件源泉所得税額について法人税法第68条第1項の規定の適用を認めることはできない。
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、原処分は適法である。

別紙 関係法令等(要旨)

イ 法人税法第68条第1項は、内国法人が各事業年度において所得税法第174条《内国法人に係る所得税の課税標準》各号に規定する利子等、配当等を受ける場合には、これらにつき同法の規定により課される所得税の額は、当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する旨規定し、同条第3項において、同条第1項の規定は、確定申告書に同項の規定による控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載がある場合に限り適用する旨、また、この場合において、同項の規定による控除をされるべき金額は、当該金額として記載された金額を限度とする旨それぞれ規定している。そして、同条第4項は、税務署長は、同条第1項に規定する所得税の額の全部又は一部につき記載がない確定申告書の提出があった場合において、その記載がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、その記載がなかった金額につき同条第1項の規定を適用することができる旨規定している。
ロ 法人税法施行規則(平成17年9月30日財務省令第73号改正前のものをいう。以下同じ。)(別表六(一))記載要領3において、「利益の配当及び剰余金の分配(みなし配当等を除く。)(3)」欄で除かれるみなし配当等に係る金額は、「その他(5)」欄の内書きに記載する旨規定している。
ハ 法人税法第40条《法人税額から控除する所得税額の損金不算入》第1項は、同法第68条第1項に規定する所得税の額につき同項の規定を受ける場合には、これらの規定による控除又は還付をされる金額に相当する金額は各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定している。
ニ 国税通則法第23条《更正の請求》第1項は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときは、法定申告期限から1年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
ホ 民法第95条は、意思表示は法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする旨規定している。

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