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(平18.3.15裁決、裁決事例集No.71 505頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が相続により取得した土地の価額は不動産鑑定士による鑑定評価額が相当であるとして行った相続税の申告について、原処分庁が、財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)に基づく評価額によることが相当であるとして相続税の更正処分を行ったことに対し、請求人が同処分は違法であるとしてその全部の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年2月○日に死亡したF(以下「被相続人」という。)の相続人であり、この相続に係る相続税について、別表1の「当初申告」欄のとおり記載した申告書を法定申告期限内に提出した。
ロ 原処分庁は、相続した土地の評価額に誤りがあるとして、平成16年6月29日付で請求人に対し別表1の「更正処分等」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、上記ロの処分に不服があるとして、平成16年8月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成16年11月25日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成16年12月24日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 相続税法第22条《評価の原則》は、財産の価額について、同法において特別の定めのあるものを除くほか、「相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による」旨規定している。
ロ 評価通達
(イ)評価通達1《評価の原則》の(2)は、時価の意義について「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による」旨定めている。
(ロ)評価通達25《貸宅地の評価》の(1)は、「借地権の目的となっている宅地の価額は、11《評価の方式》から22−3《大規模工場用地の路線価及び倍率》まで、24《私道の用に供されている宅地の評価》、24−2《土地区画整理事業施行中の宅地の評価》及び24−4《広大地の評価》の定めにより評価したその宅地の価額(自用地としての価額)から27《借地権の評価》の定めにより評価したその借地権の価額を控除した金額によって評価する」旨定めている(以下、この通達に定める方式を「借地権価額控除方式」という。)。
ハ 不動産鑑定評価基準(平成14年7月3日付全部改正前のもの。以下「鑑定評価基準」という。)
(イ)更地の鑑定評価額は、鑑定評価基準各論第1の一の(一)の1において、更地並びに自用の建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法に基づく収益価格を関連づけて決定する旨定められている。
(ロ)底地の価格は、鑑定評価基準各論第1の一の(一)の3のロにおいて、借地権の価格との相互関連において賃貸人に帰属する経済的利益を貨幣額で表示したものであり、底地の鑑定評価額は実際支払賃料に基づく純収益を還元して得た収益価格及び比準価格を関連づけて決定する旨定められている。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 審査請求の対象となっている土地は、別表2の番号1ないし番号4(以下、それぞれ「土地1」、「土地2」、「土地3」及び「土地4」といい、これらをまとめて「本件各土地」という。)であり、本件各土地の利用状況は、別表2の「利用状況」欄(以下、本件各土地のうち貸宅地である土地2ないし土地4をまとめて「本件貸宅地」という。)のとおりである。
ロ 評価通達に基づきG国税局長が定めた平成13年分財産評価基準(以下「評価基準」といい、評価通達と併せて「評価通達等」という。)によれば、本件各土地は、路線価に基づき評価する地域内に所在し、本件各土地の所在する地域の借地権割合は30%と定められている。

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2 主張

(1)請求人

 相続税法第22条に規定する本件各土地の時価は、不動産鑑定士H(以下「H鑑定士」という。)が行なった不動産鑑定評価(以下「請求人鑑定」という。)に基づく別表3−1ないし別表3−4の1「請求人鑑定における鑑定評価額算定の概要」(以下、本件各土地において「鑑定評価額算定の概要」という。)における鑑定評価額(以下「請求人鑑定評価額」という。)であり、原処分庁が行なった評価通達等に基づく評価額(以下「原処分庁評価額」という。)は、次の理由により時価を超えており違法であるから、原処分の全部の取消しを求める。
イ 借地権価額控除方式で求めた本件貸宅地の価額は、相続税法第22条に規定する時価を適正に反映していないこと。
ロ 土地1及び土地2は道路から約70センチメートル低く、利用価値が著しく低下している宅地であるにもかかわらず、原処分庁はこの減額要素を無視して評価していること。
ハ 原処分庁は、使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱い(昭和48年11月1日付直資2−189ほか国税庁長官通達。以下「使用貸借通達」という。)に基づき、土地1の使用貸借による土地の使用権(以下「本件使用借権」という。)には経済的価値がないとして更地価額で評価しているが、本件使用借権には、相当な権利と経済的価値が認められるため、土地1を更地価額で評価することは、相続税法第22条に反していること。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるので、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 評価通達等は合理性を有しているところ、本件各土地は、評価通達等により適正に評価することができる土地であることから、評価通達等により難い特別な事情は認められないこと。
ロ 土地1及び土地2は、道路より若干低い位置にあるものの、付近の宅地と比較しても何ら遜色がないことから、利用価値が著しく低下しているとは認められないこと。
ハ 使用借権は、当事者間の好意、信頼関係等にその基礎を持ち、借地権のように法律上の手厚い保護を与えられていないため、客観的な交換価値を有するものとみることが困難であることから、土地1を使用貸借通達に基づき更地として評価することは相当であること。

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3 判断

(1)法令解釈等

イ 財産の価額について
 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は「当該財産の取得の時における時価による」旨規定しているところ、この場合の時価とは、当該財産を取得した日において、それぞれの財産の現況に応じ不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解されている。
ロ 評価通達等に定める評価方法及び貸宅地評価方法の合理性について
(イ)課税実務においては、財産評価の一般的基準が評価通達等によって定められ、これに定められた画一的な評価方法によって財産の時価、すなわち客観的交換価値を評価するものとしている。土地等の評価についてこのような画一的な評価方法が採用されているのは、土地等の客観的な交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではなく、的確に把握することが必ずしも容易でないため、これを個別に評価する方法をとると、その評価方式や基礎資料の選択の仕方等により異なる評価額が生じる結果となって租税負担の公平を害するおそれがあり、かつ、納税者及び課税庁の双方ともに過大な負担と費用を強いることになるから、課税庁が準拠すべき一般的で簡便な評価方法を定め、あらかじめ定められた評価方法によって画一的に評価することにより、課税の適正や納税者間の公平を図ることが合理的であるという理由によるものと解されている。
(ロ)また、借地権価額控除方式により評価する趣旨は、借地権の取引慣行のある地域では底地価格は単なる地代徴収権の価額にとどまらず、むしろ将来借地権を併合して完全所有権とする潜在的価値に着目して価額形成されているのが一般的であると認められるところ、このような場合には、底地価額を借地権価額控除方式により評価するのが相当であると考えられることなどによるものであると解されており、この評価方法は、相続税法第22条の趣旨及び評価通達の考え方に照らし合理性を有するものと認められる。
ハ 評価通達等により難い特別な事情について
(イ)評価通達等による評価は、一般的に合理性を有するものと解されるところ、評価通達等を適用して評価することが著しく不適当と認められる特別な事情が存する場合、すなわち、評価通達等により算定される土地の評価額が客観的交換価値を上回る場合には他の合理的な評価方法により時価を求めるべきものと解されている。この場合の評価通達等により算定される土地の評価額が客観的交換価値を上回っているといえるためには、これを下回る不動産鑑定評価が存在し、その鑑定評価が一応公正妥当な鑑定理論に従っているというのみでは足りず、同一の土地について他の不動産鑑定評価があればそれとの比較において、また、周辺における公示価格や都道府県地価調査による基準地の標準価格の状況、近隣における取引事例等の諸事情に照らして、評価通達等により算定された土地の評価額が客観的交換価値を上回ることが明らかであると認められることを要するものと解されている。
(ロ)さらに、底地価格は、単なる地代徴収権の価格にとどまらず、将来借地権を併合して完全所有権とする潜在的価値に着目して価格形成がされていると解されることから、借地権価額控除方式は一般的に合理性を有するものと認められるが、将来底地に借地権を併合して完全所有権とする潜在的価値が存すると認めることが困難であるとする特別な事情が存する場合には、この限りでないと解されている。

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(2)本件各土地の評価額

 本件各土地の価額については、請求人は請求人鑑定評価額によるべきであると主張し、他方、原処分庁は原処分庁評価額によるべきであると主張するので、以下検討する。
イ 土地1について
(イ)認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 土地1は、相続開始時点において、請求人所有の建物(居宅)の敷地として利用されていた。
B 請求人は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(A)土地1の上にある建物は、被相続人より土地を借地していたJから昭和55年7月に購入したものである。
(B)この建物の購入に際し、被相続人から地代の支払いは不要である旨の申出があり、建物購入後は、被相続人に地代を支払ったことはない。
C 土地1の地盤面は、接する道路より約70センチメートル低くなっている。
(ロ)請求人鑑定評価額
 請求人鑑定は、土地1の請求人鑑定評価額を別表3−1の鑑定評価額算定の概要のとおり14,436,000円と決定している。
 そこで、以下その内容について検討する。
A 請求人鑑定評価額決定における公示価格との規準について
 請求人鑑定は、請求人鑑定評価額の決定に当たり、鑑定評価額算定の概要の「1平方メートル当たりの更地価格」の「算定根拠等」欄のとおり規準価格は算定しているものの比準価格のみを採用している。
 鑑定評価基準総論第8の八《鑑定評価額の決定》は、地価公示法第2条《標準地の価格の判定等》第1項の都市計画区域内において土地の正常価格を求めるときは、公示価格を規準としなければならない旨定めている。公示価格とは、地価公示法第2条の規定に基づき、土地鑑定委員会が毎年1回、都市計画区域内の標準地について、2人以上の不動産鑑定士及び不動産鑑定士補の鑑定評価を求め、その結果を審査し、必要な調整を行って判定された正常価格であることから、同法第8条《不動産鑑定士の土地についての鑑定評価の準則》は、都市計画区域内の土地について正常価格を求めるときは公示価格を規準としなければならない旨、そして、同法第11条《公示価格を規準とすることの意義》において、規準することとは評価対象地と標準地の位置、地積等の土地の客観的価値に作用する諸要因との比較を行い、当該標準地の公示価格と評価対象地の価格との間に均衡を保たせることをいう旨規定している。
 そうすると、請求人鑑定は、鑑定評価額算定の概要の「1平方メートル当たりの更地価格」の「算定根拠等」欄のとおり規準価格を採用せず比準価格のみを採用しているが、公示価格には一般に合理性があり、都市計画区域内の土地の正常価格を求めるときは公示価格との均衡を保たせなければならないところ、請求人鑑定は規準価格との均衡を図っているとは言い難く、相当とは認められない。
B 個別格差補正について
 請求人鑑定は、試算価格である比準価格、土地残余法による収益価格及び規準価格の算定に当たり、鑑定評価額算定の概要の注1のとおり個別格差補正として合計32%の減価をしている。この個別格差補正の内訳は、〔1〕道路との高低差に伴う造成工事による減価22%、〔2〕本件使用借権の付着による減価10%である。
(A)道路との高低差に伴う造成工事による減価
 請求人鑑定は、道路から約70センチメートル低くなっていることから、造成工事費に基づく減価率を算定しているが、現に請求人の居宅の敷地として利用していること及び周囲の宅地の状況と比べても利用価値が著しく低下しているとは認められないことからすれば、現状において新たな造成工事の必要性はないと解される。
 したがって、請求人鑑定の道路との高低差に伴う造成工事による減価には合理性は認められない。
(B)使用借権の付着による減価
 使用借権は、賃貸借契約に基づく権利に比し権利性が極めて低い上、親族間の情誼や信頼関係に基づく土地の無償使用関係であり、これに独立した経済的価値を認めることはできず、また、土地の時価に影響を与えるものということもできないと解されている。
 上記(イ)のBの(B)の事実からすれば、請求人は土地1を被相続人との親族間の情誼等に基づき無償で使用していることから、本件使用借権に経済的価値を認めることはできないため、本件使用借権が付着していることによる減価には合理性は認められない。
C 上記A及びBのとおり、請求人鑑定評価額が相続税法第22条に規定する時価であるとの請求人の主張には理由がない。
(ハ)原処分庁評価額
 原処分庁は、別表3−1の2「原処分庁における評価通達等に基づく評価額算定の概要」のとおり評価通達等に基づき18,497,520円と算定している。
(ニ)土地1の評価額
 上記(ロ)のとおり、土地1について評価通達等により難い特別な事情は認められず、評価通達等に定める評価方法は上記(1)のロのとおり合理的と解されていることからすれば、原処分庁評価額は相当である。
ロ 土地2について
(イ)認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 土地2は、相続開始時点において、K所有の建物(居宅)の敷地として利用されていた。
B 被相続人は、Kと昭和37年4月1日付で建物の所有を目的とする土地2の土地賃貸借契約を締結している。この土地賃貸借契約では、借地契約の期間は5年となっているが、その後自動更新され現在に至っている。
C 土地2の地盤面は、接する道路より約70センチメートル低くなっている。
D H鑑定士は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(A)○○○の用に供されている土地(以下、これらの土地を「○○用地」という。)の取引倍率との比較による減価は、底地価格と地代の関係を○○用地と対等にするための減価であり、○○用地との比較による市場性の減退による減価は、○○用地と比べると更に市場性が劣るための減価である。このうち、○○用地との比較による市場性の減退による40%の減価は、市場性の減退による30%と、さらに○○用地の地代との関係において劣っている部分があることによる10%を加算したものである。
(B)不整形となっている部分(以下「端画地」という。)の価値率は、物件の状況に応じて10%から30%の範囲内で見積もっている。この土地の端画地の価値率は10%とみて鑑定評価を行なった。
(ロ)請求人鑑定評価額
 請求人鑑定は、土地2の請求人鑑定評価額を別表3−2の鑑定評価額算定の概要のとおり1,355,000円と決定している。
 そこで、以下その内容について検討する。
A 利回りについて
 請求人鑑定は、鑑定評価額算定の概要の(2)「底地価格の算定」のとおり地代徴収権の現在価値を求める場合の複利年金現価率及び完全所有権への復帰への期待性の現在価値を求める場合の複利現価率の算定根拠として、「利回り」欄において利回りとして7.074%をそれぞれ採用している。
 ここで、地代徴収権の現在価値を求める場合の複利年金現価率の算定根拠となる利率は還元利回りであり、完全所有権への復帰への期待性の現在価値を求める場合の複利現価率の算定根拠となる利率は割引率であると解されている。そして、還元利回りとは、不動産から得られる収益を不動産の価額で割った利回りをいい、割引率とは、将来発生する金額をその不確実性等を反映させて現在価値に割り戻すために使われる利率をいい、資金をいくらで運用することができるかという収益率としての概念と、将来の不確実性を反映させるという概念の両方を含んでいるものと解されている。
 そうすると、還元利回りと割引率は異なる性質のものであり、その利率も異なるものと考えられるところ、請求人鑑定は、還元利回り及び割引率の算出に当たり同一の率7.074%を採用していることからすれば、その算出の基礎とした利回りは適切なものとは認められない。
B ○○用地との比較について
 請求人鑑定は、○○用地は地代が年率4%程度上昇をするし、仮に返還となった場合でも土地区画整理事業等の手法により更地が入手できることから、鑑定評価額算定の概要の(2)「底地価格の算定」の「補正事項」欄のとおり○○用地の取引倍率との比較による30%の減価、さらに○○用地と比較して市場性の減退があるとして40%の減価をしている。
 しかしながら、○○用地はその特殊な利用目的から代替性に乏しく、賃貸人である地主は地代の値上げが比較的容易であるといえる反面、賃借人である○○はその特殊な利用目的のため土地を借り上げることが可能であるという特色を反映し、その価格は地代徴収権のみに着目して年間地代に一定の倍率を乗じて価格形成される傾向があると言われている。一方、底地価格は、上記(1)のロの(ロ)のとおり単なる地代徴収権だけではなく、むしろ将来借地権を併合して完全所有権とする潜在的価値に着目して価格形成されているのが一般的と認められる。
 したがって、底地価格は、○○用地の価格とは異なり、一般的に地代徴収権のみに着目して価格が形成されるものではないことから、○○用地と比較することに合理性は認められないほか、上記(イ)のDの(A)の答述内容も具体性に乏しいといわざるを得ない。
 上記によれば、請求人鑑定における○○用地との比較による減価は相当とは認められない。
C 個別格差補正について
 請求人鑑定は、鑑定評価額算定の概要の(1)「更地価格の算定」の注2のとおり個別格差補正として合計35%の減価をしている。この個別格差補正の内訳は、〔1〕道路との高低差に伴う造成工事費による減価26%、〔2〕不整形による減価9%である。
(A)道路との高低差に伴う造成工事による減価
 請求人鑑定は、道路から約70センチメートル低くなっていることから造成工事費に基づく減価率を算定しているが、上記イの(ロ)のBの(A)の理由のとおり請求人鑑定の道路との高低差に伴う造成工事による減価には合理性は認められない。
(B)不整形による減価
 請求人鑑定は、土地2の形状が不整形であることから端画地の価値率を10%として不整形地減価率を算定している。この端画地の価値率を10%とした根拠については、上記(イ)のDの(B)のとおり答述しているが、具体性に乏しいといわざるを得ない。
 したがって、不整形地減価率は相当とは認められない。
D 上記AないしCのとおり、請求人鑑定評価額が相続税法第22条に規定する時価であるとの請求人の主張には理由がない。
(ハ)原処分庁評価額
 原処分庁は、別表3−2の2「原処分庁における評価通達等に基づく評価額算定の概要」のとおり評価通達等に基づき8,974,526円と算定している。
(ニ)土地2の評価額
 上記(ロ)のとおり、土地2について評価通達等により難い特別な事情は認められず、評価通達等に定める評価方法は上記(1)のロのとおり合理的と解されていることからすれば、原処分庁評価額は相当である。
(ホ)借地権価額控除方式により難い特別な事情の有無
 さらに、請求人は、〔1〕本件貸宅地には、底地と借地権とが併合されて完全所有権が復活する可能性がないため借地権価額控除方式により難い特別な事情があること及び〔2〕売買実例による底地の売買価額が、借地権価額控除方式に基づく評価額を下回っていることから借地権価額控除方式は相続税法第22条に規定する時価を適正に反映していないので違法である旨主張する。
 しかしながら、土地2の地主と借地人との関係は、上記(イ)のBのような関係にあること及び土地2に隣接し賃貸借関係が類似する土地3は、平成15年3月に請求人が借地人から建物を購入することにより完全所有権となっていることからすれば、借地権を併合して完全所有権となることを妨げる特別な事情は認められない。さらに、売買実例の売買価額にはその取引の個別の事情が反映されているため、売買実例の売買価額をもって直ちに客観的交換価値である時価とみることはできないことから、請求人の主張には理由がない。
ハ 土地3について
(イ)認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 土地3は、相続開始時点において、L所有の建物(居宅、昭和49年12月増築)の敷地として利用されていた。
B 被相続人は、Mと昭和37年9月21日付で土地3に係る建物建築条件付土地賃貸借契約を締結した。Mは、この契約に係る権利をLに売却し、Lは昭和39年11月に居宅を建築した。被相続人とLとの間では、改めて土地賃貸借契約書は作成していない。この建物建築条件付土地賃貸借契約では、借地契約の期間は5年間となっているが、その後自動更新され相続開始時点において存続していた。
C 土地3にあるL名義の建物は、平成15年2月19日付の売買を原因として、同年3月20日にLから請求人に所有権移転登記がなされている。
D H鑑定士は、当審判所に対し、「○○用地との比較による市場性の減退による40%の減価は、市場性の減退による30%の減価と、この土地にある建物が過去に増築されたという経緯から借地人の権利がより強いものと考えて10%を加算したものである」旨答述している。
E 評価基準によると、土地3は南側と西側で路線価の付された路線と接しており、その路線価の地区区分は普通住宅地区である。
(ロ)請求人鑑定評価額
 請求人鑑定は、土地3の請求人鑑定評価額を別表3−3の鑑定評価額算定の概要のとおり1,436,000円と決定している。
 そこで、以下その内容について検討する。
A 利回りについて
 請求人鑑定は、鑑定評価額算定の概要の(2)「底地価格の算定」の「利回り」欄において7.074%を還元利回り及び割引率として採用しているが、上記ロの(ロ)のAの理由のとおりその算出の基礎とした利回りは適切なものとは認められない。
B ○○用地との比較について
 請求人鑑定は、鑑定評価額算定の概要の(2)「底地価格の算定」の「補正事項」欄において○○用地取引倍率との比較による20%の減価及び○○用地との比較による市場性の減退があるとして40%の減価をしているが、上記ロの(ロ)のBの理由のとおり○○用地と比較することに合理性は認められないほか、上記(イ)のDの答述内容も具体性に乏しいといわざるを得ない。
 上記によれば、請求人鑑定における○○用地との比較による減価は相当とは認められない。
C 上記A及びBのとおり、請求人鑑定評価額が相続税法第22条に規定する時価であるとの請求人の主張には理由がない。
(ハ)原処分庁評価額
 原処分庁は、別表3−3の2「原処分庁における評価通達等に基づく評価額算定の概要」のとおり評価通達等に基づき9,820,268円と算定している。
(ニ)土地3の評価額
 上記(ロ)のとおり、土地3について評価通達等により難い特別な事情は認められず、評価通達等に定める評価方法は上記(1)のロのとおり合理的と解されていることからすれば、評価通達等に基づき評価することが相当である。
 ところで、原処分庁は、別表3−3の2「原処分庁における評価通達等に基づく評価額算定の概要」の「側方路線価」の「画地調整」欄のとおり側方路線影響加算率に普通住宅地区の準角地の場合の0.02を適用して相続税評価額を算定している。
 側方路線影響加算率について評価通達16《側方路線影響加算》は、正面と側方に路線のある宅地を角地、一系統の路線の屈折部の内側に位置する宅地を準角地として、普通住宅地区の側方路線影響加算率は、角地の場合0.05、準角地の場合0.02とする旨定めている。
 上記(イ)のEの事実からすれば、土地3は角地であり、適用すべき側方路線影響加算率は0.05となることから、土地3の評価額を評価通達等に基づき算定すると別表3−3の3「審判所認定額」のとおり10,109,122円となる。
(ホ)借地権価額控除方式により難い特別な事情の有無
 さらに、請求人は、土地3について借地権価額控除方式により難い特別な事情がある旨主張する。
 しかしながら、土地3の地主と借地人との関係は上記(イ)のBのような関係にあり、かつ、土地3は平成15年3月に請求人が借地人から建物を購入することにより完全所有権となっていることからすれば、借地権を併合して完全所有権となる潜在的価値が存すると認めることが困難であるとする特別の事情は認められず、請求人の主張には理由がない。
ニ 土地4について
(イ)認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 土地4は、相続開始時点において、Nの子であるT所有の建物(居宅兼共同住宅、昭和52年8月建築)及び同人の子であるU所有の建物(居宅、昭和46年2月建築)の2棟の建物の敷地として利用していた。
B 被相続人は、Nと昭和36年6月4日付で建物の所有を目的とする土地4の土地賃貸借契約を締結している。この土地賃貸借契約では、借地契約の期間は3年間であるが、その後自動更新され現在まで継続している。
C H鑑定士は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(A)○○用地との比較による市場性の減退による40%の減価は、市場性の減退による30%の減価と、さらにこの土地にある建物が建替えられている経緯から借地人の権利がより強いものと考えて10%を加算したものである。
(B)この土地の地積が、標準的宅地と考えている宅地の面積(50坪、約165平方メートル)より大きいため20%の減価を行った。
(ロ)請求人鑑定評価額
 請求人鑑定は、土地4の請求人鑑定評価額を別表3−4の鑑定評価額算定の概要のとおり2,478,000円と決定している。
 そこで、以下その内容について検討する。
A 利回りについて
 請求人鑑定は、鑑定評価額算定の概要の(2)「底地価格の算定」の「利回り」欄において7.074%を還元利回り及び割引率として採用しているが、上記ロの(ロ)のAの理由のとおりその算出の基礎とした利回りは適切なものとは認められない。
B ○○用地との比較について
 請求人鑑定は、鑑定評価額算定の概要の(2)「底地価格の算定」の「補正事項」欄において○○用地との比較による市場性の減退があるとして40%の減価をしているが、上記ロの(ロ)のBの理由のとおり○○用地と比較することに合理性は認められないほか、上記(イ)のCの(A)の答述内容も具体性に乏しいといわざるを得ない。
 上記によれば、請求人鑑定における○○用地との比較による減価は相当とは認められない。
C 個別格差補正について
 請求人鑑定は、鑑定評価額算定の概要の(1)「更地価格の算定」の注2のとおり個別格差補正として合計14%の減価をしている。しかしながら、この個別格差補正のうち、地積過大による減価率の根拠については、上記(イ)のCの(B)のとおり答述しているが、具体性に乏しいといわざるを得ない。
D 上記AないしCのとおり、請求人鑑定評価額が相続税法第22条に規定する時価であるとの請求人の主張には理由がない。
(ハ)原処分庁評価額
 原処分庁は、別表3−4の2「原処分庁における評価通達等に基づく評価額算定の概要」のとおり評価通達等に基づき17,693,900円と算定している。
(ニ)土地4の評価額
 上記(ロ)のとおり、土地4について評価通達等により難い特別な事情は認められず、評価通達等に定める評価方法は上記(1)のロのとおり合理的と解されていることから、原処分庁評価額は相当である。
(ホ)借地権価額控除方式により難い特別な事情の有無
 さらに、請求人は、土地4の評価に当たり借地権価額控除方式により難い特別な事情がある旨主張する。
 しかしながら、土地4の地主と借地人との関係は上記(イ)のBのような関係にあること及び賃貸借関係が類似する土地3は平成15年3月に請求人が借地人から建物を購入することにより完全所有権となっていることからすれば、借地権を併合して完全所有権となる潜在的価値が存すると認めることが困難であるとする特別の事情は認められず、請求人の主張には理由がない。

(3)本件更正処分について

 本件各土地の評価額の合計額は、別表4の「審判所認定額」欄のとおり55,275,068円であり、請求人の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表5の「審判所認定額」欄のとおりとなり、いずれも本件更正処分の額を上回ることから本件更正処分は適法である。

(4)本件賦課決定処分について

 本件更正処分は、上記(3)のとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。

(5)原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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