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(平18.6.14裁決、裁決事例集No.71 659頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の相続税物納申請に係る物納財産は、管理又は処分をするのに不適当な財産に該当するとして、相続税の物納財産変更要求通知処分をしたのに対し、請求人が、同財産が不適当であることについては国に責任等があるから、物納を許可すべきと主張して、その処分の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年9月○日に死亡した被相続人Eの共同相続人の一人として、課税価格を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円と記載した相続税の申告書を、法定申告期限内の平成11年6月30日に原処分庁に提出した。
ロ 請求人は、平成11年6月30日に、納付すべき税額のうち、現金で納付する税額を○○○○円、物納を求めようとする税額を○○○○円及び物納に充てようとする財産をP市Q町a番(宅地、757.02平方メートル)(以下「当初物納財産」という。)と記載した相続税物納申請書を原処分庁に提出した。
ハ 請求人は、平成12年6月26日に相続税の修正申告書を提出し、同月30日に同修正申告書による納付すべき税額○○○○円を現金納付した。
ニ 請求人は、平成12年9月5日に当初物納財産をP市Q町b番(宅地、320.61平方メートル)及びc番(宅地、436.41平方メートル)に分筆した。
ホ 請求人は、平成12年10月12日に、物納に充てる財産として上記ニのP市Q町b番(宅地、320.61平方メートル)に代えて、同R町a番(田、300平方メートル)、同所b番(田、42平方メートル)及び同所c番(畑、185平方メートル)(以下、これら3筆の土地を併せて「T物件」という。)並びに同市S町a番(田、46平方メートル)及び同所b番(畑、15平方メートル)(以下、この2筆の土地を併せて「U物件」といい、「T物件」と併せて「本件物納財産」という。)に変更した物納財産目録を原処分庁に提出した。
ヘ 原処分庁は、平成12年12月8日に、P市Q町c番の土地について物納を許可し、同月19日に物納価額○○○○円で収納した。
ト 原処分庁は、本件物納財産について、地形が狭長なため単独利用が困難であることを理由に、管理又は処分をするのに不適当な財産に該当するとして、平成15年11月18日付で相続税の物納財産変更要求通知処分(以下「当初処分」という。)をしたところ、請求人は、これを不服として、平成16年1月16日に異議申立てをした。
チ 平成16年4月15日に原処分庁は当初処分を取り消し、請求人も同日に異議申立てを取り下げた。
リ 原処分庁は、平成16年10月27日付で請求人に対して、補完の期限を同年11月19日とする「物納申請不動産に関する書類の補完等の通知書」(以下「本件補完通知書」という。)を請求人に交付送逹した。
ヌ 原処分庁は、平成17年5月13日付で請求人に対し、相続税の物納財産変更要求通知処分(以下「本件処分」という。)を行った。
ル 請求人は、本件処分を不服として、平成17年7月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月3日付で棄却の異議決定をした。
ヲ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成17年11月1日に審査請求をした。

(3)基礎事実

イ 本件物納財産について
(イ)現況及び公図上、T物件は、東側は里道(里道の横は水路)に、西側は○○用地に、南側は水路に接し、また、北側は高位の陸橋に面する、公道に通じていない、いわゆる無道路地である。
(ロ)T物件の南側の水路の横は里道(以下「本件里道」という。)、本件里道の横は社寺Wの参道(以下「本件私道」という。)となっている。
(ハ)U物件は、概測、縦3.7メートル〜5.7メートル、横14.9メートルの狭長地である。
ロ 本件補完通知書の内容は、要旨次のとおりである。
 T物件は、現況及び公図上も4メートル以上の公道に接していないため、現状のままでは、管理又は処分をするのに不適当な財産といわざるを得ず、これを適当な財産とするためには、申請人において、次の(イ)及び(ロ)の2項目に係る事項(以下「主要補完事項」という。)の整備を前提条件とし、次いで、主要補完事項の整備が可能と認められた場合には、同物件に係る〔1〕境界確定及び境界標の埋設、〔2〕地積測量図及び境界確認書の提出、〔3〕地積更正登記、〔4〕負担金等の清算、〔5〕樹木の撤去、〔6〕地下埋設物及び土壌汚染に係る確認書の提出並びに〔7〕進入防止柵の設置の7項目の補完事項を整備することが必要である。
 なお、主要補完事項のいずれかでも整備が不可能ということであれば、T物件は、管理又は処分をするのに不適当な財産として取り扱われる。
(イ)T物件に係る通路橋の設置について
A T物件の南側に所在する水路の上に、水路に関係する利害関係者等の同意を得て、幅員2メートル以上の通路橋を設置する。
B 利害関係者等から通路橋の使用を将来にわたって承認する旨の承認書及び通路橋を設置、占用することに対して一切の負担金等が発生しないことの確約書を徴求の上、原処分庁に提出する。
(ロ)社寺Wの承諾書について
 社寺Wより、本件私道を将来にわたって通行を許可する旨の承諾書(以下「本件承諾書」という。)を徴求の上、原処分庁に提出する。
ハ 審査請求日において、主要補完事項は整備されていない。

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2 主張

 別紙「当事者の主張」のとおり。

3 判断

(1)認定事実

 請求人が当審判所に提出したP市建築指導課長名の平成14年○月○日付○年○号「道等の判定結果通知書」によると、本件私道は、建築基準法第42条《道路の定義》第2項に規定するいわゆるみなし道路としての指定を受けていることが認められる。

(2)ところで、国税の納付については、国税通則法第34条《納付の手続》により金銭による納付が原則とされているところ、相続税の物納制度について、相続税法(平成18年法律第10号による改正前のもの)第41条《物納》第1項には「税務署長は、納税義務者について、納付すべき相続税額を延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合においては、納税義務者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として、物納を許可することができる。」旨規定し、また、同法第42条《物納の手続及び許可》第2項のただし書において「税務署長は、物納申請財産が管理又は処分をするのに不適当であると認める場合においては、同条第3項による書面をもって物納財産の変更を求めることができる。」旨規定している。

 これらの規定からすると、国税を金銭で納付するという原則に対して、相続税の物納制度は、相続税が財産課税であるという特殊性を考慮して設けられた特例的な制度であるということができ、単に物納申請財産を国に帰属させるのではなく、相続税の納付のための手段として、国がこれを換価し、その代金をもって財政収入に充てることに真の目的があると解されている。
 したがって、物納財産が管理又は処分をするのに不適当であるかどうかは、国が、その財産の管理又は処分を通じて、金銭で相続税の納付があった場合と同等の経済的利益を将来現実に確保することができるか否かの観点から判断するのが相当である。
 そうすると、他の土地に囲まれて公道に通じない土地や単独では通常の用に供することができない地形狭長な土地は、通常売却が困難であり、金銭による納付があった場合と同等の経済的利益を国において将来現実に確保することは困難であるから、「管理又は処分をするのに不適当」な財産に該当することとなる。

(3)これを本件についてみると、次のとおりである。

イ T物件について
(イ)T物件は、前記1の(3)のイの(イ)のとおり、他の土地に囲まれており公道に通じていないことから、原処分庁は、前記1の(3)のロの(イ)のとおり、当該物件を管理処分可能な財産とするために、通路橋の設置を主要補完事項としたが、当審判所においても、通路橋を設置して本件私道に通じることが当該物件を管理又は処分する上で不可欠であると認められるから、通路橋の設置を補完事項とした原処分庁の判断は相当と認められる。
 そうすると、当該物件は、他の土地に囲まれ公道に通じていない土地であり、かつ、通路橋の設置もなされていないことから、相続税法第42条第2項ただし書に規定する「管理又は処分をするのに不適当」な財産に該当する。
(ロ)請求人は、別紙「当事者の主張」の「請求人」欄の1の(1)のとおり、本件私道は、国の政策により社寺Wの私道にしたのであること等から、国に責任があり、現状で物納が許可されることが当然である旨主張する。
 しかしながら、物納財産が管理又は処分をするのに適当であるかどうかは、上記(2)のとおり、国が、その財産の管理又は処分を通じて、金銭で相続税の納付があった場合と同等の経済的利益を将来現実に確保することができるか否かの観点から判断するものであり、管理又は処分をするのに適当な財産とすることについての国の責任の有無により判断するものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は理由がない。
(ハ)請求人は、別紙「当事者の主張」の「請求人」欄の1の(2)のとおり、相続財産は、国の評価に基づいて申告しているのに、補完を要求し、現状のままで物納財産として認めないのは、平等性に反するものである旨主張する。
 しかしながら、財産評価基本通達は、相続財産の評価方法を定めたものであって、これに基づく相続税評価額が直ちにその物件を売却できる額であることを意味するものではない。そして、物納制度の趣旨に照らし、物納の許可を受けるためには、物納財産の収納が金銭納付に代わるものである以上、相続税評価額すなわち時価の算定が可能であるとして相続税が課税されたことをもって、直ちに物納の許可を受け得るということはできず、国がその財産を管理又は処分するにつき、事実上及び法律上の障害がないことが要件となるというべきである。
 したがって、この点についての請求人の主張は理由がない。
(ニ)請求人は、別紙「当事者の主張」の「請求人」欄の1の(3)のとおり、本件私道は、不特定多数の人が通行している道路であるから、民法210条によれば、このような場合には公道ということで通行に係る承諾書は必要なく、また、建築基準法の道等の判定では、建築基準法第42条第2項に規定する道路でもある旨主張する。
 しかしながら、本件私道は、上記(1)のとおり、建築基準法第42条第2項に規定するいわゆるみなし道路指定がされた私道であるところ、それは、その私道内での建築等及び私道の廃止・変更が制限される結果、その反射的利益として通行することができるにすぎないのであり、その私道を通行する者に通行権が認められているわけではない。そのため、私道の所有者に通行者の通行を受忍するにつき著しい損害を被る事情が存する場合等においては通行の制限が加えられることが許される場合もあり得ることから、その私道を自己が欲するとおりの態様や利用目的で通行することを日常的に必要不可欠とする場合には、私道所有者の承諾等により通行権を得る必要がある。また、その私道は他人の所有地であるから、その私道にガス管や水道管を埋設するに当たっては、その土地所有者の了解を得る必要があることはいうまでもないところである。
 また、民法210条が規定する隣地通行権においても、その通行の場所、方法等は無制限に許容されるものではなく、通行権者にとって必要な限度で、かつ、隣接地のために損害がもっとも少ない場所や方法を選ばなければならないものである。
 そうすると、国が物納財産を管理又は処分するためにその私道の利用が必要不可欠である場合にも、その私道の所有者にその土地の通行及び使用についての承諾を得る必要があるというべきである。
 これをT物件についてみると、通路橋を設置して本件私道を利用することが同物件を管理又は処分する上で必要不可欠であると認められるから、原処分庁が本件承諾書の提出を求めたことは相当である。
ロ U物件について
 請求人は、U物件は、同物件と同じ条件で建物が建築されている物件があること及び同物件の周辺には小学校、事業所等があることなどから、店舗、住宅、駐車場等広範囲に利用できる土地である旨主張するが、当審判所においても、前記1の(3)のイの(ハ)のとおり地形狭長な土地で、単独では通常の用途に供することができず、売却が困難な土地であると認められ、金銭による納付があったと同等の経済的利益を国において将来現実に確保することは困難な物件であり、相続税法第42条第2項ただし書に規定する「管理又は処分をするのに不適当な財産」に該当すると認められるから、この点に関する請求人の主張は採用することはできない。

(4)以上のとおり、原処分庁が本件物納財産を、管理又は処分をするのに不適当であるとして行った本件処分は適法である。

(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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別紙 当事者の主張

請求人

 原処分は、次のとおり違法である。
1 T物件について
(1)通路橋設置
 請求人は、T物件の架橋工事のために境界を確定し測量済みであり、関係官庁である○○県土木事務所及びP市道路管理課等に出向いていろいろとお願いし、立会い等も行った。
 しかしながら、P市の提案に対して、本件私道を所有する社寺Wが了解しなかったため、本件里道と社寺Wの境界を確定できず、通路橋の設置はできなかったものである。
 このような状況になった原因として、本件私道は、昭和24年○月○日に旧大蔵省が社寺Wに譲与したものであり、それ以前は公道として利用されていたものを国の政策により譲与し、社寺Wの私道にしたのであるから、国に責任がある。
 本件私道は、周辺の土地所有者に私法上の権利がなければ自由に通行できないのであれば、その権利を奪ったのは国である。
 また、本件里道は、平成17年○月までは財務省の所管であり、財務省が境界を確定できないことから通路橋の設置もできず、国にも責任がある。
 このように、国の政策により受けた損害は、個人で解決できるものではなく、現状のままの物納が当然である。
(2)相続財産は、国の評価に基づいて申告しているのに、諸条件をつけて物納財産として認めないのは問題があり、平等性に反するものである
(3)本件承諾書について
 本件私道は、相当程度の幅員をもち、隣接する住宅は多数あり、居住者はもとより不特定多数の人が自由、安全、容易に通行している道路である。
 民法210条によれば、このような場合には公道ということで承諾書は必要ないと思われる。また、建築基準法の道等の判定では、建築基準法第42条第2項に規定する道路でもある。
2 U物件について
 U物件と同じ条件で建物が建築されている物件もあり、また、同物件は、P市○○住宅に隣接し交通量も多く、周辺には小学校、各事業所等があり、店舗、住宅、駐車場等広範囲に利用できる土地である。
 原処分は、次のとおり適法である。

原処分庁

1 T物件について
(1)平成16年2月25日に現地立会いの上、請求人から通路橋の設置、伐根、伐採、整地等の整備を行うとの申し出があった。
 しかし、その後、通路橋の設置、伐根、伐採、整地等の整備が行われないため、平成16年10月27日付で、〔1〕T物件の南側に所在する水路に関係する利害関係者等の同意を得て、幅員2メートル以上の通路橋を設置するとともに、これらの利害関係者等から通路橋の使用を将来にわたって承認する旨の承認書を徴求の上、提出すること、また、当該通路橋を設置、占用することに対して一切の負担金等が発生しないことの確約書も徴求の上、提出すること、〔2〕本件私道を将来にわたって通行を許可する旨の承諾書を社寺Wより徴求の上、提出することという内容の本件補完通知書を送逹したが、補完は行われなかった。
 なお、平成17年9月13日に現地調査を実施したが、補完が行われているとは認められない。
 請求人は、「もう暫く猶予を希望する。」と主張しているが、平成12年10月12日に本件物納財産を申請後、5年近く経過しており、関係者である社寺Wとの話合いも進展していない状況からみて、通路橋の設置は困難であると判断せざるを得ない。
 また、本件私道は、社寺Wの私道であり、本件里道については、P市が所管するものであることから、原処分庁は本件私道及び本件里道についての権限及び責任を持つものではなく、物納申請財産の現状は、建築基準法第43条《敷地と道路との関係》第1項の「建築物の敷地は道路に2メートル以上接しなければならない。」を充足しておらず、無道路地の解消となっていないことから、物納財産としては不適当である。
(2)相続税法第42条第1項に規定する物納申請書の提出があった場合は、同条第2項ただし書により、物納申請財産が管理又は処分するのに不適当と認める場合においては、その変更を求め、同条第4項の規定による申請書の提出を待って当該申請の許可又は却下をすることができると規定されている。
 相続税の物納制度は、物納申請財産を国に帰属させ、これを使用収益することを目的とするものではなく、物納申請財産の金銭的価値に着目して、国がこれを最終的に処分して国家の収入に充てることにより、金銭の納付に代わる経済的利益を得ることを目的としている。
 したがって、相続税法第42条第2項ただし書にいう「管理又は処分をするのに不適当な財産」に該当するか否かは、国が物納申請財産の管理又は処分を通じて、金銭により相続税が納付された場合と同等の経済的利益を将来に確保することができるかどうかという観点から判断されることとなる。
 以上のことから、相続税の課税価格の計算の基礎となった相続財産でも直ちに物納財産として管理又は処分をするのに適当であると認められる財産にならず、不適当財産とされることもある。
(3)民法210条は、「公道に至るための他の土地の通行権(囲繞地通行権)」を規定したものであり、私道を通行するためには原則として通行できる私法上の権利がなくてはならない。
 本件私道は、あくまで私道であり公道ではないため、本件私道を将来にわたって通行を許可する旨の承諾書は必要である。
2 U物件について
 概測、縦4.1メートル(3.7メートル〜5.7メートル)横14.9メートル、総面積61平方メートルの地形狭長な土地であり、単独では通常の用途に供することができない土地と判断される。
 よって、本件物納財産は、国が管理又は処分するのに不適当な財産と判断され、相続税法第42条第2項ただし書の規定に基づく本件処分は、違法、不当なものではない。