ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.71 >> (平18.6.20裁決、裁決事例集No.71 674頁)

(平18.6.20裁決、裁決事例集No.71 674頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)がした相続税の物納申請について、原処分庁が、請求人が正当な理由なく必要書類のすべてを提出していないとして、相続税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)第42条《物納の手続及び許可》第2項の規定により、却下処分を行ったのに対し、請求人が、原処分庁から提出を求められた必要書類のすべてを提出しているとして、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成3年○月○日に死亡した○○○(以下「本件被相続人」という。)の相続人の一人であるが、この相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、申告書に納付すべき税額を○○○○円と記載して、平成5年3月19日にJ税務署長あて申告するとともに、同日、同税務署長に対し、当該納付すべき税額の全額を物納による旨の相続税物納申請書を提出した(以下「本件物納申請」という。)。
ロ J税務署長は、平成5年6月29日、請求人に係る本件相続税について、納付すべき税額を○○○○円とする更正処分をした。
ハ 原処分庁は、平成5年8月30日、相続税法第44条《延納又は物納に関する事務の引継ぎ》の規定により、J税務署長から本件物納申請に係る事務の引継ぎを受けた。
ニ 請求人は、平成7年4月3日、本件物納申請のうち、物納申請税額5,000,000円について物納申請を取り下げた。
ホ J税務署長は、平成7年6月30日、請求人に係る本件相続税について、納付すべき税額を○○○○円とする更正処分をした。
ヘ 請求人は、平成8年3月15日、本件物納申請のうち、物納申請税額4,000,000円について物納申請を取り下げた。
 この結果、物納申請財産及びその価額は、別表1の「物納申請財産の明細」欄及び「価額」欄のとおりとなった(以下、「物納申請財産の明細」欄の財産を「本件物納申請財産」といい、同表の番号1ないし37の物納申請財産を「p町物件」、番号38ないし94の物納申請財産を「q町物件」、番号95ないし109の物納申請財産を「r町物件」及び番号110の物納申請財産を「s町物件」という。)。
ト 原処分庁は、平成17年9月27日、請求人に対して、本件物納申請財産に係る物納に必要な書類の提出等を求めたが正当な理由なく提出等を行わないことを理由として、相続税法第42条第2項に基づき、本件物納申請の却下処分(以下「本件却下処分」という。)をし、その旨の通知書を請求人に送付した。
チ 請求人は、平成17年11月2日、本件却下処分を不服として審査請求をした。

(3)関係法令

 別紙のとおり。

トップに戻る

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件物納申請財産は、別表1のとおり、すべて借地権の目的となっている土地である。
ロ 原処分庁所属の物納担当職員は、平成5年11月1日及び平成12年1月25日に請求人の立会いの下、また、同年5月23日に請求人の代理人であったKの立会いの下、物納申請財産の現地調査を行った。
ハ 原処分庁は、平成6年3月14日、請求人に対し、同年5月31日を期限とし、別表2の「物納申請不動産に関する書類の補完等の通知書」を送付し、同期限までに補完等がないときには物納申請を却下する場合もある旨を併せて通知した。
 これに対し、請求人は、平成6年5月30日、物納担当職員に対して、〔1〕相続について争いがあること、〔2〕依頼した測量士の具合が悪く、まだ測量していないのではないか、〔3〕境界の立会いについても古くからの地主であり、境界標等がないので協議がうまくいかないのではないか、また、〔4〕物納担当職員が現地調査に行って、写真を撮ったので物納は終わったと思っていた旨申述した。
 その後、物納担当職員は、平成6年8月末までに一部でも測量図を作成するように指示した。
ニ 原処分庁は、平成9年11月5日、請求人に対し、平成10年1月末日を期限とし、別表3の「補正通知書」を送付し、同期限までに補正がないときは物納申請を却下する場合もある旨を併せて通知した。
ホ 原処分庁は、平成11年9月22日、請求人に対し、同年10月20日を期限とし、別表4の「補正通知書」を送付し、同期限までに補正がないときは物納申請を却下する旨を併せて通知した。
ヘ 原処分庁は、平成12年3月31日、請求人に対し、同年4月末日を期限とし、別表5の「補正通知書」を送付し、同期限までに補正がないときは物納申請を却下する場合もある旨を併せて通知した。
ト 平成13年1月12日、Kから、物納担当職員に対して、p町物件及びs町物件だけでもおおむねでの収納適否判定を願う旨の申立てがあったので、原処分庁は、同年9月28日、請求人に対し、同年12月25日を期限とし、また、補完対象財産をp町物件及びs町物件とし、別表6の「物納申請不動産に関する書類の補完等の通知書」を送付し、同期限までに補完等がないときは物納申請を却下する旨を併せて通知した。
チ 原処分庁は、平成16年10月6日、請求人に対し、同年12月17日を期限とし、また、補完対象財産を本件物納申請財産の全部とし、別表7の「物納申請不動産に関する書類の補完等の通知書」を送付し、同期限までに補完等がないときは物納申請を却下する場合もある旨を併せて通知した。
リ 原処分庁は、平成17年2月1日、請求人に対し、上記チの補完等がなされていないとして、「物納申請不動産に関する書類の補完等の催告書」を送付し、同年2月28日までに補完等がないときは物納申請の却下の手続に入る旨を併せて通知した。
ヌ 原処分庁は、平成17年5月23日、請求人に対し、上記チ及びリの補完等がなされていないとして、同年7月29日までに補完等がないときは物納申請を却下する旨の「物納申請却下予告書」を送付した。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 請求人は、原処分庁から提出を求められた必要書類について、測量事務所に依頼して作成し、そのすべてを提出していることから、本件却下処分は、その全部が取り消されるべきである。

(2)原処分庁

イ 物納申請者は、相続税法第42条第1項に規定する物納申請書を提出する必要がある。そして、物納申請者は、税務署長又は国税局長(以下「税務署長等」という。)が〔1〕物納申請財産を特定し、〔2〕その物納申請財産が管理又は処分するのに適当であるか否かの判定を行うための必要書類を提出しなければならない。
 物納申請に係る必要書類は、物納申請財産の種類ごとに異なるが、本件のように、物納申請財産が借地権の目的となっている土地の場合は、物納申請時に所在図及び土地登記簿謄本を、また、税務署長等が指定する期日までに、地積測量図、境界線に関する確認書、賃借地の境界に関する確認書、賃貸借契約書及び敷金等に関する確認書等の書類の提出を求めている。
 そして、上記の必要書類について、税務署長等が指定した期日までに正当な理由なく提出がない場合には、相続税法第42条第1項に規定する物納申請財産の種類及びその価額その他必要な事項を記載した物納申請書としての要件を満たさない不適法な物納申請であると解され、税務署長等は、同条第2項の規定に基づき物納申請を却下することができる。
ロ 本件物納申請財産は、借地権の目的となっている土地であり、原処分庁が提出を求めた各書類の必要理由は、次のとおりである。
(イ)「土地登記簿謄本」は、質権、抵当権、その他の担保権の目的となっていないこと等を確認するために必要である。
(ロ)「公図の写し」、「地積測量図」、「道路明示証」、「境界に関する確認書」、「境界標写真」、「越境に関する確認書」及び「工作物に関する確認書」については、本件物納申請財産の所有権境を確定した上、それを測量することにより面積を明確にするため、あるいは、境界線が明確でなく、隣接地主から境界線に異議がない旨の了解が得られない土地か、隣接建物の一部が境界線を越境していないか、塀等の囲障が境界線を越境又は境界線上に設置されていないか等を確認するために必要である。
(ハ)「賃貸借契約書(請求人と借地人との間において締結されたもの)の写し」、「物納申請財産賃貸借関係書」、「請求人と借地人ごとの賃借地の境界に関する確認書」、「敷金等に関する確認書」、「建物登記簿謄本」、「使用貸借に関する確認書」及び「地代領収書の写し」については、敷金、保証金等の債務がある貸地、貸家か、借地、借家契約の円滑な継続が困難な不動産に該当しないか等を確認するために必要である。
ハ 本件却下処分時における上記ロの必要書類の提出状況は、別表1の「提出書類」欄のとおりであり、また、各物件の個別状況については、次のとおりである。
(イ)p町物件について
A 請求人は、分筆登記前の「土地登記簿謄本」及び「公図の写し」を提出しているが、原処分庁が提出を求めたのは、借地人ごとに分筆登記した後のものであり、請求人はその提出をしていない。
 なお、請求人は、別表1の番号18、19、23及び24の土地の分筆登記もしていない。
B 請求人は、別表1の番号18、19、23及び24を除く土地の「地積測量図」の写しを提出しているが、原処分庁が提出を求めたのは「地積測量図」の原本であり、請求人はその提出をしていない。
 また、請求人は、別表1の番号18、19、23及び24の土地について、分筆登記前の求積図(地積測量図)を提出しているが、原処分庁が提出を求めたのは分筆登記後の地番が記載されている「地積測量図」であり、請求人はその提出をしていない。
C 請求人は、「境界線に関する確認書」をおおむね提出しているが、物納申請に係る土地の地番と隣接土地の地番の記載がすべて逆に記載されているなど、その記載内容が整合しておらず、請求人は原処分庁が真正な書類とするために求めた訂正をしていない。
 また、請求人は、原処分庁が権利者双方に認識のずれがないように、上記確認書に「地積測量図の写し」の添付及び割印を求めたのに対し、「地積測量図の写し」を添付していない。
D 請求人は、「境界標写真」をおおむね提出しているが、原処分庁が現況の境界標と「境界標写真」とを確認する必要があるとして、分筆登記後の「土地登記簿謄本」等の提出を求めたのに対し、請求人はその提出をしていない。
E 請求人は、本件被相続人と借地人との間の「賃貸借契約書の写し」を提出しているが、原処分庁が提出を求めたのは、〔1〕賃貸人を本件被相続人から請求人へ変更し、〔2〕賃貸借の対象地を実測に基づき分筆登記し、その地番、地積に変更した後の「賃貸借契約書の写し」であり、請求人はその提出をしていない。
F 請求人は、本件被相続人と借地人との賃貸借契約に基づいて作成された「物納申請財産賃貸借関係書」を提出しているが、原処分庁が提出を求めたのは、請求人と借地人との「賃貸借契約書」に基づいて作成された「物納申請財産賃貸借関係書」であり、請求人はその提出をしていない。
G 請求人が提出した「賃借地の境界に関する確認書」は、賃借地の記載欄(所在、地番、地目、地積)が空欄のもの(別表1の「賃借地の境界に関する確認書」欄が「□」印のもの。)及び地番、地積が誤っているもの(同欄が「△」印のもの。)がある。
 また、請求人は、原処分庁が権利者双方に認識のずれがないように、上記確認書に「地積測量図の写し」の添付及び割印を求めたのに対し、その添付をしていない。
(ロ)q町物件、r町物件及びs町物件について
A 請求人は、分筆登記前の「土地登記簿謄本」及び「公図の写し」を提出しているが、原処分庁が提出を求めたのは、借地人ごとに分筆登記した後のものであり、請求人はその提出をしていない。
B 請求人は、分筆登記前の求積図(地積測量図)を提出しているが、原処分庁が提出を求めたのは、分筆登記後の地番が記載されている「地積測量図」であり、請求人はその提出をしていない。
 また、請求人は、別表1の番号110の土地(s町物件)について、作成者印のない「地積測量図」を提出しているが、原処分庁が提出を求めたのは、作成者の朱印が押印された適正な「地積測量図」であり、請求人はその提出をしていない。
C 請求人は、「道路明示証」として、「道路区域表示図」を提出しているが、原処分庁が提出を求めたのは、道路所有者又は管理者からの証明書としての「道路明示証」であり、請求人はその提出をしていない。
D 請求人は、本件被相続人と借地人との間の「賃貸借契約書の写し」を提出しているが、原処分庁が提出を求めたのは、〔1〕賃貸人を本件被相続人から請求人へ変更し、〔2〕賃貸借の対象地を実測に基づき分筆登記し、その地番、地積に変更後の「賃貸借契約書の写し」であり、請求人はその提出をしていない。
E 請求人は、本件被相続人と借地人との賃貸借契約に基づいて作成された「物納申請財産賃貸借関係書」を提出しているが、原処分庁が提出を求めたのは、請求人と借地人との「賃貸借契約書」に基づいて作成された「物納申請財産賃貸借関係書」であり、請求人はその提出をしていない。
ニ 以上のとおり、原処分庁は、請求人に再三にわたり不足する必要書類の提出を求めたにもかかわらず、本件却下処分時において一部の必要書類の提出はあったものの、物納申請物件のうちすべてについて必要書類の提出があったものはなく、その提出しないことについて何ら正当な理由も示さないことから、相続税法第42条第2項の規定に基づき本件物納申請を却下したものであり、本件却下処分は適法であり、何ら違法、不当なものではない。

トップに戻る

3 判断

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、上記2の(2)のハの事実のほか、次の事実が認められる。
イ 請求人は、平成12年1月以降、本件物納申請財産に係る測量を、L測量士に依頼し、L測量士は、平成17年9月5日、物納担当職員に対して、要旨次のとおり申述した。
「平成17年7月に書類を請求人に渡したことは事実だが、平成14年から請求人に対し何度か書類の引渡しの話をしたものの、預かっていて欲しいと言われたり、連絡が取れなかったりしたため引渡しができなかった。境界が一部確定していないことから、出来た箇所から進めてはどうかと薦めたが、物納担当職員から全部でないとだめだと言われたと聞いている。平成15年以降、請求人からの催促等もなかったため作業は進めていない。」
ロ K及びL測量士は、平成15年2月14日、原処分庁にp町物件に係る必要書類を持参したが、その必要書類に補完等を要する状況は次のとおりであり、また、請求人の控えがなかったことから、物納担当職員は、その書類を受領しなかった。
(イ)分筆後の土地登記簿謄本の提出なし。
(ロ)実測図の原本の提出なし。
(ハ)境界に関する確認書に実測図の添付なし。
(ニ)賃借地の境界に関する確認書に実測図の添付なし。
(ホ)土地賃貸契約書が30人中15名分しか作成されていない。
ハ 請求人が平成17年7月29日に原処分庁に提出した必要書類は、次のとおりである。

(イ)所在図1通
(ロ)公図の写し1通
(ハ)法務局備付測量図の写し32通
(ニ)土地所有者一覧表8通
(ホ)境界線に関する確認書49通
(ヘ)賃借地の境界に関する確認書33通
(ト)越境に関する確認書4通
(チ)工作物に関する確認書12通
(リ)境界標写真1式
(ヌ)登記済証9通

 上記の提出された必要書類は、p町物件に係るものだけであり、かつ、「境界線に関する確認書」に実測図の添付がなく、地番表記は申請者と隣地所有者の土地が逆に記載され、「賃借地の境界に関する確認書」には借地人の署名、押印はあるものの、土地の表記(地番、地積等)はなく、実測図の添付もされていない。
 また、p町物件以外の本件物納申請財産に関する必要書類については、上記1の(4)のヌの原処分庁が補完等を求めた後においても提出されていない。
ニ 原処分庁は、本件相続税の期限後申告に係る無申告加算税を徴収するために、次表の不動産の差押えをし、そのうちQ市とP市の不動産は任意売却によって売却され、その売却代金は当該無申告加算税の納付に充てられている。

差押物件の内訳差押年月日
Q市○町○所在の雑種地平成5年9月30日
 201平方メートル
R市○町○所在の宅地平成6年1月18日
 114.66平方メートルの持分12分の1
R市○町○所在の宅地平成6年1月18日
 2,119.19平方メートルの持分12分の1
P市s町○所在の宅地平成6年4月21日
 311平方メートル

(注)請求人の主な相続財産は、本件物納申請財産及び上表の差押物件(Q市の物件を除く)のほか、「s町物件」を除くP市s町所在の貸地、○○市所在の共有マンション及びP市の自宅である。
 なお、差押物件の表示は、差押処分時の表示である。
ホ 請求人は、平成15年9月25日、物納担当職員に対し、売却可能な財産は売却して滞納国税の圧縮を図っており、本件物納申請財産以外に物納可能な財産はない旨申述している。

トップに戻る

(2)関係法令の解釈

イ 物納制度の趣旨及び物納財産について
 国税通則法第34条《納付の手続》第1項は、国税の納付については、その税額に相当する金銭により納付するのが原則である旨規定し、相続税法第41条第1項は、納付すべき相続税額を延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合においては、納税義務者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として、物納を許可することができる旨規定している。
 このように、相続税の物納制度は、金銭による納付が困難である場合に、例外的に他の財産で相続税を納付することを認められたものであるから、物納により収納された財産は、その収納が金銭納付に代わるものである以上、国が国有財産として管理又は処分をすることにより、金銭による納付があった場合と同等の経済的利益を将来現実に確保することができるものでなければならないと解され、物納申請に係る財産は、国が管理又は処分をするのに適当なものであることを要すると解される。
 そして、どのような財産が管理又は処分をするのに適当であるかについて明文の規定はないが、上記の物納制度の趣旨にかんがみれば、財産一般については、〔1〕質権、抵当権その他の担保権の目的となっていない財産、〔2〕所有権の帰属等について係争のない財産、〔3〕共有でない財産等であると解され、不動産については、〔1〕境界線が明確で、隣接地主から境界線に異議のない旨の了解が得られた土地、〔2〕借地契約の円滑な継続が容易な土地等が該当するものと解される。
 また、相続税の物納制度は、上記のとおり、金銭による納付が困難である場合に例外的に認められたものであるから、この例外の適用を求めて物納申請を行った納税者は、物納申請財産が管理又は処分をするのに適当な財産となるよう積極的に必要書類の提出等を行うことを要すると解される。
ロ 物納関係書類の提出及び却下について
 税務署長等は、相続税法第42条第2項の規定から、物納申請書の提出があった場合、同法第41条に規定する物納の要件に該当するか否か及び物納申請財産が管理又は処分するのに適当な財産であるか否かについて調査を行い、許可又は却下の処分をすることとなる。
 税務署長等が、上記の調査に当たって、申請者にどのような書類の提出を求めるかについては、物納申請財産によって異なるところであるが、調査に必要な書類であるとする合理的な理由があれば、その提出を求めることは相当であると解される。
 また、物納申請財産が物納の要件に適合するか否か及び管理又は処分するための適否の判断に当たっては、管理又は処分するためには物納申請財産が特定されていなければならず、かつ、その財産に係る権利関係等が明らかでなければならないことから、その調査の一態様として、税務署長等が、物納申請者に対し、〔1〕物納申請に係る財産を特定するために必要書類の提出を求めること及び〔2〕物納申請財産に係る権利関係等を明らかにするために必要書類の提出を求め、また、これらに不備がある場合に補完等を求めることには合理的な理由があると解される。
 そして、物納申請について許可又は却下の期限を定めた法令上の規定はなく、必要書類の提出がないために物納申請財産の特定ができず、管理又は処分をするのに不適当な財産であることを理由に却下する場合、どの時点で却下するかについては税務署長等の裁量にゆだねられているところである。不足する必要書類の提出要請等に手を尽くし、それでも物納申請者が正当な理由なく必要書類の提出を行わず、その提出された必要書類の範囲では物納申請財産の特定を欠き、あるいはその権利関係等が明らかにされないという場合には、物納申請財産は相続税法第42条第2項に規定する「管理又は処分をするのに不適当」な財産に該当することになり、税務署長等は物納申請を却下することができるものと解するのが相当である。

トップに戻る

(3)本件却下処分の適否について

イ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)原処分庁が請求人に対し別表1の「提出書類」欄に記載の必要書類の提出を求めたことには、次のとおり合理的な理由が認められる。
A 次の各書類は、本件物納申請財産がすべて借地権の目的となっている土地であることから、本件物納申請財産を特定するために、その所在及び境界線を確定して、地積を明確にする必要性によるものであり、ひいては、借地権が及ぶ範囲を明らかにして、物納後における国と借地人とのトラブルを避けるためである。換言すれば、借地権の及ぶ範囲が明らかでない貸地は、売却(処分)できる見込みのない財産といわざるを得ない。
(A)土地登記簿謄本(借地人ごとに分筆したもの)
(B)公図の写し(借地人ごとに分筆したもの)
(C)地積測量図
(D)道路明示証
(E)境界線に関する確認書
(F)境界標写真
B また、次の各書類は、物納申請財産に係る権利関係等について、〔1〕質権、抵当権、その他の担保権の目的となっていないこと、〔2〕共有財産でないこと、〔3〕境界線が明確で、隣接地主から境界線に異議のない旨の了解が得られている土地であること、〔4〕隣接建物の一部が境界線を越境していないもの又は塀等の囲障が境界線を越境若しくは境界線上に設置されていないこと、〔5〕借地権の及ぶ範囲が明確であること、〔6〕敷金等の債務がある貸地ではないこと、及び〔7〕地代の滞納が発生している等の借地契約の円滑な継続が困難な土地でないことを確認し、本件物納申請財産が管理又は処分をするのに適当であるか否かを判断するために必要であり、特に、物納申請財産が借地権の目的となっている土地については、物納後における国と借地人とのトラブルを避けるためにも、請求人と借地人との契約書に基づく賃貸借契約書等での確認が必要である。
(A)境界線に関する確認書
(B)賃貸借契約書(請求人と借地人との間において締結されたもの)の写し
(C)物納申請財産賃貸借関係書
(D)請求人と借地人ごとの賃借地の境界に関する確認書
(E)敷金等に関する確認書
(F)建物登記簿謄本
(G)越境・工作物・使用貸借に関する各確認書
(H)地代領収書の写し
(ロ)そして、原処分庁が請求人に提出を求めた別表1の「提出書類」欄の必要書類については、これらの提出を求めることには上記(イ)のとおり合理的な理由が認められるところ、原処分庁が、上記1の(4)のハないしヌのとおり、請求人に対して、本件物納申請に伴う必要書類の補完等を再三求めたが、請求人は、上記(1)のハのとおり、本件却下処分時においてその必要書類の一部を提出したにすぎず、その提出した書類も原処分庁が求めた補完等をしていない書類であることは明らかである。
(ハ)原処分庁は、上記1の(4)のロの現地調査及び提出された書類に基づいて本件物納申請財産が管理又は処分をするのに適当な財産であるか否について調査を行ったものの、本件却下処分時において、必要書類の補完不足等の不備によってその財産を特定することができなかったことが認められる。また、請求人が補完等を必要とする書類の提出又は補完等をしなかったことに正当な理由は認められない。
(ニ)以上のとおり、本件は、原処分庁が、請求人から提出された必要書類に基づいて本件物納申請財産の現地調査等を行った結果、必要書類の不備によって借地権等の及ぶ範囲が特定できず、その後、原処分庁は、請求人に対して再三補正等を求め、請求人が最終的に平成17年7月29日に提出した必要書類をもってしても、その不備は解消されていなかったものである。よって、本件物納申請財産は、相続税法第42条第2項に規定する管理又は処分をするのに不適当な財産に該当することから、本件却下処分は、適法な処分であることが認められる。
 なお、原処分庁は、相続税法第42条第2項ただし書に規定する物納財産変更要求を行っていないが、上記(1)のニの差押えの状況及び上記(1)のホの請求人の申述内容、また、本件物納申請財産について再三にわたる原処分庁からの補正等の求めに対し不備が解消されていなかったことからすれば、s町物件を除くP市s町所在の相続財産である貸地については、本件物納申請財産と同様に必要書類の提出が見込まれないといわざるを得ず、このことと他の相続財産の状況を併せ考量すると、物納財産変更要求を行ったとしても、請求人の相続財産に本件物納申請財産以外で物納ができる財産はない、あるいはそれに等しい状況にあることは明らかであるから、物納財産変更要求を行わなかったことをもって本件却下処分が違法となるものではない。
 したがって、本件却下処分は適法であり、不当性も認められない。
ロ 請求人の主張について
 請求人は、原処分庁の求める必要書類はすべて提出しているから、本件却下処分は、その全部が取り消されるべきである旨を主張する。
 しかしながら、請求人が提出した必要書類は、別表1の「提出書類」欄の「○」印部分にすぎず、本件物納申請財産が管理又は処分をするのに適当な財産であると判断するに足りるものではなく、また、他の書類も提出がないか又は補完等を要するものにすぎないことから、請求人の主張は採用することができない。

トップに戻る

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙 関係法令

(1)相続税法第41条《物納》

イ 第1項
 税務署長は、納税義務者について第33条又は国税通則法第35条第2項《申告納税方式による国税等の納付》の規定により納付すべき相続税額を延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合においては、納税義務者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として、物納を許可することができる。
ロ 第2項
 前項の規定による物納に充てることができる財産は、納税義務者の課税価格計算の基礎となった財産(当該財産により取得した財産を含み、第21条の9第3項の規定の適用を受ける財産を除く。)でこの法律の施行地にあるもののうち次に掲げるものとする。
(イ)不動産及び船舶(第2号)
(ロ)第1号、第3号及び第4号は省略

(2)相続税法第42条

イ 第1項
 前条第1項の規定による物納の許可を申請しようとする者は、その物納を求めようとする相続税の納期限又は納付すべき日までに、政令で定めるところにより、金銭で納付することを困難とする金額及びその困難とする事由、物納を求めようとする税額、物納に充てようとする財産の種類及び価額その他必要な事項を記載した申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
ロ 第2項
 税務署長は、前項の規定による申請書の提出があった場合においては、当該申請者及び当該申請に係る事項について前条の規定に該当するか否かを調査し、その調査に基づき、当該申請に係る税額の全部又は一部について当該申請を許可し、又は当該申請を却下する。ただし、当該申請に係る物納財産が管理又は処分をするのに不適当であると認める場合においては、その変更を求め、当該申請者が第4項の規定による申請書を提出するのをまって当該申請の許可又は却下をすることができる。

(3)相続税法施行令(平成18年政令第126号による改正前のもの。以下同じ。)第16条《物納申請書の提出》第1項

 相続法第42条第1項の規定による申請書の提出は、必要な事項として財務省令で定める事項を記載してしなければならない。

(4)相続税法施行規則(平成18年財務省令第20号による改正前のもの。以下同じ。)第21条《物納申請書の記載事項》第1項

 相続税法施行令第16条第1項に規定する財務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
イ 相続税法施行規則第13条《相続税の申告書の記載事項》第1項第3号、第4号及び第10号に掲げる事項(第1号)
ロ 納付すべき相続税額(第2号)
ハ 物納に充てようとする財産の数量及び所在場所の明細(第3号)
ニ 相続税法第41条第2項第3号又は第4号に掲げる財産を物納に充てようとする場合には、同条第4項に規定する事由その他当該財産を物納に充てようとする特別の事由(第4号)
ホ 物納に充てようとする財産が当該財産の取得の時から申請書の提出の時までにその状況に著しい変化を生じたものである場合には、その変化の状況の詳細(第5号)

トップに戻る