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(平18.4.19裁決、裁決事例集No.71 755頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税を徴収するため行われた債権差押えに係る差押債権受入金の配当処分及び充当処分について、請求人が、滞納国税は存在しないなどと主張し、上記各処分の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 申告及び更正処分等
(イ)請求人は、A税務署長に対し、B(平成9年7月○日死亡)の相続開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、課税価格○○○○円、納付すべき税額○○○○円と記載した相続税の申告書(以下「本件相続税申告書」という。)及び○○○○円について延納を求める旨の申請書(以下「本件延納申請書」といい、当該申請を「本件延納申請」という。)を法定申告期限までに提出し、○○○○円を法定納期限までに納付した。
(ロ)A税務署長は、Bの納税地を管轄するC税務署長に本件相続税申告書及び本件延納申請書を送付し、平成10年11月10日付で、請求人に対し、その旨を通知した。
(ハ)C税務署長は、平成10年11月18日、請求人に対し、延納申請が許可又は却下されるまでの間、本件相続税のうち本件延納申請に係る部分の相続税○○○○円の徴収を猶予する旨通知した。
(ニ)C税務署長は、平成11年2月23日付で、請求人に対し、延納申請を却下する処分(以下「本件延納却下処分」という。)をし、同年4月5日付で、本件相続税のうち未納付の○○○○円及びこれに係る延滞税額について、督促処分を行った。
(ホ)C税務署長は、平成12年10月10日付で、請求人に対し、本件相続税について、課税価格○○○○円、納付すべき税額○○○○円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)を行った。
ロ 滞納処分、配当処分及び充当処分等
(イ)原処分庁は、平成11年4月16日、C税務署長から、本件相続税のうち未納付の○○○○円及びこれに係る延滞税額について、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定による徴収の引継ぎを受けた。
(ロ)原処分庁は、平成16年7月20日付で、請求人に対し、本件延納却下処分をするまでの徴収の猶予期間に係る延滞税○○○○円を免除する旨の通知をした。
(ハ)原処分庁は、平成17年3月29日、請求人の金融機関に対する預金債権○○○○円及びこれに係る債権差押通知書到達日までの利息債権(以下、併せて「本件差押債権」という。)を滞納処分として差し押え、同年4月21日、当該金融機関から、本件差押債権○○○○円の給付を受けた(以下、この金員を「本件換価代金等」という。)。
(ニ)原処分庁は、平成17年4月27日、本件換価代金等を滞納となっていた本件相続税の延滞税(以下「本件延滞税」という。)に配当し、充当した(以下、これらの処分を順次「本件配当処分」、「本件充当処分」という。)。
(ホ)請求人は、上記(ニ)の各処分を不服として、平成17年4月30日に審査請求をした。

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(3)関係法令

イ 通則法第28条《更正又は決定の手続》第2項第3号イは、更正前の納付すべき税額がその更正により増加するときは、その増加する部分の税額、同号ロは、更正前の還付金の額に相当する税額がその更正により減少するときは、その減少する部分の税額、同号ハは、純損失の繰戻し等による還付加算金があるときは、その還付加算金のうち、同号ロに対応する部分の金額、同号ニは、更正前の納付すべき税額がその更正により減少するときは、その減少する部分の税額を更正通知書に記載しなければならない旨それぞれ規定している。
ロ 通則法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項第2号は、更正通知書に記載された同法第28条第2項第3号イからハまでに掲げる金額に相当する国税の納税者は、更正通知書が発せられた日の翌日から起算して1月を経過する日までにその国税を国に納付しなければならない旨規定している。

(4)基礎事実(当事者間に争いがなく、当審判所の調査によっても認められる事実)

イ 本件相続税の法定申告期限及び法定納期限は、平成10年5月○日である。
ロ 原処分庁は、平成17年4月27日、請求人に対し、本件換価代金等に係る配当計算書(以下「本件配当計算書」という。)の謄本を交付のため発送したが、その際、同謄本に、本件換価代金等の交付期日を同年5月2日午前11時と附記して告知した。
ハ 本件差押債権について、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第129条《配当の原則》第1項第3号に掲げる債権を有する者で同法131条《配当計算書》第1号に掲げる者に該当するもの(以下「利害関係人」という。)はいなかった。
ニ 請求人は、平成12年2月17日までに、別表1記載のとおり、本件相続税として、○○○○円を納付し、未納付の本税額は、○○○○円となった。
ホ 本件更正処分の結果、本件相続税のうち、延滞税の基礎となる納付すべき本税額(以下「本件本税額」という。)は、別表2記載のとおり、○○○○円(10,000円未満切捨て)となり、未納付の本件本税額は、別表1記載のとおり、○○○○円となった。
ヘ 請求人は、平成12年11月28日、原処分庁に対し、未納付の本件本税額○○○○円を納付した。
ト 原処分庁は、平成17年4月27日までに、本件延滞税について、別表3記載のとおり、収納、充当又は免除をし、その合計額は、○○○○円(以下「本件収納等済額」という。)である。

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2 争点

(1)原処分庁が、本件換価代金等の交付期間を短縮したことの適否
(2)本件延滞税は、本件配当処分時(平成17年4月27日)に存在したか否か

3 争点に対する当事者の主張

(1)争点(1)について

イ 請求人
 徴収法第132条《換価代金等の交付期日》第2項は、滞納国税を強行に徴収するため、不服申立ての権利を奪うほど異常に早く行うことができる旨を規定しており、日本国憲法(以下「憲法」という。)第11条《基本的人権の享有》に違反する。
 したがって、同条項に基づいてされた本件配当処分は違法である。
ロ 原処分庁
 本件配当処分は、本件差押債権についての利害関係人がいなかったため、徴収法第132条第2項の規定に従い、期間を短縮して行ったものであるから適法である。

(2)争点(2)について

イ 原処分庁
(イ)本件延滞税は、請求人が本件本税額○○○○円を法定納期限(平成10年5月○日)までに完納しなかったことにより確定する。
 そこで、通則法60条《延滞税》第2項の規定を適用して、本件延滞税の額を計算すると、別表4記載のとおり、○○○○円となり、この額は、本件収納等済額を上回っている。
 したがって、本件延滞税は、本件配当処分時(平成17年4月27日)に存在した。
(ロ)なお、請求人は、本件延滞税の額を通則法第61条《延滞税の額の計算の基礎となる期間の特例》第1項を適用して計算しているが、同条項は、納付すべき税額を増額させる更正処分の場合に適用される規定であり、納付すべき税額を減額する更正処分(以下「減額更正処分」という。)には適用されないところ、本件更正処分は、減額更正処分であるから、本件延滞税の額の計算に当たって、同条項の適用はない。
ロ 請求人
 本件延滞税は、本件更正処分が行われた日に確定する。
 そこで、通則法第60条第2項及び第61条第1項の規定を適用して、本件延滞税の額を計算すると、別表5記載のとおり、○○○○円となり、この額は、本件収納等済額を下回っている。
 したがって、本件延滞税は、本件配当処分時(平成17年4月27日)には存在しない。

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4 判断

(1)争点(1)(原処分庁が、本件換価代金等の交付期間を短縮したことの適否)について

イ 請求人は、徴収法第132条第2項が憲法第11条に違反する旨主張するが、当審判所は、原処分庁が行った処分が違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であって、その処分の基となった法令自体の適否を判断することはその権限に属さないことであるから、審理の限りではない。
ロ なお、徴収法第132条第2項は、換価代金等の交付期日は、配当計算書の謄本を交付のため発送した日から起算して7日を経過した日としなければならないが、利害関係人がない場合には、その期間は、短縮することができる旨規定している。
 この趣旨は、配当計算書の謄本の交付を受けた滞納者等は、換価代金等の配当に関する異議がある場合は、換価代金等の交付期日までに申し出なければならないことから(徴収法第171条《滞納処分に関する不服申立て等の期限の特例》第1項第4号)、異議申出に必要な事項を調査するために要すると思われる期間を定めることで、利害関係人の保護を図るとともに、利害関係人が配当を受けない場合には、そうした保護の要請が働かないことから迅速な換価代金等の交付を可能とするために、上記期間を短縮することができることとしたものと解される。
 本件では、前記1の(4)のロ及びハのとおり、原処分庁が本件配当計算書の謄本を請求人に発送した日は、平成17年4月27日であり、これから起算して7日を経過した日は、同年5月4日であるところ、本件配当計算書の謄本には、本件換価代金等の交付期日を同年5月2日午前11時と附記されているから、徴収法第132条第2項の規定による換価代金等の交付期日を2日短縮したこととなるが、本件差押債権については、利害関係人がいなかったのであるから、本件配当処分は、徴収法第132条第2項ただし書の規定に従ってされたものであり、手続上違法な点はない。

(2)争点(2)(本件延滞税は、本件配当処分時(平成17年4月27日)に存在したか否か)について

イ 申告納税方式による国税についての納付すべき税額は、納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則とし、申告に係る税額が税務署長の調査したところと異なる場合に限り、税務署長の処分により確定する(通則法第16条《国税についての納付すべき税額の確定の方式》第1項第1号)。
 そして、延滞税は、〔1〕期限内申告書を提出した場合は当該申告書の提出により納付すべき国税をその法定納期限までに完納しないとき及び〔2〕更正処分を受けた場合はその更正処分により新たに納付すべきこととなった税額があるときに、法律上当然に納税義務が成立し(通則法第60条《延滞税》第1項)、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものであり(同法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項第6号)、国税に関する法律に基づく処分によって確定するものではない。
 また、更正処分は、更正処分により減少した税額に係る部分以外の部分の国税の納税義務に影響を及ぼさないことから(通則法第29条《更正等の効力》第2項)、減額更正処分は、更正処分により減少した部分の税額についてのみ、その効力を生ずる。
 なお、通則法第60条第1項及び同法第61条第1項に規定する更正による納付すべき国税には、同法第35条第2項第2号において、同法第28条第2項第3号のイからハまでに掲げる金額とされており、同号ニに規定されている減額更正処分は含まれていない。
ロ 以上の各規定を前提に、本件を検討すると次のとおりとなる。
(イ)本件更正処分は、減額更正処分であり(前記1の(2)のイの(イ)及び(ホ))、その効力は、更正処分により減少した部分の税額についてのみ生じ、それ以外の部分の税額については影響を及ぼさないから、本件本税額は、本件相続税申告書が提出された平成10年5月○日(前記1の(2)のイの(イ)及び(4)のイ)に確定することとなり、本件延滞税の納付義務も同日から生じている。
(ロ)そこで、平成10年5月○日(本件相続税の法定納期限の翌日)から平成12年11月28日(本件本税額が完納された日)までの日数に応じて、本件延滞税の額を計算すると、別表6の「〔4〕延滞税の額」欄の「合計」欄記載のとおり、○○○○円となり、請求人が平成17年4月27日までに納付等した本件延滞税の額の合計は、○○○○円であるから、本件配当処分時(平成17年4月27日)には、○○○○円の本件延滞税が存在したこととなる。
(ハ)したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3)本件配当処分及び本件充当処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められないから、本件配当処分及び本件充当処分は、いずれも適法である。

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