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(平18.10.27、裁決事例集No.72 33頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、自動車販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告書を法定申告期限までに提出しなかったとして、原処分庁が行った無申告加算税の賦課決定処分に対し、請求人が、法定申告期限までに当該申告書の提出がなかったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとして、原処分の違法を理由にその全部の取消しを求めた事案であり、争点は、法定申告期限までに消費税等の申告書の提出がなかったことについて、正当な理由があるか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、A株式会社(以下「A社」という。)にB税務署あての平成16年11月1日から平成17年10月31日までの課税期間の納付すべき消費税等の税額を○○○○円と記載した消費税等の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を封入した荷物(以下「本件宅配物」という。)の配達を依頼した。
 なお、本件宅配物の配達は、民間事業者による信書の送達に関する法律第2条《定義》第2項に規定する信書便によるものではない。
ロ 原処分庁は、本件確定申告書が法定申告期限である平成18年1月4日の翌日の同月5日に到達したことから、期限後申告書の提出があったとして、同月27日付で消費税等の無申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分を行った。
ハ 請求人は、この処分を不服として、平成18年2月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月27日付で棄却の異議決定を行った。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成18年5月24日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 通則法第66条第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、当該申告書の提出によりその納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課するが、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない旨規定している。
 また、通則法第66条第3項は、期限後申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないときは、同条第1項の無申告加算税の額は、当該納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。

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2 主張

請求人 原処分庁
 法定申告期限までに本件確定申告書の提出がなかったことについて、次のとおり、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由がある。
(1) 請求人は、年末は繁忙期であるから、時間的余裕をみて法定申告期限の8日前である平成17年12月27日に本件確定申告書をA社の宅配便を利用して発送している。
(2) 請求人は、配達日を指定する配達日指定シール(以下「配達日指定シール」という。)を持ち合わせておらず、そのため、同時に発送した地方税の申告書が封入されていた封筒には同シールは貼られることなく、同申告書は期限内に到達している。1月5日を配達指定日とする配達日指定シールが、なぜ本件宅配物にのみ貼付されていたか判然としないが、このシールはA社が貼付したもので、同社が行ったこのような行為は、請求人の想定外の行為であるから、納税者の責めに帰せられない外的事情に該当する。
(3) 請求人は、創業以来20年間、納税申告書の提出及びこれに係る納付を期限後にしたことはなく、本件確定申告書に係る納付も法定納期限までに済ませており、法定申告期限までに本件確定申告書を提出する意思があった。
 法定申告期限までに本件確定申告書の提出がなかったことについて、次のとおり、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由はない。
(1) 通則法第66条第1項ただし書の正当な理由とは、納税者の責めに帰せられない外的事情で期限内に申告書の提出を不可能にする場合をいう。
(2) 本件宅配物の荷札には、「指定日配達サービス1月/5日」と記載されたシールが貼付されているところ、仮に、請求人が主張するとおり、請求人の関知しない何らかの事情により本件宅配物の配達日が平成18年1月5日と指定されたとしても、また、平成17年12月27日に発送手続を済ませていたとしても、これらのことは上記(1)にいう、正当な理由には該当しない。

3 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる(なお、認定に用いた資料は、文末括弧内に記載したものである。)。
イ P市Q町所在の請求人のC支店は業務上、書類の発送等が多いため、同支店を担当するA社の担当者は、毎日17時から18時の間に同支店の事務所に定期的に立ち寄り、カウンターに置いてある荷物を集荷している(請求人の総務部長Dの答述)。
ロ Dは、A社に請求人のC支店からB税務署を届け先とする本件宅配物の配達を依頼するため、平成17年12月27日の18時前にこれを請求人のC支店の事務所内にあるカウンターに置き、A社の担当者は、同日18時ころにこれを回収した(上記イのDの答述)。
ハ 請求人の事務員等は、本件宅配物の回収時にA社の担当者に対し、本件宅配物の配達日の指定など配達日に関する指示を行っておらず、また、これがいつごろ配達されるのかを確認していない(請求人の代表取締役E、同従業員F及びGの答述)。
ニ A社H店の担当者は、平成17年12月27日に本件宅配物を請求人のC支店から貴重品扱いで預かり、A社J店に陸送した。その後、同店の担当者は、平成17年12月29日に本件宅配物をB税務署へ配達したが、同署が閉庁であったためこれを持ち帰り、平成18年1月5日に同署に配達した。
 なお、本件宅配物に配達日指定シールが貼付された経緯は必ずしも明らかではないが、A社では、社内調査の結果、平成17年12月29日に配達のために一旦持ち出されている経緯からすると、B税務署へ配達を試みた同社の担当者が同日に当該シールを貼付した可能性が極めて高いとの結論を出した(同社営業本部営業部の営業課長Kの答述)。

(2) 法令解釈

 無申告加算税は、申告納税方式を採用する国税において、納税者が自己の判断と責任においてすべき確定申告が納税義務を確定させる重要な意義を有することから、期限内申告書が提出されなかった場合に、適法にこれを提出した者とこれを怠った者との間に生じる不公平を是正することにより、申告納税制度の信用を維持し、もって適正な期限内申告の実現を図ることを目的とするものと解される。
 このような無申告加算税の目的からすれば、通則法第66条第1項の期限内申告書の提出がなかったことについて「正当な理由があると認められる場合」とは、無申告加算税を課すことが不当又は酷と認められる特別な事情がある場合をいうものと解するのが相当である。

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(3) 判断

イ 上記(1)の認定事実によれば、なるほど請求人が本件宅配物の配達を依頼した平成17年12月27日は、法定申告期限の8日前であるものの、年末年始の時期であるから、宅配便については、交通事情や予期されない集配量の増加等の要因により通常期よりも配達期間を要するなど、集配業務の遅れや混乱といった不測の事態が生ずる可能性があるが、こうした事情は、いずれも利用者にとって相当程度知られていることである。
 しかも、税務署等の官公庁が12月29日から翌年1月3日までの間閉庁となるため、受取者の押印又はサインが得られなければ持ち帰ることになっている宅配便については、この間、税務署に配達しようとしても、受領されることがないため、結局宅配便による提出物は収受されないことになる。
 それにもかかわらず、請求人は、本件確定申告書の重要性及びこれが法定申告期限である平成18年1月4日までに必着すべきものであることを十分認識しながら、本件宅配物の配達をA社の担当者に依頼する際に、特に配達日の指定や配達予定日の確認といった、自ら容易にすることができる注意や配慮をせず、漫然とこれを配達依頼し、本件宅配物が請求人の予期に反し、同月5日に配達されたものであるから、法定申告期限までに本件確定申告書の提出がなかったことにつき、上記特別の事情があったとは認められず、したがって、「正当な理由があると認められる場合」には該当しないというべきである。
ロ 請求人は、本件宅配物に配達日指定シールが貼付されたことは、請求人にとっては全く想定外のことである上、請求人は創業以来20年間、納税申告書の提出及びこれに係る納付を期限後にしたことはなく、本件確定申告書に係る納付も法定納期限までに済ませているから、本件について正当な理由がある旨主張する。
 しかしながら、仮に本件宅配物に配達日指定シールが貼付された経緯が上記(1)のニのとおりであったとしても、それは、請求人が配達日の指定や配達予定日の確認等を容易に行えるにもかかわらず、本件宅配物が確実に配達される手立てをとらなかったことによるものである。
 また、請求人の主張するその他の事情もまた、仮にそのような事実が認められるとしても、いずれも通則法第66条第1項の期限内申告書の提出がなかったことを正当化するものではない。
 したがって、請求人の上記主張は採用できない。
ハ 以上のとおり、本件は、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当せず、上記争点について原処分に違法はない。

(4) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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