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(平18.11.27、裁決事例集No.72 265頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、中小企業等協同組合法(以下「組合法」という。)に基づく事業協同組合である審査請求人(以下「請求人」という。)の、組合員の死亡脱退に係る脱退組合員持分払戻金について、原処分庁が、当該払戻金のうち死亡脱退した組合員の出資金の額を超える部分の金額は、所得税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)第25条《配当等の額とみなす金額》第1項第6号に規定する配当等の額とみなす金額(以下「みなし配当」という。)に該当するとして、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をしたのに対して、請求人が、当該払戻金は所得税を課税せずに相続税のみを課税する相続財産として取り扱われるべきであるとして、その処分の全部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人の組合員であるD及びE(以下、DとEを併せて「本件各組合員」という。)の死亡脱退に係る脱退組合員持分払戻金○○○○円(以下「本件払戻金」という。)のうち、本件各組合員の出資金の合計額8,700,000円を超える部分の金額○○○○円(以下「本件金額」という。)がみなし配当に該当するとして、平成17年12月26日付で、次表のとおり、配当所得に係る源泉所得税の各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)及び不納付加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。

(単位:円)
納期等の区分 源泉所得税 不納付加算税
所得の種類 年月分
配当 平成13年3月分 ○○○○ ○○○○
配当 平成15年7月分 ○○○○ ○○○○
配当 平成15年12月分 ○○○○ ○○○○

ロ 請求人は、原処分を不服として、平成18年1月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月21日付で棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成18年5月10日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和○年○月に設立された、組合法に定める事業協同組合である。
ロ 請求人の定款には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 死亡した組合員の相続人で組合員たる資格を有する者の1人が相続開始後30日以内に加入の申出をしたときは、相続開始のときに組合員になったものとみなす(第11条《相続加入》)。
(ロ) 組合員が脱退したときは、当該事業年度末の決算貸借対照表における出資金、法定利益準備金、資本準備金、特別積立金、繰越損益金及び当期利益剰余金のうち本組合に留保した金額の合計額から、当期損失金を減額した金額につき、その出資口数に応じて算定した金額を限度として払い戻すものとする(第14条)。
ハ Dは平成12年3月○日、Eは平成14年12月○日に、それぞれ死亡しており、組合法第19条の規定によりそれぞれの死亡日において請求人を脱退している。
ニ 本件払戻金は、いずれも本件各組合員の死亡した日を含む、請求人の各事業年度末日における正味財産額を基にして算定されており、その内訳は次表のとおりである。
 また、本件金額については、平成15年5月○日開催の請求人の第○回通常総会において、「平成14年度剰余金処分案」の中の「脱退組合員持分払戻し」として承認決議されている。

(単位:円)
  D分 E分 合計
本件払戻金 ○○○○ ○○○○ ○○○○
うち出資金額 4,700,000 4,000,000 8,700,000
差引金額(本件金額) ○○○○ ○○○○ ○○○○

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2 主張

 請求人及び原処分庁の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

 本件は、本件金額が、本件各組合員に対するみなし配当に該当するとして所得税が課されるものか否かについて争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件払戻金の支払状況及び支払予定は、次のとおりである。
(イ) D分

A 平成15年3月31日○○○○円
B 平成16年3月31日○○○○円
C 平成17年3月31日○○○○円

(ロ) E分

A 平成15年7月31日○○○○円
B 平成18年3月28日○○○○円
C 平成19年3月31日(予定)○○○○円

ロ 請求人の代理人であるF公認会計士(以下「請求人代理人」という。)は、当審判所に対して、Dの出資持分払戻金が、平成15年5月の請求人の通常総会まで金額が確定しなかったのは、当時請求人に関与していた会計事務所が機能しておらず、請求人において計算することができなかったためであり、請求人代理人が請求人に関与するようになってから、請求人代理人が計算し金額が確定したものである旨の答述をしている。

(2) 本件払戻金及び本件金額について

イ 所得税法第25条第1項第6号は、法人の株主等が、当該法人からの退社又は脱退により出資持分の払戻しにより金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本等の金額のうちその交付の基因となった株式(出資を含む。)に対応する部分の金額を超える部分の金額は、利益の配当又は剰余金の分配の額とみなす旨規定しているところ、当該規定の趣旨は、法人が退社した株主等に対してその出資持分を払い戻すことは、形式的には法人の利益の配当には当たらないものの、実質的には当該株主等が入社してから退社するまでの間に社内に蓄積された利益積立金が出資持分の払戻しという形ではあるが社外に流出するものであり、利益の配当に当たるということができることから、法人が退社した株主等に出資持分を払い戻した場合に、この株主等が受ける経済的利益を配当とみなして課税することとしたものと解される。
ロ これを本件についてみると、次の事実から、本件払戻金は、組合法第20条第1項の規定により、本件各組合員が死亡によって請求人を脱退し、本件各組合員の出資持分の払戻金として支払われたものと認められることから、所得税法第25条第1項第6号に規定する「法人の株主等が、当該法人からの脱退により出資持分の払戻しとして交付される金銭」に該当し、本件金額はみなし配当に当たると認めるのが相当である。
 なお、本件は、組合法第19条第1項第2号に規定する死亡による脱退であるが、死亡による脱退であっても社内に蓄積された利益積立金が払戻しにより社外に流出するという点では同じであり、組合法第20条第1項も、組合員は同法第19条の規定により死亡脱退したときは、その持分の全部又は一部の払戻しを請求することができる旨規定し、所得税法第25条第1項第6号には、法人からの脱退について死亡による脱退を除く旨の規定はない。
(イ) 上記1の(4)のハのとおり、本件各組合員は、組合法の規定に基づき死亡により組合を脱退した。
(ロ) 上記1の(4)のロのとおり、請求人の定款においては、死亡した組合員の相続人は、相続開始後30日以内に加入の申出をしたときは、相続開始のときに組合員になったものとみなす旨定めているのみで、死亡した組合員の持分を当然に引き継ぐ定めとはなっていない。
(ハ) 上記1の(4)のニのとおり、本件払戻金が、本件各組合員の死亡した日を含む請求人の事業年度の末日における正味財産額を基に計算され、請求人の通常総会において脱退組合員持分払戻しとして承認されている。
(ニ) 上記(1)のイのとおり、請求人は本件各組合員に対して本件払戻金として金銭の交付をしている(又はする予定である)。
ハ また、請求人の定款には、上記1の(4)のロの(ロ)のとおり、組合員が脱退したときには、組合の財産についてその出資口数に応じて算定した金額を限度として払い戻すものとする旨を定めていることから、本件各組合員の死亡(脱退)時において、本件各組合員は組合を脱退し、本件各組合員が出資持分に係る払戻しを受けることが確定するため、その時点において本件払戻請求権が発生したと解するのが相当であるから、本件払戻金は出資者である本件各組合員に帰属すると認めるのが相当である。
ニ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、本件払戻金及び本件金額について次のとおり主張する。
A 相続税法及び所得税法においては、死亡後に支払われる財産について、相続税と所得税との二重課税を避け、税法体系に理論性を与えるという趣旨から、死亡後3年以内に支払われる死亡退職金及び死亡後に確定する賞与並びに死亡後に支給期が到来する給与等(以下「死亡退職金等」という。)については所得税を課税せず相続税のみを課税するとしているところ、本件払戻金は死亡後に確定し支払われる財産であるという意味において死亡退職金等と同列の財産であるにもかかわらず、本件金額に所得税を課し、さらに本件払戻金に相続税を課すことは、税法体系の上から理論性に欠ける取扱いであるので、本件払戻金は、みなし相続財産ないし本来の相続財産として相続税のみを課税すべきである。
B 本件払戻金は死亡退職金等と同列の財産であるのに、死亡組合員の持分払戻金のみ、相続税の通達上にその明文の規定がないとの理由により相続税と所得税の二重課税を受けることは、税法理論の上から矛盾する取扱いである。
(ロ) 確かに、別紙1の6のとおり、所得税法第9条第1項第15号においては、1相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの、2相続税法の規定により、相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものには所得税を課さない旨規定しており、別紙1の4のとおり、死亡後3年以内に支払われる死亡退職金は上記2に該当する。
 また、死亡後に確定する賞与及び死亡後に支給期が到来する給与等については、一般的には、賃金債権は遺族等が相続によって承継的に取得するといわれていることから、その死亡した者の遺族等が、その賞与及び給与等の支払を受けたときは、その賞与及び給与等は本来の相続財産を構成すると解されており、相続税法の実務上の取扱いを定めた相続税法基本通達においても別紙1の5のとおり、本来の相続財産に属する旨を明らかにしているものと解される。
 したがって、本来は、死亡後に確定する賞与及び死亡後に支給期が到来する給与等については、死亡した者に対する給与として所得税が課税された上、更に相続税の課税価格に算入されるのであるが、退職手当金等のみなし相続財産については所得税を課税しないで相続税のみを課税することとしていることを考慮して、別紙1の7のとおり、所得税基本通達において特に取扱いを定めて所得税を課税しないこととしているものと解される。
(ハ) これを本件についてみると、上記ロ及びハのとおり、本件金額は、本件各組合員に対するみなし配当であり、本件払戻金は、本件各組合員に帰属すると認められることから、本来はみなし配当として本件各組合員に支払われるべきものであるが、本件各組合員の死亡によって本件払戻請求権が一旦本件各組合員に帰属し、その後遺産として本件各組合員の相続人に承継されたことにより、本件払戻金が当該相続人に支払われたものである。そして、本件各納税告知処分も、本件金額が本件各組合員に対するみなし配当としてされたものであるから、相続人の相続税と本件各組合員の所得税が二重課税になるということはない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することはできない。
(ニ) また、本件払戻金は、相続税法第3条第1項各号に規定する相続又は遺贈により取得したものとみなす財産のいずれにも該当しない。さらに、本件払戻金は、上記ハのとおり、本件各組合員の死亡(脱退)時において、本件各組合員が出資持分に係る払戻しを受けることが確定し、その時点において本件払戻請求権が発生したと認めるのが相当であり、この点において、出資持分割合に応じて払戻しを受ける本件払戻金と賞与、給与及び死亡退職金等とはその性質が異なっていることから、所得税の課税上の取扱いにおいて、本件払戻金と死亡退職金等が同列の財産であるということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張も採用することができない。

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(3) 本件各納税告知処分について

イ みなし配当の収入すべき時期及びその額
(イ) 上記(2)のロのとおり、本件金額はみなし配当に該当すると認められるところ、みなし配当の収入すべき時期については、別紙1の1のとおり、所得税基本通達36−4の(3)のハは、社員の退社に係る配当等とみなす金額の収入すべき時期について退社の事実があった日と定めており、退社する社員は、同日において法人から退社による持分の払戻金の額を受領する権利を確定的に取得したものと解されるから、当該通達の取扱いは当審判所においても相当と認められる。
(ロ) これを本件についてみると、別紙1の3のとおり、組合法は、事業協同組合の組合員は死亡により組合を脱退する旨規定しているところ、上記1の(4)のハのとおり、Dは平成12年3月○日に、Eは平成14年12月○日にそれぞれ死亡しているから、両名はそれぞれ同日において請求人を脱退したものと認められる。したがって、Dのみなし配当の収入すべき時期は平成12年3月○日、Eのみなし配当の収入すべき時期は平成14年12月○日と認めるのが相当である。
(ハ) また、本件各組合員の本件払戻金の金額及びその内訳は、上記1の(4)のニの表のとおりであり、本件払戻金のうち出資金額を超える部分がみなし配当となるから、Dについては○○○○円、Eについては○○○○円がみなし配当の額となる。
ロ 源泉徴収義務の成立時期
(イ) 別紙1の2のとおり、所得税法上、配当等の支払をする者は、その支払の際にその配当等について所得税を徴収する義務があり、みなし支払日までにその支払がされない場合には、みなし支払日においてその支払があったものとみなされる。
(ロ) これを本件についてみると、本件各組合員のみなし配当の支払の確定する日は、上記イの(ロ)のとおり、Dについては平成12年3月○日、Eについては平成14年12月○日である。また、本件各組合員に対する本件払戻金の支払状況は、上記(1)のイのとおりであり、Dについては、みなし支払日である平成13年3月○日までに支払がされていないので、同日に支払があったものとみなされ、みなし配当の額○○○○円全額について同日に源泉徴収義務が成立する。
 Eについては、平成15年7月31日に本件払戻金の一部として○○○○円(みなし配当の額は別表1の(注)1のとおり○○○○円)が支払われているので、同日に源泉徴収義務が成立し、残額の○○○○円(みなし配当の額は別表1の(注)2のとおり○○○○円)は、みなし支払日である平成15年12月○日までに支払われていないので、同日に支払があったものとみなされ、同日に源泉徴収義務が成立する。
(ハ) この点について、請求人は、通常の場合、死亡後1年を経過した時点では決算承認を行う通常総会は終了しないことから持分払戻金の額も決定せず、源泉所得税が計算できないから実務的に対応できる論理ではない旨主張する。
(ニ) しかしながら、別紙1の3の組合法の規定及び上記1の(4)のロの(ロ)の請求人の定款の定めにおいて、出資持分払戻金の額は脱退した事業年度末の組合財産により計算することとされている。
 そうすると、Dが脱退した日を含む請求人の事業年度の末日は平成12年3月31日であり、Eが脱退した日を含む事業年度の末日は平成15年3月31日であるところ、本件払戻金については、上記1の(4)のニのとおり、平成15年5月○日開催の請求人の第○回通常総会において承認決議されているが、Dについてこの時点まで金額が確定しなかったのは、上記(1)のロのとおり、請求人において計算することができなかったという請求人の都合によるものであり、Eについては死亡(脱退)した日から1年以内に金額が確定していることから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ みなし配当に係る源泉所得税額の計算
 上記イ及びロの本件各組合員のみなし配当の額について、所得税法第182条《徴収税額》の規定により源泉所得税額を計算すると別表1のとおりとなる。
ニ 本件各組合員のみなし配当に係る源泉所得税額の正当額は別表1のとおりであると認められるところ、本件各納税告知処分のうち平成15年7月分の源泉所得税額は正当額より1円少ない金額となっているが、正当額の範囲内であるので、本件各納税告知処分はいずれも適法である。

(4) 本件各賦課決定処分について

 上記(3)のとおり本件各納税告知処分は適法であり、また同処分に係る所得税を法定納期限まで納付しなかったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないので、同項及び通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第3項の規定により不納付加算税の額を計算すると別表2のとおりとなり、これらの金額は本件各賦課決定処分の額と同額となるので、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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