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(平18.11.21、裁決事例集No.72 404頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成14年4月1日から平成15年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の申告に当たり損金の額に算入した本件事業年度前の事業年度において過大に計上していた棚卸資産の額について、原処分庁が本件事業年度の損失の額に当たらないなどとして原処分を行ったのに対し、請求人がその一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人が平成18年6月20日に行った審査請求に至る経緯は、別表のとおりである。

(3) 関係法令(要旨)

イ 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第3項は、法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の売上原価等、販売費、一般管理費その他の費用及び資本等取引以外の取引に係る損失の額とし、同条第4項において、損金の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定している。
ロ 法人税法(平成17年法律第21号による改正前のもの。)第33条《資産の評価損の損金不算入等》第2項は、法人の有する資産につき災害による著しい損傷その他の政令で定める事実が生じたことにより、当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなった場合において、その法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうち、その評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨規定している。

(4) 当事者間に争いがなく、証拠により容易に認定できる事実等(以下「争いのない事実等」という。)

イ 鍛造業を営む法人である請求人は、本件事業年度前の事業年度において、過大に計上していた棚卸資産の額○○○○円(以下「過年度棚卸粉飾額」という。)を平成15年3月31日に過年度棚卸資産廃棄損(以下「過年度棚卸資産廃棄損の額」という。)と経理処理し、本件事業年度の損益計算書の特別損益の部に計上するとともに損金の額に算入した。
ロ なお、請求人の行った過年度棚卸粉飾額の計上は、資金繰りの悪化を原因とした請求人の前代表取締役の指示によるものであり、過年度棚卸粉飾額は平成元年ころからその額が増加していた。

(5) 争点

 過年度棚卸資産廃棄損の額を本件事業年度の損金の額に算入できるか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁の主張

 請求人が過年度棚卸粉飾額を修正経理した過年度棚卸資産廃棄損の額は、本件事業年度の損金の額に算入できない。
 なお、過年度棚卸粉飾額は、棚卸資産としては実在しないものであるから、法人税法第33条第2項の「法人の有する資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなった場合」に当たらず、本件に同項の適用はない。

(2) 請求人の主張

 請求人は、平成15年3月31日にA地方裁判所に民事再生法に基づく再生手続開始の申立てを行い、同法に基づく財産価額の評定の準備を始めていたのであるから、法人税法第33条第2項に規定する政令で定める事実である法人税法施行令(平成17年政令第99号による改正前のもの。)第68条《資産の評価損の計上ができる場合》第1号ニの資産の評価損の計上ができる資産の評価換えをする必要が生じた場合に当たり、評価損として計上した過年度棚卸資産廃棄損の額は本件事業年度の損金の額に算入すべきである。

3 判断

(1) 争点について

イ 上記1(3)イのとおり、法人税法第22条第3項は、法人の各事業年度の損金の額に算入すべき金額を、当該事業年度の1売上原価等、2販売費、一般管理費その他の費用及び3資本等取引以外の取引に係る損失の額とする旨規定している。
 そして、同条第4項では損金の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるところ、上記3の資本等取引以外の取引に係る損失の額は発生した事業年度の損金の額に算入すべきものと解される。
ロ これを本件についてみると、上記1(4)の争いのない事実等のとおり、過年度棚卸資産廃棄損の額は、請求人が本件事業年度前の過年度棚卸粉飾額を計上したものにすぎず、その全額が本件事業年度において生じたものでないことは明らかであるから、本件事業年度の資本等取引以外の取引に係る損失の額に当たらない。
 したがって、過年度棚卸資産廃棄損の額を本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
ハ なお、法人税法第33条第2項に規定する「資産の評価換え」は、民事再生法の適用を受ける場合、民事再生法の規定による再生手続開始の決定があったことにより、その資産につき評価換えをする必要が生じたことにより行うものをいうと解されるところ、過年度棚卸資産廃棄損の額は過年度棚卸粉飾額を計上したにすぎず、同項の「資産の評価換え」によるものには当たらないから、同項を適用できる旨の請求人の主張は採用できない。
ニ おって、原処分庁は、国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第2項第1号の納付すべき税額を減少させる更正は法定申告期限から5年を経過した日以降はできない旨の規定により、過年度棚卸粉飾額のうち平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度及び平成13年4月1日から平成14年3月31日までの事業年度の過年度棚卸粉飾額については、更正処分を行っているのであって、平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度以前の過年度棚卸粉飾額については、更正処分をすることはできない。

(2) 結論

 上記(1)のとおり、過年度棚卸資産廃棄損の額は、本件事業年度の損金の額に算入できない。
 そうすると、当審判所の計算によれば、本件事業年度の欠損金額及び所得税額等の還付金額は、いずれも原処分の額と同額となる。
 原処分のその他の部分について請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 以上のとおり、原処分には、これを取り消すべき理由はない。

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