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(平18.11.8、裁決事例集No.72−589頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人A、同B、同C及び同D(以下、4名を併せて「請求人ら」という。)が、Aが相続により取得した出資額限度法人(定款において退社・解散時に払込出資額を限度として払い戻すことを定めた医療法人をいう。以下同じ。)の出資持分の価額について、払込出資額により評価し、申告したところ、原処分庁が財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)194−2の定めに基づき評価して相続税の更正処分等を行ったのに対し、請求人らが同処分等が違法であるとしてその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成18年4月6日)に至る経緯は、別表のとおりである。
 なお、請求人らは、Aを総代として選任し、その旨を平成18年4月6日に届け出た。

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人らは、平成14年1月○日に死亡した○○(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人である。
ロ 本件被相続人は、昭和49年8月の医療法人E会(以下「E会」という。)の設立に際し、200万円を出資し理事に就任した。なお、E会は、出資持分の定めのある社団たる医療法人である。
ハ 本件被相続人は、昭和55年3月23日に自らが所有するE会の出資持分のうち、40万円を次男のAに、30万円を妻のFに、30万円を孫のGに、それぞれ贈与した。
ニ 本件被相続人は、平成11年1月○日のFの相続開始に伴い、E会の出資持分30万円を相続し、同人のE会への出資持分は130万円(以下「本件出資持分」という。)になった。
ホ E会は、平成12年12月12日付でH県知事に対し定款変更認可申請書を提出し、平成13年1月15日付で同県知事から定款変更の認可を受けている(以下、変更後の定款を「本件定款」という。)。
 本件定款は、1第9条において、退社した場合の払戻請求額は払込済出資額を限度とする旨、2第39条において、解散した場合の残余財産の分配は払込済出資額を限度とする旨、3第36条において、第9条及び第39条は変更できない旨、それぞれ定めている。
ヘ Aは、平成14年8月12日の遺産分割協議において本件出資持分を相続したが、E会に対し、払戻請求は行っていない。
ト 請求人らは、本件出資持分の価額は130万円であるとして、本件被相続人の相続開始に係る相続税の申告書を平成14年10月28日に原処分庁へ提出している。

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2 争点

 出資額限度法人の出資持分の価額は、払込出資額により評価すべきか、評価通達194−2に基づき評価すべきか。

3 主張

原処分庁 請求人ら
 本件出資持分の価額は、次の理由により、評価通達194−2の定めに基づき評価すべきである。  本件出資持分の価額は、次の理由により、払込出資額で評価すべきである。
(1) 相続財産の価額は、相続税法第22条の規定に照らし、評価通達によって評価することが著しく不適当と認められる特段の事情がない限り、評価通達に定められた評価方法によって評価することが相当と解されている。
 そして、評価通達194−2は、出資持分の定めのある社団たる医療法人の出資の価額については、取引相場のない株式の評価に準じて評価する旨を定めており、さらに、出資額限度法人の出資持分の価額については、厚生労働省医政局長発遣の「いわゆる『出資額限度法人』について」(平成16年8月13日付医政発第0813001号。以下「本件通知」という。)の第6の別添4の「持分の定めのある医療法人が出資額限度法人に移行した場合等の課税関係について(照会)」(平成16年6月8日付医政発第0608002号。以下「本件照会」という。)の「2.出資額限度法人の出資の評価を行う場合」のとおり、厚生労働省医政局長より国税庁課税部長に照会があり、要旨概ね後記(2)のイ及びロに掲げた理由を示して、通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人と同様、評価通達194−2の定めに基づき評価する旨の回答が示されているところである。
(1) 評価通達194−2に定める医療法人の出資持分の評価方法は、退社及び解散時の出資払戻請求権等の及ぶ範囲に制限がないことを前提とした定めであり、E会のような払戻請求権に制限のある医療法人の出資持分を出資者に帰属することのない医療法人の収益や簿価純資産を基準として計算される類似業種比準価額や純資産価額をもって評価することは著しく不適当である。
(2) これを本件についてみると、本件出資持分の価額は、次の理由から、出資持分の定めのある社団たる医療法人の出資として評価通達194−2の定めに基づき評価することとなり、また、この定めによって評価することが著しく不当と認められる特段の事情も認められない。
イ E会は、前記1の(4)のロのとおり、出資持分の定めのある社団たる医療法人であり、本件出資持分の権利についての制限は将来社員の退社時や医療法人の解散時に生じる出資払戻請求権や残余財産分配請求権について払込限度額の範囲内に限定することであるが、社員の医療法人に対する事実上の権限に影響を及ぼすものとはいえない。
 なお、医療法人は、医療法の規定により剰余金の配当が禁止されているとはいえ、社員が退社時や解散時に出資持分の払戻しを受ける以上、医療法人の社員が有する出資持分に係る経済的実態は、会社等の営利企業に対する出資者の受け得る利益と基本的には同一であるというべきであることから、医療法人に係る出資の評価に当たり、営利企業である会社の株式等と別異のものとみることはできない。
(2) 医療法人は、医療法において営利法人たることを否定されており、商法上の会社と異なり剰余金は出資者ではなく医療法人に帰属する。
 このことは、大審院昭和元年12月27日判決(大正15年(オ)第775号賃貸料請求事件)及び厚生省(現厚生労働省)事務次官が発遣した「医療法の一部を改正する法律の施行に関する件」(昭和25年8月2日付厚生省発医第98号)で明らかである。
 また、医療法人は、議決権は出資額に関係なく社員1名に対して、1個であり、社員は出資者でないことも認められており、配当も禁止されていることなどから営利法人とは異なっている。
 そして、E会は、本件定款において営利法人たることを明確に否定している。
ロ 本件出資持分に基づく出資払戻請求権が定款の定めにより払込出資額に制限されることとなるとしても、出資額限度法人が通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人へ移行(後戻り)することを禁止することが法令上担保されていない。すなわち、法令上、本件定款第36条の変更を禁止する規定はなく、同第9条及び同第39条の規定の変更は、同第36条を変更することにより可能である。
 また、本件通知の第4の2にも、出資額限度法人が通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人へ移行(後戻り)することを禁止する記載はない。
 さらに、他の通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人との合併により、当該医療法人の出資者となることが可能である。
(3) E会は、非営利法人であることを明文化し出資額限度法人となるため、定款を前記1の(4)のホのとおり変更している。
 また、出資額限度法人が通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人へ移行(後戻り)することは、本件通知で事実上禁止されている。
 原処分庁は、法令上、本件定款第36条の変更を禁止する規定はなく、同第9条及び同第39条の変更は、同第36条を変更することにより可能である旨主張するが、1医療法第50条第1項において、定款の変更は都道府県知事の認可事項であること、2同条第2項において、都道府県知事は変更が法令又は定款に違反していないかどうかを審査した上で、その認可を決定しなければならない旨規定している。
 H県○○部○○課の担当者は、そもそも出資額限度法人は、将来の医療法人のあるべき姿である出資持分がなく公益性の高い特定医療法人又は特別医療法人への円滑な移行を促進するための方策として設けられたものであり、本件定款第36条ただし書を変更することは、実質的に第9条及び第39条の変更を認め、後戻りを認めることになるため、このような変更は本件定款に違反し、医療法第50条第2項の規定により変更は認可しないとしている。
 なお、合併については、本件定款第20条の(6)において合併先として「他の同種の医療法人」(出資額限度法人)に限定されており、出資額限度法人は、本件通知においても合併を介して通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人への移行(後戻り)が事実上禁止されていることから、これを直接禁止した法令上の規定は存在しないが、上記定款の変更と同様、医療法第50条第2項の規定により、県知事の認可を受けることはできない。

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4 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 本件通知は、本件照会を受けて発遣されたものであり、本件通知には、出資額限度法人が通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人へ移行(後戻り)することは適当でない旨の記載があるが、禁止する旨の記載はない。
ロ 本件照会は、その文中に「照会に当たっては、平成16年3月31日現在の医療法及び同関係法令を前提としており、出資持分の定めのある社団医療法人において、社員(出資者)の社員資格の喪失や、法人の解散時に、当該法人の財産に対し出資持分の払戻請求権の及ぶ範囲を定款上如何に定めるかについては、当該法人の自治の範囲内であり、移行後の定款を変更することも医療法第4章及び関係法令において特段制限されているものではないことを申し添える。」とあるとおり、出資額限度法人が通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人へ移行(後戻り)することができることを前提に照会されている。
ハ 医療法その他関係法令上、出資額限度法人が通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人へ移行(後戻り)することを禁止する規定は存在しない。
ニ H県○○部○○課の担当者は、当審判所に対し、本件通知に、前記イのとおり、出資額限度法人が通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人へ移行(後戻り)することは適当でない旨の記載があることから、これを目的とする定款の変更等は容認し難いが、医療法その他関係法令上、禁止する規定は存在しない旨答述している。
ホ 厚生労働省○○厚生局○○部○○課の担当者は、当審判所に対し、本件通知に、前記イのとおり、出資額限度法人が通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人へ移行(後戻り)することは適当でない旨の記載があることから、これを目的とする定款の変更等は容認し難いと考えるが、前記ハのとおり、禁止する規定はないので、実際に申請があった場合には、本省に判断を仰ぎ検討することになる旨答述している。

(2) 医療法人の出資の評価について

イ 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しており、この時価とは、当該財産の取得の時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価値をいうものと解されている。
 しかし、相続税の課税対象となる財産は多種多様であることから、国税庁は、財産評価の一般的な基準を評価通達によって定め、各種財産の評価方法に共通する原則や各種の財産の評価単位ごとの評価方法を具体的に規定し、課税の公平、公正の観点から、その取扱いを統一するとともに、これを公開し、納税者の申告、納税の便に供している。このように画一的な評価方法が採られているのは、各種の財産の客観的な交換価値を的確に把握することは必ずしも容易なことではなく、これを個別に評価する方法を採ると、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により評価額に格差が生じるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価方法により画一的に評価する方が、納税者の公平、納税者の便宜という見地からみて、合理的であるという理由に基づくものと解されており、当審判所においても相当と認められる。
 そうすると、評価通達に定められた評価方式が合理的なものである限り、これが形式的にすべての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平をも実現することができるといえるから、これによることが実質的な租税負担の公平を害すると認められるような特段の事情のない限りは、原則として、評価通達に基づく課税処分は適法であるというべきである。
ロ そして、医療法人の出資持分の価額は、評価通達194−2において、取引相場のない株式の評価に準じて評価する旨定められている。
 この評価通達194−2は、医療法が医療法人について営利法人化することを防止する目的の下に剰余金の配当を禁止しているものの、医療法人の行う医療事業の内容や経営形態が、一般の個人開業医と異なったものを要求しているわけではなく、事業により利益を上げ、資産を有するという点において、特に一般の営利法人とその性格を異にするものではないと認められることから、取引相場のない株式の評価に準じて評価することとして定められており、この趣旨からも同通達は合理的と認められ、同通達に定める評価方法によることが著しく不適当と認められる特段の事情がない限り、その評価方法は相当と認められる。

(3) 請求人らの主張について

イ 請求人らは、評価通達194−2に定める医療法人の出資持分の評価方法は、出資額限度法人でないことを前提としたもので、E会のような出資額限度法人の出資持分を出資者に帰属することのない医療法人の収益や簿価純資産を基準として計算される類似業種比準価額等によって評価することは著しく不適当である旨主張する。
 しかしながら、評価通達194−2は、出資額限度法人でないことを前提とした定めではなく、また、同通達が合理的であることについては、前記(2)のロのとおりであり、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ロ 請求人らは、医療法人は非営利法人であり営利法人とは異なる旨主張するが、前記(2)のロのとおり、医療法人は、医療法で剰余金の配当を禁止しているものの、一般の営利法人とその性格を異にするものではなく、医療法人の出資の価額を取引相場のない株式の評価に準じて評価することについて特段の不合理は認められない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ハ 請求人らは、E会は定款を変更し、出資額限度法人となったことから、定款の変更及び合併に伴う通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人への移行(後戻り)は本件通知により事実上禁止されており、県知事の認可を受けることはできない旨主張する。
 しかしながら、前記(1)のイのとおり、本件通知には、出資額限度法人が通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人へ移行(後戻り)することは適当でない旨の記載はあるが、禁止する旨の記載はなく、前記(1)のロのとおり、かえって、本件通知の基となった本件照会によれば、出資額限度法人が通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人へ移行(後戻り)することができることを当然の前提としていると認められ、また、前記(1)のハのとおり、医療法その他関係法令上、これを禁止する規定がないことからすれば、前記(1)のニ又はホの答述をもってしても定款の変更により出資額限度法人が通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人へ移行(後戻り)することが絶対的な拘束力を有して禁止されるものとは認めることができず、医療法第50条でその手続が法令又は定款に違反しない限り定款の変更等も可能であると認められる。
 したがって、出資額限度法人が通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人へ移行(後戻り)することができないことを前提とする請求人らの主張には理由がない。
ニ 以上のとおり、請求人らの主張にはいずれも理由がなく、また、本件出資持分の価額を評価通達194−2に定める評価方法によって評価することが著しく不適当と認められる特段の事情も認められない。

(4) 以上のことから、本件出資持分の価額について評価通達194−2の定めに基づき評価した平成14年1月○日相続開始に係る相続税の更正処分は適法である。

(5) また、過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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