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(平18.12.7、裁決事例集No.72−605頁)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、建物貸付業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が行った消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の還付申告について、原処分庁が、課税売上げの基となった新築アパート完成見学会のための賃貸借契約が架空であるとして更正処分及び重加算税の賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、当該賃貸借契約は存在し、その契約に基づいた賃貸料の授受が行われたと主張して、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 審査請求に至る経緯
審査請求(平成18年2月22日請求)に至る経緯及び内容は、別表のとおりである。
なお、平成17年8月30日付の平成16年1月1日から同年3月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等の更正処分及び重加算税の賦課決定処分を、以下、それぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。
(3) 関係法令等
イ 消費税法第2条《定義》第1項第8号は、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定し、同項第9号は、課税資産の譲渡等とは、資産の譲渡等のうち、同法第6条《非課税》第1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう旨規定している。
ロ 消費税法第6条第1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第1に掲げる資産の譲渡等には、消費税を課さない旨規定し(以下、この規定における資産の譲渡等を「非課税資産の譲渡等」という。)、別表第1の第13号には、人の居住の用に供する住宅の貸付けと規定している。
ハ 消費税法第28条《課税標準》第1項は、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額とする旨規定し、課税資産の譲渡等の対価の額とは、対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とする旨規定している。
ニ 消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第2項は、課税期間における課税売上割合が100分の95に満たない場合、同条第1項の規定により控除する課税仕入れに係る消費税額の計算方法として、いわゆる「個別対応方式」(同条第2項第1号)と「一括比例配分方式」(同項第2号)がある旨規定している。
ホ 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項により過少申告加算税を課する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
(4) 基礎事実
以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成15年12月25日、F社との間で、共同住宅(P市Q町○○番地に所在する建物で、以下「本件建物」という。)を新築することを内容とする工事請負契約を締結した。
ロ 請求人は、平成16年2月8日、G社との間で、本件建物を同年4月1日から使用目的を居住用とし、賃料月額244,800円で賃貸することを内容とする賃貸借契約を締結した。
ハ 請求人は、平成16年3月31日、F社から本件建物の引渡しを受けた。
ニ 請求人は、平成16年3月31日、消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第4項の規定により、同条第1項本文の規定の適用を受けない旨を記載した「消費税課税事業者選択届出書」及び同法第19条《課税期間》第1項第3号の規定により、課税期間を短縮する旨を記載した「消費税課税期間特例選択届出書」を原処分庁に提出した。
(5) 争点
争点1 課税資産の譲渡等の対価の額の存否
争点2 隠ぺい又は仮装行為の有無
2 主張
(1) 争点1 課税資産の譲渡等の対価の額の存否
原処分庁 | 請求人 |
---|---|
以下のとおり、本件建物の完成見学会(以下「本件見学会」という。)のためのF社との賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)が締結された事実はなく、本件見学会も開催されていないから、本件賃貸借契約に基づく賃貸料(以下「本件賃貸料」という。)は課税資産の譲渡等の対価の額として存在しない。 | 以下のとおり、本件賃貸借契約は存在し、その契約に基づいた賃貸料の授受が行われたことは明確であり、本件賃貸料は課税資産の譲渡等の対価の額として存在する。 |
イ 賃貸借期間を平成16年3月29日から同月30日までとし、本件賃貸料を○○○○円とする本件賃貸借契約に関する契約書(以下「本件賃貸借契約書」という。)は、請求人の関与税理士の依頼に基づいて、F社の社員であるHが架空に作成したものである。 ロ 本件見学会が行われたとする平成16年3月29日には本件建物の竣工検査が行われ、翌30日には当該検査に基づく手直し工事が行われている。 |
イ 請求人は、本件建物の引渡しを受けるまでに、本件賃貸借契約を口頭にて締結した。 |
ハ F社又はHから本件賃貸料が支払われた事実はない。 | ロ 請求人は、本件賃貸料として平成16年3月30日に○○○○円を受領するとともに、領収証をHに渡した。 なお、その証拠として領収証の控えを保存しており、受領の事実を元帳にも記載している。 |
(2) 争点2 隠ぺい又は仮装行為の有無
原処分庁 | 請求人 |
---|---|
本件賃貸借契約は存在しなかったにもかかわらず、請求人は、消費税等の還付を受けることを目的としてHに架空の契約書を作成させ、請求人自ら領収証を作成することにより、架空の課税資産の譲渡等の対価の額を作出し、非課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れを、課税資産の譲渡等にのみ要するものに仮装し、消費税額の控除対象税額を記載するなどして確定申告書を提出し、不正に消費税等の還付を受けたものと認められる これらの行為は、隠ぺい又は仮装行為に該当する。 |
本件賃貸借契約は存在しており、請求人に隠ぺい又は仮装行為はない。 |
3 判断
(1) 争点1 課税資産の譲渡等の対価の額の存否
イ 認定事実
原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、平成16年5月31日、本件賃貸料を課税資産の譲渡等の対価の額として計算した金額を課税標準額とし、本件建物の取得価額等に係る消費税額を仕入税額控除の額として、本件課税期間の消費税等の確定申告書を原処分庁に提出した。
なお、当該申告書には、消費税の仕入控除税額の計算方法について「個別対応方式」を採用した旨の記載がある。
(ロ) F社の備付けの帳簿書類並びにH及びその上司であるJ(以下「Hら」という。)の答述等から、以下の事実が認められる。
A F社の見学会開催に関する稟議管理簿等に、本件見学会を開催した旨の記載はない。
なお、見学会には多額の費用がかかるため、F社所定の稟議管理簿等に記載せずに見学会が開催されることはない。
B F社の竣工検査手直し指示兼報告書によると、平成16年3月29日及び同月30日には、それぞれ本件建物の竣工検査及び手直し工事が行われており、また、同日付の本件建物の工事完了証明書には、請求人名義の署名・押印がある。
C F社の備付けの帳簿書類に、本件賃貸料が支払われた旨の記載はなく、また、Hが個人として請求人に本件賃貸料を支払った事実もない。
D F社の社印等の使用を管理する捺印申請簿には、本件賃貸借契約書に支店長印が押印されたことを示す記録はなく、本件賃貸借契約書は、本件建物完成引渡し後の平成16年5月ころ、請求人の関与税理士からの再三の申し出により、Hが、請求人及びF社の記名・押印箇所に他の書類の記名・押印部分をコピーし、切り貼りするなどして架空に作成したものである。
E 請求人は、Hらの答述等は信用できない旨主張するが、Hらの答述等は、F社の備付けの帳簿書類と一致するほか、Hらが原処分庁及び当審判所に対して、あえて虚偽の答述等を行わなければならない理由がないことなどから、その答述等の信用性は高いと認められる。
ロ 判断
(イ) 上記イの認定事実のとおり、本件賃貸借契約の締結、本件見学会の開催及び本件賃貸料の授受の事実は認められないから、本件賃貸料は、課税資産の譲渡等の対価の額として存在しない。
また、本件課税期間において、その他に課税資産の譲渡等の対価の額が存在するとは認められないから、本件課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額及び消費税の課税標準額はいずれも零円となる。
(ロ) 消費税の仕入税額控除の額については、本件課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額が零円であることから、その課税売上割合は零%となり、課税売上割合が95%に満たないので、消費税法第30条第2項の規定を適用して算定することとなる。
そして、本件建物は、人の居住の用に供する住宅であると認められるから、本件建物の取得価額等は、非課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れの額となる。
そうすると、「個別対応方式」又は「一括比例配分方式」のいずれの方式により算定しても、本件課税期間の消費税の仕入税額控除の額は零円となる。
(ハ) したがって、本件課税期間の消費税等の納付すべき税額を零円とした本件更正処分は適法である。
(2) 争点2 隠ぺい又は仮装行為の有無
イ 通則法第68条第1項に規定する重加算税は、同法第65条に規定する過少申告加算税を課すべき納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行なわれた場合に、違反者に対して課せられる行政上の措置であって、ここでいう「事実を隠ぺいする」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠ぺいしあるいは故意に脱漏することをいい、また、「事実を仮装する」とは、所得・財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが事実であるかのように装う等、故意に事実を歪曲することをいうと解するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、上記(1)のとおり、本件賃貸借契約の締結及び本件賃貸料の授受の事実が存しないにもかかわらず、請求人は、Hに依頼して本件賃貸借契約書を作成させ、さらに、本件賃貸料を受領したかのように領収証を作成してその旨を元帳に記載するなど、課税資産の譲渡等の対価の額を架空に作出したことが認められる。
そして、本件建物の取得価額等は、本来、非課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れの額となるところ、請求人は、消費税等の還付を受けるため、あたかも本件賃貸借契約及びそれに係る金銭の授受が存在したかのごとく仮装した事実に基づいて、本件建物の取得価額等を課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れの額として本件課税期間の確定申告書を提出したと認められる。
これら請求人の行為は、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装行為に該当すると認められるから、本件賦課決定処分は適法である。
(3) その他
原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。