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(平18.9.29、裁決事例集No.72−615頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、所有地の売却により手付金及び残代金を受領して、それぞれ領収証を作成した際、印紙税を納付したが、当該各領収証は非課税物件であったとして過誤納確認申請をしたところ、原処分庁が、同各領収証は非課税物件には該当しないとして過誤納確認をしないことの通知処分を行ったのに対し、請求人が、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人及びその長男のD(以下、請求人と併せて「請求人ら」という。)は、平成16年10月25日、連名で○○○○円の領収証を作成して名あて人に交付した際、同領収証に○○○○円の収入印紙をはり付けて消印をし、印紙税を納付した。
ロ 請求人らは、平成16年11月30日、連名で○○○○円の領収証を作成して名あて人に交付した際、同領収証に○○○○円分の収入印紙をはり付けて消印をし、印紙税を納付した。
ハ その後、請求人は、平成17年3月2日、上記イ及びロのとおり納付した印紙税の合計額○○○○円について、印紙税過誤納確認申請書を原処分庁に提出した。
ニ これに対し、原処分庁は、平成17年5月25日付で印紙税過誤納確認をしないことの通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ホ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成17年6月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月26日付で棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成17年10月24日に審査請求をした。

(3) 関係法令

イ 印紙税法第2条《課税物件》及び印紙税法別表第1の課税物件表(以下「課税物件表」という。)第17号の物件名欄1は、売上代金に係る金銭の受取書には印紙税を課す旨規定し、同号の定義欄1は、売上代金に係る金銭の受取書とは、資産を譲渡することによる対価として受け取る金銭の受取書をいう旨規定している。
ロ 印紙税法第5条《非課税文書》第1号及び課税物件表第17号の非課税物件欄2は、同号の物件名欄1の売上代金に係る金銭の受取書のうち、営業に関しない受取書には印紙税を課さない旨規定している。
ハ 印紙税法第14条《過誤納の確認等》第1項は、印紙税に係る過誤納金の還付を受けようとする者は、政令で定めるところにより、その過誤納の事実につき納税地の所轄税務署長の確認を受けなければならない旨規定している。
ニ 商法(平成17年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。)第4条第1項は、商人とは、自己の名をもって商行為をなすことを業とする者をいう旨規定している。
ホ 商法第501条第1号は、利益を得て譲渡する意思をもってする動産、不動産若しくは有価証券の有償取得又はその取得したものの譲渡を目的とする行為は、商行為(絶対的商行為)とする旨規定している。
ヘ 商法第502条第1号は、営業として賃貸する意思をもってする不動産の有償取得若しくは賃借、又はその取得若しくは賃借したものの賃貸を目的とする行為は、商行為(営業的商行為)とする旨規定している。
ト 商法第503条第1項は、商人がその営業のためにする行為は、商行為(附属的商行為)とすると規定し、同条第2項は、商人の行為は営業のためにするものと推定すると規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、下記ハの売却までの間、次表「番号」欄1及び2の各土地(以下、それぞれ「本件土地1」及び「本件土地2」という。)を所有し、Dは、同売却までの間、次表「番号」欄3の土地(以下「本件土地3」といい、本件土地1ないし本件土地3を併せて「本件各土地」という。)を所有していた。

土地 番号 所在 地番 地目 地積
1 P市Q町 a番地 550平方メートル
2 P市Q町 b番地 1004平方メートル
3 P市Q町 c番地 436平方メートル

ロ 請求人は、平成13年6月ころから、所有するマンション5戸(以下「請求人所有マンション」という。)を賃貸している。
ハ 請求人らは、E社に対し、平成16年10月25日、本件各土地を売却した(以下、本件各土地の売買契約を「本件売買契約」といい、この契約に係る契約書を「本件売買契約書」という。)。
ニ 請求人らは、平成16年10月25日、本件売買契約に基づく手付金○○○○円を受領した際、連名で領収証(以下「本件手付金領収証」という。)を作成し、本件手付金領収証に○○○○円の収入印紙をはり付けて消印をした上、E社に交付し、印紙税を納付した。
ホ 本件手付金領収証には、要旨次の表示がある。
(イ) あて名はE社。
(ロ) 領収金額は○○○○円。
(ハ) 売主欄には、請求人により「住所 P市Q町d番地 氏名 ○○○○(請求人の氏名)」の署名及び押印がされ、Dにより「住所 P市Q町e番地 氏名 D」の署名及び押印がされている。
ヘ 請求人らは、平成16年11月30日、本件売買契約に基づく残代金○○○○円を受領した際、連名で領収証(以下「本件残代金領収証」といい、本件手付金領収証と併せて「本件各領収証」という。)を作成し、本件残代金領収証に○○○○円分の収入印紙をはり付けて消印をした上、E社に交付し、印紙税を納付した。
ト 本件残代金領収証には、領収金額が○○○○円と表示されており、あて名及び売主欄の表示は、上記ホの本件手付金領収証と同様である。
チ 請求人らは、本件売買契約に基づく本件各土地の引渡しのころまで、本件各土地を、駐車場等として賃貸(以下「本件賃貸」という。)していた。
リ 本件各領収証が課税物件表第17号の物件名欄1の「売上代金に係る金銭の受取書」に該当することは、請求人及び原処分庁の双方に争いがない。

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2 主張

(1) 原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 課税物件表第17号の非課税物件欄2の「営業に関しない受取書」の営業とは、一般通念による営業、すなわち、利益を得る目的で同種の行為を反復継続して行うことをいうものと解されており、商法上の概念では、物品の売買、製造加工、賃貸及び運送等の商行為を業とする者を商人とし、その商人の行為が営業であるとされている。
ロ 請求人は、営利を目的として反復継続して、請求人所有マンションを賃貸し、本件土地1及び本件土地2も駐車場等として賃貸していたものであるから、その行為は、商法第502条第1号の営業的商行為に該当する。そして、請求人は、自己の名をもって商行為をすることを業としているから、商法第4条の商人であり、駐車場等として賃貸に供していた当該各土地を売却した行為は、商法第503条の附属的商行為に該当し、営業のためにする行為と認められる。
 さらに、請求人が、本件土地1及び本件土地2を売却するまで当該各土地を駐車場等として反復継続して賃貸していたことからすれば、当該各土地の売却は、営業に関するものの売却というべきであり、本件各領収証は、請求人が営業上の行為について作成したものと認められ、営業を離れた私的日常生活に関して作成したものとは認められない。
 したがって、本件各領収証は、営業に関しない受取書に該当するものではない。
ハ 本件各領収証の作成に基づいて課されるべき印紙税額は、既に納付された印紙税額と同額であるから、印紙税の過誤納確認をする理由はない。

(2) 請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件各領収証が非課税物件に該当することについて
(イ) 売上代金に係る金銭の受取書については、営業に関しない受取書に該当するものが非課税とされている。
A この点、F社発行の書物には、営業に関しない受取書について、「営業とは、主観的意義では、利益を得る目的で同種の行為を反復、継続して行うこと、すなわち、継続的な営利活動をいい、一般的通念では、利益を得る目的で同種の行為を継続的、反復的になすことをいう。営利目的がある限り、現実に営利を得ることができなかったとしても、また、当初、継続、反復の意思がある限り、1回でやめたとしても営業に当たる。営業に関しない受取書とは、個人の場合、その者が自己の名をもって商行為をなすことを業とするなどのために商人とされるときは、その営業上の行為について作成する受取書が営業に関するものとなり、営業を離れた私的日常生活に関して作成する受取書は、営業に関しないものとなる」旨解説されている。
B また、G社から発行され、税務官庁の幹部職員が編集している書物には、営業に関しない受取書について、「営業とは、利益を得る目的で同種の行為を反復継続すること、つまり継続的な営利活動をいうので、個人が私的財産を譲渡したときなどに作成する受取書は、営業に関しないものとして非課税となる」旨解説されている。
C 上記A及びBは、個人の場合、その者が自己の名をもって商行為をなすことを業とするなどのために商人とされるときには、その営業上の行為について作成する売上代金に係る金銭の受取書は、営業に関するものとされ、課税文書となるが、営業を離れた私的日常生活に関して作成する売上代金に係る金銭の受取書は、営業に関しないものとされ、非課税文書になるとするものである。
(ロ) 請求人らは、本件各土地を相続により取得したものであり、利益を得る目的で取得し、反復継続して売却したものではない。また、請求人らは、商人の商行為として本件各土地を売却したのではなく、個人の民事行為として売却したにすぎない。
 したがって、本件各領収証は、本件各土地をたまたま売却した際に作成した受取書であり、営業を離れた私的日常生活に関して作成した受取書であるから、営業に関しない受取書であり、非課税文書に該当する。
ロ 本件各領収証の作成により印紙税の納付を必要とすることは、二重課税に該当することについて
本件各領収証に印紙税の納付を必要とすることは、本件売買契約書の作成に基づき○○○○円分の印紙税を納付したこととの関係において、二重課税に該当するものであることからも、本件各領収証について、印紙税の納付は要しない。
ハ 原処分庁の主張について
(イ) 原処分庁は、本件各土地の売却について、商人である請求人の附属的商行為に該当し、営業のためにする行為であると主張するが、医師や弁護士等の、いわゆる自由職業者の行為は、一般に営業に該当しないと解されており、それらの者が作成する売上代金に係る金銭の受取書は、営業に関しない受取書に該当し、非課税とされているところであって、営業に関するものとは、狭く解釈すべきである。
(ロ) 原処分庁は、商法第501条の絶対的商行為の規定があるにもかかわらず、土地の売却が附属的商行為であると主張するが、不動産の売買と不動産の賃貸は明らかに異なる商行為である。不動産の売買を業とするには、宅地建物取引業法上、都道府県知事等の免許を受ける必要があるが、請求人は、当該免許を受けていない。免許が必要な不動産売買業を不動産賃貸業の附属的商行為とすることは不合理であり、不動産賃貸業を営む者が、相続した土地の売買をした場合までを含むと解すべきではないから、本件各土地の売却が請求人の不動産賃貸業の附属的商行為であるとすることは、拡大解釈にすぎるものである。

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3 判断

 本件は、本件各領収証が営業に関しない受取書に該当するか否かを主たる争点とする事案であるところ、審理した結果、以下のとおりである。

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件各土地は、相互に隣接する合計面積1,990平方メートル(約600坪)の土地である。
ロ 請求人の夫であったH(以下「請求人の亡夫」という。)は、平成11年8月○日に死亡するまで、本件各土地を所有していた。
ハ 請求人の亡夫は、J社との間で、平成10年3月12日、本件各土地の管理を委託する旨の管理委託契約(以下「本件管理委託契約」といい、この契約に係る契約書を「本件管理委託契約書」という。)を締結している。
 本件管理委託契約書には、要旨次の記載がある。
(イ) 請求人の亡夫は、J社に対し、本件各土地について、用途を駐車場、駐車場の台数を30台として管理を委託する(第○条)。
(ロ) 管理業務の内容は、賃借人の募集及び選択、賃貸借契約の締結、履行、更新及び解除等の契約管理、並びに駐車料の徴収、本件各土地に係る維持管理費その他必要諸経費等の支払の収支管理等とする(第○条)。
(ハ) 管理料は、月額総賃料の○%とする(第○条)。
(ニ) 本件管理委託契約の期間は、平成10年3月12日から2年間とし、期間満了までに委託者及び受託者から申出がないときは、同一の条件で2年間ごとに更新される(第○条)。
ニ 請求人の亡夫は、本件各土地を駐車場として賃貸し、J社は、本件管理委託契約に基づき、本件各土地及び当該賃貸の管理をしていた。
ホ 請求人の亡夫の死亡により相続が開始し(以下「本件相続」という。)、相続人である請求人ら及び請求人の長女が平成12年4月ころに遺産分割協議を行った結果、請求人が本件土地1及び本件土地2を、Dが本件土地3を相続した。
ヘ 請求人らは、上記ホのとおり本件各土地を相続し、本件相続後も引き続き駐車場等として賃貸していた。
ト 請求人らは、平成16年において、本件各土地に駐車台数45台分の区画を設け、本件売買契約により本件各土地を引き渡すころまで駐車場として賃貸していた。
チ 本件売買契約書には、要旨次の記載があるほか、○○○○円分の収入印紙がはり付けられ、消印がされて印紙税が納付されている。
(イ) 売主は請求人ら。買主はE社。
(ロ) 売主の媒介業者はJ社。買主の媒介業者はK社。
(ハ) 本件各土地の所有権は、買主が売買代金の全額を支払い、売主がこれを受領したときに移転する(第○条)。
(ニ) 売主は、買主に対し、売買代金全額の受領と同時に、本件各土地を引き渡す(第○条)。
(ホ) 請求人から本件各土地の管理委託を受けている、請求人の媒介業者であるJ社は、本件売買契約締結後、平成17年1月31日までに駐車場の賃借人の明渡しを、責任をもって完了させる(第○条)。
リ 請求人らは、本件賃貸をすべて解約し、E社に対して本件各土地を引き渡した。
ヌ 請求人の平成14年分ないし平成16年分の所得税の確定申告書によれば、本件賃貸に基づく賃料収入(以下「本件賃料収入」という。)は、いずれの年分においても、租税公課を含む必要経費の額を上回っている。
ル Dの平成14年分ないし平成16年分の所得税の確定申告書によれば、本件賃料収入は、いずれの年分においても、租税公課を含む必要経費の額を上回っている。

(2) 関係人の当審判所に対する答述の要旨

イ 請求人(請求人は、当審判所の面談に応じなかったが、陳述書を提出した。次の要旨は、その陳述書の内容である。)
 本件各土地については、マンション業者等の買取り希望者からの問合せが多くあり、余りにも煩わしいと思っていた。亡夫が常々「土地を売却したら二度と戻らない」と言っていたので、その言葉を守りたいと思っており、はじめは売りたくなかった。しかし、J社の代表取締役であるL(以下「J社代表者」という。)からの勧めもあり、売買価額が思ったより高いこともあったので、自宅南側の土地であることから、建築物の高さ制限を守ってくれることを条件として売買に応じることにした。Dは、本件各土地の売却について、私にすべてを任せており、特に意見を述べることはなかった。
ロ D(Dは、当審判所の面談に応じなかったが、陳述書を提出した。次の要旨は、その陳述書の内容である。)
(イ) 本件各土地については、マンション建設業者等から売ってほしいという申出が数え切れないくらい多くあり、請求人は、その申出がある度に対応し、煩わしい思いをしていた。請求人は、本件各土地について、E社に対しても当初は売却する気持ちは全くなかったが、売ってほしいという熱意に根負けしたようで、建築するマンションの高さ制限を守ってくれることを条件に売却することとなった。私は本件各土地の売却について、請求人とJ社代表者に一任していたので、特に意見を述べなかった。
(ロ) 本件各領収証にはり付けた収入印紙の代金は、請求人が支払っている。
ハ 請求人代理人
 請求人は、個人の事業として請求人所有マンションを賃貸しているが、土地の賃貸については、本件各土地の売却によって終了しており、他に賃貸しているものはない。
ニ J社代表者
(イ) 当社は、請求人との間で、本件各土地についての本件管理委託契約を締結し、本件各土地が売却されるまでの間、管理を任されていた。
(ロ) 本件各土地は、請求人らが相続する以前には、ほんの一部を駐車場として賃貸していた程度であったが、駐車場として借りたいという人がおり、固定資産税を賄うくらいの賃料収入を得ようということもあったので、駐車場の規模が少しずつ拡大されていった。本件各土地は、売却直前には、約600坪のうち約200坪が栗林になっており、残りの約400坪のうち200坪強くらいを駐車場として賃貸していた。
(ハ) 本件各土地については、売却の広告を出していたわけでもないのに、マンション建築業者等から、売ってほしい、貸してほしいという申出が、本件売買契約締結前の1年間くらいでは100件以上あった。請求人としては、売る必要もなく、売りたいと思っていたわけでもなかったので、売らなくてもよいとずっと断り続けていた。
(ニ) 請求人は、マンション建築業者等から売ってほしいという問合せがあった際には、「J社に任せているから、そちらに行ってほしい」と答えていたようで、そのような業者等が当社を訪ねて来ていた。請求人としては、マンション建築業者等が何度も来て、煩わしい思いをしていたようである。
(ホ) 請求人は、本件各土地について、かたくなに売らないという気持ちだったようであるが、マンション建築業者等の、売ってほしいという熱意に根負けするような形で、売却する気持ちになっていったようである。
(ヘ) 本件売買契約に伴い本件賃貸を解約し、本件各土地は、買主のE社に対し、更地の状態で引き渡した。
ホ E社○○部マネージャーM(以下「E社担当者」という。)
(イ) 本件各土地の本件売買契約当時の駐車場の規模が、約600坪のうちどの程度の割合であったかは分かりかねるが、買い受けた本件各土地の3筆とも使用されており、半分程度といったことではなく、本件各土地が全体的に使用されていたという印象である。
(ロ) 私には、請求人らが、なぜ本件各土地を売却することとしたのか、その理由や事情は分からないし、聞いてみたこともなかった。
(ハ) 本件売買契約に基づく本件賃貸を解約しての本件各土地の引渡しは、支障なく履行された。
ヘ K社代表取締役N(以下「K社代表者」という。)
(イ) 当社は、R社のS(以下「R社会長」という。)に依頼され、本件売買契約の買主であるE社の媒介業者となった。本件売買契約に係る売買交渉は、R社会長が行っており、当社が請求人らやJ社と売買交渉をしたことはない。
(ロ) 私には、請求人らが、なぜ本件各土地を売却することとしたのか、その理由や事情は分からない。そのような事情は、R社会長が詳しいと思う。
(ハ) 本件各土地が駐車場として賃貸されていることは知っていたが、約600坪のうち駐車場の割合がどの程度であったかは分かりかねる。ただ、本件各土地が全体的に使用されていたという印象である。
ト R社会長
(イ) 本件売買契約の買主側媒介業者はK社であったが、当社がK社に対し、媒介業者の依頼をした。
(ロ) 請求人には、お金に困っているような事情はなかったようであったし、以前には、本件各土地は売りたくないと述べていた時期もあったようであるが、私には、請求人らが、なぜ本件各土地を売却することとしたのか、その理由や事情は分からない。そのような理由、事情については、J社代表者が詳しいはずである。
(ハ) 本件各土地が駐車場として賃貸されていることは知っていたが、約600坪のうち駐車場の割合がどの程度であったかは分かりかねる。ただ、本件各土地が全体的に使用されていたという印象である。

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(3) 本件各領収証が印紙税の課税物件に当たるか否かについて

イ 課税物件表第17号の物件名欄1において課税の対象となる文書であると規定されている「売上代金に係る金銭の受取書」とは、資産を譲渡若しくは使用させること又は役務を提供することによる対価についての金銭の受取書をいい、この場合における資産の譲渡とは、有形、無形の資産の譲渡であるか否か、業務に関連する資産の譲渡であるか否かを問わず、財産権の譲渡一般を広く指すものと解される。
 本件においては、上記1の(4)のリのとおり、本件各領収証が「売上代金に係る金銭の受取書」に該当することは請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、また、本件各領収証は、請求人らがそれぞれ所有する本件各土地を一括して売却し、手付金及び残代金を受領した際に作成して、買主であるE社に交付しているものであるから、当審判所もこれを相当と認める。
ロ 他方、課税物件表第17号の非課税物件欄2において、「営業に関しない受取書」は非課税物件と規定されている。ここでいう営業とは、一般に、利益を得ることを目的として同種の行為を反復継続することをいうものと解されているところ、「営業に関しない受取書」における営業についても、これと同旨に解することが相当である。
 そして、個人で営業を行う者が、個人の所有に係る資産を営業に供し、その資産を譲渡した場合には、営業者として営業に関連して行ったものであるか、個人の私的な財産の処分として行ったものであるかを区別し、後者の場合の受取書については「営業に関しない受取書」に該当すると解するのが相当である。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 請求人は、本件各土地の他にも、請求人所有マンションを賃貸し、個人として不動産賃貸業を営む者であるところ、上記(2)のニの(ロ)のとおり、J社代表者は、本件賃貸について、「駐車場としての需要があり、固定資産税を賄うくらいの賃料収入を得ようということもあったので、駐車場の規模が徐々に拡大された」旨答述していること、及び、請求人らは、上記(1)のニないしヘのとおり、駐車場として賃貸されていた本件各土地を本件相続により取得した後も引き続き賃貸し、加えて、上記(1)のヌ及びルのとおり、現実に租税公課を含む必要経費の額を上回る本件賃料収入を得ていたことからすれば、本件賃貸は、利益を得ることを目的として、継続的に行われていたものと認められ、請求人らそれぞれにおいて営業に該当する行為ということができる。
(ロ) 請求人らは、営業として本件賃貸を行いながら本件売買契約を締結し、本件各土地をE社に引き渡すころまで引き続き本件各土地を賃貸の用に供していた。
 したがって、請求人らの本件各土地の譲渡は、営業用資産を譲渡した営業に関するものというべきである。
 請求人は、本件各土地を相続により取得したものであり、利益を得る目的で取得し、反復継続して売却したものではないとか、商人の商行為として売却したのではないなどと主張するが、上記のとおりであるから、これらの点は、本件各土地の譲渡が営業に関するものであるとの結論を左右するものではない。
(ハ) 上記の(イ) 及び(ロ)によれば、請求人は、営業者として営業に関連して本件各土地を譲渡したものであって、個人の私的な財産の処分として行ったものとはいえないから、本件各領収証は、営業に関しない受取書には該当しないものと認めるのが相当である。
(ニ) 請求人は、上記2の(2)のイの(イ)のA及びBのとおり、市販されている文献の記述内容を挙げ、本件各領収証は営業に関しない受取書に該当する旨主張する。そして、請求人ら及びJ社代表者は、要旨、「請求人は、当初、本件各土地を売却するつもりはなかったが、マンション建築業者等に懇願され、熱意に根負けして売却するに至った」と答述する。
 しかしながら、上記(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人は、現実に営業の用に供している資産を譲渡しているのであるから、営業用資産を譲渡した営業に関するものと解するのが相当であり、本件各領収証は、営業に関しない受取書には該当しないものと認めるのが相当である。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(ホ) また、請求人は、本件各領収証について印紙税の納付を必要とすることは、本件売買契約書の作成に基づき印紙税を納付したこととの関係において二重課税に該当する旨主張する。
 ところで、課税物件表第1号の物件名欄1には、「不動産の譲渡に関する契約書には、印紙税が課される」旨規定され、同号の定義欄には、「不動産には、法律の規定により不動産とみなされるもののほか、鉄道財団、軌道財団及び自動車交通事業財団を含むものとする」と規定されている。
 これを本件についてみると、本件各土地が不動産であることは明らかであり、本件売買契約書は、請求人とE社との間において、不動産たる本件各土地の売買に当たり作成されたものであるから、課税物件表第1号の物件名欄1の不動産の譲渡に関する契約書(以下「不動産の譲渡に関する契約書」という。)に該当する課税文書であると認められる。
 そうすると、本件売買契約書は、不動産の譲渡に関する契約書に該当し、本件各領収証は、上記イ及び(ハ)のとおり、売上代金に係る金銭の受取書に該当し、営業に関しない受取書には該当しないものであるから、本件売買契約書と本件各領収証は、印紙税法上別個の課税文書であり、それぞれに印紙税の納付を要するものである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(4) まとめ

 以上のとおり、本件各領収証は、印紙税の納付を要する課税文書であり、既に納付されている印紙税額は、課税物件表第17号の課税標準及び税率欄1に規定されている税率と同額であるから、請求人に過誤納の事実は認められないとして行われた本件通知処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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