ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.73 >> (平19.2.14、裁決事例集No.73 216頁)
(平19.2.14、裁決事例集No.73 216頁)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の雑所得等について、原処分庁が申告漏れがあるとして行った原処分に対し、請求人が、雑所得に係る必要経費に算入漏れがあるとして、その一部の取消しを求めた事案である。
(2) 審査請求に至る経緯
イ 請求人は、平成12年分、平成13年分及び平成14年分の所得税について、確定申告書を提出せず、平成16年分の所得税について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、雑所得及び譲渡所得の申告漏れがあるとして、平成18年3月9日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりの決定処分及び更正処分並びに無申告加算税及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成18年3月14日、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成18年6月12日付でいずれも棄却する旨の異議決定をした。
ニ 請求人は、雑所得の基因となった資産を外貨で取得するに当たり支出した金額のうち、通貨交換の際に適用された対顧客直物電信売相場(以下「TTS」という。)と電信売買相場の仲値(以下「TTM」という。)との差額(以下「本件為替差額」という。)に相当する部分の金額(以下「本件差額相当額」という。)は雑所得に係る必要経費に算入すべきであり、この点について、異議決定を経た後の原処分の一部に不服があるとして、平成18年6月17日、審査請求をした。
(3) 関係法令
所得税法第37条《必要経費》第1項は、その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定している。
(4) 当事者間に争いがなく、証拠により容易に認定できる事実等
イ 請求人は、平成12年分、平成13年分、平成14年分及び平成16年分(以下、併せて「本件各年分」という。)において、外国法人C社が販売する元利確保型D運用投資商品(以下「商品D」という。)を取得し、その投資金(以下「本件投資金」という。)をE銀行F支店及びG支店(以下「本件取扱銀行」という。)から、Hを受取人として、外国所在の銀行にアメリカ合衆国ドル(以下「ドル」という。)により送金した(本件各年分における送金の内訳は別表2記載のとおり)。
ロ 請求人は、本件各年分において、商品Dから生ずる利息収入(以下「本件利息収入」という。)を得ていた。
(5) 争点
本件差額相当額は、本件利息収入に係る雑所得の必要経費に当たらないか。
2 主張
(1) 原処分庁
本件差額相当額は、ドル取得の際の本件取扱銀行への手数料に相当するものであるとは認められるものの、本件取扱銀行への手数料として、単独で支払われるものではなく、商品Dの取得価額に含まれるものである。
したがって、本件利息収入を得るための必要経費とは認められない。
(2) 請求人
本件差額相当額は、円をドルに交換するために本件取扱銀行に支払った手数料であり、商品Dを取得するために必要な費用であるから、本件利息収入を得るための必要経費である。
本件差額相当額は、本件取扱銀行の収入になるから、必要経費にならないとすると請求人に係る所得税と同銀行に係る法人税の二重課税になる。
3 判断
(1) 争点(本件差額相当額の必要経費該当性の有無)について
イ 所得税法第37条第1項に規定する必要経費とは、売上原価等の直接の費用はもとより、販売費や一般管理費等の間接の費用もこれに含まれるが、それはあくまでも費用に限定されるのであって、費用に当たらない支出は、必要経費に含まれない趣旨と解すべきである。
ロ これを本件についてみるに、原処分関係資料及び当審判所の調査した結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) TTSについて
TTSは、金融機関が顧客に外貨を売却する場合(現金による交換の場合を除く。)に用いられる為替レートである。
(ロ) 本件為替差額について
A 本件為替差額は、取扱金融機関の手数料としての性格を有するほか、当該取扱金融機関が負う為替変動リスク等を考慮して設定されるものであり、対顧客においては、TTMに本件為替差額を加えて表示されるTTSが外貨の売却(交換)価額である。
B 本件投資金に係る本件為替差額は、取引の形態によって、1円又は50銭のいずれかであった。
(ハ) 商品Dについて
A 概要
商品Dは、円建てコース及びドル建てコースの2種類がある。一口当たりの投資金額については、円建てコースは○○○○円、○○○○円及び1500万円、ドル建てコースは○○○○ドル、○○○○ドル及び10万ドルのそれぞれ3種類がある。両コースとも、投資期間は○年、○年及び○年の3種類、利息の支払方法は1年ごと及び満期時一括の2種類がある。また、両コースとも、譲渡は可能であるが、中途解約はできない。
B 取得時の送金及び満期時の返金
(A) 円建てコース
円建てコースの商品Dを取得する場合は、投資金額に相当する円(以下「円建て投資金額」という。)を送金時のTTSによりドルに交換し、当該ドルを送金する。同商品Dの満期時には、円建て投資金額が返金されるが、返金を受けずに新たな商品Dの取得資金に充てることもできる。
(例:円建て投資金額が1500万円、送金時のTTSが111円/ドル、送金時のTTMが110円/ドルの場合は、送金額は135,135.14ドル(1500万円÷111円/ドル)、円建て投資金額1500万円のうち本件差額相当額は135,135円(1500万円÷111円/ドル×(111-110)円/ドル)となり、満期時に円建て投資金額1500万円が返金される。)
(B) ドル建てコース
ドル建てコースの商品Dを取得する場合は、投資金額に相当するドル(以下「ドル建て投資金額」という。)を送金する。同商品Dの満期時には、ドル建て投資金額が返金されるが、返金を受けずに新たな商品Dの取得資金に充てることもできる。
(例:ドル建て投資金額が10万ドル、送金時のTTSが111円/ドル、送金時のTTMが110円/ドルの場合は、送金額10万ドルに相当する金額は1110万円(10万ドル×111円/ドル)、同金額1110万円のうち本件差額相当額は10万円(1110万円÷111円/ドル×(111-110)円/ドル)となり、満期時にドル建て投資金額10万ドルが返金される。)
(ニ) 本件投資金の調達方法について
請求人は、本件取扱銀行の請求人名義の外貨普通預金口座の資金を利用したほか、本件取扱銀行のTTSにより円をドルに交換して、本件投資金を調達した。
ハ 以上のことからすると、本件差額相当額は、円建て投資金額又はドル建て投資金額の一部分であって、これらの投資金額は、いずれも、満期時には返金される金員であるから、同相当額は、商品D取得時に費消されておらず、それを費用ということはできない。したがって、本件差額相当額は、本件利息収入に係る雑所得の必要経費には当たらないというべきである。
ニ 請求人は、本件差額相当額は本件取扱銀行に支払った手数料である旨主張するが、金融機関にとっては、同相当額が手数料としての性格を有するものであるとしても、顧客が円をドルに交換する際には、あくまでもTTSが適用されるのであって、TTMが適用されるのではないから、同相当額の部分のみをとらえて手数料というのは相当でない。したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ホ また、請求人は、本件差額相当額が必要経費にならなければ、二重課税になる旨主張するが、上記イ記載のとおり、ある支出の必要経費該当性の有無は、その支出が収入を得るために直接又は間接に必要な費用であるか否かにより判断されるのであって、その支出先における課税関係が同判断に影響を及ぼすものではない。なお、ドル建てコースの商品Dを取得した場合の本件差額相当額は、本件投資金に相当するドルを売却した際に受領する円の額と当該商品Dを取得した際に支出した円の額との差額、すなわち、為替相場の変動等によって生じる為替差損益を計算する上で、当該商品Dの取得価額の一部分として考慮されるものである。そうすると、本件差額相当額が本件利息収入に係る必要経費に当たらないからといって二重課税になるというのは相当でない。したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(2) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
(3) 結論
以上より、原処分には、いずれも、これらを取り消すべき理由はない。