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(平19.1.9、裁決事例集No.73 250頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成16年分の所得税の確定申告において、請求人と生計を一にする長男に係る扶養控除を行ったところ、原処分庁が、長男の合計所得金額は扶養親族の要件として定められた金額を上回るから扶養控除を行うことはできないとして所得税の更正処分を行ったのに対し、請求人が、長男の同年分の株式等に係る譲渡所得等の金額は、租税特別措置法(平成17年法律第21号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第37条の12の2《上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除》第1項の規定(以下「本件繰越控除規定」という。)の適用後の金額であることから、長男の合計所得金額は扶養親族の要件として定められた金額以下であるとして、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成16年分の所得税について、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。

(単位:円)
項目 確定申告 修正申告 更正処分
総所得金額 丸1 ○○○○ ○○○○ ○○○○
内訳 配当所得の金額 丸2 ○○○○ ○○○○ ○○○○
雑所得の金額 丸3 ○○○○ ○○○○ ○○○○
上場株式等に係る 譲渡所得等の金額 丸4 ○○○○ ○○○○ ○○○○
扶養控除の額 丸5 ○○○○ ○○○○ ○○○○
その他の所得控除の額 丸6 ○○○○ ○○○○ ○○○○
所得控除の合計額 (丸5丸6 丸7 ○○○○ ○○○○ ○○○○
課税総所得金額 丸8 ○○○○ ○○○○ ○○○○
上場株式等に係る
課税譲渡所得等の金額
丸9 ○○○○ ○○○○ ○○○○
還付金の額に相当する税額 丸10 ○○○○ ○○○○ ○○○○

(注)「課税総所得金額」及び「上場株式等に係る課税譲渡所得等の金額」欄は、いずれも1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額である。
ロ 次いで、請求人は、平成17年11月14日に、上記イの表の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成17年12月27日付で、上記イの表の「更正処分」欄のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件更正処分を不服として、平成18年1月9日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年3月28日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成18年4月24日に審査請求をした。

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(3) 関係法令の要旨

 関係法令の要旨は、別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人と生計を一にする長男Aの平成16年分の所得税の確定申告書には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 確定申告書B第一表

(単位:円)
項目 金額
所得金額 配当 丸5 ○○○○
合計 丸9 ○○○○

(ロ)確定申告書(分離課税用)第三表

(単位:円)
項目 金額
所得金額 分離課税 株式等の譲渡 上場分 丸60 ○○○○
その他 株式等 本年分の丸59丸60欄から 差し引く繰越損失額 丸80 ○○○○
翌年以後に繰り越される損失の金額 丸81 ○○○○

ロ 請求人は、長男Aの平成16年分の合計所得金額は、総所得金額と本件繰越控除規定適用後の株式等に係る譲渡所得等の金額との合計額であり38万円以下となるから、長男Aが扶養親族に該当するとして扶養控除を行い、同年分の所得税の確定申告及び修正申告をした。
ハ 原処分庁は、長男Aの平成16年分の合計所得金額は、総所得金額と本件繰越控除規定適用前の株式等に係る譲渡所得等の金額との合計額であり38万円を超えることとなり、同人は請求人の扶養親族に該当しないことから扶養控除を行うことはできないとして、本件更正処分をした。
ニ 請求人の所得金額及び扶養控除以外の各所得控除の額については、当事者双方に争いはない。

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2 主張

 別紙2「当事者双方の主張」のとおりである。

3 判断

(1) 前年から繰り越された上場株式等に係る譲渡損失の金額を有している場合の合計所得金額の計算について

イ 所得税法は、別紙1の1ないし3のとおり、第84条第1項において、扶養控除は扶養親族を有する場合に適用する旨、第2条第1項第34号において、その扶養親族とは合計所得金額が38万円以下である者をいう旨、同項第30号において、合計所得金額とは、第70条及び第71条の規定を適用しないで計算した場合における第22条に規定する総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額をいう旨規定している。
ロ そして、措置法は、居住者が株式等の譲渡による所得を有する場合には、別紙1の4及び5のとおり、第37条の10第7項及び第37条の11第4項において、各条の第1項の規定の適用がある場合には、所得税法及びその他の所得税に関する法令を読み替えて適用する旨規定している。その結果、上記各規定に従って読み替えた後の所得税法第2条第1項第30号の規定の要旨は、「合計所得金額とは、純損失の繰越控除及び雑損失の繰越控除の規定を適用しないで計算した場合における総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額並びに株式等に係る譲渡所得等の金額(上場株式等に係る譲渡所得等の金額を含む。)の合計額をいう。」となる。
ハ ところで、措置法は、別紙1の6のとおり、第37条の12の2第4項において、第1項(本件繰越控除規定)の規定の適用がある場合の、第37条の10及び第37条の11の各規定(第37条の10においては第7項を、第37条の11においては第4項をそれぞれ除く。)の適用に当たっては、それぞれの第1項の「計算した金額」をいずれも「計算した金額(第37条の12の2第1項の規定(本件繰越控除規定)の適用がある場合には、その適用後の金額)」と読み替えて適用する旨規定している。
 したがって、措置法第37条の10第7項又は同法第37条の11第4項の各規定の適用(合計所得金額の計算)の場面においては、各条第1項の規定は上記のとおり読み替えられずに適用されることになり、前年から繰り越された上場株式等に係る譲渡損失の金額を有する場合の株式等に係る譲渡所得等の金額については、課税標準の計算の場面においては本件繰越控除規定を適用して計算し、扶養親族の所得要件となる合計所得金額の計算の場面においては本件繰越控除規定を適用しないものとして計算することになる。すなわち、居住者が、所得税額の計算上、本件繰越控除規定を適用して控除すべき上場株式等に係る譲渡損失の金額を有しているとしても、その合計所得金額の計算に当たっては、本件繰越控除規定を適用して、株式等に係る譲渡所得等の金額を計算することはできないことは、法律上明らかである。
ニ 以上のとおり、居住者が株式等の譲渡による所得と前年から繰り越された上場株式等に係る譲渡損失とを有する場合の合計所得金額とは、「純損失の繰越控除及び雑損失の繰越控除の規定を適用しないで計算した場合における総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額並びに上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の規定を適用しないで計算した場合における株式等に係る譲渡所得等の金額(上場株式等に係る譲渡所得等の金額を含む。)の合計額」となる。

(2) 長男Aの平成16年分の合計所得金額

イ 長男Aの平成16年分の各種所得の金額は、上記1の(4)のイのとおりであり、また、長男Aには、前年から繰り越された上場株式等に係る譲渡損失の金額があるから、長男Aの合計所得金額は、上記(1)のとおり計算すべきところ、その金額は、総所得金額(配当所得の金額)○○○○円と本件繰越控除規定を適用しないで計算した株式等に係る譲渡所得等の金額○○○○円との合計額であって、38万円を超えることとなる。
ロ 請求人は、本件繰越控除規定の適用を制限する条項は、措置法第37条の12の2第3項だけであり、そのほかには同法及び所得税法上、その適用を制限する限定条項や適用除外条項は何も付されていないのであるから、本件繰越控除規定は、合計所得金額の計算において合計すべき「株式等に係る譲渡所得等の金額」の計算上、当然に適用される旨主張する。
 しかしながら、本件繰越控除規定の適用がある場合の関係法令の読替え等については上記(1)のとおり明文で規定されているのであるから、請求人の主張は採用できない。

(3) 本件更正処分

 上記(2)のイのとおり、長男Aの平成16年分の合計所得金額は、38万円を超えるから、同人は、請求人の扶養親族に該当せず、請求人は同年分において、長男Aを対象として扶養控除を行うことはできない。
 したがって、請求人の平成16年分の還付金の額に相当する税額は、本件更正処分の金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(4) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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