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(平19.3.12、裁決事例集No.73 265頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、不動産貸付業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、賃貸借契約の中途解約に伴い賃借人に対し返還不要となった敷金及び建設協力金は3年以上の期間の補償金であり臨時所得に該当するとして、平均課税を適用して所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該返還不要の敷金等は3年以上の期間の不動産所得の補償として受ける補償金に当たらないから臨時所得に該当せず、平均課税の適用はできないとして所得税の更正処分等を行ったことから、請求人がこれを不服として同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

 審査請求(平成18年8月7日)に至る経緯及び内容は、別表のとおりである(なお、請求人に対する所得税の更正処分を「本件更正処分」、過少申告加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)。

(3) 関係法令

イ 所得税法第2条《定義》第1項第24号は、臨時所得とは、役務の提供を約することにより一時に取得する契約金に係る所得その他の所得で臨時に発生するもののうち政令で定めるものをいう旨規定している。
ロ 所得税法施行令(以下「施行令」という。)第8条《臨時所得の範囲》は、上記イの政令で定める所得は、第1号ないし第4号に掲げる所得その他これらに類する所得とする旨規定し、同条第3号には、一定の場所における業務の全部又は一部を休止し、転換し又は廃止することとなった者が、当該休止、転換又は廃止により当該業務に係る3年以上の期間の不動産所得、事業所得又は雑所得の補償として受ける補償金に係る所得が掲げられている。
ハ 所得税法第90条《変動所得及び臨時所得の平均課税》第1項は、居住者のその年分の変動所得の金額及び臨時所得の金額の合計額(その年分の変動所得の金額が前年分及び前前年分の変動所得の金額の合計額の2分の1に相当する金額以下である場合には、その年分の臨時所得の金額)がその年分の総所得金額の100分の20以上である場合には、その者のその年分の課税総所得金額に係る所得税の額は、平均課税の方法により計算する旨規定している。

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(4) 基礎事実

イ 請求人は、A社との間で、平成5年11月22日付で駐車場付建物に係る賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を、B社C支店長を立会人として締結した。
 本件賃貸借契約に係る契約書(以下「本件賃貸借契約書」という。)には、要旨次のとおりの記載がある。
(イ) 請求人は、A社の指定する設計に基づき、双方協議のうえ信用ある業者を選定して、下記記載の駐車場付建物(以下「本物件」という。)を建設し同社に賃貸するものとし、同社はこれを賃借するものとする(第1条第1項)。

駐車場付き建物建設地:P市Q町○○番地
敷地面積:○○○平方メートル
建物床面積:○○○平方メートル
建物構造:鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建

(ロ) A社は、本物件を同社の定款に定める業務に必要な店舗として使用するものとする(第2条第1項)。
(ハ) 賃貸借期間は、本物件の引渡日の平成6年3月24日から平成26年3月23日までの満20年間とする(第4条第1項)。
(ニ) 賃料の額は、月額830,000円とし、本物件の引渡日から支払うものとする(第5条第1項)。
(ホ) 賃料の額は、上記(ハ)の賃貸借期間の開始月から満3か年据え置き、4年目にその改定を年5%を基準として請求人・A社で協議するものとし、以後も満3か年経過毎に協議するものとする(第6条第1項)。
(ヘ) A社は敷金として、本件賃貸借契約締結時に5,000,000円を無利息で請求人に差し入れるものとする(第7条第1項)。
(ト) 請求人は、本件賃貸借契約が終了し、A社が本物件を明け渡した日から1週間以内に、同社に対し、敷金を全額返還するものとする(第8条第1項)。
(チ) A社は、本物件の建設協力金として、総額20,000,000円を請求人に預託するものとする(第9条第1項)。
(リ) 請求人は、上記(チ)の建設協力金を本物件の引渡し日の属する月の末日より5年間据置後、翌月より15年間、180回にわたり、毎月111,100円(最終月は113,100円)をA社に返還するものとする(第10条第1項及び第2項)。
(ヌ) 請求人又はA社は、上記(ハ)の契約期間中は解約できないものとする。ただし、自己の都合により本件賃貸借契約を契約期間の中途で解約する場合は、6か月前までに相手方に対し、書面で申し入れなければならないものとする(第18条第1項)。
(ル) 請求人が自己の都合により本件賃貸借契約を解約した場合は、請求人はA社から受託した敷金全額と建設協力金の未返還分を同社に返還し、同社の算定した解約に伴う営業補償を同社に支払うものとする(第18条第2項)。
(ヲ) A社が自己の都合により本件賃貸借契約を解約した場合、同社は請求人に預託した敷金全額と建設協力金の請求人の未返還分を違約金として放棄するものとする。ただし、A社が代替借主を紹介し、請求人がその借主との間で本件賃貸借契約と同一条件若しくはこれに準ずる請求人が同意した条件で賃貸借契約を締結し、本物件が継続した場合には、請求人は直ちに敷金全額と建設協力金の未返還分をA社に返還するものとする(第18条第3項)。
ロ 請求人とA社は、本件賃貸借契約に係る賃料について、平成9年3月23日より月額830,000円から月額851,000円に改定することに合意する旨の覚書を同年5月6日付で取り交わし、その後、平成12年3月23日より月額851,000円から月額782,920円に改定することに合意する旨の覚書を同年3月30日付で取り交わした。
ハ 請求人は、A社から平成15年11月21日付で要旨次のとおり記載した「中途解約申入書」と題する文書(以下「本件解約申入書」という。)の送付を受けた。
(イ) A社は、本件賃貸借契約書第14条第3項(誤植であり第18条第3項のこと)の約旨により、契約期間の途中で解約すべく、その旨の申入れをする。
(ロ) 本件賃貸借契約の終期は、平成16年5月31日とする。
(ハ) 中途解約に伴う放棄額は、敷金5,000,000円と建設協力金残金13,222,900円の合計額18,222,900円となる。
ニ 請求人は、A社との間で、平成16年5月31日付で要旨次のとおり記載した「解約合意書」と題する文書(以下「本件解約合意書」という。)を取り交わして、本件賃貸借契約を解約することに合意した。
(イ) 請求人とA社は、本件賃貸借契約を、平成16年5月31日限りで合意解約し、A社は本物件を請求人に引き渡した。
(ロ) A社は、本合意が中途解約に該当することから、同社は平成16年5月までに代替テナントを請求人に紹介し、請求人と紹介先との賃貸借契約が締結できなかった場合、敷金5,000,000円及び建設協力金の残額金13,111,800円(以下、これらを併せて「本件返還不要敷金等」という。)を放棄するものとする。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)の引渡、清算が完了したときは、本件賃貸借契約に関する請求人・A社間の債権、債務は一切存在しないことを相互に確認する。
ホ 請求人は、本物件の賃貸料として、上記イの(ニ)及びロの賃料に消費税若しくは消費税及び地方消費税を加えた額をA社から受け取っており、本件賃貸借契約の解約時点での月額賃貸料(平成16年5月分)は、822,066円であった。
ヘ 請求人は、本物件について、新たな賃借人であるD社に対し、平成16年6月から賃料月額735,000円で賃貸を開始した。
ト 請求人は、平成16年分の所得税について、上記ハの(ハ)の合計額18,222,900円を不動産所得に係る収入金額に含めた上で、この金員が臨時所得に該当するとして、所得税法第90条第1項の平均課税を適用し平均課税対象金額を○○○○円と青色の確定申告書に記載して、原処分庁に提出した。
チ これに対し、原処分庁は、不動産所得に係る収入金額に誤りがあったとして不動産所得金額を一部減額した上で、本件返還不要敷金等は臨時所得に該当しないとして所得税法第90条第1項の平均課税の適用を否認し、本件更正処分を行った。

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2 争点

 本件返還不要敷金等は、臨時所得に該当することになる施行令第8条第3項が規定する3年以上の期間の不動産所得の補償として受ける補償金に当たるか否か。

3 各当事者の主張

請求人 原処分庁
 次の理由から、本件返還不要敷金等は臨時所得に該当するため、本件更正処分の全部が取り消されるべきである。  次の理由から、本件返還不要敷金等は臨時所得に該当せず、本件更正処分は適法である。
1 本件返還不要敷金等の補償対象期間については、本件解約合意書に「平成何年から平成何年までの期間の補償として」などという具体的な記載はないものの、本件賃貸借契約書には契約期間が明示されており、中途解約の場合、賃借人は本件返還不要敷金等を放棄する旨も明示されていることからすると、同期間は、特段の事情がない限り、満たされなかった契約の残存期間である9年9か月を対象とすることになる。
 このことは、1本件賃貸借契約書の第18条第3項や本件解約合意書の記載内容、2建設協力金の返還終期と本件賃貸借契約の期間満了日が一致している事実から、中途解約の場合には、残存期間に応じた補償の金額が合理的かつ明確に算定できるのであって、本件返還不要敷金等の性質が、同期間の賃借義務を免れることに代えて補償金を支払うという趣旨であることは明らかである。
 したがって、本件返還不要敷金等は、3年以上の期間の補償金であることから施行令第8条第3号に該当し、平均課税の方法で所得税の額を計算することができる。
1 本件賃貸借契約書、本件解約申入書及び本件解約合意書において、1本件返還不要敷金等が、不動産所得の補償として何年間を対象としたものであるかについての記載や算出根拠の記載もなく、2その他の書面又は口頭で、対象期間あるいは算出根拠の明示も行われていない。
 このような記載や明示のなされていない場合は、一般的に補償金の総額は賃貸料を基に補償対象期間を考慮して算定されると考えられることから、補償金の総額が月額賃貸料の何か月分に相当するかにより補償対象期間を算定する方法が合理的である。
 そこで、本件返還不要敷金等を月額賃貸料の金額で除して補償対象期間を計算すると、約22か月となる。
 そうすると、本件返還不要敷金等は、施行令第8条第3号に規定する3年以上の期間の補償金との要件を満たさないことになることから、所得税法第2条第1項第24号に規定する臨時所得には該当せず、したがって、本件返還不要敷金等をもって、同法第90条第1項に規定する平均課税を適用することはできない。
2 仮に、月額賃貸料の金額を基準にして補償の対象期間を算定するとしても、国税不服審判所の裁決事例(昭50.3.7付裁決・裁決事例集No.9 17頁)もあることから、その算定に当たっては3年間賃貸したとしたならば得られたであろう利益相当額を基礎とすべきである。
 そうすると、請求人の本物件に係る3年分の利益は14,738,275円となり、本件返還不要敷金等の金額はこの金額を上回っていることから、3年以上の期間に対する所得の補償に該当する。
2 請求人の予備的主張については、1補償対象期間について利益相当額を基礎としなければならない旨を定めた法律上の規定はないこと、2請求人が指摘するところの裁決事例と本件とは事実関係が異なること、3通常、賃貸借契約を中途で解約した場合に一般的に補償すべきは、賃貸人の家賃収入であること、4収入金額を基礎として補償対象期間の判定を行うことの合理性を否定するだけの事実はうかがえないことから、理由がない。

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4 判断

(1) 本件更正処分について

イ 臨時所得の範囲として、施行令第8条第3号は、上記1の(3)のロのとおり、不動産貸付業務に係る「3年以上の期間の不動産所得の補償として受ける補償金に係る所得」と規定しているところ、所得の補償とは、中途解約に伴い生じた逸失利益、すなわち不動産貸付業務を継続すれば得られたであろう所得の額を補償するものであり、その所得を得るために継続して生ずる費用、例えば、減価償却費、租税公課等の費用の額を併せて補償することが必要であると解するのが相当であるから、所得の額と費用の額の合計額、すなわち収入金額に相当する金額を補償して初めて所得の補償といえる。
 これを本件についてみると、契約当事者間で上記1の(4)のイの(ヲ)のとおり「違約金」である旨合意がなされ、解約の際に上記1の(4)のニの(ハ)のとおりの合意がなされ、本件解約合意書等に本件賃貸借契約締結時の中途解約に関する違約金条項を覆すような算出根拠が明示されていないことからすると、本件返還不要敷金等は、違約金名目ではあるが、その実質は、1解約後の収益補償として支払われるもの及び2解約に伴う諸費用の実費弁償として支払われるものから成っていると考えられる。そうすると、本件返還不要敷金等に係る所得が、臨時所得となる3年以上の期間の補償に該当するか否かを判断するためには、本件返還不要敷金等のうち上記1に係る金額について、1年当たりの収入金額に相当する金額で除して補償対象期間を算定するのが合理的であると認められる。
 そこで、本件返還不要敷金等の金額の全額を上記1に係る金額が占めると仮定して、18,111,800円を1年当たりの収入金額に相当する金額9,864,792円(中途解約時の月額賃貸料822,066円×12月=9,864,792円)で除して補償対象期間を計算したとしても、約1年10か月(18,111,800円÷9,864,792円≒1.84年≒1年10か月)となるから、本件返還不要敷金等に係る所得は、3年以上の期間の不動産所得の補償には当たらないということになる。
 したがって、本件返還不要敷金等に係る所得が臨時所得に該当しないことになるため、平均課税の方法により所得税の額を計算することはできない。そして、これにより計算した請求人の総所得金額及び納付すべき税額は、本件更正処分と同額になるから、本件更正処分は適法である。
ロ ところで、請求人は、本件解約合意書に補償対象期間の具体的な記載はないものの、本件賃貸借契約書には契約期間が明記されていることから本件賃貸借契約の終期までの残存期間である9年9か月を本件返還不要敷金等が補償の対象としているとみるべきである旨、及び施行令第8条第3号は、3年以上の期間の不動産所得の補償として受ける補償金に係る所得と規定しており、3年以上の期間の収入金額と解すべきではなく、仮に、月額賃貸料の金額を基準にして補償の対象期間を算定するとしても、3年間賃貸したとしたならば得られたであろう利益相当額を基礎にして3年以上の期間であるか否かを判定すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、本件において、本件返還不要敷金等が施行令第8条第3号に規定する「3年以上の期間の不動産所得の補償」に該当するか否かは、「3年以上の期間の不動産賃貸収入に相当する金額の補償」であるか否かによって決せられるべきであり、本件返還不要敷金等の金額が、単に、本件賃貸借契約の終期までの残存期間に基づき算出される点だけをもって判断するものではなく、また、3年以上の期間の利益相当額を上回る点をもって判断するものでもないので、請求人の主張はいずれも採用できない。
 なお、請求人は、利益相当額を基礎にして3年以上の期間を算定とすべきである旨の理由の一つとして、裁決事例(昭50.3.7付裁決・裁決事例集No.9 17頁)を主張するが、当該事例は、土地収用法等の規定に基づき営業補償金の額が別途算定された事例であって、本件の事例とは異なるから、請求人の主張には理由がない。

(2) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は上記(1)のとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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