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(平19.5.15、裁決事例集No.73 483頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)がした遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請に対して、原処分庁が却下処分を行ったことにつき、請求人が違法、不当を理由として同処分の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年○月○日に死亡したD(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人の一人であり、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)に課税価格を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円と記載して法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 なお、本件相続に係る共同相続人は、長女の請求人、次女のE及び三女のFの3名である。
ロ また、請求人は、本件申告書の提出と同時に、本件相続に係る相続財産の一部が未分割であることから、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出した。
ハ その後、請求人は、平成18年○月○日に、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第69条の4《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》の規定による特例(以下「本件特例」という。)の適用を受けようとする「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」(以下「本件承認申請書」という。)を原処分庁に提出した。
ニ これに対し、原処分庁は、本件承認申請書に係る申請について、平成18年7月27日付で却下処分(以下「本件却下処分」という。)をし、その旨を請求人に対し書面で通知した。
ホ 請求人は、本件却下処分を不服として、平成18年9月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年12月20日付で棄却の異議決定をし、その決定書謄本を請求人に対し同月22日に送達した。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成19年1月22日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

イ 措置法第69条の4第1項は、個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人若しくは当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の事業の用若しくは居住の用に供されていた宅地等で一定の建物等の敷地の用に供されているものがある場合には、一定の要件に該当する場合に限り、当該宅地等のうち限度面積要件以下の部分については、相続税の課税価格に算入されるべき価額を減額する旨規定している。
ロ 措置法第69条の4第4項は、相続又は遺贈に係る相続税法第27条《相続税の申告書》の規定による申告書の提出期限までに共同相続人又は包括受遺者によって分割されていない宅地等については本件特例の適用はないが、その分割されていない宅地等が申告期限から3年以内に分割された場合、また、3年を経過するまでの間に当該宅地等が分割されなかったことにつき、当該相続又は遺贈に関し訴えの提起がされたことその他の政令で定めるやむを得ない事情がある場合において納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、分割ができることとなった日として政令で定める日の翌日から4月以内に分割された場合は、この限りではない旨規定している。
ハ 租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)第40条の2《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第12項で準用する相続税法施行令第4条の2《配偶者に対する相続税額の軽減の場合の財産分割の特例》第1項は、上記ロのやむを得ない事情及び分割ができることとなった日について、要旨次のとおり規定している。
(イ) 申告期限の翌日から3年を経過する日において、当該相続又は遺贈に関する訴えの提起がされている場合には、判決の確定又は訴えの取下げの日その他当該訴訟の完結の日(同項第1号)。
(ロ) 申告期限の翌日から3年を経過する日において、当該相続又は遺贈に関する和解、調停又は審判の申立てがされている場合には、和解若しくは調停の成立、審判の確定又はこれらの申立ての取下げの日その他これらの申立てに係る事件の終了の日(同項第2号)。
(ハ) 申告期限の翌日から3年を経過する日において、当該相続又は遺贈に関し、民法第907条第3項若しくは第908条の規定により遺産の分割が禁止され、又は同法第915条第1項ただし書の規定により相続の承認若しくは放棄の期間が伸長されている場合には、当該分割の禁止がされている期間又は当該伸長がされている期間が経過した日(同項第3号)。
(ニ) 上記(イ)、(ロ)及び(ハ)のほか、申告期限の翌日から3年を経過する日までに分割されなかったこと及び当該財産の分割が遅延したことにつき税務署長においてやむを得ない事情があると認める場合には、その事情の消滅の日(同項第4号)。
ニ 相続税法施行令第4条の2第2項は、これらのやむを得ない事情があることにより納税地の所轄税務署長の承認を受けようとする者は、当該相続又は遺贈に係る申告期限後3年を経過する日の翌日から2月を経過する日までに、その事情の詳細を記載した申請書を当該税務署長に提出しなければならない旨規定し、同条第3項は、税務署長は、当該申請書の提出があった場合において、承認又は却下の処分をするときは、その申請をした者に対し、書面によりその旨を通知する旨規定している。
ホ 相続税法基本通達(昭和34年1月28日付直資10国税庁長官通達)19の2−15《やむを得ない事情》(以下「本件通達」という。)は、相続税法施行令第4条の2第1項第4号に規定する「税務署長においてやむを得ない事情があると認める場合」とは、要旨次に掲げるような事情により客観的に遺産分割ができないと認められる場合をいうものとすると定めている。
(イ) 申告期限の翌日から3年を経過する日において、共同相続人の一人又は数人が行方不明又は生死不明であり、かつ、その者に係る財産管理人が選任されていない場合
(ロ) 申告期限の翌日から3年を経過する日において、共同相続人の一人又は数人が精神又は身体の重度の障害疾病のため加療中である場合
(ハ) 申告期限の翌日から3年を経過する日前において、共同相続人の一人又は数人が国外にある事務所若しくは事業所等に勤務している場合又は長期間の航海、遠洋漁業等に従事している場合において、その職務の内容などに照らして、申告期限の翌日から3年を経過する日までに帰国できないとき
(ニ) 申告期限の翌日から3年を経過する日において、相続税法施行令第4条の2第1項第1号から第3号までに掲げる事情又は上記(イ)から(ハ)までに掲げる事情があった場合において、申告期限の翌日から3年を経過する日後にその事情が消滅し、かつ、その事情の消滅前又は消滅後新たに同項第1号から第3号までに掲げる事情又は上記(イ)から(ハ)までに掲げる事情が生じたとき

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2 主張

(1) 請求人

 請求人には、本件特例の適用を受けようとする遺産が未分割であることについてやむを得ない事由が次のとおり存在するので、原処分は違法、不当であるから、その全部を取り消すべきである。
イ 本件被相続人が関係していたG社と原処分庁との訴訟が係属中であること。
ロ 請求人は、訴訟事件7件、雑事件10件、その他9件等多数の事件を自ら当事者として抱えて多忙であったこと。
ハ 遺産の一部(定期預金及び公社債)については分割を了するなど、請求人は分割協議の完了に努力していること。
ニ Eが病気で通院加療中であり、同人に対して配慮する必要があったこと。

(2) 原処分庁

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 異議申立てに係る調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、異議申立てに係る調査担当者(以下「異議調査担当者」という。)に対して、要旨次のとおり申述している。
A 本件相続に係る財産のうち未分割の土地、建物及び株式の分割については、本件申告書を提出後も何度か共同相続人間で分割の話合いをしているが、土地及び建物については、被相続人から生前に請求人に相続させる話があったのにもかかわらずE及びFが権利主張することから、請求人においては合意できるものではなく、また、Eが病気で体調が悪いことから請求人の言い分を強く通すこともできないため、まとまらない。
B Eが病気で体調が悪いことと世間体に対する配慮及び姉妹間の絆の断絶はしたくないことから、訴訟までして分割することを回避している。
C 土地、建物及び株式はいまだ分割できていないが、定期預金及び公社債は分割した。
(ロ) Eは、異議調査担当者に対して、要旨次のとおり申述している。
A 本件相続に係る財産の分割については、本件申告書を提出後も年に1度か2度、共同相続人間で話合いをしている。
B 平成18年○月に共同相続人間の話合いにより公社債の分割を決定したが、土地及び建物については、被相続人の生前に土地及び建物は請求人が相続するとの話があったとの請求人の主張に納得ができないので、土地、建物及び株式が分割できていない。
C 自分の病気は加療中であるが、通院しながら普通の生活を送っており相続財産の分割に影響することはない。
ロ 請求人の主張について
(イ) 上記(1)のイないしハについて
 G社と原処分庁との訴訟が係属中であること、請求人が多数の訴訟事件を抱えて多忙であったこと及び遺産の一部について分割を了するなど分割協議の完了に努力していることは、いずれも上記1の(3)のハ及びホの「やむを得ない事情」に該当しない。
(ロ) 上記(1)のニについて
 上記イの(イ)の請求人の申述から、Eが病気であることもあり訴訟してまで分割することを避け、共同相続人間で相続財産を分割するための話合いを続けていることがうかがえるが、上記イの(ロ)のEが病気で通院加療中であるが相続財産の分割に影響することはない旨の申述から、Eが病気で通院加療中であったとしても、申告期限の翌日から3年を経過する日、すなわち平成18年○月○日において、共同相続人の一人又は数人が精神又は身体の重度の障害疾病により加療中であるため客観的に遺産分割ができなかったとは認められないので、上記1の(3)のハ及びホの「やむを得ない事情」に該当しない。

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3 判断

 請求人の主張する上記2の(1)のイないしニの事情が、相続税法施行令第4条の2第1項各号に規定するやむを得ない事情に該当するか否かについて争いがあるので、判断する。

(1) 法令等

 本件特例の適用を受けるには、申告期限内に特例対象宅地等について分割を了していることが原則であるところ、申告期限内に分割ができない場合も考えられることから、一般的に遺産を分割するのに十分な期間と思われる申告期限から3年以内に分割された場合に本件特例の適用を受けることができる(措置法第69条の4第4項)こととし、また、申告期限から3年を経過するまでの間に、当該宅地等が分割されなかったことにつき、丸1訴えの提起がされている場合、丸2和解等の申立てがされている場合、丸3遺産分割の禁止等がされている場合には、それらの事情が消滅した日の翌日から4月以内に分割された場合も本件特例を適用することができることとされている(相続税法施行令第4条の2第1項第1号ないし第3号)。
 このように、申告期限の翌日から3年を経過する日までの間に相続又は遺贈に係る財産が分割されなかったことにつき、訴えの提起がされている場合などやむを得ない事情に該当する客観的事実が相続税法施行令第4条の2第1項第1号から第3号までに限定列挙されているところであるが、このほか、同日までに分割されなかったこと及び当該財産の分割が遅延したことにつき税務署長においてやむを得ない事情があると認められる場合が規定されている(同項第4号)。
 この税務署長においてやむを得ない事情があると認められる場合については、訴えの提起があった場合などと異なり、個々の具体的事例に即し、税務署長が客観的な事実に基づいて認定することとなり、そのよりどころとする判断の基準が必要となることから、上記1の(3)のホのとおり本件通達においてその判断基準が定められており、当審判所においてもその取扱いは相当であると認められる。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、上記2の(2)のイの(イ)のとおり、また、Eは、上記2の(2)のイの(ロ)のとおり申述している。
ロ Fは、異議調査担当者に対し要旨次のとおり申述している。
(イ) 平成16年の春ころに定期預金を分割し、平成18年○月に公社債を分割した。
(ロ) 平成18年の○月に株式についても3分の1ずつ分割する予定で計算の上、書類を作成していたが、土地及び建物を請求人が一人で相続するというので納得できず、分割ができなくなってしまった。

(3) 以上の事実を上記(1)の法令等に照らしてみると、次のとおりである。

イ 相続税法施行令第4条の2第1項第1号ないし第3号該当性について
 請求人の主張するいずれの事情についても、本件特例の適用を受けようとする遺産が未分割であることについて、相続税法施行令第4条の2第1項第1号ないし第3号に規定する本件相続に関する訴えの提起、和解、調停の申立て等のやむを得ない事情があったと認めるに足りる証拠はないので、同項第1号ないし第3号には該当しないというほかない。
ロ 相続税法施行令第4条の2第1項第4号該当性について
(イ) 請求人の主張する上記2の(1)のイないしハの事情は、当該事情が前提としてあったとしても、いずれも本件通達に定めるような客観的に遺産分割ができないと認められる事情には該当しないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) 請求人の主張する上記2の(1)のニの事情は、Eが病気療養中であったとはいえ精神又は身体の重度の障害疾病のために遺産分割が行えなかったとはいえず、共同相続人間で分割協議を行うことは可能であったと認めるのが相当であり、本件通達に定めるような客観的に遺産分割ができないと認められる事情には該当しないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ) したがって、請求人の主張する事情はいずれも相続税法施行令第4条の2第1項第4号には該当しない。

(4) 以上のとおり、本件特例の適用を受けようとする遺産が未分割であることについて、相続税法施行令第4条の2第1項各号に規定するやむを得ない事情があったとは認められないのであるから、本件却下処分に違法、不当な点はない。

(5) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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