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(平19.2.8、裁決事例集No.73 519頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、ビジネスホテル業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成15年12月1日から平成16年11月30日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の計算上、建物、建物附属設備、構築物、車両運搬具及び工具器具備品(以下「本件建物等」という。)の取得に係る消費税額を本件課税期間における仕入れに係る消費税額の控除税額(以下「控除対象仕入税額」という。)に算入したことについて、原処分庁が、本件建物等の引渡しの日は、本件建物等の所有権移転登記等がなされた平成15年11月27日であり、本件課税期間では控除対象仕入税額に算入できないとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、本件建物等の引渡しの日は契約当事者が確認書及び合意書で定めた平成16年1月31日であるとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、本件課税期間の消費税等の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成17年10月31日付で、別表の「更正処分等」欄のとおり、本件課税期間の消費税等の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成17年12月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成18年2月28日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成18年3月23日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

イ 消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項は、事業者(同法第9条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除されている事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定している。
ロ 消費税法基本通達11−3−1《課税仕入れを行った日の意義》は、消費税法第30条第1項第1号に規定する「課税仕入れを行った日」とは、課税仕入れに該当することとされる資産の譲受け若しくは借受けをした日又は役務の提供を受けた日をいうのであるが、これらの日がいつであるかについては、別に定めるものを除き第9章《資産の譲渡等の時期》の取扱いに準ずる旨定めている。
ハ 消費税法基本通達9−1−13《固定資産の譲渡の時期》は、固定資産の譲渡の時期は、別に定めるものを除き、その引渡しがあった日とし、ただし、その固定資産が土地、建物その他これらに類する資産である場合において、事業者が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときは、これを認める旨定め、同通達の注書きは、本文の取扱いによる場合において、固定資産の引渡しの日がいつであるかについては、同通達9−1−2の例による旨定めている。
ニ 消費税法基本通達9−1−2《棚卸資産の引渡しの日の判定》は、棚卸資産の引渡しがいつであるかについては、例えば、出荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日、検針等により販売数量を確認した日等、当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じてその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち、事業者が継続して棚卸資産の譲渡を行ったこととしている日によるものとし、この場合において、当該棚卸資産が土地又は土地の上に存する権利であり、その引渡しの日がいつであるか明らかでないときは、次に掲げる日のうちいずれか早い日にその引渡しがあったものとすることができる旨定めている。
1 代金の相当部分(おおむね50%以上)を収受するに至った日
2 所有権移転登記の申請(その登記の申請に必要な書類の相手方への交付を含む。)をした日
ホ 旅館業法(平成17年法律第123号による改正前のもの。)第3条第1項は、旅館業を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない旨規定し、同条第2項は、都道府県知事は前項の許可の申請があった場合において、その申請に係る施設の構造設備が政令で定める基準に適合しないと認めるとき、又は当該施設の設置場所が公衆衛生上不適当であると認めるときは、同項の許可を与えないことができる旨規定している。
 また、P県旅館業法施行細則第○条《事務の委任》第○号は、旅館業法第3条第1項の規定により、営業を許可することに係る事務は、保健所長に委任する旨規定している。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成15年11月27日付でA社との間で、土地・建物売買契約証書(以下「本件売買契約書」といい、本件売買契約書で表示された契約を「本件売買契約」という。)を取り交した。
ロ 本件売買契約書には、要旨次のとおりの記載がある。
(イ) A社は、請求人に対し、Q市q町○−○○及び同○○に所在する合計742.96平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)並びに同所に所在する鉄筋コンクリート造の床面積合計3,194.23平方メートルの建物(以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件不動産」という。)を譲渡する。
(ロ) 請求人は、本件売買契約と同時に本件不動産の売買代金として410,000,000円をA社に支払う。
(ハ) 売買代金のうち、本件建物の金額は195,823,810円(税抜き)であり、消費税等の額は9,791,190円である。
(ニ) 売買代金の支払と同時に、A社が請求人に対し、所有権移転登記申請手続に必要な一切の書類を交付する。
(ホ) A社は、請求人に対し、所有権移転時に現状有姿にて本件不動産を引き渡す。
(ヘ) 本件不動産の所有権は、請求人が売買代金の全額をA社に支払うと同時に移転する。
(ト) A社は、所有権移転のときまでに、本件不動産について抵当権、質権、地上権、地役権又は賃借権の設定その他所有権の完全な行使を阻害する瑕疵があるときはもちろん、公租公課その他賦課金及び負担金の未納があるときは、これを抹消し、又は精算したる後に瑕疵のない完全な所有権を買主に移転しなければならない。
(チ) 本件不動産に付属する附帯設備及び備品等は、上記(ヘ)の所有権移転と同時に請求人の所有に帰属するものとする。
ハ 請求人は、平成15年11月27日、B社との間で本件不動産の購入資金とするため326,000,000円の金銭消費貸借契約を締結し、同日、B社を債権者として、債務者及び根抵当権設定者をいずれも請求人とする根抵当権設定契約書兼代物弁済予約証書を作成するとともに、本件不動産にB社を根抵当権者とする極度額391,200,000円の根抵当権の設定登記を行った。
ニ 請求人は、平成15年11月27日に、本件不動産の売買代金全額をA社へ支払った。
ホ 平成15年11月27日、同日の売買を原因としてA社から請求人に対し所有権移転登記(以下「本件所有権移転登記」という。)がなされた。
ヘ 請求人は、A社との間で平成15年11月27日付の確認書(以下「本件確認書」という。)を取り交わし、本件確認書には、要旨次のとおりの記載がある。
(イ) 本件売買契約書で定めた本件不動産の引渡しの時期及び所有権移転の時期について、本件確認書を取り交わす。
(ロ) A社は、請求人に対し、本件不動産を、請求人が事業目的を変更し、商業登記が完了し、関係諸官庁による営業許可時に引き渡す。
(ハ) 本件不動産の所有権は、上記(ロ)の引渡し時に移転するものとし、請求人は上記(ロ)の引渡し時まで、A社が自己所有のものとして使用することができるものとする。
ト 請求人は、原処分庁に対し、平成15年11月28日に16月1日から翌年5月31日までの事業年度を12月1日から翌年11月30日までの事業年度に変更する事業年度の変更・異動届出書及び2本件課税期間を適用開始課税期間とする消費税課税事業者選択届出書を提出した。
チ 請求人は、A社との間で平成16年1月31日付の合意書(以下「本件合意書」という。)を取り交わし、本件合意書には、要旨次のとおりの記載がある。
(イ) A社と請求人は、本件売買契約を締結し、その売買代金の全額は、C銀行の債務弁済のために充当されたこと。
(ロ) 平成16年1月9日付で、P県Q保健所長から請求人に旅館業の許可がなされたこと。
(ハ) 本件不動産の引渡しの期日は、平成16年1月31日とすること。
リ 請求人は、商号を平成16年3月12日に○○社から、現在の社名へ変更し、同年4月○日付で変更登記を行った。
ヌ 請求人の平成15年6月1日から平成15年11月30日までの事業年度の法人税の確定申告書に添付された貸借対照表には、次の記載がある。
(イ) 資産の部の有形固定資産の中に、建設仮勘定として446,874,417円が計上されている。
(ロ) 負債の部の固定負債の中に、長期借入金として326,000,000円が計上されている。
ル 上記ヌの(イ)の建設仮勘定446,874,417円については、いずれも平成16年1月31日付で建設仮勘定から次の各勘定科目へ振替処理がなされている。

(イ) 土地(本件土地)204,385,000円
(ロ) 短期貸付金(D社)3,000,000円
(ハ) 短期貸付金(E社仲介手数料)16,800,000円
(ニ) 前払費用(B社事務手数料)6,846,000円
(ホ) 雑費(B社公正証書作成手数料)120,000円
(ヘ) 損害保険料(F保険会社火災保険料)752,470円
(ト) 租税公課(登録免許税)9,073,500円
(チ) 支払手数料(G司法書士)282,447円
(リ) 建物(A社より買入)157,039,515円
(ヌ) 建物附属設備(A社より買入)37,407,075円
(ル) 構築物(A社より買入)54,208円
(ヲ) 車両運搬具(A社より買入)109,990円
(ワ) 工具器具備品(A社より買入)1,213,022円
(カ) 仮払消費税(本件建物等の取得に係る消費税等)9,791,190円

 なお、本件建物等には、上記(リ)の建物のほか、同(ヌ)建物附属設備、同(ル)構築物、同(ヲ)車両運搬具及び同(ワ)工具器具備品に相当する金額が含まれている。
ヲ 請求人は、本件課税期間の消費税等の計算上、本件建物等の取得に係る消費税額を控除対象仕入税額に算入した確定申告書を提出した。

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2 主張

(1) 請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分
(イ) 本件不動産の引渡しについて
 請求人及びA社との間で取り交わされた本件売買契約書、本件確認書及び本件合意書によれば、契約当事者間では、本件不動産の引渡しは平成16年1月31日とすることで合意している。
 したがって、原処分庁は、民法の規定に基づく契約当事者間の意思表示という法律行為を否定している。
(ロ) 消費税法における固定資産の引渡しの時期の判定について
 消費税法基本通達9−1−13において、固定資産の引渡しがいつであるかについては、「原則、その引渡しがあった日とする。ただし、固定資産が土地、建物その他これらに類する資産である場合、事業者が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときは、これを認める。」旨定めている。また、その引渡しの日がいつであるか明らかでないときは、同通達9−1−2において、「1代金の相当部分(おおむね50%以上)を収受するに至った日、2所有権移転登記の申請(その登記の申請に必要な書類の相手方への交付を含む。)をした日のいずれか早い日」である旨定めている。
 本件不動産の引渡しの日については、本件確認書及び本件合意書に明記されており、引渡しの日がいつであるか明らかでない事情はないので、当事者間で合意した平成16年1月31日となる。
 また、消費税の計算での資産の譲渡等の時期及び課税仕入れの時期は、原則として法人税法の基準を援用しているから、消費税法基本通達9−1−13は、法人税基本通達2−1−14《固定資産の譲渡による収益の帰属の時期》と同旨の定めである。
 法人税基本通達2−1−14では、固定資産のうち、土地、建物及び構築物等については、一般的にその引渡しの事実関係が外形上明らかでないことが多いので、「法人がその譲渡契約の効力の発生の日(一般には特約のない限り契約締結の日)の属する事業年度で収益計上することとしている場合には、これを認める。」とする、いわゆる契約基準が導入されている。
 これら消費税法基本通達及び法人税基本通達を本件不動産の取引に適用すると、本件不動産の用途はビジネスホテルであり、ビジネスホテル業は、関係諸官庁の営業許可なしでは営業できないものである。したがって、P県Q保健所長による旅館業の許可がなされた平成16年1月9日以降が、請求人において本件不動産を使用収益できることとなった日であり、引渡しの日として合理的であると認められる譲渡契約の効力発生の日となる。
(ハ) 以上のことから、本件不動産は、平成16年1月31日に請求人が取得した物件であり、請求人が、本件建物等の取得に要した費用に係る消費税額を控除対象仕入税額に算入して行った本件課税期間の消費税等の確定申告は適法な申告であり、本件更正処分は違法に行われたものであるので、その全部を取り消すべきである。
ロ 本件賦課決定処分
 上記イで述べたとおり、本件更正処分はその全部が取り消されるべきであるから、これに伴い、本件賦課決定処分もその全部が取り消されるべきである。

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(2) 原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分
(イ) 本件不動産の引渡しについて
 本件不動産の引渡しの時期について、平成15年11月27日に、1本件売買契約書が取り交わされていること、2売買代金のすべてが請求人からA社に支払われていること、3本件所有権移転登記がなされていること、4本件不動産上にB社の根抵当権が設定されていることからすると、本件不動産を請求人が取得した日は、同日であると認められる。
 したがって、請求人が本件確認書及び本件合意書で合意した本件不動産の引渡しの期日である平成16年1月31日を本件不動産の引渡しの時期とすることは認められず、本件建物等の取得に要した費用に係る消費税額は、本件課税期間における控除対象仕入税額とはならない。
(ロ) 消費税法における固定資産の引渡しの時期の判定について
 固定資産の取得の時期の判定に当たっては、契約上の取得の時期に関する文言にのみとらわれることなく、実質的にその資産に対する支配関係の変動がいつあったかという観点から判断すべきであると解される。
 本件不動産の場合、平成15年11月27日に本件売買契約が締結され、それと同時に売買代金のすべてが請求人からA社に支払われ、同時に本件所有権移転登記がなされていることからも、同日をもって本件不動産に対する実質的な支配関係の変動があったと認めるのが相当であり、さらに、請求人は、本件不動産上に請求人を債務者とするB社の根抵当権を設定させていることからしても、経済的取引の実体において平成15年11月27日に本件不動産の引渡しがあったと判断するのが相当である。
 したがって、本件確認書及び本件合意書で合意した平成16年1月31日に本件建物等の引渡しがなされたとする根拠は認められず、請求人の主張する本件確認書及び本件合意書による合意の日付をもって消費税法基本通達9−1−13に規定する「事業者が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているとき」とすることは認められない。
ロ 本件賦課決定処分
 上記イで述べたとおり、本件更正処分は適法に行われており、請求人には国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由がある場合」に該当する事由もないことから、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件の争点は、本件建物等の取得に要した費用に係る消費税額が、本件課税期間の控除対象仕入税額に算入されるか否かにあるので、審理したところ、次のとおりである。

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人からP県Q保健所長に対し平成15年12月4日付で申請のあった旅館業営業許可については、旅館業法第3条の規定により平成16年1月9日付(P県指令 Q保福 第○○○号)で許可され、営業許可書には、要旨次の記載がある。

(イ) 営業の種類 旅館営業
(ロ) 営業所所在地 Q市q町○−○○
(ハ) 名称 ○○(旅館)
(ニ) 構造 鉄骨鉄筋コンクリート造 7階建 1棟 延べ3,276.54平方メートル
(ホ) 客室数及び定員 ○○室 ○○名

ロ 当審判所が、P県Q保健所に旅館業営業許可申請(以下「営業許可申請」という。)について照会したところによれば、要旨次のことが認められる。
(イ) 営業許可申請は、既存の建物があり、その建物を譲り受けて営業者が代わる場合であっても、また、新規に建物を建設して営業を開始する者における場合であっても、いずれも確認の手続は同じであり、当該建物の構造基準等の検査を必ず実地で行う。
(ロ) 営業許可申請は、旅館営業開始の意思があり、営業を行うことになる建物が存在すればいつでも提出可能である。
(ハ) 営業許可申請は、営業者ごとに申請を行うこととなっており、営業許可申請を行った営業者は、都道府県知事の許可を受けた日である営業許可日から旅館営業が可能となる。
(ニ) 営業許可の主な要件としては、1営業者に欠格事由がないか、2施設の設備が基準に合致しているか、3衛生面は基準を満たしているかが挙げられる。
 許可に当たっては、その営業を行う建物の構造、規格及び衛生施設等が基準に合致しているかの確認が必要であり、物件の所有者がだれであるかの確認は必要としない。
 なお、要件の確認のため、営業許可申請書の提出の際には、営業施設の構造を明らかにする図面を提出することになっているが、建物を所有していないと営業許可申請ができないというわけではない。
 つまり、当該建物が自己の所有物件であるのか、賃借物件であるのかという所有形態は、営業許可の可否を決定する要件とはなっていない。
(ホ) 営業許可申請時に商業登記簿謄本を提示することになっているのは、営業許可申請する法人が存在するのか、また、代表者がだれであるのかを確認するためであり、商業登記簿の目的欄に旅館業、例えばホテルの経営等の記載がなくても営業許可の要件ではないため、その事実だけをもって不許可になることはない。
 なお、そのような場合には、目的欄に旅館業を加えるよう指導を行うが、それが是正されないからといって営業許可の可否を左右するものでもない。

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(2) 本件更正処分について

イ 消費税法第30条第1項における課税仕入れを行った日がいつであるかは、課税仕入れと課税資産の譲渡等が表裏の関係にあることから、資産の譲渡等の時期に準じて判断するのが相当であると認められ、この資産の譲渡等の時期は、所得税又は法人税における収益の計上基準と同様に、課税仕入れとなる資産の譲受け等及び借受けをした日又は役務の提供を受けた日と解されている。
 そうすると、固定資産の譲渡の時期は、当審判所においても上記1の(3)のハ及びニに基づき判断することが相当と認められ、その引渡しのあった日の判断に当たっては、引渡しという具体的事実を重視し、その取引に係る経済的効果の実現、すなわち経済的実質からみた支配関係の変化にその基礎をおくべきであると考えられる。
 つまり、土地及び建物の譲渡の時期は、権利証の交付、登記の有無、代金の受領状況などの客観的な取引実態によって引渡しが実現しているかどうかという事実の認定と法的評価の問題とみるべきで、必ずしも契約形式からの当事者の主観的意思のみによって判断するのは妥当ではない。
ロ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 上記1の(4)のイないしホのとおり、本件売買契約書を締結した平成15年11月27日に請求人は売買代金の全額を売主であるA社へ支払い、同日、所有権移転登記を了しているばかりか、B社に対して、債務者及び根抵当権設定者をいずれも請求人とする根抵当権設定契約書兼代物弁済予約証書を作成するとともに、本件不動産にB社の根抵当権の設定登記を行っていることが認められる。
(ロ) 上記(1)のロのとおり、1営業許可申請は、旅館営業開始の意思があり、営業を行うことになる建物が存在すればいつでも提出可能であること、2営業許可申請の要件の審査に当たっては、その営業を行う建物の構造、規格及び衛生施設等が基準に合致しているかの確認は必要であるが、建物の所有形態により営業許可申請の可否が左右されるものではないこと、並びに3本件売買契約書、本件確認書及び本件合意書によれば、請求人に対して関係諸官庁による旅館業の営業許可がされなければ本件売買契約の効力は生じないとする旨の約定もないことをも併せ考えれば、本件売買契約書、本件確認書及び本件合意書は、旅館業の営業許可を受けることを停止条件とする契約であるとは認められない。
(ハ) 以上のことから、本件不動産の引渡しは、平成15年11月27日に完了していると認めることが相当であり、そうすると、本件建物等の取得の対価及び取得に要した費用に係る消費税額は、本件課税期間の控除対象仕入税額とは認められない。
ハ 請求人は、引渡しの日の判定の解釈に当たって、消費税基本通達9−1−13の定めによれば、事業者が本件不動産の譲渡契約の効力発生の日を譲渡時期とすることとする場合にはこれを認めるとしており、本件売買契約に関して作成された本件確認書及び本件合意書には、本件不動産の引渡しの期日を平成16年1月31日とする旨の記載があることから、本件建物等の取得の対価及び取得に要した費用に係る消費税額は、本件課税期間の控除対象仕入税額である旨主張する。
 しかしながら、契約書記載の合意が当事者間において真意でなされたとしても、上記ロの(イ)及び(ロ)の事実関係のもとにおいては、本件不動産は、本件合意書に記載された引渡しの期日である平成16年1月31日よりも前の平成15年11月27日に現実に引渡しが完了しているものと認められ、このように引渡しの日について合理的と認められる日が存在している場合には、本件不動産の引渡しの時期についての当事者間の合意があるからといって課税仕入れの時期を左右し得ないものというべきである。
 また、本件売買契約書、本件確認書及び本件合意書は、旅館業の営業許可を受けることを停止条件とする契約であるとは認められないことから、上記1の(3)のハの消費税法基本通達9−1−13のただし書で定める契約の効力の発生の日は、平成15年11月27日というべきであり、同通達を根拠として本件建物等の引渡しの期日は平成16年1月31日であるとする請求人の主張は認められない。
 これらのことから、契約時における当事者間の主観的意思に基づいて作成されている本件確認書及び本件合意書の存在は、控除対象仕入税額の帰属課税期間が本件課税期間ではないとした前述の判断の妨げとなるものではない。
ニ 以上のとおり、本件建物等の取得の対価及び取得に要した費用に係る消費税額を本件課税期間の控除対象仕入税額ではないとした本件更正処分に何ら違法な点は認められず、適法である。

(3) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は、上記(2)のとおり適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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