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(平19.11.12、裁決事例集No.74 27頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の平成17年分の所得税について、請求人が、国外での株式配当金が申告漏れであったとして修正申告書を提出したことに伴い、原処分庁が、過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行ったのに対し、請求人が、その違法を理由に全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の審査請求(平成18年12月14日)に至る経緯等は別表のとおりである。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によって認められる事実、又は、証拠によって容易に認定できる事実である。
イ 請求人は、平成17年分の所得税の確定申告(以下「本件確定申告」という。)において、国外における配当所得の金額を申告しなかった。
ロ 原処分庁は、平成18年4月11日付で、「おたずね」と題する書面(以下「本件おたずね文書」という。)を請求人に送付し、請求人の所得税の確定申告に関して尋ねたい旨予告し、来署を依頼した。
ハ 請求人は、平成18年5月26日、A税務署を訪れ、調査担当職員に対し、平成13年中における請求人名義のB国に所在する外国法人C社の証券口座(以下「本件取引口座」という。)のAnnual Brokerage Account Summary(以下「13年分証券口座報告書」という。)を提出するとともに、平成13年から平成17年の各年において、B国に所在する外国法人D社の株式を保有していることを明らかにした。
ニ 請求人は、平成18年5月31日に、「異動の理由」欄に「配当収入計上漏れ」と記載して、D社の株式に係る配当金を配当所得として総所得金額に算入した平成17年分の所得税の修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を、原処分庁へ提出した。

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2 主張

(1) 原処分庁

 調査担当職員は、請求人の本件確定申告の内容について調査の必要性を認めて、請求人に対して調査を行い、その申告内容が不適正であることを指摘し、修正申告をしょうようしたところ、請求人は、そのしょうように応じて本件修正申告書を提出したと認められる。そして、請求人が本件修正申告書を提出しなければ、原処分庁は、更正処分を行っていたのであるから、本件修正申告書は、更正に至るであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後に提出されたもので、かつ、請求人は、やがて更正に至るべきことを認識した上で修正申告を決意して本件修正申告書を提出したものというべきである。
 したがって、本件修正申告書の提出は、通則法第65条第5項にいう「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」には該当せず、請求人の場合、同項の適用はない。

(2) 請求人

 平成18年5月26日に、請求人がA税務署を訪れた際、調査担当職員から修正申告をしょうようされたことはなく、本件修正申告書は自発的に提出したものである。平成18年5月26日は、原処分庁の保有していた情報が全くの誤りであることが明らかになったので、そのことを調査担当職員に説明し、課税庁における過ちの原因の究明と善処を申し入れ、調査担当職員から謝罪を受けただけである。
 また、原処分庁は、誤った内容の情報を保有しており、自らその誤りに気付かなかったばかりか、その誤りを発見しようとすることも放棄していたのであるから、原処分庁が更正を行える状況になかったことは明白であった。したがって、請求人が更正のあるべきことを予知することなど考えられないから、修正申告は、本件確定申告の内容につき、請求人が自ら誤りを発見し、自発的にしたといえる。

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3 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 原処分庁は、遅くとも平成17年9月26日までに、C社が、平成14年中に請求人に対して○○○○B国ドルの支払をした旨の情報(以下「当初入手情報」という。)を入手した。
ロ そこで、原処分庁は、請求人に対して、平成17年9月26日付の「おたずね」と題する書面(以下「当初おたずね文書」という。)を請求人に送付し、平成14年分から平成16年分の所得税の確定申告に関して、海外での資産運用について尋ねたい旨予告した上で、請求人の来署を依頼した。
ハ 調査担当職員は、平成17年10月4日、来署した請求人に対して、本件取引口座において、平成14年中に、ストック・オプションの権利行使益又は配当として、○○○○B国ドルの収入を得ていないかという質問をしたところ、請求人は、心当たりがない旨の申述をした。
 また、請求人は、平成14年中の本件取引口座の取引明細書を持参したが、これらの資料では、正確な所得金額の確認ができず、当初入手情報の是非も確認できなかったことから、調査担当職員は、再度、海外資産の運用に関する資料を用意するよう請求人に依頼した。
ニ 請求人は、調査担当職員に対し、平成17年10月11日、同月4日に指摘された収入が手もとにある書類では見当たらないため、C社に照会を行うことにしたので、資料の提出に時間がかかる旨を電話で伝えたが、その後、追加資料を提出しなかった。
ホ そこで、原処分庁は、平成18年4月11日付で、本件おたずね文書を請求人に送付し、請求人の所得税の確定申告に関して、平成17年10月に依頼した本件取引口座の資料の内容について質問したい事項があるので、調査担当職員を訪ねるよう依頼するとともに、当初おたずね文書で持参を依頼した書類を持参するよう再度依頼した。
ヘ これを受けて、請求人は、平成18年4月13日、調査担当職員に対して電話を架け、A税務署を訪問するのをもう少し待ってもらいたい旨を伝えるとともに、当初入手情報が間違っているのではないかと質問した。
 請求人は、平成18年4月24日にも、調査担当職員に電話を架け、C社から回答がまだ来ないと伝えるとともに、再度、当初入手情報が間違っているのではないかと質問した。これに対して、調査担当職員は、当初入手情報の金額が2桁違っている可能性があると回答した。
ト 請求人は、調査担当職員に対し、平成18年5月8日、C社と連絡がとれたのでこれから交渉に入る旨電話で伝え、同月15日、C社から資料が届いたので、近日中にA税務署に資料を持参し、説明したい旨電話で伝えた。
チ 請求人は、平成18年5月26日、A税務署を訪れ、調査担当職員に対し、C社発行の13年分証券口座報告書を提出した。
 13年分証券口座報告書には、平成13年中に、請求人に対し、D社の株式に係る配当金が都合4回、合計○○○○B国ドル支払われた旨記載されていたことから、当初入手情報で把握した本件取引口座における収入は、D社の株式に係る配当金であったこと、当該配当金の金額及び配当を受けた年月日が確認された。この時点で、当初入手情報は、実際の取引金額よりも2桁多く、また、取引年分も実際の配当日の翌年となっていたことが明らかとなった。
 調査担当職員は、13年分証券口座報告書を踏まえて、請求人に対し質問をしたところ、請求人は、平成13年分ないし平成17年分において、継続してD社の株式を保有しており、同株式に係る配当所得を得ていることが明らかになった。請求人は、平成16年分及び平成17年分の所得税の確定申告において配当所得を申告していなかったことから、調査担当職員は、請求人に対し、申告漏れとなっているD社株式に係る配当所得について修正申告をしょうようした。
リ 請求人は、平成18年5月31日に平成16年分の所得税の修正申告書及び本件修正申告書を原処分庁に対し提出した。

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(2) 以上に基づき判断する。

イ 通則法第65条第1項は、別紙の1のとおり規定しており、本件では別表のとおり、同項に該当する事実が認められる。したがって、通則法第65条第4項又は同条第5項に該当しない限り、過少申告加算税が賦課されるものである。
ロ そして、通則法第65条第5項にいう「調査」とは、課税庁が行う課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものであるから、平成18年5月26日(以下「本件調査日」という。)に平成17年分の配当所得の有無を質問したことからすれば、平成17年分の所得税について、同項に規定する「調査」があったものと認められる。
ハ 次に、通則法第65条第5項が、納税者による自発的な修正申告を奨励し、適正な納税申告の実現を図るために過少申告加算税を賦課しない例外を定めた規定であることからして、課税庁が申告内容について調査を行い、その結果に基づき修正申告のしょうようをした後に、修正申告書の提出があった場合には、自発的な修正申告があったとはいえないから、かかる修正申告書の提出は同項に規定する「更正があるべきことを予知してされたもの」に当たるというべきである。
 これを本件についてみると、上記(1)のチのとおり、本件調査日に、調査担当職員は、13年分証券口座報告書の検討及び請求人に対する質問によって、平成16年分及び平成17年分において、請求人が継続してD社の株式を保有し、同株式に係る配当所得を得ているにもかかわらず、当該配当所得の申告をしていなかったことを把握したことから、修正申告書を提出するように求めたのであって、質問調査の結果に基づき修正申告のしょうようがあったものといえる。したがって、その後になされた本件修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する場合には当たらない。
 なお、請求人は、上記(1)のチの本件調査日のやりとりに関して、原処分庁から本件修正申告書の提出のしょうようを受けたことはなく、むしろ、請求人が課税庁における過ちの原因の究明と善処を申し入れ、調査担当職員からその点について謝罪を受けたものであると主張する。しかしながら、原処分関係資料及び調査担当職員の答述は、上記(1)のチと同旨のものであるところ、1原処分庁は請求人の所得税に関する調査を行うために呼び出したこと、2その日に請求人に対する調査が行われたこと、3その結果、その場で配当所得が申告漏れになっていたという正しい事実が明らかになったこと及び4調査担当職員が調査の経過に照らし、上記配当所得以外の申告漏れは見込まれないと判断したと推認されることからすれば、調査担当職員がそれ以上の調査をせずに、請求人に対して直ちに修正申告のしょうようをしたのは自然のことであり、単に調査過程における過ちについての謝罪のみをしたとは到底考えられないから、上記答述等の信用性について疑いをさしはさむ余地はない。したがって、上記(1)のチのとおり、修正申告のしょうようがあったものといえる。
ニ また、請求人は、原処分庁は、誤った情報を保有しており、正しい情報を入手しようともしていなかったから、更正を行える状況になかった旨主張する。しかし、原処分庁は、本件調査日以前に何度か、請求人に対してC社との取引内容を明らかにする文書を提出するよう求め、当初入手情報の当否を確認するように努めており、また、調査担当者は、本件調査日において、D社の株式に係る配当金が本件取引口座に入金されていたにもかかわらず、当該収入が申告されていなかったという正確な情報を把握した上で修正申告をしょうようしたのであるから、請求人の主張は前提を欠いており理由がない。

(3) 以上のとおり、本件修正申告書の提出について、通則法第65条第5項の適用はなく、また、本件修正申告書の提出により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第4項に規定する正当な理由があるとも認められないから、同条第1項の規定に基づきなされた本件賦課決定処分は適法である。

(4) 原処分のその他の部分及び原処分に至る調査手続については、請求人が主張する点を踏まえ、当審判所に提出された証拠資料等を精査しても、これを不相当とする理由は認められない。

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