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(平19.11.6、裁決事例集No.74 66頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成15年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した減価償却費について、原処分庁が、請求人は、当該減価償却費に係る建物等の移転料については、売買契約の日を譲渡の日として選択し、平成14年分の譲渡所得として申告をしており、その計算上、当該建物等の未償却残高を取得費として控除しているから、当該減価償却費を不動産所得の必要経費に算入することはできないとして、所得税の更正処分等を行ったことに対し、請求人が、原処分庁の認定に誤りがあるとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 審査請求(平成19年4月12日請求)に至る経緯及びその内容は、別表1のとおりである。
 なお、以下、平成19年3月9日付でされた平成15年分の所得税の更正処分を「本件更正処分」という。
ロ 請求人は、原処分を不服として国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定により、平成19年4月12日に審査請求した。

(3) 関係法令

イ 所得税法(平成19年法律第6号による改正前のものをいう。以下同じ。)第49条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項は、居住者のその年12月31日において有する減価償却資産につきその償却費として同法第37条《必要経費》の規定によりその者の不動産所得等の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その者が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかった場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする旨規定している。
ロ 所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定し、同条第2項本文及び同項第1号では、譲渡所得の基因となる資産が家屋その他使用又は期間の経過により減価する資産である場合には、同条第1項に規定する資産の取得費は、同項に規定する合計額に相当する金額から、その取得の日から譲渡の日までの期間のうち不動産所得等を生ずべき業務の用に供されていた期間について、同法第49条第1項の規定により当該期間内の日の属する各年分の不動産所得等の金額の計算上必要経費に算入されるその資産の償却費の額の累積額を控除した金額とする旨規定している。

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(4) 基礎事実

イ 売買契約
 請求人は、A社から別表2−1記載の土地(以下「本件各土地」という。)の買取り等の申出を受け、平成14年9月30日、同社との間で、要旨次の内容の契約を締結した(以下「本件契約」という。)。
 なお、請求人は、本件契約の時において、本件各土地及び別表2−2記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有していた。
(イ) 請求人は、A社に対し、本件各土地を代金○○○○円で売り渡す。
(ロ) A社は、請求人に対し、上記(イ)の売買代金のほか、建物移転料、工作物移転料、家賃減収補償金、移転雑費補償金、立竹木等移転料及び残地補償金として○○○○円を支払う。
(ハ) 請求人は、A社に対して、本件各土地を平成15年3月31日までに引き渡す。
ロ 変更契約
 請求人は、平成15年3月31日、A社との間で、本件各土地の引渡期限を平成16年3月31日に変更する旨の変更契約を締結した。
ハ 平成14年分の所得税の確定申告
 請求人は、原処分庁に対し、平成15年3月17日、平成14年分の所得税について、別表3の「確定申告」欄記載の内容の確定申告書を提出した。
 なお、請求人は、上記確定申告書において、本件各土地の譲渡に対して租税特別措置法(平成16年法律第14号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第33条の4《収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除》第1項の規定による特例(以下「本件特例」という。)を適用している。
ニ 平成14年分の所得税の修正申告
 請求人は、原処分庁に対し、平成15年4月30日、平成14年分の所得税について、別表3の「修正申告」欄記載の内容の修正申告書を提出した。
 なお、請求人は、当該修正申告書において、上記イの(ロ)の建物移転料、工作物移転料及び残地補償金を分離長期譲渡所得の総収入金額に加算し、建物移転料及び工作物移転料(以下、併せて「本件建物等移転料」という。)について本件特例を適用している。
 また、当該修正申告書と併せて提出された、請求人の平成14年分所得税青色申告決算書(不動産所得用)には、本件建物に係る減価償却資産の名称、取得年月及び取得価額が別表4のとおり記載されており、その「未償却残高(期末残高)」欄はいずれも「0円」となっている(以下、別表4記載の減価償却資産を「本件減価償却資産」という。)。
 そして、譲渡所得の内訳書(計算明細書)には、「建物」欄の取得費として「53,128,996円」と記載されている。
ホ 平成15年分の所得税の確定申告
 請求人は、原処分庁に対し、平成16年3月12日、平成15年分の所得税の確定申告書及び平成15年分所得税青色申告決算書(不動産所得用)を提出した。
 なお、請求人は、本件減価償却資産に係る平成15年分の減価償却費(以下「本件減価償却費」という。)として、別表4の「平成15年分確定申告」欄の「償却費」欄の合計2,488,112円を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入している。

(5) 争点

 本件減価償却費を必要経費に算入できるか否か。

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2 主張

原処分庁 請求人
(1) 本件建物等移転料については、本件特例を適用し、契約締結日により譲渡所得を得たものとして平成15年4月30日に修正申告(以下「本件修正申告」という。)をしており、平成14年分の譲渡所得の計算上、本件建物の未償却残高を取得費として譲渡所得の収入金額から控除しているのであるから、これと別個に、平成15年分の不動産所得の計算においても本件減価償却費を控除することは、平成14年10月分以降の本件建物の未償却残高を二重に控除することになり、認められない。 (1) 本件建物は平成16年3月31日に取り壊しており、平成15年12月31日時点では請求人が所有し、賃貸中であり、不動産所得を生ずべき業務の用に供しているから、所得税法第49条の規定からすると、本件減価償却費は平成15年分の不動産所得の必要経費に算入しなければならない。
(2) 本件建物等移転料は、本来は譲渡所得ではなく一時所得というべきものであるところ、一時所得も所得税法上の収入帰属の時期は権利確定主義が妥当するから、支払請求権の取得によって所得が発生したものとみるべきであり、移転や取壊しが未了であることを理由として所得が発生していないとはいえない。
 また、建物等の移転に要する費用の補償金については、当該建物等を取り壊したときは譲渡所得とすることができ、これは、土地が収用されるに伴って土地上の資産が取り壊される場合であるからこそ、本来は一時所得である同資産の補償金も譲渡所得とすることができ、本件特例を受けられることとしたものと解され、土地上の資産の取壊し等による補償金を取得した者がこれを譲渡所得として申告するためには上記土地の譲渡所得と同一年分の所得として申告しなければならないから、本件修正申告は適法である。
(2) 本件建物等移転料は、実際に当該建物を取り壊した時は、当該建物の対価補償金として取り扱うことができることからすると、実際に建物を取り壊した平成16年分の譲渡所得として申告すべきであり、平成14年には本件建物の譲渡所得の総収入金額は発生していないから、本件修正申告は、申告義務のない違法な申告である。
 なお、建物の譲渡所得について、土地の譲渡所得と同一年分の所得として申告しなければならないとするならば、本件においては、いずれの譲渡所得も平成16年分となるべきである。

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3 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人が、本件減価償却費の計算の対象とした本件減価償却資産と、本件建物等移転料の対象となった建物及び工作物は同一である。
ロ 請求人は、平成16年3月26日ころから同月31日ころの間に本件建物の取壊しを行った。

(2) 本件減価償却費について

イ 建物等の減価償却資産の減価償却については、当該資産が長期間にわたって収益を生み出す源泉であり、その取得に要した金額は将来の収益に対する費用の一括前払いの性質を有しているので、費用収益対応の原則から、当該金額は、所得金額の計算上、取得時に一括して費用に計上するのではなく、使用又は時間の経過によりそれが減価するのに応じ、徐々に費用化するのが妥当であるとの観点から認められている会計技術であり、所得税法上も、業務の用に供されている建物等について取得に要した金額は、所得税法第49条第1項の規定により、不動産所得等の計算において支出時の一時の必要経費に算入するのではなく、一定の方法により減価償却の計算を行い、算出された減価償却費の金額を業務に供された各年分の必要経費に算入することとなり、その減価償却費の金額の合計額が一定の限度額の金額に達するまで控除することとなる。
 また、譲渡所得の本質がキャピタル・ゲイン、すなわち所有資産の価値の増加益であって、譲渡所得に対する課税は、資産が譲渡によって所有者の手を離れるのを機会に、その所有期間中の増加益を清算して課税しようとするものであることから、建物等の減価償却資産を譲渡した場合、所得税法第38条の規定により、譲渡所得の計算においては、当該資産の取得に要した金額から使用又は時間の経過により減価した減価償却費相当額(当該資産が不動産所得等の業務の用に供されている資産である場合には、不動産所得等の金額の計算上必要経費に算入された減価償却費の額の累計額)を控除した金額を取得費とし、譲渡所得から控除することとなる。
 そして、これらいずれの規定も、現行の所得税法が、所得について、「各人が収入等の形で新たに取得する経済的価値、すなわち経済的利得を所得と観念した上で、原資の維持に必要な投下資本の回収部分は、所得を構成しない。」との考え方を採用していることから、各種所得の金額を計算する上で、業務の用に供されている建物等の減価償却資産の取得に要した金額を各種所得の総収入金額から控除するとの考えに基づくものと解される。
 なお、その控除の方法に関して、建物等の減価償却資産が、業務の用に供されている場合又は譲渡される場合で異なるのは、現行の所得税法が、各種所得の性質や発生の態様によって担税力が異なるという前提に立って、公平負担の観点から、各種所得について、それぞれの担税力の相違に応じた計算方法を定めていることによると解される。
ロ ところで、所得税基本通達36−12《山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期》は、資産の譲渡に係る譲渡所得は、その資産の譲渡の日の属する年分の所得を構成するというべきところ、当該譲渡の日、すなわち、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、原則として、その資産の引渡しがあった日によることとし、納税者の選択により、当該資産の譲渡に関する契約の効力発生の日により総収入金額に算入して申告があったときはこれを認める旨定めている。
 この取扱いは、譲渡所得の収入すべき時期は、現実に利得を享受し、それを支配管理しているか否かという事実関係に着目して行うべきであるという考え方から、譲渡者が資産を引き渡した時には相手方に対してその譲渡代金を請求することが確定的となり、譲渡代金相当額を収入すべき金額として認識し得る状態となったとみることができることから、その資産の引渡しを課税の時期の徴表としたものであるが、一方、特定物の売買においては、その所有権移転の時期について当事者間に特約がない限り、あるいは即時に所有権が移転することについて障害がない限り、売買契約締結時に当然売主から買主に移転するとの判例・通説の考え方をも取り入れ、納税者が選択した場合には売買契約の効力発生の日を譲渡の日とすることもできるとしたものであり、当審判所においても相当と認められる。
 また、措置法通達33−14《引き家補償等の名義で交付を受ける補償金》は、土地の収用等に伴い、起業者から当該土地等の上にある建物又は構築物を引き家し又は移築するために要する費用として交付を受ける補償金であっても、その交付を受ける者が実際に当該建物又は構築物を取り壊したときには、当該補償金は当該建物又は構築物の対価補償金として取り扱うことができる旨定めている。
 この取扱いは、建物等の取壊しによる損失補償金に対する課税と建物等の移転補償金に対する課税との間で公平な課税となるよう、実態に即して取り扱うというものであり、当審判所においても相当と認められる。
ハ これを本件についてみると、請求人は、平成14年9月30日に本件契約を締結し、所得税基本通達36−12により本件契約の効力の発生した日を譲渡所得の総収入金額の収入すべき日、すなわち、譲渡の日として、平成14年分の所得税の確定申告において本件各土地の譲渡代金を申告し、その後、本件建物等移転料についても、これを措置法通達33−14により対価補償金として、残地補償金とともに平成14年分の譲渡所得として、本件修正申告を行った。
 そして、請求人は、本件修正申告において、譲渡所得の金額の計算上、本件建物等移転料の対象となった本件減価償却資産について、平成14年9月末現在の未償却残高53,128,996円を取得費として控除していることが認められ、これは所得税法第38条の規定に照らして適正なものであると認められるから、本件減価償却資産の取得に要した金額のすべては、請求人の平成14年分までの不動産所得及び譲渡所得の所得金額の計算上、その各所得の総収入金額から控除されている。
 したがって、平成15年分の所得税の不動産所得の金額の計算において、本件減価償却費を必要経費とすることは、本件減価償却資産の取得に要した金額を超える金額を、所得の計算上控除することとなり、すなわち、投下資本の回収部分を超える金額を控除することになるから、本件減価償却費を必要経費に算入することは認められない。
ニ これに対し、請求人は、建物移転補償金は、実際に建物を取り壊したときに対価補償金に当たるものとして取り扱うことができることからすると、本件建物等移転料については、本件建物を取り壊した平成16年分の所得として申告すべきであり、平成14年には本件建物の譲渡所得の総収入金額は発生していないから、本件修正申告は、申告義務のない違法な申告であり、本件各土地及び本件建物等移転料に係るいずれの譲渡所得も平成16年分となるべきである旨主張する。
 しかしながら、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるが、納税者が当該資産の譲渡に関する契約の効力発生の日により総収入金額に算入して申告があったときは、これを認めることと取り扱われていることは、上記ロのとおりである。
 そして、一の契約において、2以上の資産の譲渡が行われた場合、一部の資産について、その引渡しがあった日を譲渡の日とし、他の資産について、契約の効力が発生した日を譲渡の日として申告することは、納税者の選択により、契約の効力発生の日を譲渡の日として選択することを認めた趣旨に合致しない不合理なものであることから、認められないと解すべきである。
 これを本件についてみると、請求人は、本件建物等移転料について措置法通達33−14の定めに従い、本件修正申告においてこれを対価補償金として申告することを選択しており、その後、上記(1)の認定事実のロのとおり、本件建物も実際に取り壊されている。
 また、上記1の(4)の基礎事実のイによれば、本件建物等移転料の支払いに係る契約は、本件各土地の譲渡と一体不可分の契約であると認められ、本件各土地の対価補償金と本件建物等移転料のいずれもがこの契約により平成14年において、収入すべきことが確定した金額であると認められる。
 そして、少なくとも、本件建物等移転料を対価補償金として譲渡所得の総収入金額に算入することを選択した場合には、本件各土地の対価補償金と本件建物等移転料の収入すべき金額に係る譲渡所得の収入すべき時期については、同一の基準で判断すべきであると認められるところ、請求人は本件各土地の対価補償金、残地補償金及び建物等移転料について、契約の効力発生の日の属する平成14年分の譲渡所得の総収入金額として修正申告しており、これは適法な申告であると認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 本件更正処分

 以上から、本件減価償却費を平成15年分の不動産所得の必要経費に算入できないとしてされた本件更正処分は適法である。

(4) その他

 過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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