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(平19.10.9、裁決事例集No.74 98頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、A国に所在するマンションを譲渡した所得を平成16年分の所得に含めずに所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該譲渡に係る譲渡所得が申告漏れであるとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該譲渡所得はA国でも課税対象となることから、外国税額控除が適用されるとして同処分等の一部の取消しを求め、また、平成16年分の所得税において外国税額控除が適用されないのであれば平成17年分の所得税において外国税額控除が適用されるとした更正の請求に対して、原処分庁が行った更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成16年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書(以下「本件16年分確定申告書」という。)を法定申告期限までに提出した。
ロ 請求人は、平成17年分の所得税について、別表2の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書(以下「本件17年分確定申告書」という。)を法定申告期限までに提出した。
ハ 原処分庁は、請求人の平成16年分の所得税について、平成18年3月30日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ニ 請求人は、平成18年5月12日、上記ハの各処分を不服として審査請求をした。
ホ その後、原処分庁は、譲渡所得の金額に誤りがあったとして、平成18年7月6日付で、別表1の「減額更正処分等」欄のとおりの減額更正処分及び過少申告加算税の変更決定処分をした(以下、この減額更正処分後の上記ハの更正処分を「本件更正処分」といい、この変更決定処分後の上記ハの賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)。
ヘ 請求人は、平成18年9月14日、本件17年分確定申告書に所得税法(平成17年法律第21号による改正前のもの。以下同じ。)第95条《外国税額控除》第8項に規定されている外国税額控除(以下「外国税額控除」という。)の金額の記載が漏れていたとして、別表2の「更正請求」欄のとおり記載した更正の請求書(以下「本件更正請求書」という。)を提出した。
ト 原処分庁は、上記ヘの請求人の更正の請求に対し、平成18年12月13日付で、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
チ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成18年12月20日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成19年3月7日付で棄却の異議決定をした。
リ 請求人は、平成19年3月14日、異議決定を経た後の本件通知処分に不服があるとして審査請求をしたので、本件更正処分及び本件賦課決定処分に対する審査請求と併合審理する。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、A国に所在するコーポラティブハウスの1室(以下「本件マンション」という。)を平成16年7月14日に○○○○ドル(24,365,060円)で譲渡し、本件マンションの譲渡による譲渡所得(以下「本件譲渡所得」という。)の金額は10,695,218円である。
ロ 本件16年分確定申告書には本件譲渡所得及び外国税額控除に関する記載はなく、外国税額控除に関する明細書(以下「外税控除明細書」という。)の添附もされていない。
ハ 本件17年分確定申告書には、外税控除明細書及び外国所得税を納付したことを証する書類が添附されており、当該外税控除明細書には、別表3の「確定申告」欄のとおりの記載がある。
ニ 請求人は、平成17年4月19日付で、A国国税当局に本件マンションの譲渡に係る所得税の申告を行い、A国の所得税(国税)として○○○○ドル並びに州及びC市の所得税(地方税)として○○○○ドルの合計○○○○ドル(この邦貨換算額は○○○○円である。以下、この金額を「本件外国所得税額」という。)を平成17年5月19日に納付した。
ホ 本件更正請求書には、別表3の「更正請求」欄のとおり記載された外税控除明細書が添附されている。

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2 主張

(1) 請求人

 本件譲渡所得が日本とA国の両方で課税対象となっており、二重課税の状況にあることから、外国税額控除の適用を認め、平成16年分の所得税の額から1,440,450円を控除すべきである。
 さもなくば、本件17年分確定申告書において、外国税額控除の金額が記載もれとなっているので、その記載もれとなった金額1,440,450円を平成17年分の所得税の額から控除すべきである。
 外国税額控除を適用させるべきその具体的な理由は以下のとおりである。
イ 本件マンションの譲渡に係る所得税のA国国税当局への申告期限は平成17年6月15日であり、本件16年分確定申告書の申告期限は平成17年3月15日であることから、本件16年分確定申告書にA国で申告することにより確定した本件外国所得税額を記載することが物理的に不可能であるにもかかわらず、本件16年分確定申告書に本件外国所得税額を記載していないことを理由として平成16年分及び平成17年分の所得税の申告において外国税額控除の適用を認めないとすることは不当である。
ロ 本件16年分確定申告書の提出期限である平成17年3月15日までに、平成17年6月15日が提出期限であるA国で、申告をすること及び外国所得税を納付することは不可能であるにもかかわらず、本件16年分確定申告書に外税控除明細書等の添附がないことを理由として平成16年分及び平成17年分の所得税の申告において外国税額控除の適用を認めないことは不当である。
ハ 二重課税の排除を目的とした外国税額控除の適用について、譲渡に係る申告の有無で判断することは誤りであり、かつ、無申告であれば期限後申告書を提出することにより外国税額控除の適用を認め、たまたま確定申告をしていれば修正申告書を提出しても外国税額控除の適用を認めないのは、二重課税の排除がされないことから、外国税額控除の適用を認めるべきである。
ニ 本件更正処分で計算された本件譲渡所得の金額は10,695,218円であり、同処分による所得税額○○○○円、追徴された住民税○○○○円及びA国で納付した本件外国所得税額○○○○円の合計金額は○○○○円であることから、本件譲渡所得の金額に対する割合は、日本の所得税及び地方税の最高税率の合計の50%を超えた違法な課税処分となっていることは明白であり、外国税額控除を適用し、所得税の額から1,440,450円を控除すべきである。

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(2) 原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ) 外国税額控除の制度は、国が課税権の行使について一方的に譲歩する措置であり、所得税法第95条第4項は、この措置の適用を受けようとする者において、確定申告書に自らその意思内容を明確に示すことを要する旨を規定したものと解されている。そして、所得税法第95条第6項に規定する「やむを得ない事情」とは、天災、交通途絶その他納税者の責めに帰すことのできない事情等をいい、納税者が税法を知らなかったことや事実を誤認したことなどの事情はこれに当たらないと解されている。
(ロ) 請求人の場合、本件16年分確定申告書には外国税額控除に関する記載がなく、当該控除に関する書類の添附も行っていないが、このことについて請求人の責めに帰すことができないやむを得ない事情があったとは認められない。
(ハ) また、請求人が外国税額控除の適用を求めている所得税(国税)並びにB州及びC市の所得税(地方税)の納付確定日は、いずれも平成17年4月19日であって、平成16年中ではないから、これらが請求人の平成16年分の所得税における外国税額控除の対象となるものでないことは明らかである。
(二) したがって、本件更正処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。
ロ 本件賦課決定処分について
 請求人の場合、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があるものと認められるものがある場合」に該当しないので、同条第1項及び第2項の規定に基づき本件賦課決定処分をしたことは適法である。
ハ 本件通知処分について
(イ) 本件更正請求書に記載された内容は、通則法第23条第1項に規定する「税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと」に該当するものではない。
(ロ) また、外国税額控除の適用について、所得税法第95条第6項のいわゆる「ゆうじょ規定」が存在することをもって、更正の請求という形式でこの「ゆうじょ規定」の適用を求めることはできない。
(ハ) したがって、本件通知処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

(1) 本件更正処分について

 請求人は、平成16年分の所得税の計算に当たり、本件譲渡所得について日本とA国の両方で課税されることから、外国税額控除を適用し、所得税の額から1,440,450円を控除すべきであると主張し、原処分庁は、外国税額控除の額はないと主張するので、審理したところ、次のとおりである。
イ 我が国の所得税法においては、居住者は日本国内外で生じたすべての所得を課税の対象とする旨規定し、国外で生じた所得について外国所得税を納付することとなる場合には、日本及びその外国の双方で二重に所得税が課税されることになるため、所得税法第95条の規定により外国所得税の額を所得税の額から差し引くことができるよう外国税額控除の制度が定められている。
ロ 外国税額控除については、外国所得税を納付することとなった年分の国税に係る控除限度額又はその年分に繰り越された繰越控除限度額のうち国税の控除余裕額の合計額と、納付することとなる外国所得税の額とのいずれか少ない金額をその年分の所得税の額から控除することとされている。そして、居住者が外国所得税を納付することとなり、外国税額控除の適用をしようとする場合には、確定申告書に所要の記載をし、外税控除明細書及び外国所得税を課されたことを証する書類を添附することを要する旨規定されている。
ハ このように、外国税額控除ができるのは、所得税法第95条第1項ないし第3項の規定により、外国所得税を納付することとなる年分に、その年分の控除限度額がある場合か、その年分に前3年以内の各年から繰り越された繰越控除限度額がある場合に限られ、本件の場合、平成16年分では譲渡所得の金額は確定しているものの外国所得税の額は確定しておらず、平成16年中に納付した外国所得税の金額はないから、平成16年分の所得税額の計算において外国税額控除の適用を認める余地はない。
ニ したがって、外国税額控除の適用を認めなかった本件更正処分は適法である。

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(2) 本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づきされた本件賦課決定処分は適法である。

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(3) 本件通知処分について

 請求人は、本件17年分確定申告書に外国税額控除の金額が記載もれとなっているので、更正の請求を認めてもらいたい旨主張し、原処分庁は、本件17年分確定申告書に記載誤りは認められないと主張するので、審理したところ、次のとおりである。
イ 請求人は、本件外国所得税額を納付することとなった年の本件17年分確定申告書に外国税額控除の金額を記載していないが、外税控除明細書及び本件外国所得税額を課されたことを証する書類を添附している。
 そして、この外税控除明細書には、控除限度額を零円、控除限度超過額を○○○○円と、また、控除限度超過額のうち本年使用額を零円、翌年繰越額を○○○○円と記載している。
ロ 請求人の場合、平成17年には、その源泉が国外にある所得がないことから控除限度額が算出されず、本件17年分確定申告書に添附された外税控除明細書を見る限り、請求人の当該外税控除明細書は適法に計算されているといえる。
ハ 請求人が、平成17年分の所得税において外国税額控除の適用を受けるためには、所得税法第95条第5項に規定されているとおり、本件16年分確定申告書に控除限度額及び繰越控除限度額を記載する必要があったが、請求人は上記1の(4)のロのとおり、平成16年分の確定申告において、国外所得である本件譲渡所得の申告を行わなかったため、控除限度額が生じなかったことが認められる。請求人は、本件16年分確定申告書に本件外国所得税額を記載することが物理的に不可能であると主張しているが、控除限度額は、別紙の11のとおり、平成16年分の所得税の額に、所得総額のうちに国外所得総額の占める割合を乗じて計算されるものであるから、そもそも本件外国所得税額を記載する必要性はなく、仮に、請求人が本件譲渡所得の申告を行い、本件16年分確定申告書において外税控除明細書に控除限度額及び繰越控除限度額を記載していたならば、平成17年分の所得税について外国税額控除の適用を受けることが可能であったのであるから、請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、外国税額控除の適用について、無申告であれば期限後申告書を提出することによりその適用を認め、たまたま確定申告書を提出していれば修正申告書を提出してもその適用を認めないのは、二重課税の排除という外国税額控除の目的に沿っていないことから、修正申告でも外国税額控除の適用を認めるべきであるとして本件通知処分の不当性を主張しているが、上記のとおり、外国所得税の納付確定時期が我が国における国税確定時期と異なる場合の申告については、所得税法第95条第2項及び第5項が明確に控除方法を規定して手当てをしており、この規定に従った申告を行っていなかった請求人は、平成17年分の所得税について外国税額控除の適用を受けることはできず、平成17年分の所得税の計算は適法というほかない。
 このように、外国税額控除の制度は、申告期限内であるか否かを問わず、最初に提出する納税申告書に所定の記載等をすることを要件としているところ、修正申告書における新たな記載等では外国税額控除が認められないことについて異論を述べる請求人の主張は立法論であり、当審判所の審理の範囲に属するものではない。そうすると、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ したがって、本件17年分確定申告書は適法に計算された金額に基づき提出されたものであるから、本件更正請求書に記載された内容は、通則法第23条第1項に規定する「税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと」に該当するものではく、更正の請求に理由がないとする本件通知処分は適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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