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(平19.7.9、裁決事例集No.74 342頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人が相続により取得した土地の価額は財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成17年5月17日付課評2−5による改正前のものをいい、以下「評価通達」という。)24−4《広大地の評価》(以下「本件通達」という。)の定めを適用して算出した評価額が相当であるなどとして行った更正の請求等について、原処分庁が、本件通達を適用すべきではないとして更正処分等を行ったのに対し、審査請求人が、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 審査請求人A、同B、同C、同D、同E、同F、同G(以下、これら7名を併せて「請求人ら」という。)及びHは、平成17年1月○日に死亡したJの共同相続人であり、この相続(以下「本件相続」という。)の開始に係る相続税の申告書を、法定申告期限内に共同で提出した。
 なお、請求人らの申告の内容は、別表1の「申告」欄記載のとおりである。
ロ その後、Gを除く請求人らは、本件相続に係る相続財産のうち、預貯金等の計算に誤りがあり、土地の一部について評価額が過大であったなどとして、平成18年2月17日、別表1の「更正の請求・修正申告」欄記載のとおりとすべき旨の各更正の請求をし、また、これに伴い、Gは、同日、同欄記載のとおりとする修正申告をした。
ハ これに対し、原処分庁は、別表2記載のK土地区画整理事業施行地区内仮換地○街区○画地及び同○画地の土地940平方メートル(以下「本件土地」という。)には本件通達の定めの適用はないとして、Gを除く請求人らに対して、平成18年5月9日付で、別表1「更正処分等」欄記載のとおり、各更正の請求の一部を認容する減額の各更正処分をし、また、これに伴い、Gに対し、同日付で、同欄記載のとおり、更正処分(以下、請求人らに対する上記各更正処分を併せて「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ニ 請求人らは、これらの処分を不服として、平成18年7月7日にそれぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成18年10月3日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ホ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、当審判所に対し、平成18年11月2日、審査請求をした。
 なお、請求人らは、Aを総代として選任し、同日、その旨を届け出た。

(3) 関係法令等(要旨)

 本件に係る関係法令等の要旨は、別紙記載のとおりである。

(4) 当事者間に争いがなく、証拠により容易に認定できる事実等(以下「争いのない事実等」という。)

イ 請求人ら及びHは、本件相続に係る平成17年5月18日付の遺産分割協議書に基づき、本件土地を取得した。
ロ 本件土地の形状は別図1記載のとおりであり、本件土地は、評価通達14−2《地区》に定める普通住宅地区に該当し、本件土地に面する各路線の平成17年分の路線価はいずれも125,000円である。
ハ 本件土地は、L地区整備計画区域(以下「地区計画区域」という。)のB−1に指定された地域(以下「本件地域」という。)に所在し、同地域内の建築物の敷地面積の最低限度は165平方メートル以上でなければならない(以下、この敷地面積の最低限度を「本件基準」という。)。

(5) 争点

 本件土地は、戸建住宅用地として開発しようとする場合、公共公益的施設用地(道路)の負担が必要と認められるものに該当するか。

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2 主張

(1) 請求人ら

 次の理由から、本件土地には道路を開設する必要があり、公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものに該当する。
イ 本件土地は、地積及び本件基準に照らすと、区画数が最大となる5区画の戸建住宅用地として開発するのが最も有効な開発方法であり、併せて、同用地は整形な土地となるように想定して行うのが通常であるから、本件土地についても、そのように開発するのが経済的に最も合理的な開発であるといえる。したがって、本件土地において、5区画の整形な土地による開発をしようとすれば、同土地内には何らかの道路を開設する必要がある。
ロ 原処分庁は、下記(2)ロのとおり主張するが、路地状部分を有する土地を組み合わせる方法(以下「路地状開発」という。)によると、分譲可能な地積が多くなるからといって、整形な本件土地内に不整形な画地を生み出すことになるから、路地状開発に経済的合理性があるとはいえない。
ハ また、本件土地の周辺では、路地状開発が一般的であるといえるほどの同開発事例はないから、同開発が道路を開設する方法に比べ経済的合理性があるとはいえない。

(2) 原処分庁

 次の理由から、本件土地には道路を開設する必要はなく、公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものには該当しない。
イ 本件土地は、その近隣における一般的な開発方法である路地状開発により、道路を開設せずに、5区画の戸建住宅用地としての開発が可能である。
ロ 請求人らは、上記(1)イのとおり主張するが、本件土地に道路を開設すると同道路による潰れ地が生じ、分譲可能な地積が減ることになる。したがって、本件土地に道路を開設することに経済的合理性があるとはいえない。

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3 判断

(1) 法令等の趣旨

イ 相続税法第22条は、相続財産の価額は、相続税法に特別の定めがある場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しているが、ここでいう時価とは、相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。
 しかしながら、客観的な交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、課税実務上は、相続財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。これは、相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法を採ると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることが避け難く、また、回帰的かつ大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等から、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものと解される。
 そうすると、相続財産の評価は、評価通達に定められた評価方式によらないことが正当として是認されるような特別な事情がある場合を除き、課税の公平の観点から、原則として、評価通達の評価方式に基づいて行うことが相当と解される。
ロ 本件通達について
(イ) 評価通達は、評価通達11《評価の方式》から評価通達26−2《区分地上権等の目的となっている貸家建付地の評価》において宅地の評価方式を定め、評価通達11において、市街地的形態を形成する地域にある宅地の価額は、原則として、路線価方式により評価した価額をもってその評価額とすべき旨の一般的な評価方法を定めるとともに、他方、不整形地であること、無道路地であること、間口が狭小な宅地であることなど評価の対象となる宅地の価額に影響を及ぼすべき客観的な個別事情に応じ、路線価方式により評価した価額を減額補正する旨の評価方法を定めている。このような定めは、あくまでも評価の対象となる宅地の現況を踏まえ、当該宅地の価額に影響を及ぼすべき客観的な個別事情がある場合には、価値が減少していると認められる範囲で減額の補正を行う旨の定めであると解される。
(ロ) ところで、本件通達を定めた趣旨は、評価の対象となる宅地の地積が、1当該宅地の価額の形成に関して直接に影響を与えるような特性を持つ当該宅地の属する地域の標準的な宅地の地積に比して著しく広大で、2評価時点において、当該宅地を当該地域において経済的に最も合理的な特定の用途に供するためには、公共公益的施設用地の負担が必要な都市計画法に規定する開発行為を行わなければならない土地である場合にあっては、当該開発行為により土地の区画形質の変更をした際に道路、公園等の公共公益的施設用地としてかなりの潰れ地が生じ、評価通達15から評価通達20−5による減額の補正では十分とはいえない場合があることから、このような土地の評価に当たっては、潰れ地が生じることを当該宅地の価額に影響を及ぼすべき客観的な個別事情として、価値が減少していると認められる範囲で減額の補正を行うこととしたものである。
(ハ) 本件通達では、広大地から除かれる土地として、評価通達22−2に定める大規模工場用地に該当するもの及び中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているものについてはその適用を除外していることからすると、本件通達は、戸建住宅分譲用地として開発した場合に道路等の潰れ地が生じる土地、つまり公共公益的施設用地の負担が必要と認められる土地について本件通達の適用があることを前提としていると解される。そして、公共公益的施設用地の負担の必要性については、経済的に最も合理性のある戸建住宅の分譲を行った場合においてその負担が必要となるか否かによって判断するのが相当と解されるところ、路地状開発により戸建分譲を行うことが経済的に最も合理性のある開発に当たるかどうかについては、1路地状部分を組み合わせることによって「その地域」における標準的な宅地の地積に分割できること、2都市計画法等の法令に反しないこと、3容積率(建築基準法第52条《容積率》)及び建ぺい率(同法第53条《建ぺい率》)の計算上有利であること、4評価対象地を含む周辺地域において路地状開発による戸建分譲が一般的に行われていること、といった点を基に判断すべきと解される。

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(2) 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、上記1(4)争いのない事実等の各事実のほか、次の各事実が認められる。

イ 本件土地について
(イ) 本件土地は、○○線「M駅」の東500〜600メートルに位置し、二方を幅員約6メートルの道路に面する角地であり、南側道路及び東側道路にそれぞれ約26メートル及び約36メートルの間口距離で接する土地である。
(ロ) 本件土地は、K土地区画整理事業施行地区(以下「区画整理地区」という。)に所在し、仮換地の指定は了しているが、本件相続の開始時において、同区画整理事業は施行中である。
(ハ) 本件土地が属する都市計画法第8条《地域地区》第1項第1号に規定する用途地域は、第1種中高層住居専用地域で、建ぺい率が60%、容積率が200%であるが、建ぺい率については、P市○○条例により40%とされている。
(ニ) 本件土地は、本件相続開始後、道路を開設することなく路地状開発により1区画の地積を186〜188平方メートル程度とする5区画の戸建住宅分譲用地として開発されている。
ロ 本件土地の存する周辺地域は、中小規模の一般住宅と中層の共同住宅が混在し、空地も見られる住宅地域であり、本件土地の西側に隣接する土地(以下「本件隣接地」という。)は、二方路に面する角地で、形状及び接道状況などが本件土地に類似する土地であり、道路を開設することなく路地状開発により6区画の戸建住宅分譲用地として開発されている。
 なお、本件隣接地は、地区計画区域及び区画整理地区外に所在し、その建築物の敷地面積の最低限度は100平方メートル以上とされている。
ハ 本件地域内において、平成12年に敷地面積165平方メートル、同面積183平方メートルの戸建住宅用の土地の売買が行われている。
ニ 建物を建築するために開発許可を受ける必要のある区域面積は、500平方メートル以上とされている(開発指導要綱第○条)。
ホ Q県建築基準法施行条例第○条《路地状敷地》は、建築物の敷地が路地状部分のみによって道路に接する場合に、その敷地の路地状部分の長さが15メートル以上20メートル未満のものについては、その路地状部分の幅員を3メートル以上としなければならない旨定めている。
ヘ P市開発指導課(以下「開発指導課」という。)の担当職員は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(イ) 道路を開設する開発は、道路としての潰れ地が生じることにより、それだけ分譲面積が減るから、開発事業者の利益も減少し、また、開発後の道路の管理にも費用等がかかるので、本件土地のような地積及び形状等の土地については、路地状開発による開発を行うのが一般的である。
(ロ) 都市計画法等の趣旨を踏まえれば、不整形地を生じさせるような路地状開発よりは、なるべく整然とした区割りでの開発を望むところ、開発方法が法令通達等に反しない限りは、開発方法に対して指導することはない。

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(3) 以上の各事実に基づき、本件土地が、「公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」に該当するかどうかについて判断すると、次のとおりである。

イ 本件土地が属する本件通達にいう「その地域」とは、上記(2)イ(ロ)及び(ハ)のとおり、本件土地が区画整理地区内に所在し、その土地区画整理事業は施行中であること、また、都市計画法の規定による用途地域などからすると、本件地域と認められるところ、本件地域における標準的な宅地の地積は、上記1(4)争いのない事実等ハのとおり、同地域における建築物の敷地面積の最低限度である本件基準が165平方メートルであること、本件土地が、上記(2)イ(ニ)のとおり、190平方メートル程度で戸建住宅分譲用地として開発されていること、上記(2)ハのとおり、本件地域において敷地面積が165平方メートル及び183平方メートルの戸建住宅用の土地の売買が行われていることからして、180平方メートルないし200平方メートルと認めるのが相当である。
ロ 請求人及び原処分庁から、本件土地に係る開発想定図などの提出がないことから、当審判所において、本件土地を路地状開発した場合の想定図の一例を作成したところ、別図2の分割図(以下「本件分割図」という。)記載のとおりである。そして、本件土地を本件分割図のとおりに区画割することが、すなわち路地状開発により戸建分譲を行うことが経済的に最も合理性のある開発に該当するかどうかについては、本件土地に関して、1本件土地が、路地状開発により、上記イのとおり、本件地域における標準的な宅地の地積に分割することが可能であり、2本件分割図による路地状開発が、上記(2)ホのとおりの路地状部分の幅員を満たすなど都市計画法等の法令などに反しておらず、3容積率及び建ぺい率の算定に当たって、路地状部分の地積もその基礎とされ、さらに、4本件隣接地が、上記(2)ロのとおり、道路を開設することなく路地状開発されているという各事実が認められることから、この各事実を上記(1)ロ(ハ)の判断基準に当てはめると、本件土地については、路地状開発により戸建分譲を行うことが経済的に最も合理性のある開発に当たると認めるのが相当である。この点は、開発指導課の担当職員の答述により、上記(2)ヘのとおり、本件土地のような地積及び形状等の土地については、路地状開発による開発を行うのが一般的であるとされること、及び、上記(2)イ(ニ)のとおり、本件土地が現に路地状開発されていることからも裏付けられるものである。
 したがって、本件土地は、公共公益的施設用地(道路)の負担が必要と認められるものには該当しないことから、本件土地について本件通達の定めの適用はない。
ハ これに対し、請求人らは、上記2(1)ロのとおり、路地状開発によれば、整形な本件土地内に不整形な画地を生み出すことになるから、分譲可能な地積が多くなるからといって、路地状開発に経済的合理性があるとはいえない旨主張する。
 しかしながら、路地状開発に経済的合理性があるかどうかは、整形な土地を分譲するかどうかの観点から検討されるべきではなく、あくまでも上記(1)ロ(ハ)に示した判断基準により検討するのが相当と認められるから、請求人の主張は採用できない。

(4) 本件土地の評価額

 本件土地は、上記(3)記載のとおり、本件通達の定めの適用はなく、評価通達の定めに従って本件土地の評価額を算出すると、その評価額は、別表3の「原処分庁主張額10」欄と同額となる。

(5) 結論

 上記(4)記載のとおり、本件土地の評価額は、本件各更正処分の同評価額と同額となり、また、原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、原処分にはこれを取り消すべき理由はない。

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