別紙2

当事者双方の主張
請求人ら 原処分庁
(1) 相続により取得した財産の時価は、相続税法第22条に規定する当該財産の相続時の時価、すなわち不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうのである。
 相続財産の評価の際の課税庁の事務負担の軽減、事務処理の迅速性、徴税費用の節減は課税庁の事務処理上の便宜にすぎず、徴税権という国家権力の行使により国民の財産権を侵害しないようにするためには、財産を評価する基準は相続税法第22条によるべきであり、課税庁の事務処理上のマニュアルにすぎない通達によるべきではない。
 さらに、貸付金債権は、その前提事実が区々に分かれているから、本来、個別に評価されるべきものであり、公平の観点から画一的基準で評価することは、財産の個別性を無視するものであり、財産の時価を評価するという相続税法第22条の趣旨を逸脱している。
(1) 課税実務上、相続税法に特別の定めがあるものを除き、評価基本通達に定める評価方法により、画一的に評価することとしているのは、単に課税庁の事務負担の軽減、事務処理の迅速性、徴税費用の節減のみを目的とするものではなく、課税の公平の観点から特別の事情があるものを除き、あらかじめ定められた評価方法により評価することとしているものである。
 評価基本通達は法令ではないが、納税者間の課税の適正、公平の確保という見地からすると、評価基本通達に定められた評価方法を適用して、相続財産を評価する方法には合理性があるといえる。
(2) その場合の評価額であるが、J社は、以下のとおり、事実上経営破たんしていたので、本件貸付金債権は、回収の見込みがなかったことが客観的に確実であり、零円と評価される。 (2) J社については、評価基本通達205の(1)ないし(3)に定める事実に該当する事実が存在せず、また、仮にJ社の財政状態が本件相続開始日において著しい債務超過の状況にあったとしても、次のとおり、J社の事業経営が客観的に破たんしていることが明白で、本件貸付金の回収の見込みがないことが客観的に確実であるといい得る状況にあったとは認められない。
イ 外形的事実としては、J社は原処分庁が認定しているとおり事業を継続していた。しかし、例えば、自己破産会社又は会社更生会社の場合でも、当該申立日の前日まで外形的に事業を継続していることは公知の事実であるから、当該会社が外形的に事業を継続していることをもって破たん状況にないという根拠にすることは誤りである。 イ J社は、本件相続開始後から解散するまで事業を継続している。
ロ J社は、Nビルの建設資金約40億円の大部分を借入れし、この借入金を、Nビルの賃料収入で返済する計画であったことから、毎年の賃料収入総額を前提とし、固定資産税、修繕費、人件費及び利息などの経費を控除した後の経常利益を基準に、金融機関に対する毎年の返済元本金額を算定している。経常利益がないビル賃貸業に対し金融機関が融資しないことを考えれば、J社が一定の経常利益を計上していることは当然である。 ロ 平成11年9月期から本件相続開始日の直近である平成15年9月期までのJ社の営業状況は平成14年9月期を除いて利益が計上されており、さらに、減価償却費を除けば、これらのすべての期で利益が計上されることとなる。
ハ 本件各銀行の融資はバルーン方式(融資額に対する約定利息と賃料収入から諸経費を控除した経常利益から毎年の返済可能元本金額を算定して約定返済額を定め、返済期日において残額を一括で返済する方式)によるものであり、J社の賃料収入から諸経費を控除した経常利益により返済可能な金額を約定返済額としているのであるから、J社が元本を返済できたことは当然であり、返済が滞ったことがないことも当然である。
 また、本件各銀行借入金がJ社の経営を圧迫していたか否かは、本件各銀行借入金のうちの、T銀行分及びU銀行分を、それぞれの一括返済期限である平成17年5月31日及び平成18年12月31日に返済できる原資がJ社にあるか否か、又は、T銀行及びU銀行が金銭消費貸借契約を更新しない可能性があるか否かを基準として、さらには、J社の資産と収益を比較し金融債務が過大であるか否かという客観的な事実により判断されるべきであるところ、原処分庁の主張は、「請求人らが債務の返済を申し出た」という主観的な事情がその判断の一つになるというものであり、失当と言わざるを得ない。
 一般論としても、年商3億円程度の会社が24億6,100万円の借入債務を負担していること自体が異常で、客観的にみて破たん状況にあるとみなされる。
 J社は、請求人Fに対し、Nビルを11億9500万円で売却し、その売却代金及びその他の資産である預金をもって本件各銀行に対する債務の一部を返済し、不足分については、保証人である請求人らが個人資産をもって保証債務の履行として返済した。したがって、Nビルの売買契約を締結した平成18年3月15日現在、J社が、本件貸付金について返済する原資を所有していなかったことは、客観的に明らかであり、本件相続開始日において、J社が所有していた資産の内容はおおむね同一であったから、本件相続開始日においても、本件貸付金を返済する原資を所有していない。
 そうすると、本件貸付金は、回収不能債権であることが明らかであるから、零円と評価される。
ハ 本件各銀行のJ社の担当行員は、原処分庁の調査担当職員に対して、1本件各銀行借入金について、J社がその返済を滞ったということは行内書類に記録されていない、2本件各銀行からJ社に対して本件各銀行借入金の臨時弁済を求めた事実はない、3本件各銀行から本件各銀行借入金の連帯保証人である本件被相続人の相続人に対して弁済を求めた事実はない、4本件各銀行借入金の完済は請求人らの意向に基づきなされたものである旨申述していることから、本件各銀行借入金については、その完済のときまで返済が滞ったことはなく、また、本件各銀行借入金の完済は、本件相続開始日後において請求人らから申し出たことによるものであることからすれば、本件各銀行借入金がJ社の経営を圧迫していたとは認められない。
ニ 原処分庁の「J社の解散は、本件相続開始日後において計画された、J社と請求人らの間における本件各銀行借入金の整理の一環にすぎない」旨の主張は「J社が破たんしているから解散したのではない」という主張と理解されるが、この主張は、情緒的な主張であると言わざるを得ない。年商約3億円の会社が24億円の金融債務を負担している事実、債務超過であるという事実及びキャッシュフローによる返済期限が超長期になるという事実を考え併せると、J社は財政的に破たんしているとみなされる。
 このような事態の解決策として請求人らが実行した計画は、経済合理性に適合するものであり、J社は、唯一の資産であるNビルを譲渡することにより、固定資産及び賃料収入も失うこととなり、会社として存続する意味がなくなることから結果的に解散したものである。
ニ J社の解散は、本件相続開始日後において計画された、J社と請求人らの間における本件各銀行借入金の整理の一環にすぎないと認められる。
(3) 仮に、本件貸付金の全額が回収不能でなかったとしても、本件貸付金は、利息と返済期限の定めのないものであり、金融債務完済後に返済する合意があり、劣後債権と位置づけられる。本件各銀行借入金完済までの期間は、43年かかることから、その評価額は、元本の価額ではなく、Discounted Cash Flow(以下「DCF」という。)の手法により計算した2,938,244円とすべきである。金融機関が不良債権を処理する過程で、無担保債権の評価はDCFの手法で行うことが定着し、その評価額を前提とし無担保債権が売買の対象となり流通していることは公知の事実である。 (3) 上記(2)のとおり、J社の事業経営が客観的に破たんしていることが明白で、本件貸付金の回収の見込みがないことが客観的に確実であるといい得る状況にあったとは認められないから、評価基本通達204によれば、本件貸付金の相続税評価額は、本件貸付金の元本額である177,000,000円となる。請求人らが主張する、DCFの手法とは、金融機関等が不良債権を流動化(売却や証券化すること。)する際の売買価値を評価する方法をいうものであり、投資の対象として取得する債権を評価する方法である。
 しかしながら、相続税が相続という偶発的、消極的な事由によって取得した財産を担税力の対象として課税するものであることからすると、投資目的という自発的、積極的な事由によって取得する場合の評価方法を適用することは適切とはいえない。

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