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(平20.6.12、裁決事例集No.75 61頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、○○スクール業を営んでいた被相続人を相続した共同審査請求人(以下「請求人ら」という。)が、原処分庁が被相続人に対して行った所得税に係る過少申告加算税の賦課決定処分、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)に係る無申告加算税の賦課決定処分並びに源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分について、1被相続人が病を患い、判断能力のない状態で行った修正申告書及び期限後申告書の提出は無効であるから、これに係る加算税の賦課決定処分は違法である、また、2○○スクールの社外スタッフ(以下「本件スタッフ」という。)へ支払った報酬に係る源泉所得税の納税告知処分は、本件スタッフは各自で確定申告をしており、二重課税となるから違法であるとして、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 被相続人Gは、平成15年分、平成16年分及び平成17年分(以下「各年分」という。)の所得税について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までにそれぞれ原処分庁に申告した。
ロ 原処分庁は、平成16年分の確定申告の給与所得の金額の算出に当たり、計算誤りがあったとして、平成17年5月31日付で別表1の「減額更正」欄のとおり所得税を減額する更正処分をした。
ハ 被相続人は、平成17年1月1日から平成17年12月31日までの課税期間(以下「平成17年分課税期間」という。)の消費税等について、確定申告書に別表2の「確定申告等」欄のとおり記載して、平成18年5月22日に原処分庁に申告した。
ニ 被相続人は、原処分庁の税務調査(以下「本件調査」という。)を受け、原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)の指摘に基づき、平成18年11月15日に各年分の所得税に係る修正申告書を別表1の「修正申告等」欄のとおり、また、平成15年1月1日から平成15年12月31日までの課税期間(以下「平成15年分課税期間」という。)、平成16年1月1日から平成16年12月31日までの課税期間(以下「平成16年分課税期間」といい、平成15年分課税期間及び平成17年分課税期間と併せて「各課税期間」という。)及び平成17年分課税期間の消費税等に係る期限後申告書又は修正申告書を別表2の「確定申告等」欄及び「修正申告等」欄のとおり記載して、それぞれ提出した(以下、これらの所得税に係る修正申告書及び消費税等に係る期限後申告書又は修正申告書を総称して「本件修正申告書等」という。)。
ホ 原処分庁は、これに対し、平成18年12月15日付で別表1の「修正申告等」欄のとおり、各年分の所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各所得税賦課決定処分」といい、平成17年分に係る加算税については、平成19年3月12日付の所得税の更正の請求に基づきされた減額更正処分に伴い、同年12月25日付で変更決定された後のものをいう。)を行い、また、平成18年12月15日付で別表2の「確定申告等」欄及び「修正申告等」欄のとおり、各課税期間の消費税等に係る無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各消費税等賦課決定処分」といい、平成17年分課税期間の加算税については、平成19年12月25日付で変更決定された後のものをいう。)を行った。
ヘ また、原処分庁は、被相続人に対し、被相続人が本件スタッフに対し、○○のインストラクター業務等の対価として支払った報酬(以下「本件報酬」という。)に係る所得税について源泉徴収義務があるとして、平成18年12月15日付で別表3の「告知処分等」欄のとおり、平成15年1月から平成18年7月までの間の各月分の源泉所得税の各納税告知処分(以下「本件各告知処分」といい、平成19年6月29日付でされた異議決定により、その一部が取り消された後のものをいう。)及び平成15年3月から平成16年1月まで、平成16年3月から平成18年3月まで、平成18年5月及び同年7月の各月分の源泉所得税に係る不納付加算税の各賦課決定処分(以下「本件各源泉所得税賦課決定処分」といい、本件各所得税賦課決定処分、本件各消費税等賦課決定処分、本件各告知処分及び本件各源泉所得税賦課決定処分を併せて、「本件各賦課決定処分等」という。)を行った。
ト 被相続人は、平成19年1月29日に上記ホ及びヘの処分を知り、これらの処分に不服があるとして、同年3月22日に異議申立てをした。その後、被相続人が平成19年4月○日に死亡し父H(以下、父Hを「請求人H」という。)及び母Jが相続したため、請求人らは異議審理庁に対して、平成19年6月7日に「異議申立人の地位の承継届出書」を提出し、地位の承継をした。
 異議審理庁は異議申立てにつき、平成19年6月29日付で別表1、2及び3の「異議決定」欄のとおり、本件各告知処分のうち、平成16年3月分の一部を取消し、その他は棄却する異議決定をした。
チ 請求人らは、異議決定後の原処分に不服があるとして、平成19年7月25日に審査請求をした。
リ なお、請求人らは、請求人Hを総代として選任し、その旨を平成19年7月26日に届け出た。

(3) 基礎事実

イ ○○スクール業を営んでいた被相続人は、平成18年10月17日から本件調査を受け、調査担当職員の指摘に基づき同年11月15日に本件修正申告書等を提出した。
ロ 被相続人は、○○症の治療のため、P県Q市R町○番地所在のK病院○○科に平成18年11月28日から入院して平成19年2月27日に退院し、その後は通院治療を受けていた。
ハ 被相続人は、平成15年1月から平成18年7月まで、被相続人が経営していた○○スクールの本件スタッフに対し、○○のインストラクター業務等の対価として本件報酬を支払っていたが、源泉所得税を納付しなかった。

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2 主張

(1) 請求人

 原処分は、次の理由によりいずれも違法である。
イ 本件各所得税賦課決定処分及び本件各消費税等賦課決定処分について
 被相続人は、本件調査を受けた平成18年10月には既に病的であり、その後同年11月28日にK病院○○科において○○症と診断され、同日に入院していることから、本件修正申告書等を提出した同年11月15日には、既に判断能力がなかったものと思われ、本件修正申告書等を提出した行為そのものが無効であり、これを前提とした本件各所得税賦課決定処分及び本件各消費税等賦課決定処分はいずれも違法であるから、その全部が取り消されるべきである。
 また、被相続人が行った本件修正申告書等の提出行為がたとえ有効であるとしても、○○症という重度の病気を発症した以降は、被相続人が税務事務処理及び税務調査への対処、対応を正しく行える状況にはなく、このことは、国税通則法(平成18年法律第10号による改正前のものをいい、以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」及び通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に当たるから、本件各所得税賦課決定処分及び本件各消費税等賦課決定処分は、いずれもその全部が取り消されるべきである。
ロ 本件各告知処分及び本件各源泉所得税賦課決定処分について
 原処分庁は、被相続人が本件スタッフに支払っていた本件報酬について所得税の源泉徴収を要するとして本件各告知処分を行っているが、本件スタッフは個々に自ら所得税の申告をし、納税している。したがって、本件各告知処分により二重課税となることから、当該各処分は違法であり、これらの処分に係る本件各源泉所得税賦課決定処分もいずれも違法であるから、その全部が取り消されるべきである。

(2) 原処分庁

 原処分は、次の理由によりいずれも適法である。
イ 本件各所得税賦課決定処分及び本件各消費税等賦課決定処分について
 被相続人は、調査担当職員から同人の各年分の確定申告の内容の誤りについて指摘を受け、その申告内容に誤りがあることを認めた上で本件修正申告書等を提出したのであるから、本件修正申告書等の提出行為は無効ではない。
 また、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」及び通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、過少に税額を申告したこと又は申告しなかったことが、納税者の責めに帰することができない客観的な障害に起因する場合など、真にやむを得ない理由によるものであり、納税者に加算税を課すことが不当若しくは酷になる場合を意味するものであって、納税者の単なる主観的な事情に基づくような場合までは含まないと解するのが相当であり、請求人らの主張には理由がなく、本件各所得税賦課決定処分及び本件各消費税等賦課決定処分はいずれも適法である。
ロ 本件各告知処分及び本件各源泉所得税賦課決定処分について
 被相続人は、本件スタッフを自らが経営する○○スクールのインストラクター業務等に従事させ、その役務提供の対価として本件報酬を支払っている事実が認められる。そして、本件報酬は、所得税法第204条《源泉徴収義務》第1項第1号及び所得税法施行令第320条《報酬、料金、契約金又は賞金に係る源泉徴収》並びに所得税基本通達204-6《原稿等の報酬又は料金》にいう「技芸、スポ-ツその他これらに類するものの教授若しくは指導又は知識の教授の報酬又は料金」に該当するので、その支払の際、本件報酬について所得税を徴収する義務が生じ、その徴収した所得税について、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならないこととされている。
 そして、本件スタッフは、各自のそれぞれの年分の所得税の確定申告において、源泉徴収義務者が徴収した本件報酬に係る所得税額を控除して、各自の納付すべき所得税額を算定することとされており、請求人らが主張する二重課税は生じない。したがって、この点についての請求人らの主張には理由がなく、本件各告知処分は適法であり、また、被相続人が本件報酬に係る源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する事情は認められないから、同項本文の規定に基づき行った本件各源泉所得税賦課決定処分はいずれも適法である。

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3 判断

(1) 被相続人の本件修正申告書等の提出時における判断能力について

イ 認定事実
 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 被相続人の事業内容並びに経理及び確定申告の経緯
 被相続人は、S県内の2か所に○○スクールを開設し、○○指導による報酬、発表会その他のイベント開催による入場料収入などを得ていた。しかし、被相続人は、平成18年5月ころ、○○スクールの運営について思い悩んだことなどから、営業を事実上停止し、同年7月ころ、○○スクールの一つを閉鎖するに至った。
 被相続人は、経営する○○スクールの経理を、従業員であったLのほか、従業員であったM及びNに担当させ、イベント開催に係る収支はその都度、それ以外の収支は月末にそれぞれ報告等を受けていた。また、被相続人は、Lに命じて各年分の確定申告書を作成させ、Lから説明を受けた上で、確定申告書を提出していた。
(ロ) 本件調査の経緯
A 調査担当職員は、被相続人に対して、電話により事前に本件調査の実施日及び実施場所の了解を得て、平成18年10月17日、本件調査に着手した。
B 調査担当職員は、平成18年10月17日、被相続人の経営する○○スクールのスタジオにて、被相続人及び従業員であるLに対し、面談調査を行い、以後、同スタジオ又はT税務署において、同月19日、23日、30日、翌11月1日、同月2日、6日に面談調査を行った。
C 被相続人は、上記Bの面談調査の際に、調査担当職員の質問に対し、自ら回答できる質問には自ら回答し、自らが回答できない不明な点は、面談調査に立ち会っていたLなどに指示して回答させた。また、被相続人は、平成18年10月30日の調査において、調査担当職員から、イベント開催の記録があれば提出するよう指示され、過去の被相続人の手帳に記録があるかもしれないので、自宅で探して提出する旨回答し、次回の調査実施日に調査担当職員に当該手帳を提示した。
D 調査担当職員が、平成18年11月2日の面談調査において、それまでに被相続人から聴き取りした内容を聴取書にまとめて、被相続人に読み聴かせたところ、被相続人は、現在に至るまでの○○スクールの組織の変遷、組織再編の必要性があると考えて○○スクールを解散したこと、最近の事業収支の状況、○○技術の向上にまい進する余り注意不足で適正申告できなかったことに対する反省などを加除訂正し、聴取書に署名し、指印している。
E 調査担当職員は、上記Bの調査を通じて、Lなどの経理担当者が作成していた収支報告書並びにその根拠となった収入を記載した記録及び領収書等から各年分の収入金額及び必要経費並びに課税売上げ等を実額で把握し、スタッフに対する報酬の支払額及び源泉徴収の有無を確認した。
 ただし、一部イベントについてはこれらの記録がなく、収支が不明であったため、調査担当職員は、それ以外の収支の実績を把握できたイベントの利益の合計額を当該イベントの開催日数で割って、1開催当たりの平均利益を算出し、これを基に収支の明らかでないイベントの利益の額を算定した。
 この結果に基づき、調査担当職員は、平成18年11月2日の面談調査において、被相続人に対し、1○○スクールの収入金額の一部が確定申告に計上されていないこと、2平成15年分課税期間及び平成16年分課税期間の消費税等の期限後申告が必要であること、及び3本件報酬に係る所得税の源泉徴収義務があることを説明した。さらに、同月15日の面談調査において、本件修正申告書等を提出した場合には、不服申立てができなくなること、その後に、延滞税及び地方税が新たに課されるほか、過少申告加算税等の賦課決定処分等があることについて説明した上で、被相続人に本件修正申告等の提出をしょうようした。
F これを受けて、被相続人は、平成18年11月15日に本件修正申告書等に、自ら住所、氏名を記載し、押印して、本件修正申告書等を提出した。
(ハ) 被相続人の入院までの経緯及び入院中の状況等
A 請求人Hは、かねてから、被相続人の様子がおかしいとの連絡を知人から受けたり、請求人H自身が被相続人に以前にはない言動が見られると感じたりしたので、平成18年11月24日、K病院○○科に相談に訪れたところ、同病院の医師から被相続人を受診させた方が良いとの助言を受け、同日、直ちに請求人をP県Q市内にある請求人らの自宅に連れ帰った。
B ところが、被相続人は、医師の診察を受ける前に、請求人らに無断で請求人宅を出て行方不明になってしまったので、請求人らは警察に被相続人の保護を依頼した。被相続人は、平成18年11月27日にS県内でT警察署員により保護され、連絡を受けた請求人Hが、同月28日に、民間救急車でK病院まで搬送した。
C 被相続人は、K病院○○科に搬送された際、被相続人が興奮状態にあり、薬を用いなければならない状況にあったが、被相続人に病識がなく、入院治療の必要性を理解できる状態になかったので、直ちに入院となった。
D 被相続人が平成18年12月ころ、医師に対して、幻聴がある旨申し出たことなどから、同医師は、被相続人を○○症と診断した。
E K病院○○科の医師は、当審判所の照会に対して、被相続人のカルテの記載内容や原処分庁に保存されている本件修正申告書等の書面に被相続人が記載した内容からは、平成18年11月15日の前後において被相続人が事理を弁識していたか否かを判断するのは困難であることを回答している。
ロ 判断
(イ) 上記イの(イ)のとおり、被相続人が、平成18年5月ころ、思い悩んだ末に、○○スクールの営業を事実上停止したことが認められること、上記イの(ハ)のAのとおり、本件調査の当時、請求人H及び周囲の者が、被相続人の言動におかしなところがあると感じていたこと、上記イの(ハ)のCのとおり、被相続人が平成18年11月28日に入院した時点では、請求人は興奮状態にあり、入院をせざるを得なかったこと、上記イの(ハ)のDのとおり、その翌月に、被相続人が幻聴を申し出たことから○○症との診断がされたことなどから、被相続人が本件修正申告書等提出当時、既に○○症を発症していた可能性が認められる。
(ロ) しかしながら、たとえ○○症であったとしても、そのことだけで法的行為の結果を認識、判断できる意思能力が直ちに失われるものではなく、個別具体的な法律行為の内容及びその当時の症状の内容などを総合して能力の有無を判断すべきものである。
 そこで、本件修正申告書等提出当時の事情をみると、上記イの(ロ)のB及びCのとおり、被相続人は、本件修正申告書等提出の前に7回にわたって行われた面談調査において、調査担当職員の質問に対して、答えられるものについては自ら回答し、自分が答えられない点については、経理担当のLに回答させ、イベントの開催記録を提出するよう求められたのに対し、手帳を提示するなどの協力的な対応をしていたのであって、調査担当職員の質問の趣旨を理解できず、適切な対応ができなかったとは認められないし、興奮状態で対応することもなかったものとも認められる。また、上記イの(ロ)のDのとおり、本件調査における被相続人の申述を記録する「聴取書」の作成に当たって、加除訂正した部分は、○○スクールを解散したこと、最近の事業収支の状況、○○技術の向上にまい進する余り注意不足で適正申告できなかったことに対する反省などに関する部分であって、その内容に不自然不合理な点は見受けられず、幻聴などに基づき客観的事実と異なる内容を記載したとは認められない。さらに、本件修正申告書等で申告した内容は、調査担当職員が、上記イの(ロ)のEのとおり、売上げ及び必要経費を把握できる資料から実額で把握した所得、原始記録がないために推計によって算定した所得と同額であり、被相続人が修正申告の内容を理解できなかったために、実際の所得金額等と著しく異なる不合理な内容の申告をしたということもできない。
 以上に加えて、上記イの(ハ)のEのとおり、被相続人が入院していたK病院の医師も、平成18年11月15日当時、被相続人の事理弁識能力が有ったとも無かったとも判定することは困難である旨回答していることなども考慮すると、本件修正申告書等を提出した当時、被相続人がK病院に入院時ないし入院中に見られた興奮状態ないし幻聴などの症状により、本件修正申告書等の内容を認識し、判断できる能力を欠いていたとまでは認めることができないというべきである。
(ハ) よって、被相続人に判断能力がなかったことから、本件修正申告書等を提出した行為そのものが無効であるという請求人らの主張は、採用できない。

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(2) 本件各所得税賦課決定処分及び本件各消費税等賦課決定処分について

イ 通則法第65条第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出等があったときは、一定の過少申告加算税を課す旨規定しており、同法第66条第1項は、同項第1号で期限後申告書の提出等があった場合に、同項第2号で期限後申告書の提出等の後に修正申告書の提出等があった場合に、それぞれ一定の無申告加算税を課す旨規定している。
 ところで、被相続人は、各年分の所得税について、上記1の(2)のイ及びニのとおり、期限内申告をした後に、調査担当職員の指摘に基づき、修正申告書の提出をしたから、通則法第65条第1項に該当し、また、同条第5項に規定する修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものではない場合にも該当しないから、同条第4項に規定する修正申告書の提出に基づき納付すべき税額に対して課される過少申告加算税につき、その納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合でない限り、過少申告加算税が課されることとなる。
 次に、各課税期間の消費税等について被相続人は、上記1の(2)のニのとおり、調査担当職員の指摘に基づき、平成15年分課税期間、平成16年分課税期間につき期限後申告、平成17年分課税期間につき期限後申告後の修正申告をしているから、通則法第66条第1項第1号又は第2号に該当し、同条第5項に規定する期限後申告書等の提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものではない場合に該当しないから、同条第1項ただし書に定める期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合でない限り、無申告加算税を課されることになる。
ロ そこで、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある」場合及び同法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる」場合に該当するかについて検討する。
(イ) 過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対し課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
 このような過少申告加算税の趣旨に照らせば、通則法第65条第4項にいう「正当な理由があると認められるものがある」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成18年4月20日第1小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。
(ロ) また、無申告加算税も、無申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対し課されるものであり、これによって、当初から適法に申告、納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、無申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置であるから、通則法第66条第1項ただし書にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、災害、交通・通信の途絶など、期限内に申告ができなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
(ハ) そして、過少申告加算税及び無申告加算税が、いずれも当初から適法に申告し、納税した者との不公平を是正し、適正な申告納税の実現を図り、納税の実を挙げようとする行政上の措置であることからすれば、これらの正当な理由とは、当該加算税に係る本税の確定申告期限までに存在した事情であることが必要であると解するのが相当である。
(ニ) ところで、本件修正申告等の提出の時点における被相続人の判断能力は、上記(1)のとおりと認められることに加え、上記(1)のイの(イ)の確定申告提出の経緯に照らせば、確定申告期限以前においても被相続人の判断能力がなかったとは認められないことから、過少申告加算税及び無申告加算税のいずれに関しても申告期限までにおいて請求人の主張する事情はなかったというべきである。
 その他、当審判所の調査によっても、上記(イ)及び(ロ)にいう納税者の責めに帰すことのできない客観的事情は認められない。
 したがって、過少申告加算税及び無申告加算税に係る正当な理由は認められず、この点に関する請求人らの主張は、いずれも採用できない。

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(3) 本件各告知処分及び本件各源泉所得税賦課決定処分について

イ 源泉徴収の対象となるべき所得の支払がなされるときは、支払者は、法令の定めるところに従って所得税を徴収して国に納付する義務を負うのであるが、この納税義務は源泉徴収の対象となるべき所得の支払のときに成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものとされ(通則法第15条)、その税額が法令の定めるところに従って当然に、いわば自動的に確定するものである。そして、請求人は、上記1の(3)のハのとおり、平成15年1月から平成18年7月まで本件スタッフに対し、○○のインストラクター業務等の対価として本件報酬を支払ったものであり、本件報酬は所得税法施行令第320条第1項に規定する技芸、スポーツその他これらに類するものの教授若しくは指導又は知識の教授の報酬又は料金に該当し、所得税法第204条第1項第1号に定める報酬又は料金に該当するから、本件報酬の各支払の際に、請求人の徴収納付義務は成立、確定し、源泉所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならなかったものである。
ロ ところで、所得税法上、源泉所得税についての徴収及び納付の義務を負う者は源泉徴収の対象となるべき所得の支払者とされ、その納税義務は、当該所得の受給者に係る申告所得税の納税義務とは別個のものとして成立、確定し、これと並存するものであり、源泉所得税の徴収及び納付に不足がある場合には、不足分について、税務署長は源泉徴収義務者たる支払者から徴収し(所得税法第221条)、支払者は源泉徴収されるべき者に対して求償すべきものとされており(所得税法第222条)、源泉所得税の納税に関して、国と法律関係を有するのは支払者のみであり、受給者との間には直接の法律関係を生じないと解されている(最高裁昭和45年12月24日第1小法廷判決・民集24巻13号2243頁参照)。そして、受給者は、源泉徴収の有無にかかわらず、正当に源泉徴収されるべき税額を申告書に記載して(所得税法第120条第1項第5号)、この分を所得税の額から控除して申告納税額を算出して確定申告すべきものである(最高裁平成4年2月18日第3小法廷判決・民集46巻2号77頁参照)から、源泉徴収がされていない場合において、受給者が源泉徴収義務者に代わって納税することは予定されていないと解される。
 以上のとおり、源泉所得税の納税に関して国と法律関係を有するのは、源泉徴収義務者である支払者のみであり、受給者が源泉徴収義務者に代わって源泉所得税を申告、納税することは予定されていないのであるから、請求人らの主張する二重課税が生ずる余地はないというべきである。
 また、源泉徴収の制度上、源泉徴収義務者は、誤って徴収しなかった源泉所得税は、所得税法第222条に基づき受給者に求償すべきものとされていることからしても、請求人らの主張には理由がない。
ハ 被相続人は、上記1の(3)のハのとおり、本件報酬についての源泉所得税を納付していないから、通則法第67条第1項に規定する不納付加算税が徴収される場合に該当する。
 また、被相続人の場合、通則法第67条第1項ただし書にいう正当な理由、すなわち、告知又は納付に係る国税を法定納期限までに完納しなかったことについて、税法の解釈に関する通達の改正、税金の納付を委託した金融機関の過誤による納付の遅延など、真に源泉徴収義務者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、当初から適法に納付した源泉徴収義務者との不公平を是正し、適正な源泉徴収の実現を図り、納税の実を挙げようとする行政上の措置であるという不納付加算税の趣旨に照らしても、なお、源泉徴収義務者に不納付加算税を賦課することが不当又は酷になる場合といえる事情も認められない。
 したがって、二重課税を理由として、本件各告知処分及び本件各源泉所得税賦課決定処分の取消しを求める請求人らの主張には理由がない。

(4) 結論

 以上によると、本件各賦課決定処分等は、いずれも適法である。
 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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