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(平20.1.23、裁決事例集No.75 78頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続税の法定申告期限後に成立した裁判上の和解に基づき取得した65,000,000円について相続税の期限後申告書を提出したところ、原処分庁が、当該金員の一部は遺言に基づき取得することが確定していた代償金であるから、法定申告期限までに申告すべきであったとして無申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該金員はその全額が遺留分減殺請求に係る価額弁償金として受領したものであり、法定申告期限において申告義務はなく、申告書を提出しなかったことについて「正当な理由」があるから原処分は違法であるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成16年9月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したA(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、本件相続税の法定申告期限(平成17年7月○日。以下「本件法定申告期限」という。)後の平成18年8月31日、課税価格を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円と記載した相続税の期限後申告書(以下「本件期限後申告書」という。)を原処分庁へ提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成18年12月26日付で、無申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、平成19年1月31日、上記ロの賦課決定処分及び本件期限後申告書の提出により納付すべき税額に対して延滞税が課されたことを不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月23日付で、上記ロの賦課決定処分のうち○○○○円を超える部分の金額を取り消す旨、また、延滞税に対する異議申立てを却下する旨の異議決定をし(以下、異議決定によりその一部が取り消された後の原処分を「本件賦課決定処分」という。)、同月27日、その決定書謄本を請求人に送達した。
ニ 請求人は、平成19年5月25日、異議決定を経た後の本件賦課決定処分に不服があるとして審査請求をした。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙のとおりである。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の長男である請求人及び次男であるBの2名であり、いずれも、本件相続開始日に本件相続の開始の事実を知った。
ロ 本件被相続人の署名及び押印のある平成12年7月13日付遺言書(以下「本件遺言書」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 本件被相続人は、同人の全財産をBに相続させる。ただし、Bは請求人に対し、代償金として金50,000,000円を支払わなければならない(以下、この代償金を「本件代償金」という。)。
(ロ) 支払方法は請求人とBで協議することとする。
(ハ) 祖先祭しを主宰すべき者としてBを指定する。
ハ 本件遺言書は、平成16年○月○日、C家庭裁判所において、請求人及び本件遺言書の保管者である弁護士○○○○を立会人として検認手続(C家庭裁判所平成16年(○)第○○○○号遺言書検認審判事件)が行われた。
ニ Bから請求人にあてた平成17年5月17日付の「遺言書による代償金支払いの件」と題する書面には、1本件相続税に係る税務署提出用の申告用紙(以下「本件提出用申告用紙」という。)並びに相続財産及び債務の内訳書の写しを送付する、2内容を確認の上了解ならば、書面を作成し、関係書類添付の上、押印することを条件に本件代償金を支払う準備をしている、並びに3平成17年5月末日までに書面で回答してほしい旨記載されている。
 そして、本件提出用申告用紙には、本件相続により取得した財産の価額の合計額が○○○○円並びに請求人が本件相続により取得した財産の価額が50,000,000円及びBが本件相続により取得した財産の価額が○○○○円から50,000,000円を控除した金額○○○○円である旨記載されている。
ホ 請求人からBにあてた平成17年7月11日付の「遺言書による代償金支払いの件」と題する書面には、本件代償金についてはD銀行E支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)に振り込んでもらいたい旨記載されている。
ヘ Bから請求人にあてた平成17年7月27日付の書面には、請求人の相続税の申告及び納税が済んでいることの確認が出来次第、本件代償金を指定口座に振り込むので、請求人が提出した相続税の申告書の写し及び相続税納付書の写しを送付してほしい旨記載されている。
ト 請求人は、F弁護士を代理人として、平成17年○月○日付の「遺留分減殺請求書」と題する書面をBに対して内容証明郵便により送付し、また、同月○日、本件代償金の支払を求める訴訟をG地方裁判所に提起した(以下、この訴訟(平成17年(○)第○○○○号)を「本件訴訟」という。)。
チ 平成18年○月○日、G地方裁判所和解室において、本件訴訟についての和解(以下「本件和解」という。)が成立し、本件和解に係る和解調書(以下「本件和解調書」という。)には、和解条項として、要旨次のとおり記載されている。
(イ) Bは、請求人に対し、本件相続に関する遺留分として、65,000,000円の支払義務があることを認め、当該金員を、平成18年○月○日限り、H銀行J支店のF弁護士名義の普通預金口座(口座番号○○○○)に振り込む方法により支払う。
(ロ) 請求人は、その余の請求を放棄し、請求人及びBは、両者の間には、本和解条項に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。
リ 上記(2)のハの決定書謄本には、要旨次のとおり、請求人に対する無申告加算税の賦課決定処分の一部を取り消す理由が記載されている。
(イ) 請求人は遺留分減殺請求に係る価額弁償金として15,000,000円を取得するものとなったと解されるところ、このことは、本件法定申告期限後に生じた相続税法第32条第3号に規定する事由に該当するので、本件期限後申告書の提出により生じた納付すべき税額のうち15,000,000円に対応する部分については、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するものと認められる。
(ロ) 本件期限後申告書の提出により納付すべきこととなった税額○○○○円から、課税価格○○○○円のうち15,000,000円に相当する金額に基づく税額を控除して算出した金額に対して、通則法第66条第3項の規定を適用して無申告加算税の金額を計算すると○○○○円となるので、上記(2)のロの賦課決定処分により生じた無申告加算税○○○○円のうち当該○○○○円を超える部分の金額○○○○円について、当該賦課決定処分の一部を取り消す。

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2 主張

(1) 請求人

イ 本件相続税に係る申告義務の発生時期
 本件被相続人の遺産は、本件遺言書によりすべてBが相続したため、請求人には本件法定申告期限における申告義務はなく、本件相続に係るすべての相続財産の申告義務はBが負うべきである。
 請求人は、本件和解の成立により、本件相続に関する遺留分として65,000,000円を取得する(以下、この65,000,000円を「本件金員」という。)ことが確定したものであり、それまでは本件相続に係る相続税の申告義務はない。
ロ 正当理由
(イ) 請求人は、本件和解の成立により、相続税法第32条第3号に規定する事由が生じたために同法第30条に基づき本件期限後申告書の提出を行ったものであるから、請求人が本件法定申告期限までに申告書を提出しなかったことについては通則法第66条第1項に規定する正当な理由があると認められるべきである。
(ロ) また、遺言に基づく遺産分割協議は相続人間の契約であるところ、Bから請求人に対する本件提出用申告用紙の送付は、請求人が本件提出用申告用紙に記載のとおりの申告及び納税をし、遺留分減殺請求を放棄する旨の書面を出せば本件代償金を支払うことを内容とする契約の申込みであり、請求人がこれに応じて本件相続税に係る相続税の申告書を提出することは、Bからの申込みを承諾し、遺産分割が成立したことになるから、その結果、請求人は遺留分減殺請求を放棄したものとみなされ、Bに対する当該請求ができなくなる。そのような状況の下で相続税の申告書の提出を請求人に求めることは請求人にとって著しく酷であり不当である。

(2) 原処分庁

イ 本件相続税に係る申告義務の発生時期
 本件遺言書が有効なものであることについては請求人とBの間に争いがないことから、本件遺言書に記載されている内容を相続税法第9条《贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合》及び民法第985条《遺言の効力の発生時期》の規定に照らせば、請求人は、本件相続開始日において本件被相続人から本件代償金に相当する利益を遺贈により取得したものとみなされることになる。
 本件相続税に係る課税価格の合計額は基礎控除額を超えており、請求人が本件代償金を取得した場合に請求人に納付すべき相続税額が算出される。また、請求人が本件相続開始日に本件相続の開始の事実を知っていたことからすれば、請求人は、本件法定申告期限までに本件代償金に係る相続税の申告書を提出する義務があったものと認められる。
ロ 正当理由
 無申告加算税は、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」、すなわち、無申告加算税を賦課することが納税者にとって不当又は酷となる特別な場合、例えば、法定申告期限後に生じた相続税法第32条第3号に規定する事由によるものなど、法定申告期限内に申告書を提出することができないことについて真にやむを得ない理由がある場合を除き、単に申告書が法定申告期限後に提出されたという客観的事実のみによって課せられる性質のものと解されている。
 そして、本件和解における和解条項の解釈に際しては、表面的な文言に捕らわれることなく、当事者間の合理的意思を認定して行う必要があるところ、請求人の本件訴訟における請求は、本件代償金の履行を求めるものであること及び請求人は提訴に先立って遺留分減殺請求をしていることからすれば、本件和解は、本件代償金に係る履行請求と併せて、Bが請求人に対して遺留分減殺請求に係る価額弁償金を支払うことによって、遺留分減殺請求に係る争いについても同時に解決を図ったものと解するのが相当であり、すなわち、請求人は本件和解の成立により本件代償金50,000,000円及び遺留分減殺請求に係る価額弁償金15,000,000円を取得したと解される。
 そうすると、本件金員のうち本件代償金50,000,000円に対応する部分については、相続税法第32条第3号に規定する事由が生じたことにより申告されたものではなく、「正当な理由があると認められる場合」には該当しないから、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件においては、無申告加算税の賦課決定処分の適否に関し、1請求人の本件相続税に係る申告義務の発生時期、及び2請求人が本件法定申告期限までに申告しなかったことについての「正当な理由」の存否について争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。

(1) 請求人の本件相続税に係る申告義務の発生時期について

イ 上記1の(4)のニのとおり、Bは、本件法定申告期限前に請求人に対して一定の条件の下に本件代償金を支払う準備をしている旨通知しており、一方、請求人も、上記1の(4)のハのとおり、平成16年○月○日に本件遺言書の記載内容を確認した上で、本件遺言書の内容については何ら争うことなく、上記1の(4)のホ及びトのとおり、Bに対して本件代償金の支払請求をし、また、本件代償金の支払を求めて本件訴訟を提起していることからすれば、本件法定申告期限において本件遺言書の効力について当事者間に争いがないことは明らかであるから、本件法定申告期限における本件相続税の課税関係は、本件遺言書を基礎として判断するのが相当である。
ロ ところで、原処分庁は、本件遺言書の内容を相続税法第9条の規定に照らし、請求人が本件代償金に相当する利益を遺贈により取得したものとみなされる旨主張している。
 しかしながら、民法第908条《遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止》は、被相続人は遺言で遺産の分割の方法を定めることができる旨規定し、これは、被相続人が、遺産の相続人への配分方法を、現物分割、換価分割、あるいは代償分割など、どのような分割の方法にするかを遺言により指定することができる旨規定したものと解されるところ、本件遺言書には、要旨上記1の(4)のロのとおり記載されており、これは、「Bに財産の全部を相続させる代償として同人から請求人に対して代償金の支払を義務付ける」旨の遺言である。すなわち、相続財産の現物をBに単独で相続させることを可能とするため、同人に、もう一人の相続人である請求人に対する代償金の支払という債務を負担させる方法(いわゆる代償分割)により相続財産の分割を行うよう、本件被相続人の意思として遺産の分割方法の指定をしたものと解するのが相当である。
 そして、代償分割の方法により遺産分割が行われた場合、相続財産を現物で取得した者については、その取得した財産のすべてが相続により取得した財産になるとしても、そのすべてを無償で独占することができる権原はなく、代償債務の価額相当額の財産の減少を免れ得ないのであり、一方、代償財産の交付を受けた者については、その代償財産は、直接被相続人から承継取得した相続財産そのものではないものの、自己の相続権に基因して取得したものであることから、その代償財産も相続により取得した財産とみるのが相当である。
 また、民法第985条第1項は、遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる旨規定しており、遺言による財産取得の効力は、遺言者の死亡の時に生じるものであることから、本件遺言書により、本件被相続人の財産の全部が、本件被相続人の死亡の時に直ちにBに相続され、また、同時に請求人は本件代償金を取得することが確定し、Bに対する本件代償金の支払請求権を取得したものというべきである。
 そうすると、請求人が本件代償金に相当する利益を遺贈により取得したものとみなされる旨の原処分庁の主張は採用できないものの、請求人は、本件相続開始日において、本件代償金を本件相続により取得したものと認めるのが相当である。
ハ したがって、1請求人が本件相続開始日に本件相続の開始があったことを知ったこと、2本件相続税の課税価格の合計額は遺産に係る基礎控除額を超えていること、3請求人は本件遺言書に基づき本件代償金を取得することが確定し、本件相続税に係る納付すべき税額が算出されることから、請求人は、本件法定申告期限までに本件相続税に係る期限内申告書を提出する義務のある者に該当するというべきである。
ニ 請求人の主張について
 請求人は、本件被相続人の遺産は、本件遺言書によりBがすべて取得しており、請求人には本件法定申告期限における申告義務はなく、本件相続に係るすべての相続財産の申告義務はBが負うべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人が、本件相続開始日に本件代償金を取得したと認められることについては、上記ロで述べたとおりであり、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

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(2) 正当な理由の存否について

イ 認定事実
 本件訴訟の速記録によれば、平成18年○月○日の第○回口頭弁論において、請求人及びBは、裁判官の尋問に対し、それぞれ要旨次のとおり供述している。
(イ) 請求人
 遺留分減殺の請求については、本件遺言書に基づく本件代償金とは別の問題であると考え、まだ調停など起こしていないが、Bに通知はしており、本件代償金と一緒に請求していきたい。
(ロ) B
 本件遺言書に基づく本件代償金については、請求人からの遺留分減殺請求の問題が解決すれば、そんなに間をおかず支払いたいと考えている。
ロ 法令解釈
 通則法第66条第1項は、要旨別紙の1のとおり規定されているところ、無申告加算税は、納税者自らがその責任と計算において課税標準及び納付すべき税額を算出し、これを申告して第一次的に納付すべき税額を確定させるという申告納税制度の下で、適正な申告をその法定申告期限内に行わない者に対し、無申告加算税の賦課という制裁を加えて、申告秩序の維持向上を図るべく措置されているものと解される。
 この場合において、相続税法第30条第1項の規定による期限後申告書を提出する場合のように、法定申告期限後に生じた納税者の責めに帰さない事由により納付すべきこととなった相続税額については、上記行政上の制裁を加える必要がないものであると解されることから、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するものとして、無申告加算税を課すべきでないと解するのが相当である。
ハ 本件和解の解釈
(イ) 一般に法律行為の解釈に当たっては、現に用いられた文言を無視することはできないものの、その文言のみに拘泥することも許されないのであって、当該行為に至った経緯等の諸事情を十分考慮して、その内容を確定すべきものであるし、訴訟における和解は、権利関係が確定されていない状態で行われるもので、かつ、当事者間には対立する感情が生じているのが通常であるから、和解調書においては和解成立の前提となる個別の権利関係を明確には記載せず、紛争を解決するのに最低限必要な条項のみを記載して和解を成立させることも決して珍しくないのであるから、和解において形成された法律関係を考えるに当たっては、和解調書の記載の解釈が中心となることは当然であるが、こうした解釈を行うに際しては、紛争の性質、内容及びそのような和解に至った経緯についても十分考慮に入れた上で当事者間の合理的意思を認定する作業を行うべきであると解されている。
(ロ) これを本件についてみると、請求人は、平成17年○月○日、本件遺言書の内容が請求人の遺留分を侵害するものであるとしてBに対して遺留分減殺請求を行うとともに、同月○日、本件遺言書に基づく本件代償金の支払を求めて本件訴訟を提起しており、当初これらは別個の争いであったところ、本件訴訟の過程における裁判官の訴訟指揮の下、遺留分減殺請求についての争いも本件訴訟に取り込まれ、本件代償金支払の要否及び請求人の遺留分の存否等が争われた結果、請求人が本件金員を取得することにより和解が成立したものであることが認められる。
(ハ) そうすると、本件和解調書には、Bが請求人に対して遺留分の価額弁償金として本件金員を支払う旨及び請求人が本件金員を受領する一方、その他の請求を放棄する旨記載されており、一見、本件代償金の請求を放棄するとも読み取れるものの、上記イの請求人及びBの供述にもあるように、請求人が本件和解前に本件代償金の支払請求を放棄した事実も本件訴訟において本件代償金の存在が否定された事実もない状況において、本件代償金を超える本件金員が支払われるということからは、本件金員の一部をもって本件代償金の支払がなされたと認めるのが相当である。
(ニ) したがって、本件金員は、本件相続の開始により本件遺言書に基づき請求人が取得した代償財産(本件代償金)50,000,000円に加え、本件和解の成立により遺留分に対する価額弁償金として15,000,000円を取得したものであり、結果として本件和解により本件相続税における請求人の取得財産が50,000,000円から65,000,000円に増加したものであると解するのが相当である。
ニ 正当な理由の存否に係る結論
 相続税法第30条第1項は、別紙の4のとおり、同法第32条第3号に規定する遺留分の減殺請求に基づく価額弁償金の確定に伴い、新たに相続税の申告書の提出要件に該当することとなった者は期限後申告書を提出できる旨規定している。
 請求人は、本件和解により遺留分減殺請求に基づく弁償額が確定し、相続税法第30条に基づき本件期限後申告書の提出を行ったものである旨主張するが、上記(1)のロ及びハのとおり、請求人は、本件被相続人の死亡と同時に相続により本件代償金を取得したことにより、本件法定申告期限までに期限内申告書を提出しなければならない者に該当するから、本件和解の成立により新たに同法第27条第1項に規定する申告書を提出すべき要件に該当することとなった者には当たらず、本件期限後申告書は、同法第30条第1項の規定による期限後申告書には該当しない。
 また、そもそも本件代償金は遺留分減殺請求に基づく価額弁償金の確定に伴い取得したものではなく、請求人が本件相続により取得したものであり、本件法定申告期限までに申告すべきものであるから、本件期限後申告書に記載された課税価格のうち50,000,000円の部分については、通則法第66条第1項ただし書に規定する「期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合」に該当して申告されたものとは認められない。
ホ 請求人の主張について
 請求人は、仮に本件提出用申告用紙に記載された内容に従って申告をした場合、遺産分割協議が成立したとして申告をしたことになり、請求人は遺留分減殺請求を放棄したとみなされその請求ができなくなるのであるから、そのような申告書の提出を請求人に求めることは酷であり、請求人に本件法定申告期限において申告義務があると解するのは不当である旨主張する。
 しかしながら、相続税法においては、相続税の申告書を提出した者が、遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき、又は弁償すべき額が確定したことにより、既に確定した相続税額について、1不足を生じた場合には、同法第31条第1項の規定により修正申告書を提出できる旨、また、2過大となった場合には、同法第32条の規定により更正の請求をすることができる旨規定されていることからすれば、相続税の申告書への記載のみによって私法上の遺産分割の効果が生じるとは認められず、請求人が本件法定申告期限までに、本件提出用申告用紙の記載内容を基に本件相続税の申告書を提出したとしても、請求人の遺留分減殺請求権を害するものでないことは明らかであるから、請求人の主張は誤解に基づくものといわざるを得ず、請求人に本件法定申告期限において申告義務があると解することが不当であるとは認められない。

(3) 本件賦課決定処分について

 上記(1)及び(2)のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、また、請求人の本件期限後申告書の提出は、本件相続税についての調査があったことにより本件相続税について決定があるべきことを予知してされたものではないと認められることから、本件期限後申告書に記載された課税価格のうち50,000,000円の部分に相当する相続税額について、通則法第66条第3項の規定により無申告加算税の額を算出したところ○○○○円となり、本件賦課決定処分の金額はこれと同額であるので、本件賦課決定処分は適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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