別紙2

当事者の主張

争点1 公海上で操業する船舶の船員の住所は、国内か否か。
原処分庁 請求人
イ 国内又は国外において居住することとなった者が、居住者か非居住者かの区分は、国内に住所を有するか否かを判定し区分するものとされているところ、船舶の乗組員の場合、船舶内で起居し、その相当期間を公海上又は外国領海内で過ごす例が多く、その者の住所が国内にあるかどうかが問題となるため、基本通達3-1の定めにより、その者の配偶者その他生計を一にする親族の居住している地又はその者の勤務外の期間中通常滞在する地が国内にあるかどうかにより判定するものとされている。
 請求人は、B社と本件乗船契約を締結しており、本件各年分において外国船の乗組員であると認められる。また、請求人の場合、1扶養親族であるAが本件住所に居住し、請求人及びAの本件住所が住民登録地にされていること、2自らが所有する土地建物が本件住所にあること、3乗船していない期間のうちU国あるいはV国などに滞在する期間はわずかであり、勤務外の期間中通常滞在する地は、本件住所と認められる。
 これらの事実から判断すると、請求人の住所は本件住所となり、国内に住所を有する者であると認められる。
イ 請求人は、平成8年6月1日付の本件乗船契約をB社との間で締結し、その本件乗船契約を自動更新しつつ平成18年8月までの間、漁労長兼船長としてインド洋上で働いてきた。
 平成13年以降の出国・入国状況からすれば、施行令第15条第1項に規定する「その者が国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する者」に該当することは明らかである。
ロ 施行令第15条第1項は、個人が国外に居住することとなった場合にその者の住所を推定する規定であるところ、請求人の場合は、上記イのとおり国内に住所を有する者であると認められることから、同項の規定により住所を判断するものではなく、また、船舶の乗組員にとって、船舶は単なる勤務場所であって、生活の本拠ではないと解されていることから、そもそも請求人は施行令第15条が規定する国外において継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する者に該当しない。 ロ 原処分庁の見解は、まず基本通達3-1を適用し、それが適用される以上、施行令第15条第1項の適用はないと決めつけ、請求人が同条同項の「その者が国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有すること」に該当するか否かの判断を欠落させてしまっている。法令の適用以前に通達を適用するのは、法令と通達の関係からすると明らかに逆転している。
ハ 基本通達3-1の適用範囲について
(イ) 所得税法上の住所とは、各人の生活の本拠である旨定められているところ、生活の本拠とは、その者がその地に定住する者として、その者の社会生活上の諸問題を処理する拠点であると解され、その意味では、船舶の乗組員にとって、その乗船する船舶は単なる勤務場所に過ぎないと解されることから、これらの者の生活の本拠は、配偶者その他生計を一にしている親族の居住している地あるいは勤務外の期間中通常滞在する地にあるとするものである。
ハ 基本通達3-1の適用範囲について
(イ) 1年のほとんどを船内で過ごす船員にとって、船舶は勤務場所であると同時に生活の全てである。生活の全てである船舶が国外で稼動して、その船舶の所有者が国外の企業である以上、国外の企業に雇われて国外の陸上で働く労働者と請求人とを区別する合理的な根拠はない。
 基本通達3-1は、国内の企業に雇われて働く場所のみ国外の者に適用されるもので、施行令第15条第1項が適用される国外の企業に雇われて国外で働く者には適用されない。
(ロ) 施行令第14条第1項では、「第1号又は第2号のいずれかに該当する場合」と規定しており、第1号と第2号の双方に該当しないからといって矛盾が生ずるものではない。
 また、基本通達3-1は、船舶や航空機の乗組員にとっては、その搭乗する船舶等は、勤務場所に過ぎないことから、その者の生活の本拠を判断するに当たって、施行令第14条及び第15条の推定規定によって判断するのではなく、その者と生計を一にする親族の居住している地あるいは、勤務外の期間中通常滞在する地で判断するという趣旨であり、このことは施行令第14条及び第15条の規定の例外とは認められない。
(ロ) 基本通達3-1は、船舶又は航空機の乗組員の場合、配偶者その他生計を一にする親族は国内にいるものの、本人は船舶又は航空機の乗組員として通常その船舶内で起居し、又は航空機に搭乗して外国との間を往来し、その生活の相当部分を公海上又は外国で過ごす例が多く、施行令第14条第1項第2号には該当するが、同項第1号には該当しないという矛盾が生ずるので、その矛盾を解消するために出されたものであり、施行令第14条についてのものである。
 しかるに、基本通達3-1を請求人に適用することは、下位にある通達によって、上位にある法令(施行令第15条第1項)に例外を設けることになる。つまり、その者が国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する者であっても、その者の職業が船舶又は航空機の乗組員である場合には、施行令第15条の推定は働かないことになり、この2つの職業に就いている者のみを例外にしたことになる。
 政令自身で、「但し、船舶又は航空機の乗務員は除く」と定めていないにもかかわらず、下位にある解釈通達で上位にある政令に例外を設けることはできない。
  (ハ) 「その者が国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する者」のうち船舶又は航空機の乗組員のみを例外とする実質的理由もない。その者が「国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する者」に該当するならば、その職業の種類いかんにかかわらず、国外に住居を有する者との推定を受けるべきであり、船舶又は航空機の乗組員の2つの職業についている者だけが、推定を受けられない理由はない。
 つまり、船舶又は航空機の乗組員の場合、配偶者その他生計を一にする親族は国内にいるものの、本人は船舶又は航空機の乗組員として通常その船舶内で起居し、又は航空機に搭乗して外国との間を往来し、その生活の相当部分を公海上又は外国において過ごす例が多いという、船舶又は航空機の乗組員の職業上の特色が意味を持つのは、その者が国内に居住する場合であって、その者がいったん国外に於いて継続して1年以上居住することを通常必要とする職業に就いた以上、その職業上の特色はもはや意味を持たない。
  (ニ) 基本通達3-1が、施行令第15条第1項についても当てはまるとの立場を取った場合、日本に配偶者その他生計を一にする親族がいない独身者は申告義務を免れることになる。配偶者その他生計を一にする親族がいる場合には、申告義務があり、いない場合には申告義務を免れることに合理的な理由はない。

争点2 原処分は、税務署の担当者により扱いが異なるもの又は税務当局等の回答等に反した処分であって、信義則違反に該当するか否か。
原処分庁 請求人
イ 請求人から右主張を裏付ける資料等の提出や申述がない上、請求人の所得税の納税義務の有無は、他の者に対する指導内容により判定するものではない。 イ 請求外Cが、平成11年11月ころ、所得税を申告する必要がないかどうか、原処分庁に問い合わせをしたところ、申告の必要がないとの回答を受けたので、同人は以後申告しなかったとのことであり、原処分は、過去の指導と矛盾する。
ロ 請求人から右主張を裏付ける資料等の提出や申述がない上、請求人の所得税の納税義務の有無は、他の者に対する指導内容により判定するものではない。 ロ 請求人と同じ会社に勤務し、同じ労働条件の下で働いた日本人乗組員で、原処分庁の管轄以外に住んでいる者がその地の税務署に申告義務の有無を確認したところ、申告義務がないと回答された例を多数確認している。税務署間で見解が統一されていない。
  ハ 外国法人から給与をもらっている船舶又は航空機の乗組員について、すべからく基本通達3-1を徹底し、申告義務を課していないのが実情であり、R国船の船員にのみ申告義務を課すのは、その意味でも憲法第14条第1項の法の下の平等に反する。
ハ 請求人の所得税の納税義務の有無は、G書籍の回答内容により判定するものではない。
 また、当該G書籍の回答は平成2年6月改訂版により改正されていると認められるところ、原処分の対象となった年分前についての回答を参照して判断する合理性はない。
ニ D社発行のG書籍の本件類似事例についての問いへの回答が、平成2年6月改訂版から、下船期現地に居住していなかった場合(請求人のように有給休暇中、日本の家族の元に帰るような場合)には国外に住所を有するとはいえない(したがって、国内に住所を有する者となる)との解釈の余地を生むものに変更され不当である。
 陸上勤務者が休暇を取って、日本に戻るのと、海上勤務者が休暇を取って日本に戻ることを区別する理由はない。同様に、休暇中現地に居住するか、日本の家族の元に戻るかで施行令第15条第1項の解釈を異にする合理的理由はない。
 例えば、3年契約でB社の会計を担当するべくR国S市に居住し、休暇を取って時々日本に帰る人と、3年契約でB社に雇われ、インド洋上で漁船員として働き、休暇を取って時々日本に帰る人を区別する理由はなく、陸上勤務者と海上勤務者とを不当に区別する余地を生む改訂版の解釈は明らかに誤っている。
ニ 右見解は、外国法人が運航する船舶に乗り組み、その船舶が当該国の領海あるいは経済水域内に限って、航海もしくは操業するような場合に限定してのものであり、乗船している船舶が、B社の所有で、その操業海域が、R国の経済水域外の太平洋、インド洋及び大西洋海域であり、通常はインド洋上の船内で生活している請求人の場合と右課税庁見解における事実は異なるものである。 ホ 昭和62年○月○日付E発行のF新聞によれば、昭和60年○月当時、課税庁はEからの照会に対し、外国法人の運航する外国の港を基地として操業する漁船に継続して1年以上乗船した日本人漁船船員の税法上の扱いにつき、「外国の管轄水域のみにおいて操業することにしているその国の現地法人が運航する船舶に乗り組んでいる船員の家族が国内に居住していることのみをもって、直ちにわが国の居住者として取り扱うことは、陸上に勤務する者と著しくバランスを失することになります。したがって、外国法人が運航する船舶に乗り組み、その船舶が当該国の領海あるいは経済水域内に限って、航海もしくは操業するような場合であって乗船期間が1年以上である場合には、陸上勤務者の場合と同様、わが国に住所がないものと推定して課税関係を律することとして差し支えない。」との見解を明らかにしており、原処分はこの見解に反する課税である。
 なお、原処分は上記課税庁見解とは別の見解を採用したもので、左記主張はこれまでの経過を無視した態様である。限定は一例であって、操業場所が当該国の領海あるいは経済水域の内であるか外であるかによって、基本通達3-1の適用を異にする理由が全くないことは、その船舶が当該国の領海あるいは経済水域に出たり入ったりする場面を想定すれば容易に理解できる。
 上記見解のポイントは、施行令第15条を適用すべきケースについては、たとえその職業が船員であっても基本通達3-1を適用すべきでないということである。

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