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(平20.5.8、裁決事例集No.75 711頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、○○製造業を営む法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、土地とともに一括取得した建物について、売買契約書に記載された建物価額によらず、土地及び建物の各固定資産税評価額の価額比を基に算定した価額を減価償却資産の取得価額とし、かつ、課税仕入れに係る支払対価の額として、法人税並びに消費税及び地方消費税(以下、消費税及び地方消費税を併せて「消費税等」という。)の各申告をしたところ、原処分庁が、売買契約書に記載された建物価額によるべきであるとして、法人税及び消費税等の各更正処分等を行ったのに対し、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。
 争点は、当該建物の取得価額及び課税仕入れに係る支払対価の額は、売買契約書に記載された建物価額によるべきか、売買代金総額を土地及び建物の各固定資産税評価額の価額比であん分して算定した価額によるべきかである。

(2) 審査請求に至る経緯等

 審査請求(平成19年8月1日請求)に至る経緯及び内容は、別表1(法人税)及び別表2(消費税等)のとおり(なお、平成16年4月1日から平成17年3月31日まで及び平成17年4月1日から平成18年3月31日までの法人税の各事業年度を、順次「平成17年3月期」及び「平成18年3月期」といい、また、平成16年4月1日から平成17年3月31日までの消費税等の課税期間を「本件課税期間」という。)である。
 なお、以下、次のとおり略称する。
イ 法人税関係
 別表1「更正処分等」欄記載の各更正処分を併せて「本件法人税各更正処分」といい、同欄記載の過少申告加算税の賦課決定処分を、「本件法人税賦課決定処分」という。
ロ 消費税等関係
 別表2「更正処分等」欄記載の更正処分を「本件消費税更正処分」といい、同欄記載の過少申告加算税の賦課決定処分を「本件消費税賦課決定処分」という。

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(3) 関係法令等

 関係法令等は、別紙に記載のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実については、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成16年10月28日にA社との間で、同社から別表3記載の土地(以下「本件土地」という。)及び建物(以下「本件建物」といい、これと本件土地を併せて「本件土地建物」という。)を、総額120,500,000円(その内訳は、本件土地の価額110,000,000円、本件建物の価額10,000,000円及び本件建物に係る消費税等500,000円である。以下、これらの内訳の価額を「本件内訳の価額」という。)で譲り受ける旨の土地建物売買契約(以下「本件契約」という。)を締結するとともに、本件内訳の価額が記載された同契約に係る土地建物売買契約証書(以下「本件契約書」という。)を取り交わした。
ロ 本件土地の平成16年度固定資産税評価額は107,083,999円、本件建物の平成16年度固定資産税評価額は39,883,913円である。
ハ 請求人は、A社に対して、本件土地建物の売買代金として、手付金12,000,000円を平成16年10月28日に、残金108,500,000円を平成17年3月28日にそれぞれ支払い、同日にA社から本件土地建物の引渡しを受けた。
ニ 請求人は、その後、本件建物の内装工事等を行い、平成17年5月9日から事業の用に供した。
ホ 請求人は、消費税等の経理処理につき税抜経理方式を適用し、平成17年3月期の法人税につき、本件建物の支払対価の額が請求人主張額であることを前提に未払消費税等の額及び納付すべき消費税等の額を計上していたが、原処分庁は、本件消費税更正処分において、本件建物の支払対価の額が本件内訳の価額を基に算定した額であると認定して仕入税額控除の額を減額し、更にこれに伴い、同期の未払消費税等の額が○○○○円増額する一方、納付すべき消費税等の額が○○○○円増額となるから、その結果生じた差額66円を雑収入として同期の所得金額に加算した上で、本件法人税各更正処分のうち、平成17年3月期の法人税の更正処分(平成19年7月9日付でされた異議決定により一部が取り消された後のもの)を行った。

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2 主張

原処分庁 請求人
(1) 本件建物の取得価額は、次の理由により、本件内訳の価額である10,000,000円を基に算定すべきである。 (1) 本件建物の取得価額は、次の理由により、本件契約に係る売買代金総額の120,500,000円を本件土地及び本件建物の各固定資産税評価額の価額比であん分して算定した価額である32,263,316円を基に算定すべきである。
イ 契約自由の原則によれば、第三者間取引においては、公の秩序に反しない限り、当事者間の契約を尊重することになっている。
 本件契約書に記載された本件内訳の価額で、本件土地建物を売買する本件契約が有効に成立しているから、本件建物の取得価額は、法人税法施行令第54条第1項第1号に規定するとおり、本件契約書に記載された本件内訳の価額の10,000,000円を基に算定すべきである。
イ 本件契約は有効であるが、法人税法施行令第54条第1項第1号に規定する資産の購入の代価については、時価に基づき合理的に算定した金額とすべきである。
 したがって、本件土地及び本件建物の取得価額の算定は、本件契約に係る売買代金総額を各固定資産税評価額の比(約7対3)によりあん分するのが合理的である。
ロ A社の本件契約に係る担当者も、異議審理庁の担当者に対し、本件土地の価額は路線価を基に検討し、本件建物の価額は中古建物であることを考慮して検討したものであり、本件契約における本件土地及び本件建物の価額はそれぞれ妥当なものである旨申述している。 ロ 本件建物は、延床面積1,039.34平方メートルの立体駐車場付工場建物であり、その時価が本件契約書に記載された10,000,000円とは到底考えられない。
(2) 消費税法第30条第6項において、同条第1項の「課税仕入れに係る支払対価の額」とは、「対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭等の額」をいうと規定していることからすれば、本件建物の課税仕入れに係る支払対価の額は、上記(1)と同様に本件内訳の価額である10,000,000円を基に算定すべきである。 (2) 消費税法施行令第45条第3項及び租税特別措置法関係通達62の3(2)−3の規定等の趣旨に照らせば、本件建物の課税仕入れに係る支払対価の額は、上記(1)と同様に本件土地及び本件建物の各時価(固定資産税評価額)の比によりあん分した合理的な価額を基に算定すべきである。

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3 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ A社は、取引金融機関を通じ、不動産売買の仲介業者であるB社に対し、本件土地建物の売却先の選定と売却価額の査定を平成16年3月ころ依頼していたところ、同社から、売却価額算定資料として不動産調査報告書を同年4月15日に受領した。
ロ 請求人は、B社との間で、売買指値を120,000,000円とする本件土地建物の売買に関する媒介契約を平成16年9月7日に締結したところ、同社から、A社が請求人に本件土地建物を当該価額で売却することを了解した旨の連絡を同月13日に受けた。 
ハ A社は、請求人から、B社を経由して本件土地建物の不動産購入申込書を平成16年9月28日に受領した後、上記イの不動産調査報告書を基に本件土地の売却価額を110,000,000円に、本件建物の売却価額を既に決定していた売買代金総額120,000,000円から本件土地の売却価額を控除した10,000,000円と本件建物に係る消費税等500,000円の合計額10,500,000円にそれぞれ決定した。
 そこで、B社は、A社が決定した上記金額を内容とする本件契約書案を作成した。
ニ 請求人とA社は、平成16年10月28日、B社において、B社の担当者から本件契約に係る重要事項の説明を受け、両者が売買代金総額及び本件内訳の価額を確認した上で、本件契約書を取り交わした。
ホ 請求人は、本件契約の締結に至るまでに、A社との間において、出資及び被出資の関係はなく、また、本件契約以外に取引関係もなく、請求人の役員にも、A社の役員と親族関係にある者はいなかった。

(2) 判断

イ 本件建物の取得価額について
(イ) 法人税法施行令第54条第1項第1号において、購入した減価償却資産の取得価額は、当該資産の購入の代価と当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額とする旨規定されているところ、土地及び建物を一括取得した場合の建物の取得価額については、売買契約書において土地建物の売買価額の総額とともに、内訳として土地、建物それぞれの価額が記載されている場合には、契約当事者が通謀して租税回避の意思や脱税目的等の下に、故意に実体と異なる内容を契約書に表示したなどの特段の事情が認められない限り、当該契約書における記載内容どおりの契約意思の下に契約が成立したものと認められるから、その価額に特段不合理な点が認められない限り、契約当事者双方の契約意思が表示された当該契約書記載の建物の価額によるのが相当である。
(ロ) これを本件についてみると、本件契約は、上記1の(4)のイ及びハ並びに上記(1)のとおり、請求人及びA社が、契約当事者として本件契約書に記載された内容で合意し、本件契約の締結に至ったものと認められ、両者の間に、同族会社であるなど特殊な利害関係あるいは租税回避の意思や脱税目的等の下に故意に実体と異なる内容を契約書に表示したなどの事情は認められず、また、本件契約書に記載された本件建物の価額は、売主が不動産売買の仲介業者に本件土地建物の売却価額の査定を依頼し、その報告書を参考に決定したものであって、当審判所の調査によっても特段不合理なものとは認められないから、本件建物の減価償却に係る取得価額は、本件契約書に記載された本件建物の価額である10,000,000円を基に算定するのが相当である。
 したがって、そのとおり算定した平成18年3月期の法人税の更正処分に違法はない。
(ハ) 請求人は、本件建物の取得価額については、時価に基づき合理的に算定した金額とすべきであり、延床面積1,039.34平方メートルの立体駐車場付工場建物である本件建物の時価が、本件契約書に記載された10,000,000円とは到底考えられないから、本件土地及び本件建物に係る各固定資産税評価額を時価としてあん分する方法で算定した価額によるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(ロ)のとおり、請求人とA社との合意の上で作成された本件契約書において本件建物の価額が明記されていることから、当事者の契約意思は明らかである上、本件契約書に記載された本件建物の価額は、本件建物に係る固定資産税評価額を下回っているものの、上記(1)のハで認定した本件内訳の価額が決定された経緯からみても特段不合理なものであるとは認められないから、本件建物の取得価額は、当該価額によるべきであり、固定資産税評価額の価額比であん分する方法によることは相当でない。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
ロ 本件建物の課税仕入れに係る支払対価の額について
(イ) 消費税法第30条第6項において、課税仕入れに係る支払対価の額は、対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭等(当該課税仕入れに係る消費税等を含む。)の額である旨規定しているところ、課税資産である建物と非課税資産である土地とを一括して譲り受けた場合の課税仕入れに係る支払対価の額は、売買契約書において土地建物の売買価額の総額とともに、内訳として土地、建物それぞれの価額が記載されている場合には、上記イの(イ)で述べたとおり、特段の事情が認められない限り、当該契約書における記載内容どおりの契約が成立したと認められるから、その価額に特段不合理な点が認められない限り、当該契約書の記載によるのが相当である。
(ロ) これを本件についてみると、本件契約書に記載された本件建物の価額が、契約当事者双方の契約意思を表示するものであり、本件契約書に実体と異なる内容を表示したなどの特段の事情もなく、また、その価額に特段不合理な点が認められないことは、上記イの(ロ)で述べたとおりであるから、本件建物の課税仕入れに係る支払対価の額は、本件契約書に記載された本件建物の価額10,000,000円を基に算定するのが相当である。
 したがって、そのとおり算定した本件消費税更正処分に違法はない。
 また、上記1の(4)のホのとおり、本件消費税更正処分における支払対価の額の認定を前提としてされた平成17年3月期の法人税の更正処分にも違法はない。
(ハ) 請求人は、消費税法施行令第45条第3項及び租税特別措置法関係通達62の3(2)−3の規定等の趣旨に照らせば、本件建物の課税仕入れに係る支払対価の額は、本件土地及び本件建物の各時価(固定資産税評価額)の比によりあん分した合理的な価額を基に算定すべきである旨主張する。
 しかしながら、消費税法施行令第45条第3項の規定は、消費税の課税標準の額の計算において、課税資産と非課税資産を一括して譲渡した場合にそれぞれの資産の譲渡に係る対価の額が合理的に区分されていない場合に、これらの資産の譲渡の対価の額をそれぞれの資産の譲渡の時における価額の比により区分する旨を定めたものであるところ、本件では、上記(ロ)のとおり、本件契約書において本件建物及び本件土地の価額が区分して明示されている上、その価額に特段不合理な点は認められないから、消費税法施行令第45条第3項は適用されない。
 また、租税特別措置法関係通達62の3(2)−3は、そもそも、土地等の譲渡に係る法人税課税の特例(いわゆる土地重課)における土地等の対価の額の算定方法を定めたものであって、本件のような消費税に関する取扱いを定めたものではない。仮に、上記通達が本件のような消費税課税に適用されるとしても、上記通達の趣旨は、法人が建物及び土地等を同時に譲渡した場合の土地等の譲渡対価の額が、上記通達に定める方法等により合理的に算定され、かつ、契約書に明らかにされている場合は、これによる旨を定めたものであるところ、本件においては、上記(ロ)のとおり、土地と建物の価額が合理的に区分され、かつ、区分された価額が契約書に明らかにされているのであるから、当該区分された価額に基づいて建物の課税仕入れに係る支払対価の額を算定することは、正に、上記通達の趣旨に沿ったものといえる。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
ハ 本件法人税賦課決定処分及び本件消費税賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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