ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.75 >> (平20.3.3、裁決事例集No.75 725頁)

(平20.3.3、裁決事例集No.75 725頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、A社(以下「滞納法人」という。)を譲渡担保設定者とし審査請求人(以下「請求人」という。)を譲渡担保権者とする債権から滞納法人の滞納国税を徴収するため、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第24条《譲渡担保権者の物的納税責任》の規定に基づいて、請求人に対する同条第2項の告知処分をした上で、債権の差押処分、交付要求処分、配当処分及び充当処分をしたところ、請求人が、上記各処分は、滞納法人についての破産手続開始決定後に行われたものであるから、破産法第43条《国税滞納処分等の取扱い》の規定に反し違法であると主張して、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、別表1記載の滞納国税を徴収するため、平成18年10月10日付及び平成19年2月9日付で徴収法第24条第1項及び第2項の規定に基づき、譲渡担保権者である請求人に対し、別表2の「告知処分」欄のとおり、各告知処分をした。
 なお、原処分庁は、平成18年12月15日付及び平成19年3月16日付で、別表2の「告知処分」欄1及び2の各告知処分により徴収しようとする滞納国税から、平成18年度の源泉所得税の不納付加算税○○○○円の部分を取り消した(以下、この一部取消し後の同表の「告知処分」欄の1ないし3の各告知処分を「本件各告知処分」という。)。
ロ 原処分庁は、平成18年10月23日付及び平成19年2月21日付で別表2の「差押処分」欄の1ないし6、及び9のとおり、各差押処分をした。
ハ 原処分庁は、別表2の「差押処分」欄の5の差押処分に係る債権の債務者であるB社が平成18年10月○日付でC地方法務局D支局に被差押債権を供託したため、平成18年11月17日付で同表の「差押処分」欄の7のとおり、同支局の供託官を第三債務者として、請求人の供託金還付請求権等の差押処分をした。
 また、原処分庁は、平成19年1月30日付で、当該供託金の還付請求権等について、別表2の「差押処分」欄の8のとおり、債権の二重差押えを行うとともに(以下、同表の「差押処分」欄の1ないし9の各差押処分を「本件各差押処分」という。)、同日付で先行差押機関(原処分庁)に対する交付要求処分(以下「本件交付要求処分」という。)をした。
ニ 原処分庁は、平成18年11月6日以降において、別表2の「配当処分」欄の1ないし4のとおり、各配当処分(以下「本件各配当処分」という。)をし、また、同表の「充当処分」欄の1ないし5のとおり、各充当処分(以下「本件各充当処分」という。)をした。(以下、本件各告知処分、本件各差押処分、本件交付要求処分、本件各配当処分及び本件各充当処分を併せて「本件各処分」という。)
 なお、原処分庁は、別表2の「充当処分」欄の1の充当処分について、誤りがあったため、平成19年1月30日付で同充当処分の全部を取り消し、同日付で同表の「充当処分」欄の3の充当処分をしている。
ホ 請求人は、本件各処分について、異議申立て、異議決定を経由して、別紙1のとおり平成19年3月5日、同年4月13日及び同年6月8日に審査請求をしたので、当審判所は、同年3月5日にされた審査請求に、同年4月13日及び同年6月8日にされた審査請求を併合審理することとした。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙2のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 平成18年9月○日、E地方裁判所F支部は、滞納法人に対し破産手続開始の決定(以下、この決定により開始された破産手続に係る事件を「本件破産事件」といい、本件破産事件が係属する裁判所を「本件破産裁判所」という。)をした。
ロ 原処分庁は、平成19年3月29日付で、同年1月30日付で行った供託金の還付請求権等の二重差押え及び本件交付要求処分をそれぞれ解除した。
ハ 本件破産事件の破産管財人は、平成19年4月23日付の本件破産裁判所に対する本件破産事件の報告書において、本件破産事件については、財団債権者への割合的弁済を実施し、破産債権者への配当は全くなく終結見込みであると報告した。

トップに戻る

2 争点

譲渡担保設定者について破産手続開始決定がされた場合、徴収法第24条第2項の規定に基づく譲渡担保権者に対する告知処分及び同条第3項の規定に基づく譲渡担保財産についての滞納処分は、破産法第43条の規定に反し、違法となるか否か。

3 主張

請求人 原処分庁
 請求人の譲渡担保権の目的である譲渡担保債権は、滞納法人の破産手続における破産財団に属する財産であり、破産財団に属する財産については、破産法第43条の規定により、破産手続開始後は、国税滞納処分をすることはできないから、破産手続開始後に破産財団に属する財産に対して行われた本件各処分は同法に反し違法である。 (1) 納税者について破産手続開始の決定がされた場合には、その後滞納処分をすることができないが、譲渡担保権者に対する告知処分は滞納処分に該当しないから、本件各告知処分は、破産法第43条の規定に反するものではない。
(2) 原処分庁がした譲渡担保債権についての滞納処分は、譲渡担保権者である請求人を第二次納税義務者とみなして請求人の物的納税責任を追及するもので、破産者である滞納法人に対して新たな滞納処分を行うものではないから、破産法第43条には違反しない。

4 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 滞納法人は、平成17年9月2日及び同年11月16日、請求人及びG信用保証協会(以下「保証協会」という。)との間で、請求人及び保証協会に対し、滞納法人が有する別表3−1及び別表3−2記載の債権を根担保としてそれぞれ譲渡する旨の契約を締結し(以下、別表3−1及び別表3−2記載の各債権を「本件譲渡担保債権」といい、これらの契約を併せて「本件債権譲渡担保契約」という。)、滞納法人と請求人及び保証協会の申請に基づき、平成17年9月○日及び同年11月○日に「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」(以下「動産・債権譲渡特例法」という。)の規定に基づくその旨の債権譲渡登記がされた。
 本件債権譲渡担保契約は、請求人からの委任を受けて、滞納法人が譲渡目的債権を取り立てることができることとされ(同契約第4条第1項)、請求人が必要と認めた場合には、当該取立委任を解除できるものとされている(同契約第5条第1項)。
ロ 請求人は、本件譲渡担保債権の各第三債務者に対し、平成18年9月26日付で、動産・債権譲渡特例法第4条第2項に基づく通知を書留内容証明郵便により、登記事項証明書を書留郵便により送付した(当該通知書には、債権譲渡特例法第2条第2項に基づいて通知する旨記載されているが、正しくは、動産・債権譲渡特例法第4条第2項の規定に基づく通知である。)。このうち、B社に対する通知は平成18年9月27日に到達しており、別表3−1及び別表3−2のその他の各第三債務者についても、同日ごろに通知が到達していると推定できる。
ハ 請求人は、別表2の「差押処分」欄の1ないし6の各差押処分に係る各第三債務者に対し、本件債権譲渡担保契約第5条に基づき取立委任解除通知書を平成18年9月27日付書留内容証明郵便で送付した。
ニ 滞納法人が請求人との取引について約した平成元年5月10日付の銀行取引約定書には、滞納法人について破産の申立てがあった場合、滞納法人は請求人に対する一切の債務について期限の利益を失い直ちに債務を弁済する旨記載されている。
ホ 請求人は、平成18年11月15日に本件破産裁判所に対し、本件譲渡担保債権が別除権の目的財産である旨の届出をした。
ヘ 本件破産事件の破産管財人が本件破産裁判所に提出した平成19年2月19日付報告書には、要旨次の記載がある。
(イ) 請求人及び保証協会は、平成17年9月○日及び同年11月○日に動産・債権譲渡特例法第4条第1項の第三者対抗要件たる登記を完了し、上記ロの平成18年9月26日付通知にて、動産・債権譲渡特例法第4条第2項の債務者対抗要件を備えており、それらの日は、いずれも破産手続開始申立日である平成18年9月○日よりも以前である(上記報告書においては、第三者対抗要件たる登記及び債務者対抗要件についての根拠法令をそれぞれ債権譲渡特例法第2条第1項及び同条第2項としているが、正しくは、動産・債権譲渡特例法第4条第1項及び同条第2項である。)。
(ロ) 第三者対抗要件が否認できなければ、結局のところ本件譲渡担保債権が破産財団に帰属することを破産管財人は主張することができない。
(ハ) 本件破産事件においては、債権譲渡担保設定行為を破産法第162条《特定の債権者に対する担保の供与等の否認》により否認することはできないから、本件債権譲渡担保契約について、否認権を行使することは困難であるため、本件譲渡担保債権は破産財団を構成しないものと思料する。

トップに戻る

(2) 法令解釈等

イ 譲渡担保債権の帰属
 金銭債務の担保として、既に生じ、又は将来生ずべき債権を一括して譲渡担保権者に譲渡することとする債権譲渡担保契約が譲渡担保設定者と譲渡担保権者との間で締結された場合には、債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款がない限り、譲渡担保の目的とされた債権は譲渡担保設定者から譲渡担保権者に確定的に譲渡され、譲渡担保の目的とされた将来生ずべき債権については、それが発生したときに、譲渡担保権者が譲渡担保設定者の特段の行為を要することなく当該債権を担保の目的で取得するものと解されており、譲渡目的債権の移転時期については、遅くとも当該債権が発生したときに、譲渡担保権者に移転すると解される。
ロ 破産財団の範囲等
 法人である債務者について破産手続が開始されると、破産手続開始決定時における債務者のすべての財産が破産財団を構成し、破産財団を構成する財産についての破産者の管理処分権がはく奪され、当該財産の管理処分権は破産管財人に専属し、当該財産は破産管財人によって破産債権者の共同の満足に充てるために換価され、その換価代金が破産債権者に配当されることになる。
ハ 破産法における別除権
 破産法第2条第9項は、別除権とは、破産手続開始の時において特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である破産財団に属する財産について、破産手続によらないで行使することができる権利をいう旨規定しており、担保設定者が破産しても、別除権者は破産手続によらず、通常の手続によって担保の目的物から優先弁済を受けることができる。
ニ 滞納処分と破産手続との関係
 破産法第43条第1項は、「破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産に対する国税滞納処分は、することができない。」とする一方、その第2項では、「破産財団に属する財産に対して国税滞納処分が既にされている場合には、破産手続開始の決定は、その国税滞納処分の続行を妨げない。」と規定している。これは、破産手続における総債権者の公平な満足を実現するためには、破産管財人に破産財団に属する財産の管理処分権を専属させ、その広い裁量と責任の下に手続の円滑な進行を図る必要があることを考慮する一方、破産手続開始の決定前に滞納処分が開始されている財産については、当該滞納処分を行った租税債権者は当該財産から当該滞納処分に係る租税債権を優先的に徴収することができるという点において、特定の財産に対する担保権と同等の地位を有していることを考慮したものと解される。
ホ 徴収法第24条の立法趣旨
 徴収法は、国税が私債権に優先することを原則としながら、国税の法定納期限等以前に滞納者の財産に質権や抵当権が設定されている場合には、その財産の換価代金の配当に当たっては、その被担保債権が国税に優先することとしている。
 ところで、滞納処分は、本来、滞納者の財産に対して行わなければならないが、譲渡担保財産は法形式上担保権者に移転しているため、設定者に対する滞納処分として差し押さえることができないことから、譲渡担保の設定が国税の法定納期限等後であっても、譲渡担保権者は譲渡担保財産の換価代金から常に国税に優先して配当を受けることができることとなり、質権や抵当権との均衡を欠くことになる。そこで、徴収法第24条は、すべての担保制度が租税の徴収の面からはできるだけ同一の取扱いを受けることが望ましいとの観点に立った上で、譲渡担保財産が譲渡担保権者に移転していることを考慮して、その譲渡担保権の設定が国税の法定納期限等後に行われ、かつ、滞納者の財産から国税を徴収することができないときに限って、譲渡担保権者を第二次納税義務者とみなして、その譲渡担保財産に対する滞納処分を行うことによって、その換価代金から国税を優先的に徴収することができることとしている。

トップに戻る

(3) 判断

 これを本件についてみると、次のとおりである。
イ 本件譲渡担保債権の帰属について
(イ) 上記(1)のイのとおり、本件債権譲渡担保契約における譲渡目的債権は、同契約締結時点において、現に生じ、又は将来生ずべき債権であって、同契約においては譲渡の効果の発生を留保する旨の特段の付款は付されていないのであるから、譲渡目的債権は譲渡担保権者である請求人及び保証協会に確定的に譲渡されており、将来生ずべき債権であった本件譲渡担保債権は、遅くともその発生のときに請求人及び保証協会に移転するものということができる。そして、本件債権譲渡担保契約における譲渡目的債権の譲渡については、動産・債権譲渡特例法第4条第1項の規定に基づく登記が経由されたことによって第三者対抗要件を備えており、本件譲渡担保債権が滞納法人についての破産手続開始の決定がされる前に発生していたものであることからすると、本件譲渡担保債権は破産財団を構成しないものと認められる。本件破産事件の破産管財人が本件破産裁判所に提出した平成19年2月19日付の報告書において第三者対抗要件が否認できなければ本件譲渡担保債権が破産財団に帰属することを主張できないとしているのは、上記のように、本件譲渡担保債権が破産手続開始決定前に請求人及び保証協会に移転していることを前提とするものと解される。
(ロ) また、譲渡担保財産は完全に譲渡担保権者に帰属するのではなく、譲渡担保設定者にも一定の物権が帰属するという理論に立脚したとしても、本件譲渡担保債権の帰属についての判断は次のとおりである。
 譲渡担保とは、債権を担保するために、譲渡担保設定者の財産を債権者たる譲渡担保権者に移転し、被担保債権が弁済されれば当該財産は譲渡担保設定者に復帰するが、債務不履行があれば、譲渡担保権者が目的財産を自己に帰属させた上でその評価額と被担保債権との清算を行うか、譲渡担保権者が目的財産を処分して同じく清算を行う形で被担保債権の回収を図る担保形態である。そして、被担保債権の弁済期が経過すると、譲渡担保権者が目的財産の処分権を取得し、譲渡担保設定者は、譲渡担保権者による目的財産の換価処分を受忍する立場に立たされることになる。また、破産法は、譲渡担保権が別除権に当たるとの規定を置いていないが、破産手続において、譲渡担保権は別除権と同様に取り扱われるものと解されている。そうすると、被担保債権の弁済期が経過した後に譲渡担保設定者について破産手続が開始された場合、譲渡担保権者は別除権の行使としての譲渡担保権の実行を妨げられず、また、破産管財人は、譲渡担保権者による目的財産の換価処分を受忍する立場に立たされるものと解される。そして、破産法は、破産管財人は民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定によって別除権の目的財産を換価することができ、別除権者はその換価を拒むことができないと規定している(破産法第184条第2項)が、別除権者が法律に定められた方法によらないで別除権の目的財産を処分する権利を有するときは、裁判所は破産管財人の申立てによって別除権者がその処分をすべき期間を定めることができ(同法第185条第1項)、当該期間内に別除権者が目的財産を処分しないときに別除権者の処分権が失われる(同条第2項)ことからすれば、被担保債権の弁済期が到来した後に譲渡担保設定者について破産手続が開始された場合、その目的財産についての譲渡担保権者の処分権が失われるまでは、その目的財産の管理処分権が破産管財人に専属することはないと解され、破産法第2条第14項が規定する「破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するもの」に該当しないから、当該財産は破産財団を構成しないものと解される。
 これを本件についてみると、本件債権譲渡担保契約に係る被担保債権は、滞納法人についての破産手続開始の申立てによって弁済期が到来し、上記(1)のロ及びハのとおり、1請求人は、本件譲渡担保債権の第三債務者に対し、平成18年9月26日付で、動産・債権譲渡特例法第4条第2項に基づく通知を書留内容証明郵便により、登記事項証明書を書留郵便によりそれぞれ送付しており、また、2請求人は、本件譲渡担保債権の第三債務者に対し、平成18年9月27日付で取立委任解除通知書を書留内容証明郵便で送付しているのであるから、請求人は本件譲渡担保債権の第三債務者に対し、直接自己が債権を取り立てる旨の意思表示をし、譲渡担保権の実行を開始したと認められる。
 そうすると、本件譲渡担保債権は、その管理処分権が本件破産事件の破産管財人に専属したということはできず、破産財団について破産法第2条第14項が規定する「破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するもの」に該当しないから、滞納法人の破産手続に係る破産財団を構成するものではないと解される。
ロ 本件譲渡担保債権の存在について
 徴収法第24条に基づいて滞納処分による差押処分及び交付要求処分を行うためには、譲渡担保の目的とされた財産が存在することが前提であるところ、本件各差押処分及び本件交付要求処分の時点において、請求人は、第三債務者から本件譲渡担保債権を取り立てていないことから、譲渡担保権の実行を完了しておらず、本件譲渡担保債権は、本件各差押処分及び本件交付要求処分の時点において存在していたと認められる。
ハ 上記イ及びロのとおり、本件譲渡担保債権は破産財団を構成するものではないと解されるとともに、本件各差押処分及び本件交付要求処分の時点において、請求人の財産として存在していたと認められるのであるから、原処分庁がした滞納処分は、破産手続開始後に滞納法人の破産財団に属する財産に対して行われたものではないと解するのが相当である。
ニ 徴収法第24条に基づく譲渡担保財産に対する滞納処分について
 上記(2)のホで述べた徴収法第24条の趣旨は、滞納者について破産手続開始の決定があった場合においても尊重されなければならないところ、別除権の実行が民事執行法その他の強制執行の手続に従って行われるときは、交付要求をすることによって国税が別除権の被担保債権に優先して配当を受けることになるが、譲渡担保の場合は、別除権の実行が私的実行の方法によって行われ、交付要求ができないため、破産手続開始後における譲渡担保財産に対する滞納処分が許されないとすれば、滞納者について破産手続が開始されたことによって、本来、国税に劣後して配当を受けるべきであった別除権の被担保債権が国税に優先して配当を受けるという極めて不合理な結果をもたらすことになる。したがって、徴収法第24条の趣旨からすれば、破産手続開始後であっても、譲渡担保財産に対する滞納処分は、許容されると解される。
ホ 上記ハ及びニのとおり、本件譲渡担保債権は破産財団を構成せず、原処分庁がした滞納処分は、徴収法第24条の趣旨に沿ったものと認められるから、破産法第43条の規定に反しないというべきである。
 したがって、本件譲渡担保債権は、滞納法人の破産手続における破産財団に属する財産であることを前提とし、破産手続開始後の国税滞納処分は破産法第43条の規定に反するから本件各処分は違法であるとする請求人の主張には理由がない。
ヘ 本件各告知処分について
 破産法第43条第1項は、破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産に対する国税滞納処分はすることができないことを定めているところ、ここにいう国税滞納処分とは、国税の徴収に関する事務に従事する職員が自ら強制換価手続を行って国税の徴収を図る手続をいうものであるから、譲渡担保権者に物的納税責任を負わせる徴収法第24条第2項の告知処分が破産法第43条第1項の国税滞納処分に当たらないことは明らかである。
 なお、原処分庁は、滞納法人についての破産手続開始の決定前に滞納法人の財産について滞納処分を行っていないため、当該決定により原処分庁が破産財団に属する財産について新たに滞納処分を執行することはできない。また、本件各告知処分に係る滞納国税は、本件破産事件において破産債権として取り扱われるところ、前記1の(4)のハのとおり、本件破産事件においては、破産債権に対する配当は全く見込めないのであるから、本件各告知処分時点において、滞納者の財産について滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められる。そして、本件譲渡担保債権は、滞納法人が譲渡した財産でその譲渡により担保の目的となっているものに該当するから、本件各告知処分は、徴収法第24条第1項の要件を満たしていると認められ、本件各告知処分は、同条第2項の規定に基づき、譲渡担保財産の権利者である請求人に対し、徴収しようとする金額その他必要事項を記載した書面により告知しているから、適法であると認められる。
ト 本件各差押処分について
 請求人は、本件各差押処分の全部の取消しを求めているところ、行政処分の取消しを求めるについては、その取消しを求める処分が現に存在していることが必要である。
 これを本件についてみると、原処分庁は、平成18年10月23日以降に別表2の「差押処分」欄の各差押処分を行い、同表の「差押処分」欄の1ないし467及び9の差押処分に係る債権については、「差押債権取立状況」欄のとおり徴収法第67条第1項の規定に基づき取り立てており、この取立てにより上記各債権についての差押処分は、いずれもその目的を完了し、消滅している。また、原処分庁が平成18年10月23日に行った同表の「差押処分」欄の5の差押処分に係る債権については、前記1の(2)のハのとおり、平成18年10月○日に供託され、原処分庁が平成18年11月17日に当該供託金の還付請求権等の差押処分を行った上、当該供託金の還付請求権等が平成19年3月28日に取り立てられたことから、上記5の差押処分はその目的を完了し、消滅している。
 さらに、原処分庁が平成19年1月30日に行った別表2の「差押処分」欄の8の差押処分は、前記1の(4)のロのとおり、平成19年3月29日付で解除されていることから、当該差押処分は存在しない。
 そうすると、請求人が取消しを求める本件各差押処分は、既に消滅しているか、存在しないものであるから、請求人は、本件差押処分の取消しを求める法律上の利益を有しないといわざるを得ず、本件各差押処分の取消しを求める審査請求は不適法なものである。
チ 本件交付要求処分について
 請求人は本件交付要求処分の全部の取消しを求めているが、行政処分の取消しを求めるについては、その取消しを求める処分が現に存在していることが必要であるところ、原処分庁は平成19年3月29日に本件交付要求処分を解除しているから、同交付要求処分は存在せず、請求人は、本件交付要求処分の取消しを求める利益を有しないといわざるを得ず、本件交付要求処分の取消しを求める審査請求は不適法なものである。
リ 本件各配当処分について
 本件各配当処分の基となった本件各告知処分及び本件各差押処分は、前述のとおり、破産法第43条の規定に違反するものではなく、当審判所の調査によれば、いずれの手続も適法であると認められる。
 そして、原処分庁は、徴収法第67条第1項の規定により差し押さえた債権の取立てを行っており、配当を受ける権利を有する者は原処分庁のみであることから、同法第131条の規定により配当金のすべてを原処分庁に配当する旨を記載した配当計算書を作成し、請求人に送付している。
 したがって、本件各配当処分は、徴収法の各規定に基づき適法に行われている。
ヌ 本件各充当処分について
 原処分庁は、平成19年1月5日に行った別表2の「充当処分」欄の1の充当処分については、前記1の(2)のニのとおり、同年1月30日に取り消していることから、同充当処分は存在せず、存在しない処分の取消しを求めることはできないので、平成19年1月5日の充当処分に対する審査請求は不適法なものである。
 また、同処分を除く本件各充当処分の基となる本件各告知処分、本件各差押処分及び本件各配当処分は前述のとおりいずれも適法に行われていることが認められ、原処分庁は、徴収法第129条に基づき配当された金銭を滞納国税に充当する旨の充当通知書を作成し、請求人に通知している。
 したがって、平成19年1月30日に取り消された充当処分を除く本件各充当処分は、徴収法の規定に基づき適法に行われている。

(4) 本件各処分に対する審査請求についての判断は以上のとおりであり、原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る