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(平20.8.6、裁決事例集No.76 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人A及びB(以下、2名を併せて「請求人ら」という。)が、相続税の課税財産として申告した退職手当金等について、その算定根拠に誤りがあり適正でなかったとの理由により相続税の法定申告期限後に減額されたとして、国税通則法第23条《更正の請求》第1項に基づき更正の請求をしたところ、原処分庁が更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人らがその取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成19年9月18日)に至る経緯及び内容は、別表のとおりである。
 なお、請求人らは、Aを総代として選任し、その旨を平成19年9月28日に届け出ている。

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 平成16年12月○日に死亡したC(以下「本件被相続人」という。)は、D社の代表取締役であった。
ロ 請求人らは、本件被相続人の相続人である。
ハ D社は、平成17年5月30日に臨時株主総会を開催した(以下、この臨時株主総会を「本件株主総会」という。)。
ニ 請求人らが原処分庁に提出した本件被相続人に係る相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)には、相続税法第3条《相続又は遺贈により取得したものとみなす場合》第1項第2号の規定により、Aが本件被相続人から相続により取得したとみなされる退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与(以下「本件退職手当金等」という。)の額は、255,000,000円である旨記載されている。

2 争点

 本件被相続人に係る役員退職金255,000,000円(以下「本件退職金」という。)が、その算定根拠に誤りがあり適正でなかったとの理由により相続税の法定申告期限後に減額されたとして更正の請求が認められるか否か。

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3 主張

請求人ら 原処分庁
 本件退職手当金等の額は、次のとおり152,325,000円であり、通則法第23条第1項の規定による更正の請求が認められる。
(1) 請求人らは、本件株主総会における本件退職金を支給する旨の決議(以下「本件支給決議」という。)を承認していない。
 なお、本件株主総会の議事録はD社の関与税理士であったEが作成したもので、請求人らは内容について説明を受けることなく押印したものである。
 したがって、本件支給決議は、株主総会の決議を欠き、決議不存在確認の訴え(商法第252条)の事由となり得るものである。
 また、Aが本件被相続人に係る死亡退職金、功労金及び弔慰金として受領した金額の合計額は152,325,000円で、本件退職金とは異なっており、このような場合には、実質的、経済的意義を基準として事実認定すべきであるから、本件退職手当金等の額は152,325,000円である。
 なお、形式と取引の実態が合致していない場合における実質主義は、税法固有の問題ではなく、法律一般の適用に当然行われている原理である。
 さらに、本件退職金の算定根拠には誤りがあり、適正な支給額は152,325,000円である。
 本件退職手当金等の額は、次のとおり255,000,000円であり、通則法第23条第1項の規定による更正の請求は認められない。
(1) 本件退職金の支給は、本件支給決議を明確にするために作成し、請求人らが議長及び出席取締役として記名、押印した本件株主総会の議事録があることから、平成17年5月30日に確定していると認められる。
 また、D社は、本件退職金として、F銀行G支店のA名義の普通預金口座に、平成17年10月24日に42,137,700円、平成18年4月20日に86,759,331円をそれぞれ振り込んでいるほか、平成17年5月31日に8,427,969円を仮払金と相殺している。
 このことから、確定した本件退職金については支給の実態があり、本件退職金は本件退職手当金等に該当する。
 また、D社が本件退職金の確定を前提として作成した平成16年6月1日から平成17年5月31日までの事業年度(以下「平成17年5月期」という。)に係る貸借対照表、損益計算書及び利益金処分計算書(以下、これらを併せて「第51期決算書類」という。)は、平成17年7月31日の定時株主総会において、正確、適法かつ妥当である旨承認されており、また、D社は、第51期決算書類に基づき作成した平成17年5月期の法人税の確定申告書を平成17年8月1日にH税務署に提出していることから、本件支給決議に基づく本件退職金の算定に誤りがあったとは認められない。

(2) 相続税法第3条第1項第2号に規定する退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与の額は、被相続人に支給されるべきであった退職手当金等で被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものを実際に受領した額であるから、AがD社から受領した152,325,000円が本件退職手当金等の額である。
(2) 本件退職手当金等は、前記(1)のとおり、本件退職金が平成17年5月30日に確定していることから、Aが本件退職金の全額を受領しているか否かに影響されるものではない。
(3) D社は、平成18年5月15日に株主総会を開催し、152,325,000円(死亡退職金110,250,000円、功労金33,075,000円、弔慰金9,000,000円)を支給する旨の訂正決議を行っており、本件支給決議に基づく本件退職金の全額を支給する意思はない。
 また、D社は、H税務署に提出した平成17年6月1日から平成18年5月31日までの事業年度(以下「平成18年5月期」という。)の法人税の確定申告書において、本件退職金とAに支払った額との差額102,675,000円を前期損益修正益として益金の額に算入している。
(3) D社が、株主総会を開催し本件支給決議を訂正して本件退職金を減額した事実は認められない。
 なお、本件退職金の計算根拠に誤りがあり訂正することを承認した旨の平成18年5月15日の取締役会の決議は、D社の定款の定め及び会社法第361条の規定に違背し、手続に瑕疵があるものと認められる。

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4 判断

(1) 認定事実等

原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ D社の発行済株式総数は○○○○株であり、次のとおり発行済株式のすべてを請求人らが所有していることから、D社は法人税法第2条《定義》に規定する同族会社に該当する。
 D社の発行済株式は、本件被相続人の相続開始日(平成16年12月○日)前においては、本件被相続人が○○○○株、Aが○○○○株所有していたが、相続開始により本件被相続人が所有していた○○○○株については、A及びBがそれぞれ○○○○株及び○○○○株を相続したことから、Aが○○○○株、Bが○○○○株を所有している。
ロ D社の定款には、株主総会の決議及び退職慰労金に関して、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 第17条(普通決議の要件)
 株主総会の決議は、法令又は本定款に別段の定めある場合を除くほか、出席株主の議決権の過半数によってこれを定める。
(ロ) 第25条(役員報酬)
 取締役、監査役の報酬及び退職慰労金は、それぞれ株主総会の決議においてこれを定める。
ハ 本件株主総会の議事録には、議長代表取締役としてA、出席取締役としてJ及びBのそれぞれの記名、押印があり、要旨次のとおり記載されている。
 (退職金支給の件)
 議長は、代表取締役であった本件被相続人が死亡により取締役を辞任されたので、本件被相続人の在職中の功労に報いるため、次のとおり退職金及び弔慰金を支給したい旨を述べ、議場に諮ったところ、満場一致で承認した。
(イ) 退職金
 退職金の額  255,000,000円
 平成17年5月31日に一部を支払い、残額は各決算期末の年賦払いとする。
(ロ) 弔慰金
 弔慰金の額   15,000,000円
 平成17年度中に支払う。
ニ D社の平成17年7月31日付定時株主総会議事録には、議長代表取締役としてA、出席取締役としてJ及びBのそれぞれの記名、押印があり、要旨次のとおり記載されている。
 (平成17年5月期決算報告の件)
 議長は、取締役を代表して、平成17年5月期におけるD社の営業状況を詳細に説明し、第51期決算書類を提示してその承認を求めた。
 次いで、監査役Kは、上記の書類を綿密に調査したところ、いずれも正確、適法かつ妥当であることを認めた旨を報告した。
 総会は、別段の異議なく、承認可決した。
ホ D社は、本件退職金の記載がある第51期決算書類に基づき作成された平成17年5月期の法人税の確定申告書を、平成17年8月1日にH税務署に提出している。
ヘ D社は、本件退職金の一部として、平成17年5月31日に仮払金8,427,969円と相殺した後、平成17年10月24日に42,137,700円及び平成18年4月20日に86,759,331円を、また、弔慰金として平成17年8月31日に14,999,475円を、それぞれF銀行G支店のA名義の普通預金口座に振り込んでいる。
ト D社の関与税理士であったEは、当審判所に対して、要旨次のとおり答述している。
(イ) 平成18年3月ころまでの約20年間、D社を関与していた。
(ロ) 本件株主総会には、関与税理士として立ち会った。
(ハ) 本件退職金は、D社の会議室において、A、J及びBの3名が出席して開催された本件株主総会で、満場一致で承認され決議されたものである。
(ニ) 本件株主総会の議事録は、Eが作成したものであり、開催日時、議事の内容について間違いはない。
(ホ) 本件株主総会を開催した時点において、D社には役員退職慰労金規定はなかった。
チ D社の関与税理士であるLは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(イ) 平成18年4月ころから、D社を関与している。
(ロ) 関与した当時、D社には役員退職慰労金規定はなかった。
リ D社には、本件支給決議を訂正する決議をした旨記載した株主総会議事録の保管はない。
ヌ D社の平成18年5月15日付取締役会議事録には、議長代表取締役としてA、出席取締役としてJ及びB、出席監査役としてKのそれぞれの記名、押印があり、要旨次のとおり記載されている。
 (平成17年5月期決算訂正の件)
 議長は、平成17年5月期の決算において計上された本件退職金の計算根拠及び保険金収入の収益計上時期に誤りがあり、適正性を欠くことから、平成18年5月期の決算において、これを訂正することについて問うたところ全員異議なくこれを了承した。
ル D社の平成18年6月22日付定時株主総会議事録には、議長代表取締役としてA、出席取締役としてJ及びBのそれぞれの記名、押印があり、要旨次のとおり記載されている。
 (平成18年5月期決算報告書の承認に関する件)
 議長は、平成18年5月期における営業報告書を詳細に説明し、平成18年5月期に係る貸借対照表、損益計算書及び株主資本損益計算書(以下、これらを併せて「第52期決算書類」という。)を提出して、その承認を求めた。
 総会は、別段の異議なく、承認可決した。
ヲ D社は、前期損益修正益102,675,000円を反映した第52期決算書類に基づき作成された平成18年5月期の法人税の確定申告書を、平成18年7月31日にH税務署に提出している。

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(2) 法令解釈等

イ 相続税法第3条第1項第2号は、被相続人の死亡により相続人その他の者が当該被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与で被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものの支給を受けた場合においては、当該給与を受けた者が、当該給与を相続又は遺贈により取得したものとみなす旨規定しているところ、これは、法律的には相続又は遺贈による取得財産に該当しないが、実質的に相続又は遺贈による取得財産と同視すべきものとして、相続税の課税財産に取り込むことによって、実質的な負担の公平を図る趣旨であると解される。
ロ また、相続税法基本通達3−30《「被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したもの」の意義》は、相続税法第3条第1項第2号に規定する被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものとは、被相続人に支給されるべきであった退職手当金等の額が被相続人の死亡後3年以内に確定したものをいい、実際に支給される時期が被相続人の死亡後3年以内であるかどうかを問わないものとする旨定めているところ、この取扱いは、被相続人の死亡により相続人その他の者が相続又は遺贈により取得したものとみなされる退職手当金等の額は、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものに限られていることから、その確定の意義を明らかにしたものであり、当審判所においても相当と認められる。
ハ 通則法第23条第1項第1号は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときは、法定申告期限から1年以内に限り、税務署長に対し、更正をすべき旨を請求できるとするところ、この規定は、期限内申告書に反映されなかった瑕疵、すなわち法定申告期限において存在しながら表面化しなかった瑕疵(いわゆる原始的瑕疵)がある場合を対象としていると解される。

(3) これを本件についてみると、次のとおりである。

イ 本件株主総会は、前記(1)のイ及びハのとおり株主である請求人らのほか取締役であるJが出席して有効に成立しており、本件支給決議は、前記(1)のハの本件株主総会の議事録及び前記(1)のトのEの答述から、前記(1)のロの定款の定めに従って満場一致で承認されていると認められる。
 また、前記(1)のハのとおり本件株主総会の議事録には本件退職金の算定根拠についての記載はなく、前記(1)のトの(ホ)及びチの(ロ)のとおりD社には本件株主総会の時点において役員退職慰労金規定がなかったこと、前記(1)のヌのとおり平成18年5月15日付取締役会議事録には本件被相続人に対する退職金の金額の計算根拠に誤りがあったと記載されているもののその誤りについて具体的な記載がないこと及び請求人らから本件支給決議の際の意思表示に要素の錯誤があった等の主張はされておらず、当審判所の調査によっても、本件支給決議を無効ならしめるような事由は認められない。
 そうすると、D社が本件被相続人に係る退職金及び弔慰金を支給すること並びにその額は、平成17年5月30日の本件支給決議によって確定したとするのが相当である。
ロ そして、前記(1)のヘのとおりD社からA名義の普通預金口座へ本件退職金の一部が振り込まれていることから、本件被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した本件退職金の支給をAが受けていると認められ、前記(2)のイ及びロのとおり、Aは、本件退職金を本件被相続人から相続により取得したものとみなされる。
ハ したがって、本件退職手当金等の額は255,000,000円であり、本件申告書には前記(2)のハの原始的瑕疵はないことから、請求人らの通則法第23条第1項に基づく更正の請求は認められない。
ニ 請求人らは、本件支給決議は承認しておらず、また、本件退職金の算定根拠には誤りがあり、適正な支給額は152,325,000円である旨主張する。
 しかしながら、前記イのとおり本件退職金は平成17年5月30日の本件支給決議により確定しており、また、1前記(1)のハのとおり本件株主総会の議事録には株主である請求人らの記名、押印があり、使用された印章はその印影から請求人らのものであると認められること、2前記(1)のニ及びホのとおり請求人らは本件退職金を計上した第51期決算書類を承認し、D社はこれに基づく平成17年5月期の法人税の確定申告書をH税務署に提出していること、3前記1の(4)のニのとおり請求人らは本件退職手当金等の額を255,000,000円と記載した本件申告書を提出していることから、請求人らは、D社の株主として自ら本件支給決議を行い、本件退職金の決定について積極的に関与して本件支給決議を承認していたことが認められる。
 そうすると、請求人らの主張は、後から顧みると本件退職金は過大であったというものであって採用することができない。
ホ 請求人らは、本件退職手当金等の額は、本件被相続人の死亡後3年以内に実際に受領した152,325,000円である旨主張する。
 しかしながら、前記(2)のロのとおり、相続税法第3条第1項第2号の規定により相続により取得したとみなされる本件退職手当金等は、本件被相続人に支給されるべきであった退職手当金等の額が本件被相続人の死亡後3年以内に確定したものであることから、本件支給決議により確定した255,000,000円が本件退職手当金等の額となり、請求人らの主張には理由がない。
ヘ また、請求人らは、D社が平成18年5月15日に株主総会を開催し、本件退職金を152,325,000円(死亡退職金110,250,000円、功労金33,075,000円、弔慰金9,000,000円)とする旨の訂正決議を行い、平成18年5月期の法人税の確定申告書において102,675,000円を前記損益修正益として益金の額に算入しており、Aも同金額しか受領していないから、本件退職手当金等の額は152,325,000円である旨主張する。
 しかしながら、本件退職金は前記イのとおり本件支給決議によって確定していることから、D社と同社の代表取締役であった本件被相続人の遺族である請求人らとの間には、本件支給決議により本件退職金についての債権債務関係が成立したことが認められる。
 そして、このD社の債務は、特段の事情が無い限り、D社側の一方的な事情により債務の額を減額することはできず、請求人らの債務免除の意思表示があって初めて減額が可能となるものであるが、前記イのとおり本件支給決議にはそれを不成立、無効とする事情又は取り消すべき事情は認められない。
 このことから、請求人らによる債務免除の意思表示があったとすれば、いったん有効に確定した本件退職金を遡及的に訂正して減額するのではなく、新たな法律行為により請求人らがD社の本件退職金の支払義務の一部を免除したものであると解するのが相当である。
 そうすると、Aが、本件被相続人に係る退職金及び弔慰金としてD社から152,324,475円しか受領していないのは、D社のAに対する債務117,675,525円を免除したことによるものにほかならず、また、D社が平成18年5月期の法人税の確定申告書において102,675,000円を前記損益修正益として益金の額に算入したとしても、本件退職手金等の額が255,000,000円であることに影響を及ぼすものではないことから、請求人らの主張には理由がない。

(4) 以上のとおり、請求人らの主張にはいずれも理由がなく、原処分庁が行った更正をすべき理由がない旨の通知処分は適法である。
 また、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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