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(平20.7.4、裁決事例集No.76 465頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、不動産貸付業を営むために賃貸アパートを取得した審査請求人(以下「請求人」という。)が、当該アパートの敷地内に飲料の自動販売機を設置させたことに対して飲料メーカーから受け取った販売手数料が課税売上げに該当し、当該アパートの引渡日の属する課税期間における課税売上割合が100%となるから、当該アパートの取得に際して支払った消費税額は課税仕入れに係る消費税額として控除(以下、この税額控除を「仕入税額控除」という。)できるとして、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の還付を求める申告を行ったところ、原処分庁が、当該課税期間における課税売上げはなく、上記仕入税額控除をすることはできないとして更正処分等を行ったのに対し、請求人がその全部の取消しを求めた事案であり、争点は、当該課税期間に当該手数料を課税売上げとして計上できるか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯等

 審査請求(平成19年8月2日請求)に至る経緯及び内容は、別表のとおりである。
 なお、以下、平成18年6月1日から平成18年6月30日までの消費税等の課税期間を「本件課税期間」という。

(3) 関係法令

 消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項は、事業者(同法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において課税仕入れを行った場合には、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の消費税法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》第1項第2号に掲げる課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額の合計額を控除する旨規定しており、同条第2項は、同条第1項に規定する課税期間における課税売上割合が100分の95に満たないときは、同項の規定により控除する課税仕入れに係る消費税額の合計額は、同項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める方法により計算した金額とする旨規定している。

第1号 当該課税期間中に国内において行った課税仕入れにつき、課税資産の譲渡等にのみ要するもの(以下「課税売上げに対応する課税仕入れ」という。)、課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等と課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等に共通して要するもの(以下「共通課税仕入れ」という。)にその区分が明らかにされている場合は、次のイに掲げる金額にロに掲げる金額を加算する方法
イ 課税売上げに対応する課税仕入れの税額の合計額
ロ 共通課税仕入れの税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算した金額

第2号 第1号に掲げる場合以外の場合は、当該課税期間における課税仕入れ等の税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算する方法

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成18年2月26日、A社との間で、P市q町a番○(一部)、b番○(一部)、d番○所在の各土地及び同土地上に建築予定の建物(以下「本件アパート」という。)を54,200,000円(うち建物代金24,360,000円(消費税等1,160,000円))で購入する旨の売買契約を締結した。
ロ 請求人は、平成18年5月22日、消費税課税事業者選択届出書及び課税期間を1か月に短縮する旨の消費税課税期間特例選択届出書を原処分庁に提出した。
ハ 請求人は、平成18年5月27日、B社との間で、R市m町○番○所在の土地及び同土地上の建物(家屋番号○番○。以下「本件マンション」という。)を42,000,000円(うち建物等に係る消費税等1,200,000円)で購入する旨の売買契約を締結した。
ニ 請求人は、平成18年6月23日、C社との間で、本件アパートの敷地内に自動販売機を設置することについて、要旨別紙の内容が記載された「自動販売機設置協定書」と題する書面(なお、別紙における「甲」及び「乙」は、それぞれ請求人及びC社を、「記載自動販売機」は、本件アパートの敷地内に設置される自動販売機(以下「本件自販機」という。)を、「記載場所」及び「記載設置場所」は、本件自販機の設置場所である本件アパートの敷地をそれぞれ指す。また、「自動販売機の借用権」とはC社所有の自動販売機を借り受ける権利のことである。以下、この書面を「本件協定書」という。)を2通交わした。
ホ 請求人は、平成18年6月29日、A社から上記イの契約に基づき本件アパート(家屋番号○○番○)及びその敷地の引渡しを受けるとともに、同日までに代金を同社に支払った。
ヘ C社は、平成18年6月29日、本件協定書に基づき本件アパートの敷地内に本件自販機を設置した。
ト 請求人は、平成18年6月30日、B社から上記ハの契約に基づき本件マンション及びその敷地の引渡しを受けるとともに、同日までに代金を同社に支払った。
チ C社は、平成18年8月初めころ、本件自販機に係る販売手数料について要旨次の内容を記載した「振込案内書」と題する書面を請求人に送付した。
(イ) 2006年(平成18年)7月20日締め。
(ロ) 販売手数料の金額は1,845円。
(ハ) 販売手数料は、翌月10日に振り込む。
(ニ) 販売状況等は、(平成18年)6月30日までは販売本数4本及び販売金額480円であり、(同年)7月13日までは販売本数57本及び販売金額6,900円であり、合計は販売本数61本、販売金額7,380円及び販売手数料1,845円であった。
リ 請求人は、本件課税期間に係る消費税等の確定申告において、上記チの(ニ)の販売手数料1,845円(以下「平成18年7月分販売手数料」という。)のうち、平成18年6月30日の販売金額480円に本件協定書に定める料率25%を乗じた額(120円)の消費税等抜きの額である114円(以下「本件手数料」という。)を課税資産の譲渡等の対価の額(課税標準額は1,000円未満となることから零円。)とし、本件アパート及び本件マンションの取得に係る対価に当該資産の取得に係る諸費用を加えた○○○○円を基に算定した金額を仕入税額控除の額とした。なお、本件課税期間において、請求人が課税売上げに該当する旨主張する本件手数料を含む平成18年7月分販売手数料以外の課税売上げはなかった。

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2 主張

原処分庁 請求人
 次のことから、本件手数料を本件課税期間の課税売上げとして計上できない。
(1) 販売手数料は、請求人自身が飲料を販売して受領するものではなく、1本件自販機の設置に係る場所の提供、2本件自販機が故障した場合のC社への連絡等のサービスの対価として受領するものであるから、飲料を販売するたびに生じるものではない。そして、本件協定書によれば、販売手数料は、毎月21日から翌月20日までの1か月間の飲料販売の総売上金額が確定した時点で初めて収入すべき金額として認識されることから、本件手数料は、平成18年7月20日に収入すべき金額として認識され、本件課税期間の課税売上げとはならない。
 次のことから、本件手数料を本件課税期間の課税売上げとして計上できる。
(1) 販売手数料は、土地の貸付けの対価ではなく、本件自販機による飲料の販売本数に対して支払われるもので、飲料を販売するたびに生じるものであり、平成18年6月30日に本件自販機で飲料4本が販売されていることから、同月中に販売した飲料に係る本件手数料は、飽くまでも本件課税期間の課税売上げである。
(2) 上記のとおり、販売手数料は、毎月20日に締め切って把握した売上げを基にして計算されているのであるから、締め切った時点で初めて収入すべき金額が確定すると考えられ、日割計算による収入金額を計上する方法は認められない。 (2) 販売手数料が、仮に本件自販機の設置に係る場所の提供料だとすれば、本件自販機を設置するための土地使用料は施設の使用に伴う土地の貸付けの対価に該当することから、平成18年7月分販売手数料を日割計算し、平成18年6月29日及び同月30日の2日分を本件課税期間の課税売上げとすることができる。

3 判断

(1) 国税通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項第7号は、消費税等の納税義務は課税資産の譲渡等をした時に成立する旨規定しているものの、消費税法においては、課税資産の譲渡等をした時についての定めはないから、基本的には、所得税等の収入金額等の計上時期と同様に解すべきである。
 そして、所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定しているところ、ここでいう「その年において収入すべき金額」とは、その年において収入すべきことが確定し、相手方にその支払を請求し得ることとなった金額、すなわち、収入すべき権利の確定した金額であると解するのが相当である(以下、収入すべき権利とその金額が確定する時期を「収入すべき時期」という。)。

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(2) そこで、本件について、本件手数料の収入すべき時期を検討すると、次のとおりである。

イ 本件協定書には、C社が本件アパートの敷地内に本件自販機を設置し、商品補充等のために同敷地内に立ち入ることができるとともに、本件自販機により、その管理の下に自社の商品を販売し、それに対して販売手数料を請求人に支払う旨記載されている(別紙第1項ないし第3項)ほか、C社による本件自販機の保全・修理に当たり、請求人は善意をもってこれに協力し、本件自販機に故障が生じた場合には、請求人が直ちにC社に連絡をする旨の記載があること(別紙第4項)からすれば、本件自販機に係る販売手数料は、本件自販機の設置場所の提供等に加え、故障発生時の連絡等の人的役務の提供に対する対価であると認められる。さらに、本件自販機を稼動させるためには電気の供給が必要であるが、請求人提出資料によれば、請求人は、本件自販機に係る電気料金を負担していることが認められることからすれば、請求人とC社との間では、本件自販機を稼動させるための電気供給義務を請求人が負担することも合意の内容に当然含まれているから、販売手数料は、このような本件自販機への電気供給に対する対価としての性質も有しているものと認めることができる(以下、販売手数料に対するこれらの反対給付を併せて「本件役務提供等」という。)。
 そして、本件協定書によれば、1本件役務提供等は本件協定書の契約期間内において継続して行われるものであること、2本件自販機に係る販売手数料は、本件自販機における日々の売上げではなく、1か月間の総売上げを基礎に算定されること、3販売手数料の支払条件は、毎月20日締切り翌月10日(休日の場合はその翌日)振込みとなっていることからすると、販売手数料の収入すべき権利及びその金額は、締切日である毎月20日に確定するものと認めるのが相当である。そして、上記1の(4)のヘのとおり、本件自販機は平成18年6月29日に設置されていることからすれば、本件手数料を含む平成18年7月分販売手数料は、同日から同年7月20日までの間に係る本件役務提供等の対価であり、同年7月20日に収入すべき権利及びその金額が確定するものと認められるから、収入すべき時期は同日となり、平成18年7月分販売手数料から本件手数料を抜き出して、本件手数料の収入すべき時期が同日と異なる日であるとみることはできない。
 そうすると、本件役務提供等について、消費税法における課税資産の譲渡等の時期は、平成18年7月20日であって、本件手数料を本件課税期間における課税売上げに計上することはできないというべきである。
ロ これに対し、請求人は、販売手数料は飲料の販売本数に対して支払われるものであり、平成18年6月30日までに飲料4本が販売されていることから、同月中に販売した飲料に係る本件手数料は本件課税期間中の課税売上げである旨主張する。
 しかしながら、上記イで認定したとおり、販売手数料は、各種の役務の提供が一体となった本件役務提供等の対価であると認められ、その算定方法も日々の売上金額を基礎とせず、1か月間の総売上げを基礎としているのであるから、平成18年6月中に販売した飲料に係る本件手数料を本件課税期間における課税売上げとすることはできない。
 したがって、請求人の上記主張は採用できない。
ハ また、請求人は、販売手数料が仮に本件自販機の設置に係る場所の提供料だとすれば、本件自販機を設置させるための土地使用料は施設の使用に伴う土地の貸付けの対価に該当することから、平成18年7月分販売手数料を日割計算し、その一部を本件課税期間の課税売上げとすることができる旨主張する。
 しかしながら、上記イで認定したとおり、本件役務提供等は単に本件自販機の設置場所の提供だけではなく、さらに、電気代の負担及び人的役務の提供が一体となったものであるから、販売手数料を土地の貸付けの対価とみることはできないし、また、毎月20日に毎月の販売手数料の収入すべき権利及び金額が確定するものであって、日々確定するものではないから、平成18年7月分販売手数料について日割計算をし、その一部を本件課税期間の課税売上げとすることはできない。
 したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(3) 更正処分について

 以上のことからすれば、本件手数料を含む平成18年7月分販売手数料は、本件課税期間の課税売上げにならず、上記1の(4)のリのとおり、請求人の本件課税期間における平成18年7月分販売手数料以外の課税売上げはないから、同期間の請求人の課税売上げはないこととなる。
 また、当審判所の調査によれば、請求人について消費税法第30条第2項第1号該当事由は存しないと認められるから、請求人が本件課税期間に計上できる課税仕入れ等の税額は同項第2号により本件課税期間における課税仕入れ等の税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算する方法によるべきところ、上記のとおり、本件課税期間の課税売上げはないことから、同期間の課税売上割合は零パーセントとなる。そうすると、請求人が本件課税期間に計上できる課税仕入れ等の税額は零円となるから、原処分庁が本件手数料を本件課税期間の課税売上げには計上できないとして行った更正処分には違法はないというべきである。

(4) その他

 過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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