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(平20.9.29、裁決事例集No.76 485頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が審査請求人(以下「請求人」という。)の自動車重量税について行った納税告知処分に対し、請求人が、自動車検査登録事務所において、請求人が委託した車検代行業者による継続検査の申請が受理され、自動車検査証が返付された時点で、当該自動車重量税は納付済みであり、請求人には改めて同税を支払う義務はないなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成19年6月27日付で、請求人に対し、未納付の自動車重量税を徴収するため、納付すべき税額○○○○円を同年7月27日までに所定の場所に納付すべき旨の納税告知書を送達して納税の告知を行った(以下、この納税告知書による納税の告知を「本件納税告知処分」という。)。
ロ 請求人は、平成19年8月22日、本件納税告知処分を不服として異議申立てしたところ、異議審理庁は、同年11月14日付で棄却の異議決定をし、その決定書謄本を請求人に対し同月17日に送達した。
ハ 請求人は、平成19年12月17日、異議決定を経た後の本件納税告知処分に不服があるとして審査請求をした。

(3) 関係法令要旨

イ 自動車重量税法(以下「重量税法」という。)第4条《納税義務者》第1項は、自動車検査証の交付又は返付(以下「自動車検査証の交付等」という。)を受ける者及び車両番号の指定を受ける者は、当該検査自動車及び届出軽自動車につき、自動車重量税を納める義務がある旨規定している。
ロ 重量税法第8条《検査自動車についての印紙納付》は、自動車検査証の交付等を受ける者は、その自動車検査証の交付等を受ける時までに、当該検査自動車につき課されるべき自動車重量税の額に相当する金額の自動車重量税印紙を政令で定める書類にはり付けて、当該自動車検査証の交付等を行う国土交通大臣若しくはその権限の委任を受けた地方運輸局長、運輸監理部長若しくは運輸支局長又は軽自動車検査協会(以下「国土交通大臣等」という。)に提出することにより、自動車重量税を国に納付しなければならない旨規定している。
ハ 重量税法第13条《納付不足額の通知》第1項は、国土交通大臣等は、自動車検査証の交付等又は車両番号の指定を受けた者が同法第8条から同法第10条の2《電子情報処理組織による申請又は届出の場合の納付の特例》まで又は同法第12条《税額の認定》第2項から同条第4項までの規定により当該検査自動車又は届出軽自動車につき納付すべき自動車重量税の額の全部又は一部を納付していない事実をその納期限後において知ったときは、遅滞なく、これらの者の当該自動車重量税に係る同法第6条《納税地》第2項の規定による納税地の所轄税務署長に対し、その旨及び財務省令で定める事項を通知しなければならない旨規定している。
ニ 重量税法第14条《税務署長による徴収》第1項は、税務署長は、同法第13条第1項の通知を受けた場合には、当該通知に係る同項に規定する納付していない自動車重量税を当該通知に係る自動車検査証の交付等を受けた者から徴収する旨規定している。
ホ 国税通則法(以下「通則法」という。)第2条《定義》第5号は、納税者とは、国税に関する法律の規定により国税を納める義務がある者をいう旨規定している。
ヘ 通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項第10号は、自動車重量税の納税義務については、自動車検査証の交付等の時成立する旨規定し、また、同条第3項は、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税を規定し、同項第3号は、当該国税として自動車重量税を掲げている。
ト 通則法第34条《納付の手続》第2項は、印紙で納付すべきものとされている国税は、国税に関する法律の定めるところにより、その税額に相当する印紙をはることにより納付するものとする旨規定している。
チ 通則法第36条《納税の告知》第1項第3号は、税務署長は、法定納期限までに納付されなかった自動車重量税を徴収しようとするときは、納税の告知をしなければならない旨規定し、同条第2項は、第1項の規定による納税の告知は、政令で定めるところにより、納付すべき税額、納期限及び納付場所を記載した納税告知書を送達して行う旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもこれを認めることができる。
イ 請求人は、平成○年○月○日、Aと称するいわゆる車検代行業者(以下「車検代行業者A」という。)を申請代行者として、国土交通省B運輸局C運輸支局D自動車検査登録事務所長(以下「D事務所長」という。)に対し、自動車登録番号○○○○、車両重量○○○○キログラムの小型乗用自動車(以下「本件自動車」という。)の継続検査(以下「本件車検」という。)の申請をし、D事務所長は、同日、車検代行業者Aを通して、請求人に本件車検に係る自動車検査証(以下「本件車検証」という。)を返付した。
ロ 本件車検の申請に係る自動車重量税納付書に自動車重量税印紙としてはり付けられたちょう付物(以下「本件ちょう付物」という。)は、本件車検証が請求人に返付された後、Eの鑑定により、自動車重量税印紙を偽造したものであることが判明した。
ハ D事務所長は、平成19年6月15日付で、原処分庁に対し、重量税法第13条第1項の規定に基づき、別表の各記載事項を自動車重量税納付不足額通知書(以下「本件通知書」という。)により通知した。

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2 主張

(1) 請求人

 本件納税告知処分は、次の理由により違法である。
イ 請求人は、本件車検の申請に関して、その一切を車検代行業者に委託し、受託した車検代行業者が車検時に必要な事項(自動車重量税の納付を含む。)すべてを行い、諸費用を含む車検申請書類等をD事務所長が受理したことにより、自動車重量税をはじめとする車検時に必要な納付は完了している。そして、請求人は、車検代行業者を通して、本件車検が完了した証明としてD事務所長から本件車検証を受け取っており、これをもって、車検代行業者との委託契約は無事完了している。また、自動車検査証は、車検申請の事務処理上、自動車重量税を納付しなければ返付されない証明書であり、本件車検証が返付されている事実は、自動車重量税が納付されている証拠となる。
 したがって、請求人は、既に自動車重量税の納付を完了し、納税の義務は果たしている。
ロ D事務所長が、本件車検の申請段階で本件ちょう付物を見逃して、本件車検証を返付したのは、重大な過失であり、D事務所長のチェック体制に原因があるから、国土交通省側でその責任を認め、それを補填すべきである。当該責任を認めないで、責任を転嫁して、納税者に自動車重量税の再納付を請求することはできない。
ハ 原処分庁が、自動車重量税印紙の偽造を理由として、自動車重量税の再納付を請求してくるのであれば、本件ちょう付物を自動車重量税印紙として使用した車検代行業者に請求すべきであり、それを請求人に請求することはできない。
ニ D事務所長が、原処分庁に対し、本件通知書による通知をしたのは、自動車重量税の印紙による納税に本件ちょう付物が使用された平成○年○月○日から4年以上経過した平成19年6月15日であり、国土交通大臣等が所轄税務署長に対して、遅滞なく通知しなければならない旨規定している重量税法第13条第1項の規定に違反し無効であるから、同通知に基づく本件納税告知処分は違法である。

(2) 原処分庁

 本件納税告知処分は、次の理由により適法である。
イ 原処分庁は、本件車検証の返付に係る自動車重量税(以下「本件自動車重量税」という。)について、納付額が零円で○○○○円が未納付である旨の本件通知書を受けたことから、重量税法第14条第1項の規定により、本件自動車重量税を納税義務者である請求人から徴収するため、通則法第36条第1項第3号の規定により、本件納税告知処分を行ったものである。
ロ 自動車重量税は、自動車の使用者等に対し、その自動車の重量に応じて課税するものであって、自動車検査の許可ひいては自動車検査証の交付等を受けることの対価ではなく、自動車検査証の交付等を受けたことをもって、自動車重量税の納付がされたということはできない。
ハ 請求人は、本件自動車に係る自動車重量税の納付が完了している旨主張するが、請求人は、車検代行業者に自動車重量税相当額を支払ったものにすぎず、また、本件における国土交通省側のチェックミス等の責任に関することが、本件自動車に係る自動車重量税が未納であることに影響を与えるものではない。
ニ 重量税法第13条第1項に規定する通知が遅滞なく行われたかどうかは、直ちに同法第14条第1項の規定に基づく本件納税告知処分の効力に影響することではないと解される。

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3 判断

(1) 法令解釈

 自動車重量税の納税に関する法令及び制度等の趣旨は次のとおりである。
イ 納税者について
 納税者とは、通則法第2条第5号において規定する国税に関する法律の規定により国税を納める義務がある者をいい、自動車重量税の納税者については、重量税法第4条第1項が、自動車検査証の交付等を受ける者である旨規定している。
ロ 納税義務の成立について
 納税義務の成立とは、国税に係る権利又は義務の発生であり、国税は、租税法律主義の原則に基づき国税に関する法律が定める課税要件が充足されたときのみ当該権利又は義務が発生する。そして、自動車重量税の納税義務について、通則法第15条第2項第10号は、自動車検査証の交付等の時に成立する旨規定しており、課税要件が充足して納税義務が成立する「時」は、この自動車検査証の交付等の時をいう。
ハ 納付すべき税額の確定について
 国税に関する法律が定めるところにより成立した国税の納税義務は、一般にそのままでは抽象的であって、その内容たる納付すべき税額につき、納税義務者又は税務官庁の一定の手続行為を通じて確定されることを要するが、国税のうちには、課税要件たる事実が明白で、税額の計算が容易である等のため、特別の手続行為を要しない国税があり、通則法第15条第3項は、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税を規定し、同項第3号に自動車重量税を掲げている。
 そして、当該確定のために特別の手続を要しない国税の場合、納税義務者は、原則として、納付を命ずる行政処分を待たず、自主納付すべきものとされている。
ニ 納付について
 自動車重量税の納税の方法は、上記イの納税者が、自動車検査証の交付等を受ける時までに、当該検査自動車につき課されるべき自動車重量税の額に相当する金額の自動車重量税印紙を所定の書類にはり付けて納付する旨重量税法第8条が規定し、通則法第34条第2項は、印紙により納付すべき国税は、その税額に相当する印紙をはることにより納付する旨規定しているから、自動車重量税を自動車重量税印紙により納付する場合、納税者が自動車重量税印紙を所定の書類にちょう付する行為が当該国税の納付行為であり、また、納付の時であると解される。
ホ 納付不足額の通知について
 国土交通大臣等は、自動車検査証の交付等を受けた者が当該検査自動車につき課されるべき自動車重量税の額に相当する金額の自動車重量税印紙を所定の書類にはり付けて納付していない事実をその納期限後において知ったときは重量税法第13条第1項により、遅滞なく所轄税務署長に通知しなければならないところ、自動車重量税は、上記ロ及びハのとおり、自動車検査証の交付等の時に成立し、何らの手続を要さず確定する国税であるから、当該通知によって、納税者に新たに納税義務を課すものでも、影響を及ぼすものでもない。
 そうすると、当該通知は、自動車検査証の交付等を受けた者の当該検査自動車に課される自動車重量税の額が納付されていないことを知った国土交通大臣等が所轄税務署長に対して、当該事実を知らせるとともに、当該自動車重量税額の徴収を促すために行う国の行政機関相互の行為にすぎないものであるということができる。
ヘ 納税の告知について
 自主納付すべき国税以外の国税並びに印紙納付すべき国税及び印紙納付ができる国税で印紙納付によらなかった国税は、納税を請求する税務官庁が、納税の告知により当該国税を徴収する。そして、自動車重量税でその法定納期限までに納付されなかったものは、通則法第36条第1項第3号により、当該告知により徴収される国税と規定され、納税者は、当該告知により示された納付すべき税額、納期限及び納付場所等、当該告知の内容に従って納付をしなければならない。

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(2) 本件納税告知処分の適法性

 請求人は、本件車検証の返付を受けた者であるから、本件自動車重量税の納税者であることが認められる。そして、本件自動車重量税は、上記1の(4)のイのとおり平成○年○月○日に本件車検証が請求人に返付されているから、同日に納税義務が成立して同時に確定しているところ、上記1の(4)のロのとおり、自動車重量税納付書には本件ちょう付物がはり付けられているが、自動車重量税印紙がはり付けられていないことから、本件自動車重量税は、法定納期限までに納付されていないことになる。また、本件通知書には本件自動車重量税の全額○○○○円が未納である旨記載されていることから、本件通知書の作成された平成19年6月15日においても納付されていなかったことが認められるし、本件納税告知処分時においても納付されていなかったことが認められる。
 したがって、法定納期限までに納税者である請求人により納付されなかった本件自動車重量税は、納税の告知により徴収される国税であり、原処分庁が、上記1の(4)のハのとおり、D事務所長から本件通知書を受け、重量税法第14条第1項の規定により本件自動車重量税を請求人から徴収するため、通則法第36条第1項第3号の規定に基づき、請求人に対して行った本件納税告知処分は適法である。

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(3) 請求人の主張について

イ 請求人は、請求人が委託した車検代行業者Aから自動車重量税を含む車検申請書類等をD事務所長が受理し、自動車重量税を納付したとして、本件車検証の返付を受けているから、本件自動車重量税の納税義務は履行済みである旨主張している。
 しかしながら、自動車重量税の納付は、上記(1)のニのとおり、納税者が自動車重量税印紙を所定の書類にはり付けることによりなされるものであり、当該自動車重量税印紙がはり付けられないうちは、納税者が納付を履行したということはできない。そして、納税者が自動車重量税の納付を含む自動車の継続検査を車検代行業者等に委任したという事情下においては、当該業者等が納税者から受任した義務を履行して自動車重量税印紙をはり付けた場合には納付がなされたということができるが、当該自動車重量税印紙が適正なものでなかった等の理由により納付が有効なものではない場合には、当該自動車重量税の納税がされたとはいえないから、なお未納である当該自動車重量税の納税義務は、依然、納税者にあるといえるし、また、このような特異な事情下において納税義務の消滅を定めた法令はないのであるから、本件自動車重量税の納税義務が消滅することもない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は、本件自動車重量税が未納付となっていることについて、本件車検の申請の段階で本件ちょう付物を見逃して、本件車検証を返付したD事務所長に責任があり、また、自動車重量税印紙を偽造した本件ちょう付物を使用した車検代行業者Aに本件自動車重量税を請求するべきである旨主張している。
 しかしながら、車検代行業者Aが、本件自動車重量税の納付に係る請求人の委任の意思及び期待に反して偽造された自動車重量税印紙を使用したため、納税義務履行の目的を達していなかったことは、請求人が、車検代行業者Aに対し、両者の契約上、請求人に生じた損害の賠償責任を追及する対象となり得るとしても、上記イのとおり、当該事情が請求人の本件自動車重量税の納税義務の存否に影響する事柄ではない。
 そして、審査請求は、国税に関する法律に基づく処分について、当該処分の手続等に係る違法又は不当を理由として、裁決により当該処分の取消し又は変更を求めるものであり、国税不服審判所は、審査請求に対する裁決をする機関であるところ、請求人の上記主張は、実質的に過失責任及び請求人に生じた損害の賠償を国に対して求める主張であるから、当審判所が判断することはできない。また、請求人の上記主張は、損害賠償請求権と国税債権の相殺を求めるものとも考えられるが、そもそもそのような相殺はできないのであるから(通則法第122条)、審査請求において処分の違法を主張する理由とはならない。
 また、自動車重量税は、納税者が納税を現に行い、その確認を受けなければ自動車検査証の交付等を受けられないのが通常であるから、納付額の不足は一般にほとんど生じることがないところ、重量税法第14条の規定は、例えば偽造印紙が納税行為に使用されたことが後で発見された場合等を含め、納付額に不足が生じたときこれを徴収するための規定として設けられたものであると解されるから、請求人が主張する上記の事情による場合を含め、自動車重量税に納付不足額が生じた場合に本来の納税者から徴収すべきことは、法令の規定の趣旨及び目的に従ったものであり、本件納税告知処分を行うについて処分の不当も存しない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 請求人は、本件通知書による通知が本件ちょう付物の使用された時から4年以上経過してなされたことにつき、遅滞なく通知しなければならない旨規定している重量税法第13条第1項の規定に反する旨主張している。
 しかしながら、重量税法第13条第1項に規定する通知は、上記(1)のホのとおり、国土交通大臣等が確認した自動車重量税の納付不足額を所轄税務署長に知らせ、その徴収を促すために行う国の行政機関相互の行為にすぎないことから、当該通知がいつ行われたかによって、当該通知が違法となるものでも効力を失うものでもない。
 したがって、本件において、本件通知書による通知が本件ちょう付物の使用の時から4年以上経過してされたとしても、当該経緯が本件車検証の返付により成立・確定した請求人の納税義務及び納付すべき税額に直接影響を及ぼすことはなく、本件自動車重量税の納税義務が有効に成立し、未納付である限り、本件納税告知処分が違法又は不当となることはないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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