別紙

当事者の主張

原処分庁 請求人
 原処分は、次のとおり徴収法第34条の成立要件を具備しており、適法である。  原処分は、次のとおり違法である。
1 第二次納税義務の成立要件
(1) 法人が解散したことについて
 本件滞納会社は、平成15年9月○日の社員総会により解散することが決議されており、同日解散している。このことは、同法人の商業登記簿に同年10月○日付で解散登記がされていることからも裏付けられる。
(2) 租税を納付しないで、残余財産の分配又は引渡しをしたことについて
イ 徴収法第34条の立法趣旨
 清算人等の第二次納税義務を一言でいえば、解散法人の残余財産につき違法な分配(又は引渡し)があった場合に、清算人及び分配を受けた者に対して、第二次的な納税義務を負わせるものである。
 法人が解散した場合、清算人は、法人の債務を完済した後でなければ残余財産の分配をしてはならない(商法第131条等)。清算人がこれに違反して残余財産の分配をした場合には、法人から清算人に対して、その任務の解怠を理由として損害賠償の請求ができるし、また、その清算人に悪意又は重大な過失があるときは、法人の債権者から清算人に対して、直接に損害賠償の請求をすることができる(商法第134条ノ2等)。
 租税についても、これらの規定が設けられている趣旨を取り入れ、かつ、租税債権の特殊性をも考慮した上で、租税を納付しないで残余財産の分配(又は引渡し)をした清算人に第二次納税義務を負わせるとともに、その分配(又は引渡し)を受けた者にも第二次納税義務を負わせることとされている(徴収法第34条、地方税法第11条の3)。
ロ 残余財産
 一般に法人解散の場合の残余財産とは、現務の終了、債権の取立て及び債務の弁済をした後に残った積極財産で株主又は社員等に対する分配又は引渡しの対象となるべきものをいう(商法第124条、第131条等)が、徴収法第34条の残余財産は、国税を完納しないで法人財産の分配、引渡しを行った場合における当該積極財産をいうものと解されている(広島高判昭和47年7月18日判決、東京地判昭和47年9月18日判決)。
(3) 徴収不足であること
 本件滞納会社は解散し実体がなく、また、生命保険金も残余額はなく、全額負債の支払や分配をしたと認められ、滞納処分を執行できる財産はなく、徴収不足である。
1 第二次納税義務の成立要件
(1) 有限会社において、「残余財産の分配・引渡し」に当たるには、「財産についてその換価・取立てをし、債務についてその弁済をし、なお、残余の財産があるときに、これを出資持分権者に出資持分に応じて分配する」に当たる必要がある。
 したがって、債務の弁済をした結果、残余の財産を生じないときは、徴収法第34条の適用がないことは、法の文理解釈上も、その基本通達上も、また法制定等担当者らの見解上も、明らかである。
(2) 本件滞納会社は、もともと特別の資産を有しない会社であったところ、Cの死亡により法人受取人の生命保険金が発生したものの、同社の負債が多額でその弁済にすべて充てられ、その結果「残余財産」を生じなかった事案であり、したがって、当時、請求人は清算人ではあったが、「残余財産の分配をした者」に当たらない。
 よって、これに当たるとした本件納付告知処分は違法であって、直ちに取り消されるべきである。
2 本件の残余財産及びその分配
(1) 本件の残余財産について
イ 請求人は、銀行やそのほかの債権者、税金関係の支払の追及から逃れるため、E生命からの生命保険金を振込みの翌日、F生命からの生命保険金の振込日に、当時請求人が管理していたL名義(名義人はS市s町○番でスナック○○を経営)及びX名義(名義人は請求人の長男)の普通預金に移し替えた。
ロ 請求人は、清算人として、清算手続に関する帳簿等も完備せず、保存していなかった。
ハ 本件滞納会社の資産として現実に残存しているものがなく、その帰すうについて、証拠書類等の提出がなく、支払の事実の確認ができないことから、本件滞納会社の買掛金支払、借入金返済等に充てていると認められた金額と受取保険金額との差額である○○○○円を、残余財産(国税を完納しないで法人財産の分配、引渡しを行った場合における当該積極財産)と認定した。
2 本件の残余財産及びその分配
(1) 本件の残余財産について
イ 別表2の「支払先明細」に計上されている債務の弁済だけでも合計が○○○○円である。
 1本件支払明細のうち平成15年10月6日のDあての○○○○円の支出は、本件滞納会社のe銀行からの借入れの弁済資金をDが預かって支払ったもので、本件滞納会社のe銀行からの借入れについて、本件滞納会社がe銀行に対して弁済したものである。
 2また、「W」、「Y」、「Z」、「B」あての各支払は、いずれも本件滞納会社の金融業者からの借入れの弁済であり、C個人の債務ではない。
 よって、本件生命保険金の入金は本件滞納会社の債務弁済にすべて充てられ、残余財産が発生しなかったことは明らかである。
ロ 第一に、本件生命保険金については、Cの死亡日の属する平成14年7月21日から平成15年7月20日までの事業年度の確定申告書添付の損益計算書の収益の部に計上されておらず、貸借対照表の資産の部にも未収保険金として計上されていないことから、確定申告書添付の損益計算書・貸借対照表は、真実を反映した正確なものでない。
 また、平成15年9月期の解散確定申告書添付の貸借対照表は、期首において資産の部に未収保険金が計上されておらず、期末の資産・負債も真実を反映した正確なものでないことは明らかである。
 よって、当該貸借対照表の記載を根拠にして、その負債の部の合計額○○○○円を超える負債が存在しなかったとの事実を認定したことは明らかな事実誤認である。
ハ 第二に、原処分庁は、残余財産について、その有無が分かればその具体的金額の特定がなくとも足りるとする主張のようであるが、それは徴収法第34条に定める「残余財産」との要件を欠くものである。
 残余財産の額を認定するには、本来なら、(a)会社の資産が期首においていくらの額があり、期中においていくらの額の増減があり、期末においていくらの額があるのか、(b)会社の負債が期首においていくらの額があり、期中においていくらの額の増減があり、期末においていくらの額があるのか、(c)その差額としていくらの額の残余財産があったのかの事実が明らかにされる必要があり、少なくとも(c)の残余財産の具体的金額が明らかにされる必要がある。
 この金額が不明では、徴収法第34条に定める「残余財産の分配をしたとき」「分配をした財産の価額の限度において」との要件に欠けることは明らかである。
 第二次納税義務の告知処分の法定要件のうち、少なくとも「残余財産の分配をしたとき」については、それに該当する事実の主張・立証責任は原処分庁にあるが、何ら主張・立証されてない。
(2) 本件の残余財産の分配について
 請求人は、本件滞納会社の清算人として、本件の残余財産からC個人の債務を支払っている。これは、請求人が、本件滞納会社に対するCの出資持分を承継したCの相続人のために(「相続人は相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(民法第896条)。」)、C個人の債務を弁済したことにほかならない。
 よって、Cの相続人が承継した債務の弁済(次のイないしニ)を残余財産の分配と認定した。
イ ○○○○円は、Cの内縁関係者であったWからCへの個人的貸付金の返済を受けた旨の申述があることから、出資者であったCの相続人への分配である。
ロ ○○○○円は、BよりCへの個人的貸付金の返済を受けた旨の申述があることから、出資者であったCの相続人への分配である。
ハ ○○○○円は、預金口座から出金した後、C個人の債務の返済としてYへ○○○○円、Zへ○○○○円弱が支払われたと申述していることから、Cの相続人に対する分配であると認定した。
ニ その他の金額については領収書等の提出がなかったことから、清算人の任務として、Cの相続人に分配されたものと認定したものである。
ホ 残余財産から差し引いた○○○○円は、国税納付分である。
(2) 本件の残余財産の分配について
 徴収法第34条に規定する「残余財産の分配をしたとき」の解釈として国税徴収法基本通達34−3《分配又は引渡し》には徴収法第34条の分配とは、法人が清算する場合において、残余財産を社員、株主、組合員、会員等に、原則としてその出資額に応じて分配することをいう(商法第425条・有限会社法第73条等)」と定めている。
 したがって、徴収法第34条の要件として、「いくらの残余財産」について上記の要件の他にも、「どの出資者にいくら分配したのか」の要件を満たす必要がある。
(3) 本件への適用誤り
イ 本件の株主
 本件滞納会社は、有限会社であって、その発行済み株式総数は30株であって、その株主及び持株数は、Cが10株、その妻Dが20株である。このCの有する株式はすべてDが相続したと思われ、その場合、Dが全株式を有する株主という結果となる。
ロ 本件で残余財産の分配を受ける地位にある者
 そうすると、「残余財産の分配」が行われたとすると、残余財産の全額を全株式の所有者Dが分配を受ける地位にあることになるはずである。
ハ 本件で残余財産の分配を受けた株主がいないこと、本件の「残余財産の全額」の具体的金額は、主張として明らかにされていないが、本件納付告知処分の納付通知書の記載から「○○○○円」と思われる。
 そうすると、「株主たるDに対して、残余財産の分配として、○○○○円が分配された」事実が立証されなければならない。
 しかし、「株主たるDに残余財産の分配として金○○○○円が分配された」との事実は存在しないし、その主張・立証を欠いている。少なくとも請求人が当該分配行為を実行した事実は全くない。
 なお、仮に何らかの金員が会社の資産たる現預金から支出されたとしても、それが株主たる者に対する残余財産の分配として支出されたものである必要があり、この要件に欠ける場合は、本件納付告知処分は違法であって取消しを免れないことは判例上確立している(熊本地裁昭和47年9月28日訟務月報19巻6号89頁)。
ニ 原処分庁は、「本件生命保険金はCの個人債務に充てられているので、実質的に出資者であるCの相続人に分配が行われていると認定した」とか「C個人の債務を支払っている・・・よって、Cの相続人が主張した債務の弁済を残余財産の分配と認定した」と主張するが、このような解釈を許す根拠はなく、租税法律主義のもと厳格な文理解釈が要請される本件において、かかる類推ないし拡張解釈は許されない。
ホ まとめ
 以上のとおり、原処分庁は本件納付告知処分の適法性についての主張・立証を果たしておらず、また、事実認定に誤りがあり、残余財産がいくらであったかの算出根拠が不明で、残余財産の分配を受けた者が存在せず、請求人が残余財産の分配した事実も存在しないのであるから、本件納付告知処分が違法であって取消しを免れないことは明らかである。
3 第二次納税義務賦課後の事実
(1) 請求人は、本件滞納会社の借入れを弁済したとして平成15年10月14日付Y○○○○円、平成15年11月5日付Z○○○○円の領収書のみを提出しているが、金銭消費貸借契約書の提出もなく、公表上の取引の実態もない。
 なお、本件滞納会社は帳簿上の業績をよく見せる目的で金融業者からの借入金をあえて記載しなかったのであれば、借り入れた資金の使途等を明らかにし、その正当性を証明すべきであるが、本件滞納会社からは裏付け資料等の提出はなく、本件滞納会社の債務の返済とは認められない。
(2) 生命保険金額と債務整理の額
 本件滞納会社が受け取った生命保険金額は○○○○円であるが、本件滞納会社債務支払総額は○○○○円で、差額○○○○円が発生しているが、証拠書類等の提出がなく、支払の事実の確認ができない。
 また、社会保険事務所○○○○円、その他○件○○○○円についても、証拠書類等の提出がなく、支払の事実の確認ができない。
(3) Wへ支払った○○○○円
 Wの申述によれば、Cの内縁関係者であったWが本件滞納会社のために、消費者金融等から借り入れてCへ貸し付けた分の返済であるとしているが、Wから借入れの事実を裏付ける資料の提出もない。
 なお、本件滞納会社は帳簿上の業績をよく見せる目的で金融業者からの借入金をあえて記載しなかったのであれば、借り入れた資金の使途等を明らかにし、その正当性を証明すべきであるが、本件滞納会社からは裏付け資料等の提出はなく、本件滞納会社の債務の返済とは認められない。
(4) 残余財産の算定に当たっては、請求人が清算人に就任した平成15年9月○日以降に入金となった生命保険金を基礎として、残余財産を算出したものである。
 また、第二次納税義務賦課の時点において、生命保険金の一部をC個人の債務の返済に充てたとする請求人の申述からも、本件滞納会社に残余財産が生じていたことは明らかである。
 

トップに戻る