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(平21.5.27、裁決事例集No.77 161頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)がM国の法人3社から所有権留保付割賦売買契約に基づき購入したとする3隻の船舶について、原処分庁が、当該各船舶は当該各M国法人との裸傭船契約(船舶賃貸借契約)に基づく傭船であり、請求人が当該各船舶を購入した事実はないとして、法人税の更正処分並びに当該裸傭船契約に基づく傭船料に対する源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成15年11月1日から平成16年10月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、平成17年12月26日付で、別表1の「更正処分」欄のとおりとする本件事業年度の法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)を行うとともに、同日付で、平成14年10月から平成16年10月までの各月分の源泉所得税について、納付すべき税額を別表2の「源泉所得税額」欄のとおりとする各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)及び不納付加算税の額を同表の「不納付加算税額」欄のとおりとする各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各納税告知処分と併せて「本件各納税告知処分等」という。)を行った。
ハ 請求人は、本件更正処分及び本件各納税告知処分等を不服として、平成18年2月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成18年5月19日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成18年6月15日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、いずれもM国の法人であるN社、R社及びS社(以下、N社及びR社と併せて「本件各M国法人」という。)との間で、本件各M国法人を所有者として登記されたM国船籍の各船舶について、下記ロのとおりの契約を締結し、各契約に係る各船舶を自己の海運事業の用に供した。なお、請求人と本件各M国法人との間に資本関係はない。
ロ 請求人と本件各M国法人との間で取り交わされた各船舶に係る契約書及びこれに付随して取り交わされた各覚書の記載事項は次のとおりである。
(イ) N社との間の契約書の記載事項
 請求人とN社との間の契約(以下「本件N1号契約」という。)に係る契約書(以下「本件N1号契約書」という。)は、○○協議会作成の標準裸傭船契約書の書式を用いて英文で作成されており、その記載事項の要旨は次のとおりである。なお、契約地及び契約日は記載されていない。
A 船主:N社
B 傭船者:請求人
C 契約地及び契約日:空欄
D 船名:N1号
E 船籍:M国
F 竣工年月:平成5年4月
G 航行区域:極東
H 傭船期間:5年
I 引渡期日(第2条)
 N1号は、請求人指定の期日に引き渡されるものとする。
J 保守及び運航(第8条)
(A) 傭船者は、自己の費用並びに自身が調達した人員により、糧食の手配、航海、運航、燃料油の供給並びにN1号の修理について傭船期間中必要な都度手配するものとする。
(B) 傭船期間中、器具類が損傷したり磨耗した場合には、都度傭船者が交換するものとする。
K 傭船料(第9条)
(A) N1号が滅失又は60日以上不明となった場合には、その時点若しくは、その知らせを受けた時点にて本件N1号契約は終了するものとし、支払済傭船料は精算されるものとする。
(B) 4銀行日を超えて支払が不履行となった場合、N社は何らの催告なしに本件N1号契約に従事するN1号を引き上げる権利を有するものとする。
L 本件N1号契約書の補足文書である「ADDENDUM TO CHARTER PARTY PER M/T N1号」と題する書面の第2条には、傭船料は、同書面に添付の一覧表に基づいて決定する旨記載されている。当該一覧表(「N1号 BBC料算出基礎」と題する書面)の記載内容は、要旨次のとおりである。
(A) 元金:256,730,000円(内訳:船体200,000,000円、乗出し10,000,000円、改造費用46,730,000円)
(B) 金利:○○%
(C) 残存:10%(25,673,000円)
(D) 支払回数:60回
(E) 各回の支払額:○○○○円(最終回は○○○○円)(内訳:利息○○○○円、返済額○○○○円(最終回は○○○○円)及び店費200,000円)
(ロ) R社との間の契約書の記載事項
 請求人とR社との間で締結された契約(以下「本件R1号契約」という。)に係る契約書(以下「本件R1号契約書」という。)は、○○協議会作成の標準裸傭船契約書の書式を用いて英文で作成されており、その記載事項の要旨は次のとおりである。なお、契約地及び契約日は記載されていない。
A 船主:R社
B 傭船者:請求人
C 契約地及び契約日:空欄
D 船名:R1号
E 船籍:M国
F 竣工年月:平成5年6月
G 航行区域:極東
H 傭船期間:5年
I 引渡期日(第2条)、保守及び運航(第8条)、傭船料(第9条)の各条項の記載内容は、本件N1号契約書と同じである。
J 本件R1号契約書の補足文書である「ADDENDUM TO CHARTER PARTY PER M/T “R1号”」と題する書面の第2条には、傭船料は、同書面に添付の一覧表に基づいて決定する旨記載されている。当該一覧表(「R1号 BBC料算出基礎」と題する書面)の記載内容は、要旨次のとおりである。
(A) 元金:325,453,000円(内訳:船体210,000,000円、乗出し10,000,000円、改造費用105,453,000円)
(B) 金利:○○%
(C) 残存:10%(32,545,000円)
(D) 支払回数:60回
(E) 各回の支払額:○○○○円(最終回は○○○○円)(内訳:利息○○○○円、返済額○○○○円(最終回は○○○○円)及び店費200,000円)
(ハ) S社との間の契約書の記載事項
 請求人とS社との間で平成15年3月9日付で締結された契約(以下「本件S1号契約」といい、本件N1号契約及び本件R1号契約と併せて「本件各契約」という。)に係る契約書(以下「本件S1号契約書」といい、本件N1号契約書及び本件R1号契約書と併せて「本件各契約書」という。)は、U1委員会作成の裸傭船契約書の書式を用いて和文で作成されており、その記載事項の要旨は次のとおりである。
A 船主:S社
B 傭船者:請求人
C 契約の主要事項(第1条)
(A) 船舶の明細
a 船名:S1号(以下、N1号及びR1号と併せて「本件各船舶」という。)
b 船種:ケミカルタンカー
c 船籍:M国
d 竣工年月:平成15年5月10日
(B) 傭船期間:引渡しの日より10年間
(C) 引渡期日:平成15年5月10日より平成15年5月15日まで
(D) 航行区域:日本/Q国
(E) 傭船料:別途協定
(F) 保険表示:船舶保険価額 1,375,000,000円
(G) 特約条項:S1号に関するS社の借入金の金利が変動した場合、傭船料は1年ごとにS社及び請求人で協議の上、取り決めるものとする。
D 修繕・検査及び諸費用(第9条)
 傭船者は、本契約期間中におけるS1号の定期検査、中間検査及び臨時検査、修繕、運航及び船員に関する諸費用その他S1号使用並びに保守保全に必要な一切の費用を負担しなければならない。
E 使用不能(第12条)
(A) 本件S1号契約期間中、S1号が60日以上行方不明となったときは、最後の存在の時をもって本件S1号契約は終了する。
(B) 本件S1号契約期間中、S1号が沈没、火災、座洲、座礁、衝突、船体・機関の破損その他の事由により全損若しくは修繕不能となったときは、その事故発生の時をもって本件S1号契約は終了する。
F 売却、譲渡又は抵当権の設定(第14条)
 S社は、請求人の承諾を得なければ、本件S1号契約期間中、S1号を第三者に売却、譲渡し又は抵当権を設定することができない。
G 契約違反(第17条)
(A) 本件S1号契約に違反した者は、契約違反によって生ずる一切の損害金を相手方に支払わなければならない。
(B) 上記(A)の契約違反が当事者の故意若しくは重大な過失に基づく場合、又は傭船料がその支払期日を4日経過しても支払われないときには、相手方は何らの催告もしないで直ちに本件S1号契約を解約することができる。
H 本件S1号契約書には、「S社様、貸付返済予定表 融資額金1,090,000,000円也、融資日平成15年5月15日、返済期限25年5月15日」との記載がある一覧表が添付されており、当該一覧表には、要旨次の内容の記載がある。
(A) 融資金額:1,090,000,000円
(B) 返済日:平成15年6月15日から平成25年5月15日までの120回(120か月)
(C) 各返済日の返済額:各月の元金返済額と各月の利息○○%の合計○○○○円(毎月同額)
(ニ) 本件N1号契約に関する覚書
 請求人は、N社との間で、「CONFIRMATION OF AGREEMENT TO CHARTER PARTY DATED ON 2002,PER M/T N1号」と題する覚書(以下「本件N1号覚書」という。)を取り交わしているところ、その記載事項の要旨は次のとおりである。なお、本件N1号覚書の契約地及び契約日はP市及び2002年とされている。
A 本件N1号契約に関して、本日、N社(M国・所有者)と請求人(P市・傭船者)は、次のBのとおり、合意した。
B 本件N1号契約書にかかわらず、
(A) 請求人は、以下のとおり、本件N1号契約期間の間においてはN1号を購入する権利を有し、同期間の満期においてはN1号を購入する義務を有する。
2004年(平成16年)末:購入価格 172,223,845円
2005年(平成17年)末:購入価格 126,169,035円
2006年(平成18年)末:購入価格 78,713,423円
2007年(平成19年)末:購入価格 29,814,406円
(B) 請求人が上記(A)のN1号を購入する権利を行使又は義務を履行し、かつ、請求人が第三者に転売して利益を得た場合には、その転売利益をN社と請求人で等分する。
(ホ) 本件R1号契約に関する覚書
 請求人は、R社との間で、「CONFIRMATION OF AGREEMENT TO CHARTER PARTY DATED ON 2002,PER M/T R1号」と題する覚書(以下「本件R1号覚書」という。)を取り交わしているところ、その記載事項の要旨は次のとおりである。なお、本件R1号覚書の契約地及び契約日はP市及び2002年とされている。
A 本件R1号契約に関して、本日、R社(M国・所有者)と請求人(P市・傭船者)は、次のBのとおり、合意した。
B 本件R1号契約書の規定にかかわらず、
(A) 請求人は、以下のとおり、本件R1号契約期間の間においてはR1号を購入する権利を有し、同期間の満期においてはR1号を購入する義務を有する。
2004年(平成16年)末:購入価格 218,325,634円
2005年(平成17年)末:購入価格 159,942,543円
2006年(平成18年)末:購入価格 99,783,674円
2007年(平成19年)末:購入価格 37,795,017円
(B) 請求人が、上記(A)のR1号を購入する権利を行使又は義務を履行し、かつ、請求人が、第三者に転売して利益を得た場合には、その転売利益をR社と請求人で等分する。
(ヘ) 本件S1号契約に関する覚書
 請求人は、S社との間で、平成15年3月10日付の「CONFIRMATION OF AGREEMENT TO CHARTER PARTY DATED ON MAR.09,2003 PER M/T S1号」と題する覚書(以下「本件S1号覚書」といい、本件N1号覚書及び本件R1号覚書と併せて「本件各覚書」という。)を取り交わしているところ、その記載事項の要旨は次のとおりである。
A 本件S1号契約に関して、本日、S社(M国・所有者)と請求人(P市・傭船者)は、次のBのとおり、合意した。
B 本件S1号契約書の規定にかかわらず、
(A) 請求人は、S社と同社への融資銀行との間の金銭消費貸借契約の償還表に示された各年における残債務額を購入価格として、本件S1号契約期間の間においてはS1号を購入する権利を有し、同期間の満期においてはS1号を購入する義務を有する(以下、本件各覚書における本件各船舶を購入する権利及び義務を併せて「本件各権利・義務」という。)。
(B) 請求人が、上記(A)のS1号を購入する権利を行使又は義務を履行し、かつ、請求人が、第三者に転売し利益を得た場合には、その転売利益をS社と請求人で等分する。
ハ 請求人から本件各M国法人に対する傭船料の支払
(イ) N社に対する支払
 請求人は、平成14年10月から平成16年10月までの間にN社に対し総額○○○○円の金員を支払っている。なお、当該支払に係る「外国/国内送金依頼書」の「送金目的」欄には「傭船料」と記載されている。
(ロ) R社に対する支払
 請求人は、平成14年10月から平成16年10月までの間にR社に対し総額○○○○円の金員を支払っている。なお、当該支払に係る「外国/国内送金依頼書」の「送金目的」欄には「傭船料」と記載されている。
(ハ) S社に対する支払
 請求人は、平成15年6月から平成16年10月までの間にS社に対し総額○○○○円の金員を支払っている。なお、当該支払に係る「外国/国内送金依頼書」の「送金目的」欄には「傭船料」と記載されている(以下、請求人が本件各M国法人に支払った金員を併せて「本件各金員」という。)。

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2 争点及び主張

(1) 争点1 本件各納税告知処分に理由付記がないことは違法か

イ 原処分庁
 本件各納税告知処分は適法である。
ロ 請求人
 本件各納税告知処分には、理由の付記がなく、そもそも違法な処分である。

(2) 争点2 請求人が平成15年2月以降、本件各M国法人に支払った本件各金員は、本件各船舶の所有権留保付の割賦売買契約に基づく売買代金の分割償還か、裸傭船契約(船舶賃貸借契約)に基づく傭船料か

イ 原処分庁
 請求人が平成15年2月以降、本件各M国法人へ支払った本件各金員は、以下の理由により、裸傭船契約(船舶賃貸借契約)に基づく傭船料であり、「船舶の貸付けによる対価」と認められる。
(イ) 本件各船舶は、本件各M国法人を所有者として登記されたM国船籍の船舶であり、本件事業年度の末日において、日本船舶として登記された事実は認められないから、本件各M国法人が所有する資産であると認められる。
(ロ) 請求人は、本件各M国法人との間で本件各契約を締結し、同契約に基づいて支払った金員について、支払の都度総勘定元帳の傭船料勘定に計上しており、その経理処理からすれば傭船料に係る費用として認識しているものと認められる。
(ハ) 請求人は、本件各船舶の取得について、本件各契約における本件各覚書を根拠としているところ、本件各覚書は、本件各契約において請求人が契約の終了までの間に本件各船舶を購入する権利が付されていることを約したものであり、本件各船舶の譲渡に係る契約が締結された事実は認められない。
 本件事業年度の末日までに、請求人が本件各M国法人に本件各船舶の取得に係る対価の支払又は債務の引受けを行った事実は認められない。
 また、本件各船舶は、本件各M国法人の各出資法人の借入金の担保となっているところ、本件各M国法人の各出資法人が当該借入金に係る残債務の清算等の処理を行った事実が認められない。本件各M国法人が本件各船舶を請求人に譲渡したものだとすると、N社がT社(請求人のM国子会社)にN1号を売却した際と同様に残債務の清算や抵当権の解除等が通常行われるはずである。
(ニ) R社及びS社は、請求人から収受した金員を傭船料収益として計上しており、また、N社は、本件事業年度後の平成17年4月19日付でN1号をT社に売却していることから、本件各M国法人が本件各契約締結の際に本件各船舶を請求人に売却したとの認識があったとは認められない。
ロ 請求人
 本件各契約については、本件各覚書のとおりの合意があるから、以下のとおり、裸傭船契約の書式を用いた所有権留保付割賦売買契約である。したがって、請求人が平成15年2月以降、本件各M国法人へ支払った本件各金員は、売買代金の分割償還金であり、「船舶の貸付けによる対価」には当たらない。
(イ) 本件各契約は、請求人が本件各M国法人と本件各船舶について、「裸傭船契約書式による契約を締結」し、同時に「本件各船舶の買取権及び買取義務を約した覚書を締結」したものである。すなわち、本件各M国法人が、請求人に対し、いわゆる裸傭船の標準契約書式を用いた「所有権留保型の金融(ファイナンス)」を行ったものである。
(ロ) M国等のFOC(便宜置籍船)を使うことは海運業界の常識であり、本件各船舶が日本船として登記されていないことは、請求人が本件各船舶を取得した事実を否認する証拠とはなり得ない。現に、リース会社等が行っている、いわゆるJAPANESE OPERATING LEASE(以下「日本型オペレーティングリース」という。)においては、日本法人がM国の子会社に船舶を保有させて、M国にて登記し、それを日本法人が割賦売買にて買い受け、日本法人名で減価償却を行っている。
(ハ) 裸傭船の契約書式を使用する場合、最終回残高を除く各分割償還金と利息を、便宜上「傭船料」と呼称していることから、便宜上「傭船料」として処理していただけであり、傭船料を費用として認識していたとはいえない。
(ニ) 本件S1号について、1請求人は、最終期限(平成25年5月15日)には、残債務額全額をS社に支払い、S1号を購入することを義務付けられており、請求人からS社へのS1号の返還は予定されていないこと、2請求人は、最終期限に至らなくとも残債務額をS社に支払いS1号を購入できることに照らせば、本件S1号契約が単なる裸傭船契約ではなく、裸傭船契約の書式を用いた所有権留保付割賦売買であるといえる。
 また、N1号及びR1号についても、1各回に支払う傭船料が、「元金」、「利息」及び本件各M国法人の取り分である「店費」から構成されていること、2請求人の本件N1号覚書及び本件R1号覚書に基づくN1号及びR1号のそれぞれの各時点の買取価格は、「N1号 BBC料算出基礎」及び「R1号 BBC料算出基礎」と題する一覧表が示す各時点の元本残高と一致すること、3請求人は最終期限には、残債務額全額を支払い、N1号及びR1号を購入する義務を有すること、すなわち、請求人からN社及びR社へのN1号及びR1号の返還は予定されていないこと、4請求人が最終期限に至らなくとも残債務額を支払い、N1号及びR1号を購入できることとされており、これらのことから、本件N1号契約及び本件R1号契約が単なる裸傭船契約ではなく、裸傭船契約の書式を用いた割賦売買であるといえる。
(ホ) 本件各契約が、請求人に対し、本件各覚書に基づく本件各権利・義務を与えていることは、反面で、本件各M国法人には、1途中で請求人が買取権を行使すれば、本件各船舶を形式的にも請求人に渡さなければならず、2最終満期には、必ず、本件各船舶を形式的にも請求人に渡さなければならない義務がある、また、3本件各M国法人は、契約期間を通じて、本件各船舶を請求人以外の他社に売却することができないだけでなく、自ら取り戻すこともできない。この場合において、本件各M国法人が本件各船舶を請求人に売却したと認識しないことは、著しく不合理である。
(ヘ) R社の出資法人であるV社の経理責任者であるZは、原処分庁に対し、平成17年1月20日付の申述書で、「請求人に売却したとの認識でいます。R1号をR社が、他社にいかなるときにも売却することはできません。」と申述しており、R社も本件各契約が所有権留保付割賦売買契約であり、代金債権の担保としてR社がR1号の所有権を有していることを認識している。
(ト) なお、N1号は、平成16年11月1日に、請求人が本件N1号覚書に係る買取権を行使したものの、同日、N社が請求人から買い戻し、所有権はN社に復帰している。すなわち、N社は、N1号を請求人に売却したものの、原処分庁が本件更正処分及び本件各納税告知処分等を行うことを示唆したため、それ以上の違法な処分を受けることを避けるために、所有権留保付割賦売買を取りやめて、N1号を第三者に売却することとしたものである。
(チ) 請求人の主張と同様の判断をしている昭和43年8月27日付の最高裁判所の判例がある。すなわち、企業が市に納付した使用料名義の合算額が対象機械の購入価格に相当する場合、当該取引が賃貸借契約であるか、所有権留保付割賦売買であるかが争点となった事案において、最高裁判所は、当該取引が賃貸借契約ではなく割賦売買契約であると認定しており、その理由の一つとして、「賃貸借のように機械等がやがて貸主に返還されることを本来予定しているものではない」ことを挙げている。本件各契約においても、請求人から本件各M国法人への本件各船舶の返還は予定されておらず、各傭船料の合計額が本件各船舶の購入価格に相当するため、本件各契約が船舶賃貸借契約、すなわち裸傭船契約に当たらないことは、上記判決により明らかである。

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(3) 争点3 本件各契約に基づく取引が、所有権留保付割賦売買に当たらない場合、法人税法施行令第136条の3に規定する売買類似リース取引に該当するか

イ 原処分庁
 次のとおり、法人税法施行令第136条の3の規定に基づき、本件各契約に基づく取引は売買類似リース取引に該当するとする請求人の予備的主張にも理由がない。
(イ) 本件各契約においては、契約の解除を認める条項がないものの、契約の解約を禁止する条項もない。
(ロ) 請求人と本件各M国法人は、当初から、本件各船舶の一定期間の傭船を約するとともに、傭船期間終了後の転売を予定した上で本件各契約を締結している。そして、それを前提として傭船料を算定し、本件各契約において所定の傭船料を定めているにすぎないと認められ、本件各覚書により当該転売利益の半分については、本件各M国法人に帰属することとされているから、本件各契約において、請求人が実際に負担することとなる傭船料の総額は、請求人が支払うこととされている傭船料の合計額から、請求人が本件各船舶を転売することによる転売利益の2分の1に相当する額を差し引いた後の額であると解される。
 そうすると、本件各契約においては、請求人が本件各M国法人へ支払うこととされている傭船料の合計額は本件各契約において定められているものの、請求人が実際に負担することとなる傭船料の総額は、本件各契約締結時において算定することができないのであるから、そもそも本件各契約締結時においては、法人税法施行令第136条の3第3項第2号に規定するいわゆるフルペイアウト要件を満たすか否かを判定することはできない。
(ハ) 本件各契約では、本件各覚書により、本件各船舶の形式上の所有権は、最終的には請求人に移るとしながら、その後、請求人が本件各船舶を第三者に転売して利益を得た場合、「当該転売利益の半分については、本件各M国法人に帰属する」ことを、請求人と本件各M国法人があらかじめ合意した上で行ったものということになるから、本件各契約に基づく取引は、およそ一般に行われる売買取引とその性質を異にするものである。法人税法施行令第136条の3は、いわゆるファイナンスリース取引が、あたかも賃借人がリース物件を延払いで購入したことと同一の実質的効果を有することに着目し、リース物件の早期償却につながるなど、同一の物件を延払条件付で購入した納税者との間の課税上のアンバランスを解消するために制定されたものであるところ、上記のとおり、本件各契約に基づく取引は一般に行われる売買取引とその性質を異にするものであり、法人税法上売買があったものとされる売買類似リース取引に本件各契約がなじまないことは明らかである。
(ニ) 請求人は、本件各船舶をリース期間終了時に、著しく有利な価格で買い取る権利を与えられている旨主張するが、本件各船舶のリース期間終了時の購入できる権利についてのみ述べるにすぎず、リース期間の中途においての購入できる権利については、何ら検討を加えていない。
ロ 請求人
 仮に、本件各契約を単なる裸傭船契約と解すれば、裸傭船契約とは、船舶賃貸借契約であるから「資産の賃貸借」に当たると解することとなるが、そのように解したとしても、本件各契約に基づく取引は、次の理由により、法人税法施行令第136条の3第1項に規定する資産の売買として処理すべき売買類似リース取引に該当するから、本件各船舶が本件各M国法人から請求人へ引き渡された時点で「売買」があったものとして処理すべきものであり、船舶の貸付けには該当しない。
(イ) 本件各契約には、契約の解除を認める条項はなく、逆に、本件各権利・義務が規定されているのであるから、本件各契約の中途で解除することができないことが当然の前提となっている。
(ロ) 請求人は、本件各船舶の使用・収益権を有し、本件各船舶からもたらされる経済的利益を享受している。
 本件N1号契約書及び本件R1号契約書の第8条(保守及び運航)、並びに本件S1号契約書の第9条(修繕、検査及び諸費用)において、修繕、運航、その他本件各船舶を使用するに伴って生じる費用は、すべて請求人(傭船者)が負担することとなっている。
(ハ) 原処分庁は、本件各契約において、請求人が実際に負担することとなる傭船料の総額は、請求人が支払うこととされている傭船料の合計額から、請求人が本件各船舶を転売することによる転売利益の2分の1に相当する額を差し引いた後の額であると解される旨主張するが、当該主張は誤りである。すなわち、請求人が本件各船舶を第三者に転売することは、義務ではなく、飽くまで転売した場合についての規定であり、請求人が転売した場合に限り「転売利益」を分配するのである。また、「請求人が実際に負担することとなる総額」は、支払済傭船料の合計額及び買取権の価額の合計額から「転売利益の2分の1に相当する額を差し引いた後の額」ではなく「転売利益の2分の1に相当する額を加算した後の額」であるから、いわゆるフルペイアウト要件を満たしている。
(ニ) 平成19年4月10日付のU2委員会作成の船価鑑定書(以下「本件鑑定書」という。)によれば、請求人は、本件各契約に基づき、本件各船舶をリース期間終了時に、当該鑑定価額に比し著しく有利な価額で買い取る権利を与えられていることとなるから、法人税法施行令第136条の3第1項第2号に該当することは明らかである。

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(4) 争点4 本件各金員のうち、請求人がN社及びR社に対して、平成14年10月から平成15年1月までに支払った金員は、裸傭船契約に基づく船舶貸付けの対価か

イ 原処分庁
 本件各金員のうち、請求人がN社及びR社に対して、平成14年10月から平成15年1月までの4か月間(以下「本件4か月間」という。)に支払った金員についても、本件N1号契約及び本件R1号契約に基づく傭船料であり、所得税法第161条第3号に規定する「船舶の貸付けによる対価」に当たるから、源泉徴収の対象となる。
ロ 請求人
 本件各金員のうち、請求人がN社及びR社に対して、本件4か月間に支払った金員は、本件N1号契約及び本件R1号契約に基づくものではなく、次のとおり、請求人がN社及びR社との間で締結した運航委託契約に基づき支払っていたものであり、本件4か月間に支払った金員についても、所得税法第161条第3号に規定する「船舶の貸付けによる対価」には当たらず、源泉徴収の対象とはならない。
 N社は、N1号の改造工事を続け必要な備品をN1号に備え付ける必要があり、R社は、R1号のボイラーの手当てを行わなければならなかったため、N社及びR社は、本件N1号契約及び本件R1号契約に基づいて契約上引き渡すべき状態ではなかった。
 しかし、必要な改造工事が終わっていないN1号及びR1号には、不足する機能もあったが、船舶として使えない状態というわけではなく、N1号及びR1号を遊ばせておくことは不経済であった。そこで、N社及びR社は、N1号及びR1号を請求人に引き渡すことができるようになるまでの期間、改造に差し支えない範囲で、請求人にN1号及びR1号の運航委託を行っていたものである。
 もっとも、請求人がN1号及びR1号につき運航委託を受けたのは、改造を行うための短期間の話であり、また、そもそも、N社及びR社にとっては、船舶が遊んでいるより少しでも収入があればよいという程度のものであり、請求人としても、使える範囲でN1号及びR1号につき運航するという認識で行ったものにすぎない。そこで、請求人とN社及びR社は、契約書の取り交わし等は行わず、運航委託の手数料等の運航委託契約の条件は、必要に応じて、話合いで決定するというものであった。
 請求人は、N1号及びR1号を利用して上げた収益とN1号及びR1号の受託手数料の差額をN社及びR社に送金しており、かかる金員を「傭船料」名目で計上していたものである。厳密には、N1号及びR1号を利用してあげた収益は、N社及びR社の収益を請求人が預かっていたものであるから、請求人の収益として計上すべきではなく、N1号及びR1号の運航受託手数料のみを、請求人の収益として計上すべきであった。また、請求人がN社及びR社に送金した金額は、費用計上すべきものではなく、少なくとも、請求人の利益額に影響するものではない。
 そして、本件4か月間に請求人が計上していた「傭船料」は、単なる預り金の送金にすぎない以上、所得税法第161条第3号に規定する「船舶の貸付けによる対価」に当たらないことは明らかである。

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3 判断

(1) 認定事実等

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、上記基礎事実のほかに、次の事実が認められる。
イ 請求人の経理処理関係
(イ) 請求人は、本件各金員について、上記1の(4)のハのとおり、「外国/国内送金依頼書」の「送金目的」欄に「傭船料」と記載して本件各M国法人に送金するとともに、それぞれ別表3の「N1号」欄、「R1号」欄及び「S1号」欄のとおり、総勘定元帳の傭船料勘定に計上している。
(ロ) 請求人は、平成16年10月31日付で、次のとおりの経理処理を行っている。
A 本件各船舶の取得価額として、N1号分256,730,000円、R1号分325,453,000円及びS1号分1,090,000,000円を船舶勘定に計上し、その相手勘定として雑収入1,672,183,000円を計上し、当該金額を益金の額に算入している。
B 本件各船舶の取得に係る借入金として、N1号分224,239,095円、R1号分284,264,699円及びS1号分1,047,308,228円を長期借入金勘定に計上し、その相手勘定として雑損失1,555,812,022円を計上し、損金の額に算入している。
C 上記Aの本件各船舶の取得価額を基礎として、N1号分137,607,280円、R1号分120,092,157円及びS1号分176,580,000円(合計434,279,437円)を本件各船舶に係る減価償却費として計上し、損金の額に算入している。
D 本件各M国法人に対して支払ったN1号分44,472,717円、R1号分56,377,491円及びS1号分87,451,148円(合計188,301,356円)を傭船料勘定から減額し、上記Bの長期借入金と相殺処理している。
ロ 本件更正処分関係
 原処分庁は、本件事業年度の法人税について、請求人が本件各船舶を取得した事実は認められないとして、次の本件更正処分を行った。
(イ) 本件各船舶の取得価額として計上された額と同額で雑収入として益金の額に算入された1,672,183,000円を益金の額から控除した。
(ロ) 本件各船舶に係る借入金として計上された額と同額で雑損失として損金の額に算入された1,555,812,022円を損金の額から控除した。
(ハ) 本件各船舶に係る減価償却費として損金の額に算入された434,279,437円を損金の額から控除した。
(ニ) 本件各船舶に係る傭船料として本件事業年度中に計上された上で、本件事業年度末に借入金弁済額として借入金の額と相殺された188,301,356円を損金の額に算入した。
(ホ) 上記(イ)ないし(ニ)の控除及び算入により翌期へ繰り越すべき欠損金の額が129,607,103円減少した。
ハ 本件各M国法人の経理処理関係
 本件各M国法人の本件各契約に係る経理処理については、以下のことが認められる。
(イ) R社の平成16年7月31日現在の貸借対照表の資産の部には船舶が計上されており、また、R社の平成15年8月1日から平成16年7月31日までの事業年度の損益計算書の営業収益の部には請求人から収受したR1号に係る傭船料収入が計上され、営業費用の部には減価償却費が計上されている。
(ロ) S社の平成15年9月30日現在の貸借対照表の資産の部には、船舶としてS1号が計上されており、また、S社の平成15年1月24日から同年9月30日までの事業年度の損益計算書の売上高の部には請求人から収受したS1号に係る運航収入が計上され、運航原価の部にはS1号に係る減価償却費が計上されている。
ニ 本件各船舶の船価関係
 本件鑑定書によれば、本件各船舶の船価は、次のとおりである。
(イ) 平成16年現在のN1号の船価:○○○○ドル(385,200,000円/1ドルを○○円で換算)
(ロ) 平成16年現在のR1号の船価:○○○○ドル(674,100,000円/1ドルを○○円で換算)
(ハ) 平成19年現在のS1号の船価:○○○○ドル(1,333,400,000円/1ドルを○○円で換算)
ホ N1号及びR1号に係る運航委託関係
(イ) 本件4か月間において、請求人がN社及びR社との間でN1号及びR1号に係る運航委託契約を締結していたことを証する運航委託契約書等の書類は存在しない。
(ロ) 請求人から当審判所に提出された、R1号に係る運航委託契約に基づくとした支払に関する「STATEMENT OF ACCOUNT M/T R1号」と題する書面(以下「本件運航委託計算書」という。)には、積荷港、荷揚港、積荷の内容、収入すべき運航料、支出経費が記載されている。
ヘ 関係者の申述
(イ) N社の実質経営者である]は、平成17年12月14日に原処分庁に対し、要旨次のとおり申述した。
A N社は、W社が全額出資して作ったM国法人である。
B N1号は、N社が所有していた外航船である。
C 平成17年5月か6月にN社が請求人の関係法人(T社)にN1号を売却するまで、請求人とN社は本件N1号裸傭船契約を結んでいた。
D 平成17年1月24日に原処分庁に提出した申述書には、N1号を請求人に売却したと認識していると記載したが、本件N1号裸傭船契約を結びN1号に抵当権が設定されていたこともあり、N社で自由に売買できる状態にないという意味でそう記載しており、平成17年5月か6月に売船するまでは、N社がN1号の所有者だった。
(ロ) R社及びV社の代表者であるYは、平成17年12月12日に原処分庁に対して、要旨次のとおり申述した。
A R社は、V社が全額出資して作ったM国法人である。
B R1号は、登記上はR社が所有者になっていると思う。
C 請求人とR社の契約内容については、本件R1号裸傭船契約書とその他請求人に渡された資料にサインしたが、詳しくないので分からない。
D R1号の運行は、すべて請求人に任せており、現在も毎月○○○○円の支払を受けている。ただ、支払の内容については、契約内容を熟知していないので分からない。
ト 船舶法上の船籍等及びいわゆる便宜置籍船について
(イ) 船舶法第1条第3号は、日本の法令により設立した会社でその代表者の全員及び業務を執行する役員の3分の2以上が日本国民であるもの(以下「日本法人」という。)の所有する船舶は日本船舶とする旨規定し、また、同法第5条第1項は、日本船舶の所有者は登記した後船籍港を管轄する管海官庁に備えてある船舶原簿に登録することを要する旨、及び同条第2項は、同条第1項に定める登録をしたときは、管海官庁は船舶国籍証書を交付することを要する旨規定していることからすれば、船舶法上、日本船舶については、当然に日本船籍を有することになるものと解される。
 また、船舶職員及び小型船舶操縦者法第18条は、日本船舶の所有者は船長及びそれ以外の船舶職員として、それぞれ海技免状を受有する海技士を乗り組ませなければならない旨規定しており、その乗組員について一定の資格を要求していることが認められる。
(ロ) 船舶は、その登録国の法律によって制約と保護を受けることとなるが、その内容は国により異なるため、より有利な条件を有する国に便宜的に船籍を移すこと(便宜置籍)があり、このような登録ができる国を便宜置籍国、また、このように登録された船舶をいわゆる便宜置籍船といっている。日本を含め、多くの先進海運国では、自国の船舶には、原則的に自国人や自国が承認する海技免状等を持った船員の乗船を義務づけており、先進諸国の船員は賃金も高く、より低賃金の発展途上国海運との価格競争では不利となる。一方、便宜置籍国では、こうした国籍要件等に関する規制が緩やかで、賃金の安い外国人船員を乗せることが可能であることから、現在では日本をはじめ多くの先進海運国が、自国籍船と便宜置籍船を組み合わせて自国商船隊を構成するようになっており、国際単一市場の中で厳しい競争を強いられている現状では、便宜置籍はサバイバルのためには、やむを得ない手段となっている(○○協会ホームページ)。
 そして、上記(イ)のとおり、船舶法上、日本法人の所有する船舶、すなわち日本船舶については、日本船籍としなければならず、結果的に日本法人が直接便宜置籍船を保有することはできないことから、日本法人が便宜置籍船を使用するためには、実務上、日本法人の子会社等を便宜置籍国に設立し、その子会社等に日本法人が使用する船舶を保有させることが一般的であると認められる。

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(2) 本件各納税告知処分に係る理由付記の要否について(争点1)

イ 通則法第36条第1項第2号は、税務署長は、源泉徴収による国税でその法定納期限までに納付されなかったものを徴収しようとするときは、納税の告知をしなければならない旨規定しているところ、その告知をする納税告知書の理由付記については要件としていない。また、同法第74条の2第1項は、国税に関する法律に基づき行われる処分その他の公権力の行使に当たる行為については、行政手続法第2章(申請に対する処分)及び第3章(不利益処分)の規定は適用しない旨規定しており、他に納税告知処分について処分理由を付記すべきことを定めた法律の規定はない。
ロ 請求人は、本件各納税告知処分は、理由の付記がなく違法である旨主張するが、上記イのとおり、納税告知処分についてその理由を付記すべき法令上の規定はないことから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 本件各契約が、賃貸借契約ではなく、所有権留保付の割賦売買契約と認められるか否かについて(争点2)

イ 本件各契約の形式及び内容について
(イ) 裸傭船とは、船員を伴わない船舶の賃貸借をいい、裸傭船契約とは、船舶の所有者から一定の約束の下に船舶を借り受けて、借用者(傭船者)が任意に使用しつつ物品の運送を行う形態であり、船舶の完全使用を目的とした船舶賃貸借契約とされているところ、本件各契約については、上記1の(4)のロの(イ)及び(ロ)のとおり、本件N1号契約書及び本件R1号契約書は、○○協議会作成の標準裸傭船契約書の書式を用いて、また、上記1の(4)のロの(ハ)のとおり、本件S1号裸傭船契約書は、U1委員会作成の裸傭船契約書の書式を用いて締結されている。
(ロ) 本件各契約は、本件各覚書により、上記1の(4)のロの(ニ)ないし(ヘ)のとおり、本件各契約の期間中における請求人の買取権及び期間満了時における請求人の買取義務を定めている。
ロ 請求人及び本件各M国法人の認識について
 請求人は、上記(1)のイの(イ)のとおり、本件各契約を締結して以来、各M国法人に対し毎月傭船料という名目で本件各金員を支払い、平成16年10月に至るまで一貫して総勘定元帳の傭船料勘定に計上しており、所有権留保付割賦売買を前提とした経理処理は行っていない。
 また、本件各M国法人は、N社については不明であるものの、R社及びS社については、上記(1)のハのとおり、自ら所有する船舶の賃貸を前提とする経理処理を行っていることが認められる。
 なお、請求人は、上記2の(2)のロの(ヘ)のとおり、R社の出資法人であるV社の経理責任者であるZの申述からすれば、R社は、本件各契約が所有権留保付割賦売買であると認識している旨主張するが、R社及びV社の代表者であるYは、上記(1)のヘの(ロ)のとおり、平成17年12月12日に原処分庁に対し「請求人とR社の契約内容については、本件R1号裸傭船契約書とその他請求人に渡された資料にサインしたが、詳しくないので分からない。R1号の運行は、すべて請求人に任せており、現在も毎月○○○○円の支払を受けているが、支払の内容については分からない」旨申述しており、また、R社は、上記(1)のハの(イ)のとおり、平成16年7月31日現在の貸借対照表の資産の部に、船舶を計上し、損益計算書の営業収益の部には、請求人から収受したR1号に係る傭船料収入を計上していることが認められるから、請求人が主張するZの申述については、当審判所は採用しない。
ハ 結論
 上記イの(イ)のとおり、本件各契約は、裸傭船契約書の書式を用いて行われており、その記載内容を読む限り、裸傭船契約(船舶賃貸借契約)であると解するのが自然である。
 そして、上記(1)のトのとおり、請求人にとっては、本件各船舶を自ら所有して、日本船籍の船舶として使用するよりも、本件各M国法人が所有するM国船籍の船舶を借りて使用する方が、経済的にメリットがあることからすれば、請求人が、売買契約ではなく裸傭船契約の法形式を選択することには合理性がある。
 さらに、上記ロのとおり、請求人は、裸傭船契約であることを前提とした経理処理を行っているから、請求人自身、本件各契約を、所有権留保付割賦売買契約ではなく、裸傭船契約であると認識していたといえ、また、本件各M国法人も、その経理処理からすれば、本件各契約を裸傭船契約と認識していたといえる。
 以上によれば、本件各契約は、所有権留保付割賦売買契約ではなく、裸傭船契約(船舶賃貸借契約)であると認められる。
ニ 請求人の主張について
(イ) これに対し、請求人は、まず、海運業界では、船舶を所有権留保付割賦売買により購入することが多く、この場合、裸傭船契約の書式を使用し、船舶の買取りの権利・義務に関する条項を付加するか、あるいは船舶の買取りの権利・義務に関する覚書を同時に締結するのが、業界の慣習となっていると主張する。
 しかし、証拠及び当審判所の調査結果によっても、請求人が主張するような慣習が存在するとまでは認められない。
(ロ) また、請求人は、M国等のFOC(便宜置籍船)を使うことは海運業界の常識であり、本件各船舶が日本船として登記されていないことは、請求人が本件各船舶を取得した事実を否認する証拠とはなり得ず、日本型オペレーティングリースにおいては、日本法人がM国の子会社に船舶を保有させて、M国にて登記し、それを日本法人が割賦売買にて買い受け、日本法人名で減価償却を行っている旨主張する。
 しかし、請求人の主張は、日本法人がM国法人から割賦売買にて買い受けた船舶について、買受け後もM国船籍としている場合の主張であるところ、本件各契約が、割賦売買契約ではなく裸傭船契約(船舶賃貸借契約)であると認められることは上記ハのとおりである。
(ハ) 次に、請求人は、本件各契約が、請求人に対し、本件各覚書に基づく本件各権利・義務を与えている場合において、本件各M国法人が本件各船舶を請求人に売却したと認識しないことは、著しく不合理であると主張する。
 しかし、仮に、本件各契約が、所有権留保付割賦売買契約であるとすれば、契約締結時に売買の合意が成立し、代金完済まで所有権の移転が留保されているだけであるから、契約終了時には、当然に本件各船舶の所有権が請求人に移転するはずであり、契約終了時に買取義務が生じる余地はない。
 そうすると、本件各覚書が、契約終了時の買取義務を定めていることは、本件各契約締結時においては、いまだ売買の合意が成立していないこと、すなわち、本件各契約が所有権留保付割賦売買契約ではなく裸傭船契約(船舶賃貸借契約)であることの証左であるといえる。
(ニ) さらに、請求人は、各回に支払う各金員が、「元金」、「利息」及び本件各M国法人の取り分である「店費」から構成されていること及び請求人の本件N1号覚書及び本件R1号覚書に基づくN1号及びR1号のそれぞれの各時点の買取価格は、「N1号 BBC料算出基礎」及び「R1号 BBC料算出基礎」と題する一覧表が示す各時点の元本残高と一致することから、請求人が平成15年2月以降、本件各M国法人へ支払った本件各金員は、売買代金の分割償還金であるとも主張する。
 しかし、本件各契約が、たとえいわゆるファイナンスリース契約であっても、それだけで当然に所有権留保付割賦売買契約ないしこれに類似する担保付売買契約として取り扱われるものではないのであって、ある契約が売買契約か賃貸借契約かは、諸般の事情を総合的に考慮して判断すべきである。
 したがって、請求人が平成15年2月以降、本件各M国法人へ支払った本件各金員が、「元金」、「利息」等により構成されているなどのことが認められるからといって、そのことから直ちに本件各契約が所有権留保付割賦売買契約であるといえるものではない。
(ホ) なお、請求人が引用する判例(最判昭和43年8月27日、税務訴訟資料53号313頁)は、市内中小企業者に機械等を設置保有させて企業設備の近代化、合理化を図ることを目的とした市条例に基づいて、市と中小企業者との間で締結された機械等の使用契約が、実質的には所有権留保付売買契約であると判断されたものであり、本件とは事案を異にする。

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(4) 本件各契約に基づく取引が、法人税法上の売買とされるリース取引(売買類似リース取引)に該当するか否かについて(争点3)

イ 法令解釈
 法人税法施行令第136条の3は、その法形式が資産の賃貸借である取引のうち、いわゆるファイナンスリース取引については、あたかも賃借人がリース資産を延払いで購入したことと同一の実質的効果を有することに着目し、リース資産の早期償却につながるなど、同一の資産を延払条件付で購入した納税者との間の課税上のアンバランスを解消するために設けられたものと解される。
 そして、同条は、まず、第3項において、法人税法上のリース取引の定義を規定し、次に、そのリース取引のうち売買取引として取り扱うもの(売買類似リース取引)(同条第1項)と金融取引として取り扱うもの(同条第2項)の範囲を規定している。
 同条第3項によれば、法人税法上のリース取引とは、「当該賃貸借に係る契約が、賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないものであること又はこれに準ずるものであること」(同項第1号)及び「当該賃貸借に係る賃借人が当該賃貸借に係る資産からもたらされる経済的な利益を実質的に享受することができ、かつ、当該資産の使用に伴って生ずる費用を実質的に負担すべきこととされているものであること」(同項第2号)の2つの要件を満たすものをいう。
 そして、上記のとおり、同条がリース取引と売買取引との実質的効果の類似性に着目した規定であることに照らせば、同項第2号にいう「当該賃貸借に係る資産からもたらされる経済的な利益」とは、資産の所有者であれば享受できる利益をいうと解すべきである。
 次に、同条第1項によれば、売買類似リース取引とは、内国法人が、同条第3項の要件を満たすリース取引をした場合において、そのリース取引が、同条第1項第1号ないし第4号に規定される要件のいずれかに該当するもの又はこれらに準ずるものをいうとされている。
ロ 本件各契約に基づく取引が法人税法施行令第136条の3の要件を満たすか否かについて
(イ) 本件各契約は、本件各覚書によれば、請求人が本件各権利・義務を有する旨、及び請求人が本件各権利・義務を行使(履行)し、かつ、請求人が本件各船舶を第三者に転売し利益を得た場合には、その転売利益を本件各M国法人と請求人で等分する旨定められている。
(ロ) 請求人は、上記2の(2)のロの(ロ)において自ら主張するとおり、本件各船舶を便宜置籍船として運航することを前提としており、請求人が本件各船舶の所有者となった場合でも、日本船籍の船舶とすることは予定していないから、請求人が、本件各覚書の本件各権利・義務を行使(履行)した場合、その行使(履行)と同時に、ほぼ確実に、本件各船舶を便宜置籍国の法人等に売却することになる。
(ハ) 仮に、請求人が本件各船舶の所有者であるとすれば、本件各船舶の処分益は、当然、そのすべてを請求人が享受できるはずである。
 にもかかわらず、本件各覚書によれば、請求人が本件各取引に係る傭船料を全額弁済した後であっても、請求人は、本件各船舶の処分益の半分しか享受できないこととされている。
(ニ) そうすると、本件各契約上、請求人は、資産の所有者であれば享受できる利益を享受しているとはいえず、法人税法施行令第136条の3第3項第2号に規定する「賃借人が当該賃貸借に係る資産からもたらされる経済的な利益を実質的に享受することができること」という法人税法上のリース取引の要件を満たさない。
(ホ) したがって、同条第1項に該当するか否かについて判断するまでもなく、本件各契約は、同項に規定する売買類似リース取引には該当しない。
ハ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、本件鑑定書によれば、請求人が本件各契約に基づき、本件各船舶を当該鑑定価額に比し著しく有利な価額で買い取る権利を与えられていることとなるから、本件各契約に基づく取引が法人税法施行令第136条の3第1項第2号に規定するリース資産の売買があったものとする場合に該当することは明らかである旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(ニ)のとおり、本件各契約は、法人税法施行令第136条の3第3項第2号の要件を満たさず、法人税法上のリース取引に該当しないと認められるから、同条第1項にいう売買類似リース取引にも当たらない。
(ロ) なお、仮に本件各契約が同条第3項の要件を満たすとしても、本件各契約については、上記1の(4)のロの(ニ)ないし(ヘ)のとおり、本件各船舶の転売利益の半分を請求人が本件各M国法人に支払うこととされている。
 そして、上記ロの(ロ)のとおり、請求人は、本件各権利・義務の行使(履行)と同時に本件各船舶を転売することがほぼ確実に予定されている上、上記(1)のニの本件鑑定書によれば、転売により相当の利益が生じるものと認められる。
 そうすると、請求人は、本件各覚書による買取り価額のほかに当該転売利益の半分を本件各M国法人に支払わなければならないのであるから、請求人が、本件各船舶を著しく有利な価額で買い取る権利を与えられているとまではいえない。

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(5) 本件各金員のうち、請求人がN社及びR社に対して、平成14年10月から平成15年1月までに支払った金員は、裸傭船契約に基づく船舶貸付けの対価か否かについて(争点4)

イ 請求人が主張する請求人とN社及びR社との間のN1号及びR1号に係る運航委託契約については、上記(1)のホの(イ)のとおり、N1号及びR1号に係る運航委託契約の成立を証する契約書等の書類は存在せず、運航委託契約に基づく請求人が受領すべき受託手数料の額も明らかでない。
 また、R1号については、上記(1)のホの(ロ)の本件運航委託計算書が存在するが、同計算書は、積荷港、荷揚港、積荷の内容、収入すべき運航料、支出経費の内訳明細であり、R1号に係る運航委託契約の成立を示す証拠とは認められない。
ロ また、上記(1)のヘの(イ)及び(ロ)のとおり、原処分庁に対し、N社の実質経営者である]が、請求人とN社は平成17年5月か6月にN1号を売却するまで裸傭船契約を締結していた旨申述していること、R社の代表者であるYが、本件R1号契約とその他請求人に渡された資料にサインしたが、詳しくないので分からない旨、及びR1号の運航はすべて請求人に任せている旨申述していることなどに照らせば、本件4か月間において、N1号及びR1号が運航委託契約に基づき運航されていたとの認識をN社及びR社が有していたとは認め難い。
ハ そうすると、請求人がN社及びR社に支払った本件4か月間のN1号及びR1号の運航に係る各金員は、運航委託契約に基づいて支払われたものではなく、裸傭船契約に係る傭船料として支払われたものと認めるのが相当である。
 なお、本件4か月間に支払われた各金員と、本件N1号契約書及び本件R1号契約書に添付されている、上記1の(4)のロの(イ)のL及び同(ロ)のJの各一覧表に記載された傭船料の額とは必ずしも一致しないが、本件4か月間においては、請求人が主張するようにN1号及びR1号が完全な状態で運航し得なかった事情を考慮すれば、そのことによって、直ちに当該各金員が傭船料であることが否定されるものではない。

(6) 本件各納税告知処分について

イ 上記(2)のとおり、納税告知処分について、処分理由を付記すべきことを定めた法律の規定はなく、処分理由を付記しなかったことをもって、本件各納税告知処分が違法であるとはいえない。
ロ 所得税法第161条第3号は、外国法人が、内国法人に対して船舶若しくは航空機を貸し付けたことによる対価は、国内源泉所得に該当する旨規定しているところ、請求人が本件各M国法人に支払った本件各金員は、上記(3)のハ及び(5)のハのとおり、裸傭船契約(船舶賃貸借)に基づく支払とみられることから、国内源泉所得に該当する船舶の貸付けによる対価であって、国内において支払われたものと認められることから、請求人は、同法第212条第1項の規定によって、本件各金員の支払の際に所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならないと認められる。そして、その源泉所得税の税率については、同法第213条第1項第1号の規定により、20%となる。
ハ 以上のことから、本件各金員に係る源泉所得税の額は、別表2の「源泉所得税額」欄の金額といずれも同額となるから、本件各納税告知処分は、いずれも適法である。

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(7) 本件各賦課決定処分について

 上記(6)のとおり、本件各納税告知処分はいずれも適法であり、請求人には、通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項に基づいて行われた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(8) 本件更正処分について

 本件各契約は、上記(3)のハのとおり、裸傭船契約(船舶賃貸借)とみられ、また、上記(4)のロの(ホ)のとおり、法人税法上の売買類似リース取引にも該当しないから、本件各船舶は、本件各M国法人が請求人に貸し付けたものであり、請求人が本件各船舶を購入した事実は認められないとしてされた本件更正処分は適法である。

(9) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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