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(平21.2.20、裁決事例集No.77 272頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、妻と共有していた居住用の家屋に関し、当該家屋の取得に係る借入金等を有する場合の所得税額の特別控除を適用して所得税の確定申告をしていた審査請求人(以下「請求人」という。)が、その後離婚し、財産分与により取得した前妻の持分を含めて同特別控除を適用して所得税の申告をしたところ、原処分庁が、前妻の持分の取得は、「家屋を2以上有する場合」に該当し、このような場合には同特別控除の重複適用が認められていないのであるから、前妻の持分の取得に係る部分は認められないとして更正処分等を行ったことに対し、請求人が同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成16年分、平成17年分及び平成18年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までにA税務署長に対しそれぞれ提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成19年9月28日付で、別表の「更正処分等」欄のとおり、各年分の所得税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成19年10月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月21日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成20年1月10日に審査請求をした。
ホ なお、請求人は、平成19年○月○日に住所をP県Q市R町○丁目○番○号から肩書地へ移動した。

(3) 関係法令

イ 租税特別措置法(平成19年法律第6号による改正前のものをいい、以下、「措置法」という。)第41条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第1項は、居住者が、国内において、住宅の用に供する家屋で政令で定めるもの(以下「居住用家屋」という。)の新築若しくは居住用家屋で建築後使用されたことのないもの若しくは建築後使用されたことのある家屋で政令で定めるもの(以下「既存住宅」という。)の取得又はその者の居住の用に供している家屋で政令で定めるものの増改築等(以下「増改築等」といい、居住用家屋の新築若しくは居住用家屋で建築後使用されたことのないもの若しくは既存住宅の取得を併せて「住宅の取得等」という。)をして、これらの家屋をその者の居住の用に供した場合において、その者が当該住宅の取得等に係る借入金又は債務(以下「住宅借入金等」という。)の金額を有するときは、その年分の所得税の額から、住宅借入金等特別税額控除額を控除する旨規定している(以下、この控除を「本件控除」という。)。
ロ 措置法第41条の2は、居住者が、その適用年において、2以上の居住年に係る住宅の取得等に係る住宅借入金等の金額を有する場合には、当該適用年における本件控除の額は、当該適用年の12月31日における住宅借入金等の金額につき異なる居住年ごとに区分し、当該区分をした居住年に係る住宅の取得等に係る住宅借入金等の金額ごとにそれぞれ同項各号の規定に準じて計算した金額の合計額とし、当該合計額が控除限度額を超えるときは、当該適用年における本件控除の額は、当該控除限度額とする旨規定している。
ハ 租税特別措置法施行令(以下「措置令」という。)第26条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第1項は、上記イの居住用家屋は、個人がその居住の用に供する次に掲げる家屋とし、その者がその居住の用に供する家屋を2以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供すると認められる一の家屋に限るものとする旨規定している。
(イ) 一棟の家屋で床面積が50平方メートル以上であるもの(第1号)。
(ロ) 一棟の家屋で、その構造上区分された数個の部分を独立して住居その他の用途に供することができるものにつきその各部分を区分所有する場合には、その者の区分所有する部分の床面積が50平方メートル以上であるもの(第2号)。
ニ 措置令第26条第2項は、上記イの既存住宅は、個人がその居住の用に供する家屋で、上記ハの(イ)及び(ロ)に掲げる家屋で、かつ、一定の要件に該当するものとし、その者がその居住の用に供する家屋を2以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供すると認められる一の家屋に限るものとする旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 平成13年○月○日に請求人及び請求人の当時の妻Bは、P県Q市R町○丁目○番○に所在するマンションの○○号室(以下「本件家屋」という。)及びその敷地権(以下、本件家屋と敷地権を併せて「本件家屋等」という。)を、請求人3分の2、B3分の1の持分で取得した。
ロ 本件家屋は平成13年○月○日に新築され、その構造は鉄筋コンクリート造、区分所有する部分の床面積は67.79平方メートル、敷地権の割合は○○分の○○である。
ハ 請求人及びBは、連帯債務者として、平成13年5月30日、C銀行(現D銀行)から本件家屋等に係る住宅借入金等57,200,000円(以下「本件借入金」という。)を借り入れた。
ニ 請求人及びBは、平成13年○月○日に本件家屋に入居し、平成13年分及び平成14年分において、上記イのそれぞれの持分に応じて本件控除を適用している。
ホ その後、請求人とBは離婚し、Bは平成15年○月○日に本件家屋から転居したが、請求人は離婚後も本件家屋を上記(2)のホの移動日まで引き続き居住の用に供していた。
ヘ 請求人は、平成16年○月○日、財産分与(以下「本件財産分与」という。)を原因として本件家屋等のBの持分3分の1を取得し、同日、Bの債務を引き受け、本件借入金は請求人の単独債務となった。
ト 請求人は、各年分の所得税について、単独で本件家屋等を所有し、本件借入金の債務を全額負担するものとして本件控除を適用して、確定申告をした。

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2 主張

原処分庁 請求人
 措置令第26条第2項は、住宅の取得等をして、その者がその居住の用に供する家屋を2以上有することとなった場合には、その全部について本件控除を認めるのではなく、主に居住の用に供すると認められる一の家屋に限り本件控除を認めるとして、本件控除の重複適用を認めていない。
 本件のように、財産分与によって本件控除の対象となる家屋の共有持分を追加取得した場合でも措置法第41条第1項に規定する既存住宅の取得と認められるため、平成13年の取得に係る本件控除と平成16年の追加取得に係る本件控除を重複して適用することはできず、どちらか一方についてのみ適用を受けることができるのである。
 措置令第26条第2項が規定する家屋を2以上有する場合とは、物理的にもう一つの家屋を取得する場合のことである。
 本件のように、継続して同一のマンションの一室に居住している請求人が、当該マンションの一室の共有持分を追加取得した場合にまで、2軒目の家屋の取得であるから同条項に規定する「家屋を2以上有する場合」に当たり重複適用はできないとする法解釈は誤りである。

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3 判断

(1) 家屋の持分取得について

イ 本件控除の制度は、持家取得の促進を図ることを主な目的として設けられた制度であり、上記1の(3)のイのとおり措置法第41条第1項は、居住者が住宅の取得等をして(要件1)、同項に規定する家屋をその居住の用に供した場合(要件2)において、住宅借入金等の金額を有するとき(要件3)は、本件控除の適用を受けることができる旨規定している。また、上記1の(3)のハ及びニのとおり措置令第26条第1項及び第2項は、本件控除の対象となる居住用家屋及び既存住宅についての要件をそれぞれ規定している。しかし、いずれの条項においても家屋の持分を取得した場合の取扱いについての明文規定はない。
ロ もっとも、措置法及び措置令の規定からすると、本件控除の適用を受けようとする者は、本件控除の対象となる家屋の所有者であることが前提であると解されるところ、持分とは各共有者が共同所有する目的物に対する部分的所有権であり、これ自体一個独立の所有権たる性質を有するものであるから、家屋の持分を取得した場合もまた、上記イの要件1に該当すると解するのが相当である。

(2) 本件各更正処分について

 本件においては、本件家屋等の自己の持分について、本件控除の適用を受けている者が、他の共有持分を追加取得した場合に、当該追加取得した持分部分についても合わせて同控除を受けることができるとする請求人の主張に対し、原処分庁が、家屋の共有持分を追加取得した場合、それは措置法第41条第1項に規定する既存住宅の取得に当たるため、措置令第26条第2項が規定する「家屋を2以上有する場合」に該当するから、平成13年の取得に係る本件控除と平成16年の追加取得に係る本件控除を重複して適用することはできず、どちらか一方についてのみ適用を受けることができると主張するので、検討したところ以下のとおりである。
イ 法令解釈等
(イ) 措置令第26条第1項及び第2項は、本件控除について、居住の用に供する家屋を2以上有する場合には、これらの家屋のうち、主としてその居住の用に供すると認められる一の家屋に限る旨規定しているところ、これは、本件控除の制度が上記(1)のイのとおり持家取得の促進を図ることを主な目的としているため、既に持家(居住の用に供する家屋)を取得し、本件控除の適用を受けている者が、別荘など主として居住の用に供さない家屋を取得した場合にまで重ねて本件控除の適用を認めることは相当でないことから、主として居住の用に供さない家屋についての本件控除の適用を制限するために規定されたものであると解される。
(ロ) これに対し、共有の場合の各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる(民法第249条)ことからすると、既に居住の用に供する家屋に係る共有持分を有する者が他の者の共有持分を追加取得したとしても、それは、新たに別の家屋を有することとなるものではなく、既に居住の用に供する家屋の持分を追加取得したことにすぎず、共有持分の追加取得後の所有権の及ぶ対象は当該家屋の一個のみである。また、その場合、観念的には、当初は持分に応じた当該家屋を居住の用に供する権利を得ているのみで、いまだ完全なる所有権(居住の用に供する一の家屋)を取得していなかったものが、持分を追加取得したことにより更なる権利を得ることになっただけであり、持分の追加取得の前後を通じて、当該家屋を主としてその居住の用に供している実態に変わりはない。
 したがって、共有持分を追加取得した場合、措置令第26条第2項の「居住の用に供する家屋を2以上有する場合」には該当しない。
(ハ) さらに、措置法第41条の2は、居住者が、その適用年において、2以上の居住年に係る住宅借入金等の金額を有する場合には、所要の計算調整によりその適用年の控除額を計算する旨規定している。そうすると、同条の規定は、一の家屋において、2以上の住宅の取得等がある場合を前提にしていると解されるから、一の家屋の共有持分を追加取得した場合も、本件控除をいずれの共有持分についても適用することとしても本件控除の制度の趣旨には反しないと解される。
ロ これを本件についてみると、請求人は、本件家屋等を取得した平成13年分の所得税から、当初の持分3分の2について本件控除を受けていたことが認められ、Bの持分3分の1を本件財産分与により取得した平成16年以降の各年分の所得税については、本件家屋等の持分すべてについて本件控除の制度の適用がある前提で申告をしていることが認められるところ、原処分庁は、他の共有持分を追加取得することは措置令第26条第2項の「居住の用に供する家屋を2以上有する場合」に該当するから、平成13年の取得に係る本件控除と平成16年の追加取得に係る本件控除の重複適用は認められないとする本件各更正処分を行った。
 しかし、上記イの(ロ)のとおり、共有持分の追加取得が措置令第26条第2項の「居住の用に供する家屋を2以上有する場合」に該当すると解することは相当でない。
 また、措置法第41条第1項は、本件控除の適用要件を、住宅の取得等をして(要件1)、当該家屋をその居住の用に供し(要件2)、住宅借入金等の金額を有するとき(要件3)としているところ、請求人が各要件を充足していることについては、原処分庁も争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても認められる。
 そして、本件のように既に居住の用に供していた家屋の共有持分を財産分与によって追加取得した場合は、措置法第41条第1項の規定の適用において、家屋の新築若しくは居住用家屋で建築後使用されたことのないものの取得及び増改築等のいずれにも当たらず、請求人は、Bが区分所有権を有して居住の用に供していた家屋等を財産分与に基因して新たに取得したのであるから、既存住宅の取得に当たると解するのが相当であり、この点に関して原処分庁にも争いはない。
 なお、請求人から提出された証拠資料によれば、Bは、本件財産分与に係る本件家屋等の持分3分の1の譲渡に関し、譲渡価額○○○○円で請求人に譲渡したとして所得税の確定申告をしたことが認められ、当審判所の調査によっても当該譲渡価額を不相当とする理由はない。したがって、本件家屋等の持分3分の1の取得の対価の額は○○○○円となる。
ハ 請求人の各年分の本件控除の額の計算方法について
 請求人の各年分の本件控除の額は、請求人が平成13年に取得した本件家屋等の持分3分の2について適用される本件控除と平成16年○月○日に新たに取得した持分3分の1の既存住宅部分について適用される本件控除の合計額について、措置法第41条の2の規定を適用して計算することになる。
ニ 以上の結果、原処分庁の主張には理由がなく、請求人の各年分の本件控除の額、総所得金額及び納付すべき税額は、別表の「審判所認定額」欄のとおりとなり、いずれも申告に係る総所得金額及び納付すべき税額と同額であるから、本件各更正処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。

(3) 本件各賦課決定処分について

 上記(2)のとおり、本件各更正処分はいずれもその全部を取り消すべきであるから、本件各賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。

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