別紙

当事者の主張

請求人 原処分庁
 請求人が、みなし外国税額控除を適用するに当たり、本件申告書に記載した税額等の計算は、次のとおり、通則法第23条第1項に規定する1号事由に該当する。  請求人が、みなし外国税額控除を適用するに当たり、本件申告書に記載した税額等の計算は、次のとおり、通則法第23条第1項に規定する1号事由に該当しない。
1 法人税法第69条第16項に規定する「控除をされるべき金額」について 1 法人税法第69条第16項に規定する「控除をされるべき金額」について
(1) 本件申告書に記載された金額
 本件申告書における控除対象外国法人税の額の計算過程においては、請求人に外国税額控除の適用範囲についての選択の余地はなく、請求人は、法令に定める計算方法の誤解に基づく計算誤りにより、本件申告書別表六(二)の「当期に控除できる金額」欄及び同別表一(一)の「外国税額」欄に○○○○円と記載したのである。
 したがって、上記金額は請求人自ら外国税額控除の適用範囲として選択したとする原処分庁の事実認識は明らかに誤りである。
(1) 本件申告書に記載された金額
 本件申告書別表六(二)の「当期に控除できる金額」欄及び同別表一(一)の「外国税額」欄には○○○○円と記載されており、当該金額は、外国税額控除制度を適用するに当たり、外国税額控除を受ける範囲についての請求人の選択の意思表示であると認められる。
(2) 「控除をされるべき金額」の解釈
 法人税法第69条第16項に規定する「控除をされるべき金額」とは、確定申告書別表一(一)の「外国税額(43)」欄に記載された金額のみをいうのでなく、確定申告書の各別表に記載された金額を基礎として計算される正当額を納税者の控除を受ける意思と認めて、納税者の真意に基づく正当な計算をしたならば算出されたであろう金額をいうと解すべきである。
 ちなみに、下記イの福岡高等裁判所の判決及び下記ロの大分地方裁判所の判決においても、同様の見解を示している。
 原処分庁は、当該「記載された金額」こそが「控除をされるべき金額」であり、当該「記載された金額」とは、確定申告書別表六(二)の「当期に控除できる金額(19)」欄と、その金額が転記された同別表一(一)の「外国税額(43)」欄に記載された具体的金額をいうと解される旨主張する。
 しかし、原処分庁の解釈によると、控除対象外国法人税の額の計算過程において誤りが生じた場合には、一切更正の請求の対象にならない、すなわち、納税者の権利救済の道を完全に閉ざすことになり、極めて不公平、不合理な結果となるから、原処分庁の解釈は誤りである。
(2) 「控除をされるべき金額」の解釈
 外国税額控除制度は、国際的経済活動により国際的二重課税が生じた場合には、その二重課税の排除を受けるか否か及びその排除を受ける場合の範囲について、納税者の選択によるものとしている。
 このことから、法人税法第69条第16項は、法人が自ら適正に計算した外国税額控除を受けるべき金額を確定申告書に記載していることを当然の前提としており、納税者が外国税額控除の適用を選択した場合において、一定の控除対象外国法人税の額を「控除をされるべき金額」として確定申告書に記載することにより、その控除を受ける範囲について意思表示したときは、たとえ客観的にその記載額が同条第1項の規定により正当に算定される控除可能な外国法人税額の一部にすぎなかった場合でも、その残部については同項の適用はなく、当該確定申告書に記載された額を超えて外国税額控除を受けることができないことを規定したものである。
 そして、法人税法第69条第16項に規定する「控除をされるべき金額」ないし「当該金額として記載された金額」とは、同項及び法人税法施行規則第34条《確定申告書の記載事項》第2項の規定から、確定申告書別表六(二)の「当期に控除できる金額(19)」欄と、その金額が転記された同別表一(一)の「外国税額(43)」欄に記載された具体的金額をいうと解される。
イ 福岡高等裁判所判決における解釈
 福岡高等裁判所平成19年5月9日判決(平成18年(行コ)第12号)は、「法人税法第69条第13項(本件審査請求では第16項)後段の『当該金額として記載された金額を限度とする』とは、基本的には、確定申告書に控除をされるべき金額として記載された金額を限度とする、との趣旨であるが、その金額は、そこに記載された具体的な金額のみを指すものということはできず、外国税額控除制度の適用を受けることを選択した範囲を限度として、法令に基づき誤りを是正した上で正当に算定されるべき金額を限度とする趣旨と解するのが相当である」と判示している。
 また、同判決は、外国税額控除の計算誤りに関して、「当初申告において控除対象に選択して申告記載した事項について、たまたまその記載金額又は計算に誤りがあったために、結果的にその申告記載した控除金額が過少になっているような場合には、上記とは事情が異なり、基本的には更正の請求の対象になりうるものと解するのが相当である」とも判示している。
イ 福岡高等裁判所判決における解釈
 福岡高等裁判所平成19年5月9日判決(平成18年(行コ)第12号)は、請求人の主張と同様に、本件が1号事由に該当することを所与の事実として、控除をされるべき金額が、確定申告書別表一(一)の「外国税額(43)」に記載された具体的な金額のみを指すのではなく、外国税額控除制度の適用を受けることを選択した範囲を限度として、法令に基づき誤りを是正した上で正当に算定されるべき金額を限度とする趣旨と解するのが相当である旨判示している。
 しかしながら、同判決は、後記2の(2)で述べる租税実体法の定めにより判断されるべき通則法第23条第1項に規定する1号事由の該当性を判断せずに、同条の解釈適用を行ったものと解される。
ロ 大分地方裁判所判決における当局の見解及び裁判所の解釈
 大分地方裁判所平成18年2月13日判決(平成16年(行ウ)第7号)の「第2事案の概要、3被告(税務署側)の主張(1)」によると、当局側は、「法人税法第63条第13項後段に規定する『当該金額として記載された金額』とは、別表一(一)の『外国税額(43)』欄の金額のみならず、各別表に記載した金額をも指すとともに、確定申告書上での計算誤りや転記上の誤りについては、通則法第23条第1項により救済されるのである」との見解を示している。
 また、同判決は、「第3当裁判所の判断4(1)」において、「『当該金額』とは、法人税法第69条第1項(あるいは同条第7項)の規定に従って算出された控除をされるべき金額を指しているから、法人税法第69条第13項によって拘束力が生じるのは、最終的な計算結果である確定申告書別表一(一)の『外国税額(43)』欄に記載された金額ではなく、別表六(四)や別表六(五)等の明細書に記載された、控除限度額を限度とする控除対象外国法人税の額と解するのが相当である」と述べ、当該金額とは、確定申告書別表六(五)の「(8)」欄(本件でいう「間接納付した控除対象外国法人税額(9)」欄の記載金額を限度とすべき旨判示している。
ロ 大分地方裁判所判決における当局の見解
 大分地方裁判所平成18年2月13日判決(平成16年(行ウ)第7号)によると、国は、「法人税法第69条第13項(本件審査請求では第16項)後段に規定する『当該金額として記載された金額』とは、別表一(一)の『外国税額(43)』欄の金額のみならず、各別表に記載した金額を指すとともに、確定申告書上の計算誤りや転記上の誤りについては、通則法第23条第1項により救済されるのである」と主張している。
 一方、原処分庁の主張は、次のとおりであり、上記大分地方裁判所の判決における国側の主張と何ら食い違うところはない。
(イ) 法人税法施行規則第34条に規定されている各別表は、いずれも法人税法第69条第16項にいう「確定申告書」の一部を構成するものと解されるから、例えば、確定申告書別表六(五)の間接納付したとみなされる控除対象外国法人税額の「円換算額(12)」欄は、当期に納付する控除対象外国法人税額の間接納付分として確定申告書別表六(二の二)の間接納付分の「みなし納付控除対象外国法人税額(7)」欄に移記され、他の直接納付分及び間接納付分と合算して、当期の控除対象外国法人税として確定申告書別表六(二)の「当期の控除対象外国法人税額(1)」欄に移記される。
(ロ) かかる当期の控除対象外国法人税額は、法人税法第69条第1項の規定により控除できる金額が計算され、さらに、当該控除できる金額に他の同条第2項及び第3項の規定により計算された控除できる金額を合計することで確定申告書別表六(二)の「当期に控除できる金額(19)」欄が算定される。
(ハ) この確定申告書別表六(二)の「当期に控除できる金額(19)」欄こそが、法人税法第69条第16項に規定する「確定申告書に同項の規定による控除を受けるべき金額」ないし「同項の規定による控除をされるべき金額」が記載される箇所(欄)を指す。
(3) 本件についての当てはめ
 上記(2)の解釈に本件を当てはめると、「控除をされるべき金額」は、請求人が控除を受けることを意図していた正当な計算をしたなら控除されていた金額(△△△△円)となる。
 したがって、本件更正の請求により、請求人の真意に基づく正当な金額(△△△△円)については、外国税額控除が認められるべきである。
(3) 本件についての当てはめ
 上記(2)の解釈に本件を当てはめると、「控除をされるべき金額」は、請求人自ら適用の範囲として選択し、本件申告書別表六(二)の「当期に控除できる金額」欄及び同別表一(一)の「外国税額」欄に記載された○○○○円と認められる。
 したがって、外国税額控除の適用を受けることができる金額は○○○○円であり、当該金額を超える部分の外国税額控除は認められない。
2 通則法第23条第1項に規定する1号事由該当性について 2 通則法第23条第1項に規定する1号事由該当性について
(1) 本件申告書の計算過程について
イ 上記1の(1)で述べたとおり、請求人は、法令に定める計算方法の誤解に基づく計算誤りにより、「控除をされるべき金額」を、本来法令に規定していない当該子会社からの配当金額の25%相当額が上限になるように計算したものであり、原処分庁が主張する「請求人は自らの選択により控除を受ける範囲の金額を子会社配当の25%相当額とした」のではなく、単純な計算誤りにすぎず、請求人がこれを選択した事実はない。選択とは法令に基づく適法な選択肢が存在する場合にのみなされるものであり、控除対象外国法人税の額の計算過程において、納税者が選択を行う余地はない。
(1) 本件申告書の計算過程について
イ 上記1の(1)で述べたとおり、本件申告書別表六(二)の「当期に控除できる金額」欄及び同別表一(一)の「外国税額」欄には○○○○円と記載されており、当該金額は、外国税額控除制度を適用するに当たり、外国税額控除を受ける範囲についての請求人の選択の意思表示であると認められる。
ロ また、本件の計算誤りについて、申告書の記載を通して具体的に説明すれば、1本件申告書別表六(五)の「間接納付した控除対象外国法人税額」欄及びその「円換算額」欄までの計算は正しく記載されており、それぞれ子会社2社分の合計額を、2本件申告書別表六(二の二)の「みなし納付控除対象外国法人税額」欄へ転記する段階で生じた誤りである。
 したがって、厳格に本件申告書の記載に基づいて判断した場合には、別表間における単純な転記ミスと見るべきものである。つまり、本件申告書別表六(五)の「間接納付した控除対象外国法人税」欄の欄外等に記載された数字は、申告書の記載とはいえないものであり、この記載を無視することで転記ミスということが一層明確になる。
 いずれにしても、本件は控除対象外国法人税額の計算に誤りがあったことは明らかである。
ロ また、請求人は、本件申告書別表六(五)の「間接納付した控除対象外国法人税」欄及びその「円換算額」欄に記載すべき金額を、自らこれらの欄の欄外に記載し、その欄外に記載した金額を本件申告書別表六(二の二)の「みなし納付控除対象外国法人税額」欄へ転記している。
 したがって、本件申告書における控除対象外国法人税額の計算過程において、転記誤りは生じていない。
(2) 1号事由の解釈
 通則法第23条第1項第1号に規定する「計算に誤りがあったこと」は、法令や条約等又は申告書様式に定められた加減乗除に照らすと計算誤りであることが明白となるものであり、税率や為替レート、申告書上の加減算、転記等の誤りは、上記計算誤りに含まれると解すべきである。この点に関しては、上記1のイの判決で示された福岡高等裁判所の解釈及び上記1のロの大分地方裁判所判決において示された国税当局の主張も、同様の見解を示している。
 また、このように解さないと、上記1の(1)のとおり、控除対象外国法人税の額の計算過程における誤りが生じた場合には、その誤りについて更正の請求の対象とならないことから、納税者の権利救済の道が完全に閉ざされることになり、極めて不公平、不合理な結果となる。
(2) 1号事由の解釈
 通則法第23条第1項に規定する1号事由の存否については、租税実体法である法人税法の規定により判断されるべきであり、「当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定にしたがっていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」に起因して、「当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるとき」には、1号事由に該当する。
 しかし、租税実体法上、一定事項の申告書への記載が適用要件とされているにもかかわらず、その記載がされなかった場合には、単に当該規定の適用を受けることができなくなるだけで、1号事由には該当しない。
(3) 本件についての当てはめ
 上記(2)の解釈に本件を当てはめると、請求人がみなし外国税額控除を適用するに当たり、法令に定める計算方法を誤解して行った本件申告書に記載した税額等には、明白な計算誤りがあり、1号事由に該当する事実が認められる。
 したがって、更正の請求は認められるべきである。
(3) 本件についての当てはめ
 上記(2)の解釈に本件を当てはめると、本件申告書に記載した税額等の計算において、転記誤りは生じていなかったほか、請求人は、自らの選択により控除を受ける範囲の金額を○○○○円とし、他に控除できる分の金額について控除を受ける範囲の金額に含めなかったのであるから、請求人が主張するように、その選択が誤りだったとしても、1号事由に該当する事実は認められない。
 したがって、更正の請求は認められない。
3 法人税法第69条第18項に規定する「やむを得ない事情」に該当すること
(1) 「やむを得ない事情」の解釈
 法人税法第69条第18項はゆうじょ規定であり、法令の不知や解釈誤りを含む申告誤りがあった場合において、その誤りを生じさせた重大な事情があるときは、その誤りに係る納税者の不利益を救済し、控除を認めようという趣旨のものである。したがって、同規定の「やむを得ない事情」に該当するか否かは、申告誤りに至った背景や実情を幅広く考慮して判断すべきである。
 原処分庁が「やむを得ない事情」の解釈に引用した東京地方裁判所平成16年7月14日判決及び国税不服審判所平成15年5月20日裁決は、いずれも手続要件を満たしていなかった事例であり、手続要件をすべて満たしていた本件とは全く異質の事例であるから、本件に引用するのは誤りである。
3 法人税法第69条第18項に規定する「やむを得ない事情」に該当しないこと
(1) 「やむを得ない事情」の解釈
 東京地方裁判所平成16年7月14日判決(平成15年(行ウ)第538号)及び国税不服審判所平成15年5月20日裁決が判示・判断しているとおり、「やむを得ない事情」とは、天災、交通途絶その他本人の責めに帰すことができない客観的事情をいい、本人の法の不知や事実の誤認などの主観的事情はこれに当たらない。
(2) 本件申告書に記載された税額等の計算に係る「やむを得ない事情」の有無について
イ 請求人は、本件事業年度前にも、平成14年3月期、平成15年3月期及び平成16年3月期の3回にわたり原処分庁の税務調査を受け、その都度、原処分庁の担当官からの質問に対して、日○租税条約に基づくみなし外国税額控除に係る計算の内容を詳細に説明したにもかかわらず、当該申告書に記載された税額等の計算については何の指摘もなく了承されている。
 また、原処分庁は、本件事業年度前の事業年度において、申告書に記載された税額等の計算誤りを把握していた場合には、この誤りについて更正すべきか否か判断すべきであったし、申告書に記載された税額等の計算誤りを把握していなかった場合には、過失があったことになる。
 いずれにしても、本件申告書に記載された税額等の計算誤りは、上記原処分庁の不適切な対応の下に生じたものであるから、原処分庁を信頼して申告を行った請求人の責めに帰すことのできない客観的事情があったというべきである。
 したがって、本件申告書に記載された税額等の計算については、法人税法第69条第18項に規定する「やむを得ない事情」に該当する事実があるから、外国税額控除の適用が認められるべきである。
(2) 本件申告書に記載された税額等の計算に係る「やむを得ない事情」の有無について
イ 原処分庁が、過去の税務調査において、日○租税条約の解釈誤りによるみなし外国税額控除に係る計算について、請求人に指摘していなかったとしても、みなし外国税額控除を適用するに当たり、請求人が本件申告書に記載した税額等の計算は、請求人の法の不知や事実の誤認などの主観的事情によるものと認められる。
 また、本件申告書に記載した税額等の計算において適用した為替換算レートの誤りについても、請求人の租税条約の誤った解釈に起因するものであり、請求人の主観的事情によるものと認められる。
 したがって、本件申告書に記載した税額等の計算については、上記(1)で述べた「やむを得ない事情」に該当する事実はなく、請求人の主張する外国税額控除は認められない。
ロ 原処分庁は、我が国の課税権が外国に及ばないことからすれば、我が国において正当な外国法人税の額を把握することなどほとんど不可能であると主張する。しかし、原処分庁にとって、課税要件に関する事実の調査を行い、常に真実の把握に努めることは当然の責務であり、取引が国の内外かによって責務の度合いが異なるものではない。原処分庁は、法人の海外取引に係る調査は不可能と言っているに等しく、このことは明らかに誤りであり、また、外国法人税の調査を特に困難とする理由も存在しない。税額控除額を申告限度としているのは、他に所得税額の控除があり、また、受取配当の益金不算入制度も同様である。
 したがって、原処分庁の主張には何の根拠もないことは明らかである。
ロ さらに、上記1で述べたとおり、外国税額控除の制度は、国際的経済活動により国際的二重課税が生じた場合には、その二重課税の排除を受けるか否か及びその排除を受ける場合の範囲について、納税者の選択によるものとしている。したがって、原処分庁は、請求人に対して、同人の意思にかかわらず外国税額控除を適用して国際的二重課税を排除する義務を有していない。
 仮に、納税者の外国税額控除の適用に係る選択についての意思の表明にかかわらず、原処分庁が国際的二重課税を排除する法的義務を有しているとすると、原処分庁は、納税者が納付したすべての外国法人税を補足した上で確定申告書への記載の有無を把握しなければならないことになる。
 しかし、我が国の課税権が外国に及ばないことからすれば、我が国において正当な外国法人税額を把握することなどほとんど不可能である。
(3) 「公的見解の表示」について
 「やむを得ない事情」の有無の判断において、原処分庁が主張する「公的見解の表示」については、最高裁判所昭和62年10月30日第3小法廷判決(昭和60年(行ツ)第125号所得税更正処分等取消請求事件)の考え方を参考にしたものと思われる。しかし、同判決は青色申告の承認に係る設権的処分の問題であるから、本件申告書に記載された税額等の計算の判断において用いるのは不適切である。
 また、法人税法第69条第18項にはゆうじょ規定が明確に設けられており、同規定の適用に当たっては、信義則適用の際の「公的見解の表示」を必要としていない。したがって、「公的見解の表示」を法人税法第69条第18項のゆうじょ規定適用の判断基準としている原処分庁の主張は誤りである。
 なお、仮に、法人税法第69条第18項の適用に当たって公的見解の表示が必要であった場合でも、原処分庁の上記(2)で述べた過去3回に渡る税務調査時における対応は、請求人に対する一度の公的見解の表示よりも格段に強いインパクトを持った表示である。
(3) 「公的見解の表示」について
 原処分庁の調査担当者が、税務調査の際に請求人の求めに応じて、適切かつ迅速な指導・助言に心がけるべきことは当然であるが、「やむを得ない事情」があると認められるか否かについては、納税者に対し信頼の対象となる公式的見解を表示したことにより納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかによって判断される。
 本件申告書に記載された税額等の計算においては、原処分庁の調査担当者は、請求人に対して指導・助言をしておらず、信頼の対象となる公的見解を表示していない。
 したがって、本人の責めに帰すことのできない客観的事情があるとは認められず、「やむを得ない事情」に該当する事実はない。

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