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(平21.5.20、裁決事例集No.77 358頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)により設立された外国法人がD国で納付したとみなされる法人税に相当する税額等について、請求人が、法人税の確定申告書に必要な記載等をしなかったため、控除されるべき税額が過少となり、その結果納付すべき税額が過大になっているとして更正の請求をしたのに対し、原処分庁が更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたので、請求人が、原処分庁の法令の解釈には違法があるとして、当該処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成18年12月21日から平成19年12月20日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、別表の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書を提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの。)までに提出した(以下、この確定申告書を「本件確定申告書」といい、本件確定申告書により行われた確定申告を「本件確定申告」という。)。
ロ その後、請求人は、本件確定申告書の税額等の計算が法人税法第69条《外国税額の控除》(平成21年法律第13号による改正前のもの。以下同じ。)の規定に従っていなかったので、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項に規定する更正の請求の要件(以下、単に「更正の請求の要件」という。)に該当するとして、平成20年9月1日に、別表の「更正の請求」欄のとおり、更正の請求をした。
ハ 原処分庁は、平成20年9月30日付で、上記ロの更正の請求に対し更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成20年11月20日に審査請求をした。

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(3) 関係法令等

イ 通則法第23条
 第1項は、納税申告書を提出した者は、納税申告書に記載した税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときには、当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
ロ 法人税法第69条
(イ) 第1項は、内国法人が各事業年度において外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるもの(以下「外国法人税」という。)を納付することとなる場合には、当該事業年度の所得に対する法人税の額のうち、当該事業年度の所得でその源泉が国外にあるものに対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額を限度として、その外国法人税の額(以下「控除対象外国法人税の額」という。)を当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する旨規定している(以下、この規定による控除を「外国税額控除」という。)。
(ロ) 第8項は、内国法人が、当該内国法人が保有している外国法人の株式の数がその発行済株式の総数の100分の25以上に相当する数となっており、かつ、その状態が当該内国法人が当該外国法人から受ける利益の配当の額の支払義務が確定する日以前6月以上継続している当該外国法人(以下「外国子会社」という。)から受ける配当等の額がある場合には、その外国子会社の所得に対して課される外国法人税の額のうちその配当等の額に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額は、その内国法人が納付する控除対象外国法人税の額とみなして、第1項の規定を適用する旨規定しており、これを受けて、法人税法施行令第147条《外国子会社の配当等に係る外国法人税額の計算等》(平成21年政令第105号による削除前のもの。以下同じ。)第1項は、法人税法第69条第8項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、次のA及びBに掲げる金額の合計額とする旨規定している。
A 外国子会社の配当等の額に係る事業年度の外国法人税の額(我が国が締結した所得に対する租税に関する二重課税防止のための条約(以下「租税条約」という。)を締結している相手国の法律又は当該租税条約の規定により軽減され、又は免除された当該相手国の租税の額で当該租税条約の規定によりその外国子会社が納付したものとみなされるものの額(以下「みなし納付外国法人税の額」という。)がある場合には、当該みなし納付外国法人税の額を控除した額)に、当該事業年度の所得の金額から当該外国法人税の額を控除した残額のうちに当該配当等の額の占める割合(次のBにおいて「配当等の額の割合」という。)を乗じて計算した金額(以下「間接納付した控除対象外国法人税の額」という。)
B 外国子会社の配当等の額に係る事業年度のみなし納付外国法人税の額に配当等の額の割合を乗じて計算した金額(以下「間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額」という。)
(ハ) 第16項は、その前段で、確定申告書に第1項の規定による控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載があり、かつ、控除対象外国法人税の額を課されたことを証する書類その他財務省令で定める書類の添付がされている場合に限り、第1項の規定を適用する旨規定し、その後段で、この場合において、外国税額控除をされるべき金額は、当該金額として記載された金額を限度とする旨規定している。
(ニ) 第18項は、税務署長は、第1項の規定による控除をされるべきこととなる金額等の全部又は一部につき第16項の記載又は書類の添付がない確定申告書の提出があった場合においても、その記載又は書類の添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、その記載又は書類の添付がなかった金額につき第1項の規定を適用することができる旨規定している。
ハ 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とD国との間の条約(以下「日○租税条約」という。)第21条
(イ) 第2項は、日本国以外の国において納付される租税を日本国の租税から控除することに関する日本国の法令に従い、D国において取得される所得が、D国の居住者である法人によりその議決権のある株式又はその発行済株式の少なくとも25%を所有する日本国の居住者である法人に対して支払われる配当である場合には、日本国の租税からの控除を行うに当たり、当該配当を支払う法人によりその所得について納付されるD国の租税を考慮に入れるものとする旨規定している。
(ロ) 第4項(a)は、第2項に規定する納付されるD国の租税には、この条約の署名の日に実施されているH法第31条、第33条、第34条、第35条(2)、第35条(3)、第35条(4)若しくは第36条(4)のいずれかの規定(この条約の署名の日の後に修正された場合を含む。)に従って軽減又は免除が行われないとしたならばD国の法令に基づき納付されたとみられるD国の租税の額を含むものとみなす旨規定している。
ニ 租税条約の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律(以下「実施特例法」という。)の施行に関する省令(平成20年総務・財務省令第1号による改正前のもの。以下「実施特例法省令」という。)第10条《みなし外国税額の控除の申告手続等》
 第1項は、内国法人は、みなし納付外国法人税の額を控除する旨を定める租税条約の規定の適用を受けようとする場合には、外国税額控除を受けようとする事業年度に係る法人税法に規定する申告書に、控除を受けるべきみなし納付外国法人税の額の計算の明細を記載し、かつ、これを証明する書類を添付しなければならない旨規定している(以下、ここに規定する明細の記載及び書類の添付という要件と上記ロの(ハ)の明細の記載及び書類の添付という要件を併せて「記載及び添付の要件」という。)。

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(4) 基礎事実

イ E社は、請求人が設立したD国に所在する外国法人であり、請求人が同社の発行済株式の92.3%を平成12年6月以降継続して保有する請求人の外国子会社である。
ロ 請求人は、平成19年6月6日に、E社から、同社の平成18年1月1日から平成18年12月31日までの事業年度(以下「平成18年12月期」という。)に係る配当金をD国通貨で8,159,660受領し、本件事業年度において、当該配当金の円換算額○○○○円を益金の額に算入した。
ハ 本件確定申告書に係る各別表の記載及び添付状況は、次のとおりである。
(イ) 別表一(一)
 適用を受ける外国税額控除の額を記載する「外国税額」欄には、24,378,679円と記載されており、この額は、E社のみなし納付外国法人税の額につき請求人が間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除の額が含まれずに算定されている。
(ロ) 別表六(五)「間接納付した控除対象外国法人税額又は個別控除対象外国法人税額等の計算に関する明細書」(以下、単に「別表六(五)」という。)
 E社に係る別表六(五)の各欄のうち、間接納付した控除対象外国法人税の額に係る各欄には必要な事項が記載されているが、間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額に係る各欄には何も記載されていない。
(ハ) 別表六(五の三)「外国子会社が納付したとみなされる外国法人税額に関する明細書」(以下、単に「別表六(五の三)」という。)
 E社に係る別表六(五の三)は添付されていない。
ニ 本件確定申告書には、D国の言語で、D国○○委員会の優遇措置として通常の税率の50%とする減税の適用がある旨記載されたE社の平成18年12月期の法人所得税確定申告書の写しが添付されている。

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2 争点

 本件確定申告において、E社のみなし納付外国法人税の額につき請求人が間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除をしなかったことは、更正の請求の要件に該当するか否か。

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3 主張

請求人 原処分庁
 本件確定申告において、E社のみなし納付外国法人税の額につき請求人が間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除をしなかったことは、以下の理由により、更正の請求の要件に該当する。  本件確定申告において、E社のみなし納付外国法人税の額につき請求人が間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除をしなかったことは、以下の理由により、更正の請求の要件に該当しない。
(1) 法人税法施行令第147条の規定は、みなし納付外国法人税の額を控除した外国法人税の額とみなし納付外国法人税の額を一つの外国法人税の額として扱っていることは明らかであり、みなし納付外国法人税の額のみを切り離して計算することを予定していると解するべきではなく、請求人が、間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除に関し、E社の記載を行っていないのは、単なる失念によるものであり、E社に係る間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額のみを切り離し、間接納付した控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除の適用のみを受けることを選択したものでない。
 その証左として、請求人は、本件確定申告書の別表六(五)を作成し、E社に係る控除対象外国法人税の額のうち、間接納付した控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除に関し記載したことに加え、本件確定申告書には、H法に基づく軽減措置の適用がある旨記載されたE社の平成18年12月期の法人所得税確定申告書の写しを添付している。
 また、法人税法第69条第16項後段に規定する外国税額控除の限度とは、確定申告書に記載された金額ではなく、内国法人が外国税額控除を適用するものとして選択した範囲において正当額を計算し、これをもって申告書に記載されるべき控除額まで控除を認めるとする考え方が相当であり、請求人が外国税額控除を適用するものとして選択した範囲における控除を受けるべき金額の正当額は27,583,569円である。
(1) 請求人は、E社に係る別表六(五)に記載したとおり、E社に係る外国税額控除について、間接納付した控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除の適用は選択しているものの、間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除の適用を選択せずに、適用を受ける外国税額控除の額の計算をしている。
 したがって、本件確定申告書に記載され、書類の添付により具体的に確認することができる金額の範囲を超えて外国税額控除を適用することはできない。
(2) 実施特例法は、租税条約が直接適用されることを前提として、補足的に租税条約の適用上の疑義を解消したり必要な手続を定めたりするものにすぎず、租税条約の適用効果を阻害しないように解釈されるべきであり、E社のみなし納付外国法人税の額は、日○租税条約第21条第4項(a)の要件を満たすのであるから、納付されるD国の租税に含まれると解すべきであり、実施特例法省令に規定する手続にかかわらず、間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除の適用が認められる。 (2) 請求人は、外国税額控除を適用するための法人税法に規定する手続をしていないことから、日○租税条約第21条第2項の規定を充足せず、同条約の適用上も外国税額控除の適用は認められない。

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4 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ E社のD国の法人所得税は、D国○○委員会からH法第35条(2)に基づき、平成17年8月から通常の税率の50%に軽減されており、その軽減された部分の金額がみなし納付外国法人税の額に該当する。
ロ 本件確定申告書を作成した税理士法人FのG税理士は、当審判所に対し、本件確定申告書を作成した時点では、E社のみなし納付外国法人税の額につき請求人が間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除を適用して申告しようという認識はなく、当該外国税額控除の適用を失念していることに気が付いたのは、確定申告後3、4か月経過してからである旨答述した。

(2) 外国税額控除の制度は、同一の所得に対する国際的二重課税を回避することを目的として、内国法人が納付する又は納付するとみなされる外国法人税を有する場合に、一定の限度を設けた上で、日本において納付すべき法人税の額から当該外国法人税の額を控除するものであるが、法人税法第69条第16項前段及び第18項並びに実施特例法省令第10条は、前記1の(3)のロの(ハ)及び(ニ)並びに同ニのとおり規定していることからすれば、これらの規定の趣旨は、外国税額控除や租税条約の規定の適用を受けようとする法人に対し、確定申告において記載及び添付の要件を充足することを求め、これらの要件を充足する法人に限り、外国税額控除や租税条約の規定の適用を認めるとするものであると解されるので、確定申告において記載及び添付の要件を充足しない法人は、やむを得ない事情がない限り、それらの規定の適用が認められないこととなる。

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(3) これを本件についてみると、次のとおりである。

イ 外国税額控除の適用の可否
(イ) 間接納付した、あるいは、間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除の適用を受けようとする請求人は、本件確定申告において、記載及び添付の要件を充足する必要があるところ、本件確定申告書に係る各別表の記載及び添付状況は、前記1の(4)のハのとおり、別表一(一)の外国税額控除の額には、E社のみなし納付外国法人税の額につき請求人が間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除の額が含まれておらず、また、別表六(五)には、当該外国税額控除の額に関し必要な事項が記載されておらず、同控除に関する事項を記載する別表六(五の三)の添付もない。さらに、前記1の(4)のニのとおり、本件確定申告書には軽減措置の適用がある旨D国の言語で記載されたE社の平成18年12月期の法人所得税確定申告書の写しは添付されているものの、これをもって、同社の外国法人税の額が日○租税条約第21条第4項(a)に規定するH法第35条(2)に該当して軽減されたことを証明する書類が添付されたとまではいえず、本件確定申告書には控除を受けるべきみなし納付外国法人税の額の計算の明細の記載もない。
(ロ) そうすると、請求人は、本件確定申告において、E社のみなし納付外国法人税の額につき請求人が間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除の適用を受けるための記載及び添付の要件を充足していないこととなる。
(ハ) また、上記(1)のロのG税理士の答述によれば、請求人は、本件確定申告において、E社のみなし納付外国法人税の額につき請求人が間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除の適用を失念していたにすぎないと認められるので、請求人には、記載及び添付の要件を充足できなかったことについて、法人税法第69条第18項に規定するやむを得ない事情があるとは認められない。
(ニ) 以上のとおり、請求人は、本件確定申告において記載及び添付の要件を充足せず、また、そのことについてやむを得ない事情があるとは認められないのであるから、請求人は、E社のみなし納付外国法人税の額につき請求人が間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除の適用を受けることができない。
ロ 更正の請求の適用要件充足の有無
(イ) 更正の請求の要件は、前記1の(3)のイのとおり、納税申告書に記載した税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことを原因として、納付すべき税額が過大であることであるが、上記イの(ニ)のとおり、請求人は、E社のみなし納付外国法人税の額につき請求人が間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除の適用を受けることができないのであるから、更正の請求の要件である納税申告書に記載した税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことに該当しない。
(ロ) したがって、本件確定申告において、E社のみなし納付外国法人税の額につき請求人が間接納付したとみなされる控除対象外国法人税の額に係る外国税額控除をしなかったことは、更正の請求の要件に該当せず、請求人の主張はいずれも採用することができない。

(4) 以上のとおり、請求人は、更正の請求の要件を充足しておらず、本件通知処分の手続は通則法の規定に従い行われているので、本件通知処分は適法である。

(5) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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