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(平21.11.6、裁決事例集No.78 30頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、家庭用電気器具小売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、納税の猶予の申請をしたところ、原処分庁が、請求人には納税を猶予することができる事実がないとして、納税の猶予不許可処分をしたため、請求人が、当該処分は違法であるとして、その取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 納税告知処分
 原処分庁は、源泉徴収に係る所得税について、請求人に対し、平成17年4月11日付で、平成16年1月から平成16年6月までの期間分の納付すべき税額を○○○○円、平成16年7月から平成16年12月までの期間分の納付すべき税額を○○○○円とする各納税告知処分をした。
ロ 申告
 請求人は、平成19年1月1日から平成19年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税について、原処分庁に対し、納付すべき税額を○○○○円として、法定申告期限までに申告をした。
ハ 申請及び処分
 請求人は、上記イの納付すべき税額のうち○○○○円及び上記ロの納付すべき税額○○○○円の合計額○○○○円について、原処分庁に対し、平成20年3月28日に納税の猶予を申請した(以下、当該猶予申請に係る申請書を「本件猶予申請書」という。)ところ、原処分庁は、同年6月23日付で納税の猶予不許可処分をした(以下「本件不許可処分」といい、本件不許可処分に係る通知書を「本件不許可通知書」という。)。
ニ 不服申立て
 請求人は、本件不許可処分を不服として、平成20年8月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年11月19日付で棄却の異議決定をしたので、同年12月16日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第46条《納税の猶予の要件等》
 第2項では、税務署長等は、次の各号の一に該当する事実がある場合において、その該当する事実に基づき、納税者がその国税を一時に納付することができないと認められるときは、その納付することができないと認められる金額を限度として、納税者の申請に基づき、1年以内の期間を限り、その納税を猶予することができる旨規定した上で、第4号では、納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと(以下、第4号で規定する事実を「4号該当事実」という。)を、第5号では、前各号の一に該当する事実に類する事実があったこと(以下、第5号で規定する第4号に該当する事実に類する事実を「5号該当(4号類似)事実」という。)を規定している。
ロ 「納税の猶予等の取扱要領の制定について」(昭和51年6月3日付徴徴3−2及び徴管2−32の国税庁長官通達をいい、以下、この通達を「猶予取扱要領」という。)
 猶予取扱要領は、以下に掲げる事項について、要旨以下のとおり定めている。
(イ) 猶予期間の始期(第2章第1節3の(1))
 納税の猶予をする期間の始期は、納税の猶予の申請書に記載された日とする。
(ロ) 「納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと」に該当する事実及びその判定方法(第2章第1節1の(3)のニの(イ)及び(ロ))
 4号該当事実とは、原則として、調査日(納税の猶予の始期の前日をいい、以下、単に「調査日」という。)前1年間(以下「調査期間」という。)の損益計算において、調査期間の直前の1年間(以下「基準期間」という。)の利益金額の2分の1を超えて損失が生じていると認められる場合(基準期間において損失が生じている場合には、調査期間の損失金額が基準期間の損失金額を超えているとき。)をいうものとし、4号該当事実の判定に当たっては、調査期間及び基準期間のそれぞれについて仮決算を行うこととなるが、調査日又は基準期間の末日に近接した時期において特定の損益計算期間が終了している場合には、その期間の損益計算の結果を基に、上記の利益金額又は損失金額を推計して差し支えない。
(ハ) 「納税者に事業上の著しい損失に類する事実があったこと」に該当する事実(第2章第1節1の(3)のヘの(ハ))
 5号該当(4号類似)事実とは、下請企業である納税者が、親会社からの発注の減少等の影響を受けたこと、その他納税者が市場の悪化等その責めに帰すことができないやむを得ない事由により、従前に比べ事業の操業度の低下又は売上げの減少等の影響を受けたことをいう。

(4) 基礎事実

イ 本件猶予申請書の記載内容
(イ) 「納税の猶予を受けようとする理由」欄
 「通則法第46条第2項第5号に該当。大型店との競合で商品の値引きと消費税相当分の値引きにより売上げが減少して利益が減っている。」と記載されている。
(ロ) 「納税の猶予を受けようとする期間」欄
 「平成20年4月1日から平成21年2月28日まで11月間」と記載されている。
ロ 本件不許可通知書の記載内容
 「不許可理由」欄には、「通則法第46条第2項第5号(第4号類似)に該当する事実が認められない。」と記載されている。

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2 争点

(1) 争点1 本件不許可処分は、不許可理由の具体的な記載がない違法な処分であるか否か。

(2) 争点2 請求人には、5号該当(4号類似)事実があるか否か。

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3 主張及び判断

(1) 争点1 本件不許可処分は、不許可理由の具体的な記載がない違法な処分であるか否か。

イ 主張

請求人 原処分庁
 本件不許可通知書には、不許可理由として前記1の(4)のロのとおり記載してあるだけで、具体的な理由の説明がないことから、本件不許可処分は違法な処分である。  本件不許可通知書には、前記1の(4)のロのとおり、具体的な不許可理由を記載していることから、本件不許可処分は適法な処分である。

ロ 判断
(イ) 法令等解釈
A 法令の規定による納税の猶予の不許可理由の記載の程度等
 通則法第47条《納税の猶予の通知等》第2項は、同法第46条第2項の申請がされた場合において、税務署長等が、納税の猶予を認めないときは、その旨を納税者に通知しなければならない旨規定しているが、当該通知において書面により納税の猶予を認めない理由を納税者に通知すべきことを定めた法令上の規定はないから、納税の猶予不許可通知書への理由の記載の程度は、直ちに不許可処分の違法事由となるものではない。
B 猶予取扱要領による納税の猶予の不許可理由の記載の程度等
 猶予取扱要領第4章第1節3の(2)では、納税の猶予申請書の提出があった場合において、納税の猶予に該当しないときは、納税の猶予をしない旨を納税の猶予不許可通知書により納税者に通知することとし、当該通知書の「不許可理由」欄には納税の猶予を認めない理由を具体的に記載する旨定めているが、この趣旨は、税務署長等の判断の慎重及び合理性を担保してそのし意を抑制するとともに、処分の理由を納税者に知らせて不服の申立てに便宜を与えるところにあると解され、この取扱いは当審判所においても相当と認められる。そして、不許可理由の記載の程度については、猶予取扱要領が納税の猶予不許可通知書に不許可理由を具体的に記載することとした上記の趣旨を勘案して判断するのが相当であるから、税務署長等は、少なくとも納税の猶予の要件のうちのどの要件を充足していないかを明らかにする程度に記載することが必要と解される。
(ロ) 法令等の適用
 前記1の(4)のロの事実に基づき上記(イ)により判断すると、本件不許可通知書の「不許可理由」欄の記載内容は、請求人について、通則法第46条第2項に規定する納税の猶予の要件の一つを充足していないことを不許可理由として明らかにしたものと認めることができるから、不許可理由の記載としては適当なものというべきであり、上記の記載以外に不許可理由の記載がないとしても、その記載の程度をもって直ちに不許可処分の違法事由となるものではない。
 したがって、本件不許可処分は、不許可理由の具体的な記載がない違法な処分ではなく、上記イの請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2 請求人には、5号該当(4号類似)事実があるか否か。

イ 主張

請求人 原処分庁
請求人には、次のとおり、5号該当(4号類似)事実がある。 請求人には、次のとおり、5号該当(4号類似)事実があるとは認められない。
(イ) 5号該当(4号類似)事実の例示として、猶予取扱要領は前記1の(3)のロの(ハ)のとおり定め、比較期間を「従前に比べ」と定めていることから、その比較の対象は調査期間の直前の1年間より広いことは明らかであり、また、売上げの減少等の程度が著しいことまでを要件とするものではない。 (イ)猶予取扱要領が前記1の(3)のロの(ハ)のとおり例示する「従前に比べ売上げの減少等の影響を受けたこと」の判定に当たっては、4号該当事実の判定を調査日前1年間である調査期間とその直前の1年間である基準期間とを比較して行うことに準じて、調査期間と基準期間との売上金額等を比較する方法により行い、売上げの減少等の程度が著しいことが必要であると解される。
(ロ) 大型店との競合に伴う商品の値引きと消費税相当分の値引きにより、平成19年分の売上金額○○○○円と平成13年分の売上金額○○○○円を比較した結果、明らかに減少した。
 また、平成19年の粗利益金額○○○○円と平成13年の粗利益金額○○○○円を比較した結果、明らかに減少した。
(ロ) 請求人から提出された資料等では、調査期間と基準期間の売上金額及び利益金額の確認ができなかったことから、調査日に近接した時期である平成19年分と平成18年分の売上金額及び利益金額をそれぞれ比較した結果、著しい減少は認められなかった。

ロ 判断
(イ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 平成18年分ないし平成20年分の所得税青色申告決算書の記載内容
 請求人が法定申告期限までに原処分庁に提出した平成18年分ないし平成20年分の所得税青色申告決算書(一般用)(以下、平成18年分及び平成19年分の所得税青色申告決算書を、それぞれ「平成18年分青色決算書」、「平成19年分青色決算書」といい、平成20年分の所得税青色申告決算書と併せて「本件各青色決算書」という。)には、1月ないし12月の月別の売上金額及び仕入金額がそれぞれ記載されている。
B 請求人が平成20年6月2日に原処分庁所属の徴収担当職員に提出した資料(以下「本件計算書」という。)の記載内容
 本件計算書には、平成12年分ないし平成19年分の年間の売上金額、仕入金額、期首・期末商品棚卸高、経費の金額及び所得金額が、それぞれの年分ごとに記載されているが、月別の金額はいずれも記載されていない。
 なお、本件計算書に記載された平成18年分及び平成19年分の上記各金額のうち、平成19年分の仕入金額を除く各金額は、平成18年分青色決算書及び平成19年分青色決算書に記載された年間の各金額と一致する。
(ロ) 法令等解釈
A 4号該当事実
 通則法第46条第2項に基づく納税の猶予は、期限内納付及び国税が期限内に完納されなかった場合の強制徴収の例外として、一定の事由により納付困難になった納税者を救済するものであるが、租税徴収手続における他の納税者との公平という観点をも考慮すると、4号該当事実とは、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって生じた国税の納付を困難ならしめる事業についての著しい損失をいうものと解される。
B 5号該当(4号類似)事実
 通則法第46条第2項第5号は、同項第1号から第4号までに掲げる事実に類する事実に基づき、納税者がその国税を一時に納付することができないと認められるときは、その納付することができないと認められる金額を限度として、その納税を猶予することができる旨規定しているところ、これは、同項第1号から第4号までに掲げる事実とはいえない場合であっても、当該事実に類する事実が生じた場合には、国税の納付が困難となる場合もあることから、納税の猶予をすることができる旨規定したものと解される。そして、上記Aのとおり、4号該当事実とは、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって生じた国税の納付を困難ならしめる事業についての著しい損失をいうものと解されることからすれば、5号該当(4号類似)事実とは、事業についての著しい損失と同視できるような著しい売上げの減少等であって、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって生じた国税の納付を困難ならしめるものをいうものと解される。
C 猶予取扱要領における4号該当事実の判定方法の相当性
 上記Aのとおり、4号該当事実とは、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって生じた国税の納付を困難ならしめる事業についての著しい損失をいうものと解されるところ、事業についての損失の存否は、一定の期間における損益計算を行うことによって判定することが相当であり、損益計算の期間が通常1年間であることからすれば、原則として、それぞれその期間を1年とする調査期間と基準期間における損益を比較して4号該当事実の存否を判定することとしている前記1の(3)のロの(ロ)の4号該当事実に関する猶予取扱要領の定めは相当と認められる。
D 猶予取扱要領における5号該当(4号類似)事実の相当性
 前記1の(3)のロの(ハ)の5号該当(4号類似)事実に関する猶予取扱要領で定める事実は、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって、国税の納付が困難となる場合が多いと考えられることからすれば、当該定めは合理的な定めというべきであり、当審判所においても相当と認められる。
そして、上記Bからすれば、猶予取扱要領で定める5号該当(4号類似)事実としての売上げの減少等とは、著しい売上げの減少のみならず、著しい原材料費をはじめとする経費の増加など、事業上の損失が生じる原因となる事実をいうものと解される。
E 5号該当(4号類似)事実の判定方法等
 5号該当(4号類似)事実が上記Bのとおり解され、猶予取扱要領における4号該当事実の判定方法の定めが合理的であることからすれば、5号該当(4号類似)事実の存否を判定するに当たっても、原則として、それぞれその期間を1年とする調査期間と基準期間における売上げ等を比較して、判定することが相当である。
 なお、上記Aのとおり、4号該当事実が、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって生じた国税の納付を困難ならしめる事業についての著しい損失をいうものと解されることからすれば、利益の減少による5号該当(4号類似)事実があるというためには、事業上の著しい損失、すなわち、著しい赤字の状態が生じたとまではいえないが、それに近い赤字の状態が生じていることが必要であると解される。
(ハ) 法令等の適用
 前記1の(4)のイ及び上記(イ)の各事実に基づき、同(ロ)により5号該当(4号類似)事実の有無を判断した結果は、次のとおりである。
A 売上げの減少
 前記1の(4)のイの(ロ)のとおり、本件猶予申請書に記載された納税の猶予を受けようとする期間の始期は、平成20年4月1日であることから、前記1の(3)のロの(ロ)により、調査日は平成20年3月31日(以下「本件調査日」という。)となり、これに基づき調査期間及び基準期間の仮決算を行うことになるが、本件調査日に近接した時期において、1年間の売上げの計算期間が終了している場合又は終了させることができる場合には、その期間の売上金額に基づき、売上げの減少の程度が著しいか否かを判断するのが相当である。
 ところで、請求人が原処分庁に対して提出した売上金額等に係る資料は、本件計算書しかなく、当該資料には、上記(イ)のBのとおり、平成18年分及び平成19年分の月別の売上金額はいずれも記載されていないから、本件計算書によって本件調査日を基準とした調査期間と基準期間の各売上金額を比較することはできない。
 一方、本件各青色決算書によれば、本件調査日に1年間の売上げの計算期間を終了させることができるので、これにより売上げの減少の判断をするのが相当である。そこで、本件各青色決算書により平成19年4月1日から平成20年3月31日までの1年間(以下「本件調査期間」という。)とその直前の平成18年4月1日から平成19年3月31日までの1年間(以下「本件基準期間」という。)の各売上金額を算定すると、本件調査期間の売上金額は○○○○円、本件基準期間の売上金額は○○○○円となる。
 そうすると、本件調査期間及び本件基準期間の各売上金額を比較した場合に、その減少の程度が著しいとは言い難いことから、これをもって、著しく売上げが減少した事実があると認めることはできない。
B 経費の増加
 請求人は、上記イの「請求人」欄の(ロ)のとおり、粗利益の減少を主張する。このことは、売上原価の増加も主張していると解されるので、この点についてみると、上記(ロ)のDのとおり、5号該当(4号類似)事実としての売上げの減少等とは、事業についての著しい損失と同視できるような著しい売上げの減少のみならず、事業についての著しい損失と同視できるような著しい経費の増加を含むものと解されるところ、個別の経費が増加したとしても、経費全体の著しい増加がなければ、上記(ロ)のBにいう「国税の納付を困難ならしめるもの」とはいえないのであるから、経費の増加は、個別の経費のみの増加により判断するのではなく、経費の合計金額により判断するのが相当である。ただし、青色事業専従者給与が生計を一にする配偶者その他の親族に対する支払であることからすれば、経費の合計金額は本件計算書に「給料」と記載された青色事業専従者給与の金額を含めずに算定すべきである。
 そうすると、上記Aと同様に、本件調査期間と本件基準期間の経費の各合計金額を比較することにより、経費の増加の程度が著しいか否かを判断をすることになるが、本件計算書には、上記(イ)のBのとおり、平成18年分及び平成19年分の月別の経費の合計金額が記載されておらず、また、本件各青色決算書によっても、月別の経費の合計金額がそれぞれ算定できないため、本件調査期間と本件基準期間の経費の各合計金額を比較することはできない。
 そこで、本件計算書に記載された本件調査日に近接した平成19年分とその直前の平成18年分の経費の各合計金額をもって、著しく経費が増加した事実の存否を判定することになるが、上記(イ)のBによれば、本件計算書の平成19年分の仕入金額は記載誤りと認められるので、当該仕入金額については平成19年分青色決算書に記載された仕入金額を用いて、経費の各合計金額を算定すると、平成19年分は○○○○円、平成18年分は○○○○円となり、平成19年分の経費の合計金額は平成18年分の経費の合計金額より増加しているが、その増加の程度が著しいとは言い難いことから、これをもって、著しく経費が増加した事実があると認めることはできない。
C 利益の減少
 利益の減少の有無については、上記(ロ)のEのとおり、調査期間の損益計算の結果が損失金額、いわゆる赤字の状態であることが前提であるところ、本件計算書には、同(イ)のBのとおり、平成18年分及び平成19年分の月別の売上金額及び経費の合計金額が記載されておらず、また、本件各青色決算書によっても、各月別の経費の合計金額がそれぞれ算定できないため、本件調査期間と本件基準期間の損益計算をすることはできない。そこで、上記Bと同様に、経費の合計金額には青色事業専従者給与の金額を含めず、本件計算書に記載された本件調査日に近接した平成19年分とその直前の平成18年分の損益計算の結果をもって、5号該当(4号類似)事実の存否を判定すると、平成19年分の利益金額は○○○○円、平成18年分の利益金額は○○○○円となることから、平成19年分の損益計算の結果が赤字の状態に陥ったとは認められないから、5号該当(4号類似)事実としての利益の減少があると認めることはできない。
D まとめ
 上記AないしCによれば、請求人には、5号該当(4号類似)事実があるとは認められない。
E 請求人の主張の採否
 請求人は、上記イの「請求人」欄のとおり、猶予取扱要領は5号該当(4号類似)事実の存否を判定する比較期間を「従前に比べ」と定めているから、その比較の対象は調査期間の直前の1年間より広いことは明らかであり、また、売上げの減少等の程度が著しいことまでを要件とするものではない旨主張する。
 しかしながら、猶予取扱要領は、4号該当事実の存否について、前記1の(3)のロの(ロ)のとおり、原則として、調査日前1年間である調査期間の損益とその直前の1年間である基準期間における損益を比較して判定する旨定め、例外的に、調査期間以内において、例えば、購入予定の資材の高騰、在庫商品の価額の下落等の損失発生の要因となる事実があり、当該事実の発生した日の特定ができる場合には、その日以降調査日までの間に生じたと認められる損失金額と基準期間の利益金額のうち損失原因の生じた日以降調査日までの期間に対応する期間の利益金額又は損失金額とを比較して判定しても差し支えない旨定め、これを受けて、同(ハ)のとおり5号該当(4号類似)事実について、「従前」と比べて判定する旨定めているのであるから、ここでいう「従前」とは、4号該当事実の原則的な判定方法と例外的な判定方法の基礎となる期間を示していると解するのが相当である。仮に、任意の期間を基準期間としたときは、容易に5号該当(4号類似)事実があることとなるが、4号該当事実が、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって生じた国税の納付を困難ならしめる事業についての著しい損失をいうと解されることからすれば、任意の期間を基準期間として4号該当事実の存否を判定することを法が予定しているということはできない。
 また、5号該当(4号類似)事実とは、著しい損失に類似する事実をいうのであるから、5号該当(4号類似)事実としての売上げの減少等とは、著しい損失と同視できるような売上げの減少等をいい、売上げの減少等すべてが5号該当(4号類似)事実に当たるということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(3) その他

 以上のとおり、原処分には、いずれの争点についてもこれを取り消すべき理由はなく、原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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