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(平21.10.6、裁決事例集No.78 87頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、日本国籍を有しない審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成18年4月1日から同年12月31日までの期間(以下「本件期間」という。)は「非永住者以外の居住者」であるとして平成18年分所得税の確定申告を行った後、在日○○国(以下「A国」という。)大使館において外交官として勤務した期間は日本国内に住所又は居所を有していたとみるべきではないから、非永住者に該当するか否かの判断においては、同期間は算入すべきではなく、したがって請求人は「非永住者」に当たるとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正すべき理由がない旨の通知を行ったことから、請求人がその全部の取消しを求めた事案であり、争点は、非永住者の判定上、過去にA国の外交官として日本に派遣されていた期間が、日本に住所又は居所を有していた期間に当たるか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の平成18年分の所得税に係る審査請求(平成20年2月27日請求)に至る経緯及び内容は以下のとおりである。

(単位:円)
区分
項目
確定申告 更正の請求 原処分 異議申立て 異議決定 更正処分
平成19年3月15日 平成19年6月29日 平成19年9月28日 平成19年11月2日 平成20年1月29日 平成20年2月8日
総所得金額 ○○○○ ○○○○ 更正をすべき理由がない旨の通知処分 全部の取消し 棄却 ○○○○
内訳 不動産所得の金額 △○○○○ ○○○○ △○○○○
利子所得の金額 ○○○○ ○○○○ ○○○○
配当所得の金額 ○○○○ ○○○○ ○○○○
給与所得の金額 ○○○○ ○○○○ ○○○○
雑所得の金額 ○○○○ ○○○○ ○○○○
納付すべき税額 ○○○○ ○○○○ ○○○○

(注)「不動産所得の金額」欄の△印は、損失金額を示す。

(3) 関係法令等

 別紙のとおり

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがないか、当審判所の調査及び審理の結果容易に認定できる事実である。
イ 請求人は、A国国籍を有しており、日本国籍は有していない。
ロ 平成19年(2007年)5月30日付で在日A国大使館が発行した請求人の勤務期間等を証明する書類によれば、請求人は、在留資格を外交、在任期間を平成10年(1998年)○月○日から平成16年(2004年)○月○日まで(以下「本件勤務期間」という。)、役職を○○○○として、本邦に在留し、在日A国大使館で外交官として勤務していた。
ハ 請求人は、平成18年1月29日、当初2年間の予定でP市のB社において勤務するために日本に入国し、翌30日にP市Q町において外国人登録を行った。
ニ 請求人の妻の異議申立てに係る調査担当職員に対する申述によれば、請求人は、本件勤務期間中、在日A国大使館において、外交官として勤務し、かつ、在日A国大使館が承認する日本国内の住居に妻と共に住んでいた。

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2 争点に対する当事者の主張

原処分庁 請求人
 以下の理由から、所得税法第2条第1項第4号の「国内に住所又は居所を有していた期間」の判定に際し、本件勤務期間を算入することは適法である。
(1) 所得税法第2条第1項第4号の「非永住者」に該当するか否かは、過去10年内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下であるかどうかにより判定されるべきであり、在日大使館の外交官が本国の居住者として本国で課税されていること、及び在日大使館における勤務により受ける給与が所得税法第9条第1項第8号により非課税所得とされていることによって、国内に住所又は居所を有している期間の判断が左右されるものではない。
(2) ウィーン条約第34条、日○租税条約第○条の規定は、外交官としての任務の期間においては租税等を免除する旨規定しているのであり、非永住者かどうかの判定に関し、過去10年以内において外交官として国内に住所又は居所を有していた期間から除外するという規定ではない。
 以下の理由から、請求人は、本件勤務期間内に、日本国内に住所、居所を有していないから、所得税法第2条第1項第4号の「国内に住所又は居所を有していた期間」の判定に際し、本件勤務期間を算入することは誤りである。
(1) A国の国内法は、海外に派遣されたA国政府職員は、派遣先の国の居住者ではなくA国の居住者とみなされ、国外源泉所得も課税の対象とされている。
 また、A国の国内法は、相互主義を採用した上、外国政府職員の報酬について租税を免除しており、日本においても、所得税法第9条第1項第8号が日本に派遣された外国政府職員について、相互主義の下で、これを免税とする旨の規定がある。
 以上から、請求人は、本件勤務期間中、A国の居住者として、専ら、A国において所得税を課せられていたものであるから、日本の「居住者」には該当しない。
(2) 日○租税条約第○条、ウィーン条約第34条は、その国内法令で外交使節団及び領事機関の構成員は、海外赴任中も課税上派遣国の居住者とみなされることによる本国と派遣先国との双方居住者としての二重課税を、派遣先国における居住者としての税務上の地位を排除することで未然に防止することにあるから、同条約の趣旨からも、外交官は自国の居住者とみなされる。

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3 判断

(1) 所得税法第2条第1項第3号は、「居住者」を「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう」ものと定め、同項第4号は、「非永住者」を「居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人をいう」ものと定めている。
 このように、日本国籍を有しない居住者が所得税法第2条第1項第4号にいう非永住者に該当するか否かは、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下であるか否かにより決するものである。
 そして、租税法規が一般私法において使用されているのと同一の用語を使用している場合には、特段の理由がない限り私法上使用されているのと同一の意義を有する概念として使用されているものと解するのが相当であるから、ここで「住所」とは、各人の生活の本拠をいい(民法第22条)、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定すべきである。
 請求人が、本件勤務期間中、生活の本拠を本邦においていたことは、請求人もこれを争わず、また、請求人が本件勤務期間中、在日A国大使館が承認する日本国内の住居に妻と共に住んでいたこと等からも、これを優に認めることができる。
 したがって、請求人は、本件勤務期間中、本邦に住所を有していたと認められ、当該期間は5年を上回るから、所得税法第2条第1項第4号の規定により、本件期間においては、非永住者以外の居住者と認められる。

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(2) なお、請求人は、本件勤務期間中、専らA国において所得税を課せられ、日本において課税されていなかったこと、日○租税条約第○条及びウィーン条約第34条は、双方居住者としての二重課税を防止するために、派遣先国における居住者としての税務上の地位を排除していると解されることを理由に、所得税法第2条第1項第4号の「国内に住所又は居所を有していた期間」の判定に際し、本件勤務期間を算入することは認められない旨主張する。
 しかしながら、所得税法においては、外交官について、我が国の居住者として扱わない旨の規定はない。また、所得税法第9条第1項第8号は、外国の公務員等の給与については非課税にする旨を、所得税基本通達9−11は、国内に居住する外交官等に対しては課税しない旨を定めているところ、これらの規定ないし定めは、外交官がそれぞれの国の主権を代表する者である点を考慮し、国際慣例に従い、所得税の課税を免除する趣旨であり、外交官として本邦に赴任している期間中、これを居住者としないことまでを定めたものではない。
 また、ウィーン条約第34条において「免除される」との文言が用いられていることからも明らかなとおり、同条及び日○租税条約第○条は、外交官に対して、派遣先国内に源泉がある個人的所得等の特定の租税、賦課金を除き、派遣先国においてすべての賦課金及び租税を免除することを定めているにすぎず、外交官が派遣先国において居住者として扱われないことまで定めたものではない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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